説明

成長ホルモン結合タンパク質、及びそれを用いた成長ホルモン吸着剤

【課題】 新規のヒト成長ホルモン結合タンパク質、及び前記タンパク質を用いたヒト成長ホルモンを特異的に吸着可能な吸着剤を提供すること。
【解決の手段】 ヒト成長ホルモン受容体のアミノ酸配列のうち125番目のバリンから133番目のプロリンまでの領域をロイシン、グルタミン、ヒスチジン(6残基)、バリンに置換して、新規なヒト成長ホルモン結合タンパク質を調製した。また、前記タンパク質を適切な担体に結合することで、ヒト成長ホルモンを特異的に吸着する吸着剤を提供することができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な成長ホルモン結合タンパク質に関する。また本発明は、前記タンパク質をコードしたポリヌクレオチド、前記タンパク質を発現可能な宿主、前記宿主を用いた前記タンパク質の製造方法、及び前記タンパク質を担体に結合することにより得られるヒト成長ホルモン吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト成長ホルモン受容体(hGHR)は筋肉細胞や骨細胞の細胞表面にあり、ヒト成長ホルモン(hGH)のシグナルを細胞内に伝達し、細胞の成長および分化等の生化学的プロセスの調節に関わる因子であるhGHの働きを仲介するタンパク質である(非特許文献1)。hGHRは、GenBank ACCESSION No.X06562で開示のhGHR前駆タンパク質のアミノ酸配列(特許文献1、配列番号3)のうちの1番目のメチオニンから18番目のアラニンまでがシグナルペプチダーゼにより加水分解されて除かれることで得られ、hGHR前駆タンパク質(配列番号3)の19番目のアミノ酸であるフェニルアラニンがhGHRの1番目のアミノ酸となる。
【0003】
hGHRは膜貫通型のタンパク質であるが、その細胞外部分のみからなるヒト成長ホルモン結合タンパク質(hGH結合タンパク質)は血清中に存在することが知られている(非特許文献2)。また遺伝子工学的にhGHRの細胞外部分をhGH結合タンパク質として発現させた例として、動物細胞で発現させた例(特許文献1)、大腸菌で発現させた例(非特許文献3)、昆虫細胞で発現させた例(非特許文献4)、酵母により発現させた例(特許文献2)、細胞外部分の一部を昆虫細胞で発現させた例(特許文献3)などが知られている。大腸菌を用いた発現では、アルカリフォスファターゼの分泌シグナル配列をhGH結合タンパク質に連結したタンパク質として発現後、分泌シグナル配列を大腸菌のシグナルペプチダーゼにより加水分解することで除去し得られたhGH結合タンパク質を、菌体ペリプラズム層に分泌させた例が知られている。また、より効率的にhGH結合タンパク質を得るために、菌の高密度培養により培養液あたりの菌の収率を高めたり、プロテアーゼが欠損した株を宿主として利用したりするなどの工夫も図られている。さらにhGH結合タンパク質を、大腸菌菌体内に可溶性タンパク質として発現させる方法や、封入体いわゆるインクルージョンボディーとして菌体内に発現後、変性剤による溶解、リフォールディング操作を経てhGH結合タンパク質を得る方法も知られている。
【0004】
hGH結合タンパク質の精製に関しては、hGHへの結合能を利用してhGH固定化ゲルを用いたアフィニティークロマトグラフィーによる精製方法が知られており(非特許文献3、5及び7、特許文献1及び2)、hGH固定化ゲルに結合させたhGH結合タンパク質は、4.5M塩化マグネシウムあるいは8M尿素を加えたトリス塩酸緩衝液で溶出されることが知られている。またゲルろ過クロマトグラフィーによる精製方法(特許文献1)や陰イオン交換クロマトグラフィーによる精製方法(非特許文献7)も知られている。
【0005】
hGH結合タンパク質は野生型以外にも、アミノ酸を置換あるいは欠失により変異させた変異型のhGH結合タンパク質が作製され、その機能が調べられている。例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるhGH結合タンパク質のうち7番目から28番目のアミノ酸を欠損させても、欠損していないhGH結合タンパク質と同様のhGHの結合能を有していることが知られている(非特許文献5)。
【0006】
一方で、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるhGH結合タンパク質のうち125番目のバリン、126番目のアスパラギン酸、127番目のグルタミン酸、128番目のイソロイシン、または132番目のアスパラギン酸をアラニン残基に置換すると、hGHとの結合性が低下すること、また126番目のアスパラギン酸、127番目のグルタミン酸及び132番目のアスパラギン酸を同時にアラニン残基に置換すると、分析不可能ほどに大腸菌での生産量が少なくなることが知られている(非特許文献5)。またその他にも131番目のプロリンをグルタミンに置換したhGHRにはhGHが結合しないことが知られている(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2879079号公報
【特許文献2】特開平4−63594号公報
【特許文献3】特開平6−172394号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Wells J.A. and de Vos A.、Annual Review of Biophysics and Biomolecular Structure、22、329−351(1993)
【非特許文献2】Baumann.G.ら、The Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism、78、1113−1118(1994)
【非特許文献3】Fuh G.ら、The Journal of Biological Chemistry、265(6)、3111−3115(1990)
【非特許文献4】Ota Y.ら、Gene、106(2)、159−164(1991)
【非特許文献5】Steven H.B.ら、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America、88、4498−4502(1991)
【非特許文献6】Walker J.L.ら、The Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism、83、2554−2561(1998)
【非特許文献7】Cunningham B.C.ら、Science、254、821−825(1991)
【非特許文献8】Axen R.ら、1967、Nature、214、1302−1304(1967)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ヒト成長ホルモンと結合可能な、新規のヒト成長ホルモン結合タンパク質、及び前記タンパク質を用いたヒト成長ホルモンを特異的に吸着可能な吸着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を鑑みてなされた本発明は、以下の発明を包含する:
(1)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるヒト成長ホルモン結合タンパク質において、125番目のバリンから133番目のプロリンまでの領域が、配列番号2に示すアミノ酸配列に置換されていることを特徴とする、前記ヒト成長ホルモン結合タンパク質。
【0011】
(2)(1)に記載のヒト成長ホルモン結合タンパク質において、配列番号2に示すアミノ酸配列に置換されている領域以外のアミノ酸のうちの1残基以上が、他のアミノ酸に置換、及び/または欠失、及び/または付加されていることを特徴とする、ヒト成長ホルモン結合タンパク質。
【0012】
(3)(1)または(2)に記載のヒト成長ホルモン結合タンパク質をコードする配列からなるポリヌクレオチド。
【0013】
(4)(3)に記載のポリヌクレオチドを含む発現プラスミドを、宿主へ形質転換することにより得られる、ヒト成長ホルモン結合タンパク質を発現可能な宿主。
【0014】
(5)(4)に記載の宿主を用いた、ヒト成長ホルモン結合タンパク質の製造方法。
【0015】
(6)(1)または(2)に記載のヒト成長ホルモン結合タンパク質を担体に固定することで得られる、ヒト成長ホルモン吸着剤。
【0016】
(7)(6)に記載のヒト成長ホルモン吸着剤を用いた、ヒト成長ホルモンの精製方法。
【0017】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0018】
本発明は、前記課題を解決するために鋭意検討し得られた、ヒト成長ホルモンと結合可能な新規ヒト成長ホルモン(hGH)結合タンパク質であり、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるhGH結合タンパク質のうち、125番目のバリンから133番目のプロリンまでの領域が、配列番号2に示すアミノ酸配列に置換されていることを特徴としている。なお本発明は、hGHと結合する機能を保持している限り、配列番号2に示すアミノ酸配列に置換されている領域以外の領域、すなわち配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、1番目のフェニルアラニンから124番目のセリン、及び134番目のプロリンから238番目のグルタミンまでの領域のアミノ酸のうちの1残基以上が他のアミノ酸に置換、及び/または欠失、及び/または付加されたhGH結合タンパクも含む。例えば、配列番号46(配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、125番目のバリンから133番目のプロリンを配列番号2に示すアミノ酸配列に置換したアミノ酸配列のN末端側に、メチオニンとグルタミン酸が付加した配列)に示すアミノ酸配列からなるタンパク質のような、N末端側及び/またはC末端側に数残基のアミノ酸が付加されたタンパク質も、hGHと結合する機能を有しているため、本発明のhGH結合タンパク質に含まれる。
【0019】
本発明のhGH結合タンパク質を遺伝子工学的に製造するために用いるポリヌクレオチドは、本発明のhGH結合タンパク質をコードする配列からなるポリヌクレオチドであればよい。
【0020】
本発明のhGH結合タンパク質をコードする配列からなるポリヌクレオチドは公知の方法により調製することが可能である。前記ポリヌクレオチド調製法の一例として、以下に示す、市販の成長ホルモンレセプターcDNAを鋳型としたPCR法による調製法があげられる。
(A)配列番号1のうち1番目のフェニルアラニンから124番目のセリンまでのアミノ酸をコードする配列からなるポリヌクレオチドの3’末端側に配列番号2に記載のポリペプチドをコードする配列からなるポリヌクレオチドが付加した配列からなるポリヌクレオチドを、前記ポリヌクレオチドを増幅可能なプライマーセットを用いてPCR法で増幅し、hGH結合タンパク質の前半部分をコードする配列からなるポリヌクレオチドを調製する。
(B)配列番号1のうち136番目のプロリンから238番目のグルタミンまでのアミノ酸をコードする配列からなるポリヌクレオチドの5’末端側に配列番号2に記載のポリペプチドをコードする配列からなるポリヌクレオチドが付加した配列からなるポリヌクレオチドを、前記ポリヌクレオチドを増幅可能なプライマーセットを用いてPCR法で増幅し、(A)と重複する配列とhGH結合タンパク質の後半部分をコードする配列からなるポリヌクレオチドを調製する。
(C)(A)及び(B)で調製したポリヌクレオチドを混合したものを鋳型として、(A)で調製したポリヌクレオチドの5’末端側を含むプライマーと、(B)で調製したポリヌクレオチドの3’末端側を含むプライマーを用いて、PCR法で増幅し、本発明のhGH結合タンパク質をコードする配列からなるポリヌクレオチドを調製する。
なお、前記調製方法において(C)で調製したポリヌクレオチドを鋳型に、アミノ酸の置換、及び/または欠失、及び/または付加するように設計したプライマーセットを用いてPCR法で増幅を行なう、またはエラープローンPCR法にて増幅を行なうことで、1残基以上のアミノ酸の置換、及び/または欠失、及び/または付加された、hGH結合タンパク質をコードしたポリヌクレオチドを調製することができる。
【0021】
前記ポリヌクレオチド調製法の別の例としては、本発明のhGH結合タンパク質をコードする配列からなるポリヌクレオチドの全長を網羅するように、例えば20塩基から50塩基程度の塩基からなるプライマーセットを設計後、前記プライマーセットを用いてPCR法にて人工的に前記ポリヌクレオチドを調製する方法があげられる。なお、当該調製法において、前記ポリヌクレオチド配列を設計する際は、形質転換する宿主におけるコドンの使用頻度を考慮して設計したほうが、宿主を用いた効率的なタンパク質発現ができる点で好ましい。また、アミノ酸の置換、及び/または欠失、及び/または付加するように設計したプライマーセットを用いれば、1残基以上のアミノ酸の置換、及び/または欠失、及び/または付加された、hGH結合タンパク質をコードしたポリヌクレオチドを調製することもできる。
【0022】
前記方法により得られた本発明のhGH結合タンパク質をコードする配列からなるポリヌクレオチドは、通常の遺伝子工学の分野で使用される相応のベクター系に導入することで種々の宿主で本発明のhGH結合タンパク質を発現することができる。宿主としては細菌、酵母、カビ、昆虫細胞、動物細胞又は植物細胞が例示できるが、取扱い易さ、培養の容易性、高密度培養の可否、更には遺伝子操作における宿主/ベクター系が整備されている点で、細菌、特に大腸菌に代表されるエシェリヒア(Escherichia)属の細菌が好ましい。形質転換に用いる大腸菌(Escherichia coli)としては、JM109、JM110、HB101、BL21、BL21(DE3)、BLR(DE3)といった株が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
本発明のhGH結合タンパク質をコードする配列からなるポリヌクレオチドは、制限酵素を用いて適切なプラスミドに挿入することで前記ポリヌクレオチドを有するプラスミドを調製後、宿主(例えば、大腸菌JM109やHB101)へ形質転換することで本発明のhGH結合タンパク質を発現可能な宿主を調製することができる。本発明のhGH結合タンパク質を発現させるためのプラスミドとして、例えばpTrc99A(GenBank ACCESSION No.U13872)、pSTV28(商品名、タカラバイオ社製)、pSTV29(商品名、タカラバイオ社製)、pCDF−1b(商品名、メルク社製)、pRSF−1b(商品名、メルク社製)、pET−26b(+)(商品名、メルク社製)が例示できる。本発明のhGH結合タンパク質をコードしたポリヌクレオチドを前記プラスミドに挿入する際は、前記ポリヌクレオチドのフレームシフトが生じないようにプラスミド内のマルチクローニングサイトに挿入すればよい。なお、挿入したポリヌクレオチドの5’末端側、または3’末端側に適切なアミノ酸をコードするオリゴヌクレオチドが付加されるように設計されたプラスミドを用いることで、本発明のhGH結合タンパク質をコードする配列に付加配列をもった配列からなるポリヌクレオチドを作製することもできる。一例として、プラスミドpET−26b(+)(商品名、メルク社製)の制限酵素NdeIサイトを利用することで、本発明のhGH結合タンパク質のN末端側にメチオニン(さらに、任意のアミノ酸を付加してもよい)が付加したタンパク質をコードする配列からなるポリヌクレオチドを挿入したプラスミドを調製することができる。別の例として、プラスミドpTrc99A(GenBank ACCESSION No.U13872)の制限酵素EcoRIサイトを利用することで、本発明のhGH結合タンパク質のN末端側にメチオニンとグルタミン酸(さらに、任意のアミノ酸を付加してもよい)が付加したタンパク質をコードする配列からなるポリヌクレオチドを挿入したプラスミドを調製することができる。
【0024】
さらに、ペクチン酸リアーゼ(PelB)、アルカリフォスファターゼ、β−ラクタマーゼといったタンパク質の分泌シグナル配列に、直接、または1残基以上のアミノ酸をコードするオリゴヌクレオチド配列を付加した、本発明のhGH結合タンパク質をコードする配列からなるポリヌクレオチドを挿入したプラスミドを宿主に形質転換することで、hGH結合タンパク質、または本発明のhGH結合タンパク質に、挿入した1残基以上のアミノ酸残基が付加したタンパク質を、宿主のペリプラズム画分に分泌させることもできる。例えば、本発明のhGH結合タンパク質をコードする配列からなるポリヌクレオチドを、プラスミドpET−26b(+)(商品名、メルク社製)のマルチクローニングサイト上の制限酵素MscIサイト、あるいは制限酵素MscIサイトとマルチクローニングサイト上のもう一つ別の制限酵素サイトの間にフレームシフトが生じないように挿入することで、PelBシグナル配列を連結した本発明のhGH結合タンパク質をコードする配列からなるポリヌクレオチドを挿入したプラスミドを調製することができる。
【0025】
本発明のhGH結合タンパク質は、前記タンパク質をコードした配列からなるポリヌクレオチドを挿入した発現用プラスミドを宿主へ形質転換し、形質転換した宿主を培養・増殖後、さらに適当な誘導剤を培地に加えて遺伝子発現を誘導しながら培養を行ない、培養した菌を集菌後、凍結融解、リゾチーム消化処理、超音波処理あるいはそれらの組み合わせにより菌を破砕することで得られる。分泌シグナルを用いた宿主/ベクター系の場合は、可溶性画分にhGH結合活性を有した分子として本発明のhGH結合タンパク質を得ることができる。例えば、hGH結合タンパク質をコードする配列からなるポリヌクレオチドと、プラスミドpET−26(+)中にあるPelB分泌シグナル配列をコードする配列からなるポリヌクレオチドとをタンパク質翻訳時にフレームシフトが生じないように連結したプラスミドを調製し、前記プラスミドを大腸菌に形質転換後、遺伝子発現の誘導剤であるイソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトシド(IPTG)を含んだ培地で培養することで、発現が誘導され、PelB分泌シグナル配列がシグナルペプチダーゼにより加水分解されて除かれたhGH結合タンパク質が、大腸菌菌体のペリプラズム層に生産され、菌の破砕により可溶性画分にhGH結合タンパク質が得られる。
【0026】
一方、分泌シグナルを用いない宿主/ベクター系では、hGH結合活性が不活性な分子として不溶性画分に本発明のhGH結合タンパク質を得ることができる。分泌シグナルを用いない宿主/ベクター系で得られた不溶性かつ不活性なhGH結合タンパク質は、公知の技術を用いて溶解やリフォールディングを行なうことで活性化させればよく、例えば、還元剤を加えた変性剤溶液に溶解したのち、還元剤および変性剤が適度に希釈された(好ましくは20倍以上、より好ましくは30倍以上に希釈された)溶液中でhGH結合タンパク質をリフォールディングさせればよい。より具体的には、還元剤を加えた変性剤溶液として、3から8M濃度の尿素または2から6M濃度の塩酸グアニジンを含んだpH 7.5から8.5のトリスヒドロキシメチルアミノメタン−塩酸緩衝液(トリス塩酸緩衝液)からなる変性剤溶液に、還元剤としてジチオスレイトールを例えば10mMになるように加えた溶液をあげることができる。変性剤として尿素を用いる場合には、尿素の分解物により生じる反応で起こるタンパク質のアミノ基の修飾を防ぐ目的で、リジンあるいはリジン塩酸塩を10から100mM程度加えることが好ましい。前記手法はhGHをリガンドに用いた担体への結合を利用したアフィニティークロマトグラフィーにおいて、hGHに結合したhGH結合タンパク質を遊離させる緩衝液に尿素を用いる場合にも応用できる。還元剤を加えた変性剤溶液に溶解したhGH結合タンパク質の希釈には、例えば2mM還元型グルタチオン、0.2mM酸化型グルタチオン、3mM EDTAを含んだトリス塩酸緩衝液を用いればよい。なお、トリス塩酸緩衝液のpHは7.5から8.5にすればよい。また、可溶化及びリフォールディングの方法には前記の例以外にもさまざまな方法が公知であるため、状況に応じて適宜最適な方法を選択すればよい。
【0027】
遺伝子工学的手法により得られた、本発明のhGH結合タンパク質は、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、金属キレート担体への結合を利用したアフィニティークロマトグラフィー、hGHをリガンドに用いた担体への結合を利用したアフィニティークロマトグラフィー、またはそれらのクロマトグラフィーを組み合わせることによって精製することができる。
【0028】
本発明のhGH結合タンパク質は不溶性の担体に吸着あるいは結合させることができ、目的に応じた材質、形状の基材に固定することで、hGHの定量、結合性の評価、分離/精製に用いることができる。
【0029】
本発明のhGH結合タンパク質を固定化する担体としては、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、あるいはセルロース系ポリマー、アガロース系ポリマー、デキストリン系ポリマー、キチン系ポリマー、またあるいは磁性粒子が例示できる。基材の形状としてはゲル状、粒子状、スポンジ状、平膜状、平板状、中空糸膜状、繊維状など特に制限はない。
【0030】
本発明のhGH結合タンパク質を担体に固定するためには、担体表面に活性基を含有させ、それを利用して本発明のhGH結合タンパク質を固定化する方法や、本発明のhGH結合タンパク質を予め化学修飾して活性基を導入し、それを利用して官能基を含有する基材に固定化する方法などがあげられる。活性基としては、ホルミル基、エポキシ基、2,2,2−トリフルオロエチルスルホニル基(トレシル基)、スクシンイミド基、イソシアナート基、メルカプト基、ピリジルジスルフィド基、イミダゾリルカルバミン酸基などがあげられ、前記活性基を利用してhGH結合タンパク質を共有結合により固定化することができる。また、例えば臭化シアン法(非特許文献8)により、イミドカルボネート構造を導入して活性化した担体にhGH結合タンパク質を固定化することもできる。前記担体の例としては、AF−Formyl−650M(商品名)、AF−Epoxy−650M(商品名)、AF−Tresyl−650M(商品名、以上東ソー社製)、NHS−activated Sepharose 4FF(商品名)、Epoxy−activated Sepharose 6B(商品名)、CNBr−activated Sepharose 4FF(商品名、以上GEヘルスケア バイオサイエンス社製)、Reacti−Gel(GF−2000)Support(商品名、ピアス社製)といった予め活性基が導入された市販の樹脂をあげることができる。担体へ固定する際は、hGH結合タンパク質が実質的な機能を失わない条件で行なうことが好ましく、pHが4から10、より好ましくは6から8の緩衝液で、かつ前記緩衝液成分が活性基と反応しない組成であることが好ましい。反応温度はhGH結合タンパク質を溶かした緩衝液が凍結しない温度から40℃の間、より好ましくは4から25℃が望ましく、反応時間は数分間から数日間の間で最適な条件を探ればよい。なお、前述した予め活性基が導入された市販の樹脂を使用する場合は、それぞれの樹脂の使用法に則った、適切な条件でhGH結合タンパク質を固定化すればよい。
【0031】
また共有結合によらず、リガンドを介して本発明のhGH結合タンパク質を担体に固定化することもできる。例えば、ニッケルイオンやコバルトイオンなどの金属イオンに配位結合できる3座あるいは4座の配位子からなる金属錯塩(キレート)を固定化した担体の金属イオンに対して、本発明のhGH結合タンパク質を配位結合させた担体をつくることができる。前記担体の例としては、His・Bind Resin(商品名、メルク社製)、Chelating Sepharose Fast Flow(商品名、GEヘルスケア バイオサイエンス社製)や、予めニッケルイオンがキレートされているNi−NTA Spin Kit(50)(商品名、キアゲン社製)、Ni−NTA Magnetic Agarose Beads(商品名、キアゲン社製)があげられる。
【0032】
また本発明のhGH結合タンパク質をビオチンの誘導体で化学修飾し、ビオチンがアビジンやストレプトアビジンと結合する原理を利用してビオチン修飾した本発明のhGH結合タンパク質と結合した担体も例示できる。例えば(+)−ビオチン−N−ヒドロキシコハク酸イミドエステルで本発明のhGH結合タンパク質を化学修飾し、前記ビオチン修飾されたhGH結合タンパク質を、ストレプトアビジンが固定された担体に固定化すればよい。ストレプトアビジンが固定された担体には、Streptavidin immobilized on Agarose CL−4B(商品名、シグマ・アルドリッチ社製)やStreptavidin Sepharose HP(商品名、GEヘルスケア バイオサイエンス社製)が例示できる。
【0033】
本発明のhGH結合タンパク質を固定した担体へのhGHの吸着は、例えばpHが6から8、より好ましくは7から7.5の緩衝液で平衡化した担体にhGH溶液を導入することで、hGHを吸着させればよい。用いる緩衝液は、リン酸緩衝液やトリス塩酸緩衝液が例示できるが、これに限定されるものではない。なお、hGH結合タンパク質を共有結合していない担体の場合は、hGH結合タンパク質を担体から解離しない緩衝液であれば特に制限はない。また、緩衝液には塩類や界面活性剤を添加してもよく、hGHとhGH結合タンパク質との結合または解離への影響や、固定したhGH結合タンパク質と担体との結合または解離への影響を実験的に調べた上で使用すればよい。前記緩衝液の一例として、0.15M塩化ナトリウムを含んだ0.02Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)(PBS)、0.15M塩化ナトリウムを含んだ0.02Mトリス塩酸緩衝液(pH7.5)(TBS)、Tween 20(商品名)といった界面活性剤を0.01から0.1%含んだPBSあるいはTBSがあげられる。なお、ニッケルイオンをキレートした担体に固定したhGH結合タンパク質の場合は、10から100mM、好ましくは30から60mMのイミダゾールを緩衝液に加えることで非特異的な結合を抑制できる。
【0034】
本発明のhGH結合タンパク質に吸着したhGHは、例えば8M尿素を加えた緩衝液で溶出できる。
【発明の効果】
【0035】
本発明のヒト成長ホルモン結合タンパク質は、ヒト成長ホルモンと結合可能な新規のタンパク質である。また、本発明のタンパク質を適切な担体に固定することで、ヒト成長ホルモンを特異的に分離可能な吸着剤として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】成熟型ヒト成長ホルモン受容体(hGHR)と本発明のヒト成長ホルモン結合タンパク質(hGHbp238m9(H6))の一次構造の模式図。
【図2】実施例1及び2で調製したプラスミドの模式図。
【図3】本発明のヒト成長ホルモン結合タンパク質(hGHbp238m9(H6))のエンザイムイムノアッセイの結果。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらは一例であり、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0038】
実施例1 プラスミドpET―hGHbp258の作製
配列番号3に示したヒト成長タンパク質受容体(hGHR)のアミノ酸配列のうち19番目のフェニルアラニンから276番目のフェニルアラニンまでをコードした配列番号4のポリヌクレオチドを調製した。
(1)以下の試薬組成及び反応条件にてPCR反応を行なった。
【0039】
(試薬組成)(総反応液量:50μL)
0.01unit/μL PrimeSTAR HS DNA Polyme
rase(商品名、タカラバイオ社製)
各5.2nM 配列番号5から10に示したプライマー
各4nM 配列番号11から18に示したプライマー
各3.2nM 配列番号19から26に示したプライマー
各2.4nM 配列番号27から34に示したプライマー
各2nM 配列番号35から38に示したプライマー
酵素に付属するバッファー
(反応条件)
サーマルサイクラーを用い、98℃・10秒間、55℃・5秒間、72℃・50
秒間のPCR反応を7サイクル実施した。
(2)配列番号39と40に示したプライマーをそれぞれ10μM含んだ水溶液2μLをPCR反応後の(1)の反応液に添加後、さらに98℃・10秒間、55℃・5秒間、72℃・50秒間のPCR反応を30サイクル行なった。
(3)PCR反応後の(2)の反応液をアガロースゲル電気泳動で泳動後、目的産物に相当する0.8kbpのバンドを切り出すことで、PCR産物を精製した。
(4)精製したPCR産物を、制限酵素StuIとHindIIIで二重消化し、消化後のDNAがペクチン酸リアーゼ(PelB)分泌シグナル配列をコードするDNAに連結されるようにプラスミドpET−26(+)の制限酵素MscI−HindIIIサイトに、DNA Ligation Kit ver.2.1(商品名、タカラバイオ社製)を用いてライゲーションしてプラスミドを調製後、大腸菌JM109へ形質転換した。
(5)形質転換したJM109を培養後、集菌し、Plasmid Miniprep Kit I,E.Z.N.A.(商品名、オメガ バイオテク社製)を用いてプラスミドpET―hGHbp258(サイズは6.1kbp、図2)を得た。
【0040】
実施例2 組替え大腸菌BLR(DE3)/pRSF−hGHbp238m9(H6)の作製
実施例1で得られたプラスミドpET―hGHbp258(図2)から、以下の方法で組替え大腸菌BLR(DE3)/pRSF−hGHbp238m9(H6)を作製した。
(1)プラスミドpET−hGHbp258(図2)を鋳型にして、配列番号41と42に示したプライマーを用いてPCR反応を行ない、サイズが0.38kbpのDNAを得た後、制限酵素EcoRIとXhoIで二重消化することでインサートDNA(DNA−1)を得た。
(2)プラスミドpET−hGHbp258(図2)を鋳型にして、配列番号43と44に示したプライマーを用いてPCR反応を行ない、サイズが0.35kbpのDNAを得た後、制限酵素XhoIとHindIIIで二重消化することでインサートDNA(DNA−2)を得た。
(3)得られたインサートDNA(DNA−1とDNA−2)をプラスミドpTrc99AのEcoRI−HindIIIサイトにライゲーションしたプラスミドを作製し、前記プラスミドを用いて大腸菌HB101へ形質転換した。
(4)形質転換したHB101を培養後、集菌し、プラスミドpTrc−hGHbp238m9(H6)(サイズは4.8kbp、図2)を調製した。
(5)プラスミドpTrc−hGHbp238m9(H6)(図2)を制限酵素NcoIとHindIIIで二重消化して得られた0.7kbpのDNAを、プラスミドpRSF−1bのNcoI−HindIIIサイトにライゲーションして環化させた。前記プラスミドを用いて、大腸菌BLR(DE3)へ形質転換することで、大腸菌BLR(DE3)/pRSF−hGHbp238m9(H6)を得た。
【0041】
当該方法で得られた、プラスミドpRSF−hGHbp238m9(H6)(図2)に挿入されているhGHbp238m9(H6)の塩基配列を分析した結果、塩基配列は配列番号45に示す配列であった。また、前記塩基配列から翻訳されるヒト成長ホルモン(hGH)結合タンパク質であるhGHbp238m9(H6)のアミノ酸配列を配列番号46に示した。なお、配列番号46は配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、125番目のバリンから133番目のプロリンを配列番号2に示すアミノ酸配列に置換したアミノ酸配列のN末端側に、メチオニンとグルタミン酸が付加した配列と同一である。
【0042】
実施例3 hGHbp238m9(H6)タンパク質の調製
実施例2で得られた大腸菌BLR(DE3)/pRSF−hGHbp238m9(H6)より、以下の方法でhGHbp238m9(H6)タンパク質を調製した。
(1)大腸菌BLR(DE3)/pRSF―hGHbp238m9(H6)を、15μg/mLカナマイシン、1% YEAST EXTRACT、1.6%トリプトン、0.5%塩化ナトリウムを含んだ培地(2×YT/Km培地)に菌濁度(O.D.600)が0.6になるように植菌後、37℃で培養した。
(2)菌濁度がおよそ1.2になったところで、濃度が0.1mMになるようにIPTGを添加し、誘導培養を4時間行なった。得られた培養液の菌濁度は5.2であった。
(3)(2)の培養液0.5Lを氷冷後に遠心分離して集菌した。集めた菌を5mM EDTAを含む50mMトリス塩酸緩衝液(pH 8.0)50mLに懸濁した後、遠心分離して集菌することで菌を洗浄した。前記洗浄操作を再度行ない、菌を前記緩衝液に懸濁(菌濁度がO.D.600でおよそ69)させた後、菌を超音波破砕し、遠心分離により不溶性画分を得た。
(4)得られた不溶性画分は、150mM塩化ナトリウム及び20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.5)を含んだ14mLのPBSに懸濁したのち、さらに2mLの8Mグアニジン塩酸を加えて不溶性画分を懸濁した。前記懸濁液は、6Mグアニジン塩酸を含んだPBS(6M Gdn/PBS)に溶解後、遠心分離して沈殿を除去することで、hGHbp238m9(H6)溶液14.6mLを得た。
【0043】
当該方法で得られたhGHbp238m9(H6)溶液のタンパク質濃度をγ―グロブリンを標準タンパクとしたプロテインアッセイキットI(商品名、バイオラッド社製)を用いて比色定量した結果、タンパク質濃度は6.4mg/mLであった。
【0044】
実施例4 hGHbp238m9(H6)のエンザイムイムノアッセイ
実施例3で調製したhGHbp238m9(H6)タンパク質について、以下の方法でエンザイムイムノアッセイを行なった。
(1)96穴イムノプレートに50mMトリス塩酸緩衝液(pH 8.0)で調製した10μg/mL hGHを100μL/well加えて、4℃で一晩インキュベートしてhGHを吸着させた。
(2)150mM塩化ナトリウム、20mMトリス塩酸緩衝液(pH 7.5)(TBS)に0.1% Tween 20(商品名)を加えた緩衝液(TBS−T)で洗浄した。
(3)1%ウシ血清アルブミンを含んだTBS−T(ブロッキング緩衝液)、200μL/well加えて、30℃で2時間インキュベートすることでブロッキングした。
(4)ブロッキング後のイムノプレートをTBS−Tで洗浄したのち、ブロッキング緩衝液で希釈したhGHbp238m9(H6)(実施例3で調製)を、100μL/well加え、30℃で1時間インキュベートした。
(5)TBS−Tで洗浄することでB/F分離をしたのち、0.5μg/mLマウス抗hGHレセプター抗体を100μL/well加えて30℃で1時間インキュベートした。
(6)TBS−Tで洗浄することでB/F分離をしたのち、ブロッキング緩衝液で適度に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ヤギ抗マウスIgG抗体を100μL/well加えて30℃で1時間インキュベートした。
(7)TBS−Tで洗浄することでB/F分離をしたのち、イムノプレートのHRP活性を、TMB Microwell Peroxidase Substrate、2−Component System(商品名、Kirkegaard and Perry Laboratories社製)を用いて測定した。基質溶液の1/2容量の1Mリン酸を加えて反応を停止させたのち、反応生成物の450nmの吸光度を測定して、イムノプレート上のhGHへのhGHbp238m9(H6)の吸着を調べた。
【0045】
hGHbp238m9(H6)のエンザイムイムノアッセイの結果を図3に示す。hGHbp238m9(H6)の濃度に依存して、イムノプレート上のhGHと結合していることが示された。
【0046】
実施例5 hGHbp238m9(H6)結合キレート樹脂の調製
実施例3で調製したhGHbp238m9(H6)タンパク質を、下記の方法でキレート樹脂に固定した。
(1)予めニッケルイオンを結合し、6Mグアニジン塩酸と20mMイミダゾールを含んだPBS−T(平衡化緩衝液1)で平衡化した、樹脂容量0.5mLのHis・Bind Resin(商品名、メルク社製)をカラムに充填した。
(2)実施例3で調製したhGHbp238m9(H6)溶液に、1/50容量の1Mイミダゾールと1/100容量の10% Tween 20(商品名)を混合した溶液を(1)のカラムにロードした。
(3)1mLの平衡化緩衝液1で洗浄後、2mLの50mMイミダゾールを含んだPBS−Tで洗浄した。
(4)カラムを素通りした画分及びカラム洗浄画分に含まれるhGHbp238m9(H6)を、実施例4に記載のエンザイムイムノアッセイで定量した。
【0047】
(4)の定量値をカラムにロードしたhGHbp238m9(H6)の量から差し引くことで、ニッケルイオンを結合したHis・Bind Resinに結合した量を算出した結果、2.2mgのhGHbp238m9(H6)がキレート樹脂に結合していることがわかった。
【0048】
実施例6 hGHbp238m9(H6)結合キレート樹脂へのhGHの吸着と溶出
実施例5で調製したhGHbp238m9(H6)結合キレート樹脂を用いて、hGHの吸着と溶出を行なった。
(1)実施例5で調製したhGHbp238m9(H6)結合キレート樹脂を充填したカラムに50mMイミダゾールを含んだPBS−T(平衡化緩衝液2)で調製したhGH(0.5mg)をロードした。
(2)1.5mLの平衡化緩衝液2、次いで1mLのPBSで前記カラムを洗浄後、8M尿素を含んだPBSでhGHを溶出させた。
【0049】
樹脂を素通りした画分および洗浄画分中のhGHの総和(非吸着画分)をプロテインアッセイキットI(商品名、バイオラッド社製)で比色定量した結果、非吸着画分はロード量の95%を含んでいた。すなわち5%が吸着したと算出された。
【0050】
hGHを溶出させた後の樹脂は、1.5mLのPBS−Tで洗浄後、20mM EDTA、1M塩化ナトリウム、0.1% Tween 20(商品名)を含んだ0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)1.5mLでhGHbp238m9(H6)を溶出させた。ゲル濃度12.5%のSDS−ポリアクリルアミドゲルで電気泳動した結果、1.5mLの20mM EDTA、1M塩化ナトリウム、0.1% Tween 20(商品名)を含んだ0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)で溶出された画分にhGHbp238m9(H6)に相当するタンパク質バンドを確認した。
【0051】
実施例7 hGHの定量
実施例5で調製したhGHbp238m9(H6)結合キレート樹脂に吸着したhGHを以下の方法で定量した。
(1)96穴イムノプレートに50mMトリス塩酸緩衝液(pH 8.0)で調製した5μg/mL マウス抗hGH抗体を100μL/well加えて、4℃で一晩インキュベートしてhGHを吸着させた。
(2)150mM塩化ナトリウムを含んだ20mMトリス塩酸緩衝液(pH 7.5)(TBS)に0.1% Tween 20(商品名)を加えた緩衝液(TBS−T)で洗浄後、1%ウシ血清アルブミンを含んだTBS−T(ブロッキング緩衝液)を200μL/well加えて、30℃で2時間インキュベートすることでブロッキングした。
(3)ブロッキング後のイムノプレートをTBS−Tで洗浄したのち、ブロッキング緩衝液で希釈した実施例6で得た画分を、100μL/well加えて、30℃で1時間インキュベートした。
(4)TBS−Tで洗浄することでB/F分離をしたのち、0.6μg/mLビオチン標識ウサギ抗hGH抗体を100μL/well加えて30℃で1時間インキュベートした
(5)TBS−Tで洗浄することでB/F分離をしたのち、ブロッキング緩衝液で適度に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ストレプトアビジンを100μL/well加えて30℃で1時間インキュベートした。
(6)TBS−Tで洗浄することでB/F分離をしたのち、イムノプレートのHRP活性を、TMB Microwell Peroxidase Substrate、2−Component Systemを用いて測定した。基質溶液の1/2容量の1Mリン酸を加えて反応を停止させたのち、450nmの吸光度を測定した。
【0052】
結果、実施例6で8M尿素を含んだPBSで溶出された画分は、hGHbp238m9(H6)結合キレート樹脂にロードしたhGH量の4.2%を含んでいた。
【0053】
比較例1 hGHbp238m9(H6)を結合していないキレート樹脂へのhGHの吸着
hGHbp238m9(H6)を含まない溶液で実施例5と同様に調製した樹脂を用いて、実施例6と同様の操作を行ない、樹脂を素通りした画分および洗浄画分中のhGHを、プロテインアッセイキットIを用いて比色定量した結果、ロード量のほぼ100%を含んでいた。
【0054】
比較例2 hGHbp238m9(H6)を結合していないキレート樹脂からのhGHの溶出
hGHbp238m9(H6)を含まない溶液で実施例5と同様に調製した樹脂を用いて、実施例6と同様の操作を行ない、8M尿素を含んだPBSで溶出された画分を実施例7と同様に分析した結果、ロード量の0.5%を含んでいた。実施例5から7、比較例1及び2の結果をまとめたものを表1に示す。
【0055】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示すアミノ酸配列からなるヒト成長ホルモン結合タンパク質において、125番目のバリンから133番目のプロリンまでの領域が、配列番号2に示すアミノ酸配列に置換されていることを特徴とする、前記ヒト成長ホルモン結合タンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載のヒト成長ホルモン結合タンパク質において、配列番号2に示すアミノ酸配列に置換されている領域以外のアミノ酸のうちの1残基以上が、他のアミノ酸に置換、及び/または欠失、及び/または付加されていることを特徴とする、ヒト成長ホルモン結合タンパク質。
【請求項3】
請求項1または2に記載のヒト成長ホルモン結合タンパク質をコードする配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項3に記載のポリヌクレオチドを含む発現プラスミドを、宿主へ形質転換することにより得られる、ヒト成長ホルモン結合タンパク質を発現可能な宿主。
【請求項5】
請求項4に記載の宿主を用いた、ヒト成長ホルモン結合タンパク質の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載のヒト成長ホルモン結合タンパク質を担体に固定することで得られる、ヒト成長ホルモン吸着剤。
【請求項7】
請求項6に記載のヒト成長ホルモン吸着剤を用いた、ヒト成長ホルモンの精製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−178689(P2010−178689A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25901(P2009−25901)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(000173762)公益財団法人相模中央化学研究所 (151)
【Fターム(参考)】