説明

手押し式給水ポンプ

【課題】本発明は、簡単、かつ軽量、さらには安価な構造で、長期に渡り、錆の発生なく、良好な給水性能が確保し得る手押し式給水ポンプを提供する。
【解決手段】本発明の手押し式給水ポンプは、錆のないステンレス材でケーシング2を形成し、ケーシング2内の液体送り路6およびゴム材で形成された摺動部材7のうちの少なくとも一方の摺動面11に、摩擦低減のためのコーティング層25を形成した。これにより、長期放置でも安定して給水性能が発揮されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料水の供給などに用いられる手押し式給水ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
地震、水害、台風等の災害時における、被災者や避難者に対する飲料水を確保する一つの手立てとして、手押し式給水ポンプを使用して、既存の井戸など水源の水(液体)を飲料水として利用することが進められている。
【0003】
従来、手押し式給水ポンプの多くは、吸込部や吐出部につながるシリンダ(ケーシング相当)に、水を吸い上げる手段として、ケーシング内部に形成された送り路(液体送り路に相当)、同送り路内に摺動可能に配設されたピストン(摺動部材に相当)、該ピストンを往復動させる操作ロッド、ピストンの動きにしたがい吸込部から水を吐出部へ導く各種弁(液体送り手段に相当)を組み付けた構造が用いられる。つまり、手押し式給水ポンプの多くは、操作ロッドの操作によりピストンを往復動作させことによって、シリンダ内に負圧を発生させて、吸込部から水源の水を吸い上げ、続くピストンの動作により吐出部から外部へ送り出す構造が用いられていた。
【0004】
こうした手押し式給水ポンプでは、コストの低減化を図るために、従来、FC材(ねずみ鋳鉄)で形成されたシリンダと、ゴム材で形成されたピストンとを組み合わせた構造が用いられていたが、FC材とゴム材とは摩擦の点で相性が悪く、ピストンがシリンダの壁面に固着して、ピストンが人手では容易に動かせなくなる問題があった。
【0005】
そのため、その対策として、従来、手押し式給水ポンプでは、ピストンの摺動性とシール性との双方を満たすために、内面をホーロー(琺瑯)仕上げしたライナーを、FC材で形成されたシリンダ内面に組み付けて、ピストンを動きやすくすることが行なわれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、ホーロー加工が施されたライナーは、製作が面倒なため、コスト的に負担が大きい。しかも、重量もかさむ問題がある。
【0007】
そこで、ケーシングを、FC材でなく、他の材料から構成したり、ピストンに工夫を施したりすることが考えられる。
【0008】
ピストンの固着を防ぐために、例えばケーシングには、真鍮やアルミ材を用いてライナーをなくし、ピストンの表面には、摩擦を低減させるためのコーティングを施すことが考えられる。
【0009】
ところが、真鍮やアルミ材は錆が発生する。特に手押し式給水ポンプは、災害時などで使用するというケースが想定されるために、手押し式ポンプを使用しないで放置している期間に、シリンダ内面に錆が発生することが懸念される。これでは、いざ、手押し式給水ポンプを利用する状況となったとき、錆の発生から、水源から汲み上げた水が飲料水として利用できなくなる問題がある。しかも、発生した錆が原因で、シリンダ内面が凸凹になるために、ピストン表面のコーティング層が異常に摩耗して、手押し式ポンプが利用できなくなるおそれがある。
【0010】
そこで、本発明の目的は、簡単、かつ軽量、さらには安価な構造で、錆の発生なく、良好な給水性能が確保し得る手押し式給水ポンプを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、手押し式給水ポンプは、錆のない材料であるステンレス材に注目して、該ステンレス材でケーシングを形成し、ケーシング内の液体送り路およびゴム材で形成された摺動部材のうちの少なくとも一方の摺動面に、摩擦低減のためのコーティング層を形成する構成を採用して、簡単、軽量、安価な点と、長期放置でも発揮し得る安定した給水性能とが確保されるようにした。
【0012】
請求項2に記載の発明は、コーティング層として、衛生管理の点を含め、ステンレス材と最も相性が良いことが確認されたフッ素コーティング層を採用した。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、ケーシングを形成するステンレスは、錆の発生がないうえ、摩擦を低減するためのコーティング層との相性はよい。しかも、ゴム材との相性も良く、長期に渡り、摺動部材のスムーズな移動が約束できる。
【0014】
それ故、摺動部材は、手押し式給水ポンプが長期放置されるような状況になっても、常にスムーズな手押し作業で、錆の発生なく、水を汲み上げることができる。しかも、別途、専用のライナーを用いず、コーティング層を形成するだけでよいから、簡単かつ軽量、さらには安価な構造ですむ。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、フッ素のコーティングが、ステンレス材で形成されたケーシングに対しても、ゴム材で形成された摺動部材に対しても、最も相性がよいうえ、食品衛生面に関しても良好であるので、良好な給水性能を長期に渡り保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[第1の実施形態]
以下、本発明を図1および図2に示す第1の実施形態にもとづいて説明する。
【0017】
図1は、例えば災害時に用いられる手押し式給水ポンプの全体を示す一部断面した正面図を示し、同図中1は同ポンプの本体である。本体1は、ケーシングである縦向きのシリンダ2の下部に、吸込口3を有する吸込キャップ4(本願の吸込部に相当)を結合(例えばフランジ4aとボルトナット4bとを用いて結合)し、上部に、出口8aを有するチャンバー5(本願の吐出部に相当)を結合(例えばフランジ5aとボルトナット5bとを用いて結合)して構成される。シリンダ2の全体は、ステンレス材から形成してある。
【0018】
シリンダ2の内部には、上下方向に延びる筒形の送り路6(本願の液体送り路に相当)が形成される。この送り路6内には、送り路6にならって延びるロッド8が配設されている。また送り路6内には、摺動部材として、ピストン7が収められている。ピストン7は、ゴム材で形成されている。例えば逆ハット形でリング状をなしたゴム製の摺動子から形成されている。このピストン7が、例えばピストンヨーク9およびピストン押え10といった2種類の抑え具を用いて、ロッド8の下端部に固定してある。ピストン7の外側に拡がる周壁7aの外面は、送り路6の壁面(内面)と接触する摺接面11としてある。ロッド8の上端部は、チャンバー5の上部壁の中央を摺動可能に貫通している。この貫通端は、リンク式の手動操作機構14に接続されている。同手動操作機構14は、例えばチャンバー5の側部に回動自在に支持されたレバー部材12、同レバー部材12の後端部に脱着可能に連結された操作ロッド12a(手動操作部)、レバー部材12の先端部とロッド8の上端部との間を回動自在に連結させたリンク13を用いて構成されている。この手動操作機構14により、操作ロッド12aを把持して、同ロッド12aを上下に繰り返し回動操作すると、リンク13を通じて、ロッド8が、チャンバー5の上部壁の通孔部5cをガイドとして昇降されるようにしている。つまり、操作ロッド12aを用いて行なわれる手押し操作(手動操作)により、ピストン7は、送り路6に沿って移動、すなわち送り路6の最下位の地点から最上位の地点までの間を摺動できるようになっている。なお、13a、13bは、リンク13の端部と、ロッド8端および操作レバー部材端とを回動可能に連結する支軸,13cはレバー部材12を回動可能に支持する支軸を示す。
【0019】
吸込キャップ4内には、吸入弁をなす逆止弁16が組み付けられている。またピストンヨーク9とピストン押え10間には、ピストン7の中央の開口部分を活用して、吐出弁をなす逆止弁17が組み込まれていて、ピストン7が送り路6内を往復動するにしたがい、水源の水が、シリンダ2の一端と連通する吸込キャップ4から、シリンダ2の他端と連通するチャンバー5へ導かれるようにしてある。つまり、ピストン7、逆止弁16,17を送り機構1a(本願の液体送り手段に相当)として、水源の水が汲み上げられるようにしてある。なお、図1中、18で示す二点鎖線は、吸込口3に接続される吸込配管(水源と連通する配管)、16aはバルブガイドを示す。
【0020】
チャンバー5の出口8には、出口弁をなす逆止弁19、先端に吐出口20を有する吐出口体21(チャンバー5と共に吐出部を構成するもの)が順に接続されている(例えばフランジ22とボルトナット23とを用いて結合)。これで、チャンバー5内にまで送られた水が、ピストン7の往復動にしたがい、吐出口体21から、外部へ吐出されるようにしている。なお、24で示す二点鎖線は、吐出口20に接続される吐出配管(蛇口などと接続される配管)を示す。
【0021】
またステンレス製のシリンダ2およびゴム製のピストン7のうち、少なくとも一方の摺動面となるピストン7の摺接面11には、図2中の二点鎖線で示すようにシリンダ2の壁面(内面)との摩擦を低減するための部材がコーティング、例えばフッ素がコーティングされている。このピストン表面に形成したフッ素コーティング層25により、ピストン7が軽い操作力でスムーズにシリンダ2内を動かせるようにしている。なお、フッ素コーティング層25は、すべり性の確保だけでなく、衛生的な面も配慮した結果、用いてある。
【0022】
このように構成された手押し式給水ポンプは、例えば水源となる井戸に設置されたり、災害用緊急給水装置の一部に組み込まれたりして利用される。
【0023】
具体的には、手押し式給水ポンプは、操作ロッド12aを把持して、レバー部材12を上下方向に繰り返し回動操作する。すると、ピストン7がシリンダ2内で往復動される。このときのピストン7が下側から上方へ向うときに発生する負圧により、水源の水が、シリンダ2の吸入側に吸入される。またピストン7が上側から下方へ向う動きにより、吸入された水が、ピストン7の逆止弁17を通じて、ピストン7の吐出側に送られる。このピストン7の動きの連続により、水は、チャンバー5内を満たしながら、逆止弁19から吐出口体21へ送り出され、蛇口(図示しない)へ至る。
【0024】
このとき、手押し式給水ポンプは、錆のない材料であるステンレス材で形成したシリンダ2を用いているだけでなく、ピストン7の表面には摩擦を低減するコーティング、特にフッ素コーティングが施してあるから、たとえ手押し給水ポンプが長期放置の後で利用されることがあっても、錆の発生の心配がないうえ、フッ素の特有の性質を利用して、軽い操作力によるピストン7のスムーズな移動が約束できる。特に発明者らが実験を繰り返し行なった結果、衛生管理の点を含めステンレス製のシリンダ2と相性が最も良いのが、フッ素コーティングであった。
【0025】
それ故、手押し式給水ポンプは、長期放置されるような状況でも、常にスムーズな手押し作業で、錆の発生なく、水を汲み上げることができ、長期放置でも安定した給水性能を発揮させることができる。しかも、こうした効果は、別途、専用のライナーを用いず、コーティング層25をピストン7の摺動面11に形成するだけでよく、簡単、かつ軽量、さらには安価な構造ですむ。
【0026】
[第2の実施形態]
図3は、本発明の第2の実施形態を示す。
【0027】
本実施形態は、ピストン7でなく、該ピストン7との摺動面となるシリンダ2の内面に、図3中の二点鎖線に示されるように、摩擦を低減させる材料をコーティング、例えばステンレス材と相性の良いフッ素のコーティングを施したものである。このようにしても、シリンダ内面に形成されるフッ素コーティング層30で、錆の発生なく、さらにはピストン7のスムーズな移動が約束でき、第1の実施形態と同様、安定した給水性能を発揮させることができる。
【0028】
むろん、第1の実施形態や第2の実施形態のようにピストン7あるいはシリンダ2の一方にだけに、フッ素コーティング層25,30を形成するのではなく、ピストン7およびシリンダ2の両方の摺動面にフッ素コーティング層25,30を形成しても、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
【0029】
なお、図3において、第1の実施形態と同じ部分には同一符号を付して、その説明を省略した。
【0030】
但し、第1の実施形態や第2の実施形態のような昇進形の手押し給水ポンプでなく、吸上げ形(シリンダ上方が開放しているタイプ)の手押し給水ポンプに、本発明を適用しても構わない。
【0031】
[第3の実施形態]
図4は、本発明の第3の実施形態を示す。
【0032】
本実施形態は、第1、第2の実施形態のようなプランジャ式の手押し給水ポンプでなく、ロータリ式の手押し給水ポンプに本発明を適用したものである。
【0033】
具体的には、本実施形態の手押し給水ポンプは、ステンレス材で形成されたケーシング39の内部に、一部円弧を他の部分より中心側に偏らせた円形の空間で形成される送り路40(本願の液体送り路に相当)を形成し、同送り路40内に、外周面から複数本の弾性アーム部41が放射状に延びたゴム製のロータ42(本願の摺動部材に相当)を回転可能に設け、中心側に偏った円弧部分43を境とした一方に、送り路40の一方の端に相当する部分と連通する吸込部44を形成し、他方に、送り路40の他方の端に相当する部分と連通する吐出部45を形成した構造である。つまり、同手押し給水ポンプは、手動操作によりロータ42を回転させると、各弾性アーム部41の先端部が送り路40内を摺動する。そして、弾性アーム部41が、中心側に偏った円弧部分43を通過するとき、弾性アーム部41,41間の空間Qの容積が縮小される挙動(弾性変形による)から、円弧部分43を通過して吸込部44へ至るときの、弾性アーム部41,41間の空間容積が元に戻るときの挙動(弾性変形による)を利用して、吸込部44から水を弾性アーム部41,41間に取り込み(吸込み)、搬送する。そして、再び、吐出側で生ずる弾性アーム部41,41間の空間容積の縮小を利用して、弾性アーム部41,41間に取り込まれた水が吐出部44へ吐出される(本願の液体送り手段に相当)。
【0034】
このうち、ロータ42の摺動面には摩擦を低減させるコーティングが施してある。具体的には、図4中の二点鎖線で示すロータ42の摺動面をなす、各弾性アーム部41の全体の表面には、フッ素のコーティングが施されている。この各弾性アーム部41の表面に形成したフッ素コーティング層46により、ロータ42が軽い操作力でスムーズにシリンダ2内を動かせるようにしている。
【0035】
このようにステンレス製のケーシング39と摺動する弾性アーム部41の表面にフッ素コーティングを施しても、第1の実施形態と同様の効果を奏する。もちろん、フッ素コーティング層46は、送り路40の内面だけに形成しても、弾性アーム部41と送り路40の両方に形成しても構わない。
【0036】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施しても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る手押し式給水ポンプを示す一部断面した正面図。
【図2】同ポンプのピストン周りを拡大して示す断面して示す断面図。
【図3】本発明の第2の実施形態の要部を示す断面図。
【図4】本発明の第3の実施形態の要部を示す断面図。
【符号の説明】
【0038】
1…本体、1a…送り機構(液体送り手段)、2…シリンダ(ケーシング)、6…送り路(液体送り路)、7…ピストン(摺動部材)、25,30,46…フッ素コーティング層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス材で形成され、内部に、一方の端が吸込部と連通し、他方の端が吐出部と連通する液体送り路を有するケーシングと、
前記液体送り路内にゴム材で形成された摺動部材を摺動可能に収め、該摺動部材を手動操作によって前記液体送り路内で摺動させるにしたがい前記吸込部から液体を前記吐出部へ導く液体送り手段と、
前記摺動部材と前記液体送り路のうちの少なくとも一方の摺動面に形成された摩擦低減のためのコーティング層と
を具備したことを特徴とする手押し式給水ポンプ。
【請求項2】
前記コーティング層は、フッ素コーティング層であることを特徴とする請求項1に記載の手押し式給水ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−46580(P2007−46580A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234563(P2005−234563)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(000148209)株式会社川本製作所 (161)
【Fターム(参考)】