説明

扉用防火装置

【課題】 簡易な構成で、熱に対する感度が高い扉に設けられる防火装置の提供。
【解決手段】 デッドボルト3を有する錠5と、錠5に接続される軸部材9と、軸部材9に通されるコイルバネ11とを備える。錠5は従来公知の各種錠が使用可能とされる。コイルバネ11は、形状記憶合金により形成されており、設定温度以上に加熱されると、両端部11a,11bが周方向に移動し、軸部材9を回転させて錠5のデッドボルト3を突出させて施錠する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扉用防火装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マンションや戸建住宅において火災が発生した場合、熱で玄関扉が膨張して変形し、炎や煙が外部へ拡散してしまい隣接する住宅等に延焼することがある。このような事態を防止するため、玄関扉などに特許文献1に示されるような防火装置が取り付けられることがある。
【0003】
特許文献1に記載の装置の場合、火災が発生して高温となると、第2のスプリングが伸張してシャッタが移動する。これにより、デッドボルトが突出して防火扉をロックさせて、扉の変形を防止し、延焼を防ぐ構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−7309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の装置の場合、装置全体が専用の部品で構成されて複雑となっており、コストがかかるものであった。
また、特許文献1に記載の装置の場合、装置全体が扉内に設けられる構成であり、熱に対する感度が低く、かなり高温になってから作動するおそれがあり、その際には扉がすでに変形しているおそれもあった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、簡易な構成で、熱に対する感度が高い防火装置を安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、請求項1に記載の発明は、デッドボルトを有する錠と、この錠に接続される軸部材と、設定温度以上で変形して、前記軸部材を回転させる作動部材とを備えることを特徴とする扉用防火装置である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記軸部材は、扉に固定のケースに回転可能に保持され、前記作動部材は、形状記憶合金により形成されたねじりコイルバネとされ、このコイルバネは、前記軸部材に通されて、一端部が前記軸部材に当接される一方、他端部が前記ケースに当接され、設定温度以上で、前記コイルバネの両端部が周方向に移動することで、前記軸部材を回転させることを特徴とする請求項1に記載の扉用防火装置である。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記錠に取り付けられて用いられる作動機構であって、この作動機構は、前記軸部材、前記作動部材および前記ケースを備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の扉用防火装置に用いられる作動機構である。
【0010】
さらに、請求項4に記載の発明は、扉の戸先側上端部または戸先側下端部の少なくとも一方に、前記扉用防火装置が取り付けられたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の防火装置が設置された扉である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の扉用防火装置によれば、簡易な構成とされ、熱に対する感度も高い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の扉用防火装置の一実施例を示す分解斜視図である。
【図2】図1の扉用防火装置の作動機構を示す正面図である。
【図3】図2の作動機構の縦断面図である。
【図4】図2の作動機構を後方から見た図である。
【図5】図2の作動機構を後方から見た分解斜視図である。
【図6】図1の扉用防火装置の扉への取付状態を示す平面図である。
【図7】図1の扉用防火装置が火災時に作動した際の作動機構を示す正面図である。
【図8】図7の作動機構の縦断面図である。
【図9】図7の作動機構を後方から見た図である。
【図10】図2の作動機構の軸部材を工具により回転させた状態を示す正面図である。
【図11】図10の作動機構の縦断面図である。
【図12】図10の作動機構を後方から見た図である。
【図13】図1の扉用防火装置の変形例を示す分解斜視図である。
【図14】図2の作動機構の作動部材の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の扉用防火装置の実施例について図面に基づいて具体的に説明する。
【0014】
図1は、本発明の扉用防火装置の一実施例を示す分解斜視図である。
また、図2から図4は、図1の扉用防火装置の作動機構を示す図であり、図2は正面図であり、カバー43を破断して示しており、図3は図2の縦断面図であり、図4は図2の作動機構を後方から見た図であり、蓋29を破断して示している。
また、図5は、図2の作動機構を後方から見た分解斜視図である。
【0015】
本実施例の防火装置1は、デッドボルト3を有する錠5と、火災時にこの錠5を自動的に作動してデッドボルト3を突出させる作動機構7とを備える。この作動機構7は、錠5に接続される軸部材9と、この軸部材9に設けられる作動部材11と、軸部材9を回転可能に保持するケース13とを主要部に備える。錠5自体は、従来公知の各種錠を用いることができる。
【0016】
軸部材9は円柱形状とされ、その前側には径方向外側へ突出して鍔部17が形成されている。この鍔部17には、径方向両端部に凸部19,19が設けられている。
具体的には、鍔部17の径方向に離隔した2カ所が、径方向外側へ矩形状に突出して形成されており、この各突出部21の中央部から棒状の凸部19が後方へ突出して設けられている。軸部材9の前端部9aは、鍔部17より前方へ突出しており、軸部材9の前面には、径方向に沿って溝23が形成されている。また、軸部材9の後端部9bは、断面十字形状に形成されている。
【0017】
本実施例では、作動部材11は、コイルバネとされ、より具体的にはねじりコイルバネとされる。
コイルバネ11の両端部は径方向外側へ屈曲されており、この屈曲部11a,11bは、周方向において略同一位置に配置されている。これにより、コイルバネ11を軸方向一方側(前後方向一方側)から見た際、コイルバネ11の屈曲部11a,11bは前後方向に重なって配置される。
【0018】
また、コイルバネ11は、形状記憶合金により形成されており、設定温度まで加熱されると元の形状に回復する。本実施例では、設定温度まで加熱されると、コイルバネ11の屈曲部11a,11bは互いに離隔するように周方向に移動する。
【0019】
ケース13は、ケース本体27と、このケース本体27に固定される蓋29とを備える。ケース本体27は、後方へ開口する筒形状とされ、その前壁31の中央部には軸方向に沿って貫通穴31aが形成されている。この貫通穴31aは、軸部材9の前端部9aに対応した径とされている。
【0020】
ケース本体27内には、図4および図5に示す状態において、左右両端部に、径方向内側へ突出して矩形状の取付部(第一取付部33、第二取付部35)がそれぞれ形成されている。また、ケース本体27内には、図4および図5に示す状態において、上下両端部にも径方向内側へ突出して取付部(第三取付部37、第四取付部39)が形成されている。
【0021】
第三取付部37は、ケース本体27内の上端部から下方へ矩形状に突出した後、さらに、下方へ行くに従って左右方向外側へ突出して設けられている。
第三取付部37の上端部には、ケース本体27の軸方向に沿って段付きの貫通穴41が形成されている。なお、各取付部33,35,37,39の高さ(図3において左右寸法)は同一とされている。
【0022】
本実施例では、ケース本体27の前面に、カバー43が設けられる。
カバー43は円板形状とされ、その上端部には、後方へ突出して取付柱45が設けられている。カバー43は、その取付柱45がケース本体27の第三取付部37の貫通穴41に通されてケース本体27に回転可能に設けられる。
具体的には、カバー43の取付柱45は、第三取付部37の貫通穴41の内、前側の小径穴41aに対応した径とされている。そして、取付柱45が、第三取付部37の貫通穴41に通された状態で、取付柱45にコイルバネ47が通され、さらにワッシャ49が通されて、取付柱45の先端部がかしめられる。このコイルバネ47およびワッシャ49は、第三取付部37の貫通穴41の大径穴41b内に配置される。なお、図示例では、取付柱45は、ワッシャ51が通された状態で第三取付部37の貫通穴41に差し込まれる。
このようにして、カバー43は、ケース本体27に回転可能に設けられると共に、コイルバネ47により後方へ付勢されており、取付柱45を中心としてケース本体27に対してカバー43を回転させた際に、所望位置でカバー43を位置決めすることができる。
【0023】
軸部材9は、その前端部9aがケース本体27の貫通穴31aに回転可能にはめ込まれて、ケース13に保持される。また、軸部材9は、ケース本体27に取り付けられた際、各取付部33,35,37,39に囲まれて配置される。本実施例では、ケース本体27の周側壁から突出する第一取付部33および第二取付部35の各先端面、つまり図4および図5において第一取付部33の右端面33aおよび第二取付部35の左端面35aは、それぞれ円弧面に形成されており、軸部材9がケース本体27に取り付けられた状態において、軸部材9の鍔部17の外周面に沿って配置される。
そして、第一取付部33の右端面33aおよび第二取付部35の左端面35aは、軸部材9の凸部19の回転軌道上までケース本体27の中心側へ延出している。
【0024】
また、図4および図5に示すように、第三取付部37の下端面37aは、軸部材9の鍔部17の突出部21の外周面に対応した円弧面に形成されている。
さらに、ケース本体27に軸部材9が設けられる際、軸部材9の一方の凸部19が第一取付部33と第二取付部35より上方に配置され、軸部材9の他方の凸部19が第一取付部33と第二取付部35より下方に配置される。
【0025】
ケース本体27に保持された軸部材9にコイルバネ11が回転可能に通される。
この際、コイルバネ11の屈曲部(両端部)11a,11bは、ケース本体27の第一取付部33と軸部材9の一方の凸部19との間に配置される。
【0026】
ケース本体27に、軸部材9、コイルバネ11およびカバー43が設けられた状態で、ケース本体27に蓋29が取り付けられる。
蓋29は、矩形板状とされ、その上端部は左右方向外側へ突出して形成されている。
また、蓋29には、軸部材9が通される貫通穴29aが形成されている。
蓋29は、その貫通穴29aに軸部材9が通された状態で、第三取付部37の下端部および第四取付部39に重ね合わされて、第三取付部37および第四取付部39にネジ53がねじ込まれてケース本体27に固定される。
【0027】
このような構成の作動機構7が、扉Dに設けられる錠5に取り付けられて防火装置1が構成される。本実施例では、扉Dに埋め込まれた錠5に、室内側から作動機構7が取り付けられる。
図6は、図1の防火装置の扉への取付状態を示す平面図である。
【0028】
本実施例の作動機構7が取り付けられる錠5は、本締りが可能な錠であれば、つまりデッドボルト(かんぬき)を有する錠であれば、従来公知の各種錠が使用可能であり、その具体的構成は特に問わないが、図1および図6に示す錠では、扉Dに錠5の錠ケース55が埋め込まれ、この錠ケース55内に設けられたハブ57の回転に伴いデッドボルト3が進退する構成とされる。
また、本実施例の作動機構7が取り付けられる錠5は、火災時の熱による扉Dの変形を防ぐために、扉Dの上端部や下端部、またはその両方に設けられるのが好ましい。
【0029】
本実施例では、作動機構7の軸部材9の後端部9bが、錠5のハブ57の取付穴57aにはめ込まれて作動機構7が錠5に取り付けられる。
また、本実施例では、作動機構7が錠5に取り付けられる際、補助具61が使用される。補助具61は、板状部63と、その板状部63の左右方向両端部から後方へ向けて設けられる柱部65,65とを有し、板状部63には、円形の貫通穴63aが形成されている。また、各柱部65の中心部には、軸方向に沿ってネジ穴65aが形成されている。
【0030】
補助具61は、その柱部65が錠ケース55に形成された貫通穴55aにはめ込まれて錠ケース55に取り付けられて、図6に示すように、錠ケース55と共に扉Dの内部に配置される。
そして、作動機構7の軸部材9が、扉Dの表面から補助具61の板状部63の貫通穴63aを介して錠5のハブ57にはめ込まれる。また、ケース本体27の貫通穴66から補助具61の柱部65にネジ67がねじ込まれて作動機構7が錠5に取り付けられる。作動機構7が錠5に取り付けられた状態では、扉Dの表面の板材をケース13と補助具61が挟み込んでおり、ケース13は扉Dの表面(外面)に固定される。
【0031】
このように扉Dに取り付けられた本実施例の防火装置1は、通常状態(加熱されていない状態)では、コイルバネ11の屈曲部11a,11bがケース本体27の第一取付部33と軸部材9の一方の凸部19とに挟み込まれた状態で配置されている。換言すれば、コイルバネ11の屈曲部11a,11bは、ケース本体27の第一取付部33と軸部材9の一方の凸部19に当接して配置されている。
また、通常状態では、錠5のデッドボルト3は後退して錠ケース55内に収容されている。
【0032】
図7〜図9は、火災時に図1の防火装置が作動した際の作動機構を示す図であり、図7は正面図であり、カバー43を破断して示している。また、図8は図7の作動機構の縦断面図であり、図9は、図7の作動機構を後方から見た図であり、蓋29を破断して示している。
【0033】
火災が発生し、設定温度(例えば60度)以上の高温になると、コイルバネ11が変形する。つまり、温度が、コイルバネ11を構成する形状記憶合金の変態点以上となるとコイルバネ11が変形する。
本実施例では、設定温度以上となると、コイルバネ11の屈曲部11a,11bが互いに離隔するように周方向に移動する。
具体的には、コイルバネ11の一端部11aは図9において反時計方向に移動しようとし、他端部11bは時計方向に移動する。この際、コイルバネ11の一端部11aは、第一取付部33により移動が規制され、他端部11bは、時計方向に移動して軸部材9の凸部19を周方向に押し込む。これにより、軸部材9が、図4の状態から図9の状態に時計方向に回転し、これに伴い軸部材9が接続された錠5のハブ57も回転してデッドボルト3が突出し、扉枠Fに設けられた受69に突入して施錠される。
このように、デッドボルト3が突出して施錠されることで、扉Dの変形を防止でき、ひいては炎や煙が外部へ拡散することがなく、延焼を防ぐことができる。
【0034】
本実施例では、コイルバネ11を設けた作動機構7が、扉Dの外面に設けられていることで、熱に対する感度がよく、温度検知がしやすく動作性がよい。これにより、火災発生時に扉の変形が確実に防止され、ひいては延焼を防止できる。
【0035】
図10〜図12は、図2の作動機構の軸部材を工具を用いて手動で回転させた状態を示す図であり、図10は正面図、図11は図10の作動機構の縦断面図、図12は図10の作動機構を後方から見た図である。
【0036】
ところで、本実施例の防火装置1は、軸部材9の溝23にマイナスドライバーなどの工具を差し込み、図10〜図12に示すように、軸部材9を回転させることで、火災に関係なく施錠することができ、防犯対策にも使用可能である。
このように、工具などで軸部材9を回転させる場合、軸部材9の一方の凸部19が、コイルバネ11の屈曲部11bと離反する方向へ回転するので、コイルバネ11のバネ付勢に関係なく軸部材9のみを回転させることができる。
【0037】
本発明の防火装置は、上記実施例の構成に限らず、適宜変更可能である。
たとえば、上記実施例では、錠5は、彫込本締錠とされたが、面付け本締錠としてもよい。また、上記実施例では、軸部材9の前端面に溝23を形成して、マイナスドライバーなどの工具により回転可能な構成としたが、図13に示すように、軸部材9の前端部に矩形板状のツマミ71を設け、手でツマミ71を操作して軸部材9を回転させる構成としてもよい。また、この際、室外側にシリンダー錠73を設け、シリンダー錠73の操作軸75を錠5のハブ57の穴57aにはめ込み、外部から施解錠できる構成としてもよい。このような構成とすることで、室内側および室外側から施解錠できると共に、火災時には、熱を感知して自動的に施錠される。なお、シリンダー錠73を取り付ける際には、補助具61は必要なく、シリンダー錠73から延出する取付柱77に、作動機構7のケース13からネジ79がねじ込まれて、錠5にシリンダー錠73および作動機構7が固定される。
【0038】
また、上記実施例では、作動部材11はコイルバネとされたが、図14に示すように、形状記憶合金製の板材を湾曲して断面略C字形状とし、さらにその両端部を径方向外側へ屈曲させた部材としてもよい。この場合も、上記実施例と同様に、作動部材11は軸部材9に通されて設けられ、設定温度以上になると、屈曲部11c,11dが周方向に離隔する方向に移動することで、軸部材9を回転させる構成となる。
【符号の説明】
【0039】
1 防火装置
3 デッドボルト
5 錠
7 作動機構
9 軸部材
11 作動部材
19 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デッドボルトを有する錠と、
この錠に接続される軸部材と、
設定温度以上で変形して、前記軸部材を回転させる作動部材と
を備えることを特徴とする扉用防火装置。
【請求項2】
前記軸部材は、扉に固定のケースに回転可能に保持され、
前記作動部材は、形状記憶合金により形成されたねじりコイルバネとされ、
このコイルバネは、前記軸部材に通されて、一端部が前記軸部材に当接される一方、他端部が前記ケースに当接され、
設定温度以上で、前記コイルバネの両端部が周方向に移動することで、前記軸部材を回転させる
ことを特徴とする請求項1に記載の扉用防火装置。
【請求項3】
前記錠に取り付けられて用いられる作動機構であって、
この作動機構は、前記軸部材、前記作動部材および前記ケースを備える
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の扉用防火装置に用いられる作動機構。
【請求項4】
扉の戸先側上端部または戸先側下端部の少なくとも一方に、前記防火装置が取り付けられた
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の扉用防火装置が設置された扉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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