説明

成膜装置

【課題】基板上に成膜される膜の膜厚の均一性を向上する。
【解決手段】成膜材料を微粒子化して噴霧する噴霧口131を各々有する複数の噴霧機構と、複数の噴霧機構から噴霧された成膜材料を基板上に分布を補正して到達させるための噴出口191を各々有する複数の送風機構とを備える。複数の噴霧機構は、各々の噴霧口131が基板と対向し、かつ、平面視において基板の搬送方向と交差する方向に互いに間隔を置くように配置されている。複数の送風機構は、各々の噴出口131が複数の噴霧機構のうちの少なくとも1つの噴霧機構の噴霧口131の周囲に位置するように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置に関し、特に、微粒子化した成膜材料を堆積させて成膜する成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体、ディスプレイおよび太陽電池などの分野で、透明導電膜が広く利用されている。透明導電膜としては、STO(チタン酸ストロンチウム)およびITO(Snドープ酸化インジウム)などの金属酸化物からなるものが主流である。透明導電膜は、一般的に、スパッタリング法、蒸着法、および、有機金属化合物を用いた有機金属化学気相成長法などを用いて成膜される。
【0003】
スパッタリング法および蒸着法においては、真空プロセスで成膜するため、真空容器などの真空雰囲気を形成して維持する設備が必要となる。有機金属化学気相成長法においては、原料として用いる有機金属化合物が爆発性および毒性を有するため、機密性の高い設備が必要となる。このため、上記の成膜方法を行なうためには、高価な成膜装置が必要となる。
【0004】
そこで、従来とは異なる成膜方法としてミスト法が提案されている。ミスト法は、原料金属を溶質として含む溶媒を霧化して基板上に噴霧することによって成膜する方法である。
【0005】
ミスト法においては、大気圧で成膜することができるため、真空容器およびポンプ類などの製造設備が不要である。また、ミスト法においては有機金属化合物のような危険物質を用いないため、簡易な構成で安価な成膜装置を使用することができる。
【0006】
複数のノズルを備える成膜装置を開示した先行文献として、特開2006−249490号公報(特許公報1)がある。特許公報1に記載された成膜装置においては、エアロゾルを噴射する噴射口を1箇所有するノズルを複数本備えている。各ノズルは互いに所定の隙間を介して配列されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−249490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ミスト法を用いて成膜する場合、基板の中央部と端部とにおいて付着するミストの量が不均一になりやすく、基板上に均一に成膜することが難しかった。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、基板上に成膜される膜の膜厚の均一性を向上できる成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に基づく成膜装置は、成膜材料を基板上に堆積させて成膜する成膜装置である。成膜装置は、成膜材料を微粒子化して噴霧する噴霧口を各々有する複数の噴霧機構と、複数の噴霧機構から噴霧された成膜材料を基板上に分布を補正して到達させるための噴出口を各々有する複数の送風機構とを備える。複数の噴霧機構は、各々の噴霧口が基板と対向し、かつ、平面視において基板の搬送方向と交差する方向に互いに間隔を置くように配置される。複数の送風機構は、各々の噴出口が複数の噴霧機構のうちの少なくとも1つの噴霧機構の噴霧口の周囲に位置するように配置される。
【0011】
本発明の一形態においては、複数の送風機構が周囲に配置される噴霧機構は、複数の噴霧機構において端に位置する。
【0012】
本発明の一形態においては、複数の噴霧機構のうちの端に位置する噴霧機構の周囲に配置される複数の送風機構は、複数の送風機構のうちの他の送風機構に比較して基板に与える風圧が高い。
【0013】
本発明の一形態においては、送風機構はエアーノズルからなる。
本発明の一形態においては、エアーノズルは圧縮空気を噴出する。
【0014】
本発明の一形態においては、噴霧機構はスプレーノズルからなる。
本発明の一形態においては、スプレーノズルは、成膜材料を圧縮空気により微粒子化して噴霧する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基板上に成膜される膜の膜厚の均一性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る成膜装置の構成を示す側面図である。
【図2】同実施形態に係る成膜装置に含まれる成膜室の構成を示す断面図である。
【図3】図2の成膜室を矢印III方向から見た図である。
【図4】同実施形態に係る成膜装置の噴霧機構および送風機構の構成を示す断面図である。
【図5】図4の噴霧機構および送風機構を矢印V方向から見た図である。
【図6】同実施形態に係る成膜装置に用いたスプレーノズルの噴霧領域の外形を示す模式図である。
【図7】同実施形態に係るスプレーノズルの噴霧領域の長手方向における相対噴付強度を示すグラフである。
【図8】同実施形態に係るスプレーノズルの噴霧領域の短手方向における相対噴付強度を示すグラフである。
【図9】第1比較例として、ピッチを100mmとして11ヶのスプレーノズルを各々の噴霧領域の長手方向が一列になるように配置した場合の噴霧領域の長手方向における比較噴付強度を示すグラフである。
【図10】第2比較例として、ピッチを120mmとして9ヶのスプレーノズルを各々の噴霧領域の長手方向が一列になるように配置した場合の噴霧領域の長手方向における比較噴付強度を示すグラフである。
【図11】第3比較例として、ピッチを150mmとして8ヶのスプレーノズルを各々の噴霧領域の長手方向が一列になるように配置した場合の噴霧領域の長手方向における比較噴付強度を示すグラフである。
【図12】一列に配置された噴霧領域の長手方向におけるミストの到達量の分布を示すグラフである。
【図13】搬送方向に直交する方向における基板のシート抵抗値の分布を示すグラフである。
【図14】基板の搬送方向に直交する方向における基板上の膜厚の分布を示すグラフである。
【図15】膜厚とシート抵抗値との関係を示すグラフである。
【図16】膜厚と光透過率との関係を示すグラフである。
【図17】膜厚とヘイズ率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、薄膜太陽電池などに用いられる透明導電膜の成膜に関して、膜厚が各種性能に与える影響について説明する。
【0018】
図15は、膜厚とシート抵抗値との関係を示すグラフである。図16は、膜厚と透過率との関係を示すグラフである。図17は、膜厚とヘイズ率との関係を示すグラフである。
【0019】
図15においては、縦軸にシート抵抗値(Ω/□)、横軸に膜厚(nm)を示している。図16においては、縦軸に光透過率(%)、横軸に膜厚(nm)を示している。図17においては、縦軸にヘイズ率(%)、横軸に膜厚(nm)を示している。
【0020】
なお、図15〜17においては、基板と透明導電膜との間にアルカリバリア層を設けた場合の実験データを「○」、その近似線を実線で、アルカリバリア層を設けていない場合の実験データを「×」、その近似線を点線で示している。また、図17における近似線は、各データの上限値および下限値の近似線を示している。
【0021】
図15に示すように、透明導電膜の膜厚が大きくなるに従ってシート抵抗値が小さくなっている。図16に示すように、透明導電膜の膜厚が大きくなるに従って光透過率が小さくなっている。図17に示すように、透明導電膜の膜厚が大きくなるに従ってヘイズ率が大きくなっている。シート抵抗値においては、透明導電膜の膜厚が同一であってもアルカリバリア層の有無により差が認められた。
【0022】
上記のように透明導電膜の膜厚は、薄膜太陽電池の性能に影響を及ぼす重要なファクターである。そのため、基板上に成膜される透明導電膜の膜厚は均一であることが望ましい。
【0023】
以下、本発明の一実施形態に係る成膜装置について説明する。以下の実施形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。本実施形態においては、薄膜太陽電池などに用いられる透明導電膜の成膜を例に説明するが、本発明は様々な膜の成膜に応用可能である。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係る成膜装置の構成を示す側面図である。図2は、本実施形態に係る成膜装置に含まれる成膜室の構成を示す断面図である。図3は、図2の成膜室を矢印III方向から見た図である。図4は、本実施形態に係る成膜装置の噴霧機構および送風機構の構成を示す断面図である。図5は、図4の噴霧機構および送風機構を矢印V方向から見た図である。
【0025】
図1に示すように、本発明の実施形態1に係る成膜装置10は、基板200が投入される投入部11と、基板200が予熱される予熱部12と、基板200が成膜処理される成膜部13と、基板200が冷却される徐冷部14と、基板200が取り出される取出し部15とを有している。
【0026】
図1〜3に示すように、成膜装置10は、基板200を搬送経路に沿って搬送する搬送手段である搬送コンベア110を備える。搬送コンベア110は、投入部11、予熱部12、成膜部13、徐冷部14および取出し部15に亘って設けられている。
【0027】
搬送コンベア110は、基板200が載置される搬送ベルト111と、搬送ベルト111が巻き掛けられたプーリ112と、プーリ112を駆動させる駆動軸113と、駆動軸113に動力を付与する図示しないモータとから構成されている。搬送ベルト111は、耐熱性を有する金属または樹脂から形成されている。
【0028】
基板200は、搬送コンベア110により矢印114で示す方向に搬送される。すなわち、本実施形態に係る成膜装置10においては、基板200の搬送経路は平面視において直線状である。ただし、搬送経路は直線状に限られず、搬送経路が平面視において屈曲していてもよいし、曲線状であってもよい。
【0029】
また、成膜装置10は、搬送経路中に並ぶように位置する複数の成膜室100(100a,100b,100c,100d)を備える。具体的には、基板200の搬送方向の上流側から順に、成膜室100a、成膜室100b、成膜室100c、成膜室100dが設けられている。本実施形態においては、4つの成膜室100(100a,100b,100c,100d)が設けられているが、1つ以上の成膜室100が設けられていればよい。
【0030】
さらに、成膜装置10は、複数の成膜室100のうち隣接する成膜室同士を繋ぐように搬送経路に沿ってトンネル状に位置し、複数の成膜室100を順次通過する基板200を取り囲んで加熱する加熱炉120を備える。図3に示すように、筐体150の下部が、加熱炉120に覆われている。
【0031】
トンネル状の加熱炉120の上部に開口が設けられ、その開口内に筐体150が組み込まれている。加熱炉120は、4つの成膜室100(100a,100b,100c,100d)に亘って設けられている。加熱炉120は、基板200を予熱するために、基板200の搬送方向の上流側に位置する成膜室100aより上流側から設けられている。すなわち、加熱炉120は、予熱部12および成膜部13に亘って設けられている。
【0032】
基板200は、搬送コンベア110により加熱炉120内を搬送されつつ加熱される。基板200に成膜する際には、加熱炉120内は、ほぼ同一の温度、たとえば550℃に維持されている。
【0033】
本実施形態に係る成膜室100は、微粒子化した成膜材料160を基板200上に堆積させて成膜する装置である。図2に示すように、成膜室100は、筐体150と、筐体150内に成膜材料160を微粒子化したミストを噴霧する複数の噴霧機構とを有している。
【0034】
筐体150は、側壁の1つに、ミストを排気するための排気口152を有している。図1に示すように、排気口152には、接続管310の一端が接続されている。接続管310の他端は、排気されたミストを無害化処理するガス処理手段である除害装置300に接続されている。
【0035】
図2に示すように、筐体150は、キャリアガス170が導入される導入口151を有している。また、筐体150は、筐体150内を3つの空間に分割する仕切壁154を有している。第1の空間は、噴霧機構が配置される噴霧機構配置空間158である。第2の空間は、噴霧機構からミストが噴霧されるミスト噴霧空間159である。第3の空間は、排気口152と繋がっている排気空間153である。
【0036】
筐体150は、ミスト噴霧空間159からミストを基板200上に流動可能とする、基板200と対向する開放部を有している。開放部は、筐体150の下部に形成されている。図1,3に示すように、開放部は、加熱炉120内に位置している。搬送コンベア110により搬送されている基板200と筐体150の開放部との間には、所定の間隙が設けられている。
【0037】
複数の噴霧機構は、成膜材料160を微粒子化して噴霧する噴霧口を各々有する。本実施形態においては、噴霧機構は、成膜材料を圧縮空気により微粒子化して噴霧するスプレーノズル130からなる。
【0038】
具体的には、図示しないコンプレッサーからの圧縮空気により、タンク140に貯溜されている成膜材料160の溶液を加圧して通路141を通過させ、スプレーノズル130の噴霧口131から微粒子化したミストを噴霧する。筐体150には、スプレーノズル130の位置に対応して開口155が形成されている。
【0039】
スプレーノズル130は、成膜材料160の溶液と圧縮空気との2流体を混合したミストを噴霧する2流体スプレーノズルである。ここで、ミストとは、平均粒子経が0.1μm以上100μm以下の液滴が気体中に分散された状態のものをいう。ミストの平均粒子径は、液浸法によって算出された値とする。
【0040】
ただし、噴霧機構はスプレーノズル130に限られず、超音波を用いてミストを発生させるものでもよい。超音波振動子によってミストを発生させる場合、スプレーノズル130によりミストを発生させる場合に比べて、ミストの平均粒子径を均一にできるため、発生させたミスト同士が基板200に到達する前に凝集することを抑制できる。
【0041】
図3〜5に示すように、複数のスプレーノズル130は、各々の噴霧口131が基板200と対向し、かつ、平面視において、筐体150内で基板200の搬送方向と直交する方向に互いに間隔を置くように配置されている。
【0042】
図3においては、ピッチLpで3つのスプレーノズル130を配置しているが、スプレーノズル130の数は3つに限られず複数であればよい。また、複数のスプレーノズル130が配置される方向は、基板200の搬送方向と直交する方向に限られず、基板200の搬送方向と交差する方向であればよい。
【0043】
設けられるスプレーノズル130の数は、基板200の成膜処理の所望のタクトタイムを満たすために必要な単位時間当たりのミストの噴霧量、または、成膜処理を行なううえで必要な成膜速度に応じて適宜変更される。
【0044】
スプレーノズル130の噴霧口131と基板200の上面との間の距離Lhに対して加熱炉120の上端と基板200との間の距離はLh/4に設定されている。
【0045】
なお、後述する導入口151から導入されるキャリアガス170の一部は、スプレーノズル130を冷却するためにスプレーノズル130に対して送られる。スプレーノズル130にキャリアガス170を送るために、スプレーノズル130の近傍に図示しない冷却ファンが配置されている。
【0046】
スプレーノズル130は、冷却ファンにより空冷される。さらに、スプレーノズル130の近傍に、図示しない水冷用の冷却管が設けられている。冷却管内を冷却水が循環することによりスプレーノズル130が水冷される。
【0047】
このように、スプレーノズル130の近傍を冷却することにより、スプレーノズル130から噴き付けられる前の成膜材料160の溶液が沸点以下の温度まで冷却される。より好ましくは、成膜材料160の溶液が室温程度まで冷却される。
【0048】
この冷却により、成膜材料160の溶液中の溶媒がスプレーノズル130内において揮発することを抑制できるため、噴き付けられる成膜材料160の溶液の濃度を一定に保つことができる。また、スプレーノズル130内において成膜材料160の溶液中の溶媒が揮発することによる成膜材料160の固化を抑制できる。
【0049】
その結果、一定の濃度の成膜材料160を用いて成膜できるため、基板200上に成膜される膜の品質を安定させることができる。また、固化した成膜材料160によるスプレーノズル130の目詰まりを抑制することができる。
【0050】
成膜材料160の溶液としては、亜鉛、スズ、インジウム、カドミウムおよびストロンチウムからなる群より選択される無機材料の塩化物を、溶媒に溶解させた溶液を用いることができる。溶媒としては、水、メタノール、エタノールおよびブタノールなどを用いることができる。このような成膜材料160の溶液としては、たとえば、酢酸亜鉛を含む水溶液、酸化インジウム錫を含む水溶液および酸化錫を含む水溶液などを用いることができる。
【0051】
ただし、成膜材料160の溶液としてはこれに限られず、種々の溶液を用いることができる。成膜材料160の溶液の濃度は特に限定されないが、たとえば、0.1mol/L以上3mol/L以下の濃度である。
【0052】
図4,5に示すように、本実施形態に係る成膜装置においては、成膜室100は、複数の噴霧機構から噴霧された成膜材料を基板200上に分布を補正して到達させるための噴出口を各々有する複数の送風機構を有する。
【0053】
本実施形態においては、送風機構は補完ガスとして圧縮空気を噴出するエアーノズル190からなる。複数のエアーノズル190は、噴出口191を各々有する。複数のエアーノズル190は、各々の噴出口191が複数のスプレーノズル130のうちの少なくとも1つのスプレーノズル130の噴霧口131の周囲に位置するように配置される。
【0054】
本実施形態に係る成膜装置においては、複数のスプレーノズル130は、各々の噴霧領域の長手方向が一列になるように配置されている。複数のエアーノズル190が周囲に配置されるスプレーノズル130は、複数のスプレーノズル130において両端に位置する。
【0055】
そのため、両端に位置するスプレーノズル130の噴霧口131から噴出されたミストが、複数のエアーノズル190の噴出口191から基板200の端部に向けて噴出された圧縮空気により加速されて送られる。
【0056】
すなわち、複数のエアーノズル190は、複数のスプレーノズル130から噴霧された成膜材料160を基板200上に分布を補正して到達させる。本実施形態においては送風機構にエアーノズル190を用いたが、送風機構は基板200にミストを向かわせることができればよく、たとえば、キャリアガスを噴出するノズルでもよい。また、複数のエアーノズル190は、複数のスプレーノズル130の両端ではなく、一端に配置されていてもよい。
【0057】
ここで、筐体150内におけるガスの流動経路について説明する。図2に示すように、まず、導入口151から、たとえば圧縮空気からなるキャリアガス170が筐体150のミスト噴霧空間159内に導入される。ミスト噴霧空間159内に導入されたキャリアガス170は、矢印171で示す向きに流動する。キャリアガス170としては、たとえば、窒素、酸素、水素およびこれらの混合ガスを用いることができる。
【0058】
スプレーノズル130の噴霧口131からミストが、矢印161で示す向きに噴霧領域162中に噴霧される。ミストとキャリアガス170とは、混合領域181において互いに混合される。その後、ミストは、矢印182で示す向きに流動して開放部に到達する。ミストは、開放部から基板200の主面上に噴き付けられる。ミストが基板200上に噴き付けられる領域を、噴き付け領域Xと称する。
【0059】
噴き付け領域Xに到達したミストは、基板200の主面に沿って流動する。具体的には、仕切壁154の一部であって基板200の主面と対向している対向面と、基板200の主面との間を矢印183で示す向きにミストが流動する。ミストが矢印183で示す向きに流動する領域を、流路領域Yと称する。
【0060】
流路領域Yを通過したミストは、排気空間153内を矢印184で示す向きに流動する。このようにミストが基板の主面上から排気口152に向かう領域を、排気領域Zと称する。排気空間153内を通過して排気口152に到達したミストは、除害装置300により無害化されて排気ガス180として外部に放出される。なお、図2においては、除害装置300を図示していない。
【0061】
上記の噴き付け領域Xと流路領域Yと排気領域Zとから開放部が構成されている。ミストは、複数の成膜室100(100a,100b,100c,100d)の各々において、噴霧機構から開放部を通過して排気口152に向けて流動する。
【0062】
なお、排気口152においては、導入口151から導入されるキャリアガス170の3倍〜10倍程度大きな流量でミストを排気している。ただし、導入されるキャリアガス170の流量およびミストの排気流量は適宜設定される。
【0063】
図1に示すように、成膜室100aにおいて、矢印400で示すようにミストが流動する。成膜室100bにおいて、矢印410で示すようにミストが流動する。成膜室100cにおいて、矢印420で示すようにミストが流動する。成膜室100dにおいて、矢印430で示すようにミストが流動する。
【0064】
上記のようにミストが流動している状態で、開放部の近傍を基板200が通過することにより、基板200が成膜処理される。本実施形態の成膜装置10においては、開放部の近傍を基板200が通過するように搬送コンベア110が設けられている。
【0065】
基板200は、搬送コンベア110により、複数の成膜室100(100a,100b,100c,100d)の各々において、噴き付け領域X、流路領域Yおよび排気領域Zを順に通過するように搬送される。基板200は、噴き付け領域X、流路領域Yおよび排気領域Zを通過する間に、主面上に成膜材料160の微粒子が堆積することにより成膜される。
【0066】
たとえば、基板200には、アルカリバリア層としてSiO2膜、および、透明導電膜としてTCO(Transparent Conductive Oxide)などの複数の膜が形成される。なお、アルカリバリア層は、基板200に含まれるアルカリ分による太陽電池の性能低下を防止するためのものである。そのため、基板200がアルカリ分を多く含まない材質からなる場合、アルカリバリア層を形成しなくてもよい。
【0067】
このように基板200上に異なる種類の膜を形成する場合は、複数の成膜室100(100a,100b,100c,100d)において、種々の成膜材料からなるミストが用いられる。たとえば、成膜室100aにおいてSiO2を成膜材料160とするミストを用い、成膜室100bにおいてSnO2を成膜材料160とするミストを用いる。
【0068】
SnO2からなる透明導電膜を形成する場合には、加熱炉120内の温度は、450℃以上600℃以下であることが好ましく、520℃以上580℃以下であることがより好ましい。
【0069】
加熱炉120内の温度が450℃未満である場合、基板200上に付着したミストの乾燥時間が長くなることにより成膜レートが著しく低下する。一方、加熱炉120内の温度が600℃より高い場合、ミストの一部において基板200上に到達する前にミストに含まれる溶媒が揮発して成膜性能を失うことにより、基板200上に到達するミストの量が低下して成膜レートが著しく低下する。
【0070】
また、スプレーノズル130の噴霧圧力、キャリアガス170の流量および排気流量を適切に設定することにより、ミストを安定して基板200の上面に到達させることができる。
【0071】
上記の構成により発生したミストを用いて基板200上に均一な膜を形成するためには、ミストを基板200上の全体に到達させる必要がある。ここで、スプレーノズル130の噴霧領域について説明する。
【0072】
図6は、本実施形態に係る成膜装置に用いたスプレーノズルの噴霧領域の外形を示す模式図である。図6に示すように、スプレーノズル130の噴霧領域162は、スプレーノズル130の噴霧口から距離Lh離れた地点において、楕円形状の外形を有している。
【0073】
具体的には、長径の長さがLW、短径の長さがLTである楕円形状を有している。すなわち、噴霧領域162は、長径に平行な長手方向と、短径に平行な短手方向とを有している。図6中の0点は、長径と短径との交点であって、スプレーノズル130の中心の鉛直方向における直下の位置である。
【0074】
図7は、本実施形態に係るスプレーノズルの噴霧領域の長手方向における相対噴付強度を示すグラフである。図8は、本実施形態に係るスプレーノズルの噴霧領域の短手方向における相対噴付強度を示すグラフである。
【0075】
図7においては、縦軸に相対噴付強度(%)、横軸に噴霧領域の長手方向における0点からの位置(mm)を示している。図8においては、縦軸に相対噴付強度(%)、横軸に噴霧領域の短手方向における0点からの位置(mm)を示している。
【0076】
図7に示すように、Lh=300mmの地点においては、スプレーノズル130の噴霧領域162の長手方向における相対噴付強度は、0点から離れるに従って上昇して100%になった後、さらに0点から離れるに従って下降して0%になっている。
【0077】
図8に示すように、Lh=300mmの地点においては、スプレーノズル130の噴霧領域162の短手方向における相対噴付強度は、0点において100%であり、0点から離れるに従って下降して0%になっている。
【0078】
このように、噴霧領域162内において、スプレーノズル130の中心の直下より端部の方がミストの噴付強度が弱くなる。この傾向は、複数のスプレーノズル130を設けた場合にも同様である。
【0079】
図9は、第1比較例として、ピッチを100mmとして11ヶのスプレーノズルを各々の噴霧領域の長手方向が一列になるように配置した場合の噴霧領域の長手方向における比較噴付強度を示すグラフである。図10は、第2比較例として、ピッチを120mmとして9ヶのスプレーノズルを各々の噴霧領域の長手方向が一列になるように配置した場合の噴霧領域の長手方向における比較噴付強度を示すグラフである。図11は、第3比較例として、ピッチを150mmとして8ヶのスプレーノズルを各々の噴霧領域の長手方向が一列になるように配置した場合の噴霧領域の長手方向における比較噴付強度を示すグラフである。
【0080】
図9〜11においては、縦軸に比較噴付強度(%)、横軸に、一列に配置された噴霧領域の長手方向における0点からの位置(mm)を示している。なお、比較噴付強度(%)は、上記の1ヶのスプレーノズルの相対噴付強度の最大値を100%として、複数のスプレーノズルを各ピッチで配置したときの噴付強度を示している。
【0081】
図9〜11に示すように、Lh=300mmの地点においては、ピッチを120mmとしてスプレーノズルを配置した場合に、噴霧領域の長手方向における比較噴付強度が比較的均一になっていた。ただし、複数のスプレーノズル130を各々の噴霧領域の長手方向が一列になるように配置した場合、端部に配置されたスプレーノズル130の噴霧領域におけるミストの噴付強度が弱くなる。
【0082】
このように、送風機構を設けていない第1から第3比較例の成膜装置において複数のスプレーノズル130を用いて大型の基板200に成膜する場合、基板200の端部において形成される膜の厚さが薄くなり所望の膜特性を得られにくい。
【0083】
そこで本発明に係る成膜装置においは、複数の送風機構が設けられている。複数の送風機構を設けた場合の効果を確認するために、搬送方向において1.4mの長さを有し、搬送方向と直交する方向において1mの幅を有する基板200に対して成膜装置10を用いて成膜した。
【0084】
成膜材料160の溶液として、0.9mol/LのSnCl4・5H2Oと、0.3mol/LのNH4Fと、30体積%のHClと、2.5体積%のメタノールとを含む水溶液を用いた。この水溶液の沸点は、約70℃程度であった。
【0085】
ピッチLpを120mmとして10ヶのスプレーノズル130を各々の噴霧領域162の長手方向が一列になるように配置して、開放部の幅を1200mmとした。
【0086】
図12は、一列に配置された噴霧領域の長手方向におけるミストの到達量の分布を示すグラフである。図12においては、縦軸に基板200上へのミストの到達量(cc/min)、横軸に、1列に配置された噴霧領域の長手方向における中心からの位置(mm)を示している。
【0087】
図12に示すように、エアーノズル190から30L/minまたは40L/minの流量で圧縮空気を噴出させた場合、基板200の端部に到達するミストの量が増加していることが確認された。
【0088】
図13は、搬送方向に直交する方向における基板のシート抵抗値の分布を示すグラフである。図13においては、縦軸にシート抵抗値(Ω/□)、横軸に搬送方向に直交する方向における基板の中心からの位置(mm)を示している。また、補完ガス流量が30L/minである場合を実線で、補完ガスを流していない場合を点線で示している。
【0089】
図13に示すように、複数のエアーノズル190を設けていない場合は、基板200の端部におけるシート抵抗値が著しく増加している。これは、基板200の端部に十分な膜厚の薄膜が形成されていないことによる。
【0090】
一方、複数のエアーノズル190から補完ガスとして圧縮空気を噴出させた場合は、基板200の端部におけるシート抵抗値の増加が抑制されている。この結果から、基板200の全体において、太陽電池として使用可能な透明導電膜が均一な膜厚で形成されていることが確認された。
【0091】
また、両端に位置するスプレーノズル130の周囲に位置する複数のエアーノズル190から噴出される圧縮空気の流量を変えて、基板200上に形成される膜の膜厚を計測した。条件としては、以下の6条件でそれぞれ計測を行なった。
【0092】
第1の条件は、左端側に位置するスプレーノズル130の周囲に配置された複数のエアーノズル190から噴出される圧縮空気の流量を0L/min、右端側に位置するスプレーノズル130の周囲に配置された複数のエアーノズル190から噴出される圧縮空気の流量を0L/min、基板搬送速度を45cm/minとした。
【0093】
第2の条件は、左端側に位置するスプレーノズル130の周囲に配置された複数のエアーノズル190から噴出される圧縮空気の流量を6L/min、右端側に位置するスプレーノズル130の周囲に配置された複数のエアーノズル190から噴出される圧縮空気の流量を12L/min、基板搬送速度を45cm/minとした。
【0094】
第3の条件は、左端側に位置するスプレーノズル130の周囲に配置された複数のエアーノズル190から噴出される圧縮空気の流量を10L/min、右端側に位置するスプレーノズル130の周囲に配置された複数のエアーノズル190から噴出される圧縮空気の流量を10L/min、基板搬送速度を45cm/minとした。
【0095】
第4の条件は、左端側に位置するスプレーノズル130の周囲に配置された複数のエアーノズル190から噴出される圧縮空気の流量を11L/min、右端側に位置するスプレーノズル130の周囲に配置された複数のエアーノズル190から噴出される圧縮空気の流量を11L/min、基板搬送速度を35cm/minとした。
【0096】
第5の条件は、左端側に位置するスプレーノズル130の周囲に配置された複数のエアーノズル190から噴出される圧縮空気の流量を12L/min、右端側に位置するスプレーノズル130の周囲に配置された複数のエアーノズル190から噴出される圧縮空気の流量を10L/min、基板搬送速度を35cm/minとした。
【0097】
第6の条件は、左端側に位置するスプレーノズル130の周囲に配置された複数のエアーノズル190から噴出される圧縮空気の流量を12L/min、右端側に位置するスプレーノズル130の周囲に配置された複数のエアーノズル190から噴出される圧縮空気の流量を12L/min、基板搬送速度を45cm/minとした。
【0098】
図14は、基板の搬送方向に直交する方向における基板上の膜厚の分布を示すグラフである。図14においては、縦軸に膜厚(nm)、横軸に、搬送方向に直交する方向における基板の中心からの位置(mm)を示している。
【0099】
なお、上記の第1の条件の結果を細実線、第2の条件の結果を細点線、第3の条件の結果を細一転鎖線、第4の条件の結果を太実線、第5の条件の結果を太点線、第6の条件の結果を細二点鎖線で示している。
【0100】
図14に示すように、左端側および右端側に配置された複数のエアーノズル190から圧縮空気を噴出させることにより、基板200の両端の各々から内側に200mm程度までの範囲において膜厚を厚くすることができる。
【0101】
また、第2の条件のように左端側および右端側にそれぞれ配置される複数のエアーノズル190の噴出流量に差を設けた場合、膜厚の分布が、流量の大きな複数のエアーノズル190が配置されている側(右端側)に移動していることが認められた。
【0102】
これは、スプレーノズル130から噴き出されたミストが、流量の大きい方の複数のエアーノズル190から噴出された圧縮空気の流れに引き寄せられた状態で、基板200に噴き付けられたためと考えられる。
【0103】
このように、複数のエアーノズル190を設けることにより、基板200上の薄膜の膜厚を調整することができる。よって、平面視においてスプレーノズル130の周囲に複数の送風機構を配置することにより、成膜材料160を基板200上に分布を補正して到達させて、基板200上の全体に略均一の膜厚の薄膜を成膜することができる。
【0104】
なお、本実施形態においては、複数のエアーノズル190を両端に配置されたスプレーノズル130の周囲のみに配置したが、複数のエアーノズル190の配置はこれに限られず、たとえば、全てのスプレーノズル130の周囲に配置してもよい。その場合、両端に配置されたスプレーノズル130の周囲に配置された複数のエアーノズル190からの噴出量を他の複数のエアーノズル190からの噴出量より多くすることにより、基板200上に均一な膜厚の薄膜を形成することができる。
【0105】
すなわち、複数の噴霧機構のうちの端に位置する噴霧機構の周囲に位置する複数の送風機構は、複数の送風機構のうちの他の送風機構に比較して基板に与える風圧が高いことが好ましい。
【0106】
また、加熱されたキャリアガスを噴出するノズルを送風機構に用いて、その複数のノズルをスプレーノズル130の周囲に設けることにより、基板200上に付着したミストの乾燥を促進させて、成膜レートの向上を図るようにしてもよい。
【0107】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0108】
10 成膜装置、11 投入部、12 予熱部、13 成膜部、14 徐冷部、15 取出し部、100,100a,100b,100c,100d 成膜室、110 搬送コンベア、111 搬送ベルト、112 プーリ、113 駆動軸、120 加熱炉、130 スプレーノズル、131 噴霧口、140 タンク、141 通路、150 筐体、151 導入口、152 排気口、153 排気空間、154 仕切壁、155 開口、158 噴霧機構配置空間、159 ミスト噴霧空間、160 成膜材料、162 噴霧領域、170 キャリアガス、180 排気ガス、181 混合領域、190 エアーノズル、191 噴出口、200 基板、300 除害装置、310 接続管、X 噴き付け領域、Y 流路領域、Z 排気領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜材料を基板上に堆積させて成膜する成膜装置であって、
前記成膜材料を微粒子化して噴霧する噴霧口を各々有する複数の噴霧機構と、
前記複数の噴霧機構から噴霧された前記成膜材料を前記基板上に分布を補正して到達させるための噴出口を各々有する複数の送風機構と
を備え、
前記複数の噴霧機構は、各々の前記噴霧口が前記基板と対向し、かつ、平面視において前記基板の搬送方向と交差する方向に互いに間隔を置くように配置され、
前記複数の送風機構は、各々の前記噴出口が前記複数の噴霧機構のうちの少なくとも1つの噴霧機構の前記噴霧口の周囲に位置するように配置される、成膜装置。
【請求項2】
前記複数の送風機構が周囲に配置される前記噴霧機構は、前記複数の噴霧機構において端に位置する、請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記複数の噴霧機構のうちの端に位置する前記噴霧機構の周囲に配置される前記複数の送風機構は、前記複数の送風機構のうちの他の送風機構に比較して前記基板に与える風圧が高い、請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記送風機構はエアーノズルからなる、請求項1から3のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項5】
前記エアーノズルは圧縮空気を噴出する、請求項4に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記噴霧機構はスプレーノズルからなる、請求項1から5のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項7】
前記スプレーノズルは、前記成膜材料を圧縮空気により微粒子化して噴霧する、請求項6に記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−108157(P2013−108157A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256347(P2011−256347)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】