説明

成長能力を向上させるためのアザペロンの使用

本発明は、アザペロンを餌または飲料水と一緒に低投薬量で経口投与することによって動物の成長能力の向上を鎮静作用をもたらすことなく起こさせる方法に関する。成長能力の向上には、成長速度の上昇が特定期間の間に起こることが含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アザペロンを餌または飲料水と一緒に低投薬量で経口投与することによって動物の成長能力の向上を鎮静作用をもたらすことなく起こさせる方法に関する。成長能力の向上には、成長速度または体重増加の上昇が特定期間の間に起こることが含まれる。
【背景技術】
【0002】
アザペロンは、Janssen Pharmaceutica研究室によって1960年代初期に見つけ出されたブチロフェノン系神経弛緩薬であり、現在、Stresnil(商標)と呼ばれる4%の無菌注射液として入手可能である。それは化学的に4’−フルオロ−4−(4−(2ピリジル)−1−ピペラジニル−ブチロフェノンであり、下記の構造:
【化1】

で表される。
【0003】
Stresnil(商標)(アザペロン)を注射すると鎮静がいろいろな度合で誘発されることによって攻撃性およびストレスが防止させることが示されている。豚にStresnil(商標)を1回投与した後にそれらを一緒にすると、けんかがなくなるか或は大きく減少する。
【0004】
Stresnil(商標)は効力のある鎮静−精神安定剤であり、それを豚に注射すると予測可能な一貫性のある鎮静反応がもたらされる。この薬剤は即効薬であり、筋肉内注射してから約5から10分後に鎮静作用が現れる。この動物に筋肉内注射してから数分以内に足元がふらつきだした後に横になる。その動物は意識があるままであるが、静かでありかつ環境に無関心になる。その鎮静の度合は薬剤投与量に正比例し、豚に推奨されるアザペロン投与量は体重1kg当たり0.4から2mgである。
【0005】
Porter D.B.およびSlusser C.A.が非特許文献1に開示したように、アザペロンを豚に筋肉内注射するとまた体重増加の向上ももたらされることが観察された。他方、Gonyou H.W.他は非特許文献2の中でアザペロンを豚に筋肉内投与しても体重増加にも餌消費量にも餌効率にも有意な効果はもたらされなかったことを報告している。また、Blackshaw J.K.も非特許文献3の中でアザペロンを筋肉内注射しても豚の相対的成長速度の増進には効果がなかったことを報告した。
【0006】
Caccia S.他は非特許文献4の中でアザペロンを経口投与したラットから得た生物学的サンプルを用いたアザペロンの代謝産物の同定および量化を開示している。
【0007】
成長能力の向上、例えば体重増加の向上などは家畜産業にとって好ましい経済的利点である。しかしながら、アザペロンの筋肉内注射は厄介でありかつ時間を消費する、と言うのは、各動物の処置を個別に行う必要があることで投与量を前記動物の体重を基にして決定する必要があるからである。更に、豚産業では筋肉注射の回数が制限される傾向がある、と言うのは、注射は動物愛護に否定的な影響を与えるからである。その上、筋肉内注射
による処置を受けた後の動物が起こす鎮静は必ずしも有益ではなく、攻撃性のない動物を処置した時でさえ好ましくない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Veterinary Medicine、80、3、88−92(1985)
【非特許文献2】J.Anim.Sci.、66、2856−2864(1988)
【非特許文献3】Aust.Vet.J.、57:272−276(1981)
【非特許文献4】Journal of Chromatography、283、211−221(1984)
【発明の概要】
【0009】
ここに、アザペロンを餌または飲料水と一緒に低投与量で連続的に経口投与する方法は動物の成長能力の向上、例えば体重増加もしくは成長速度の向上などを鎮静作用をもたらすことなく起こさせるに適した容易な方法であることを見いだした。その上、多数の動物を処置しようとする場合には、アザペロンを餌または飲料水と混合して経口投与する方が筋肉内注射を個別に行うよりも非常に便利である。
【0010】
用語「動物」は、ヒト以外の温血動物のいずれか、特に消費の目的で生産される動物、例えば家禽(鶏、七面鳥、家鴨、ダチョウ、エミュー、ウズラなど)および反すう動物(山羊、羊および牛)、豚および兎などを指す。
【0011】
用語「成長能力」は、ある動物の成長速度の判断基準として当該技術分野で公知である。動物の「成長速度」または「体重増加」は、その動物の生体重の単位増加速度である。生体重を特定期間に渡って連続的に測定することで成長速度または体重増加を得る。従って、本発明における用語「成長能力」は、動物の成長速度または体重増加が経時的に向上または上昇することを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1番目の態様として、本発明は、アザペロンを投与することによって動物の成長能力の向上を鎮静作用をもたらすことなく起こさせるための非治療的方法に関し、この方法は、アザペロンを餌または飲料水と一緒に0.5mg/kg/日から3.0mg/kg/日の範囲の投与量で連続経口投与することを特徴とする。
【0013】
アザペロンを水分配装置、例えば飲料水供給用装置などによって投与するのが好適である。薬剤を飲料水経由で投与するに必要な装置が数多くの畜産飼育場に既に備わっており、従ってアザペロンを飲料水と一緒に水分配装置によって投与するための特殊な改造は必要でない。アザペロンの投与量は当該家畜の水消費量の関数として調整可能である。例えば、体重が7kgの子豚は1日当たり平均で約1.6リットルの水を飲む。アザペロンを体重1kg当たり0.5mg/日から体重1kg当たり3.0mg/日の範囲の投与量で投与しようとする時、それはアザペロンを飲料水に1リットル当たり2.2から13.1mgの範囲の濃度で入れると換算される。
【0014】
2番目の態様として、本発明は、アザペロンを投与することによって動物の成長能力の向上を鎮静作用をもたらすことなく起こさせるための非治療的方法に関し、この方法は、アザペロンを飲料水と一緒に飲料水1リットル当たり2mgから13.0mgの範囲の濃度で連続経口投与することを特徴とする。実際には典型的にアザペロンを飲料水1リットル当たり約6mgの濃度で用いる。
【0015】
3番目の態様として、本発明は、アザペロンを投与することによって動物の成長能力の向上を鎮静作用をもたらすことなく起こさせるための非治療的方法に関し、この方法は、アザペロンを餌または飲料水と一緒に1から6日間、より特別には3日間に渡って0.5mg/kg/日から3.0mg/kg/日の範囲の投与量で連続経口投与することを含んで成る。
【0016】
4番目の態様として、本発明は、アザペロンを投与することによって動物の成長能力の向上を鎮静作用をもたらすことなく起こさせるための非治療的方法に関し、この方法は、アザペロンを飲料水と一緒に1から6日間、より特別には3日間に渡って飲料水1リットル当たり2mgから13.0mgの範囲の濃度で連続経口投与することを含んで成る。実際には典型的にアザペロンを飲料水1リットル当たり約6mgの濃度で用いる。
【0017】
5番目の態様として、本発明は、アザペロンを経口投与することによって動物の成長能力の向上を鎮静作用をもたらすことなく起こさせるための非治療的方法に関し、この方法における動物の成長能力の向上は成長速度の上昇である。
【0018】
別の面として、本発明は、動物の成長能力の向上を鎮静作用をもたらすことなく起こさせる目的でアザペロンを用いることに関し、この使用では、前記動物にアザペロンを0.5mg/kg/日から3.0mg/kg/日の範囲の投与量で連続経口投与する。アザペロンを餌または飲料水と一緒に混ぜて経口投与してもよく、その飲料水を飲料水供給措置によって供給してもよい。
【0019】
6番目の態様として、本発明は、動物の成長能力の向上を鎮静作用をもたらすことなく起こさせる目的でアザペロンを用いることに関し、この使用では、前記動物にアザペロンを飲料水1リットル当たり2mgから13.0mgの範囲の濃度で連続経口投与する。実際には典型的にアザペロンを飲料水1リットル当たり約6mgの濃度で用いる。
【0020】
アザペロンを餌と一緒に投与する場合、アザペロンを完全餌、餌製品に添加する濃縮物、餌製品と混合可能なプレミックスの形態でか或は餌組成物の上に供給または広げることが可能な製品として構築してもよい。餌と一緒に投与するに適したそのようなアザペロン製剤の製造は当該技術分野で公知の技術を用いて実施可能である。
【実施例】
【0021】
アザペロンを飲料水と一緒にか或は水供給装置によって投与しようとする場合、それを適切な希釈可能濃水溶液の形態で構築する。そのような製剤の一例は例えば下記である:
配合1:(100mg/ml):
アザペロン 100mg
クエン酸 80mg
パラヒドロキシ安息香酸メチル 2mg
パラヒドロキシ安息香酸プロピル 0.2mg
適量の精製水 1ml
【0022】
離乳豚の体重増加を向上させる目的でアザペロンを飲料水装置によって経口投与する時の効果を下記の例で実証する。
【0023】
アザペロンを飲料水経由で投与した時の効果を示す前臨床試験
アザペロンを飲料水経由で連続経口投与した時の挙動、飼料効率、成長および成長均一性に対する効果を調査する試験を離乳豚を用いて実施した。
【0024】
約250匹の豚から成るグループをそれらが離乳した瞬間から出発して試験に加えた。その豚を通常の豚飼育における普段の飼育条件に従って飼育した。あらゆる豚を同様な建物の中で飼育した。各グループを2つの区画の中で飼育し、雌豚および去勢豚を個別の区画の中で飼育した。豚が囲いの各々に約12匹入った状態で飼育を行った。
【0025】
離乳後の子豚の飼育を最初の48時間の間連続人口光の下で行った。その後、豚の飼育を観察(日に2回)中を除いてさらなる試験期間に渡って連続暗所下で行った。この試験過程中には豚にワクチンを接種しなかった。飲料水経由による亜感染防御的コリスチン処置を各グループ毎に離乳から5日後に開始して実施した。処置を7日間継続した。
【0026】
豚に餌を不断給餌で与えた。囲い当たりに供給される餌の重量を記録するコンピューター制御システムを用いて餌入れを自動的に充填した。保育期の最初の10日間は豚にペレット状離乳餌を与えたが、この餌をまた分娩ユニットの中の子豚も食べることができるようにしておいた。保育期の10日目から15日目の間に離乳餌を徐々にグローアーペレット(grower pellets)に置き換え、それを35日目まで与えた。最後に、35日目から40日目の間にグローアーペレットをスターターペレット(starter
pellets)に切り替えた。この試験期間全体に渡って水道水を飲めるようにし、それを餌入れの中のウォーターニップル(water nipple)経由で供給した。
【0027】
Stresnil(商標)注射液を水に入れて希釈してアザペロンが飲料水1リットル当たり6mgの濃度を得ることでアザペロンが入っている飲料水を得た。Stresnil(商標)が4%の注射液90mlを水道水で希釈して6リットルの調製液を得ることで一次希釈液を調製した。この一次希釈液を自動薬注装置に24時間つなげておくことで、前記調製液を飲料水で1から100の希釈速度で連続的に希釈した。前記一次希釈液の中の1つの調製液は600リットルの飲料水を処理するに充分な量であり、その量は、1区画内の豚が毎日消費すると思われる水の体積より多い量であった。次の2日間、新しい一次希釈液を毎朝新しく作成して自動薬注装置に24時間つなげておいた。
【0028】
この試験は各々が約250匹の離乳豚から成る4逐次グループを用いた制御並行試験であった。1番目と3番目のグループにアザペロンを用いた処置を飲料水経由で連続3日間受けさせた。2番目と4番目のグループはプラセボ(単純な飲料水)を用いた処置を受けさせる対照グループであった。その4グループが完了した後、アザペロンによる処置が豚の挙動に対して示す効果をより詳細に調査する目的で2つの追加的グループ(アザペロンで処置する1グループおよび1対照グループ)を試験に含めた。この追加的グループの各々に豚が約12匹ずつ入っている囲いを5個含めた。
【表1】

【0029】
試験期間の1日目にアザペロンが1リットル当たり6mg入っている水またはプラセボ
を飲めるようにした。4日目から開始して飲料水にアザペロンを入れないようにした。あらゆる豚をさらなる肥育のための通常の手順に従わせた。この試験(3日間の投与および39日間の追跡調査)の間に豚を畜殺場に向かわせることはなかった。
【0030】
豚1匹当たりの体重
グループ1から4の中のあらゆる豚の体重を測定した。各動物毎に体重の1番目の測定を試験開始時、即ち保育室に移動させる直前に行いそして2番目の測定を試験終了時、即ち保育室の中で42日間保育した後に実施した。
【0031】
各豚が示す1日当たりの体重増加値を下記の如く計算した:
【数1】

ここで、i=豚の識別
【0032】
個体の1日当たりの体重増加値に関して各グループ毎の記述統計および処置グループと対照グループの間の統計学的比較をWilcoxon Mann−Whitney U検定で実施した。
【0033】
この試験過程中にアザペロン処置動物は試験中に体重が16.3±3.31kg増加したが、プラセボ処置動物の体重増加量は15.1±3.48kgのみであった。この差は有意であることを確認した。
【0034】
各グループ毎の成長均一性を変動係数で表した。変動係数の計算を標準偏差値を平均値で割ることで実施した。プラセボ処置およびアザペロン処置グループが示した初期および最終的体重の均一性を表2に示す。
【表2】

【0035】
前記変動係数値は、グループ内に観察される変動が重要であることを示している。この係数値が高ければ高いほど、そのグループ内の均一性が低い。表2に示した結果は、プラセボ処置グループを試験に入らせた時点の均一性が若干低かったことを示している。しかしながら、試験終了時の均一性は、アザペロン処置グループのそれの方がプラセボ処置グループのそれよりも良好であることが分かった。
【0036】
1囲い当たりの動物の挙動
アザペロンによる処置が離乳後の動物の挙動に対して示す効果を評価する目的で、グループ1から4の中で離乳から1週間の間に階層的争いが発生する率を追跡してPrincipal Investigatorで記録した。各囲い毎に0から2の挙動スコアを毎日付けた:
0=鎮静(活動低下)
1=平穏(攻撃性無し、社会的受け入れ)
2=攻撃(階層的争い、数多くの豚が新しい皮膚損傷)
【0037】
グループ1から4の中の豚の挙動は常に正常であると等級付けられたが、飼育場では階層的争いが起こることが報告された。このことは、元々のプロトコルに記述されている如きそのような挙動等級付け方法の精度は充分には高くないことを示していた。従って、豚の挙動をより緊密に追跡する目的でグループ5および6を試験に含めた。この2つの追加的グループ(アザペロンで処置する1グループおよび1対照グループ)を挙動変化に関して緊密に監視した。離乳後の最初の7時間そして保育室に移動させている間、階層的争いの頻度およびひどさ、横になった豚の数および餌または水を摂取した豚の数を記録した。処置の3日目に2時間(処置開始後48から50時間)に渡って前記パラメーターを監視した。各囲い毎に観察を2分間実施しそして10分毎に繰り返した。この観察をStudy Monitorを用いて実施した。横になった豚の数、餌または水を摂取した豚の数および階層的争いに加わった豚の数を数え、階層的争いのひどさを下記の数値的スケールを用いて判断した:
1=控えめな争い(1回の接触)
2=中程度の争い(噛み付きおよび/または引っ掻きを伴う短期の争い)
3=ひどい争い(ひどい噛み付きおよび/または引っ掻きを伴う長期の争い)
【0038】
グループ5および6の中の豚の挙動を比較することで、アザペロンまたはプラセボの処置を開始してから最初の7時間(グループに分けてから最初の7時間)の間には横になる豚の数にも餌を食べる豚の数にも差はないことが分かった。
【0039】
結論:この試験では、アザペロンを離乳豚に飲料水経由で水1リットル当たり6mgの投与量で42日間の試験期間の中の最初の3日間の間に投与すると結果として試験期間全体に渡って得たプラセボグループの値に比べて体重が追加的に1.2kgまたは8%増加することを観察した。また、試験期間終了時の体重分布均一性もアザペロン処置グループの方が高かった。最後に、挙動試験は、アザペロンまたはプラセボの処置を開始した後に横になる豚の数にも餌を食べる豚の数にも差が無いことを示しており、このことは、鎮静効果が無いことを表している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の成長能力の向上を鎮静作用をもたらすことなく起こさせるための非治療的方法であって、前記動物にアザペロンを餌または飲料水と一緒に0.5mg/kg/日から3.0mg/kg/日の範囲の投与量で連続経口投与することを含んで成る方法。
【請求項2】
アザペロンを飲料水供給装置によって投与する請求項1記載の方法。
【請求項3】
アザペロンを飲料水1リットル当たり2mgから13.0mgの範囲の濃度で投与する請求項2記載の方法。
【請求項4】
アザペロンを飲料水1リットル当たり6mgの濃度で投与する請求項3記載の方法。
【請求項5】
アザペロンを1から6日間投与する前請求項のいずれか記載の方法。
【請求項6】
アザペロンを3日間投与する請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記動物が家禽、反すう動物、兎および豚から選択される前記請求項のいずれか記載の方法。
【請求項8】
前記動物が豚である請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記動物の成長能力の向上が成長速度の上昇である請求項1から8のいずれか記載の方法。

【公表番号】特表2012−502643(P2012−502643A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527315(P2011−527315)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際出願番号】PCT/EP2009/062040
【国際公開番号】WO2010/031805
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(390033008)ジヤンセン・フアーマシユーチカ・ナームローゼ・フエンノートシヤツプ (616)
【氏名又は名称原語表記】JANSSEN PHARMACEUTICA NAAMLOZE VENNOOTSCHAP
【Fターム(参考)】