説明

手ぶれ検出装置および撮影装置

【課題】 撮影動作へ瞬時に移行しても迅速に手ぶれ補正を行う。
【解決手段】 スリープモード機能を備えるジャイロセンサ20A、20Bと、ハイパスフィルタ22A、22Bをカメラ10に設ける。カメラ10に電源が投入されると、ジャイロセンサ20A、20BをスリープモードONに設定し、基準電圧Vrefと同じ電圧V0をジャイロセンサ20A、20Bからハイパスフィルタ22A、22Bへ出力する。そして、安定化時間TTが経過すると、ジャイロセンサ20A、20BをスリープモードOFFに設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラなどの撮影装置に備えられた手ぶれ補正機構に関し、特に、手ぶれ検出処理に関する。
【背景技術】
【0002】
手ぶれ補正機能付きのカメラでは、ジャイロセンサなどの手ぶれ検出器が設けられており、カメラ操作時の手ぶれによってカメラ本体がヨーイング、あるいはピッチングすると、ジャイロセンサはカメラの姿勢変化により生じる角速度を検出する。そして、像ブレを防ぐため、手ぶれによるカメラの動きを相殺するように光学系、あるいは撮像素子が移動する。ジャイロセンサを使用する場合、ドリフトによるDC成分をカットするため、ジャイロセンサからの出力電圧はハイパスフィルタに入力される(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
低周波数の手ぶれにも対応できるように、ハイパスフィルタの時定数は大きな値に定められる。そのため、電源投入時からハイパスフィルタの出力が安定するまでの時間が長くなり、手ぶれ補正をすぐに実行できない。これを解消するため、スイッチ回路がハイパスフィルタに組み込まれており、時定数を小さくすることによって安定するまでの時間が短縮される。
【特許文献1】特開平9−247520号公報
【特許文献2】特開2003−57706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電源投入直後のジャイロセンサの出力信号は大きく振幅変動し、さらに出力が安定した後の出力電圧値を基準にしてハイパスフィルタの誘電現象が開始される。その後、ハイパスフィルタの時定数に従い、安定化まで過度状態が続く。したがって、ジャイロセンサへの電源投入からハイパスフィルタの出力が安定するまでの期間は長時間に渡る。スイッチ回路は時定数に応じた時間、すなわちハイパスフィルタ安定化までの時間を短くすることはできるが、電源投入時から出力安定化までの時間全体を短縮することはできない。そのため、迅速に手ぶれ補正を実行できず、瞬時に撮影動作に移った場合には像ブレが生じてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の手ぶれ検出装置は、手ぶれ補正機能を備えたデジタルカメラ、ムービーカメラ、あるいは撮影機能を備えた携帯端末/携帯電話などの撮影装置に設けられる。手ぶれ検出装置は、手ぶれによる角速度に応じた角速度信号を出力する角速度センサと、角速度センサからの角速度信号に対してDC成分を除去するハイパスフィルタと、ハイパスフィルタから出力される信号に基づいて手ぶれを検出する検出手段と、制御手段とを備える。角速度センサは例えば電圧信号を出力するとともに、DC成分の除去された電圧信号がハイパスフィルタから検出される。角速度センサは例えばジャイロセンサであり、精度よく手ぶれを検出するため、水晶の結晶による振動ジャイロセンサを適用するのがよい。角速度が検出されると、角速度信号の電圧値と基準電圧とに基づいてカメラの姿勢変動による変動角速度が手ぶれとして検出される。基準電圧は角速度信号の電圧値の基準となる値であり、ジャイロセンサでは角速度センサから出力されている。ハイパスフィルタの後段には、例えばアンプを接続すればよい。
【0006】
本発明の角速度センサは、動作状態から動作停止状態へ切替可能なセンサであり、角速度センサが動作停止状態になると、角速度信号の電圧値が、基準電圧の値と同じになる。ここで動作停止状態とは、角速度を測定する機能を発揮できない状態を示し、その機能を再び実現させるため必要な電力は角速度センサに供給される。上記特性をもつ角速度センサとしては、例えばスリープモード実行可能な角速度センサを適用すればよい。スリープモードを設定した場合、センサ素子、アンプなど角速度センサの一部のモジュールへの電源供給を遮断し、基準電圧による角速度信号が出力される。
【0007】
このような角速度センサに対し、制御手段は、角速度センサを動作させる動作信号および動作停止状態にさせる動作停止信号を選択的に出力する。そして、制御手段は、手ぶれ補正実行のため電源投入されると角速度センサを動作停止状態にし、ハイパスフィルタから出力される信号が安定化するまでの時間経過後、角速度センサを動作させる。ここでの電源投入は、手ぶれ検出装置、手ぶれ補正装置に対する電源投入を示す。例えば、カメラなどの撮影装置に手ぶれ検出装置が組み込まれている場合、撮影装置のメイン電源がONに切り替えられると同時に、手ぶれ補正のため手ぶれ検出装置へ電源が供給される。あるいは、手ぶれ補正を実行するボタンがON状態に切り替えられると同時に手ぶれ検出装置へ電源供給してもよい。また、安定化するまでの時間は、実質的に安定化したとみなせる時間を意味する。
【0008】
手ぶれ検出装置へ電源供給されている間、角速度センサから常時信号が出力されるが、角速度センサを動作停止状態にすることにより、基準電圧と電圧値が一致する角速度信号が角速度センサから出力される。そのため、電源投入直後からハイパスフィルタの時定数に従う誘電吸収が開始する。したがって、すみやかにハイパスフィルタの出力信号が安定化し、手ぶれ補正を電源投入直後から実行することが可能になる。スリープモードを設定可能な角速度センサの場合、センサ素子、アンプなど角速度センサの一部のモジュールへの電源供給を遮断することで基準電圧値による信号出力が維持される。
【0009】
ハイパスフィルタから出力される信号が安定化するまでの時間はハイパスフィルタの時定数に従う。したがって、安定化するまでの時間は、以下の式によって定めればよい。

TT≧τ×2.3

ただし、τはハイパスフィルタの時定数、TTは電源投入時から安定化するまでの時間を示す。
【0010】
角速度センサが動作状態で電源投入された場合、角速度信号はしばらくの間大きく振幅しながら変動する。したがって、ハイパスフィルタから出力される信号が安定化するまでの時間は、動作状態での電源投入による角速度信号が振幅変動後に安定化するまでの時間より長くなるように定められる。
【0011】
時定数による安定化までの時間をより短くする場合、ハイパスフィルタの抵抗に対して並列的に接続されるスイッチ回路を設ければよい。検出制御部は、角速度センサの動作停止状態の間、スイッチ回路を切り替えて短絡させる。
【0012】
本発明の手ぶれ検出方法は、動作停止状態に切替可能な角速度センサから出力される、手ぶれによる角速度に応じた角速度信号の電圧値と基準電圧値とに基づいて手ぶれを検出し、角速度センサを動作させる動作信号および動作停止状態にさせる動作停止信号を選択的に出力する方法であって、角速度信号の電圧値が、角速度センサの動作停止状態において、基準電圧の値と同じになり、手ぶれ補正実行のため電源投入されると角速度センサを動作停止状態にし、角速度センサからの角速度信号に対してDC成分を除去するハイパスフィルタから出力される信号が安定化するまでの時間経過後、角速度センサを動作させることを特徴とする。
【0013】
本発明のプログラムは、動作停止状態に切替可能な角速度センサから出力される、手ぶれによる角速度に応じた角速度信号の電圧値と基準電圧値とに基づいて手ぶれを検出する手段と、角速度センサを動作させる動作信号および動作停止状態にさせる動作停止信号を選択的に出力する制御手段とを機能させるプログラムであって、角速度信号の電圧値が、角速度センサの動作停止状態において、基準電圧の値と同じになり、手ぶれ補正実行のため電源投入されると角速度センサを動作停止状態にし、角速度センサからの角速度信号に対してDC成分を除去するハイパスフィルタから出力される信号が安定化するまでの時間経過後、角速度センサを動作させるように、制御手段を機能させることを特徴とする。
【0014】
本発明の撮影装置は、撮影光学系と、撮影光学系により形成される被写体像を記録する記録手段と、手ぶれによる角速度に応じた角速度信号を出力し、動作停止状態に切替可能な角速度センサと、角速度センサからの角速度信号に対してDC成分を除去するハイパスフィルタと、角速度信号の電圧値と基準電圧値とに基づいて手ぶれによる変位量を検出する検出手段と、角速度センサを動作させる動作信号および動作停止状態にさせる動作停止信号を選択的に出力する制御手段と、手ぶれによる変位量に基づいて、撮影光学系による結像エリアを像ぶれが生じないように調整する手ぶれ補正手段とを備え、角速度信号の電圧値が、角速度センサの動作停止状態において、基準電圧の値と同じになり、制御手段が、手ぶれ補正実行のため電源投入されると角速度センサを動作停止状態にし、ハイパスフィルタから出力される信号が安定化するまでの時間経過後、角速度センサを動作させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、撮影動作へ瞬時に移行しても迅速に手ぶれ補正を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0017】
図1は、第1の実施形態であるカメラの概略的斜視図である。図2は、カメラの正面図である。
【0018】
カメラ10は、手ぶれ補正機能を備えたデジタルカメラであり、カメラ本体内部には、手ぶれ補正機構12がレンズ鏡筒11の後方に設けられている。カメラ上面10U側には、レリーズボタン13、手ぶれ補正ボタン16が設けられ、カメラ背面10Bには、LCD17、メイン電源ボタン18が設けられている。
【0019】
カメラ本体内部には、手ぶれを検出するための、角速度センサとしてのジャイロセンサ20A、20Bが設けられており、ジャイロセンサ20A、20Bは、それぞれカメラ10がヨーイング、ピッチングするときの角速度を検出する。ただし、レンズ鏡筒11内の撮影光学系(図示せず)の光軸Eの横方向の動き、すなわちX方向に対する角度をヨーイングとし、光軸Eの垂直でカメラ10の縦方向の動き、すなわちY方向に対する角度をピッチングとする。なお、X−Y平面は光軸Eに垂直であり、Z方向は光軸方向に対応する。また、X、Y方向は、それぞれカメラ10の横方向、縦方向に対応する。カメラ10が水平姿勢状態の場合、X方向は水平面、Y方向は鉛直方向に沿った方向になる。
【0020】
図3は、カメラ10のブロック図である。
【0021】
CPUを含むシステムコントロール回路25はカメラ10を制御し、カメラ全体の処理動作を実行するプログラムがROM(図示せず)に格納されている。レリーズスイッチ13A、手ぶれ補正スイッチ16A、メイン電源スイッチ18A、レリーズ半押しスイッチ(図示せず)などがシステムコントロール回路25に接続され、メイン電源ボタン18に対する操作によってメイン電源スイッチ18AがONに切り替わると、各回路へ電源が供給される。
【0022】
撮影モードが設定されている場合、動画像を表示するための処理動作が実行される。撮影光学系を通った光はレンズシャッタ(図示せず)を介してCCD21に到達し、被写体像がCCD21に受光面に形成される。CCD21では、光電変換により被写体像に応じたアナログ画像信号が発生し、CCD駆動回路(図示せず)によってCCD21から画像信号が所定時間間隔で順次読み出される。CCD21から読み出されたアナログ画像信号は、増幅処理されて信号処理回路23へ送られる。
【0023】
信号処理回路23では、アナログ画像信号がデジタル信号に変換されるとともに、ホワイトバランス調整処理、ガンマ補正処理など様々な処理がデジタル画像信号に対して施される。処理された画像信号は一時的にフレームメモリ(図示せず)に格納され、LCDドライバ26へ送られる。LCDドライバ26は、画像信号に基づいてLCD17を駆動する。その結果、カメラ背面に設けられたLCD17に被写体像が動画像として表示される。
【0024】
AEブロック27では、CCD21から読み出される画像信号に基づいて被写体の明るさが検出され、信号処理回路23ではそれに基づき動画像の明るさ調整が行われる。また、AEブロック27では、ユーザによる露出、画質に関する設定操作に従い、シャッタスピード及び絞り値の露出値が演算される。レリーズボタン13が半押しされると、被写体との距離がAFセンサ28において検出される。そして焦点調整のため、撮影光学系内のフォーカシングレンズ(図示せず)がAF駆動部30によって駆動される。
【0025】
レリーズボタン13が全押しされると、撮影動作が実行される。すなわち、前述の演算された露出値に基づいて、絞りが所定の開口径となるように駆動制御されるとともに、シャッタが所定期間だけ開き、被写体像に応じた画像信号がCCD21から読み出される。読み出された画像信号は、信号処理回路23において処理され、システムコントロール回路25を介しメモリカード(図示せず)に記憶される。シャッタ動作および絞り駆動制御は、露出制御部29によって制御されている。
【0026】
手ぶれ補正ボタン16が押下されると手ぶれ補正スイッチ16AがON状態となり、手ぶれ補正を実行させる操作信号がシステムコントロール回路25において検出される。手ぶれ検出部20は、ジャイロセンサ20A、20B、ハイパスフィルタ22A、22B、アンプ24A、24Bとを備え、手ぶれによるカメラの姿勢変動時の角速度が電圧として検出される。
【0027】
手ぶれ補正機構12は、CCD21が中央付近に取付けられた矩形状の移動ステージ33と、移動ステージ33に近接した状態で対向する矩形状の固定ステージ35とを備え、移動ステージ33および固定ステージ35とを支持する支持体(図示せず)が設けられている。固定ステージ35には、レンズ鏡筒11内部を通った光を通す開口部が形成されており、開口部のサイズはCCD21の移動範囲に従って定められている。
【0028】
移動ステージ33は、コイル(図示せず)の駆動によってX方向、Y方向に沿って独立して移動可能であり、システムコントロール回路25は、検出された角速度に基づいてカメラ10の変位角を演算し、ステージ駆動回路38を介して手ぶれ補正機構12を制御する。
【0029】
詳述すると、ユーザの手ぶれによってカメラ10の姿勢が変動(ヨーイング、ピッチングの動き)をすると、ジャイロセンサ20A、20Bからヨーイング、ピッチングの角速度に応じた電圧信号(角速度信号)が出力される。出力された電圧信号は、それぞれハイパスフィルタ22A、22BにおいてDC成分が除去され、アンプ24A、24Bにおいて増幅される。増幅された電圧信号がシステムコントロール回路25へ入力されると、カメラ10の変動量に応じた変位角度が検出される。そして、手ぶれによる像ブレを相殺するように、システムコントロール回路25からステージ駆動回路38へ制御信号が出力され、移動ステージ33がX方向、Y方向へ移動する。その結果、撮影光学系による像がCCD21の受光面上に沿って相対的にシフトした位置で結像し、像ぶれのない画像がCCD21に形成される。
【0030】
移動ステージ33のCCD21周りには、X方向、Y方向に沿ってホール素子などの磁気センサ34A、34Bが配置されている。一方、固定ステージ35には、磁気センサ34A、34Bに対向するように磁石36A、36BがX方向、Y方向に沿って配置されている。手ぶれが検知されて移動ステージ33が移動すると、磁気センサ34A、34Bは、磁石36A、36Bに対する相対的位置の変化に応じて磁界変化を検知し、磁気センサ信号処理回路40A、40Bは、それぞれ移動ステージ33のX方向、Y方向の移動量を検出する。システムコントロール回路25は、移動ステージ33の現在の相対的位置と設定された位置との差に基づき、移動ステージ33をフィードバック制御する。
【0031】
図4は、手ぶれ検出部20の等価回路を示した図である。なお、ジャイロセンサ20B、ハイパスフィルタ22B、アンプ24Bも同様の構成である。
【0032】
ハイパスフィルタ22Aは、容量Cのコンデンサ51と抵抗値Rの抵抗52とを備え、コンデンサ51の一端と抵抗52の一端がジャイロセンサ20Aに接続されている。カメラ10の角速度に応じた電圧V0はコンデンサ51側へ出力され、基準電圧Vrefは抵抗52側へ出力される。アンプ24Aは、オペアンプ53と、抵抗値Rf、Rsをそれぞれもつ抵抗54、55とを備える。ハイパスフィルタ22Aの時定数τ(=CR)は、低周波数の手ぶれを検知できるように、比較的大きな値に定められている。
【0033】
ジャイロセンサ20Aは、水晶の結晶による振動ジャイロセンサであり、スリープモードが実行可能なように構成されている。スリープモードをON/OFFに設定する制御信号は、システムコントロール回路25からジャイロセンサ20Aの端子S1へ送信される。スリープモードがONに設定されると、ジャイロセンサ20A内のセンサ素子、増幅器(いずれも図示せず)等、角速度を検出するのに不可欠な要素へ電源が供給されない一方、スリープモードをOFF設定へ切り替えるのに必要な要素に対して電源供給される。スリープモードがONに設定されている間、コンデンサ51へ出力される電圧V0は基準電圧Vrefと一致する。
【0034】
図5は、カメラ10の撮影動作処理を示したフローチャートである。図6は、ハイパスフィルタ22Aから出力される電圧の変動過程(状態遷移)を示した図である。図7は、ハイパスフィルタ22Aからの出力電圧の安定時間を示した図である。メイン電源ボタン18が押下されると、撮影動作処理が開始される。
【0035】
ステップS101では、CCD21、撮影光学系などが初期設定される。それとともに、ジャイロセンサ20A、20Bをスリープ状態に設定するための制御信号がシステムコントロール回路25から出力される。
【0036】
図6では、カメラ10にメイン電源が投入された直後のハイパスフィルタ22Aから出力される電圧Vs(図4のB点における電圧)を時間と経過とともに示している。スリープモードが常時OFFに設定されている場合(ジャイロセンサ20Aの角速度検出に必要な要素に対して電源が供給され、角速度検出動作を実行している場合)、ジャイロセンサ20Aから出力される電圧を「V0’」で表すと、電圧V0’と基準電圧Vrefとの電圧差は一定にならず、図6の破線で示すように、大きく振幅しながら変動する。また、ハイパスフィルタ22Aのコンデンサ51に起因して、ハイパスフィルタ22Aからの出力電圧は、徐々に上昇しながら一定になるまで過度状態が続く。そのため、常時角速度検出動作を実行している時のハイパスフィルタ22Aから出力される電圧を「Vs’」で表すと、電圧Vs’は電源投入直後は大きく振幅しながら変動し、時間TUが経過して振幅が収まった時の電圧値を基準にして漸近的に変化し、減衰する。図6では、手ぶれ検出部20から出力される電圧Vs’を破線で示し、安定化するまでの時間を符号「TT’」で表している。
【0037】
一方、本実施形態のように電源投入直後にスリープモードがONに設定されている場合、ジャイロセンサ20Aからの出力電圧V0は、上述したように基準電圧Vrefと一致する。したがって、図4のB点におけるハイパスフィルタ22Aの出力電圧が安定化するための経過時間は、メイン電源ON直後から開始される。システムコントロール回路25へ入力される電圧Vsは、時定数τに従う状態遷移時間(安定化時間)TTが経過すると、手ぶれによるカメラ10の角速度を正確に反映した値になる。
【0038】
ここで、電源投入直後から手ぶれを正確に検出できるまでの安定化時間TTを求めると、手ぶれ検出部20から出力される電圧Vsは、以下の式で表される。ただし、ハイパスフィルタの時定数をτで表す。

s=Vref(1−e(-t/τ)) ・・・(1)

t→∞になれなければVs=Vrefにならないことから、電圧Vsが実質的に基準電圧Vrefに等しいとみなせる値になるまでの経過時間を求める。ここでは、図7に示すように、電圧Vsが基準電圧Vrefの90%に達するまでの時間を安定化時間TTとする。
【0039】
s/Vref=0.1であることから、(1)式より以下の式が導かれる。

t=τ×ln(0.1)=τ×2.3 ・・・(2)

したがって、安定化時間TTは以下の式を満たす値に定められる。

TT≧τ×2.3 ・・・(3)

安定化時間TTは、大きく振幅しながら変動する時間TUより長い。なお、ハイパスフィルタ22Bにおいても、同様の安定化時間TTが定められる。
【0040】
図5のステップS102では、安定化時間TTだけスリープON状態が維持されるように、ジャイロセンサ20A、20Bが制御される。ステップS103では、ジャイロセンサ20A、20BをスリープOFFに設定するように制御信号が出力される。ステップS104では、手ぶれ補正処理を実行する割り込み処理がタイマーセットされる。なお、手ぶれ補正機構に関しては、メイン電源ON状態の間、常に電源が供給されている。
【0041】
ステップS105では、手ぶれ補正スイッチ16AがON状態であるか否かが判断される。手ぶれ補正スイッチ16AがON状態であると判断されると、ステップS107へ進み、手ぶれ補正変数ISが「1」に設定される。一方、手ぶれ補正スイッチ16AがON状態でないと判断されると、ステップS106へ進み、手ぶれ補正変数ISが「0」に設定される。手ぶれ補正変数ISは、手ぶれ補正モードの設定、非設定を示す変数であり、手ぶれ補正スイッチ16AがONに設定された場合にはIS=1に設定され、手ぶれ補正スイッチ16AがON設定されていない場合にはIS=0に設定される。
【0042】
ステップS108では、AEブロック27において測光され、被写体の明るさ調整処理が実行される。そして、ステップS109では、動画像表示処理が実行される。ステップS110では、レリーズボタン13が半押しされてレリーズ半押しスイッチがON状態であるか否かが判断される。レリーズボタン13が半押しされていないと判断されると、ステップS105へ戻る。一方、レリーズボタン13が半押しされたと判断されると、ステップS111へ進み、焦点調整処理が実行される。
【0043】
ステップS112では、レリーズボタン13が全押しされてレリーズスイッチ13AがON状態であるか否かが判断される。レリーズスイッチ13AがON状態ではないと判断されると、ステップS103へ戻る。一方、レリーズスイッチ13AがON状態であると判断された場合、ステップS113へ進み、静止画撮影動作、および静止画像の記録処理が実行される。すなわち、シャッタ、絞り等の駆動によって被写体像に応じた画像信号がCCD21から読み出されると画像データが生成され、静止画像がLCD17に表示されるとともに、記録される。メイン電源がOFF状態になるまで、ステップS105〜S113が繰り返し実行される。
【0044】
図8は、手ぶれ補正処理を示した割り込みルーチンである。手ぶれ補正処理は、図5の撮影動作処理に対して1[mS]間隔で割り込んで処理される。
【0045】
ステップS201では、カメラ10のヨーイングに対する角速度がジャイロセンサ20Aからの出力電圧に基づいて検出される。ステップS202では、磁気センサ34Aから送られてくる検出信号に基づき、CCD21の中心位置からのX方向に沿った相対的位置が検出される。ただし、ここではCCD21の中心が光軸Eにあるときの位置を中心位置と定める。
【0046】
ステップS203では、手ぶれ補正変数IS=1であるか、すなわち手ぶれ補正モードが設定されているか否かが判断される。手ぶれ補正変数IS=0である、すなわち手ぶれ補正モードが設定されていないと判断されると、ステップS205へ進み、CCD21の位置が中心位置に定められる。一方、手ぶれ補正変数IS=1であると判断された場合、ステップS204へ進む。ステップS204では、カメラ10の手ぶれによる変位角度が算出される。検出された角速度に基づいてカメラ10の姿勢変位角度が算出される。そして、カメラ10の姿勢変位角度に基づき、焦点距離等の特性に従う変換係数を利用して移動させるべきCCD21の位置(設定位置)が演算される。なお、手ぶれ補正機構による制御系は、手ぶれ量の値「0」が続くと自動的にCCD21の位置が中心位置へ戻るように、応答特性が定められている。従来知られているように、PID制御ブロックとカメラ10の手ぶれによる変動量(角度)算出ブロックとの間に所定の時定数によるループを入れ、安定化を図っている。
【0047】
ステップS206では、演算されたCCD21の設定位置と磁気センサ34Aにより検出される今現在のCCD21の位置とに基づき、移動ステージ33の操作量が演算される。そして、ステップS207では、演算された操作量に基づき、移動ステージ33がステージ駆動回路38からの駆動信号によって所定距離だけ移動する。ここではPID制御がフィードバック制御として実行される。
【0048】
なお、図8ではヨーイングに対する手ぶれ補正処理ルーチンを示すが、同様の手ぶれ補正処理がヨーイングに対しても実行される。
【0049】
以上のように本実施形態によれば、ジャイロセンサ20A、20B、ハイパスフィルタ24A、24Bがカメラ10に設けられており、ジャイロセンサ20A、20Bはスリープモード機能を備える。カメラ10に電源が投入されると、ジャイロセンサ20A、20BはスリープモードONに設定され、基準電圧Vrefと同じ電圧V0がハイパスフィルタ22A、22Bへジャイロセンサ20A、20Bから出力される。そして、安定化時間TTが経過すると、自動的にジャイロセンサ20A、20BがスリープモードOFFに設定される。電源投入直後からハイパスフィルタ22A、22B安定化までの過度状態が開始するため、迅速に手ぶれ検出処理が正常に作動する。
【0050】
ジャイロセンサ20A、20Bは、圧電型振動体のジャイロセンサなどの角速度センサであってもよい。スリープモード設定は、カメラ10のメイン電源ON時の代わりに、手ぶれ補正ボタン16が押下されたときでもよい。
【0051】
次に、図9、図10を用いて、第2の実施形態であるカメラについて説明する。第2の実施形態では、スイッチ回路がハイパスフィルタの抵抗に対して並列的に接続されている。それ以外の構成については、第1の実施形態と同じである。
【0052】
図9は、第2の実施形態における手ぶれ検出部20’の等価回路を示した図である。図10は、第2の実施形態における、ハイパスフィルタ22Aから出力される電圧の変動過程(状態遷移)を示した図である。
【0053】
ハイパスフィルタ22A’には、スイッチ回路56が抵抗Rと並列的に接続されている。スイッチ回路56はシステムコントロール回路25によって制御され、コンデンサ51の側と基準電圧Vrefの出力側とを選択的に断絶、短絡させる。スイッチ回路56の抵抗値R’は抵抗51の抵抗値Rより非常に小さく(例えば約1/100〜1/200)、ハイパスフィルタの時定数τ’はCR’/Rで表される。抵抗値Rが680KΩであるとき、抵抗値R’は、ここでは1KΩに定められる。
【0054】
第2の実施形態では、図5のステップS101、S103に対応する処理が第1の実施形態と異なる。図10に示すように、電源が投入された場合、ジャイロセンサ20A、20BのスリープモードがONに設定されると同時に、スイッチ回路56がON状態に切り替えられる。そして、安定化時間TT1の間、すなわちスリープモード設定時間に合わせてスイッチ回路56が切り替えられる。時定数τ’の値が小さいため、安定化時間TT1はより短い時間に定められるので、迅速に手ぶれ補正動作を開始できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】第1の実施形態であるカメラの概略的斜視図である。
【図2】カメラの正面図である。
【図3】カメラのブロック図である。
【図4】手ぶれ検出部(ジャイロセンサ,ハイパスフィルタ、アンプ)の等価回路を示した図である。
【図5】カメラの撮影動作処理を示したフローチャートである。
【図6】ハイパスフィルタから出力される電圧の変動過程(状態遷移)を示した図である。
【図7】ハイパスフィルタからの出力電圧の安定時間を示した図である。
【図8】手ぶれ補正処理を示した割り込みルーチンである。
【図9】第2の実施形態における手ぶれ検出部の等価回路を示した図である。
【図10】第2の実施形態における、ハイパスフィルタから出力される電圧の変動過程(状態遷移)を示した図である。
【符号の説明】
【0056】
10 カメラ
20 手ぶれ検出部
20A、20B ジャイロセンサ(角速度センサ)
21 CCD
22A、22B ハイパスフィルタ
25 システムコントロール回路
33 移動ステージ
56 スイッチ回路
0 出力電圧
ref 基準電圧
TT、TT1 安定化時間
τ 時定数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
手ぶれによる角速度に応じた角速度信号を出力し、動作停止状態に切替可能な角速度センサと、
前記角速度センサからの角速度信号に対してDC成分を除去するハイパスフィルタと、
角速度信号の電圧値と基準電圧値とに基づいて手ぶれを検出する検出手段と、
前記角速度センサを動作させる動作信号および動作停止状態にさせる動作停止信号を選択的に出力する制御手段とを備え、
前記角速度信号の電圧値が、前記角速度センサの動作停止状態において、基準電圧値と同じになり、
前記制御手段が、手ぶれ補正実行のため電源投入されると前記角速度センサを動作停止状態にし、前記ハイパスフィルタから出力される信号が安定化するまでの時間経過後、前記角速度センサを動作させることを特徴とする手ぶれ検出装置。
【請求項2】
前記角速度センサが、スリープモードを実行可能なように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の手ぶれ検出装置。
【請求項3】
前記角速度センサが、水晶の結晶による振動ジャイロセンサであることを特徴とする請求項1に記載の手ぶれ検出装置。
【請求項4】
前記ハイパスフィルタから出力される信号が安定化するまでの時間が、以下の式によって定められることを特徴とする請求項1に記載の手ぶれ検出装置。

TT≧τ×2.3

ただし、τは前記ハイパスフィルタの時定数、TTは電源投入からの時間を示す。
【請求項5】
前記ハイパスフィルタから出力される信号が安定化するまでの時間が、前記角速度センサが動作状態で電源投入された場合に前記角速度信号が安定化するまでの時間より長いことを特徴とする請求項1に記載の手ぶれ検出装置。
【請求項6】
前記ハイパスフィルタの抵抗に対して並列的に接続されるスイッチ回路をさらに有し、
前記検出制御部が、前記角速度センサの動作停止状態の間、前記スイッチ回路を切り替えて短絡させることを特徴とする請求項1に記載の手ぶれ検出装置。
【請求項7】
動作停止状態に切替可能な角速度センサから出力される、手ぶれによる角速度に応じた角速度信号の電圧値と基準電圧値とに基づいて手ぶれを検出し、
前記角速度センサを動作させる動作信号および動作停止状態にさせる動作停止信号を選択的に出力する方法であって、
前記角速度信号の電圧値が、前記角速度センサの動作停止状態において、基準電圧値と同じになり、
手ぶれ補正実行のため電源投入されると前記角速度センサを動作停止状態にし、前記角速度センサからの角速度信号に対してDC成分を除去するハイパスフィルタから出力される信号が安定化するまでの時間経過後、前記角速度センサを動作させることを特徴とする手ぶれ検出方法。
【請求項8】
動作停止状態に切替可能な角速度センサから出力される、手ぶれによる角速度に応じた角速度信号の電圧値と基準電圧値とに基づいて手ぶれを検出する検出手段と、
前記角速度センサを動作させる動作信号および動作停止状態にさせる動作停止信号を選択的に出力する制御手段とを機能させるプログラムであって、
前記角速度信号の電圧値が、前記角速度センサの動作停止状態において、基準電圧値と同じになり、
手ぶれ補正実行のため電源投入されると前記角速度センサを動作停止状態にし、前記角速度センサからの角速度信号に対してDC成分を除去するハイパスフィルタから出力される信号が安定化するまでの時間経過後、前記角速度センサを動作させるように、前記制御手段を機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項9】
撮影光学系と、
前記撮影光学系により形成される被写体像を記録する記録手段と、
手ぶれによる角速度に応じた角速度信号を出力し、動作停止状態に切替可能な角速度センサと、
前記角速度センサからの角速度信号に対してDC成分を除去するハイパスフィルタと、
角速度信号の電圧値と基準電圧値とに基づいて手ぶれによる変位量を検出する検出手段と、
前記角速度センサを動作させる動作信号および動作停止状態にさせる動作停止信号を選択的に出力する制御手段と、
前記手ぶれによる変位量に基づいて、前記撮影光学系による結像エリアを像ぶれが生じないように調整する手ぶれ補正手段とを備え、
前記角速度信号の電圧値が、前記角速度センサの動作停止状態において、基準電圧値と同じになり、
前記制御手段が、手ぶれ補正実行のため電源投入されると前記角速度センサを動作停止状態にし、前記ハイパスフィルタから出力される信号が安定化するまでの時間経過後、前記角速度センサを動作させることを特徴とする撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−323237(P2006−323237A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−147712(P2005−147712)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】