説明

成長因子のプロペプチド

【課題】成長因子のプロペプチドの新たな使用を提供する。
【解決手段】成長因子前駆体から成熟型成長因子部分を除いたプロペプチドの生理活性物質としての使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロペプチドの生理活性物質、特に成長因子の阻害剤としての使用、プロペプチドの作用を抑制する薬物のスクリーニング方法に関する。
【0002】
なお、本明細書において、「プロペプチド」は成長因子前駆体から成熟型成長因子になるときに切断されて除かれる部分を意味する。
【背景技術】
【0003】
成長因子の1つであるBDNFはBDNF前駆体として産生され、成熟型BDNFとなるときにプロペプチド部分が切断される。一般的に前駆体タンパク質は、プロペプチドが切断されて成熟型タンパク質になるが、このプロペプチドは生理活性がなく、成熟型タンパク質にのみ生理活性が存在すると考えられていた。
【0004】
特許文献1は、非切断性proBDNF誘導体が神経細胞死促進作用を有することを記載している。
【0005】
特許文献2は、非切断性proBDNF遺伝子を導入した非ヒトノックイン動物を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4457216号
【特許文献2】特開2007-306899
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、成長因子前駆体が産生される場合、成熟型成長因子の生理活性が注目され、特許文献1、2には、非切断性proBDNFの生理作用は示されているが、成長因子前駆体から切断されて除かれるプロペプチドの生理活性については、調べられていなかった。
本発明は、プロペプチド(成長因子がBDNFの場合には配列番号3の19番アラニンから128
番のアルギニンに対応)に関連する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、成長因子前駆体から成熟型成長因子を産生する際に副生されるプロペプチドは不活性な物質ではなく、それ自身生理活性を有し、生理活性物質として使用できることを見出した。
【0009】
本発明は、以下のプロペプチドの使用、成長因子の阻害剤、薬物のスクリーニング方法を提供するものである。
項1. 成長因子前駆体から成熟型成長因子部分を除いたプロペプチドの生理活性物質としての使用。
項2. 前記プロペプチドが成熟型成長因子の少なくとも1つの生理活性を抑制すること
を特徴とする、項1に記載の使用。
項3. 成長因子がBDNFである、項1または2に記載の使用。
項4. 成長因子前駆体から切断された前記プロペプチドと前記成熟型成長因子が切断後も強固な結合を有する、項1〜3のいずれかに記載の使用。
項5. 成長因子前駆体から成熟型成長因子部分を除いたプロペプチドを有効成分とする
前記成長因子の阻害剤。
項6. 成長因子がBDNFであり、BDNFのプロペプチドを有効成分とする、項5に記載の成長因子の阻害剤。
項7. in vivoまたはin vitroで細胞に成長因子前駆体から成熟型成長因子部分を除い
たプロペプチドを作用させ、次いで該細胞に候補化合物を作用させることを特徴とする前記プロペプチドの作用を抑制する薬物のスクリーニング方法。
項8. 前記プロペプチドがBDNFのプロペプチドであり、前記薬物が抗うつ薬である、項7に記載のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0010】
一般的に成長因子前駆体からプロペプチドが切断されて成熟型成長因子になる場合、成熟型成長因子の生理活性が注目され、成長因子前駆体とプロペプチドの生理活性は注目されていない。
【0011】
本発明者は、成長因子のプロペプチドは、成熟型成長因子と結合することにより、或いはそれ自身で成長因子の阻害作用などの成長因子の作用を調節する生理活性を有することを見出した。このことにより、今後はプロペプチドの生理活性について注目されることになり、成長因子の真の作用メカニズムが明らかにされると期待される。
【0012】
例えば、BDNF前駆体は神経細胞死促進作用を有し、BDNFプロペプチドについてもBDNFの機能の抑制を通じて神経細胞死促進作用を有することが予測され、BDNFのプロペプチドの機能を抑制することで、脳疾患の発症予防ないし治療が可能であると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】BDNFプロペプチド 神経栄養因子BDNFは、最初に前駆型BDNF(proBDNF)として合成された後、細胞内外のプロテアーゼによる切断により、成熟型(mature BDNF)へと変換される。しかし、その際に副生するBDNFプロペプチド(図中ピンク)の生理機能は理解されていなかった。
【図2】BDNFプロペプチド標品の確認実験方法に記載した方法で精製し、銀染色(Silver staining)およびproBDNF抗体を用いてウエスタンブロットを行った。
【図3】成熟BDNFとプロペプチドとの相互作用解析ビアコア装置(GEヘルスケア)を用いてアッセイを行った。各グラフで使用したテスト化合物(成熟BDNF)濃度を図中に示した。これらの実験から得られた解離定数Kdは3.2×10-8 Mであった。
【図4】成熟BDNFとそのレセプターボディTrkB-IgG(TrkB-Fc)の前反応によりプロペプチドとBDNFの相互作用は阻害される。15 nM BDNFとグラフに記載した濃度のTrkB-IgG(TrkB-Fc)を4℃30分反応した後、図3と同様にビアコアアッセイを行った。
【図5】BDNFプロペプチドはBDNFのLTD抑制効果を阻害する実験方法に記載のように、海馬スライスにおける神経伝達の長期抑圧現象(LTD:long term-depression)の測定系を構築した。その誘導時間(LFS:1Hz 900pulse;15min)を破線で示し、テスト化合物の添加時間を実線で示した。BDNF(10ng/ml)のみを添加した場合(灰色)、LTDが有意に減弱された(p < 0.05)。つまり、既報の結果(Woo et al., Nat. Neurosci. 8,1069-1077, 2005)に一致した。しかし、図4の実験のように、BDNF(10ng/ml)とBDNFプロペプチド(10ng/ml)を前もって混合し添加した場合(黒)、BDNFによるLTD抑制効果が阻害されることを新しく見出した。実験に使用したスライス枚数:11(白色)、10(灰色)、7(黒色) 統計処理:Tukey's multiple comparison test *: p < 0.05 初期記録20分を基準(100%)としたfEPSPの傾き(mV/msec)における変化率をプロットし、インセットグラフは、LFS60分後のfEPSPを相対値で表現している。
【図6】BDNFプロペプチドはLTDを促進する図5と同様に実験は行った。BDNFプロペプチド(10ng/ml)のみをLTD誘導時に添加した場合、LTDは有意に促進することを新しく見出した(p < 0.05)。proBDNF(特4457216)の作用は既報(Woo et al., Nat. Neurosci. 8,1069-1077, 2005)に一致した。スライス枚数:11(白色)、7(灰色)、8(黒色)統計処理:Tukey's multiple comparison test *: p < 0.05 初期記録20分を基準(100%)としたfEPSPの傾き(mV/msec)における変化率をプロットし、インセットグラフは、LFS60分後のfEPSPを相対値で表現している。
【図7】BDNFプロペプチドはAMPA型グルタミン酸受容体のサブユニットGluR1の細胞表層での集積を低下させる培養3週後の海馬神経細胞をテスト化合物(BDNFあるいはBDNFプロペプチドを50 ng/ml)で30分間処理し、細胞表面に集積するGluR1を蛍光抗体染色した。既報(Narisawa-Saito, et al. J. Biol. Chem., 277, 40901-40910, 2002)に一致し、BDNFはGluR1の集積を誘導した。しかし、BDNFプロペプチドはその集積を抑制し、図6に示した電気生理学の実験結果を支持した。実験に使用した細胞数31 個 統計処理:Tukey's multiple comparison test *: p < 0.05 スケール:5 μm 写真は代表的な蛍光画像であり、グラフはGluR1集積蛍光を統計処理後プロットした。
【図8】BDNFプロペプチドビアコアチップを用いた血漿中BDNF反応の迅速測定図3と同様にビアコアアッセイを行った。proBDNF→BDNFが著しく非効率化したマウス(特開2007-306899)のホモ接合体(青)および同腹コントロールマウス(赤)の血漿を総タンパク量で補正後、その希釈系列を図のように調製した。ビアコア測定は図3と同様に行った。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において成長因子としては、上皮成長因子(EGF,AAI13462)、インスリン様成長因子(IGF, CAA40342)、トランスフォーミング成長因子(TGFβ, AAA36738)、神経成長因子(NGF, AAH32517)、脳由来神経栄養因子(BDNF, CAA62632)、血管内皮細胞増殖
因子(VEGF, NP_003369)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF, CAA2729)、顆粒球マクロ
ファージコロニー刺激因子(GM-CSF, AAA52578)、血小板由来成長因子(PDGF, AAA60552)、エリスロポエチン(EPO, AAI43226)、トロンボポエチン(TPO, AAB33390)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF, AAA52534)、肝細胞増殖因子(HGF, AAA64297)、線維芽細
胞増殖因子(FGF, CAA28027)、骨形成タンパク質(BMP, P12643)、NT3 (NP_001096124)、NT4 (NP_006170)などが挙げられる。
【0015】
成長因子の起源は特に限定されず、ヒト、ウシ、ブタ、サル、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラットなどの哺乳動物、ニワトリ、アヒルなどの鳥類、カエルなどの両生類等の動物が広く例示できる。ヒトの成長因子が好ましい。
【0016】
成長因子前駆体、成熟型成長因子、成長因子のプロペプチドの配列は公知であり、上記アクセッション番号のデータベースに記載されている。
【0017】
以下、成長因子としてヒトBDNFを例に挙げて説明するが、BDNF以外の成長因子についても同様にプロペプチドは生理活性を有するであろう。
【0018】
BDNF前駆体は、furinやtissue plasminogen activator (tPA)により切断されて成熟型BDNFとBDNFプロペプチドに分かれる(図1)。BDNF前駆体は、成熟型BDNFとBDNFプロペプ
チドに分かれて存在すると考えられるが、生理的pH条件下では両者は強い相互作用があり、結合した状態で存在すると考えられる。実際、BDNFプロペプチドは成熟型BDNFのLTD抑
制効果を阻害する。
【0019】
以下、実施例を用いて詳細を説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0020】
実施例1
BDNFプロペプチド遺伝子の作製
BDNFプロペプチド(図1と配列番号3:当該BDNFのアミノ酸番号では19番アラニンから128番のアルギニンに対応)と推定されるポリペプチドを大腸菌内で大量に発現させるため
に、制限酵素BamHIにより認識される配列及びPreScission Protease(GEヘルスケア社)認識配列をコードする塩基配列を含む合成DNA
5’-ggatccgctggaagtgctgtttcagggccccgcccccatgaaagaagcaaac-3’(配列番号1)
5’-ggatccctagcgccggaccctcatggaca-3’ (配列番号2)
を用いてPCR法により増幅した。増幅遺伝子をBamHIで分解し、発現ベクターpet19b(NOVAGEN社)のBamHIサイトに組み込んだ。大腸菌(XL-1Blue)(NOVAGEN)に形質転換し、BDNFプロペプチド発現ベクターを作成した。形質転換体は、(0.05 mg/ml アンピシリン)を含むLB寒天プレート上でのコロニー形成を指標に選択した。形質転換体からBDNFプロペプチド遺伝子含有プラスミドをアルカリ法で抽出した。
【0021】
BDNFプロペプチドを含有する形質転換体の作製
1.5ml容チューブ内に、大腸菌(E.Coli)Rosetta (DE3)株(Novagen社)のコンピテントセル0.04mlと、上記調製したBDNFプロペプチド遺伝子含有プラスミドDNA溶液0.003ml(プラスミドDNA 8.4ng)を加え氷中に30分間放置した後、42℃で30秒間ヒートショックを与えた。次いで、チューブ内にSOC 培地を0.25ml加え、37℃で1時間振とう培養した。次いで、アンピシリンを含むLB寒天プレートに塗布し、37℃で一晩培養することにより形質転換体を得た。
【0022】
BDNFプロペプチドの発現と精製
得られた形質転換体をアンピシリンを含むLB培地に接種し、600 nmにおける吸光度が0.5
に達するまで37℃で培養した後、発現を誘導するためIPTG(isopropyl-b-D-thiogalactopyranoside)を加え(最終濃度1mM)さらに一晩、培養した。培養液を8,000rpmで10min遠心
分離することにより集菌した。集菌した菌体10gに、緩衝液A(20mM Tris-Cl 6M 塩酸グ
アニジン pH 8.0)を100 mlを加え、菌体を90Wの出力で30分間超音波破砕した。破砕した
菌液を 15,000rpmで30分間遠心分離し、上清を採取した。緩衝液Aで平衡化した金属キレ
ートカラムHiTrap-Chelating(GEヘルスケア社)カラムを用いてカラムクロマトグラフィーを行った。溶出は0.5Mイミダゾールを含む緩衝液Aの直線グラジエントを用いた。得られ
た目的分画を透析チューブ(分画サイズMw.3500)に入れ、緩衝液B(20mM Tris-HCl、25mM NaCl pH8.5)溶液で一晩室温で透析を行なった。透析終了後、PreScission protease80μl
を加え、4℃で一晩放置した後、緩衝液で平衡化したイオン交換カラムHiTrap-Q(GEヘルスケア社)に添加し、1M NaClを含む緩衝液の直線グラジエントを用いて精製を行った。目的分画にはSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により単一バンドを与える均一標品が含
まれていることを確認した後、緩衝液C(20mM リン酸,25mM NaCl)に透析し以下の実験に
用いた。この均一標品の精製度を銀染色キット(和光純薬)により確認し、プロペプチドを認識しうるproBDNF抗体(Koshimizu et al., Molecular Brain, vol.2: 27, pp.1-19, 2009)を用いたウエスタンブロット法で確認した(図2)。
【0023】
ビアコアを用いた成熟BDNFとBDNFプロペプチドとの相互作用
精製したBDNFプロペプチドと成熟BDNFとの相互作用を定量的に解析するため(図4)、表面プラズモン共鳴法を利用したビアコア装置(GEヘルスケア社)を用いた(Uegaki et al.,
J. Mol. Biol. 297, 1121-1128, 2000)。センサーチップはCM5(GEヘルスケア社製)を用いた。固定化の方法はビアコアマニュアルに記載されている、アミンカップリング法を用いBDNFプロペプチドをセンサーチップ上に2000レゾナンスユニット固定化した。操作手順はすべてマニュアルにしたがった。HBS緩衝液(GEヘルスケア社)で段階的に希釈した成熟
型BDNF(60nM〜3.7nM)を用い、流速20μl/minで相互作用の解析を行った(図3)。解離定数Kdはビアコア装置の付属ソフトウエアを用いて算出した。図4に使用した。図4では、成熟型BDNFに結合するBDNFレセプターボディTrkB-IgG(R&Dシステム社)を用いた結合
阻害実験を行った。プロペプチドとBDNFの相互作用は本抗体により阻害されることを確認
した。この実験からプロペプチドは成熟型BDNFのレセプター結合部位と相互作用することが示唆された。
【0024】
BDNFプロペプチドの神経伝達調節作用
BDNFプロペプチドが神経伝達調節を行う可能性を知るために、海馬スライスを用いた電気生理学の実験を行った(図5)。スライスの調製および電気生理学的解析は既報に従い(Ishikawa et al., J. Neurosci., 28, 843-849, 2008)、人工脳脊髄液(以下ACSF, [m
M]: 125 NaCl, 2.6 KCl, 1.3 MgSO4・7H2O, 1.24 KH2PO4, 26 NaHCO3, 2.4 CaCl2, 10 D-glucose) を95% O2/5% CO2で飽和した溶液(酸素飽和ACSF)中で行った。
【0025】
(i)海馬スライスの調製
生後3週齢オスマウス(日本SLC)から脳を取り出し速やかに氷冷酸素飽和ACSFにおいた
。脳を冷却後、堂阪リニアスライサーpro7を用い氷冷酸素飽和ACSFにて海馬を厚さ400um
で急性切片を作成した。作成した海馬スライスは酸素飽和ACSF中30℃で30分間回復させ、その後、電気生理学的解析を行うまで酸素飽和ACSF中、室温においた。
【0026】
(ii)細胞外記録による電気生理学的解析
海馬スライスは連続的に28℃に加温された酸素飽和ACSFを還流(流速約2分)された記録チ
ャンバーにおいた。
海馬スライスはテスト化合物(BDNF, BDNFプロペプチド)の効果を測定すべく、双極ニクロム刺激電極によって電流パルス(0.1msec)で刺激しCA1ニューロンのシナプス中に終わる海馬CA3中のニューロンからのシェーファー側枝を励起させる。記録電極にはACSFを、
充填したガラス微小電極を用い刺激電流の強度は半最大fEPSP(約1〜2mV)を生じるよ
うに調節した。60秒毎に刺激パルスが与えた。増幅器(ER-1, Cygnus)で細胞外電位を測定し、LTP program( http://www.ltp-program.com/)にて記録した。
fEPSPの反応が安定化した後、30分間の間、酸素飽和ACSF に種々の濃度のテスト化合物(BDNF, BDNFプロペプチド) を含んだものに置換される。そのとき、低頻度刺激(1Hz,900発)を海馬スライスにあたえ、長期抑制現象(LTD)における効果を観察した。この効果
は、初期記録20分を基準(100%)としたfEPSPの傾き(mV/msec)における変化率計算をする。
【0027】
神経伝達物質グルタミン酸受容体AMPA型サブユニットGluR1の細胞表層集積に対するBDNF
プロペプチドの効果
図4に示した神経伝達の長期抑圧現象(LTD)の分子メカニズム(Sudhof & Malenka, Neuron, 60, 469-476, 2008)を知るため、細胞表層GluR1集積効果に対するBDNFプロペプチ
ドの効果をラット低密度海馬初代分散培養法(Takahashi et al., J. Neurosci., 23,6586-6595, 2003)を用いて検討した(図5)。培養3週後の海馬神経細胞にBDNFもしくはBDNFプロペプチドを50 ng/mlの濃度で30分間処理し、細胞表面に集積するGluR1の蛍光抗体染色を既報 (J. Neurosci., 23, 4567-4576,2003)に従い行った。GluR1特異的抗体(Calbiochem社)は15倍希釈で使用し、検出には蛍光2次抗体(Cappel社)を用いた。認識する特異的抗体を用いて免疫細胞科学的に処理し、蛍光顕微鏡を用いた蛍光シグナルの検出および定量解析は既報(Crump et al., J. Neurosci., 21, 5079-5088, 2001)に従い行った。BDNFの効果は既報(Narisawa-Saito, et al. J. Biol. Chem., 277, 40901-40910, 2002)に一致した。
【0028】
統計処理
Tukey's multiple comparison testの多重検定を行った。グラフデータは平均値±標準誤差で表した。
【0029】
BDNFプロペプチドビアコアチップを用いた血漿中BDNF反応の迅速測定
特開2007-306899で作製した遺伝子組み換えマウスは図1に示したproBDNF→mature BDNF
の反応が非効率となっている。一方、既報(Donovan et al., Development 127, 4531-4540, 2000)ではBDNFは血管新生への役割が報告され、BDNFの血中バイオマーカーとしての可能性が期待されている。そこで、特開2007-306899のマウスの生後12週令ホモ接合体
(図8中のホモ血漿)および同腹コントロールマウス(図8中のWild血漿)の末梢血を採取し、その遠心分離後の血漿分画を調製した。総タンパク濃度で補正した後、その希釈系列(1/4、1/8、1/16)を調製し、BDNFプロペプチドチップを装着したビアコア装置にロードした。ビアコア測定は、図3と同様に行った。結果を図8に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成長因子前駆体から成熟型成長因子部分を除いたプロペプチドの生理活性物質としての使用。
【請求項2】
前記プロペプチドが成熟型成長因子の少なくとも1つの生理活性を抑制することを特徴と
する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
成長因子がBDNFである、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
成長因子前駆体から切断された前記プロペプチドと前記成熟型成長因子が切断後も強固な結合を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
成長因子前駆体から成熟型成長因子部分を除いたプロペプチドを有効成分とする前記成長因子の阻害剤。
【請求項6】
成長因子がBDNFであり、BDNFのプロペプチドを有効成分とする、請求項5に記載の成長因子の阻害剤。
【請求項7】
in vivoまたはin vitroで細胞に成長因子前駆体から成熟型成長因子部分を除いたプロペ
プチドを作用させ、次いで該細胞に候補化合物を作用させることを特徴とする前記プロペプチドの作用を抑制する薬物のスクリーニング方法。
【請求項8】
前記プロペプチドがBDNFのプロペプチドであり、前記薬物が抗うつ薬である、請求項7に記載のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−246420(P2011−246420A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123957(P2010−123957)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度 文部科学省「BDNF機能障害仮説に基づいた難治性うつ病の診断・治療法の開発」委託研究、産業技術力強化法第 19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】