説明

成長する単結晶に熱を供給するためのリング形状の抵抗ヒータ

【課題】成長する単結晶に熱を供給するためのリング形状の抵抗ヒータを提供する。
【解決手段】抵抗ヒータは、上部リング1と下部リング2とを含み、上部リング1と下部リング2とは、これらのリングを通って導電される電流の流れ方向がこれらのリングにおいて反対であるように、下部リング2のリングギャップに隣接するループ部により電気的に導電的に接続される。上記抵抗ヒータはさらに、上部リング1と下部リング2とをある距離にて一緒に保持する接続要素18と、上部リング1および下部リング2を通って電流を導電するための電流リード11,12とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は、成長する単結晶に熱を供給するためのリング形状の抵抗ヒータに関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶を製造するための1つの方法はチョクラルスキー法である。チョクラルスキー法はたとえば、珪素から構成される単結晶を製造するために用いられる。この方法に従うと、まず坩堝において融液を作り出し、次いで種結晶を当該融液に接触させる。最後に、種結晶を融液の表面から上方向に引き上げることにより、種結晶からつるされる単結晶を成長させる。
【0003】
以下リングヒータとも称されるリング形状の抵抗ヒータにより、成長する単結晶に熱が供給され得れば、有利である。したがって、US2004/0192015は、成長する単結晶の相の境界に熱がリングヒータにより供給され、単結晶の半径に沿って当該相の境界にて軸方向の温度勾配を均質化する方法を記載している。この手法の目的は、固有の点欠陥の形成に影響を与えて、成長した単結晶の欠陥特性を半径方向に可能な限り均一にすることである。
【0004】
US6,132,507は、リングヒータが単結晶の直径および成長速度の変動を低減するようにも用いられ得ることを言及している。
【0005】
本発明の発明者らは、成長する単結晶に熱を供給するためのリングヒータの使用により、同時に強い外部磁界が確立されて融液における流れに影響を与える場合に、問題が発生するということを突き止めた。このような場合には、外部磁界とリングヒータが生成する磁界との間の電磁相互作用が発生する。リングヒータに作用するローレンツ力はリングヒータの位置を変えるか、リングヒータを損傷するか、またはさらにはリングヒータを破壊さえし得る。
【0006】
US7,335,864 B2は、電流が加熱コイルの部分的な巻回部を通って反対方向に流れるように、加熱コイルが2本巻きの態様で巻かれることにより抵抗ヒータの本来の磁界が低減され得るという事実を記載している。
【0007】
しかしながら、このように修正されたリングヒータの使用にも関わらず、上述した問題は十分に除去され得ない。なぜならば、磁界同士の間の相互作用は、弱くなった形態にあるとは言え、残っているからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】US2004/0192015
【特許文献2】US6,132,507
【特許文献3】US7,335,864 B2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、強い外部磁界の存在下での使用の間にUS2004/0192015 A1に記載されるリングヒータの欠点を有することなく、当該リングヒータの利点を有する、成長する単結晶に熱を供給するためのリング形状の抵抗ヒータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、成長する単結晶に熱を供給するための以下のリング形状の抵抗ヒータによって達成される。この抵抗ヒータは、上部リングと下部リングとを含み、上部リングと下部リングとは、これらのリングを通って導電される電流の流れ方向がこれらのリングにおいて反対であるように、下部リングのリングギャップに隣接するループ部により電気的に導電的に接続される。上記抵抗ヒータはさらに、上部リングと下部リングとをある距離にて一緒に保持する接続要素と、上部リングおよび下部リングを通って電流を導電するための電流リードとを含む。
【0011】
本発明のリングヒータは、一方の上に他方が配される2つのリング形状の部分コイルを含み、当該部分コイルは以下、上部リングおよび下部リングとしても指定されるとともに、一体の構成要素を形成するようループ部により接続される。部分コイルを通って流れる電流の流れ方向は、ループ部を通って通過する際に逆になる。したがって、リングヒータは、2本巻きの態様で巻かれるコイルの構造および特性を有する。
【0012】
好ましくは、上部リングと、下部リングと、電流リードとは、たとえば炭素繊維強化炭素(CFC)またはグラファイトといった実質的に炭素からなる。グラファイトは特に好ましく、特に可能な限りもっとも低い抵抗率、可能な限りもっとも高い曲げ強さ、および可能な限りもっとも高い熱伝導率を有するグラファイトタイプが好ましい。リングの断面の面積が可能な限り小さくなり得るように、抵抗率は好ましくは11μΩm以下であるべきである。曲げ強さは好ましくは50MPa以上であるべきであり、熱伝導率は好ましくは120W/mK以上である。高い熱伝導率は、リングヒータの摩耗を加速する過熱位置(「ホットスポット」)の形成を防止する。
【0013】
接続要素は、上部リングと下部リングとを一緒に互いから特定の距離で保持する。これにより接続要素は、リングに作用する電磁力を補償するとともに、特に、融液に作用する磁界の影響下でリングが互いに対して変位するのを防止する。リング同士の間の距離は好ましくは2mm以上150mm以下である。電気的なフラッシュオーバが発生する危険性により2mm未満の距離は好ましくない。同様に150mmより大きい距離も、リングヒータの2本巻きの構造の利点がもはや適切に現れないので好ましくない。接続要素は、接続位置にて上部リングが下部リングから電気的に絶縁されるような態様で実施され得る。同様に接続要素は、リングを通って流れる電流の一部を導くような態様で実施され得る。上記の一部は各々の場合、合計の電力の5%以下であるべきである。このタイプの構成は、たとえば上部リングと下部リングとが炭素繊維強化炭素(CFC)から構成されるねじにより互いに直接的にねじ込まれることにより達成され得る。
【0014】
上部リングおよび下部リングは、上部リングおよび下部リングにそれぞれ固定される電流リードによって保持される。電流リードを互いに電気的に絶縁された態様で接続し、かつ電流リードを圧縮または電流リード同士を引き離す、強い外部磁界によってもたらされる力からこれによりこれらの電流リードを保護することが好ましい。たとえば、より強い外部磁界は、融液に加えられる水平磁界またはカスプ磁界である。
【0015】
電流リードの固定場所の領域において幅が広がった態様で上部リングおよび下部リングを実施することが好ましい。これにより、この領域におけるリングの機械的安定性が強化されるとともに、電流密度が低減されるので、局所的な過熱が回避される。
【0016】
リングヒータは、成長する単結晶に熱を供給するよう用いられ、好ましくは、成長する単結晶の相の境界での軸方向の温度勾配の半径方向プロファイルに影響を与えるとともに、成長する単結晶の直径を規制する目的で用いられる。単結晶は、好ましくは、直径が300mm以上、特に好ましくは、直径が300mmまたは450mmである珪素から構成される単結晶である。
【0017】
図面を参照して、以下により詳細に本発明を説明する。これらの図は、リングヒータの特に好ましい構成の特徴を示す。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】接続要素および電流リードがないリングヒータを斜視図により示す図である。
【図2】接続要素および電流リードが存在する図1に従ったリングヒータを斜視図により示す図である。
【図3】電流リードの領域においてリングヒータを通る断面図である。
【図4】クランプ接続部の領域において電流リードを通る断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に従ったリングヒータは、上部リング1と下部リング2とを含む。これらの両方のリングはリングギャップにより分離される。リングギャップは、オフセットした態様で配される。下部リングのリングギャップ3は、上部リング1を下部リング2に接続するループ部4に隣接する。上部リングのリングギャップ5は好ましくは、下部リングの電流リードを固定するためのスペースが存在するように十分に広い。基部6のためのスペースが存在するのが好ましい。基部6は、電流リードの固定場所が同じレベルに位置するように当該基部の領域において下部リングの厚さを増加させる。
【0020】
リングギャップのこのオフセット構成により、上部リングの端部7と下部リングの端部8とが、基部6と下部リングのリングギャップ3との間の領域において重なる。上部リングの縁部および下部リングの縁部、特に、これらのリングの外周部および内周部における縁部は、丸くされる。縁部を丸くすることにより、電気的なフラッシュオーバが発生する危険性が低減される。
【0021】
これらのリングの端側上では、穴9が円周部に亘って分散しており、当該穴は、上部リングおよび下部リングを通って厚さ方向に一致して延在している。これらの穴は好ましくは、非対称を回避するよう端側上で同一の距離で中心に分散される。これらの穴は好ましくは、特にリングが特に高い機械的負荷に晒される位置にも位置決めされる。上部リングの端部7と下部リングの端部8とが重なるところには、中心に配される穴の代わりに、互いに半径方向に並ぶ穴9が存在する。リングを電流リードに固定するための穴が、基部6の端側と、上部リング1のさらなる端部10の端側とに位置決めされる。
【0022】
これらの端部の領域および基部6の領域において、そこでの機械的安定性を増加するとともに電流密度を低減するようリングの幅を広げることが好ましい。
【0023】
図2は、上部リングと下部リングとを保持する接続要素18を特定の距離で正確に収容するための主たる部分として穴が機能することを示す図である。この収容は、接続要素18同士を互いに電気的に絶縁されるように、または接続要素がリング同士の間に高インピーダンスラインを形成するような態様で行われる。上部リングの端部10での端側上の穴と、基部6の端側上の穴とは、上部リング1を上部リングの電流リード11に固定し、下部リング2を下部リングの電流リード12に固定するために機能する。基部6は好ましくは、これらのリングが同じレベルの位置で電流リードに固定されるような態様で下部リング2の厚さを増加させる。
【0024】
図2に示されるリングヒータの場合、上部リングの電流リード11および下部リングの電流リード12が、クランプ接続部19により少なくとも1つの位置にて互いに接続される。クランプ接続部19は、電流リードを圧縮する、強い外部磁界の電磁力から電流リードを保護する。クランプ接続部19に加えてまたはクランプ接続部19の代わりに、強い外部磁界によるリードを引き離す電磁力から電流リードを保護する、電流リードの1つまたは複数の接続部を設けることも可能である。
【0025】
図3に従うと、接続要素18は好ましくは各々の場合、リング形状のスペーサ13と、中空円筒部14と、ねじ15と、ねじナット16とを含む。中空円筒部14の直径は好ましくはカラー部17により一端部にて広くされる。リング形状のスペーサ13は、リング同士の間に配される。中空円筒部は穴に差し込まれ、穴を整列させる。中空円筒部14およびスペーサ13を通って延在するねじ15は、その端部にてねじナット16にねじ込まれる。ねじナットは好ましくは止まり穴によって閉じられる。
【0026】
組み付けの間、まずリング形状のスペーサ13が上部リング1と下部リング2との間に押し込まれ、次いで中空円筒部14が、上部リングにおける穴を通ってスペーサの中に挿入される。次いで、さらなる中空円筒部14が下部リング2を通ってスペーサ内に挿入され、この構成がねじ15およびねじナット16とともにねじ込まれる。構造的な高さを節約するために、中空円筒部14のカラー部17は、上部リング1の端側と、下部リング2の端側の対向する側とへと皿穴に埋められる。
【0027】
中空円筒部14およびリング形状のスペーサ13は、温度抵抗性を有するとともに電気的に絶縁性の材料からなり、好ましくは窒化硼素からなる。
【0028】
ねじ15およびねじナット16は、張力、剪断、および歪み負荷に対して抵抗性を有する温度抵抗性材料、好ましくは炭素繊維強化炭素(CFC)からなる。
【0029】
リング形状のスペーサ13は、強い外部磁界の作用下でリングを圧縮する圧縮力を吸収し、ねじ15は、強い外部磁界の作用下でリング同士を引き離す引張力を吸収する。
【0030】
上部リング1の電流リード11は、比較的高密度の電流を上部リングへと導電する。したがって、上部リング1を電流リード11に固定するための固定手段は温度抵抗性を有するとともに比較的低い抵抗率を有するべきである。したがって、グラファイトから構成されるねじ20を用いて上部リングを電流リード11に固定するのが好ましい。さらに、接触面積を大きくするためにねじ20を皿ねじとして形成することが有利である。
【0031】
下部リング2の電流リード12は、リングヒータの重量の大部分を保持する。したがって、下部リング2を電流リード12に固定するための固定手段は、温度抵抗性を有し、比較的高い機械的安定性を有するべきである。したがって、炭素繊維強化炭素(CFC)から構成されるねじ21を用いて下部リングを電流リード12に固定することが好ましい。
【0032】
図4に従うと、クランプ接続部19は、上部リングの電流リード11および下部リングの電流リード12の長手方向に対して横断方向に配されるピン22を含む。ピン22の上に、電気的に絶縁性のマウント23が装着される。マウント23は、電流リードにおける穴にワッシャ24と共に配置され、ねじ25によって適切な位置に保持される。ピン22およびワッシャ24は好ましくは炭素繊維強化炭素(CFC)からなり、マウント23は好ましくは窒化硼素からなる。
【0033】
実施例
図1〜図4の例示の特徴を含むリングヒータの機械的安定性を、US2004/0192015 A1に記載される方法において生じた条件下でテストした。上記の文献に記載のリングヒータと比較して、リングヒータは、匹敵する性能を有し、摩耗および欠陥に対する影響の受けやすさが低いことが分かった。さらに、上記の文献に記載されるリングヒータは、この単結晶を製造するための装置に対する構造的な変更を必要とすることなく、本発明に従ったリングヒータによって置き換えられることが可能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成長する単結晶に熱を供給するためのリング形状の抵抗ヒータであって、
上部リングと下部リングとを含み、前記上部リングと前記下部リングとは、これらのリングを通って流れる電流の流れ方向がこれらの前記リングにおいて反対であるように、前記下部リングのリングギャップに隣接するループ部により電気的に接続され、前記抵抗ヒータはさらに、
前記上部リングと前記下部リングとを間隔を空けて共に保持する接続要素と、
前記上部リングおよび前記下部リングを流れる電流を導くための電流リードとを含む、抵抗ヒータ。
【請求項2】
前記上部リングと、前記下部リングと、前記電流リードとは実質的に炭素からなる、請求項1に記載の抵抗ヒータ。
【請求項3】
前記上部リングおよび前記下部リングの縁部は丸くされる、請求項1または請求項2に記載の抵抗ヒータ。
【請求項4】
前記接続要素の各々は、リング形状のスペーサと、中空円筒部と、ねじと、ねじナットとを含み、前記リング形状のスペーサは前記リング同士の間に配され、前記中空円筒部は、前記リングを貫通する穴を厚さ方向に整列させ、前記ねじはその端部にて前記ねじナットにねじ込まれるとともに、前記中空円筒部および前記スペーサを通って延在する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抵抗ヒータ。
【請求項5】
前記中空円筒部のカラー部は、前記上部リングおよび前記下部リングの側方領域において皿穴に埋められる、請求項4に記載の抵抗ヒータ。
【請求項6】
前記上部リングおよび前記下部リングは、前記ループ部と前記下部リングの前記電流リードと並んで存在する位置に、接続要素によって一緒に保持される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の抵抗ヒータ。
【請求項7】
前記上部リングは、グラファイトから構成されるねじにより前記上部リングの前記電流リードに固定される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の抵抗ヒータ。
【請求項8】
前記下部リングは、CFCから構成されるねじにより前記下部リングの前記電流リードに固定される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の抵抗ヒータ。
【請求項9】
前記電流リードを圧縮する電磁力から前記電流リードを保護するクランプ接続部によって特徴付けられる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の抵抗ヒータ。
【請求項10】
前記クランプ接続部はピンを含み、前記ピンは、前記電流リードの長手方向に対して横断方向に配され、前記ピンの上には電気的に絶縁性のマウントが装着され、前記クランプ接続部はさらに、適切な位置に前記マウントおよび前記ピンを保持するねじを含む、請求項9に記載の抵抗ヒータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−23430(P2013−23430A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−156688(P2012−156688)
【出願日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【出願人】(599119503)ジルトロニック アクチエンゲゼルシャフト (223)
【氏名又は名称原語表記】Siltronic AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】