説明

手押しポンプ装置

【課題】深井戸用の手押しポンプ装置の水の汲み上げ能力を維持しつつ、修理や交換が簡易にできるようにした手押しポンプ装置を提供する。
【解決手段】本願手押しポンプ装置1は、井戸孔2内に貯まった水位3以下まで達する揚水管7の上端に、吐出口10及び手押しハンドル12を備えた管体8を連結し、前記手押しハンドル12の可動端12′から管体及び揚水管内を垂下した紐状物(水に強い繊維からなる柔軟なロープ)13に必要な重さを有するシリンダ14を吊設し、該シリンダの外周に前記揚水管の内壁に摺接するパッキン16を備え、内部に前記可動端の上動に伴って上昇する時に閉口し、該可動端の下動に伴い自重により降下する時に開口する可動弁17を設け、さらに、前記揚水管の吸い込み口18に、前記筒体の降下時に閉口し、上昇時に開口する可動弁19を設けたことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚水管の深部においてシリンダを上下させて深井戸からの給水を可能にするとともに、該シリンダの部品の修理や交換などの作業を簡易に行えるようにした手押しポンプ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の手押しポンプ装置には水位が8mより浅い浅井戸用と、8mより深い深井戸用とがある。前者の手押しポンプ装置は、図6の如く、井戸孔61内に、その底部に貯まっている水の水位62以下まで達する揚水管63を縦通し、該揚水管63の上端には、吐出口64及び手押しハンドル65を備えた管体(シリンダ)66を連結してなる。該管体66内には、前記手押しハンドル65の操作により軸Aを中心に上下動する可動端65′に伝導棒(鉄棒)67を介して連繋したピストン68が備えられているとともに、管体66の底部には固定可動弁69が備えられている。
【0003】
前記ピストン68は、外周にはパッキン68aを備え、管体66の内面に周接し、中部には可動弁68bを備えている。したがって、手押しハンドル65の操作によりピストン68を伝導棒67を介して下動させると、該ピストン68の可動弁68bが開口し、管体66の底部の固定可動弁69が閉じ、管体66内の水を可動弁68b上に導入するから続いてピストン68を上動させると、可動弁68bが閉じ、その上の水を吐出口64より吐出させる。このピストン68の上動時、その直下が減圧(真空)され、固定可動弁69が開口するから、井戸孔61内に貯まっている水が揚水管63の下端の吸い込み口63′より吸引され、その揚水管63を溢上して管体66内に貯まるようになっている。
【0004】
このように、手押しハンドル65の操作を繰り返すことにより伝導棒67を介してシリンダ66内でピストン68が上下動し、該ピストン68がパッキン68a、可動弁68b及び固定可動弁69との連係により井戸孔61の底部に貯まっている水を揚水管63を通して漸次揚水し、吐出できるようになっている。
【0005】
後者の手押しポンプ装置は、図7の如く、井戸孔71内に、その底部に貯まっている水の水位72以下まで達する揚水管73を縦通し、該揚水管73の上端には、吐出口74及び手押しハンドル75を備えた管体76を連結し、さらに、揚水管73の下端にシリンダ77を設けてなる。このシリンダ77内には、前記手押しハンドル75の操作により軸Aを中心に上下動する可動端75′に長尺の伝導棒(鉄棒)78を介して連繋したピストン79が備えられているとともに、シリンダ77の底部には固定可動弁80が備えられている。
【0006】
前記ピストン79は、外周にはパッキン79aを備え、シリンダ77の内面に周接し、中部には可動弁79bを備えている。したがって、手押しハンドル75の操作によりピストン79を長尺の伝導棒78を介して下動させると、該ピストン79の可動弁79bが開口し、シリンダ77の底部の固定可動弁80が閉じ、シリンダ77内の水を可動弁79b上に導入するから続いてピストン79を上動させると、可動弁79bが閉じ、その上の水を吐出口74より吐出させる。このピストン79の上動時、その直下が減圧(真空)されて固定可動弁80が開口するから、井戸孔71の底部に貯まっている水が揚水管73の下端の吸い込み口73′より吸引され、その揚水管73を溢上してシリンダ77内に貯まるようになっている。
【0007】
このように、手押しハンドル75の操作を繰り返すことにより長尺の伝導棒78を介してシリンダ77内でピストン79が上下動し、該ピストン79がパッキン79a、可動弁79b及び固定可動弁80との連係により井戸孔71の底部に貯まっている水を順次揚水管73を通して揚水し、吐出できるようになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記図6に示す浅井戸用の手押しポンプ装置はともかく、図7に示す深井戸用の手押しポンプ装置にあっては、井戸孔71を縦通した揚水管73の下端である深い部分に設置されたシリンダ77内で作動するピストン79のパッキン79aの磨耗やその他の部品類に不具合が生じた場合、井戸孔71は昔の井戸のように作業者が入って行けない狭い内径であるため、前記揚水管73及びシリンダ77の全体を地上に引き上げて修理する以外になく、そして修理後に元の深度に再セットして使用することとなる。この場合、前記揚水管73は深井戸用であり長尺であること、シリンダを含む揚水管73の重量が嵩むこと、シリンダ77内のピストン79と手押しハンドル75とを連係した伝導棒自身固くて重いものであること等々から、地上への引き上げ作業は非常に困難であった。したがって、パッキンの磨耗その他シリンダ内の各部品の不具合が生じた場合の修理や部品交換等には、大変な時間と労力及び大きな費用を要していた。
【0009】
本発明は上記の問題を解消するためのもので、その目的とするところは、深井戸用の手押しポンプ装置の水の汲み上げ能力を維持しつつ、シリンダの部品の修理や交換などの作業を簡易に行えるようにした手押しポンプ装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る手押しポンプ装置は、井戸孔内に貯まった水位以下まで達する揚水管の上端に、吐出口及び手押しハンドルを備えた管体を連結し、前記手押しハンドルの可動端から管体及び揚水管内を垂下した紐状物に必要な重さを有するシリンダを吊設し、該シリンダの外周に前記揚水管の内壁に摺接するパッキンを備え、内部に前記可動端の上動に伴って上昇する時に閉口し、該可動端の下動に伴い自重により降下する時に開口する可動弁を設け、さらに、前記揚水管の吸い込み口に、前記筒体の降下時に閉口し、上昇時に開口する可動弁を設けたことを特徴としている。
【0011】
また、請求項2に記載の発明に係る手押しポンプ装置は、前記紐状物が、水に強い繊維からなる柔軟なロープであることを特徴としている。
【0012】
さらに、請求項3に記載の発明に係る手押しポンプ装置は、前記揚水管が、前記井戸孔の水位以下に設置された水中モータポンプからの揚水管と並列して設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、井戸孔内に貯まった水位以下まで達する揚水管の深い位置に設置されるシリンダの外周パッキンの磨耗や該シリンダ内の弁等の部品の不具合が生じた場合の修理や部品交換作業に際し、手押しハンドルの可動端に結着されているロープを手繰ってシリンダを地上に引き上げることが可能であり、地上におけるパッキンやその他の部品交換などが簡単かつ楽に行うことが出来るという優れた効果を奏するものである。
【0014】
また、請求項2に記載の発明によれば、前記紐状物が、水に強い繊維からなる柔軟なロープであるから揚水管の内壁に摺接するシリンダ全体を地上へ引き上げる作業がより行い易くなるという優れた効果を奏するものである。
【0015】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、前記揚水管が、前記井戸孔の水位以下に設置された水中モータポンプからの揚水管と並列して設けられているため、平時には水中モータポンプの作動により深井戸からの揚水を行い、水中モータポンプに給電できない時も停電時や非常時にも手押し式に揚水が可能になるという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本願ポンプ装置を略示的に示す断面図、図2は自重による筒体の下動時の作用を示す断面図、図3はハンドル操作による筒体の上動時の作用を示す断面図、図4は揚水管の繋ぎ部を示す外観図、図5は同繋ぎ部の拡大断面図である。
【0017】
本願手押しポンプ装置1を図1に示す。本願手押しポンプ装置1は、井戸孔2の底部に破線矢印の如く浸透により貯まる地下水を手動で汲み上げるためのもので、水位3が8mより深いいわゆる深井戸に適用できるものである。前記井戸孔2の底部に貯まった水は、平時には、水中モータポンプ4の作動により、これに連係したモータポンプ揚水管5を通して地上まで揚水され、地上開閉弁装置6を経て生活用水等として給水できるようになっている。
【0018】
前記本願手押しポンプ装置1は、前記水中モータポンプ4に給電できない停電時や非常時に手押し式に作動することにより給水できるようにしたもので、前記井戸孔2内には、前記モータポンプ揚水管5に並行して手押しポンプ揚水管7がその水位3以下まで縦通している。なお、以下、単に「揚水管」というときは、「手押しポンプ揚水管7」を指すものである。
【0019】
前記揚水管7の上端は、地上に設置した縦型の管体8に接続部材9を介して接続している。該管体8には揚水した水を吐出する吐出口10を有するとともに、軸11を中心に回動する手押しハンドル(以下単にハンドルという)12を有している。該ハンドル12は把持して手押し式に矢印方向に回動すると可動端12′が上下動する。
【0020】
前記揚水管7内の水中部分には、前記ハンドル12の可動端12′から管体8及び揚水管7を垂下した紐状物13に、必要な重さを有するシリンダ(筒体)14が係止具15を介して吊設されている。該シリンダ14の外周は、パッキン(巻皮でもUパッキンでもよい)16を介して前記揚水管7の内周に摺接し、内部には可動弁17を有している。ここに紐状物13は水に強いものであり、プラスチック繊維からなる柔軟なロープ(綱)で構成されている。
【0021】
前記シリンダ14は、前記ハンドル12の可動端12′の上下動により前記揚水管7内の水中部分において上下動する。すなわち、シリンダ14は可動端12′の上動時はロープ(紐状物)13に引き上げられて上昇する一方、ハンドル12の可動端12′の下動時には自重(必要な重さを有するため)により降下する。前記可動弁17はその降下時に開口し、上昇時に閉口するようになっている。また、前記揚水管7の下部の吸い込み口18には、固定可動弁19が設けられている。該固定可動弁19は、前記シリンダ14の上昇及び降下に連動して開閉するようになっている。
【0022】
前記ハンドル12を、図2の如く、手押し式に矢印方向に操作して可動端12′を上動させることによってシリンダ14を上昇させる。このシリンダ14の上昇は、前記可動弁17が閉じた状態で行われるから、シリンダ14のすぐ下の揚水管7内は減圧(真空)となり、前記揚水管7の下部の吸い込み口18に設けた固定可動弁19が図示の如く開いて揚水管7内に井戸孔2の底部に貯まっている水を矢印のように採り入れる。
【0023】
一方、前記ハンドル12を、図3の如く、手押し式に矢印方向に操作して可動端12′を下動させることによってシリンダ14を自重により降下させる。このシリンダ14の降下は前記可動弁17が開いた状態で行われるとともに、前記固定可動弁19も閉じられ、前記揚水管7内には先に採り入れられた水が閉じ込められる。この状態で揚水管7内の水は前記可動弁17を通してシリンダ14内に採り込まれるようになる。このシリンダ14内に採り込まれた水は、該シリンダ14の次の上昇に転じたときに、シリンダ14の外周のパッキン16の少しく上方に設けた小孔20より揚水管7との間に流出し、シリンダ14の摺動をスムーズにする。
【0024】
しかして、ハンドル12を把持して手押し式に操作し、可動端12′から垂下したロープ13にて吊設したシリンダ14を、図2及び図3の如く、水位3より下の水中部分で上下を繰り返させると、シリンダ14の外周のパッキン16、シリンダ14内の可動弁17の作動、揚水管7の下部の吸い込み口18に設けた固定可動弁19の作動の連係にて井戸孔2の底部に貯まっている水を、順次、揚水管7を通して地上の管体8まで送り込み、該管体8の吐出口10より吐出させることができるようになる。
【0025】
前記揚水管7は、井戸孔2の深さにより図4の如く繋ぎ手段21により繋いで用いられる。該繋ぎ手段21は、図5の如く、揚水管7の対向端部に結合するそれぞれのバルブソケット22と、該バルブソケット22同士を接続するソケット23とからなる。バルブソケット22は、前記揚水管7の一方及び他方の対向端部に接着剤等により接着できる基部22aと、該基部22aより狭窄して延出され、互いに逆方向のネジが切ってある雄ねじ部22bとからなり、一方、前記ソケット23は外周に手掛かりとなるリブ23aを有するとともに、内周の一端側と他端側にそれぞれ逆方向のネジを切った雌ねじ部23bを有している。前記バルブソケット22の雄ねじ部22bの内径は、前記揚水管7の内径と同径になっている。
【0026】
したがって、揚水管7の対向端部に固定したバルブソケット22の雄ねじ部22bをソケット23にて互いに接近するように締め付ければ、揚水管7は一体的に繋がれる。しかもソケット23にて繋がれた部分は、前記バルブソケット22の雄ねじ部22bの内径が前記揚水管7と同径になっているため、前記揚水管7内へのシリンダ14の挿入あるいは引揚げ時の支障にならない。このバルブソケット22の雄ねじ部22bの先端部のエッジ22b′を面取りし、シリンダ14の挿入あるいは引揚げ時に引っ掛からないようにしておくことが好ましい。
【0027】
次に、本願手押しポンプ装置1の作用について説明する。平時には、図1の如く、井戸孔2の底部に貯まっている水を、水中モータポンプ4の作動により、これに連繋したモータポンプ揚水管5を通して地上まで揚水し、地上開閉弁装置6を経て生活用水等として給水しているが、水中モータポンプ4に給電できない時も停電時や非常時において、手押し式にハンドル12を把持して手押し式に操作し、可動端12′から垂下したロープ13にて吊設したシリンダ14を、井戸孔2の水位3より下の揚水管7の水中部分で上下動を繰り返させると、シリンダ14の外周のパッキン16、シリンダ14内の可動弁17の作動、揚水管7の下部の吸い込み口18に設けた固定可動弁19の作動の連係にて井戸孔2の底部に貯まっている水が、順次、揚水管7を通して地上の管体8まで送り込まれ、該管体8の吐出口10より吐出されるようになる。
【0028】
本願手押しポンプ装置1の使用の継続により、汲上げ力の低下などの現象を受けたことによりパッキン16の磨耗やシリンダ14内の可動弁17などの不具合を感知した場合、前記ハンドル12の可動端12′から管体及び揚水管7内に垂下したロープ13を手繰って、前記シリンダ14を地上へ引き上げる。
【0029】
しかして、地上において、パッキン16や可動弁17などの修理(部品交換を含む)を行った後、前記ロープ13を操作してシリンダ14を元の深度に再セットすることが可能である。この場合、前記ロープが水に強い素材であって柔軟性を有するから揚水管の内壁に沿ってシリンダの地上への引き上げ及び元の深度への再セット作業がより楽に行えるものである。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本願手押しポンプ装置1は、深井戸用の手押しポンプ装置の水の汲み上げ能力を維持しつつ、修理や交換が簡易にでき、地震等の災害の差し迫った時代において、その有効性は絶大であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本願ポンプ装置を略示的に示す断面図である。
【図2】自重による筒体の下動時の作用を示す断面図である。
【図3】ハンドル操作による筒体の上動時の作用を示す断面図である。
【図4】揚水管の繋ぎ部を示す外観図である。
【図5】同繋ぎ部の拡大断面図である。
【図6】従来の浅井戸用の手押しポンプ装置を略示的に示す断面図である。
【図7】従来の深井戸用の手押しポンプ装置を略示的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 本願手押しポンプ装置
2 井戸孔
3 水位
4 水中モータポンプ
5 モータポンプ揚水管
6 地上開閉弁装置
7 手押しポンプ揚水管(揚水管)
8 管体
9 接続部材
10 吐出口
11 軸
12 手押しハンドル
12′ 可動端
13 紐状物(ロープ)
14 シリンダ(筒体)
15 係止具
16 パッキン
17 可動弁
18 吸い込み口
19 固定可動弁
20 小孔
21 繋ぎ手段
22 バルブソケット
23 ソケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
井戸孔内に貯まった水位以下まで達する揚水管の上端に、吐出口及び手押しハンドルを備えた管体を連結し、前記手押しハンドルの可動端から管体及び揚水管内を垂下した紐状物に必要な重さを有するシリンダを吊設し、該シリンダの外周に前記揚水管の内壁に摺接するパッキンを備え、内部に前記可動端の上動に伴って上昇する時に閉口し、該可動端の下動に伴い自重により降下する時に開口する可動弁を設け、さらに、前記揚水管の吸い込み口に、前記筒体の降下時に閉口し、上昇時に開口する可動弁を設けたことを特徴とする手押しポンプ装置。
【請求項2】
前記紐状物が、水に強い繊維からなる柔軟なロープであることを特徴とする請求項1に記載の手押しポンプ装置。
【請求項3】
前記揚水管が、前記井戸孔の水位以下に設置された水中モータポンプからの揚水管と並列して設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の手押しポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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