説明

手すりベルトのコーティング方法

【課題】 作業時間を短縮するとともに、手すりベルトの表面と保護膜との高い密着性を確保しつつ、高い光沢度を得る手すりベルトのコーティング方法を得る。
【解決手段】 手すりベルトの表面を洗浄した後、この手すりベルト表面を研磨材で平滑に仕上げ、平滑に仕上げた手すりベルトの表面にウレタンディスパージョンを主成分としたコーティング剤を塗布して手すりベルトの表面に保護膜を形成し、この保護膜を、その表面温度が35℃以上となるように加熱することにより、手すりベルトの表面を平滑にした状態で、手すりベルトの表面と保護膜との高い密着性を確保し、しかも、手すりベルトの表面を平滑にした状態で保護膜を形成することにより、少ない塗り回数で高い光沢を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレータ、動く歩道等の手すりベルト表面を保護し美感を維持するための手すりベルトのコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、百貨店やホームセンター、公共施設や駅舎など多くの場所に設置されているエスカレータや動く歩道等の手すりベルトは、綿帆布やスチールコード等の強度部材とクロロスルホン化ポリエチレン等の表面部材から構成されている。手すりベルトは、長期間の使用により、利用者の手垢、手汗、手脂や空気中の塵埃が付着し、次第に光沢を失ってしまう。また、エスカレータ、動く歩道等の手すりベルトは、送りローラにより狭圧されて駆動するため、送りローラの摩擦熱や圧力により付着した汚れが表面に蓄積されたり、細かな土砂が付着して送りローラにより擦られることで光沢を失いその美感が損なわれてしまう。
【0003】
手すりベルト表面を保護し美感を維持するため、手すりベルトにコーティング剤を塗布して手すりベルトの表面に保護膜を形成し、定期的に又は手すりベルトの表面に形成されている保護膜に汚れが生じてきたときに、手すりベルトの表面に形成されている保護膜を除去し、新たなコーティング剤を塗布して保護膜を形成するといったコーティング作業が行われている。
【0004】
エスカレータや動く歩道等の手すりベルトの表面に形成される保護膜は、上記のように送りローラに狭圧され、さらに屈曲しながら駆動するため、送りローラの摩擦や手すりベルト自体の屈曲により保護膜が手すりベルトから剥離するおそれがあるため、手すりベルトとの高い密着性が要求される。
【0005】
従来、手すりベルトと保護膜との密着性を高める方法として、粒度#150〜#400の研磨材により手すりベルトの表面を研磨し、ベルト表面に2〜3μmの山谷を形成した後、粒度#500〜#600の研磨材により手すりベルトの表面を研磨して、2〜3μmの山谷の斜面に更に0.3〜0.5μmの山谷を形成することによりアンカー効果による保護膜との密着性を図った手すりベルトのコーティング方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平3−79689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のコーティング方法によれば、手すりベルトと保護膜との高い密着性は得られるものの、粒度#150〜#400の大きい研磨材により手すりベルトの表面を研磨し、ベルト表面に2〜3μmの山谷を形成するため、研磨後の手すりベルトの表面は非常に粗く、その上にコーティング剤を塗布しても容易に光沢が得られないとの問題があった。表面に2〜3μmの山谷が形成されたベルトの表面にコーティング剤を塗布して光沢を得るには、何回も重ね塗りをしなければならないため、作業時間が長くなり、特に、終電から始発電車までの短時間しか停止することができない駅舎内や、営業時間外の限られた時間しか停止できない百貨店等における手すりベルトのコーティング作業を困難にしている。
【0007】
ベルトの表面にコーティング剤を塗布して高い光沢を得るには、ベルトの表面を平滑にすれば容易に高い光沢が得られるが、しかし、手すりベルトと保護膜との密着性は得難くなる。本発明者等は、試験を重ねた結果、平滑な手すりベルトの表面とコーティング剤を塗布して形成した保護膜とを密着させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の目的とするところは、作業時間を短縮するとともに、手すりベルトの表面と保護膜との高い密着性を確保しつつ、高い光沢度を得る手すりベルトのコーティング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、手すりベルトの表面を洗浄した後、この手すりベルト表面を研磨材で平滑に仕上げ、平滑に仕上げた手すりベルトの表面にウレタンディスパージョンを主成分としたコーティング剤を塗布して手すりベルトの表面に保護膜を形成し、この保護膜を、その表面温度が35℃以上となるように加熱することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の、前記手すりベルト表面を研磨する研磨材は、粒度#1200〜#3000であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の手すりベルトのコーティング方法によれば、手すりベルトの表面を洗浄した後、この手すりベルト表面を研磨材で平滑に仕上げ、平滑に仕上げた手すりベルトの表面にウレタンディスパージョンを主成分としたコーティング剤を塗布して手すりベルトの表面に保護膜を形成し、この保護膜を、その表面温度が35℃以上となるように加熱するので、手すりベルトの表面を平滑にした状態で、手すりベルトの表面と保護膜との高い密着性を確保することができる。しかも、手すりベルトの表面を平滑にした状態で保護膜を形成することができるため、少ない塗り回数で高い光沢を得ることができる。この結果、コーティング作業時間の短縮が可能となる。
【0012】
請求項2に記載の手すりベルトのコーティング方法によれば、請求項1に記載の、前記手すりベルト表面を研磨する研磨材は、粒度#1200〜#3000であるので、手すりベルト表面を平滑に研磨することができ、コーティング剤を塗布して保護膜を形成した手すりベルトの表面に高い光沢を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る手すりベルトのコーティング方法を実施するための最良の形態の一例を説明する。
【0014】
本発明に係る手すりベルトのコーティング方法は、手すりベルトの表面を洗浄した後、この手すりベルト表面を研磨材で平滑に仕上げ、平滑に仕上げた手すりベルトの表面にウレタンディスパージョンを主成分としたコーティング剤を塗布して手すりベルトの表面に保護膜を形成し、この保護膜を、その表面温度が35℃以上となるように加熱するものであり、以下に詳細に説明する。
【0015】
手すりベルトの表面の洗浄にあっては、本例では、手すりベルトの表面に洗浄液を塗布し、粒度#300〜#400の研磨材で表面を擦り、汚れを除去した後、汚れた洗浄液を布、スポンジ等で拭き取り、水を含浸させた布で表面を水拭きする。この洗浄に用いられる洗浄液は特に限定されるものではなく、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤等の界面活性剤、有機溶剤、金属イオン封鎖剤、pH調整剤等を含有するものを挙げることができる。
【0016】
洗浄後、この手すりベルト表面を研磨材で平滑に仕上げるが、本例では、先ず、粒度#800〜#1000の研磨材で手すりベルトの表面を粗研磨し、次いで粒度#1200〜#3000の研磨材で手すりベルトの表面を仕上げ研磨して素地調整する。この手すりベルトの表面の研磨においては特に限定されるものではなく、紙、布など柔軟性に富む材料の表面に粒度#1200〜#3000の研磨材を接着剤で固定した研磨布紙、例えば研磨パッドを用いた公知の研磨手段により行われる。
【0017】
手すりベルトの表面を仕上げ研磨して素地調整したら、手すりベルトの表面を水拭きし乾燥させ、平滑に仕上げた手すりベルトの表面にウレタンディスパージョンを主成分としたコーティング剤を塗布し乾燥させて保護膜を形成する。
【0018】
コーティング剤の主成分であるウレタンディスパージョンは、通常、乳化剤の存在の下に予めジオールとジイソシアネートさらに必要に応じてジメチロールアルカン酸等を反応させて得られるウレタンプレポリマーを水中に分散させながら、強制乳化または自己乳化することにより得られるディスパージョンである。
【0019】
本例では、コーティング剤として、特開2002−338898号公報に開示されている、配合物の成膜時の破断強度が20N/mm以上であり且つ破断伸びが100%以上であるウレタン系の水系樹脂を主成分とし、可塑剤、増膜助剤、ぬれ剤等が適宜添加されたコーティング剤が使用されている。
【0020】
手すりベルトの表面へのコーティング剤の塗布にあっては特に限定されず、一般的な刷毛、ローラ、スプレー等を用いた公知の塗布手段によって行われる。また、乾燥の手段にあっても、自然乾燥など公知の乾燥手段が用いられるが、乾燥空気を吹き付けることにより乾燥させる場合には、短時間で乾燥して保護膜を形成することができるため、コーティング作業における作業時間の短縮が可能となる。また、重ね塗りの回数は特に限定されるものではないが、作業時間と光沢度との兼ね合いから3〜4回程度が好ましい。
【0021】
このようにして手すりベルトの表面に保護膜を形成したら、この保護膜を、その表面温度が35℃以上となるようにハロゲンランプ等で加熱する。保護膜の表面温度は35℃以上であれば特に限定されるものでない。
【0022】
上記した手すりベルトのコーティング方法によれば、手すりベルトの表面を洗浄した後、この手すりベルト表面を研磨材で平滑に仕上げ、平滑に仕上げた手すりベルトの表面にウレタンディスパージョンを主成分としたコーティング剤を塗布して手すりベルの表面に保護膜を形成し、この保護膜を、その表面温度が35℃以上となるように加熱するので、手すりベルトの表面を平滑にした状態で、手すりベルトの表面と保護膜との高い密着性を確保することができる。しかも、手すりベルトの表面を平滑にした状態で保護膜を形成することができるため、少ない塗り回数で高い光沢を得ることができる。この結果、コーティング作業時間の短縮が可能となる。
【実施例】
【0023】
本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明に係る手すりベルトのコーティング方法の特徴について例証する。但し、本発明はこれらの実施例及び比較例によって何ら制限されるものではない。
【0024】
[実施例1]
手すりベルト(クロロスルフォン化ポリエチレンゴム/デュポンエラストマー(株)製:商品名「ハイパロン」)の表面を粒度#400、#800、#1500の研磨材でこの順に研磨し、表面を水拭きして乾燥させた後、ウレタンディスパージョン70重量%、可塑剤1重量%、造膜剤2重量%、ぬれ剤1重量%、水26重量%、架橋剤5重量%を成分とするコーティング剤を専用布で1回、2回、3回及び4回塗布し乾燥させて、手すりベルトの表面にそれぞれの保護膜を形成し、乾燥後にそれぞれの光沢を光沢計で測定して光沢試験を行った。
【0025】
試験の結果を表1に示す。表1より明らかなように、1回の塗布から高い光沢が得られ、特に3回の塗布、4回の塗布では極めて高い光沢が得られた。
【0026】
[比較例1]
手すりベルト(クロロスルフォン化ポリエチレンゴム/デュポンエラストマー(株)製:商品名「ハイパロン」)の表面を粒度#400の研磨材により研磨し、表面を水拭きして乾燥させた後、実施例1と同様のコーティング剤を専用布で1回、2回、3回及び4回塗布し乾燥させて、手すりベルトの表面にそれぞれの保護膜を形成し、乾燥後にそれぞれの光沢を光沢計で測定して光沢試験を行った。
【0027】
試験の結果を表1に示す。表1より明らかなように、1回、2回の塗布からは高い光沢は得られず、4回の塗布で実施例1の2回の塗布に相当する光沢が得られた。
【表1】

【0028】
[実施例2]
実施例1と同様に研磨された手すりベルトの表面に、実施例1と同様のコーティング剤を刷毛で3回塗布し乾燥させて保護膜を形成した後に、スポットヒーター(進勇商事社)でこの保護膜を、その表面温度が35℃、40℃、45℃となるように加熱した。表面温度の測定は、放射温度計(IT−540/堀場製作所製)で測定した。保護膜を加熱したら、それぞれの保護膜の温度が室温となるまで放冷した後、それぞれの保護膜密着性を評価した。評価にあっては、日本フロアーポリッシュ工業会 JFPA規格−18「密着性の試験方法」に準拠して試験を行い、剥がれないときは○、剥がれたときは×として評価した。
【0029】
試験の結果を表2に示す。表2より明らかなように、手すりベルトの表面にコーティング剤を塗布して形成した保護膜を、その表面温度が35℃、40℃、45℃となるように加熱したとき、それぞれの手すりベルトの表面と保護膜との間に高い密着性が得られた。
【0030】
[比較例2]
実施例2と同様に研磨された手すりベルトの表面に、実施例2と同様のコーティング剤を刷毛で3回塗布し乾燥させて保護膜を形成した後に、スポットヒーター(進勇商事社)でこの保護膜を、その表面温度が20℃、25℃、30℃となるように加熱した。表面温度の測定は、実施例2と同様にして測定し、それぞれの保護膜密着性の評価も、実施例2と同様の試験を行って同様の基準で評価した。
【0031】
試験の結果を表2に示す。表2より明らかなように、手すりベルトの表面にコーティング剤を塗布して形成した保護膜を、その表面温度が20℃、25℃、30℃となるように加熱したとき、いずれの手すりベルトの表面と保護膜との間にも密着性は得られなかった。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
手すりベルトの表面を洗浄した後、この手すりベルト表面を研磨材で平滑に仕上げ、平滑に仕上げた手すりベルトの表面にウレタンディスパージョンを主成分としたコーティング剤を塗布して手すりベルトの表面に保護膜を形成し、この保護膜を、その表面温度が35℃以上となるように加熱することを特徴とする手すりベルトのコーティング方法。
【請求項2】
前記手すりベルト表面を研磨する研磨材は、粒度#1200〜#3000であることを特徴とする請求項1に記載の手すりベルトのコーティング方法。

【公開番号】特開2009−172516(P2009−172516A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13611(P2008−13611)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(390039712)株式会社リンレイ (18)
【Fターム(参考)】