説明

扉用防火装置

【課題】 簡易な構成で、熱に対する感度が高い防火装置を提供する。
【解決手段】 デッドボルト3を有する錠5と、火災時にこの錠5を自動的に作動してデッドボルト3を突出させる作動装置7とを備える。作動装置7は、錠5に接続される軸部材9と、この軸部材9を回転させる一対の操作部材11,11と、この操作部材11を作動させるコイルバネ13と、操作部材11の作動を規制する規制部材15と、軸部材9を回転可能に保持するケース17とを備え、ケース17は扉の表面に固定される。規制部材15は低融点合金により形成されており、火災により規制部材15の温度が融点に達すると溶け、コイルバネ13が操作部材11を付勢して軸部材9を回転させる。軸部材9が回転することで、デッドボルト3が突出して施錠される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扉用防火装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マンションや戸建住宅において火災が発生した場合、熱で玄関扉が膨張して変形し、炎や煙が外部へ拡散してしまい隣接する住宅等に延焼することがある。このような事態を防止するため、玄関扉などに特許文献1に示されるような防火装置が取り付けられることがある。
【0003】
特許文献1に記載の装置の場合、火災が発生して高温となると、第2のスプリングが伸長してシャッタが移動する。これにより、デッドボルトが突出して防火扉をロックさせて、扉の変形を防止し、延焼を防ぐ構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−7309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の装置の場合、装置全体が専用の部品で構成されて複雑となっており、コストがかかるものであった。
また、特許文献1に記載の装置の場合、装置全体が扉内に設けられる構成であり、熱に対する感度が低く、かなり高温になってから作動するおそれがあり、その際には扉がすでに変形しているおそれもあった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、簡易な構成で、熱に対する感度が高い防火装置を安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、請求項1に記載の発明は、デッドボルトを有する錠と、この錠を施錠操作する軸部材と、前記軸部材を回転させる操作部材と、設定温度以上で付勢力により前記操作部材を作動させる作動部材とを備えることを特徴とする扉用防火装置である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記作動部材の作動を規制する規制部材をさらに備え、前記規制部材が設定温度以上で溶融または変形することで、前記作動部材が、前記操作部材を作動させることを特徴とする請求項1に記載の扉用防火装置である。また、好ましくは上記構成に加えて、前記作動部材は、コイルバネとされ、設定温度未満では、前記規制部材により圧縮された状態が維持され、設定温度以上で前記規制部材が溶融または変形することで、伸長して前記操作部材を作動させることを特徴とする扉用防火装置である。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記作動部材は、形状記憶合金により形成されたコイルバネとされ、設定温度以上で、伸長することで前記操作部材を作動させることを特徴とする請求項1に記載の扉用防火装置である。
【0010】
請求項4に記載の発明は、前記軸部材を回転可能に保持すると共に、前記作動部材を収容するケースをさらに備え、前記ケースは、扉の表面に固定されることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載の扉用防火装置である。
【0011】
請求項5に記載の発明は、前記軸部材は、所定位置で前記ケースと係合可能とされ、その係合状態では回転が規制されると共に前記錠を解錠状態に維持することを特徴とする請求項4に記載の扉用防火装置である。
【0012】
さらに、請求項6に記載の発明は、前記錠に取り付けられて用いられる作動装置であって、この作動装置は、前記軸部材、前記操作部材、前記作動部材および前記ケースを備えることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の扉用防火装置に用いられる作動装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の扉用防火装置によれば、簡易な構成とされ、熱に対する感度も高い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の扉用防火装置の実施例1を示す分解斜視図である。
【図2】図1の扉用防火装置の作動装置を示す図であり、(a)は正面図、(b)は後方から見た図である。
【図3】(a)は、図2(b)のA−A概略断面図であり、(b)は、図2(b)のB−B概略断面図である。
【図4】図2の作動装置を後方から見た分解斜視図である。
【図5】軸部材を前方から見た斜視図である。
【図6】ケース本体を示す図であり、(a)は後方から見た斜視図、(b)は横断面図である。
【図7】錠の一例を示す図であり、(a)は解錠状態、(b)は施錠状態を示している。
【図8】図1の扉用防火装置の扉への取付状態を上方から見た概略断面図である。
【図9】図1の扉用防火装置が作動した際の作動装置を示す図であり、(a)は前方から見た図、(b)は後方から見た図である。
【図10】図9の作動装置の概略縦断面図である。
【図11】図1の扉用防火装置の変形例の作動装置を示す図であり、(a)は前方から見た図、(b)は後方から見た図である。
【図12】図11の作動装置の概略縦断面図である。
【図13】図11の作動装置を後方から見た分解斜視図である。
【図14】図11の作動装置の初期状態における蓋部材と軸部材を示す図であり、(a)は後方から見た概略図、(b)は(a)の概略斜視図である。
【図15】図11の作動装置が作動した状態を示す図であり、(a)は前方から見た図、(b)は後方から見た図である。
【図16】図15の作動装置の概略縦断面図である。
【図17】図15の状態における蓋部材と軸部材を示す図であり、(a)は後方から見た概略図、(b)は(a)の概略斜視図である。
【図18】図15の作動装置の軸部材を解錠方向へ回転させた状態を示す図であり、(a)は前方から見た図、(b)は後方から見た図である。
【図19】図18の作動装置の概略縦断面図である。
【図20】図18の状態における蓋部材と軸部材を示す図であり、(a)は後方から見た概略図、(b)は(a)の概略斜視図である。
【図21】図11の作動装置を変更した状態を後方から見た分解斜視図である。
【図22】図21の作動装置の蓋部材と軸部材を示す図であり、(a)は後方から見た概略図、(b)は(a)の概略斜視図である。
【図23】本発明の扉用防火装置の実施例2の作動装置を示す図であり、(a)は前方から見た図、(b)は後方から見た図である。
【図24】図23の作動装置の概略縦断面図である。
【図25】図23の作動装置を後方から見た分解斜視図である。
【図26】図23の作動装置が作動した状態を示す図であり、(a)は前方から見た図、(b)は後方から見た図である。
【図27】図26の作動装置の概略縦断面図である。
【図28】図23の扉用防火装置の変形例の作動装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の扉用防火装置の実施例について図面に基づいて具体的に説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の扉用防火装置の実施例1を示す分解斜視図である。図2は、図1の扉用防火装置の作動装置を示す図であり、(a)は前方から見た図であり、(b)は後方から見た図であり、蓋部材を破断して示している。また、図3(a)は、図2(b)のA−A概略断面図であり、図3(b)は、図2(b)のB−B概略断面図であり、蓋部材を省略して示している。さらに、図4は、図2の作動装置を後方から見た分解斜視図である。
【0017】
本実施例の扉用防火装置1は、デッドボルト3を有する錠5と、火災時にこの錠5を自動的に作動してデッドボルト3を突出させる作動装置7とを備える。
この作動装置7は、錠5に接続される軸部材9と、この軸部材9を回転させる一対の操作部材11,11と、この操作部材11を作動させる作動部材13と、操作部材11の作動を規制する規制部材15と、軸部材9を回転可能に保持するケース17とを主要部に備える。なお、錠5自体は、従来公知の各種錠を用いることができる。
【0018】
図5は、軸部材を前方から見た斜視図である。
軸部材9は、円柱形状とされ、その前面には、直径方向に沿って溝19が形成されている。また、軸部材9の後端部9aは、断面十字形状に形成されている。
軸部材9の中途部には、径方向外側へ突出して鍔部21が形成されている。また、軸部材9には、鍔部21の前方に、鍔部21に隣接してピニオン状に歯車23が形成されている。
【0019】
各操作部材11は、同一形状とされる。ここでは、図2(b)および図4において、左側に配置される操作部材11について説明する。
【0020】
操作部材11は、上下に細長い矩形板状とされ、その上端部には、右側へ延出し、さらにその延出部の上端部から前方へ水平に延出して矩形板状の受け部25が形成されている。また、操作部材11には、受け部25より下方位置において、その右端辺部に上下方向に沿って、複数の歯27がラック状に形成されている。
【0021】
各操作部材11は、ケース17に上下動可能に設けられる。ケース17は、ケース本体29と、このケース本体29に取り付けられる蓋部材31とを備える。
【0022】
図6は、ケース本体を示す図であり、(a)は後方から見た斜視図、(b)は横断面図である。
【0023】
ケース本体29は、後方へ開口する矩形箱状とされる。ケース本体29の幅方向(左右方向)中央部には、前方へ突出して半円形状の突出部33が、上下方向に沿って形成されている。
【0024】
ケース本体29の中心部には、前後方向に沿って円形の貫通穴35が形成されており、この貫通穴35は、軸部材9の前端部の外径に対応している。
また、ケース本体29の幅方向中央部には、上下方向に沿って前方へ凹んで断面略半円形状の凹溝37が形成されていると共に、貫通穴35の外周部に沿って後方へ突出する円筒状部38が形成されている。つまり、ケース本体29には、円筒状部38を挟んだ上下位置に凹溝37が上下方向に沿ってそれぞれ形成されている。
【0025】
また、ケース本体29には、図6に示すように、左右に離隔して、後方へ突出する断面矩形状の壁部39、41が、上下方向に沿ってそれぞれ形成されている。
さらに、ケース本体29の上下端部には、各壁部39,41から左右方向内側へ離隔した位置に、後方へ突出する矩形状の突部43,45,47,49がそれぞれ形成されている。つまり、上下一対の突部(43,45)(47,49)が左右に離隔して形成されている。
【0026】
壁部39と突部43,45との間隔、および壁部41と突部47,49との間隔は、操作部材11の左右寸法に対応している。
【0027】
また、各壁部39,41と突部43,45,47,49との間には、前方へ凹んで凹部51,53,55,57が形成されている。つまり、上下一対の凹部(51,53)(55,57)が左右に離隔して形成されている。
【0028】
各操作部材11は、左右に離隔して配置され、図2(b)および図4において右側の操作部材11は、左側の操作部材11の上下を逆にして配置されると共に、受け部25を前方へ向けて配置される。また、各操作部材11は、ケース本体29に重ね合わされて、壁部39,41に沿って上下動可能にケース本体29に設けられる。
この際、各操作部材11の受け部25は、ケース本体29の凹溝37に配置される。
【0029】
軸部材9は、その前端部が、ケース本体29の貫通穴35に回転可能にはめ込まれて設けられる。この際、軸部材9の歯車23が、各操作部材11のラック状の歯27に噛み合わされて設けられ、操作部材11の上下動に伴って軸部材9が回転するよう構成される。
【0030】
ケース本体29に設けられた各操作部材11の受け部25と、ケース本体29との間に作動部材13が配置される。本実施例1では、作動部材13としてコイルバネが用いられ、ケース本体29の凹溝37に配置される。
具体的には、図2(b)に示す状態において、左側の操作部材11の受け部25と、ケース本体29の上壁61との間、および右側の操作部材11の受け部25と、ケース本体29の下壁63との間にそれぞれコイルバネ13が設けられる。
【0031】
そして、初期状態(加熱されていない状態)において、各コイルバネ13が圧縮した状態を維持するように、規制部材15が設けられる。
規制部材15は、棒状とされ、低融点の金属や合成樹脂により形成されている。本実施例では、規制部材15は、低融点合金により形成されており、その融点は、50℃〜150℃とされ、好ましくは、60℃〜100℃とされ、本実施例では、規制部材15の融点は70℃とされる。
【0032】
本実施例では、図2(b)に示す初期状態において左側の操作部材11の下方位置および、右側の操作部材11の上方位置にそれぞれ規制部材15が配置される。
具体的には、左側の操作部材11が上方位置に配置される一方、右側の操作部材11が下方位置に配置され、各コイルバネ13が圧縮された状態で、左側の操作部材11の下端部とケース本体29の下壁63との間、および右側の操作部材11の上端部とケース本体29の上壁61との間にそれぞれ規制部材15が設けられる。この際、各規制部材15は、ケース本体29の凹部53,55に配置される。このように規制部材15が設けられることで、コイルバネ13により付勢される操作部材11の移動が規制される。
また、初期状態では、軸部材9の溝19が上下方向に沿うように配置されている。
【0033】
このように、ケース本体29に軸部材9、操作部材11、コイルバネ13および規制部材15が配置された状態で、ケース本体29に蓋部材31が取り付けられる。
蓋部材31は、矩形板状とされ、その中央部分は後方へ円形状に突出して形成されており、その突出面65の中央部に貫通穴67が形成されている。蓋部材31は、その貫通穴67に軸部材9の後端部9aを通した状態で、ケース本体29に重ね合わされて取り付けられる。
【0034】
図7は、錠の一例を示す断面図であり、(a)は、デッドボルトが後退した解錠状態を示しており、(b)はデッドボルトが突出した施錠状態を示している。
また、図8は、図1の防火装置の扉への取付状態を上方から見た概略断面図である。
【0035】
本実施例1の作動装置7が、扉Dに設けられる錠5に取り付けられて防火装置1が構成される。本実施例1では、扉Dに取り付けられた錠5に、室内側から作動装置7が取り付けられる。また、本実施例1の扉用防火装置1は、火災時の熱による扉Dの変形を防ぐために、扉Dの上端部や下端部、またはその両方に設けられるのが好ましい。
【0036】
本実施例1の作動装置7が取り付けられる錠5は、本締りが可能な錠、つまりデッドボルト(かんぬき)を有する錠であれば、従来公知の各種錠が使用可能であり、その具体的構成は特に問わないが、図7に示す錠5は、図8に示すように扉Dに錠ケース71が取り付けられ、この錠ケース71内に設けられたハブ73の回転に伴いデッドボルト3が進退する構成とされる。
【0037】
本実施例1では、作動装置7の軸部材9の後端部9aが、錠5のハブ73の取付穴73aにはめ込まれて作動装置7が錠5に取り付けられる。本実施例1では、ハブ73の取付穴73aに、直径方向に離隔した位置に径方向内側へ突出して三角形状部73b,73bが形成されている。そして、軸部材9の十字状の後端部9aがハブ73の取付穴73aにはめ込まれることで、軸部材9とハブ73は一体回転可能とされる。
また、本実施例1では、作動装置7が錠5に取り付けられる際、図1や図8に示すように、補助具75が使用される。補助具75は、板状部77と、その板状部77の左右方向両端部から後方へ向けて設けられる柱部79,79とを有し、板状部77には、円形の貫通穴77aが形成されている。また、各柱部79の中心部には、軸方向に沿ってネジ穴79aが形成されている。
【0038】
補助具75は、その柱部79が錠ケース71に形成された貫通穴71aにはめ込まれて錠ケース71に取り付けられ、錠ケース71と共に扉Dの内部に配置される。そして、作動装置7の軸部材9が、扉Dの表面から補助具75の板状部77の貫通穴77aを介して錠5のハブ73の取付穴73aにはめ込まれる。また、ケース本体29の貫通穴83から補助具75の柱部79にネジ85がねじ込まれて作動装置7が錠5に取り付けられる。作動装置7が錠5に取り付けられた状態では、扉Dの表面の板材をケース17と補助具75が挟み込んでおり、ケース17は扉Dの表面(外面)に固定される。
【0039】
このように扉Dに取り付けられた本実施例の扉用防火装置1は、初期状態(加熱されていない状態)では、規制部材15により操作部材11の移動が阻止されており、コイルバネ13は圧縮された状態が維持されている。また、初期状態では、錠5のデッドボルト3は後退して錠ケース71内に収容されている。
【0040】
図9および図10は、火災時に図1の扉用防火装置が作動した際の作動装置を示す図であり、図9(a)は前方から見た図、図9(b)は後方から見た図であり、蓋部材を破断して示しており、図10は概略縦断面図である。
【0041】
火災が発生し、設定温度(例えば70度)以上の高温になると、規制部材15が溶ける。具体的には、規制部材15の温度が、その融点以上になると規制部材15が溶ける。
これにより、各操作部材11は、規制が解除され、コイルバネ13の付勢力により移動する。具体的には、コイルバネ13が伸長することで、図2(b)において左側の操作部材11は下方へ移動し、右側の操作部材11は上方へ移動する。
【0042】
また、コイルバネ13に付勢されて操作部材11,11が移動することで、操作部材11,11と噛み合わされた軸部材9が回転する。本実施例では、軸部材9は、図2(b)に示す状態において、反時計方向に回転する。軸部材9が回転することで、ハブ73が回転して、デッドボルト3が突出し、扉枠Fに設けられた受87に突入して施錠される。
このように設定温度になると、つまり規制部材15の温度がその融点に達すると、規制部材15が溶けて、コイルバネ13が操作部材11,11を作動させることで、軸部材9が回転する。そして、軸部材9が錠5を操作してデッドボルト3が突出して施錠される。これにより扉Dの変形を防止でき、ひいては炎や煙が外部へ拡散することがなく、延焼を防ぐことができる。
【0043】
本実施例1では、規制部材15を備える作動装置7が、扉Dの表面に設けられていることで、熱に対する感度がよく、温度検知がしやすく動作性がよい。これにより、火災発生時に扉Dの変形が確実に防止され、ひいては延焼を防止できる。
【0044】
ところで、本実施例1の扉用防火装置1が取り付けられる扉Dの使用環境によっては、作動装置7が誤作動するおそれがある。たとえば、太陽光が扉に当たることなどで熱せられ、規制部材15の温度がその融点に達すると、規制部材15が溶けて施錠されてしまうおそれがある。このように万一誤作動が起こった場合、軸部材9の前端面に形成された溝19にマイナスドライバーの先端やコインなどを差し込み、図9(a)に示す状態において軸部材9を反時計方向に回転させる。これにより、デッドボルト3が後退し解錠することができ、この状態で扉Dを開ければよい。
【0045】
次に、本実施例1の変形例について説明する。
本変形例の扉用防火装置は、基本的には実施例1の扉用防火装置と同様の構成である。そこで、以下においては、両者の異なる部分を中心に説明し、対応する箇所には同一符号を付して説明する。
【0046】
図11〜図13は、実施例1の扉用防火装置の変形例の作動装置を示す図であり、図11(a)は、前方から見た図であり、図11(b)は、後方から見た図であり、蓋部材を破断して示している。また、図12は、概略縦断面図であり、図13は、後方から見た分解斜視図である。
【0047】
さらに、図14は、初期状態における蓋部材の切欠きに対する軸部材の凸部の位置関係を示す図であり、(a)は後方から見た概略図、(b)は(a)の概略斜視図である。
【0048】
本変形例では、軸部材9の外周面に、周方向等間隔に離隔して、4つの矩形状の凸部91,93,95,97が径方向外側へ突出して形成されている。具体的には、軸部材9の鍔部21の後方に、鍔部21に隣接して凸部91,93,95,97が形成されている。
そして、軸部材9は、図11(b)および図14(a)に示す初期状態において、凸部91,93,95,97が軸部材9の上下端部および左右端部に配置されるように周方向の位置決めがなされている。具体的には、初期状態において、凸部91と凸部95が上下方向に沿うように配置され、凸部93と凸部97が左右方向に沿うように配置されるように、軸部材9が設けられる。
本変形例では、左右端部の凸部93,97は、上下端部の凸部91,95より若干小さく形成されている。
【0049】
蓋部材31の貫通穴67には、周方向等間隔に離隔して、4つの矩形状の切欠き101,103,105,107が、径方向外側へ延出して形成されている。
【0050】
その各切欠き101,103,105,107は、初期状態における軸部材9の凸部91,93,95,97と周方向に若干ずれた位置に配置されている。具体的には、蓋部材31の切欠き101,103,105,107は、初期状態において、軸部材9の4つの凸部91,93,95,97が配置される位置から、図14(a)に示す状態において、それぞれ反時計方向側へ若干ずれた位置に形成されている。
【0051】
また、4つの切欠き101,103,105,107の内、上部および下部に配置される切欠き101,105は、左部および右部に配置される切欠き103,107より、若干大きく形成されている。そして、上下部の切欠き101,105は、軸部材9の上下端部の凸部91,95に対応しており、左右部の切欠き103,107は、軸部材9の左右端部の凸部93,97に対応している。
【0052】
本変形例の扉用防火装置は、初期状態では、軸部材9の凸部91,93,95,97と、蓋部材31の切欠き101,103,105,107が周方向にずれていることで、軸部材9は軸方向の移動が規制される。
【0053】
図15および図16は、初期状態から作動した作動装置を示す図であり、図15(a)は前方から見た図、図15(b)は後方から見た図であり、蓋部材を破断して示しており、図16は概略縦断面図である。
また、図17は、図15および図16の状態における蓋部材の切欠きに対する軸部材の凸部の位置関係を示す図であり、(a)は後方から見た概略図、(b)は(a)の概略斜視図である。
【0054】
本変形例の防火装置は、実施例1と同様、火災の際、加熱されることで、規制部材15が溶け、コイルバネ13に付勢されて操作部材11が移動する。これにより、軸部材9が回転し、デッドボルト3が突出して施錠され、扉の変形が防止される。
【0055】
図18および図19は、作動後の作動装置の軸部材を解錠方向に回転させると共に、軸部材を蓋部材に係合させた状態を示す図であり、図18(a)は前方から見た図、図18(b)は後方から見た図、図19は概略縦断面図である。
また、図20は、図18や図19の状態における蓋部材の切欠きに対する軸部材の凸部の位置関係を示す図であり、(a)は後方から見た概略図、(b)は(a)の概略斜視図である。
【0056】
ところで、本変形例の扉用防火装置1が設けられた扉の使用環境によっては、作動装置7が誤作動するおそれがある。たとえば、扉Dが太陽光で熱せられて、規制部材15の温度が、その融点に達すると、規制部材15が溶けて作動装置7が作動するおそれがある。
【0057】
このように万一誤作動が起こった場合、扉Dを開けるために錠5を解錠する必要があるが、本変形例では、軸部材9の前端面の溝19にマイナスドライバーなどを差し込み、図17(a)および図17(b)に示す状態から、軸部材9を後方へ押し込みながら、図17(a)に示す状態において時計方向(図15(a)に示す状態において反時計方向)に回転させていくと、軸部材9の凸部91,93,95,97が、蓋部材31の切欠き101,103,105,107と前後方向に重なった際、図18(b)および図20に示すように、凸部91,93,95,97が、蓋部材31の切欠き101,103,105,107に突入して、軸部材9が蓋部材31に係合した状態となる。
【0058】
このように、軸部材9が蓋部材31に係合することで、軸部材9の周方向の回転が規制され、軸部材9からドライバー等を外しても軸部材9が回転することがない。また、コイルバネ13により軸部材9が周方向に付勢されていることで、軸部材9の凸部91,93,95,97が、蓋部材31の切欠き101,103,105,107に突入した状態では、軸部材9の凸部91,93,95,97が蓋部材31の切欠き101,103,105,107の端面に押し付けられることで、不用意な脱落が防止され、係合状態を維持する。このように解錠された状態で、扉を開放すればよい。
【0059】
なお、軸部材9の凸部91,93,95,97が、蓋部材31の切欠き101,103,105,107に突入した状態では、図18(a)に示すように、軸部材9は施錠状態から90度回転して戻っていないが、錠5の構造上、軸部材9は施錠状態から75度以上回転していればデッドボルト3は受87から離脱して解錠されており、開扉することができる。
【0060】
本変形例では、施錠状態から軸部材9を回転させて解錠した状態において、軸部材9の回転を規制することができるため、たとえば、扉Dの上下両方に本変形例の防火装置を取り付けていた場合でも、各防火装置1の軸部材9の回転を規制した状態で、扉Dを開けることができ、1人で解錠および開扉することができる。
【0061】
図21および図22は、図11の扉用防火装置の作動装置をさらに変更した状態を示す図であり、図21は作動装置を後方から見た分解斜視図である。また、図22(a)は、蓋部材の切欠きに対する軸部材の凸部の位置関係を後方から見た概略図であり、図22(b)は図22(a)の概略斜視図である。
【0062】
上記変形例では、図14(a)に示す初期状態において、軸部材9の凸部91,93,95,97に対して反時計方向側にずれた位置に、蓋部材31に切欠き101,103,105,107を形成したが、図22(a)および図22(b)に示すように、時計方向側にもずれた位置に切欠き111,113,115,117を形成してもよい。図22(a)および図22(b)に示すように、軸部材9の凸部91,93,95,97に対して、反時計方向側および時計方向側にずれた位置にそれぞれ切欠き101,103,105,107,111,113,115,117を形成しておくことで、左勝手および右勝手の両方の開き戸に対応することができる。
【実施例2】
【0063】
次に、本発明の扉用防火装置の実施例2について説明する。
本実施例2の扉用防火装置は、基本的には実施例1の扉用防火装置と同様の構成である。そこで、以下においては、両者の異なる部分を中心に説明し、対応する箇所には同一符号を付して説明する。
【0064】
図23〜図25は、本発明の扉用防火装置の実施例2の作動装置を示す図であり、図23(a)は、前方から見た図、図23(b)は、後方から見た図であり、蓋部材を破断して示している。また、図24は、概略縦断面図であり、図25は、後方から見た分解斜視図である。
【0065】
本実施例2の防火装置は、実施例1と同様、デッドボルト3を有する錠5と、火災時にこの錠5を自動的に作動してデッドボルト3を突出させる作動装置7とを備える。
本実施例2の作動装置7は、錠5に接続される軸部材9と、この軸部材9を回転させる一対の操作部材11,11と、この操作部材11を作動させる作動部材121と、軸部材9を回転可能に保持するケース17とを主要部に備える。
なお、錠自体は、実施例1と同様、従来公知の各種錠を用いることができる。
【0066】
本実施例の作動部材121は、コイルバネとされ、形状記憶合金により形成されている。コイルバネ121は、設定温度まで加熱されると元の形状に回復する。本実施例では、設定温度まで加熱されると、コイルバネ121は元の伸長状態に伸長する。
具体的には、初期状態(加熱されていない状態)では、コイルバネ121は、短縮した状態で維持されており、加熱されてその変態点に達すると伸長する。コイルバネ121の変態点は、50℃〜150℃とされ、好ましくは60〜100℃とされ、本実施例では、70℃とされる。
【0067】
本実施例2では、実施例1と同様、ケース本体29に、軸部材9および操作部材11,11が配置される。この際、図23(b)に示す状態において、左側の操作部材11は、上方位置に配置されており、右側の操作部材11は、下方位置に配置されている。
【0068】
そして、各操作部材11の受け部25と、ケース本体29との間にコイルバネ121がそれぞれ配置される。具体的には、図23(b)において、左側の操作部材11の受け部25と、ケース本体29の上壁61との間、および右側の操作部材11の受け部25と、ケース本体29の下壁63との間にそれぞれコイルバネ121が収容される。
【0069】
このように、ケース本体29に、軸部材9、操作部材11およびコイルバネ121が設けられた状態で蓋部材31が設けられて、作動装置7が構成される。
そして、本実施例2の作動装置7は、実施例1と同様、軸部材9が、扉D内に内蔵された錠5のハブ73の取付穴73aにはめ込まれて、錠5に取り付けられる。
【0070】
このように扉Dに取り付けられた本実施例2の扉用防火装置1は、初期状態(加熱されていない状態)では、コイルバネ121は、短縮された状態に維持されている。また、初期状態では、錠5のデッドボルト3は後退して錠ケース71内に収容されている。
【0071】
図26および図27は、火災時に作動した作動装置を示す図であり、図26(a)は前方から見た図であり、図26(b)は後方から見た図であり、蓋部材を破断して示しており、図27は概略縦断面図である。
【0072】
火災が発生し、設定温度(例えば70度)以上の高温になると、コイルバネ121が変形する。具体的には、コイルバネ121の温度が、変態点以上となると、コイルバネ121は伸長し、図23(b)において、上下方向に伸びる。
この際、コイルバネ121は、操作部材11の受け部25を付勢し、これにより操作部材11は移動する。具体的には、コイルバネ121により付勢されて押し込まれることで、図23(b)において、左側の操作部材11は、下方へ移動し、右側の操作部材11は上方へ移動する。これにより軸部材9は、図23(b)において反時計方向(図23(a)において時計方向)に回転し、これに伴い錠5のハブ73も回転してデッドボルト3が突出して施錠される。このように、設定温度になるとコイルバネ121が操作部材11,11を作動させることで、デッドボルト3が突出して施錠される。これにより、扉の変形を防止でき、ひいては炎や煙が外部へ拡散することがなく、延焼を防ぐことができる。
【0073】
本実施例2では、コイルバネ121を備えた作動装置7が、扉Dの表面に設けられていることで、熱に対する感度がよく、温度検知がしやすく動作性がよい。これにより、火災発生時に扉の変形が確実に防止され、ひいては延焼を防止できる。
【0074】
本実施例2では、実施例1と同様に、作動装置7が万一誤作動した場合、マイナスドライバーなどで軸部材9を回転させることで解錠することができる。
また、本実施例2では、初期状態において、マイナスドライバーなどで軸部材9を回転させて施錠することができ、防犯対策にも使用可能である。
【0075】
図28は、本実施例2の防火装置の変形例を示す図であり、作動装置を後方から見た分解斜視図である。
【0076】
上記実施例1の変形例と同様、本実施例2においても、図28に示すように、軸部材9に凸部91,93,95,97を形成し、蓋部材31に切欠き101,103,105,107を形成してもよい。
このような構成とすることで、作動装置7が作動して施錠された状態から、軸部材9を後方へ押し込みながら解錠方向へ回転させて、軸部材9の凸部91,93,95,97を蓋部材31の切欠き101,103,105,107にはめ込み、軸部材9と蓋部材31を係合させることで、上記実施例1の変形例と同様、軸部材9の回転を規制できる。
さらに、図21や図22に示す作動装置7と同様に、蓋部材31に、切欠き111,113,115,117も形成して、左勝手および右勝手の両方の開き戸に対応可能な構成としてもよい。
【0077】
本発明の扉用防火装置は、上記各実施例の構成に限らず、適宜変更可能である。
上記各実施例では、2つの操作部材11,11により軸部材9を回転させる構成としたが、1つの操作部材により軸部材9を回転させる構成としてもよい。この際、作動部材も1つとすることができる。
【0078】
また、上記各実施例では、錠は、彫込本締錠とされたが、面付き本締錠としてもよい。
さらに、上記各実施例では、軸部材9の前端面に溝を形成して、マイナスドライバー等で軸部材9を回転可能な構成としたが、軸部材9の前端部に矩形板状のツマミを設け、手でツマミを操作して軸部材9を回転させる構成としてもよい。
【0079】
また、上記実施例1では、コイルバネ13により操作部材11を付勢して移動させたが、引っ張りバネやねじりコイルバネ(キックバネ)などその他のバネ部材により操作部材11を付勢して移動させる構成としてもよく、操作部材11を付勢する手段は適宜変更可能である。
【0080】
さらに、上記実施例1では、規制部材15を低融点合金により形成し、火災時に融点に達して溶融することで操作部材11が移動可能となる構成としたが、設定温度以上で操作部材11が移動可能となれば、規制部材15の材料などは特に問わない。
たとえば、設定温度に達すると軟化する材料により規制部材15を形成し、軟化して変形可能となることで操作部材11が移動可能となる構成としてもよい。また、一部分が溶融することで、操作部材11が移動可能となる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1 扉用防火装置
3 デッドボルト
5 錠
7 作動装置
9 軸部材
11 操作部材
13 作動部材
15 規制部材
17 ケース
31 蓋部材
121 作動部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デッドボルトを有する錠と、
この錠を操作する軸部材と、
前記軸部材を回転させる操作部材と、
設定温度以上で付勢力により前記操作部材を作動させる作動部材と
を備えることを特徴とする扉用防火装置。
【請求項2】
前記作動部材の作動を規制する規制部材をさらに備え、
前記規制部材が設定温度以上で溶融または変形することで、前記作動部材が、前記操作部材を作動させる
ことを特徴とする請求項1に記載の扉用防火装置。
【請求項3】
前記作動部材は、形状記憶合金により形成されたコイルバネとされ、設定温度以上で、伸長することで前記操作部材を作動させる
ことを特徴とする請求項1に記載の扉用防火装置。
【請求項4】
前記軸部材を回転可能に保持すると共に、前記作動部材を収容するケースをさらに備え、
前記ケースは、扉の表面に固定される
ことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載の扉用防火装置。
【請求項5】
前記軸部材は、所定位置で前記ケースと係合可能とされ、その係合状態では回転が規制されると共に前記錠を解錠状態に維持する
ことを特徴とする請求項4に記載の扉用防火装置。
【請求項6】
前記錠に取り付けられて用いられる作動装置であって、
この作動装置は、前記軸部材、前記操作部材、前記作動部材および前記ケースを備える
ことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の扉用防火装置に用いられる作動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2013−112938(P2013−112938A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257469(P2011−257469)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000130433)株式会社ゴール (52)
【Fターム(参考)】