説明

成膜装置

【課題】成膜容器の圧力を測定するための圧力計に耐熱性を要求せず、かつ、設置面積を低減可能な成膜装置を提供する。
【解決手段】成膜容器11内に保持されている基板に原料ガスを供給することによって、基板に膜を成膜する成膜装置において、成膜容器11に原料ガスを供給する供給機構と、成膜容器11からガスを排気する排気機構25と、成膜容器11から排気機構25にガスが流れる排気流路55の途中に設けられており、原料ガスを含む生成物を析出させることによって、原料ガスを捕捉するトラップ部30と、成膜容器11とトラップ部30との間で排気流路55に合流するように接続されており、排気流路55にパージガスを供給するパージガス供給部50と、パージガス供給部50から排気流路55にパージガスが流れるパージガス供給流路52の途中に設けられた圧力計51とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板にポリイミド膜を成膜する成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスに用いられる材料は、近年無機材料から有機材料へと幅を広げつつあり、無機材料にはない有機材料の特質等から半導体デバイスの特性や製造プロセスをより最適なものとすることができる。
【0003】
このような有機材料の1つとして、ポリイミドが挙げられる。ポリイミドは密着性が高く、リーク電流も低い。従って、基板の表面にポリイミドを成膜して得られるポリイミド膜は、絶縁膜として用いることができ、半導体デバイスにおける絶縁膜として用いることも可能である。
【0004】
このようなポリイミド膜を成膜する方法としては、原料モノマーとして例えばピロメリット酸二無水物(PMDA)と、例えば4,4'−オキシジアニリン(ODA;別名4,4'−ジアミノジフェニルエーテル)を用いた蒸着重合による成膜方法が知られている。蒸着重合は、原料モノマーとして用いられるPMDA及びODAを昇華させて基板の表面で重合させる方法である(例えば特許文献1参照)。特許文献1では、PMDA及びODAのモノマーを気化器で蒸発させ、蒸発させたそれぞれの蒸気を蒸着重合室に供給し、基板上で蒸着重合させてポリイミド膜を成膜する成膜方法が開示されている。
【0005】
このような蒸着重合による成膜方法においては、基板上での蒸着重合に寄与することのなかった原料モノマーが、蒸着重合室を排気するための真空ポンプ内に析出することによって悪影響を与えることが知られている。そこで、水冷コイルを備えたトラップを有する成膜装置が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許4283910号公報
【特許文献2】特開平5−132759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このようなPMDAガスとODAガスを基板に供給してポリイミド膜を成膜する成膜装置には、以下のような問題がある。
【0008】
PMDAガスとODAガスとを供給することによって基板の表面に安定してポリイミド膜を成膜するためには、基板の表面におけるPMDAガスとODAガスとよりなる原料ガスの供給量を一定にすることが望ましい。しかし、成膜容器を排気機構により排気する排気量が変動すると、成膜処理時の成膜容器内の圧力が変動する。また、成膜容器内の圧力が変動すると、原料ガスの供給量も変動する。従って、原料ガスの供給量を一定にするためには、成膜容器内の圧力を毎回正確に制御して安定したプロセス条件を得ることが必要である。成膜容器内の圧力を制御するためには、成膜容器又は成膜容器と排気機構との間の排気流路に圧力計を設け、圧力を測定することが必要である。また、圧力計が設けられた部分と排気機構との間の排気流路には、前述したトラップが設けられる。
【0009】
ところが、成膜容器から排出される排気ガスの温度は例えば260℃程度の高温であり、排気ガスの温度が低下すると原料ガスを含む生成物が析出するため、トラップまでの排気流路を高温に保持する必要がある。従って、排気流路に設けられる圧力計には優れた耐熱性が要求される。しかし、このような耐熱性に優れた圧力計は少ない。
【0010】
成膜容器と圧力計との間にプリトラップを設け、排気ガス中から原料ガスを含む生成物の一部をプリトラップにより捕捉し、圧力計が設けられた排気流路の部分の温度を少し下げることも考えられる。しかし、トラップが2台必要になるため、成膜装置の設置面積(フットプリント)が増大する問題がある。
【0011】
また、上記した課題は、PMDAガス及びODAガスよりなる原料ガスを基板に供給してポリイミド膜を成膜する場合に限定されず、各種の原料ガスを基板に供給して各種の膜を成膜する場合にも共通する課題である。
【0012】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、成膜容器の圧力を測定するための圧力計に耐熱性を要求せず、かつ、設置面積を低減可能な成膜装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために本発明では、次に述べる各手段を講じたことを特徴とするものである。
【0014】
本発明の一実施例によれば、成膜容器内に保持されている基板に原料ガスを供給することによって、前記基板に膜を成膜する成膜装置において、前記成膜容器に前記原料ガスを供給する供給機構と、前記成膜容器からガスを排気する排気機構と、前記成膜容器から前記排気機構にガスが流れる排気流路の途中に設けられており、前記原料ガスを含む生成物を析出させることによって、前記原料ガスを捕捉するトラップ部と、前記成膜容器と前記トラップ部との間で前記排気流路に合流するように接続されており、前記排気流路にパージガスを供給するパージガス供給部と、前記パージガス供給部から前記排気流路にパージガスが流れるパージガス供給流路の途中に設けられた圧力計とを有する、成膜装置が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、成膜装置において、成膜容器の圧力を測定するための圧力計に耐熱性を要求せず、かつ、設置面積が低減可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施の形態に係る成膜装置の構成を示す一部縦断面を含む図である。
【図2】第1の実施の形態に係る成膜装置のうち、チャンバーと真空ポンプとの間の構成を中心として模式的に示す図である。
【図3】第1の実施の形態に係る成膜装置におけるトラップ部の構成を示す縦断面図である。
【図4】第1の開閉バルブの構成を模式的に示す断面図である。
【図5】流量を計算するために仮定したパージガスの流路空間のモデルを示す斜視図である。
【図6】横軸に流量を表し、縦軸に間隔を表した場合における、式(2)及び式(5)を満たす領域を示すグラフである。
【図7】第1の実施の形態に係る成膜処理の各工程における、チャンバーと真空ポンプとの間の排気流路及びバルブの状態を示す図(その1)である。
【図8】第1の実施の形態に係る成膜処理の各工程における、チャンバーと真空ポンプとの間の排気流路及びバルブの状態を示す図(その2)である。
【図9】第1の実施の形態に係る成膜処理の各工程における、チャンバーと真空ポンプとの間の排気流路及びバルブの状態を示す図(その3)である。
【図10】第1の実施の形態に係る成膜処理の各工程における、チャンバーと真空ポンプとの間の排気流路及びバルブの状態を示す図(その4)である。
【図11】比較例に係る成膜装置のうち、チャンバーと真空ポンプとの間の構成を中心として模式的に示す図である。
【図12】比較例に係る成膜装置におけるトラップ部の構成を示す縦断面図である。
【図13】評価を行った成膜装置のうち、チャンバーと真空ポンプとの間の構成を中心として模式的に示す図である。
【図14】モニタ用圧力計及び圧力計により測定した圧力の時間依存性を示すグラフである。
【図15】第2の実施の形態に係る成膜装置のうち、チャンバーと真空ポンプとの間の構成を中心として模式的に示す図である。
【図16】横軸に流量を表し、縦軸に長さを表した場合における、式(2)及び式(5)を満たす領域を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための形態について図面と共に説明する。
(第1の実施の形態)
最初に、本発明の第1の実施の形態に係る成膜装置について説明する。本実施の形態に係る成膜装置は、芳香族酸二無水物よりなる第1の原料を気化した第1の原料ガスと、芳香族ジアミンよりなる第2の原料を気化した第2の原料ガスとを、成膜容器内に保持されている基板に供給することによって、基板にポリイミド膜を成膜する成膜装置である。
【0018】
なお、芳香族酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物(Pyromellitic Dianhydride、以下「PMDA」と略す。)であることが好ましく、芳香族ジアミンは、例えば4,4'−オキシジアニリン(4,4'-Oxydianiline、以下「ODA」と略す。また、別名4,4'−ジアミノジフェニルエーテルともいう。)であることが好ましい。また、ポリイミド膜を成膜する基板を、例えば半導体ウェハ(以下「ウェハW」という。)とすることができる。以下では、一例として、気化したPMDAガスと、気化したODAガスとを、成膜容器内に保持されているウェハWに供給することによって、ウェハWにポリイミド膜を成膜する成膜装置について説明する。
【0019】
図1は、本実施の形態に係る成膜装置の構成を示す一部縦断面を含む図である。
【0020】
本実施の形態に係る成膜装置10は、成膜容器11、供給機構20、真空ポンプ25、トラップ部30、パージガス供給部50、圧力計51、及び制御部80を有する。
【0021】
成膜装置10は、真空ポンプ25により排気が可能なチャンバー11内にポリイミド膜が成膜されるウェハWを複数保持することが可能なウェハボート12を有している。また、チャンバー11内には、気化したPMDA(PMDAガス)及び気化したODA(ODAガス)を供給するためのインジェクタ13及び14を有している。このインジェクタ13及び14の側面には開口部が設けられており、気化器により気化したPMDAガス及びODAガスが図面において矢印で示すようにウェハWに供給される。供給されたPMDAガス及びODAガスがウェハW上で蒸着重合反応することによりポリイミド膜が成膜される。なお、ポリイミド膜の成膜に寄与しないPMDAガス及びODAガス等は、そのまま流れ、排気口15よりチャンバー11の外に排出される。また、ウェハW上に均一にポリイミド膜が成膜されるように、ウェハボート12は、回転部16により回転するよう構成されている。更に、チャンバー11の外部には、チャンバー11内のウェハWを一定の温度に加熱するためのヒーター17が設けられている。
【0022】
ヒーター17は、後述する制御部80により、チャンバー11の温度が、供給されたPMDAガス及びODAガスがウェハW上で蒸着重合反応する温度範囲になるように、加熱される。具体的には、チャンバー11の温度は、約200℃に設定されている。
【0023】
なお、チャンバー11は、本発明における成膜容器に相当する。
【0024】
供給機構20は、チャンバー11に、PMDAガス及びODAガスを供給する。供給機構20は、第1の原料ガス供給部21及び第2の原料ガス供給部22を有する。第1の原料ガス供給部21は、バルブ23、導入部18を介してインジェクタ13に接続されている。第2の原料ガス供給部22は、バルブ24、導入部18を介してインジェクタ14に接続されている。
【0025】
第1の原料ガス供給部21は、第1の気化器21である。第1の気化器21は、PMDAよりなる第1の原料を加熱して昇華(気化)させ、気化して得られたPMDAガスよりなる第1の原料ガスを窒素ガス(Nガス)よりなる第1のキャリアガスとともにチャンバー11に供給する。第1のキャリアガスは、PMDAガスよりなる第1の原料ガスを搬送するためのものである。
【0026】
第2の原料ガス供給部22は、第2の気化器22である。第2の気化器22は、ODAよりなる第2の原料を加熱して気化させ、気化して得られたODAガスよりなる第2の原料ガスを窒素ガス(Nガス)よりなる第2のキャリアガスとともにチャンバー11に供給する。第2のキャリアガスは、ODAガスよりなる第2の原料ガスを搬送するためのものであるとともに、液体状態のODAをバブリングするためのものでもある。
【0027】
第1の原料ガス供給部21から供給されたPMDAガス、及び、第2の原料ガス供給部22から供給されたODAガスは、それぞれインジェクタ13、14を介してチャンバー11内に供給され、ウェハW上において反応し、ポリイミド膜が成膜される。
【0028】
なお、本実施の形態では、一例としてウェハWを複数枚積層するように保持した状態で一括して成膜処理を行うバッチ処理を行う成膜装置について説明する。しかし、成膜装置は、バッチ処理を行う成膜装置に限定するものではなく、ウェハWを一枚ずつ成膜する枚葉処理を行う成膜装置であってもよい。
【0029】
真空ポンプ25は、チャンバー11の排気口15に接続するように設けられており、チャンバー11からガスを排気する。真空ポンプ25としては、ドライポンプであるルーツポンプ、スクリューポンプ等、また、ロータリーポンプ、スクロールポンプ等が用いられている。これらの真空ポンプは、排気量が大きくガスを流しながらの成膜に適しているからである。
【0030】
なお、真空ポンプ25は、本発明における排気機構に相当する。
【0031】
トラップ部30は、チャンバー11から真空ポンプ25に排気ガスが流れる排気流路55の途中に設けられており、チャンバー11から排出されたガス中から原料ガスを含む生成物を捕捉する。すなわち、排気口15からの排気は、トラップ部30を介し、真空ポンプ25により排気される。トラップ部30の詳細な構成については、後述する。
【0032】
パージガス供給部50は、チャンバー11とトラップ部30との間で排気流路55に合流するように接続されており、排気流路55にパージガスを供給する。また、圧力計51は、パージガス供給部50から排気流路55にパージガスが流れるパージガス供給流路52の途中に設けられている。
【0033】
なお、チャンバー11とトラップ部30との間には、図2を用いて説明するように、第1の開閉バルブ60が設けられていてもよい。第1の開閉バルブ60は、チャンバー11とトラップ部30とを連通又は遮断するように設けられている。第1の開閉バルブ60は、本発明における開閉弁部に相当する。
【0034】
また、パージガス供給部50は、第1の開閉バルブ60で排気流路55に合流するように接続されていてもよい。以下、図2を参照し、パージガス供給部50が第1の開閉バルブ60を介して排気流路55に合流するように接続されている例について説明する。
【0035】
図2は、本実施の形態に係る成膜装置のうち、チャンバー11と真空ポンプ25との間の構成を中心として模式的に示す図である。
【0036】
チャンバー11から排出されたガスが真空ポンプ25に流れる排気流路55は、第1の排気流路56、第2の排気流路57、第3の排気流路58、及び第4の排気流路59を有する。
【0037】
第1の排気流路56は、チャンバー11から排出されたガスがトラップ部30に流れる流路である。第1の排気流路56の途中には、前述した第1の開閉バルブ60が設けられている。また、第1の排気流路56には、第1の開閉バルブ60と直列に第1の排気流路56の流量を調整する第1の調整バルブVC1が設けられている。そして、第1の排気流路56は、トラップ部30の後述するガス導入管38及びガス導入口39に接続されている。
【0038】
第2の排気流路57は、トラップ部30から排出されたガスが真空ポンプ25に流れる流路である。第2の排気流路57は、トラップ部30の後述するガス導出口41及びガス導出管40に接続されている。第2の排気流路57の途中には、第2の開閉バルブV2が設けられている。第2の開閉バルブV2は、トラップ部30と真空ポンプ25とを連通又は遮断するように設けられている。また、第2の排気流路57には、第2の開閉バルブV2と直列に第2の排気流路57の流量を調整する第2の調整バルブVC2が設けられている。
【0039】
第3の排気流路58は、第1の排気流路56と第2の排気流路57とをトラップ部30を迂回するように接続する。第3の排気流路58は、第1の排気流路56の途中であって、第1の開閉バルブ60よりもチャンバー11側の第1の分岐点D1と、第2の排気流路57の途中であって、第2の開閉バルブV2よりも真空ポンプ25側の第2の分岐点D2とを接続する。第3の排気流路58の途中には、第3の開閉バルブV3が設けられている。また、第3の開閉バルブV3よりも真空ポンプ25側の第3の排気流路58、又は、分岐点D2よりも真空ポンプ25側の第2の排気流路57には、第3の排気流路58の流量を調整するモータバルブVMが設けられている。第3の排気流路58は、トラップ部30を排気した後、チャンバー11の排気を開始する際に、トラップ部30にチャンバー11の大気が一気に流れ、トラップ部30に堆積している生成物が巻き上げられることを防止するための流路である。
【0040】
第4の排気流路59は、第2の開閉バルブV2及び第2の調整バルブVC2を迂回してトラップ部30と真空ポンプ25とを接続するように設けられている。第4の排気流路59は、トラップ部30に形成された第2の導出口44と、第2の排気流路57のモータバルブVMよりも真空ポンプ25側の第3の分岐点D3とを接続する。第4の排気流路59の途中には、第4の開閉バルブV4が設けられている。
【0041】
次に、図2及び図3を参照し、トラップ部30について説明する。図3は、本実施の形態に係る成膜装置におけるトラップ部30の構成を示す縦断面図である。なお、図3では、第2の導出口44の図示を省略している。
【0042】
トラップ部30は、トラップ容器31と、ガス導入部32と、ガス導出部33と、トラップ板34とを有する。
【0043】
トラップ容器31は、上面部35と、側面部36と、底面部37とを有する。上面部35と、側面部36と、底面部37とは、例えば図示しないOリングを介し接続されている。
【0044】
ガス導入部32は、トラップ容器31の上面部35に設けられている。ガス導入部32は、ガス導入管38及びガス導入口39を有する。ガス導入管38は、トラップ容器31の上面部35を上方から下方へ貫通するように設けられている。ガス導入管38の上方側は、第1の開閉バルブ60を介してチャンバー11と接続されており、ガス導入管38の下端には、トラップ容器31内に開口するガス導入口39が設けられている。チャンバー11より排出された排気ガスは、ガス導入口39を介しトラップ容器31に流れこむ。
【0045】
ガス導出部33も、トラップ容器31の上面部35に設けられている。ガス導出部33は、ガス導出管40及びガス導出口41を有する。ガス導出管40は、トラップ容器31の上面部35を下方から上方へ貫通するように設けられており、ガス導出管40の下端には、トラップ容器31内に開口するガス導出口41が設けられている。ガス導出管40の上方側は、真空ポンプ25に接続されており、トラップ容器31内の排気ガスは、ガス導出口41を介し真空ポンプ25に排気される。
【0046】
トラップ板34は、トラップ容器31の内部であって、ガス導入口39が設けられている高さ位置P1よりも上方の高さ位置P2に、略水平に設けられている。すなわち、トラップ板34は、トラップ容器31の内部であって、ガス導入部32がトラップ容器31内に排気ガスを導入する高さ位置P1よりも上方の高さ位置P2に、略水平に設けられている。
【0047】
また、トラップ板34は、ガス導出口41が設けられている高さ位置P3よりも上方の高さ位置P2に設けられていてもよい。図3に示す例では、ガス導出口41の高さ位置P3と、ガス導入口39の高さ位置P1とは、略等しい高さであるため、トラップ板34は、ガス導入口39及びガス導出口41が設けられている高さ位置P1、P3よりも上方の高さ位置P2に設けられている。
【0048】
トラップ容器31の内部であって、トラップ板34の上面側には、冷却機構としての水冷パイプ43が設けられている。水冷パイプ43は、例えばトラップ板34の上面側に近接してスパイラル状に形成されている。水冷パイプ43には、水冷パイプ43に冷却水を導入する図示しない導入口、冷却水を排出する図示しない導出口が設けられている。そして、図示しない冷却水供給源から導入口を介して水冷パイプに冷却水が通流され、導出口を介して外部に冷却水が排出される。水冷パイプ43は、排気ガスを冷却する機能を有している。
【0049】
ガス導入口39よりトラップ容器31に流入した、PMDAガス及びODAガスを含むガスは、トラップ容器31内で拡散する。このとき、トラップ板34の上面側に水冷パイプ43が設けられているため、トラップ板34が冷却される。冷却されたトラップ板34によってPMDAガス及びODAガスは冷却され、トラップ板34の下面で凝固し、PMDAガス及びODAガスのいずれかを含む生成物Cとして析出する。析出した生成物Cは、トラップ板34の下面より剥離し、トラップ容器31の底面部37に落下し堆積する。そして、生成物Cが捕捉された残りのガスは、ガス導出口41に向かって流れる。
【0050】
なお、本実施の形態におけるトラップ部30は、下方向が重力の働く方向と同じ方向となるよう設置されている。ただし、本実施の形態と同様の効果を得ることができるのであれば、方向は若干異なっていてもよい。
【0051】
本実施の形態におけるトラップ部30では、トラップ板34は、略水平に設けられている。これにより、トラップ板34の下面で凝固し、析出した生成物Cを、トラップ容器31の底面部37に落下させることができる。そして、トラップ板34の下面で析出した生成物Cが、トラップ板34に付着し続けないため、常に略同一の冷却状態が保たれる。
【0052】
なお、トラップ容器31内を流れるガスの速度が、底面部37に堆積している生成物が巻き上げられる速度範囲よりも小さな速度になるように、真空ポンプ25の排気速度が設定される。また、ガス導入口39の高さ位置P1、ガス導出口41の高さ位置P3、トラップ板34の高さ位置P2は、ガスの速度を考慮して設計されている。例えば、ガス導入口39の高さ位置P1又はガス導出口41の高さ位置P3と底面部37との間隔を狭くすると、流れるガスが底面部37の内側に堆積しているPMDA及びODAを巻き上げやすくなる。そのため、ガス導入口39の高さ位置P1又はガス導出口41の高さ位置P3と底面部37との間隔は、堆積している生成物が巻き上げられる距離範囲よりも大きな距離にすることが好ましい。
【0053】
また、トラップ容器31の底面部37には、図示しない異物取り出し部が設けられており、堆積した生成物は、この異物取り出し部より取り出すことが可能であり、メンテナンスを容易に行うことができる。
【0054】
また、トラップ部30には、ヒーター等の不図示の温度調節機構が設けられ、トラップ部30が所定の温度となるように、後述する制御部80により温度が制御されてもよい。
【0055】
本実施の形態では、トラップ部30は、チャンバー11から排出されたガス中から原料ガスであるPMDA及びODAを含む生成物を析出させることによって、原料ガスを捕捉するためのものである。トラップ部30は、後述する制御部80により、水冷パイプ43に流れる水の温度、流量を調整することによって、トラップ部30の温度が、PMDA及びODAを含む生成物が析出する反応が生ずる温度範囲になるように、調整される。例えば、トラップ部30の設定温度は、120℃以下に設定されている。
【0056】
トラップ部30をチャンバー11と真空ポンプ25との間に設けることにより、真空ポンプ25内にポリイミド等の生成物が付着して故障することを防止できる。
【0057】
次に、図4を参照し、第1の開閉バルブ60について説明する。図4は、第1の開閉バルブ60の構成を模式的に示す断面図である。
【0058】
第1の開閉バルブ60は、開口部61、開閉部62、駆動部63、パージガス導入部64を有する。
【0059】
開口部61は、上側開口部65、下側開口部66を有する。上側開口部65及び下側開口部66は、開閉部62を上下から挟むように設けられており、互いに等しい内径の開口65a、66aが形成されている。開閉部62は、上側開口部65、下側開口部66に形成された開口65a、66aと略等しい径を有する開口が形成された連通部67と、上側開口部65、下側開口部66を塞ぐ遮断部68とが設けられるとともに、横方向に移動可能に設けられている。駆動部63は、モータ部69及び変換部70とを有する。モータ部69は、回転駆動力を発生する。変換部70は、モータ部69と開閉部62とを連結するように設けられており、モータ部69が発生した回転駆動力を横方向の駆動力に変換する。駆動部63は、モータ部69の回転駆動力を変換部70により横方向の駆動力に変換し、開閉部62を横方向に移動駆動させることによって、上側開口部65と下側開口部66とを連通又は遮断する。
【0060】
パージガス導入部64は、第1の開閉バルブ60が開いている状態で、開閉部62と開口部61との隙間からパージガスを第1の排気流路56に導入する。図2を用いて前述したように、パージガス導入部64は、パージガス供給流路52を介してパージガス供給部50に接続されている。これにより、パージガス供給部50は、第1の開閉バルブ60を介して排気流路55に合流するように接続されている。また、パージガス供給流路52の途中には、パージガス導入部64とパージガス供給部50とを連通又は遮断するバルブ53が設けられている。
【0061】
第1の開閉バルブ60は、PMDA及びODAを含む生成物が付着しないように、200℃以上のできるだけ高い温度に設定されていることが好ましく、耐熱性を考慮して200〜260℃の温度に設定されている。また、コンダクタンスを低下させないよう開口部61の開口径が大きいことが好ましい。
【0062】
図2を用いて前述したように、圧力計51は、パージガス供給部50から排気流路55にパージガスが流れるパージガス供給流路52の途中に設けられている。圧力計51が設けられている部分では、パージガス供給流路52の配管径が小さくなっている。そのため、排気ガスがパージガス供給流路52に逆流すると、析出した生成物がパージガス供給流路52の配管内に付着し、配管を詰まらせるおそれがある。従って、パージガス導入部64における流路の形状及び流量は、第1の開閉バルブ60から、パージガス導入部64に排気ガスが逆流しないような形状及び流量にすることが好ましい。そのため、パージガス導入部64において、パージガスの流れが乱流であって、かつ、パージガスの流速が音速を超えないことが好ましい。
【0063】
以下では、図4及び図5を参照し、パージガス導入部64に排気ガスが逆流しないような形状及び流量の好ましい範囲について説明する。図5は、流量を計算するために仮定したパージガスの流路空間のモデルを示す斜視図である。
【0064】
図4において破線で囲まれた領域Iにおいて、上側開口部65と下側開口部66とに挟まれたドーナツ形状の流路空間Iを外周側から内周側へ向かってパージガスが流れるものとする。ここで、上側開口部65と下側開口部66との間隔をD(m)とし、上側開口部65及び下側開口部66の径方向の幅をL(m)とする。ただし、図4及び図5では、後述する第2の実施の形態と区別するために、間隔DをD1と表し、幅LをL1と表す。そして、流路空間Iを、上側開口部65及び下側開口部66の周縁部の径方向に沿って延在する管径(内径)D1(m)、管長(長さ)L1(m)の供給管TBに分割する。すなわち、流路空間Iは、上側開口部65及び下側開口部66の径方向に沿って延在する供給管TBが、上側開口部65及び下側開口部66の周方向に沿ってN本並べられて構成されているものと仮定する。そして、供給管TBにおける圧力をP(Pa)、温度をT(K)、流量をQ(sccm)、流速をV(m/sec)、音速をa(m/sec)とする。このとき、パージガス導入部64に排気ガスが逆流しないような間隔D(=D1)及び流量Q(sccm)の好ましい範囲を求める。
【0065】
なお、図5のモデルにおいて、供給管TBの断面積をA1、本数をNとすると、V=Q/(N×A1)である。すなわち、流量Qは、V×A1で表される供給管TBの1本当たりの流量qをN本分合計して得られる値である。
【0066】
まず、圧力P、温度T、長さLを
圧力;P=10Pa
温度;T=400K
長さ;L=L1=0.004m
と仮定する。
【0067】
パージガス導入部64においてパージガスの流れが乱流であるためには、下記式(1)
Re=VL/ν (1)
で表されるレイノルズ数Reが、下記式(2)
Re>4000 (2)
で表されるように、4000を超えることが好ましい。ただし、νは、パージガスの動粘度(単位;m/s)であり、400K、10Paでの値として4.05×10−5(m/s)を用いた。
【0068】
また、パージガスの流速が音速を超えないためには、下記式(3)
a=(kRT)0.5 (3)
で表される音速a(m/sec)を用いて、下記式(4)
Mach=V/a (4)
で表されるマッハ数Machが、下記式(5)
Mach<1 (5)
で表されるように、1未満であることが好ましい。ただし、kはボルツマン定数1.38×10−23J/K、Rは8.31J/K/molであり、上記した温度Tでは、
音速;a=4.08×10m/sec
である。
【0069】
図6は、横軸に流量Qを表し、縦軸に間隔D1を表した場合における、式(2)及び式(5)を満たす領域を示すグラフである。図6において、直線LN1は、Re=4000を表し、直線LN2は、V=aを表す。このとき、直線LN1より下側の領域が式(2)を満たす領域であり、乱流となる範囲である。また、直線LN2より上側の領域が式(5)を満たす領域であり、音速未満の範囲である。従って、直線LN1と直線LN2とに挟まれた、ハッチングを付した領域S1が、式(2)及び式(5)を満たす領域である。
【0070】
例えば、流量Qを100sccmとし、間隔D1を0.625mmとする設定点PNT1は、領域S1に含まれる。従って、流量Qを100sccmとし、間隔D1を0.625mmとすることによって、パージガス導入部64に排気ガスが逆流しないような形状及び流量の条件を満たすことができる。
【0071】
排気流路55のパージガス供給部50が接続されている部分である第1の開閉バルブ60には、ヒーター71が設けられていてもよい。ヒーター71は、第1の開閉バルブ60を加熱するためのものである。ヒーター71は、後述する制御部80により、第1の開閉バルブ60を、生成物が析出する反応が生ずる温度範囲よりも高い温度に加熱する。具体的には、第1の開閉バルブ60を、200〜260℃に加熱する。これにより、第1の開閉バルブ60の内部に、PMDAガス及びODAガスのいずれか1種以上を含む生成物が析出して付着し、第1の開閉バルブ60の内部が狭窄することを防止できる。なお、ヒーター71は、本発明における加熱機構に相当する。
【0072】
制御部80は、例えば、図示しない演算処理部、記憶部及び表示部を有する。演算処理部は、例えばCPU(Central Processing Unit)を有するコンピュータである。記憶部は、演算処理部に、各種の処理を実行させるためのプログラムを記録した、例えばハードディスクにより構成されるコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。表示部は、例えばコンピュータの画面よりなる。演算処理部は、記憶部に記録されたプログラムを読み取り、そのプログラムに従って、供給機構20、真空ポンプ25、トラップ部30、パージガス供給部50、及び圧力計51に制御信号を送り、後述するような成膜処理を実行する。
【0073】
次に、図7から図10を参照し、本実施の形態に係る成膜装置における成膜処理の一例について説明する。
【0074】
図7から図10は、本実施の形態に係る成膜処理の各工程における、チャンバー11と真空ポンプ25との間の排気流路及びバルブの状態を示す図である。
【0075】
なお、図7から図10では、便宜的に、排気流路の排気流量の大きさを3段階に分け、流量が0の部分を白抜きにより表示し、流量が小流量の部分を薄いハッチングを付して表示し、流量が大流量の部分を濃いハッチングを付して表示する。また、いったん高真空まで排気された部分については、その後の排気流量の大きさに関わらず、流量が大流量の部分と同様の濃いハッチングを付して表示するものとする。
【0076】
また、図7から図10では、第1の開閉バルブ60、第2の開閉バルブV2、第3の開閉バルブV3、及びモータバルブVMの開度の大きさを3段階に分け、完全に閉じている状態のバルブを白抜きにより表示し、開度が調整されている状態のバルブを薄いハッチングを付して表示し、完全に開いている状態のバルブを濃いハッチングを付して表示する。
【0077】
なお、第1の調整バルブVC1、第2の調整バルブVC2は、例えばニードルバルブよりなり、予め開度が調整された状態であって、調整された開度が図7から図10に示す工程では、変更されないものであってもよい。以下では、第1の調整バルブVC1、第2の調整バルブVC2の開度は調整された状態であって、変更されない例について説明する。また、第1の調整バルブVC1、第2の調整バルブVC2は調整された状態で開いているものの、白抜きにより表示するものとする。
【0078】
図7に示す工程では、第4の開閉バルブV4、モータバルブVMを閉じた状態で、真空ポンプ25により、第2の排気流路57のモータバルブVMと真空ポンプ25との間の部分、第4の排気流路59の第4の開閉バルブV4と第3の分岐点D3との間の部分を排気する。このとき、図7で濃いハッチングを付して示すように、第2の排気流路57のモータバルブVMと真空ポンプ25との間の部分、及び、第4の排気流路59の第4の開閉バルブV4と第3の分岐点D3との間の部分における流量は、大流量である。そして、図7における濃いハッチングを付した部分は、例えば30sec程度の時間で、例えば10Pa程度の高真空に排気される。
【0079】
次いで、図8に示す工程では、トラップ容器31の内部を粗引きする。モータバルブVM、第1の開閉バルブ60及び第2の開閉バルブV2を閉じた状態で、第4の開閉バルブV4を開く。そして、真空ポンプ25により、トラップ容器31の内部、第1の排気流路56の第1の開閉バルブ60とトラップ容器31との間の部分、第2の排気流路57の第2の開閉バルブV2とトラップ容器31との間の部分を排気する。このとき、図8で薄いハッチングを付して示すように、トラップ容器31の内部、第1の排気流路56の第1の開閉バルブ60とトラップ容器31との間の部分、及び第2の排気流路57の第2の開閉バルブV2とトラップ容器31との間の部分における流量は、小流量である。そして、図8における薄いハッチングを付した部分は、例えば120min程度の時間で、例えば10Pa程度の高真空に排気される。
【0080】
そして、図9に示す工程を行う前に、チャンバー11にウェハWを搬入する。図1に示した成膜装置10の例では、例えばウェハボート12をチャンバー11の下側外方に下降させ、下降したウェハボート12にウェハWを載置し、ウェハWを載置したウェハボート12を再び上昇してチャンバー11内に挿入することにより、ウェハWを搬入することができる。
【0081】
次いで、図9に示す工程では、高真空まで排気されたトラップ容器31の内部を真空ポンプ25から遮断するとともに、チャンバー11の内部を粗引きする。第1の開閉バルブ60及び第2の開閉バルブV2を閉じた状態で、第4の開閉バルブV4を閉じ、第3の開閉バルブV3を開き、モータバルブVMの開度を調整する。そして、真空ポンプ25により、第2の排気流路57のモータバルブVMと第2の開閉バルブV2との間の部分、第3の排気流路58、第1の排気流路56の第1の開閉バルブ60とチャンバー11との間の部分、及びチャンバー11の内部を排気する。このとき、図9で薄いハッチングを付して示すように、第2の排気流路57のモータバルブVMと第2の開閉バルブV2との間の部分、第3の排気流路58、第1の排気流路56の第1の開閉バルブ60とチャンバー11との間の部分、及びチャンバー11の内部における流量は、小流量である。そして、図9における薄いハッチングを付した部分は、例えば60min程度の時間で、例えば10Pa程度の高真空に排気される。
【0082】
次いで、図10に示す工程では、チャンバー11の内部を高真空まで排気する。第4の開閉バルブV4を閉じた状態で、第3の開閉バルブV3を閉じ、モータバルブVM、第2の開閉バルブV2、第1の開閉バルブ60を開く。そして、真空ポンプ25により、第2の排気流路57、トラップ容器31の内部、第1の排気流路56を介して、チャンバー11の内部を排気する。このとき、図10で濃いハッチングを付して示すように、第2の排気流路57、トラップ容器31の内部、第1の排気流路56及びチャンバー11の内部における流量は、大流量である。そして、図10における濃いハッチングを付した部分は、例えば10min程度の時間で、例えば1Pa程度の高真空に排気される。
【0083】
図10に示す工程の後、ポリイミド膜を成膜する。バルブ23を開き、第1の原料ガス供給部21により、PMDAガスをチャンバー11に供給する。また、バルブ24を開き、第2の原料ガス供給部22により、ODAガスをチャンバー11に供給する。そして、ウェハWの表面でPMDAとODAを重合反応させ、ポリイミド膜を成膜する。
【0084】
このときの、PMDAとODAとの重合反応は、次の式(6)に従う。
【0085】
【化1】

ポリイミド膜を成膜する際、圧力計51により、チャンバー11の内部の圧力を測定できる。そして、供給機構20によるPMDAガス及びODAガスの供給量を制御した状態で、測定したチャンバー11の内部の圧力に基づいて、制御部80により、チャンバー11の内部の圧力が所定の圧力になるように真空ポンプ25の排気量を制御する。これにより、ポリイミド膜を安定に成膜することができる。
【0086】
その後、第3の開閉バルブV3を閉じた状態で、第1の開閉バルブ60を閉じ、チャンバー11と真空ポンプ25との間を遮断する。そして、図示しないチャンバー用パージガス供給部によりパージガスを供給し、チャンバー11の内部の圧力を所定圧力例えば大気圧(760Torr)に復圧する。チャンバー11の内部を大気圧に復圧した後、例えばウェハボート12をチャンバー11の下側外方に下降させ、下降したウェハボート12からウェハWを取り外し、ウェハWを取り外したウェハボート12を再び上昇してチャンバー11内に挿入することにより、ウェハWを搬出することができる。
【0087】
次に、本実施の形態に係る成膜装置が、圧力計に耐熱性を要求せず、かつ、設置面積を増大させないこと、また、プリトラップ部を設けた場合と比べてメンテナンスを行う時間間隔を略等しくできることを、比較例に係る成膜装置110と対比して説明する。
【0088】
比較例に係る成膜装置110は、チャンバー11と第1の開閉バルブ60との間の第1の排気流路56に、プリトラップ部120を有する点、圧力計51が第1の排気流路56に直接設けられている点、及びトラップ部130のガス導出部133がトラップ容器31の底面部37に設けられている点で、本実施の形態に係る成膜装置と相違する。従って、プリトラップ部120、圧力計51及びトラップ部130以外の部分についての説明を省略する。
【0089】
図11は、比較例に係る成膜装置110のうち、チャンバー11と真空ポンプ25との間の構成を中心として模式的に示す図である。図12は、比較例に係る成膜装置110におけるトラップ部130の構成を示す縦断面図である。
【0090】
プリトラップ部120は、チャンバー11と第1の開閉バルブ60との間に設けられている。プリトラップ部120は、チャンバー11とトラップ部130との間の第1の排気流路56に圧力計51が直接設けられているときに、圧力計51の内部に生成物が付着することを防止するためのものである。また、チャンバー11と圧力計51との間で予め生成物を捕捉するためのものである。
【0091】
プリトラップ部120は、後述するトラップ部130と同様の構造であってもよく、或いは、筐体の内部において、ガスの流れに対して略垂直となるよう多段に配置されたフィンを有するものであってもよい。
【0092】
また、圧力計51は、第1の排気流路56に直接設けられている。そのため、圧力計51には、例えば200℃程度の高温における耐熱性が要求される。
【0093】
一方、本実施の形態に係る成膜装置10では、プリトラップ部が設けられていないため、比較例に係る成膜装置よりもプリトラップ部の分だけ設置面積を削減できる。また、圧力計51は、第1の排気流路56に直接設けられておらず、第1の排気流路56に合流するパージガス供給流路52の途中に設けられている。そのため、圧力計51に耐熱性は要求されず、かつ、設置面積を増大させない成膜装置を提供することができる。
【0094】
また、比較例に係る成膜装置におけるトラップ部130は、トラップ容器31と、ガス導入部32と、ガス導出部133と、隔壁部134とを有する。
【0095】
トラップ容器31は、上面部35と、側面部36と、底面部37とを有する。上面部35と、側面部36と、底面部37とは、例えば図示しないOリングを介し接続されている。
【0096】
ガス導入部32は、本実施の形態のトラップ部30と同様に、トラップ容器31の上面部35に設けられている。ガス導入部32は、ガス導入管38及びガス導入口39を有する。
【0097】
ガス導出部133は、本実施の形態のトラップ部30とは異なり、トラップ容器31の底面部37に設けられている。ガス導出部133は、ガス導出管40及びガス導出口41を有する。ガス導出管40は、トラップ容器31の底面部37を上方から下方へ貫通するように設けられており、ガス導出管40の上端には、トラップ容器31内に開口するガス導出口41が設けられている。ガス導出管40の下方側は、真空ポンプ25に接続されており、トラップ容器31内の排気ガスは、ガス導出口41を介し真空ポンプ25に排気される。
【0098】
隔壁部134は、隔壁135、136を有する。隔壁135はトラップ容器31の底面部37と接続されており、隔壁136はトラップ容器31の上面部35と接続されている。これにより、トラップ容器31の側面部36の内側と隔壁135により流路137が形成され、隔壁135と隔壁136により流路138が形成され、隔壁136とガス導出管40により流路139が形成されている。
【0099】
流路138には、冷却機構としての水冷パイプ43が設けられている。水冷パイプ43は、排気ガスを冷却する機能を有している。
【0100】
ガス導入口39よりトラップ容器31の内部に流入したPMDAガス及びODAガスを含むガスは、トラップ容器31の側面部36と隔壁135により形成される流路137を、上方向に流れる。その後、ガスは、隔壁135と隔壁136により形成された流路138を下方向に流れる。
【0101】
比較例では、水冷パイプ43により隔壁135も冷却されているため、流路137において、PMDAガス及びODAガスは、水冷パイプ43が設けられている流路138に到達する前に、流路137において隔壁135の側面で凝固して生成物Cとして析出する。そして、析出した生成物Cは、隔壁135の側面より剥離し、トラップ容器31の側面部36と隔壁135との間における底面部37に落下し堆積する。
【0102】
すなわち、比較例では、トラップ容器31の底面部37のうち、隔壁135で囲まれた部分には、生成物が堆積することはほとんどない。従って、底面部37の面積をS0とし、側面部36と隔壁135とで囲まれた部分の面積をS1とし、メンテナンスを行うときの生成物の堆積高さをHとするとき、生成物が堆積可能な体積は、S1×Hである。
【0103】
一方、本実施の形態では、トラップ容器31の底面部37の全面に、生成物が堆積する。従って、底面部37の面積をS0とし、メンテナンスを行うときの生成物の堆積高さをHとするとき、生成物が堆積可能な体積は、S0×Hである。
【0104】
例えばS1がS0の半分であるとし、比較例のプリトラップ部120における生成物が堆積可能な体積も、トラップ部130における生成物が堆積可能な体積に略等しいものとする。すると、本実施の形態のトラップ部30における生成物が堆積可能な体積(以下単に「体積」という。)は、比較例のトラップ部130における体積とプリトラップ部120における体積との合計と略等しい。すなわち、本実施の形態では、プリトラップ部を設けていないものの、トラップ部30のガス導入部32とガス導出部33とをトラップ容器31の上面部35に設けることにより、メンテナンスの時間間隔を、プリトラップ部を設けた場合と略等しくすることができる。
【0105】
本実施の形態に係る成膜装置における圧力計51が測定した圧力測定値が、チャンバー11の圧力の変化に追従しており、かつ、安定して測定できることの評価を行った。以下、その評価結果について説明する。
【0106】
図13は、評価を行った成膜装置のうち、チャンバー11と真空ポンプ25との間の構成を中心として模式的に示す図である。
【0107】
評価を行った成膜装置では、本実施の形態に係る成膜装置に加え、第1の排気流路56の途中であって、チャンバー11と第1の開閉バルブ60との間に、プリトラップ部120を設けた。また、第1の排気流路56上であって、チャンバー11の近傍に、モニタ用圧力計54を設けた。そして、図10を用いて説明したようにチャンバー11を排気している状態で、供給機構20からキャリアガスを流し、キャリアガスの流量を変化させたときに、モニタ用圧力計54及び圧力計51により圧力を測定した。測定した圧力の時間依存性を図14のグラフに示す。
【0108】
図14には、モニタ用圧力計54が測定した圧力の時間依存性、パージガス供給部50からのパージガスの流量が10sccmであるときに圧力計51が測定した圧力の時間依存性、及び、パージガス供給部50からのパージガスの流量が0sccmであるときに圧力計51が測定した圧力の時間依存性を示す。ただし、圧力計51が測定した圧力を左側縦軸に示し、モニタ用圧力計54が測定した圧力を右側縦軸に示している。また、図14には、キャリアガスの流量(単位;SLM)も示している。例えば破線で囲まれた領域IIに示すように、キャリアガスの流量を0.8SLMから1.0SLMに増加させたとき、モニタ用圧力計54が測定する圧力が増加するのと略同時に、圧力計51が測定する圧力も増加する。また、例えば破線で囲まれた領域IIIに示すように、キャリアガスの流量が一定であるときは、モニタ用圧力計54が測定する圧力、及び、圧力計51が測定する圧力は、略一定である。従って、パージガス供給流路52の途中に設けられた圧力計による場合でも、第1の排気流路56のチャンバー11の近傍に設けられた圧力計と同様に、チャンバー11の内部の圧力を、変化に追従しつつ、安定して測定できることが分かる。
(第2の実施の形態)
次に、図15を参照し、本発明の第2の実施の形態に係る成膜装置について説明する。
【0109】
本実施の形態に係る成膜装置は、パージガス供給部が、第1の開閉バルブを介して排気流路に合流するようには接続されていない点で、第1の実施の形態に係る成膜装置と相違する。それ以外の部分については、第1の実施の形態に係る成膜装置と同様であり、説明を省略する。
【0110】
図15は、本実施の形態に係る成膜装置10aのうち、チャンバー11と真空ポンプ25との間の構成を中心として模式的に示す図である。
【0111】
本実施の形態では、パージガス供給部50aは、第1の開閉バルブ60を介して第1の排気流路56に合流するように接続されていない。しかし、パージガス供給部50aは、第1の排気流路56のチャンバー11の近傍に接続されている。すなわち、パージガス供給部50aは、チャンバー11と第1の開閉バルブ60との間で第1の排気流路56に合流するように接続されている。
【0112】
本実施の形態でも、圧力計51aが、パージガス供給部50aから第1の排気流路56にパージガスが流れるパージガス供給流路52aの途中に設けられている。圧力計51aが設けられている部分では、パージガス供給流路52aの配管径が小さくなっている。そのため、排気ガスがパージガス供給流路52aに逆流すると、析出した生成物がパージガス供給流路52aの配管内に付着し、配管を詰まらせるおそれがある。従って、パージガス供給流路52aにおける流路の形状及び流量は、第1の排気流路56から、パージガス供給流路52aに排気ガスが逆流しないような形状及び流量にすることが好ましい。そのため、パージガス供給流路52aにおいて、パージガスの流れが乱流であって、かつ、パージガスの流速が音速を超えないことが好ましい。
【0113】
以下では、パージガス供給流路52aに排気ガスが逆流しないような形状及び流量の好ましい範囲について説明する。
【0114】
図15において破線で囲まれた領域IVにおいて、パージガス供給流路52aの配管径D(m)を管径(内径)とし、パージガス供給流路52aの配管長L(m)を長さとする供給管IVにより、パージガスが第1の排気流路56に供給されるものとする。ただし、図15では、前述した第1の実施の形態と区別するために、内径DをD2と表し、長さLをL2として表す。そして、供給管IVにおける圧力をP(Pa)、温度をT(K)、流量をQ(sccm)、流速をV(m/sec)、音速をa(m/sec)とする。このとき、パージガス供給流路52aに排気ガスが逆流しないような長さL(=L2)及び流量Q(sccm)の好ましい範囲を求める。
【0115】
なお、供給管IVの断面積をA2とすると、V=Q/A2である。
【0116】
まず、圧力P、温度T、内径Dを
圧力;P=10Pa
温度;T=400K
内径;D=D2=0.010m
と仮定する。
【0117】
パージガス供給流路52aにおいてパージガスの流れが乱流であるためには、前述した式(1)で表されるレイノルズ数Reが、前述した式(2)で表されるように、4000を超えることが好ましい。
【0118】
また、パージガスの流速が音速を超えないためには、前述した式(3)で表される音速a(m/sec)を用いて前述した式(4)で表されるマッハ数Machが、前述した式(5)で表されるように、1未満であることが好ましい。
【0119】
図16は、横軸に流量Qを表し、縦軸に長さL2を表した場合における、式(2)及び式(5)を満たす領域を示すグラフである。図16において、曲線CLN1は、Re=4000を表し、直線LN3は、V=aを表す。このとき、曲線CLN1より右側の領域が式(2)を満たす領域であり、乱流となる範囲である。また、直線LN3より左側の領域が式(5)を満たす領域であり、音速未満の範囲である。従って、曲線CLN1と直線LN3とに挟まれた、ハッチングを付した領域S2が、式(2)及び式(5)を満たす領域である。
【0120】
例えば、流量Qを10sccmとし、長さL2を10mmとする設定点PNT2は、領域S2に含まれる。従って、流量Qを10sccmとし、長さL2を10mmとすることによって、パージガス供給流路52aに排気ガスが逆流しないような形状及び流量の条件を満たすことができる。
【0121】
第1の排気流路56のパージガス供給部50aが接続されている部分には、ヒーター71が設けられていてもよい。ヒーター71は、制御部80により、第1の排気流路56のパージガス供給部50aが接続されている部分を、生成物が析出する反応が生ずる温度範囲よりも高い温度に加熱する。これにより、第1の排気流路56のパージガス供給部50aが接続されている部分の内部に、PMDAガス及びODAガスのいずれか1種以上を含む生成物が析出して付着し、内部が狭窄することを防止できる。
【0122】
本実施の形態でも、プリトラップ部が設けられていないため、プリトラップ部の分だけ設置面積を削減できる。また、圧力計51aは、第1の排気流路56に直接設けられておらず、第1の排気流路56に合流するパージガス供給流路52aの途中に設けられている。そのため、圧力計51aに耐熱性は要求されず、かつ、設置面積を増大させない成膜装置を提供することができる。
【0123】
また、本実施の形態でも、プリトラップ部を設けていないものの、トラップ部30のガス導入部32とガス導出部33とをトラップ容器31の上面部35に設けることにより、メンテナンスの時間間隔を、プリトラップ部を設けた場合と略等しくすることができる。
【0124】
以上、本発明の好ましい実施の形態について記述したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0125】
なお、上述した実施の形態では、成膜容器に芳香族酸二無水物よりなる第1の原料を気化した第1の原料ガスと、芳香族ジアミンよりなる第2の原料を気化した第2の原料ガスとを、供給することによって、ウェハに膜を成膜する成膜装置について説明した。しかし、第1の原料は、芳香族酸二無水物に限定されず、第2の原料は、芳香族ジアミンに限定されない。
【0126】
また、上述した実施の形態では、成膜容器に第1の原料ガスと第2の原料ガスとを供給することによって、ウェハに膜を成膜する成膜装置について説明した。しかし、2種類の原料ガスを供給する場合に限定されない。従って、本発明は、1種類の原料ガスを供給することによって、ウェハに膜を成膜する成膜装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0127】
10、10a 成膜装置
11 チャンバー
20 供給機構
21 第1の原料ガス供給部(第1の気化器)
22 第2の原料ガス供給部(第2の気化器)
25 真空ポンプ
30 トラップ部
50 パージガス供給部
51 圧力計
52 パージガス供給流路
55 排気流路
60 第1の開閉バルブ
80 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜容器内に保持されている基板に原料ガスを供給することによって、前記基板に膜を成膜する成膜装置において、
前記成膜容器に前記原料ガスを供給する供給機構と、
前記成膜容器からガスを排気する排気機構と、
前記成膜容器から前記排気機構にガスが流れる排気流路の途中に設けられており、前記原料ガスを含む生成物を析出させることによって、前記原料ガスを捕捉するトラップ部と、
前記成膜容器と前記トラップ部との間で前記排気流路に合流するように接続されており、前記排気流路にパージガスを供給するパージガス供給部と、
前記パージガス供給部から前記排気流路にパージガスが流れるパージガス供給流路の途中に設けられた圧力計と
を有する、成膜装置。
【請求項2】
前記排気流路の途中に、前記成膜容器と前記トラップ部とを連通又は遮断するように設けられた開閉弁部を有し、
前記パージガス供給部は、前記開閉弁部を介して前記排気流路に合流するように接続されている、請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記トラップ部は、
トラップ容器と、
前記トラップ容器にガスを導入するガス導入部と、
前記トラップ容器からガスを導出するガス導出部と、
前記トラップ容器の内部であって、前記ガス導入部からガスが導入される高さ位置よりも上方の高さ位置に略水平に設けられており、導入されたガスを冷却して前記生成物を析出させることによって、前記原料ガスを捕捉するトラップ板と
を有するものである、請求項1又は請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記排気流路の前記パージガス供給部が接続されている部分を、前記生成物が析出する反応が生ずる温度範囲よりも高い温度に加熱する加熱機構を有する、請求項1から請求項3のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項5】
前記パージガス供給流路を流れるパージガスのレイノルズ数が4000を超えるとともに、前記パージガス供給流路を流れるパージガスのマッハ数が1未満である、請求項1から請求項4のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項6】
前記原料ガスは、芳香族酸二無水物及び芳香族ジアミンを含むものである、請求項1から請求項5のいずれかに記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−160614(P2012−160614A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19982(P2011−19982)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】