成膜装置
【課題】 真空チャンバ内の容積を大きくすることなく、真空チャンバ内の複数の蒸発源のいずれかを遮蔽手段によって適宜遮蔽できるようにした成膜装置を提供する。
【解決手段】 処理基板に対向させて少なくとも3個の蒸発源4a〜4dを設け、いずれかの蒸発源からの蒸発粒子の他の蒸発源への再付着を防止するように蒸発源を遮る遮蔽手段5を設ける。各蒸発源を同一円周上に配置し、この円周の中心を回転中心とする1個の回転軸61と、この回転軸に同心に配置され各蒸発源の数より少ない本数でかつ真空チャンバ内への突出長さを回転軸より段階的に短くした中空回転軸62〜66とを設け、回転軸、中空回転軸に遮蔽手段をそれぞれ連結すると共に、蒸発源を開放する開放位置と蒸発源を遮る遮蔽位置との間で回転軸、中空回転軸を介して遮蔽手段を移動させる駆動手段9を設ける。
【解決手段】 処理基板に対向させて少なくとも3個の蒸発源4a〜4dを設け、いずれかの蒸発源からの蒸発粒子の他の蒸発源への再付着を防止するように蒸発源を遮る遮蔽手段5を設ける。各蒸発源を同一円周上に配置し、この円周の中心を回転中心とする1個の回転軸61と、この回転軸に同心に配置され各蒸発源の数より少ない本数でかつ真空チャンバ内への突出長さを回転軸より段階的に短くした中空回転軸62〜66とを設け、回転軸、中空回転軸に遮蔽手段をそれぞれ連結すると共に、蒸発源を開放する開放位置と蒸発源を遮る遮蔽位置との間で回転軸、中空回転軸を介して遮蔽手段を移動させる駆動手段9を設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理基板上に所定の薄膜を形成することに用いられる成膜装置、特に、複数個のスパッタリングカソードを設けた多元スパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超伝導膜、オプトエレクトロニクス用半導体膜、光IC用誘電体膜、超LSI用電極、配線を構成する膜などには、合金または化合物の薄膜が用いられるようになっている。この場合、スパッタリング蒸着法は、組成による蒸発率の差が少ないため、合金または化合物の薄膜形成に適している。
【0003】
このことから、所定の真空度に保持可能な真空チャンバ内に配置した処理基板に対向させて、処理基板表面に成膜しようする薄膜の組成に応じて作製したターゲットをそれぞれ有する複数のスパッタリングカソードを設けた多元スパッタリング装置が知られている。この場合、成膜処理を行う際に全てのスパッタリングカソードを用いない場合などを考慮して、成膜処理中のターゲットからのスパッタ粒子がその成膜処理に用いないターゲットに再付着することを防止するためにそのターゲットの前方を遮る遮蔽板を真空チャンバ内に設けている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−127206号(例えば、図1、図2参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しなしながら、上記のものでは、ターゲットのスパッタ面に直角な方向で各スパッタカソードに隣接させて駆動手段を有する回転軸を配置し、各回転軸に遮蔽板を取付けている。このため、成膜処理を行う際に各遮蔽板をターゲットの前方を開放する開放位置に移動させたとき、その遮蔽板の待機スベースが真空チャンバ内に必要となり、真空チャンバ内の容積が大きくなるという問題がある。このことは、真空チャンバ内に設けるスパッタリングカソードの数が増えるとより顕著になる。この場合、真空チャンバ内の容積が大きくなると、排気速度の速い大型で複数の真空ポンプが必要になってコスト高を招き、また、所定の真空度(例えば、10×10−7Pa)まで真空排気するのに相当の時間を要する。
【0005】
そこで、本発明の課題は、上記点に鑑み、真空チャンバ内の容積を大きくすることなく、真空チャンバ内に設けた複数の蒸発源のいずれかを適宜遮蔽できるようにした成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の成膜装置は、真空チャンバ内に配置される処理基板に対向させて設けた少なくとも3個の蒸発源と、いずれかの蒸発源からの蒸発粒子の他の蒸発源への再付着を防止するように蒸発源を遮る遮蔽手段とを備え、各蒸発源を同一円周上に配置し、この円周の中心を回転中心とする1個の回転軸と、この回転軸に同心に配置され真空チャンバ内への突出長さを回転軸より段階的に短くした少なくとも1本の中空回転軸とを設け、これらの回転軸及び中空回転軸に遮蔽手段をそれぞれ連結すると共に、前記各蒸発源を開放する開放位置と各蒸発源を遮る遮蔽位置との間で、これらの回転軸及び中空回転軸を介して遮蔽手段をそれぞれ移動させる駆動手段を設けたことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、成膜処理を行う場合、その成膜処理に用いる蒸発源を開放し、その他の蒸発源を遮蔽するように、駆動手段を作動させて回転軸、中空回転軸を回転させ、遮蔽手段を遮蔽位置、開放位置のいずれかに移動させる。この場合、遮蔽手段を開放位置に移動させたとき、各蒸発源が位置する同一の円周上であって各蒸発源相互の間の空間に遮蔽手段を待機させることができるため、真空チャンバ内に遮蔽板の待機スベースを別途設ける必要はなく、真空チャンバ内の容積が増加することを防止できる。
【0008】
また、前記処理基板を一定の回転速度で回転自在に保持する基板ホルダーを備え、前記回転軸及中空回転軸に、前記遮蔽手段に代えてまたは加えて、蒸着粒子の飛行経路を選択的に遮ることで成膜速度の調整及び処理基板への薄膜の膜厚分布の調整の少なくとも一方を可能とする少なくとも1個の開口を設けた調整手段を連結しておけば、多元同時成膜によって合金または化合物の薄膜を形成する際にその組成の調整ができてよい。
【0009】
さらに、前記回転軸及び中空回転軸の間の間隙に磁気軸受けを設けておけば、真空チャンバの気密性を保持できてよい。
【0010】
尚、前記蒸発源は、ターゲットを有するスパッタリングカソードとすればよい。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明の成膜装置は、真空排気速度を速くできるように真空チャンバ内の容積を小さく保持しつつ、真空チャンバ内に設けた複数の蒸発源のいずれかを適宜遮蔽できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1乃至図3を参照して、1は、本発明の多元スパッタリング装置(以下、「スパッタ装置」という)である。スパッタ装置1は、ロータリーポンプ、ターボ分子ポンプなどの真空排気手段(図示せず)を介して所定の真空度に保持できる内側壁円筒形状の真空チャンバ11を有する。真空チャンバ11内の下部空間には、真空チャンバ11の中央に位置して基板ステージ2が設けられている。基板ステージ2は、ガラス基板やウェハーなどの処理基板3の載置を可能とする載置部21を有し、この載置部21には、図示しないモータなどの駆動手段の回転軸22が連結され、スパッタリング中、処理基板3を一定の回転速度で回転自在に保持する役割を果たす。この場合、回転軸22は、後述する遮蔽板の回転軸と同一線上に設けられている。
【0013】
また、真空チャンバ11には、図示しないガス導入手段が設けられている。ガス導入手段は、例えばマスフローコントローラを設けたガス管を介してガス源に連通しており、Arなどのスパッタガスや反応性スパッタリングの際に用いるO2、H2O、H2、N2などの反応ガスが真空チャンバ11内に一定の流量で導入できる。真空チャンバ11内の上部空間には、回転軸22からの延長線上の点を中心とする同一の円周上に位置して、相互に等間隔(90度毎ずらして)で蒸発源である4個のスパッタカソード4a〜4dが設けられている。
【0014】
各スパッタカソード4a〜4dは、回転軸22からの延長線に対し所定の角度で傾斜させたターゲット41a〜41dを有する。各ターゲット41a〜41dは、Al、Ti、MoやITOなど、処理基板S上に成膜しようする薄膜の組成に応じて公知の方法で作製され、略円柱状(上面視において円形)に形成されている。各ターゲット41a〜41dは、スパッタリング中、ターゲット41a〜41dを冷却する銅製のバッキングプレートに、インジウムやスズなどのボンディング材を介して接合され、真空チャンバ11にフローティング状態に取り付けられている。
【0015】
各ターゲット41a〜41dの周囲には、各ターゲット41a〜41dの前方(図1ではターゲットの下側)にプラズマを安定して発生させるために、ターゲット41a〜41dの周囲を囲うようにアースシールド(図示せず)が設置されている。さらに、各ターゲット41a〜41dの後方には、各ターゲット41a〜41bの前方に釣り合った閉ループのトンネル状の磁束を形成する公知構造の磁石組立体42が設けられている。これにより、ターゲット41a〜41dの前方で電離した電子及びスパッタリングによって生じた二次電子を捕捉することで、ターゲット41a〜41dのそれぞれ前方での電子密度を高くしてプラズマ密度を高めることができる。
【0016】
そして、真空チャンバ11内の圧力が所定値に達するまで真空排気し、ガス導入手段を介して所定のスパッタガスや反応性ガスを真空チャンバ11内に導入した後、ターゲット41a〜41dに、図示しないスパッタ電源を介して負の直流電圧または高周波電圧を印加すると、ターゲット41a〜41dの前方にプラズマが発生してターゲット41a〜41dがスパッタリングされることで、基板ステージ2上の処理基板3表面に所定の薄膜が形成される。
【0017】
ところで、成膜処理を行う際、各スパッタカソード4a〜4dのうち少なくとも2個を作動させて処理基板3表面に合金または化合物の薄膜を形成したり、スパッタカソード4a〜4dを順次作動させて処理基板3表面に多層膜を形成したりする場合がある。この場合、その成膜処理に用いるターゲット41a〜41dからのスパッタ粒子(蒸発粒子)がその成膜処理に用いない他のターゲット41a〜41dに再付着することを防止する必要がある。
【0018】
本実施の形態では、スパッタ粒子の再付着を防止する3個の遮蔽手段5を設けた。遮蔽手段5は、アルミニウム合金などから作製された円形の板材であり、ターゲット41a〜41dのスパッタ面の面積より大きい面積を有する。この場合、各遮蔽手段5は次のように真空チャンバ11内に設けられている。即ち、回転軸22からの延長線上に位置して真空チャンバ11の天井部に、この真空チャンバ11内に突出させて設けた1個の中実回転軸61と、この中実回転軸61に同心に配置され真空チャンバ11内への突出長さを中実回転軸61より段階的に短くした2本の中空回転軸62、63とを設け、これらの中実回転軸61及び中空回転軸62、63に所定長さのアーム51の一端を連結し、このアーム51の他端に、各ターゲット41a〜41dのスパッタ面に略平行となるように遮蔽手段5が連結することで真空チャンバ11内に設けられている。
【0019】
また、本実施の形態では、最外側の中空回転軸63の外周に、この中空回転軸63に同心に配置され真空チャンバ11内への突出長さを中空回転軸63より段階的に短くした3本の中空回転軸64〜66をさらに設け、中空回転軸64〜66に所定長さのアーム71の一端を連結し、このアーム71の他端に、遮蔽手段6に加えて、調整手段7a、7b、7cが各ターゲット41a〜41dのスパッタ面に略平行となるように設けらえている。
【0020】
調整手段7a、7b、7cは、アルミニウム合金などから作製された断面円形の板材であり、ターゲット41a〜41dのスパッタ面の面積より大きい面積を有し、少なくとも1個の円形や鼓状の開口71a、71b、71cが設けられている。これにより、この調整手段7a、7b、7cによって、処理基板3へ向かうスパッタ粒子の飛行経路を選択的に遮ることで、成膜速度の調整及び処理基板3への薄膜の膜厚分布の調整の少なくとも一方が可能になる。この場合、真空チャンバ11内に公知構造の膜厚モニタを設け、例えば、成膜中に、後述する制御手段の作動を制御し、中空回転軸64〜66の回転角を制御できるようにしてもよい。中実回転軸61及び中空回転軸62a乃至62eの間の間隙には、真空チャンバ11の天井部11bにおいて磁気軸受け8a〜8fが設けられ、真空チャンバ11の気密性を保持している(図3参照)。
【0021】
また、真空チャンバ11の上方において、中実回転軸61及び中空回転軸62〜66は、真空チャンバ11の上方に向かうに従い段階的に短くなるように定寸されており(中実回転軸61の長さが最も長い)、中実回転軸61及び中空回転軸62〜66の上端外周面には、第1のプーリーP1がそれぞれ設けられいる。第1の各プーリーP1には、モータなどの駆動手段9の回転軸91に設けた第2のプーリーP2との間で平ベルトVが巻掛けられている。そして、各駆動手段9の作動を制御する制御手段92によって、中実回転軸61及び中空回転軸62〜66を個々に回転させることで、遮蔽手段5及び調整手段7a、7b、7cが、ターゲット41a〜41dの上方に位置する遮蔽位置と、各ターゲット41a〜41dが位置する円周上であって、各ターゲット41a〜41d相互の間に位置する開放位置との間でそれぞれ移動自在となる。
【0022】
この場合、遮蔽手段5、調整手段7a、7b、7cを開放位置に移動させたとき、各ターゲット41a〜41dが位置する円周上であって各ターゲット41a〜41d相互の間の空間に遮蔽手段5、調整手段7a、7b、7cを待機させることができるため、真空チャンバ11内に遮蔽板5、調整手段7a、7b、7cの待機スベースを別途設ける必要はなく、真空チャンバ11内の容積の増加を防止できる。
【0023】
尚、本実施の形態では、多元スパッタリング装置1について説明したが、これに限定されるものではなく、真空チャンバ11内に複数の蒸発源を設け、いずれかの蒸発源を適宜遮蔽して成膜処理を行うものであれば本発明を適用できる。また、遮蔽手段5のみを設ける場合、真空チャンバ11内に設けた蒸発源の数より少なく遮蔽手段5の数を設定し、それに応じて回転軸及び中空回転軸の本数を設定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の成膜装置であるスパッタリング装置を概略的に示す断面図。
【図2】ターゲットと、遮蔽板及び調整板との配置を説明する平面図。
【図3】回転軸の真空シールを説明する図。
【符号の説明】
【0025】
1 成膜装置
11 真空チャンバ
2 基板ステージ
3 処理基板
4a〜4d スパッタリングカソード(蒸発源)
5 遮蔽手段
61 中軸回転軸
62〜66 中空回転軸
7 調整手段
9 駆動手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理基板上に所定の薄膜を形成することに用いられる成膜装置、特に、複数個のスパッタリングカソードを設けた多元スパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超伝導膜、オプトエレクトロニクス用半導体膜、光IC用誘電体膜、超LSI用電極、配線を構成する膜などには、合金または化合物の薄膜が用いられるようになっている。この場合、スパッタリング蒸着法は、組成による蒸発率の差が少ないため、合金または化合物の薄膜形成に適している。
【0003】
このことから、所定の真空度に保持可能な真空チャンバ内に配置した処理基板に対向させて、処理基板表面に成膜しようする薄膜の組成に応じて作製したターゲットをそれぞれ有する複数のスパッタリングカソードを設けた多元スパッタリング装置が知られている。この場合、成膜処理を行う際に全てのスパッタリングカソードを用いない場合などを考慮して、成膜処理中のターゲットからのスパッタ粒子がその成膜処理に用いないターゲットに再付着することを防止するためにそのターゲットの前方を遮る遮蔽板を真空チャンバ内に設けている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−127206号(例えば、図1、図2参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しなしながら、上記のものでは、ターゲットのスパッタ面に直角な方向で各スパッタカソードに隣接させて駆動手段を有する回転軸を配置し、各回転軸に遮蔽板を取付けている。このため、成膜処理を行う際に各遮蔽板をターゲットの前方を開放する開放位置に移動させたとき、その遮蔽板の待機スベースが真空チャンバ内に必要となり、真空チャンバ内の容積が大きくなるという問題がある。このことは、真空チャンバ内に設けるスパッタリングカソードの数が増えるとより顕著になる。この場合、真空チャンバ内の容積が大きくなると、排気速度の速い大型で複数の真空ポンプが必要になってコスト高を招き、また、所定の真空度(例えば、10×10−7Pa)まで真空排気するのに相当の時間を要する。
【0005】
そこで、本発明の課題は、上記点に鑑み、真空チャンバ内の容積を大きくすることなく、真空チャンバ内に設けた複数の蒸発源のいずれかを適宜遮蔽できるようにした成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の成膜装置は、真空チャンバ内に配置される処理基板に対向させて設けた少なくとも3個の蒸発源と、いずれかの蒸発源からの蒸発粒子の他の蒸発源への再付着を防止するように蒸発源を遮る遮蔽手段とを備え、各蒸発源を同一円周上に配置し、この円周の中心を回転中心とする1個の回転軸と、この回転軸に同心に配置され真空チャンバ内への突出長さを回転軸より段階的に短くした少なくとも1本の中空回転軸とを設け、これらの回転軸及び中空回転軸に遮蔽手段をそれぞれ連結すると共に、前記各蒸発源を開放する開放位置と各蒸発源を遮る遮蔽位置との間で、これらの回転軸及び中空回転軸を介して遮蔽手段をそれぞれ移動させる駆動手段を設けたことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、成膜処理を行う場合、その成膜処理に用いる蒸発源を開放し、その他の蒸発源を遮蔽するように、駆動手段を作動させて回転軸、中空回転軸を回転させ、遮蔽手段を遮蔽位置、開放位置のいずれかに移動させる。この場合、遮蔽手段を開放位置に移動させたとき、各蒸発源が位置する同一の円周上であって各蒸発源相互の間の空間に遮蔽手段を待機させることができるため、真空チャンバ内に遮蔽板の待機スベースを別途設ける必要はなく、真空チャンバ内の容積が増加することを防止できる。
【0008】
また、前記処理基板を一定の回転速度で回転自在に保持する基板ホルダーを備え、前記回転軸及中空回転軸に、前記遮蔽手段に代えてまたは加えて、蒸着粒子の飛行経路を選択的に遮ることで成膜速度の調整及び処理基板への薄膜の膜厚分布の調整の少なくとも一方を可能とする少なくとも1個の開口を設けた調整手段を連結しておけば、多元同時成膜によって合金または化合物の薄膜を形成する際にその組成の調整ができてよい。
【0009】
さらに、前記回転軸及び中空回転軸の間の間隙に磁気軸受けを設けておけば、真空チャンバの気密性を保持できてよい。
【0010】
尚、前記蒸発源は、ターゲットを有するスパッタリングカソードとすればよい。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明の成膜装置は、真空排気速度を速くできるように真空チャンバ内の容積を小さく保持しつつ、真空チャンバ内に設けた複数の蒸発源のいずれかを適宜遮蔽できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1乃至図3を参照して、1は、本発明の多元スパッタリング装置(以下、「スパッタ装置」という)である。スパッタ装置1は、ロータリーポンプ、ターボ分子ポンプなどの真空排気手段(図示せず)を介して所定の真空度に保持できる内側壁円筒形状の真空チャンバ11を有する。真空チャンバ11内の下部空間には、真空チャンバ11の中央に位置して基板ステージ2が設けられている。基板ステージ2は、ガラス基板やウェハーなどの処理基板3の載置を可能とする載置部21を有し、この載置部21には、図示しないモータなどの駆動手段の回転軸22が連結され、スパッタリング中、処理基板3を一定の回転速度で回転自在に保持する役割を果たす。この場合、回転軸22は、後述する遮蔽板の回転軸と同一線上に設けられている。
【0013】
また、真空チャンバ11には、図示しないガス導入手段が設けられている。ガス導入手段は、例えばマスフローコントローラを設けたガス管を介してガス源に連通しており、Arなどのスパッタガスや反応性スパッタリングの際に用いるO2、H2O、H2、N2などの反応ガスが真空チャンバ11内に一定の流量で導入できる。真空チャンバ11内の上部空間には、回転軸22からの延長線上の点を中心とする同一の円周上に位置して、相互に等間隔(90度毎ずらして)で蒸発源である4個のスパッタカソード4a〜4dが設けられている。
【0014】
各スパッタカソード4a〜4dは、回転軸22からの延長線に対し所定の角度で傾斜させたターゲット41a〜41dを有する。各ターゲット41a〜41dは、Al、Ti、MoやITOなど、処理基板S上に成膜しようする薄膜の組成に応じて公知の方法で作製され、略円柱状(上面視において円形)に形成されている。各ターゲット41a〜41dは、スパッタリング中、ターゲット41a〜41dを冷却する銅製のバッキングプレートに、インジウムやスズなどのボンディング材を介して接合され、真空チャンバ11にフローティング状態に取り付けられている。
【0015】
各ターゲット41a〜41dの周囲には、各ターゲット41a〜41dの前方(図1ではターゲットの下側)にプラズマを安定して発生させるために、ターゲット41a〜41dの周囲を囲うようにアースシールド(図示せず)が設置されている。さらに、各ターゲット41a〜41dの後方には、各ターゲット41a〜41bの前方に釣り合った閉ループのトンネル状の磁束を形成する公知構造の磁石組立体42が設けられている。これにより、ターゲット41a〜41dの前方で電離した電子及びスパッタリングによって生じた二次電子を捕捉することで、ターゲット41a〜41dのそれぞれ前方での電子密度を高くしてプラズマ密度を高めることができる。
【0016】
そして、真空チャンバ11内の圧力が所定値に達するまで真空排気し、ガス導入手段を介して所定のスパッタガスや反応性ガスを真空チャンバ11内に導入した後、ターゲット41a〜41dに、図示しないスパッタ電源を介して負の直流電圧または高周波電圧を印加すると、ターゲット41a〜41dの前方にプラズマが発生してターゲット41a〜41dがスパッタリングされることで、基板ステージ2上の処理基板3表面に所定の薄膜が形成される。
【0017】
ところで、成膜処理を行う際、各スパッタカソード4a〜4dのうち少なくとも2個を作動させて処理基板3表面に合金または化合物の薄膜を形成したり、スパッタカソード4a〜4dを順次作動させて処理基板3表面に多層膜を形成したりする場合がある。この場合、その成膜処理に用いるターゲット41a〜41dからのスパッタ粒子(蒸発粒子)がその成膜処理に用いない他のターゲット41a〜41dに再付着することを防止する必要がある。
【0018】
本実施の形態では、スパッタ粒子の再付着を防止する3個の遮蔽手段5を設けた。遮蔽手段5は、アルミニウム合金などから作製された円形の板材であり、ターゲット41a〜41dのスパッタ面の面積より大きい面積を有する。この場合、各遮蔽手段5は次のように真空チャンバ11内に設けられている。即ち、回転軸22からの延長線上に位置して真空チャンバ11の天井部に、この真空チャンバ11内に突出させて設けた1個の中実回転軸61と、この中実回転軸61に同心に配置され真空チャンバ11内への突出長さを中実回転軸61より段階的に短くした2本の中空回転軸62、63とを設け、これらの中実回転軸61及び中空回転軸62、63に所定長さのアーム51の一端を連結し、このアーム51の他端に、各ターゲット41a〜41dのスパッタ面に略平行となるように遮蔽手段5が連結することで真空チャンバ11内に設けられている。
【0019】
また、本実施の形態では、最外側の中空回転軸63の外周に、この中空回転軸63に同心に配置され真空チャンバ11内への突出長さを中空回転軸63より段階的に短くした3本の中空回転軸64〜66をさらに設け、中空回転軸64〜66に所定長さのアーム71の一端を連結し、このアーム71の他端に、遮蔽手段6に加えて、調整手段7a、7b、7cが各ターゲット41a〜41dのスパッタ面に略平行となるように設けらえている。
【0020】
調整手段7a、7b、7cは、アルミニウム合金などから作製された断面円形の板材であり、ターゲット41a〜41dのスパッタ面の面積より大きい面積を有し、少なくとも1個の円形や鼓状の開口71a、71b、71cが設けられている。これにより、この調整手段7a、7b、7cによって、処理基板3へ向かうスパッタ粒子の飛行経路を選択的に遮ることで、成膜速度の調整及び処理基板3への薄膜の膜厚分布の調整の少なくとも一方が可能になる。この場合、真空チャンバ11内に公知構造の膜厚モニタを設け、例えば、成膜中に、後述する制御手段の作動を制御し、中空回転軸64〜66の回転角を制御できるようにしてもよい。中実回転軸61及び中空回転軸62a乃至62eの間の間隙には、真空チャンバ11の天井部11bにおいて磁気軸受け8a〜8fが設けられ、真空チャンバ11の気密性を保持している(図3参照)。
【0021】
また、真空チャンバ11の上方において、中実回転軸61及び中空回転軸62〜66は、真空チャンバ11の上方に向かうに従い段階的に短くなるように定寸されており(中実回転軸61の長さが最も長い)、中実回転軸61及び中空回転軸62〜66の上端外周面には、第1のプーリーP1がそれぞれ設けられいる。第1の各プーリーP1には、モータなどの駆動手段9の回転軸91に設けた第2のプーリーP2との間で平ベルトVが巻掛けられている。そして、各駆動手段9の作動を制御する制御手段92によって、中実回転軸61及び中空回転軸62〜66を個々に回転させることで、遮蔽手段5及び調整手段7a、7b、7cが、ターゲット41a〜41dの上方に位置する遮蔽位置と、各ターゲット41a〜41dが位置する円周上であって、各ターゲット41a〜41d相互の間に位置する開放位置との間でそれぞれ移動自在となる。
【0022】
この場合、遮蔽手段5、調整手段7a、7b、7cを開放位置に移動させたとき、各ターゲット41a〜41dが位置する円周上であって各ターゲット41a〜41d相互の間の空間に遮蔽手段5、調整手段7a、7b、7cを待機させることができるため、真空チャンバ11内に遮蔽板5、調整手段7a、7b、7cの待機スベースを別途設ける必要はなく、真空チャンバ11内の容積の増加を防止できる。
【0023】
尚、本実施の形態では、多元スパッタリング装置1について説明したが、これに限定されるものではなく、真空チャンバ11内に複数の蒸発源を設け、いずれかの蒸発源を適宜遮蔽して成膜処理を行うものであれば本発明を適用できる。また、遮蔽手段5のみを設ける場合、真空チャンバ11内に設けた蒸発源の数より少なく遮蔽手段5の数を設定し、それに応じて回転軸及び中空回転軸の本数を設定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の成膜装置であるスパッタリング装置を概略的に示す断面図。
【図2】ターゲットと、遮蔽板及び調整板との配置を説明する平面図。
【図3】回転軸の真空シールを説明する図。
【符号の説明】
【0025】
1 成膜装置
11 真空チャンバ
2 基板ステージ
3 処理基板
4a〜4d スパッタリングカソード(蒸発源)
5 遮蔽手段
61 中軸回転軸
62〜66 中空回転軸
7 調整手段
9 駆動手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内に配置される処理基板に対向させて設けた少なくとも3個の蒸発源と、いずれかの蒸発源からの蒸発粒子の他の蒸発源への再付着を防止するように蒸発源を遮る遮蔽手段とを備え、各蒸発源を同一円周上に配置し、この円周の中心を回転中心とする1個の回転軸と、この回転軸に同心に配置され真空チャンバ内への突出長さを回転軸より段階的に短くした少なくとも1本の中空回転軸とを設け、これらの回転軸及び中空回転軸に遮蔽手段をそれぞれ連結すると共に、前記各蒸発源を開放する開放位置と各蒸発源を遮る遮蔽位置との間で、これらの回転軸及び中空回転軸を介して遮蔽手段をそれぞれ移動させる駆動手段を設けたことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記処理基板を一定の回転速度で回転自在に保持する基板ホルダーを備え、前記回転軸及中空回転軸に、前記遮蔽手段に代えてまたは加えて、蒸着粒子の飛行経路を選択的に遮ることで成膜速度の調整及び処理基板への薄膜の膜厚分布の調整の少なくとも一方を可能とする少なくとも1個の開口を設けた調整手段を連結したことを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
前記回転軸及び中空回転軸の間の間隙に磁気軸受けを設けたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の成膜装置。
【請求項4】
前記蒸発源は、ターゲットを有するスパッタリングカソードであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項1】
真空チャンバ内に配置される処理基板に対向させて設けた少なくとも3個の蒸発源と、いずれかの蒸発源からの蒸発粒子の他の蒸発源への再付着を防止するように蒸発源を遮る遮蔽手段とを備え、各蒸発源を同一円周上に配置し、この円周の中心を回転中心とする1個の回転軸と、この回転軸に同心に配置され真空チャンバ内への突出長さを回転軸より段階的に短くした少なくとも1本の中空回転軸とを設け、これらの回転軸及び中空回転軸に遮蔽手段をそれぞれ連結すると共に、前記各蒸発源を開放する開放位置と各蒸発源を遮る遮蔽位置との間で、これらの回転軸及び中空回転軸を介して遮蔽手段をそれぞれ移動させる駆動手段を設けたことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記処理基板を一定の回転速度で回転自在に保持する基板ホルダーを備え、前記回転軸及中空回転軸に、前記遮蔽手段に代えてまたは加えて、蒸着粒子の飛行経路を選択的に遮ることで成膜速度の調整及び処理基板への薄膜の膜厚分布の調整の少なくとも一方を可能とする少なくとも1個の開口を設けた調整手段を連結したことを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
前記回転軸及び中空回転軸の間の間隙に磁気軸受けを設けたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の成膜装置。
【請求項4】
前記蒸発源は、ターゲットを有するスパッタリングカソードであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の成膜装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2007−131883(P2007−131883A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−324347(P2005−324347)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
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