説明

成膜装置

【課題】パーティクルの発生を抑制して成膜される膜の品質を安定させる。
【解決手段】筐体150と、筐体150の内部に成膜材料160を微粒子化して噴霧する噴霧口130aを有する噴霧機構と、噴霧口130aと間隙133を介して対向する流入口132a、および流入口132aとは反対側に位置する流出口132bを有する整流部材132とを備える。整流部材132の流入口132aと流出口132bとの間の空間と、筺体150の内部とは間隙133により連通している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置に関し、特に、微粒子化した成膜材料を堆積させて成膜する成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体、ディスプレイおよび太陽電池などの分野で、透明導電膜が広く利用されている。透明導電膜としては、STO(チタン酸ストロンチウム)およびITO(Snドープ酸化インジウム)などの金属酸化物からなるものが主流である。透明導電膜は、一般的に、スパッタリング法、蒸着法、および、有機金属化合物を用いた有機金属化学気相成長法などを用いて成膜される。
【0003】
スパッタリング法および蒸着法においては、真空プロセスで成膜するため、真空容器などの真空雰囲気を形成して維持する設備が必要となる。有機金属化学気相成長法においては、原料として用いる有機金属化合物が爆発性および毒性を有するため、機密性の高い設備が必要となる。このため、上記の成膜方法を行なうためには、高価な成膜装置が必要となる。
【0004】
そこで、従来とは異なる成膜方法としてミスト法が提案されている。ミスト法は、原料金属を溶質として含む溶媒を霧化して基板上に噴霧することによって成膜する方法である。
【0005】
ミスト法においては、大気圧で成膜することができるため、真空容器およびポンプ類などの製造設備が不要である。また、ミスト法においては有機金属化合物のような危険物質を用いないため、簡易な構成で安価な成膜装置を使用することができる。
【0006】
未気化残渣を低減できる気化器を開示した先行文献として、特開2002−105646号公報(特許文献1)がある。特許文献1に記載された気化器においては、液体材料が流れる内側配管と霧化用ガスが流れる外側配管とで構成される2重管の先端にオリフィス部材を設けている。そのオリフィス部材と内側配管との間隙から霧化用ガスを噴出させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−105646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
気化された液体材料を含むノズルから噴霧されたミストが、ノズルの先端に付着すると液体材料が固化してパーティクルが発生する。そのパーティクルが基板上に付着すると、成膜される膜の品質が低下する。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、パーティクルの発生を抑制して成膜される膜の品質を安定させることができる成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に基づく成膜装置は、成膜材料を基板上に堆積させて成膜する成膜装置である。成膜装置は、筐体と、筐体の内部に成膜材料を微粒子化して噴霧する噴霧口を有する噴霧機構と、噴霧口と間隙を介して対向する流入口、およびこの流入口とは反対側に位置する流出口を有する整流部材とを備える。整流部材の流入口と流出口との間の空間と、筐体の内部とは間隙により連通している。
【0011】
本発明の一形態においては、噴霧機構の噴霧口が配置されている面と、整流部材の流入口側の端面とは、互いに略平行に位置する。
【0012】
本発明の一形態においては、間隙の周囲から流入口に向けて送風する送風機構をさらに備える。
【0013】
本発明の一形態においては、噴霧機構がスプレーノズルからなる。
本発明の一形態においては、噴霧機構は、成膜材料を圧縮空気により微粒子化して噴霧する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、パーティクルの発生を抑制して成膜される膜の品質を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る成膜装置の構成を示す側面図である。
【図2】同実施形態に係る成膜装置に含まれる成膜室の構成を示す断面図である。
【図3】図2の成膜室を矢印III方向から見た図である。
【図4】同実施形態に係る成膜装置に用いたスプレーノズルの噴霧領域の外形を示す模式図である。
【図5】同実施形態に係るスプレーノズルの噴霧領域の長手方向における相対噴付強度を示すグラフである。
【図6】同実施形態に係るスプレーノズルの噴霧領域の短手方向における相対噴付強度を示すグラフである。
【図7】第1比較例として、ピッチを100mmとして11ヶのスプレーノズルを各々の噴霧領域の長手方向が一列になるように配置した場合の噴霧領域の長手方向における比較噴付強度を示すグラフである。
【図8】第2比較例として、ピッチを120mmとして9ヶのスプレーノズルを各々の噴霧領域の長手方向が一列になるように配置した場合の噴霧領域の長手方向における比較噴付強度を示すグラフである。
【図9】第3比較例として、ピッチを150mmとして8ヶのスプレーノズルを各々の噴霧領域の長手方向が一列になるように配置した場合の噴霧領域の長手方向における比較噴付強度を示すグラフである。
【図10】第4比較例として、整流部材の流入口とスプレーノズルの噴霧口との間に間隙を設けていない場合におけるミストの噴き付け状態を模式的に示す図である。
【図11】同実施形態のように、整流部材の流入口とスプレーノズルの噴霧口との間に間隙を設けた場合におけるミストの噴き付け状態を模式的に示す図である。
【図12】整流部材の流入口とスプレーノズルの噴霧口との間に間隙を設けていない場合において、一列に配置された噴霧領域の長手方向におけるミストの到達量の分布を示すグラフである。
【図13】整流部材の流入口とスプレーノズルの噴霧口との間に間隙を設けている場合において、一列に配置された噴霧領域の長手方向におけるミストの到達量の分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る成膜装置について説明する。以下の実施形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。本実施形態においては、薄膜太陽電池などに用いられる透明導電膜の成膜を例に説明するが、本発明は様々な膜の成膜に応用可能である。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る成膜装置の構成を示す側面図である。図2は、本実施形態に係る成膜装置に含まれる成膜室の構成を示す断面図である。図3は、図2の成膜室を矢印III方向から見た図である。なお、図3においては、噴霧機構を簡略に図示している。
【0018】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る成膜装置10は、基板200が投入される投入部11と、基板200が予熱される予熱部12と、基板200が成膜処理される成膜部13と、基板200が冷却される徐冷部14と、基板200が取り出される取出し部15とを有している。
【0019】
図1から3に示すように、成膜装置10は、基板200を搬送経路に沿って搬送する搬送手段である搬送コンベア110を備える。搬送コンベア110は、投入部11、予熱部12、成膜部13、徐冷部14および取出し部15に亘って設けられている。
【0020】
搬送コンベア110は、基板200が載置される搬送ベルト111と、搬送ベルト111が巻き掛けられたプーリ112と、プーリ112を駆動させる駆動軸113と、駆動軸113に動力を付与する図示しないモータとから構成されている。搬送ベルト111は、耐熱性を有する金属または樹脂から形成されている。
【0021】
基板200は、搬送コンベア110により矢印114で示す方向に搬送される。すなわち、本実施形態に係る成膜装置10においては、基板200の搬送経路は平面視において直線状である。ただし、搬送経路は直線状に限られず、搬送経路が平面視において屈曲していてもよいし、曲線状であってもよい。
【0022】
また、成膜装置10は、搬送経路中に並ぶように位置する複数の成膜室100(100a,100b,100c,100d)を備える。具体的には、基板200の搬送方向の上流側から順に、成膜室100a、成膜室100b、成膜室100c、成膜室100dが設けられている。本実施形態においては、4つの成膜室100(100a,100b,100c,100d)が設けられているが、1つ以上の成膜室100が設けられていればよい。
【0023】
さらに、成膜装置10は、複数の成膜室100のうち隣接する成膜室同士を繋ぐように搬送経路に沿ってトンネル状に位置し、複数の成膜室100を順次通過する基板200を取り囲んで加熱する加熱炉120を備える。図3に示すように、筐体150の下部が、加熱炉120に覆われている。
【0024】
トンネル状の加熱炉120の上部に開口が設けられ、その開口内に筐体150が組み込まれている。加熱炉120は、4つの成膜室100(100a,100b,100c,100d)に亘って設けられている。加熱炉120は、基板200を予熱するために、基板200の搬送方向の上流側に位置する成膜室100aより上流側から設けられている。すなわち、加熱炉120は、予熱部12および成膜部13に亘って設けられている。
【0025】
基板200は、搬送コンベア110により加熱炉120内を搬送されつつ加熱される。基板200に成膜する際には、加熱炉120内は、ほぼ同一の温度、たとえば550℃に維持されている。なお、成膜室100が1つ設けられている場合は、搬送手段の代わりに成膜室100の下方に載置台が設けられ、基板200は載置台上に載置された状態で加熱されてもよい。
【0026】
本実施形態に係る成膜室100においては、微粒子化した成膜材料160を基板200上に堆積させて成膜する。図2に示すように、成膜室100には、筐体150と、筐体150の内部に成膜材料160を微粒子化したミストを噴霧する噴霧機構とが設けられている。
【0027】
筐体150は、側壁の1つに、ミストを排気するための排気口152を有している。図1に示すように、排気口152には、接続管310の一端が接続されている。接続管310の他端は、排気されたミストを無害化処理するガス処理手段である除害装置300に、接続管310を開閉するバルブ320を介して接続されている。
【0028】
図1,2に示すように、筐体150は、キャリアガス170が導入される導入口151を有している。導入口151には、送風管340の一端が接続されている。送風管340の他端は、送風管340を開閉するバルブ350を介して送風機330に接続されている。
【0029】
また、筐体150は、筐体150内を3つの空間に分割する仕切壁154を有している。第1の空間は、噴霧機構が配置される噴霧機構配置空間158である。第2の空間は、噴霧機構からミストが噴霧されるミスト噴霧空間159である。第3の空間は、排気口152と繋がっている排気空間153である。
【0030】
筐体150は、ミスト噴霧空間159からミストを基板200上に流動可能とする、基板200と対向する開放部を有している。開放部は、筐体150の下部に形成されている。図1,3に示すように、開放部は、加熱炉120内に位置している。搬送コンベア110により搬送されている基板200と筐体150の開放部との間には、所定の間隙が設けられている。
【0031】
噴霧機構は、成膜材料160を圧縮空気により微粒子化して噴霧するスプレーノズル130からなる。複数の噴霧機構は、噴霧口を各々有する。具体的には、図示しないコンプレッサーからの圧縮空気により、タンク140に貯溜されている成膜材料160の溶液を加圧して通路141を通過させ、スプレーノズル130の噴霧口130aから微粒子化したミストを噴霧する。筐体150には、スプレーノズル130の位置に対応して開口155が形成されている。
【0032】
スプレーノズル130の噴霧口130a側の端部に、スプレーノズル130を冷却する冷却ジャケット131が取り付けられている。冷却ジャケット131は図示しない冷却水供給管と接続され、冷却ジャケット131の内部では冷却水が循環している。
【0033】
また、成膜室100には、噴霧口130aと所定の間隔の間隙133を開けて対向する流入口132a、内側面に位置してミストを整流する整流部134、および、流入口132aとは反対側に位置する流出口132bを有する筒状の整流部材132が設けられている。本実施形態においては、整流部材132は、流入口132a側から流出口132b側に広がるテーパ状の整流部134を有している。ただし、整流部134の形状はこれに限られず、たとえば、流入口132a側から流出口132b側に広がるラッパ状の形状を有していてもよい。
【0034】
整流部材132は、整流部材132の外側面の一部に接続された図示しない接続部材が冷却ジャケット131の外側面の一部に接続されることにより、冷却ジャケット131に取り付けられている。接続部材により、噴霧口130aと流入口132aとの間の間隙133が維持されている。
【0035】
整流部134で囲まれた整流部材132の内部と筐体150の内部とは、噴霧口130aと流入口132aとの間の間隙133を介して連通している。すなわち、整流部材132の流入口132aと流出口132bとの間の空間と、筐体150の内部とは間隙133により連通している。そのため、筐体150の内部の気体は、間隙133を通過して流入口132aから整流部材132の内部に流入可能である。
【0036】
スプレーノズル130の噴霧口130aが配置されている面と、整流部材132の流入口132a側の端面とは、互いに略平行に位置している。また、冷却ジャケット131の噴霧口130a側の端部と、整流部材132の流入口132a側の端部とは、互いに略平行に対向している。ただし、冷却ジャケット131の噴霧口130a側の端部と、整流部材132の流入口132a側の端部とは、噴霧口130aから離れるに従って互いの間の間隔が広がるように対向していてもよい。
【0037】
スプレーノズル130は、成膜材料160の溶液と圧縮空気との2流体を混合したミストを噴霧する2流体スプレーノズルである。ここで、ミストとは、平均粒子経が0.1μm以上100μm以下の液滴が気体中に分散された状態のものをいう。ミストの平均粒子径は、液浸法によって算出された値とする。
【0038】
ただし、噴霧機構はスプレーノズル130に限られず、超音波を用いてミストを発生させるものでもよい。超音波振動子によってミストを発生させる場合、スプレーノズル130によりミストを発生させる場合に比べて、ミストの平均粒子径を均一にできるため、発生させたミスト同士が基板200に到達する前に凝集することを抑制できる。
【0039】
図3に示すように、複数のスプレーノズル130は、筐体150内において、基板200と対向して互いに間隔を置いて基板200の搬送方向と直交する方向に並んでいる。図3においては、ピッチLpで3つのスプレーノズル130を配置しているが、スプレーノズル130の数は3つに限られず1つ以上であればよい。
【0040】
設けられるスプレーノズル130の数は、基板200の成膜処理の所望のタクトタイムを満たすために必要な単位時間当たりのミストの噴霧量、または、成膜処理を行なううえで必要な成膜速度に応じて適宜変更される。
【0041】
スプレーノズル130の噴霧口130aと基板200の上面との間の距離Lhに対して加熱炉120の上端と基板200との間の距離はLh/4に設定されている。
【0042】
なお、後述する導入口151から導入されるキャリアガス170の一部は、スプレーノズル130を冷却するためにスプレーノズル130に対して送られる。スプレーノズル130にキャリアガス170を送るために、スプレーノズル130の近傍に図示しない冷却ファンが配置されている。スプレーノズル130は、冷却ファンにより空冷される。さらに、スプレーノズル130は上述の冷却ジャケット131により水冷される。
【0043】
このように、スプレーノズル130の噴霧口130aの近傍を冷却することにより、スプレーノズル130から噴き付けられる前の成膜材料160の溶液が沸点以下の温度まで冷却される。より好ましくは、成膜材料160の溶液が室温程度まで冷却される。
【0044】
この冷却により、成膜材料160の溶液中の溶媒がスプレーノズル130内において揮発することを抑制できるため、噴き付けられる成膜材料160の溶液の濃度を一定に保つことができる。また、スプレーノズル130内において成膜材料160の溶液中の溶媒が揮発することによる成膜材料160の固化を抑制できる。
【0045】
その結果、一定の濃度の成膜材料160を用いて成膜できるため、基板200上に成膜される膜の品質を安定させることができる。また、固化した成膜材料160によるスプレーノズル130の目詰まりを抑制することができる。
【0046】
成膜材料160の溶液としては、亜鉛、スズ、インジウム、カドミウムおよびストロンチウムからなる群より選択される無機材料の塩化物を、溶媒に溶解させた溶液を用いることができる。溶媒としては、水、メタノール、エタノールおよびブタノールなどを用いることができる。このような成膜材料160の溶液としては、たとえば、酢酸亜鉛を含む水溶液、酸化インジウム錫を含む水溶液および酸化錫を含む水溶液などを用いることができる。
【0047】
ただし、成膜材料160の溶液としてはこれに限られず、種々の溶液を用いることができる。成膜材料160の溶液の濃度は特に限定されないが、たとえば、0.1mol/L以上3mol/L以下の濃度である。
【0048】
ここで、筐体150内におけるガスの流動経路について説明する。まず、バルブ350が開かれて送風機330から送風された、たとえば圧縮空気からなるキャリアガス170が導入口151から筐体150のミスト噴霧空間159内に導入される。ミスト噴霧空間159内に導入されたキャリアガス170は、矢印171で示す向きに流動する。キャリアガス170としては、たとえば、窒素、酸素、水素およびこれらの混合ガスを用いることができる。空気以外のキャリアガス170を用いる場合には、送風機330にキャリアガス供給ボンベが併設されている。
【0049】
スプレーノズル130からミストが、矢印161で示す向きに噴霧領域162中に噴霧される。ミストとキャリアガス170とは、混合領域181において互いに混合されてミストとなる。ミストは、矢印182で示す向きに流動して開放部に到達する。ミストは、開放部から基板200の主面上に噴き付けられる。ミストが基板200上に噴き付けられる領域を、噴き付け領域Xと称する。
【0050】
噴き付け領域Xに到達したミストは、基板200の主面に沿って流動する。具体的には、仕切壁154の一部であって基板200の主面と対向している対向面と、基板200の主面との間を矢印183で示す向きにミストが流動する。ミストが矢印183で示す向きに流動する領域を、流路領域Yと称する。
【0051】
流路領域Yを通過したミストは、排気空間153内を矢印184で示す向きに流動する。このようにミストが基板の主面上から排気口152に向かう領域を、排気領域Zと称する。排気空間153内を通過して排気口152に到達したミストは、除害装置300により無害化されて排気ガス180として外部に放出される。このとき、図1に示すバルブ320が開かれている。なお、図2においては、除害装置300を図示していない。
【0052】
上記の噴き付け領域Xと流路領域Yと排気領域Zとから開放部が構成されている。ミストは、複数の成膜室100(100a,100b,100c,100d)の各々において、噴霧機構から開放部を通過して排気口152に向けて流動する。
【0053】
なお、排気口152においては、導入口151から導入されるキャリアガス170の3倍〜10倍程度大きな流量でミストを排気している。ただし、導入されるキャリアガス170の流量およびミストの排気流量は適宜設定される。
【0054】
図1に示すように、成膜室100aにおいて、矢印400で示すようにミストが流動する。成膜室100bにおいて、矢印410で示すようにミストが流動する。成膜室100cにおいて、矢印420で示すようにミストが流動する。成膜室100dにおいて、矢印430で示すようにミストが流動する。
【0055】
上記のようにミストが流動している状態で、開放部の近傍を基板200が通過することにより、基板200が成膜処理される。本実施形態の成膜装置10においては、開放部の近傍を基板200が通過するように搬送コンベア110が設けられている。
【0056】
基板200は、搬送コンベア110により、複数の成膜室100(100a,100b
,100c,100d)の各々において、噴き付け領域X、流路領域Yおよび排気領域Z
を順に通過するように搬送される。基板200は、噴き付け領域X、流路領域Yおよび排気領域Zを通過する間に、主面上に成膜材料160の微粒子が堆積することにより成膜される。
【0057】
たとえば、基板200には、アルカリバリア層としてSiO2膜、および、透明導電膜
としてTCO(Transparent Conductive Oxide)などの複数の膜が形成される。なお、アル
カリバリア層は、基板200に含まれるアルカリ分による太陽電池の性能低下を防止するためのものである。そのため、基板200がアルカリ分を多く含まない材質からなる場合、アルカリバリア層を形成しなくてもよい。
【0058】
このように基板200上に異なる種類の膜を形成する場合は、複数の成膜室100(1
00a,100b,100c,100d)において、種々の成膜材料からなるミストが用いられる。たとえば、成膜室100aにおいてSiO2を成膜材料160とするミストを用い、成膜室100bにおいてSnO2を成膜材料160とするミストを用いる。
【0059】
SnO2からなる透明導電膜を形成する場合には、加熱炉120内の温度は、450℃以上600℃以下であることが好ましく、520℃以上580℃以下であることがより好ましい。
【0060】
加熱炉120内の温度が450℃未満である場合、基板200上に付着したミストの乾燥時間が長くなることにより成膜レートが著しく低下する。一方、加熱炉120内の温度が600℃より高い場合、ミストの一部において基板200上に到達する前にミストに含まれる溶媒が揮発して成膜性能を失うことにより、基板200上に到達するミストの量が低下して成膜レートが著しく低下する。
【0061】
また、スプレーノズル130の噴霧圧力、キャリアガス170の流量および排気流量を適切に設定することにより、ミストを安定して基板200の上面に到達させることができる。
【0062】
上記の構成により発生したミストにより基板200上に均一な膜を形成するためには、ミストを基板200上の全体に到達させる必要がある。ここで、スプレーノズル130の噴霧領域について説明する。
【0063】
図4は、本実施形態に係る成膜装置に用いたスプレーノズルの噴霧領域の外形を示す模式図である。図4に示すように、スプレーノズル130の噴霧領域162は、スプレーノズル130の噴霧口から距離Lh離れた地点において、楕円形状の外形を有している。
【0064】
具体的には、長径の長さがLW、短径の長さがLTである楕円形状を有している。すなわち、噴霧領域162は、長径に平行な長手方向と、短径に平行な短手方向とを有している。図4中の0点は、長径と短径との交点であって、スプレーノズル130の中心の鉛直方向における直下の位置である。
【0065】
図5は、本実施形態に係るスプレーノズルの噴霧領域の長手方向における相対噴付強度を示すグラフである。図6は、本実施形態に係るスプレーノズルの噴霧領域の短手方向における相対噴付強度を示すグラフである。
【0066】
図5においては、縦軸に相対噴付強度(%)、横軸に噴霧領域の長手方向における0点からの位置(mm)を示している。図6においては、縦軸に相対噴付強度(%)、横軸に噴霧領域の短手方向における0点からの位置(mm)を示している。
【0067】
図5に示すように、Lh=300mmの地点においては、スプレーノズル130の噴霧領域162の長手方向における相対噴付強度は、0点から離れるに従って上昇して100%になった後、さらに0点から離れるに従って下降して0%になっている。
【0068】
図6に示すように、Lh=300mmの地点においては、スプレーノズル130の噴霧領域162の短手方向における相対噴付強度は、0点において100%であり、0点から離れるに従って下降して0%になっている。
【0069】
このように、噴霧領域162内において、スプレーノズル130の中心の直下より端部の方がミストの噴付強度が弱くなる。この傾向は、複数のスプレーノズル130を設けた場合にも同様である。
【0070】
図7は、第1比較例として、ピッチを100mmとして11ヶのスプレーノズルを各々の噴霧領域の長手方向が一列になるように配置した場合の噴霧領域の長手方向における比較噴付強度を示すグラフである。図8は、第2比較例として、ピッチを120mmとして9ヶのスプレーノズルを各々の噴霧領域の長手方向が一列になるように配置した場合の噴霧領域の長手方向における比較噴付強度を示すグラフである。図9は、第3比較例として、ピッチを150mmとして8ヶのスプレーノズルを各々の噴霧領域の長手方向が一列になるように配置した場合の噴霧領域の長手方向における比較噴付強度を示すグラフである。
【0071】
図7〜9においては、縦軸に比較噴付強度(%)、横軸に、一列に配置された噴霧領域の長手方向における0点からの位置(mm)を示している。なお、比較噴付強度(%)は、上記の1ヶのスプレーノズルの相対噴付強度の最大値を100%として、複数のスプレーノズルを各ピッチで配置したときの噴付強度を示している。
【0072】
図7〜9に示すように、Lh=300mmの地点においては、ピッチを120mmとしてスプレーノズルを配置した場合に、噴霧領域の長手方向における比較噴付強度が比較的均一になっていた。
【0073】
上記のようにスプレーノズル130を配置して基板200上へのミストの噴き付け強度を均一にすることにより、基板200上に均一な膜厚の膜を成膜することができる。ただし、均一な膜厚の膜を成膜できたとしても、成膜された膜にパーティクルが含まれている場合には膜の品質が低下する。
【0074】
そこで本実施形態に係る成膜装置10においては、整流部材132が設けられている。整流部材132の流入口132aとスプレーノズル130の噴霧口130aとの間には所定の間隔の間隙133が設けられている。
【0075】
図10は、第4比較例として、整流部材の流入口とスプレーノズルの噴霧口との間に間隙を設けていない場合におけるミストの噴き付け状態を模式的に示す図である。図11は、本実施形態のように、整流部材の流入口とスプレーノズルの噴霧口との間に間隙を設けた場合におけるミストの噴き付け状態を模式的に示す図である。
【0076】
第4比較例においては、図10に示すように、整流部材132の流入口132aとスプレーノズル130の噴霧口130aとの間に間隙を設けないように、流入口132a側の整流部材132の端部と噴霧口130a側の冷却ジャケット131の端部とを接触させて配置している。
【0077】
この場合、噴霧口130aからミストが噴霧されると、整流部材132の内部における流入口132aの近傍において負圧が発生する。具体的には、矢印161aで示す向きに噴霧口130aから整流部材132の内部の中央部分を通過するように噴き付けられるミストの流れによって、流入口132a側の整流部134の近傍に存在していた気体がその流れに引かれて流出口132b側に移動する。その結果、流入口132a側の整流部134の近傍において負圧部135が発生する。
【0078】
すると、噴霧口130aから噴霧されたミストの一部は、矢印161bで示すように負圧部135に引き寄せられて整流部134上に付着する。整流部134上に付着したミストの一部は固化してパーティクルとなる。このパーティクルが基板200上に落下して付着すると、基板200上に形成される膜の質が低下する。
【0079】
図11に示すように、本実施形態においては、整流部材132の流入口132aとスプレーノズル130の噴霧口130aとの間に所定の間隔の間隙133を設けている。この間隙133を介して、整流部134で囲まれた整流部材132の内部と筐体150の内部とが連通している。
【0080】
この場合、噴霧口130aからミストが噴霧されると、矢印172で示すように、間隙133の周囲から流入口132aに向けて筐体150内の気体が引き寄せられる。その気体は、矢印173で示すように、流入口132a内に流入する。
【0081】
具体的には、矢印161で示す向きに噴霧口130aから整流部材132の内部の中央部分を通過するように噴き付けられるミストの流れによって、流入口132a側の整流部134の近傍に存在していた気体がその流れに引かれて流出口132b側に移動する。その気体が移動した部分に間隙133に存在する気体が、矢印173で示すように流入口132aを通過して流入する。間隙133には、矢印172で示すように間隙133の周囲から筐体150内の気体が移動してくる。
【0082】
このように筐体150内の気体が流動する結果、比較例のように負圧部135が発生しないため、噴霧口130aから噴霧されたミストは矢印161で示すように整流部材132の内部の中央部分を整流部134に沿って流動する。よって、ミストが整流部134に付着してパーティクルが発生することを抑制できる。
【0083】
なお、本実施形態においては、噴霧機構の噴霧口130aが配置されている面と、整流部材132の流入口132a側の端面とは、互いに略平行に位置している。そのため、流入口132aに向かって間隙133を流れる気体の流路面積が一定になり、間隙133を流動する気体の流速を略一定にすることができる。その結果、流入口132aから整流部材132の内部に流入する筐体150内の気体の流れが乱れることを抑制して、噴霧口130aから噴霧されたミストを整流部134に沿って所定の噴霧領域162に噴霧することができる。
【0084】
本実施形態においては、噴霧口130aから噴霧されるミストの流れによって、筐体150内の気体を間隙133の周囲から間隙133に移動させるようにしたが、成膜装置10は、間隙133の周囲から流入口132aに向けて送風する送風機構をさらに備えてもよい。
【0085】
送風機構を備える場合、噴霧口130aから噴霧されたミストの流れを阻害しない程度の風圧で、間隙133の周囲の全周から一様に流入口132aに向けて送風機構により送風する。送風機構としては、ファンまたはエアーノズルなどを用いることができる。
【0086】
送風機構により送風した場合、流入口132aから整流部材132の内部に流入する筐体150内の気体の流量を多くすることができ、噴霧口130aから噴霧されたミストの指向性を高めることができる。
【0087】
間隙133を設けた場合の効果を確認するために、搬送方向において1.4mの長さを有し、搬送方向と直交する方向において1mの幅を有する基板200に対して成膜装置10を用いて成膜した。
【0088】
成膜材料160の溶液として、0.9mol/LのSnCl4・5H2Oと、0.3mol/LのNH4Fと、30体積%のHClと、2.5体積%のメタノールとを含む水溶液を用いた。この水溶液の沸点は、約70℃程度であった。
【0089】
ピッチLpを120mmとして10ヶのスプレーノズル130を各々の噴霧領域162の長手方向が一列になるように配置して、開放部の幅を1200mmとした。
【0090】
図12は、整流部材の流入口とスプレーノズルの噴霧口との間に間隙を設けていない場合において、一列に配置された噴霧領域の長手方向におけるミストの到達量の分布を示すグラフである。図13は、整流部材の流入口とスプレーノズルの噴霧口との間に間隙を設けている場合において、一列に配置された噴霧領域の長手方向におけるミストの到達量の分布を示すグラフである。図12,13においては、縦軸に基板200上へのミストの到達量(a.u.)、横軸に、1列に配置された噴霧領域の長手方向における中心からの位置(mm)を示している。
【0091】
図12に示すように、間隙133を設けていない場合には、噴霧されたミストが負圧部135に引き寄せられることによりスプレーノズルの指向性が失われて、噴霧領域162内におけるミストの流れが乱れていることが分かる。
【0092】
図13に示すように、間隙133を設けた場合には、負圧部135に外部からガスが流れ込んで噴霧領域162内におけるミストの流れが整流化されることにより、スプレーノズルの位置に対応する山谷が明確に表れている。さらに、この山谷がオーバーラップするように成膜を行なうことにより、膜厚の均一性を向上することができる。
【0093】
この結果から、間隙133を設けていない場合には、噴霧口130aから噴霧されたミストの指向性が低くなり隣接する噴霧領域162の境界が不明瞭になるとともに、ミストの一部が基板200以外に付着していると考えられる。すなわち、整流部材132の流入口132aと流出口132bとの間の空間でのミストの流れを制御できていない状態となっていることを示している。
【0094】
一方、間隙133を設けている場合には、噴霧口130aから噴霧されたミストの指向性が高くなり隣接する噴霧領域162の境界が明瞭になるとともに、基板200まで到達するミストの量が多くなったと考えられる。すなわち、噴き付け部内部の制御性が上がった事を示している。さらには、隣接する噴霧領域162の境界が明瞭になりすぎると、基板200上に均一な膜厚の膜を形成するうえで好ましくないため、間隙133の所定の間隔を適宜変更することにより、噴霧口130aから噴霧されたミストの指向性を調節することが好ましい。
【0095】
また、上記の条件においてスプレーノズル130からミストを120秒間噴き付けた後の整流部134に付着したミストの液滴を目視で観察したところ、間隙133を設けなかった方が明らかに間隙133を設けた方より多くの液滴が付着していた。
【0096】
上記の結果から、整流部材132とスプレーノズル130との間に間隙133を設けることにより、ミストを所望の噴霧領域162中に噴霧させることができるため、パーティクルの発生を抑制して成膜される膜の品質を安定させることができることが確認された。
【0097】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0098】
10 成膜装置、11 投入部、12 予熱部、13 成膜部、14 徐冷部、15 取出し部、100,100a,100b,100c,100d 成膜室、110 搬送コンベア、111 搬送ベルト、112 プーリ、113 駆動軸、120 加熱炉、130 スプレーノズル、130a 噴霧口、131 冷却ジャケット、132 整流部材、132a 流入口、132b 流出口、133 間隙、134 整流部、135 負圧部、140 タンク、141 通路、150 筐体、151 導入口、152 排気口、153 排気空間、154 仕切壁、155 開口、158 噴霧機構配置空間、159 ミスト噴霧空間、160 成膜材料、162 噴霧領域、170 キャリアガス、180 排気ガス、181 混合領域、200 基板、300 除害装置、310 接続管、320,350 バルブ、330 送風機、340 送風管、X 噴き付け領域、Y 流路領域、Z 排気領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜材料を基板上に堆積させて成膜する成膜装置であって、
筐体と、
前記筐体の内部に前記成膜材料を微粒子化して噴霧する噴霧口を有する噴霧機構と、
前記噴霧口と間隙を介して対向する流入口、および該流入口とは反対側に位置する流出口を有する整流部材と
を備え、
前記整流部材の前記流入口と前記流出口との間の空間と、前記筐体の内部とは前記間隙により連通している、成膜装置。
【請求項2】
前記噴霧機構の前記噴霧口が配置されている面と、前記整流部材の前記流入口側の端面とは、互いに略平行に位置する、請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記間隙の周囲から前記流入口に向けて送風する送風機構をさらに備える、請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記噴霧機構がスプレーノズルからなる、請求項1から3のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項5】
前記噴霧機構は、前記成膜材料を圧縮空気により微粒子化して噴霧する、請求項1から4のいずれかに記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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