説明

扁平芯鞘複合繊維

【課題】繊維に入射する光線の角度によって光線透過性に異方性を有する芯鞘複合繊維を提供する。
【解決手段】光線透過率が80〜100%であり、屈折率が1.4〜1.5である熱可塑性ポリマー組成物(A)を主たる構成成分とする鞘部3と光線透過率が0〜50%である熱可塑性ポリマー組成物(B)を主たる構成成分とする芯部1からなる芯鞘複合繊維であって、芯部の横断面形状が断面扁平度2〜20の楕円形状であるる扁平芯鞘複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光線透過率の高い成分と低い成分とからなる芯鞘複合繊維に関する。より詳しくは芯部を構成する光線透過率の低い成分が扁平楕円形状を有するため、繊維に入射する光線の角度によって光線通過性に異方性を示す芯鞘複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維の光線透過率を制御するためには、透明ポリマーに対して光線を吸収あるいは散乱する物質を添加することが一般的に行われており、たとえばポリエチレンテレフタレート繊維の透明性を抑制するため、白色粉末である酸化チタンを含有させることは広く知られている。
【0003】
酸化チタンを高率に含有する場合には芯鞘複合構造として芯部にのみ酸化チタンを含有させることが行われる。たとえばナイロンに二酸化チタンを含有させた不透明ナイロオンの芯部と、透明なナイロンの鞘部からなる同心円状の芯鞘複合繊維が知られている(特許文献1)。また、同様にポリエステルに二酸化チタンを含有させた不透明ポリエステルの芯部と、透明なポリエステルの鞘部からなる同心円状の芯鞘複合繊維が知られている(特許文献2)。また、芯部が二酸化チタンを高率に含有するナイロンであり、鞘部が透明ナイロンである芯鞘複合繊維において、芯部が異形断面である複合繊維(特許文献3)、芯部が二酸化チタンを高率に含有するポリエステルであり、鞘部が透明ポリエステルである芯鞘複合繊維において、芯部および繊維全体がお互い相似形の異形断面構造である複合繊維(特許文献4)が知られている。
【0004】
これらの提案は、二酸化チタンなどの隠蔽度の高い粒子を配合することにより繊維の透け感を防止することを目的とするものであり、光線透過性を均一に低下させるため繊維の形状は円形が基本であり、繊維横断面は点対象の構造となっているものである。そのため、これらの繊維を用いた繊維構造物は均一に光線を遮断するものとなり、光線入射の角度による異方性を発現するものではなかった。
【0005】
また、芯部に屈折率の高いポリマーと屈折率の低いポリマーが多層に積層した構造を配し、これに薄い皮膜としての鞘部を設けた複合繊維が、光干渉発色を発現させる目的で知られている(特許文献5)。この構造の芯部を有する繊維は、本発明のように入射光線の角度によって光線透過の異方性が発現するものではなく、入射した光線が多層積層の芯部にて干渉されていわゆる干渉発色となってしまうものであった。
【特許文献1】特開平8−134740号公報
【特許文献2】特開平8−144151号公報
【特許文献3】特開平9−228150号公報
【特許文献4】特開平10−317230号公報
【特許文献5】特開2006−233356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、上述の従来繊維では得られなかった、繊維に入射する光線の角度によって光線透過性に異方性を有する芯鞘複合繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題は、光線透過率が80〜100%であり、屈折率が1.4〜1.5である熱可塑性ポリマー組成物(A)を主たる構成成分とする鞘部と光線透過率が0〜50%である熱可塑性ポリマー組成物(B)を主たる構成成分とする芯部からなる芯鞘複合繊維であって、芯部の横断面形状が断面扁平度2〜20の楕円形状であることを特徴とする扁平芯鞘複合繊維によって解決が可能である。
【0008】
その際、鞘部の熱可塑性ポリマー組成物(A)がセルロースアセテートプロピオネートおよび/またはセルロースアセテートブチレートを主成分とするものであることが、鞘成分の良好な透明性の観点から好適に採用できる。また、繊維全体の横断面形状が断面扁平度2〜20の楕円形状であること、繊維の横断面において、芯部に外接する最小矩形の長中心線の長さをa、短中心線の長さをbとし、該長中心線と同一線上における繊維の径をA、該短中心線と同一線上における繊維の径をBとする時、これらa,b,AおよびBが下記式1および2を満足することが、それぞれ好適に採用できる。
【0009】
a/A>0.7 ・・・ 式1
b/B<0.4 ・・・ 式2
【発明の効果】
【0010】
本発明の扁平芯鞘複合繊維は、光線の透過に異方性を有するものとなるため、角度によって見え方の異なる審美性の優れた布帛を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の扁平芯鞘複合繊維の鞘部は、光線透過率が80〜100%であり、屈折率が1.4〜1.5である熱可塑性ポリマー組成物からなるものである。本発明において繊維が光線通過時の異方性を発現するためには、鞘部と芯部の光線透過性に有意な差が存在していることが重要であり、鞘部を構成する熱可塑性ポリマー組成物(A)は光線透過率が80〜100%であることが必要である。光線透過率の値は高ければ高いほど異方性発現の観点からは望ましいため、熱可塑性ポリマー組成物(A)の光線透過率は90〜100%であることがより好ましい。ここで光線透過率とは、ポリマー組成物をフィルム状としたものを試料とし、JIS−K7105(1981)(光線透過率及び全光線反射率)に基づいて測定した光線透過率の値をいう。
【0012】
また、鞘部を構成する熱可塑性ポリマー組成物(A)の屈折率は、繊維に入射できる成分と表面で反射される成分の割合を決定する因子のひとつであり、1.4〜1.5であることが重要である。屈折率の値は低ければ低いほうが異方性発現のために好ましいが、繊維形成性を有する熱可塑性ポリマー組成物では1.4程度が下限であり、1.45〜1.5程度であってもよい。ここで屈折率とは、ポリマー組成物をフィルム状としたものを試料とし、JIS−K7105(1981)(屈折率)に基づいてアッベ屈折計にて測定した値をいう。
【0013】
鞘部を構成する熱可塑性ポリマー組成物(A)の具体例としては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体系ポリマーおよびそれらの変性体ならびに可塑化された組成物、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、環状オレフィンなどの石油系ポリマーおよびそれらの変性体などを上げることができる。
【0014】
セルロース誘導体系ポリマーとしては、セルロースアセテートプロピオネート組成物、セルロースアセテートブチレート組成物が、透明性の観点から好適に採用できる。これらの組成物は溶融成形を可能とするために、ポリマーと完全に相溶する、すなわちポリマー透明性を低下させない、可塑剤を含んでなるものであることができる。
【0015】
この場合、具体的に用いうる可塑剤としては、セルロースアセテートプロピオネートあるいはセルロースアセテートブチレートに混和するものであれば用いることができる。例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートなどのフタル酸エステル類、テトラオクチルピロメリテート、トリオクチルトリメリテートなどの芳香族多価カルボン酸エステル類、ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケートなどの脂肪族多価カルボン酸エステル類、グリセリントリアセテート、ジグリセリンテトラアセテート、グリセリン混合エステルなどの多価アルコールの脂肪酸エステル類、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリクレジルホスフェートなどのリン酸エステル類などを挙げることができる。
【0016】
また高分子量の可塑剤として、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどのグリコールと二塩基酸とからなる脂肪族ポリエステル類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのオキシカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル類、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン、ポリバレロラクトンなどのラクトンからなる脂肪族ポリエステル類などを挙げることができる。これらの高分子量可塑剤は共重合体であってもよいし、重合体の一部が修飾されているものであってもよい。さらには、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、一般式(1)で示されるポリエーテル類などを挙げることができる。
R1−O−{(CH2)nO}m−R2 ・・・(1)
(但し、R1とR2は、H、アルキル基およびアシル基よりなる群から選ばれた同一または異なる基を表す。nは2〜5の整数、mは3〜30の整数。)。
【0017】
上記の一般式(1)で示されるポリエーテル化合物は、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートともに相溶性よく混和することができるため、好適に採用することができる。具体的なポリエーテル化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体およびそれらの末端封鎖物などを挙げることができる。
【0018】
本発明においてセルロースアセテートプロピオネートあるいはセルロースアセテートブチレートを主成分とする熱可塑性組成物は、必要に応じて、安定剤を含有することができる。安定剤は、ホスファイト化合物、ヒンダードフェノール化合物などを用いることができる。また、その他、滑剤、帯電防止剤、染料、顔料、紫外線吸収剤、抗菌剤、潤滑剤、艶消剤、生分解促進剤等の添加剤についても、本発明の趣旨を損なわない範囲内において、これらを単独もしくは併用して含有することができる。
【0019】
本発明の扁平芯鞘複合繊維の芯部は、光線透過率が0〜50%である熱可塑性ポリマー組成物からなるものであり、またその形状は、断面扁平度2〜20の楕円形状のものである。芯部を構成する熱可塑性ポリマー組成物(B)の光線透過率は、光線透過性の異方性の観点から、鞘部を構成する熱可塑性ポリマー組成物(A)の光線透過率に比較して十分に低いことが必要である。光線透過率は0〜50%であることが必要である。芯部を構成する熱可塑性ポリマー組成物(B)の光線透過率は、より好ましくは、0〜40%、最も好ましくは0〜30%である。
【0020】
芯部を構成する熱可塑性ポリマー組成物(B)の具体例としては、二酸化チタン、炭酸カルシウム、マイカなどの白色粒子、カーボンブラックなどの着色粒子を、均一にポリマー中に分散させた組成物をあげることができる。芯部の構造は光線透過率が全体で均一であることが必要である。異なるポリマー成分の張り合わせなど、光線透過率が芯部の中でお互いに異なる部分が複数存在する場合には、光線通過において干渉が生じ、干渉発色を呈する繊維となることが知られている。この場合には光線通過性の異方性を目的とする本発明の効果は得られないこととなるため、本発明においては芯部は均一な構造であることが重要である。
【0021】
本発明においては芯部の形状が断面扁平度2〜20の楕円形状である。芯部の形状が通常の芯鞘複合繊維のように円形の場合には、光線の入射角のちがいによって繊維を通過する光線透過量に違いが発生せず、本発明の効果は得られない。二酸化チタンを配合した不透明の芯部を、製糸性を悪化させない観点から表面露出を少なくするために星型のごとく配置することが知られているが、このような構造の場合にも異方性が発現せず本発明の効果は得られない。芯部の構造が扁平楕円形状であることが本発明において必要な要件である。
【0022】
繊維の断面形状の模式図を図2に示す。芯部の断面扁平度とは、長辺すなわち芯部に外接する最小矩形の長中心線の長さaを、短辺すなわち芯部に外接する最小矩形の短中心線の長さbで除した値(a/b)をいう。芯部の断面扁平度が2以上であれば、光線透過率の異方性が発現するが、断面扁平度の値は高ければ高いほど光線透過の異方性が良好となるため、断面扁平度はより好ましくは5以上、最も好ましくは10以上であることがよい。反対に20を超える断面扁平度の場合には、紡糸時の繊維の製糸性が不良となることによって繊維の糸質が低下する傾向がある。芯部形状としては楕円であることも重要であり、芯部の構造として頂点が確認できる形状、たとえば矩形である場合には、頂点が存在することによって繊維のフィブリル化が発生しやすく、糸質が低下する傾向にあるため望ましくない。
【0023】
鞘部すなわち繊維全体の形状には、通常の丸断面であることができる。但し、繊維を細密充填する観点からは鞘部、すなわち繊維全体の形状も、芯部の構造と同じく断面扁平度2〜20の楕円形状であることが好ましく採用できる。
【0024】
本発明の芯鞘複合繊維の、芯部と鞘部の構成については、繊維の横断面において、図2に示すように、芯部に外接する最小矩形の長中心線の長さをa、短中心線の長さをbとし、該長中心線と同一線上における繊維の繊維の径をA、該短中心線と同一線上における繊維の径をBとする時、これらa,b,AおよびBが下記式1および2式を満足することは好ましく採用できる。
【0025】
a/A>0.7 ・・・ 式1
b/B<0.4 ・・・ 式2
式1においてa/A>0.7である場合には、長軸方向の繊維の投影図上において芯部が繊維全体の70%より多くを占めていることを意味しており、70%より多くの光線が芯部の存在によって通過を阻害されることを意味している。光線通過の異方性の観点からは、a/Aの値は大きければ大きいほどよく、a/A>0.75であることがより好ましく、a/A>0.8であることが最も好ましい。
【0026】
式2においてb/B<0.4である場合には、短軸方向の繊維の投影図上において芯部が占める割合は繊維全体の40%未満であることを意味しており、60%より多くの光線が芯部の影響を受けずに鞘部のみを通過することを意味している。光線通過の異方性の観点からは、b/Bの値は小さければ小さいほどよく、b/B<0.35であることがより好ましく、b/B<0.3であることが最も好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明のより詳細な説明を行う。なお、各物性値は下記の方法により求めた。
【0028】
A.断面扁平度
測定する繊維について別々の5箇所の光学顕微鏡観察用の断面切片を用意し、それぞれ光学顕微鏡写真を撮影した。得られた繊維の断面写真において、図2に示すように芯部に外接する最小矩形を描画し、これの長辺すなわち長中心線の長さa、短辺すなわち短中心線の長さbを測定し、その比(a/b)を芯部の断面扁平度とした。
【0029】
同様に繊維全体について、図2に示すように上記長中心線と同一線上における繊維の繊維の径をA、上記短中心線と同一線上における繊維の径をBとし、その比(A/B)を繊維の断面扁平度とした。
【0030】
B.光線透過率
測定するポリマー組成物約2gを準備し、厚み100〜150μmとなるように油圧式加熱プレス機を用いて熱圧フィルムを作成した。得られたフィルムを試料とし、JIS−K7105によって測定し、光線透過率を得た。
【0031】
C.光線通過の異方性
繊維の1本を試料とし光学顕微鏡で芯部に外接する最小矩形の長辺すなわち長中心線を
プレパラートと水平に置いた場合と、プレパラートに垂直に置いた場合とで目視観察を行い、水平に置いた場合と、垂直に置いた場合での明暗の外観について下記にしたがって判定し、◎および○を合格とした。
【0032】
◎:光線透過性が明確に異なっている。
【0033】
○:光線透過性が異なっていることが判別できる。
【0034】
△:光線透過性の違いが不明瞭である。
【0035】
×:光線透過性の違いが認められない。
【0036】
製造例1
セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製CAP482−20,アセチル基置換度0.2、プロピオニル基置換度2.5)95部と、可塑剤としてグリセリンジアセトモノラウレートを4.9部、酸化防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトを0.1重量部準備し、二軸エクストルーダーを用いて225℃で混練して均一な混合物とした。エクストルーダーから押し出したストランドは5mm程度にカッティングしてペレットを得た。
【0037】
製造例2
製造例1のポリマー組成物100部に対して、0.1部の乾式シリカ粒子を加えた100.1部(乾式シリカ粒子は全体の0.1wt%)を用いて、製造例1と同様に二軸エクストルーダーで混練し、ペレットを得た。
【0038】
製造例3〜5
製造例1のポリマー組成物100部に対して、製造例3では二酸化チタン粒子0.1部(二酸化チタン粒子は0.1wt%)を加えた100.1部を用いる他は、製造例4では二酸化チタン粒子を1.0部(二酸化チタン粒子は1.0wt%)を加えた101部を用いる他は、製造例5では二酸化チタン粒子を2.5部(二酸化チタン粒子は2.4wt%)を加えた102.5部を用いる他は、製造例1と同様に二軸エクストルーダーで混練し、それぞれペレットを得た。
【0039】
製造例6
セルロースアセテートブチレート(イーストマンケミカル社製CAB381−20、アセチル基置換度0.9、ブチリル基置換度1.6)95部と、可塑剤としてポリエチレングリコール(PEG600)4.9部、酸化防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトを0.1重量部準備し、二軸エクストルーダーを用いて210℃で混練して均一な混合物とした。エクストルーダーから押し出したストランドは5mm程度にカッティングしてペレットを得た。
【0040】
製造例7
ポリブチレンテレフタレート(東レ株式会社製トレコン)98部、カーボンブラック(キャボット・スペシャルティ・ケミカルズ・インク社製ファーネスブラック)2部を準備し、二軸エクストルーダーを用いて260℃で混練して均一な混合物とした。エクストルーダーから押し出したストランドは5mm程度にカッティングしてペレットを得た。
【0041】
実施例1
それぞれ80℃で12時間真空乾燥を行った、製造例1で製造した無粒子のCAP組成物ペレット(鞘成分A、光線透過率92%、屈折率1.47)と、製造例5で製造した二酸化チタンを2.4wt%含有するCAP組成物ペレット(芯成分B、光線透過率19%)を、二成分型溶融紡糸機にて紡糸温度260℃でそれぞれ溶融し、芯部計量プレートの孔スペックが0.1mm×1.5mmの矩形であり、最終吐出プレートの孔スペックが0.2mm×1.0mmの矩形である複合口金を用いて芯/鞘比率30/70で紡出した。
【0042】
この紡出糸条は冷却長1mの冷却装置を用いて風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却・固化し、紡糸口金下1800mmに位置にて給油装置を用いて油剤を付与して収束させ、紡糸速度1000m/minの条件で第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機にて巻き取った。
【0043】
得られた芯鞘型複合繊維は、芯部の断面扁平度が8.9であり、繊維全体の断面扁平度が4.4であった。また、a/Aの値が0.75であり芯部の長中心線に垂直方向からの光線は75%が阻害される形状であった。一方b/Bの値は0.32であり、芯部の短中心線に垂直方向の光線は68%が通過可能な形状であった。
【0044】
光線透過性の異方性を測定したところ、繊維方向によって明確な異方性が認められた。
【0045】
実施例2
溶融紡糸に用いる口金の最終吐出プレートの孔スペックを0.3mmφの丸孔とし、芯/鞘比率を12/88とする他は実施例1と同様にして芯鞘型複合繊維を得た。
【0046】
得られた芯鞘複合繊維は、芯部の断面扁平度が8.4であり十分に扁平形状であった。繊維全体は丸孔口金を用いたため、1.1のほぼ円形であった。また、a/Aの値は0.72であり芯部の長中心線に垂直方向からの光線は72%が阻害される形状であった。b/Bの値は0.11であり、芯部の短中心線に垂直方向の光線は89%が通過可能な形状であった。
【0047】
光線通過性の異方性を測定したところ、繊維方向によって明確な異方性が認められた。
【0048】
実施例3
鞘成分として製造例2で得られた乾式シリカ粒子を0.1wt%含有するペレット(光線透過率85%、屈折率1.48)を用い、芯成分として製造例4で得られた二酸化チタン粒子を1.0wt%含有するペレット(光線透過率34%)を用いて、芯部計量プレートの孔スペックを0.2mm×0.8mmの矩形とする他は、実施例2と同様にして芯鞘複合繊維を得た。
【0049】
得られた芯鞘複合繊維は、芯部の断面扁平度が3.9であり、繊維全体の断面扁平度は1.0であった。また、a/Aの値は0.62であり芯部の長中心線に垂直方向からの光線は62%が阻害される形状であった。b/Bの値は0.38であり、芯部の短中心線に垂直方向の光線は62%が通過可能な形状であった。
【0050】
光線通過性の異方性を測定したところ、実施例1と比較するとやや劣るものの繊維方向によって異方性が認められた。
【0051】
実施例4
鞘成分として製造例6で得られたCAB組成物(光線透過率95%、屈折率1.46)を用い、芯成分として製造例7で得られたPBT組成物(光線透過率2%)を用いて、芯部の計量プレートの孔スペックを0.1mm×4.0mmの矩形とし、最終吐出プレートの孔スペック0.12mm×を2.0mmの矩形とし、芯/鞘比率が30/70となるように実施例1と同様にして芯鞘複合繊維を得た。
【0052】
得られた芯鞘複合繊維は、芯部の断面扁平度が13.8であり、繊維全体の断面扁平度は9.5であった。また、a/Aの値は0.81であり芯部の長中心線に垂直方向からの光線は81%が阻害される形状であった。b/Bの値は0.20であり、芯部の短中心線に垂直方向の光線は80%が通過可能な形状であった。
【0053】
光線通過性の異方性を測定したところ、繊維方向によって明確な異方性が認められた。
【0054】
【表1】

比較例1
鞘成分として製造例3で得られた二酸化チタン粒子を0.1wt%含有するCAP組成物(光線透過率60%)を用い、芯成分として製造例4で得られた二酸化チタン粒子を1.0wt%含有するCAP組成物(光線透過率34%)を用いる他は、実施例1と同様にして芯鞘複合繊維を得た。
【0055】
得られた芯鞘複合繊維は、芯部の断面扁平度が8.9であり、繊維全体の断面扁平度は4.4であった。また、a/Aの値は0.75であり芯部の長中心繊維に垂直方向からの光線は75%が阻害される形状であった。b/Bの値は0.32であり、芯部の短中心線に垂直方向の光線は68%が通過可能な形状であった。
【0056】
しかしながら、鞘部の光線透過率が60%と低すぎるために芯部の光線透過率との差が小さくなり、光線通過性の異方性を測定したものの繊維の方向による異方性が認められなかった。
【0057】
比較例2
鞘成分として製造例2で得られた二酸化ケイ素粒子を0.1wt%含有するCAP組成物(光線透過率85%、屈折率1.48)を用い、芯成分として製造例3で得られた二酸化チタン粒子を0.1wt%含有するCAP組成物(光線透過率60%)を用いる他は、実施例1と同様にして芯鞘複合繊維を得た。
【0058】
得られた芯鞘複合繊維は、芯部の断面扁平度が8.9であり、繊維全体の断面扁平度は4.4であった。また、a/Aの値は0.75であり芯部の長中心繊維に垂直方向からの光線は75%が阻害される形状であった。b/Bの値は0.32であり、芯部の短中心線に垂直方向の光線は68%が通過可能な形状であった。
【0059】
しかしながら、芯部の光線透過率が60%と高すぎるため、鞘部の光線透過率との差が小さくなり、光線通過性の異方性を測定したものの繊維の方向による異方性が認められなかった。
【0060】
比較例3
鞘成分としてポリブチレンテレフタート(東レ株式会社製トレコン、屈折率1.53)を、芯成分として製造例4で得られた二酸化チタンを1.0%含有するCAP組成物を用いて、芯部の計量プレートの孔スペックを0.1mm×0.5mmの矩形とし、最終吐出プレートの孔スペックは0.3mmφの丸孔として、芯/鞘比率を12/88とする他は、実施例1と同様にして芯鞘複合繊維を得た。
【0061】
得られた芯鞘複合繊維は、芯部の断面扁平度が1.9であり、繊維全体の断面扁平度は1.0であった。また、a/Aの値は0.49であり芯部の長中心繊維に垂直方向からの光線は49%が阻害される形状であった。b/Bの値は0.25であり、芯部の短中心線に垂直方向の光線は75%が通過可能な形状であった。
【0062】
しかしながら、鞘部ポリマーの屈折率が1.53と高いために表面反射による光線の損失が大きいこと、および芯部形状の断面扁平度が1.9と小さいために、十分な異方性発現に至らなかったことから、光線通過性の異方性を測定したところ、繊維の方向による異方性が認められなかった。
【0063】
比較例4
芯部計量プレートの孔スペックを6葉断面孔(スリット幅0.12mm−スリット長0.3mm×3)とする他は、実施例1と同様にして芯鞘複合繊維を製造した。
【0064】
得られた芯鞘複合繊維は、芯部の断面扁平度が1.2(6葉断面)であり、繊維全体の断面扁平度は1.0であった。また、a/Aの値は0.59であり芯部の長中心繊維に垂直方向からの光線は59%が阻害される形状であった。b/Bの値は0.59であり、芯部の短中心線に垂直方向の光線は41%が通過可能な形状であった。
【0065】
しかしながら、芯部の構造が点対称であるためどの方向から観察しても二酸化チタンによって隠蔽されており、光線通過性の異方性を測定したところ、繊維の方向による異方性が認められなかった。
【0066】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の扁平芯鞘複合繊維は、繊維に対して入射する光線の角度によって、その光線透過性に異方性を発現させることができるため、光線通過による審美性を活かした衣料用繊維分野はもちろん、光線通過の異方性を活用できる産業分野にも好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の扁平芯鞘複合繊維の横断面形状の具体例を示す図面代用写真である。
【図2】本発明の扁平芯鞘複合繊維の横断面形状の具体例を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1:芯部
2:芯部に外接する最小矩形
3:鞘部
a:芯部に外接する最小矩形の長辺(長中心線)の長さ
b:芯部に外接する最小矩形の短辺(短中心線)の長さ
A:芯部に外接する最小矩形の長中心線と同一線上における繊維の径
B:芯部に外接する最小矩形の短中心線と同一線上における繊維の径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光線透過率が80〜100%であり、屈折率が1.4〜1.5である熱可塑性ポリマー組成物(A)を主たる構成成分とする鞘部と光線透過率が0〜50%である熱可塑性ポリマー組成物(B)を主たる構成成分とする芯部からなる芯鞘複合繊維であって、芯部の横断面形状が断面扁平度2〜20の楕円形状であることを特徴とする扁平芯鞘複合繊維。
【請求項2】
鞘部の熱可塑性ポリマー組成物(A)がセルロースアセテートプロピオネートおよび/またはセルロースアセテートブチレートを主成分とするものであることを特徴とする請求項1に記載の扁平芯鞘複合繊維。
【請求項3】
繊維全体の横断面形状が断面扁平度2〜20の楕円形状であることを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の扁平芯鞘複合繊維。
【請求項4】
繊維の横断面において、芯部に外接する最小矩形の長中心線の長さをa、短中心線の長さをbとし、該長中心線と同一線上における繊維の径をA、該短中心線と同一線上における繊維の径をBとする時、これらa,b,AおよびBが下記式1および2式を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の扁平芯鞘複合繊維。
a/A>0.7 ・・・ 式1
b/B<0.4 ・・・ 式2

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−270229(P2009−270229A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122887(P2008−122887)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】