説明

手指消毒剤組成物

【課題】手荒れ抑制効果が十分であり、かつ乾いた後にべたつきがない使用感に優れた手指消毒剤組成物であって、十分な殺菌効果を有する手指消毒剤組成物を提供すること。
【解決手段】次の成分(A)、成分(B)及び成分(C):
(A):エタノール及び/又はイソプロパノール 40〜95質量%、
(B):水溶性多価アルコール 0.2〜3質量%
(C):脂肪酸トリグリセリド 0.01〜0.15質量%
を含有する手指消毒剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手指消毒剤組成物に関し、さらに詳しくは、エタノール及び/又はイソプロパノールを含有し、手指に擦り込むだけで簡便に消毒を行うことができる手指消毒剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
病院内において、医師や看護師等の医療従事者、さらに入院又は外来患者が種々の感染症にかかる、いわゆる院内感染が問題となっている。病院には種々のルートで病原体が持ち込まれ、院内感染を引き起こす要因となり得る。また、病院内に限らず、在宅医療現場においても同様の感染を引き起こしかねない。このような院内感染は、かかる医療従事者や患者が充分な手洗いを励行することによってある程度防ぐことができるが、手洗いだけで完全に病原菌を除去することは難しい。2002年に公表された米国CDCの「医療施設における手指衛生のためのCDCガイドライン」では、アルコール含有手指消毒剤によるラビング法(擦式法)が推奨されており、現在ではエタノールを主成分とした速乾性のラビング剤が手指消毒の主流となっている。即ち、病院のナースステーション、病棟入口、ICU、各病室入口等にアルコール消毒剤を配備し、これを患者の治療や介護の前後に使用して手指の消毒を行っている。
【0003】
本発明でいう手指消毒剤は、医師や看護師等の医療従事者、入院あるいは通院患者等に対する病院内用途だけでなく、一般用途として、例えば、老人ホームや在宅医療現場など家庭内での手指の消毒、レストランや飲食店などを含む食品加工業従事者等あらゆるところで使用されうる手指消毒剤をさす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−57202号公報
【特許文献2】特開平11−147821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
速乾性の手指消毒剤は、1日のうちに頻繁に使用するとエタノールやイソプロパノールの蛋白変性作用によって手荒れを誘発する。また、手荒れ状態の手指は菌の付着が多くなり、二次感染を引き起こしやすくなる。
【0006】
特許文献1にはエタノールとグルコン酸クロルヘキシジンと特定のエモリエント剤を含有する手指消毒用組成物が記載されている。また、特許文献2にはエタノール、クロルヘキシジン、グルコン酸と脂肪酸トリグリセライドを特定量含有する手荒れ防止消毒用組成物が記載されている。しかしながら、十分な手荒れ抑制効果は得られておらず、前記の課題は解決できていない。
【0007】
手荒れを抑制するには、エタノールを主成分とした手指消毒剤に湿潤剤である水溶性多価アルコールを添加する方法がある。水溶性多価アルコールには皮膚を豊潤に保つ作用がある。しかしながら、水溶性多価アルコールを添加すると乾いた後に手指にべたついた感触が残り、また作業に支障をきたすことにもなる。そのため、乾いた後にべたつきがない速乾性の手指消毒剤は得られていないのが現状であった。
【0008】
従って、本発明の課題は、手荒れ抑制効果が十分であり、かつ乾いた後にべたつきがない使用感に優れた手指消毒剤組成物であって、十分な殺菌効果を有する手指消毒剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者らは、上記課題を解決するべく、種々の成分を検討したところ、エタノールを主成分とした手指消毒剤に水溶性多価アルコールと脂肪酸トリグリセリドを添加し、それぞれの含有量を0.2〜3質量%と0.01〜0.15質量%とすることによって、使用頻度の高い場合でも手荒れ抑制効果が十分であり、かつ乾いた後にべたつきがない使用感に優れた手指消毒剤組成物を得ることができることを見出し、しかも、公知の殺菌消毒剤を添加することなく、医療従事者向けの病院での用途、介護施設、食品加工業等の公共施設での用途等に十分な殺菌効果を発揮することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、
次の成分(A)、成分(B)及び成分(C):
(A):エタノール及び/又はイソプロパノール 40〜95質量%、
(B):水溶性多価アルコール 0.2〜3質量%
(C):脂肪酸トリグリセリド 0.01〜0.15質量%
を含有する手指消毒剤組成物、に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の手指消毒剤組成物は、手荒れ抑制効果が十分であり、かつべたつきがなく使用感に優れている。しかも、本発明の手指消毒剤組成物は公知の殺菌消毒剤を添加することなく十分な殺菌効果を発揮するため、より安全性が高い。従って、本発明の手指消毒剤組成物を、医師や看護師等の医療従事者、入院患者や通院患者等に対する病院での用途だけでなく、介護施設、レストランや飲食店を含む食品加工業等の公共施設での用途や、さらには一般用途として在宅医療現場等家庭内での手指の消毒等、あらゆるところで使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で使用する成分(A)のエタノール及び/又はイソプロパノールの含有量は、消毒効果や液だれの観点から本発明の手指消毒剤組成物の40〜95質量%であり、45〜90質量%であることがより好ましく、55〜75質量%であることがさらに好ましい。エタノール及びイソプロパノールを併用する場合、その混合比としては所望の効果が得られる限り限定されるわけではないが、例えばエタノール/イソプロパノール(質量比)が50/50〜99/1であることが好ましく、80/20〜99/1であることがより好ましい。
【0013】
本発明で使用する成分(B)の水溶性多価アルコールは、グリセリン、ジグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、ブチレングリコール、エリスリトール、ソルビトール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。これらのうち、特にグリセリン、1,3−プロパンジオールが好ましい。
【0014】
これらの水溶性多価アルコールは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができ、含有量は、本発明の組成物の0.2〜3質量%であり、0.3〜2質量%であることがより好ましい。組成物中における水溶性多価アルコールの含有量は、0.2質量%以上では手荒れを抑制することができ、3質量%以下では乾いた後にべたつき感を残さないので好ましい。
【0015】
本発明で使用する成分(C)の脂肪酸トリグリセリドは、25℃、1013.25hPaで液体のものが好ましい。脂肪酸トリグリセリドの脂肪酸部分としては、炭素数6〜18の直鎖脂肪酸又は分岐脂肪酸が好ましく、炭素数6〜10のものがより好ましい。具体的には、脂肪酸部分がカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、イソオクタン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等から選ばれる脂肪酸トリグリセリドが挙げられる。これらのうち、特に脂肪酸部分がカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、イソオクタン酸であることが好ましい。脂肪酸トリグリセリドの脂肪酸部分は3つとも同じ脂肪酸を用いてもよく、又は複数の種類の脂肪酸を組み合わせて用いてもよい。かかる脂肪酸トリグリセリドの具体例としては、例えば、トリカプリル酸グリセリン、トリイソオクタン酸グリセリン、ジカプリル酸モノカプリン酸グリセリン等が挙げられる。
【0016】
これらの脂肪酸トリグリセリドは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができ、含有量は、本発明の組成物の0.01〜0.15質量%であり、0.03〜0.12質量%であることが好ましく、0.05〜0.1質量%であることがより好ましい。
【0017】
本発明において、水溶性多価アルコールを含有するエタノールを主成分とした手指消毒剤に特定量の脂肪酸トリグリセリドを添加することによって、当業者にとって予期されないような、水溶性多価アルコールによるべたつきを抑制することができる。組成物中における脂肪酸トリグリセリドの含有量は、0.01質量%以上でべたつきを抑制することができ、0.15質量%以下では油っぽさやべたつきが感じられないので好ましい。
【0018】
本発明の組成物には、使用感の観点から、成分(B)と成分(C)とを質量比で(B)/(C)=4〜40の割合で配合することが好ましく、5〜30の割合で配合することがより好ましく、10〜20の割合で配合することがさらに好ましい。
【0019】
本発明の組成物は手指消毒剤として十分な殺菌効果を有するので、本技術分野で公知の殺菌消毒剤を配合することは必須ではない。即ち、例えば下記の殺菌消毒剤を含まない態様も、本発明の組成物の一つの好ましい態様である。なお、殺菌効果を増強するために、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で殺菌消毒剤を配合しても良い。ここで、殺菌消毒剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、アルキルリン酸ベンザルコニウム等のベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、塩化セチルピリジニウム、レゾルシン、トリクロロカルバニド、塩化クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、過酸化水素、ポピドンヨード、ヨードチンキ等が挙げられる。これらの殺菌剤は、単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。殺菌消毒剤の含有量は本発明の組成物の0.01〜10質量%が好ましい。
【0020】
本発明の組成物には、上述した各成分の他に、必要に応じて手指消毒剤組成物に用いられる各種任意成分を配合することができる。ここで用いられる各種任意成分としては、特に制限されないが、例えば、油脂類、多糖類、界面活性剤、抗炎症剤、清涼剤、血行促進剤、創傷治癒剤、粘度調整剤、pH調整剤(有機又は無機の酸、有機又は無機のアルカリ)、キレート剤、酸化防止剤、防腐剤、粉体、香料、色素等が挙げられ、本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。本発明の組成物を用いた場合、乾いた後のべたつきが抑制されているので、べたつきを抑制する目的でシリコーン類を配合しなくてもよい。
【0021】
本発明の手指消毒剤組成物は、希釈剤として水を含有してもよい。即ち、水を含有する場合、上述した各成分及びその他の任意成分を除くその残余量が水の含有量となる。水の含有量は、本発明の組成物の4〜58質量%が好ましく、9〜54質量%がより好ましい。
【実施例】
【0022】
実施例1〜4及び比較例1〜3
表1に示す組成の手指消毒剤組成物を常法に従って調製し、それらの乾いた後のべたつき、乾いた後のしっとり感、手荒れ抑制効果について、下記の方法で評価した。なお、表中の組成の数値はいずれも質量%である。
【0023】
[方法1:乾いた後のべたつきの評価]
10名のパネラーが、各手指消毒剤組成物を手指に3mL噴霧し、両手で塗布し、そのまま自然乾燥させた。5分経過毎に、この操作を3回繰り返し、乾いた後のべたつきについて、べたつかないことが良く、べたつくことが良くないとした評価を行った。
【0024】
[方法2:乾いた後のしっとり感の評価]
10名のパネラーが、各手指消毒剤組成物を手指に3mL噴霧し、両手で塗布し、そのまま自然乾燥させた。5分経過毎に、この操作を3回繰り返し、乾いた後のしっとり感について、しっとりすることが良く、しっとりしないことが良くないとした評価を行った。
【0025】
[方法3:手荒れ抑制効果の評価]
10名のパネラーが、各手指消毒剤組成物を手指に3mL噴霧し、両手で塗布し、そのまま自然乾燥させた。5分経過毎に、この操作を10回繰り返し、これを3日間連続して行い、手荒れの状態を観察して、手荒れ抑制効果について、手荒れがないことが良く、手荒れすることが良くないとした評価を行った。
【0026】
各パネラーによる評価を、次の基準で行った。
5:非常に良い
4:良い
3:どちらともいえない
2:あまり良くない
1:良くない
【0027】
各評価項目に関して、10名の平均値を、表1に結果として示した。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に示すように、本発明の手指消毒剤組成物は、手荒れ抑制効果が十分であり、かつ乾いた後にべたつきがない使用感に優れるものであった。一方、比較例1では、成分(C)が含まれないのでべたつきが強いことが、比較例2では成分(B)が含まれないのでしっとり感が悪化していることが分かった。さらに比較例3では、成分(C)の量が多すぎるので、実施例2及び3よりもべたつきが強くなり、しっとり感も悪化した。
【0030】
なお、実施例1〜4のもの、比較例1〜3のものは共に、大腸菌及び黄色ブドウ球菌に対する殺菌活性に優れたものであり、殺菌消毒剤の有無による殺菌効果に違いは見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の手指消毒剤組成物は、手荒れ抑制効果が十分であり、かつ乾いた後にべたつきがなく使用感に優れているため、医療従事者向けの病院での用途、介護施設、食品加工業等の公共施設での用途等に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、成分(B)及び成分(C):
(A):エタノール及び/又はイソプロパノール 40〜95質量%、
(B):水溶性多価アルコール 0.2〜3質量%
(C):脂肪酸トリグリセリド 0.01〜0.15質量%
を含有する手指消毒剤組成物。
【請求項2】
水溶性多価アルコールが、グリセリン、ジグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、ブチレングリコール、エリスリトール、ソルビトール及びポリエチレングリコールからなる群より選択される1種または2種以上である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
脂肪酸トリグリセリドが、炭素数6〜18の直鎖脂肪酸又は分岐脂肪酸のトリグリセリドである請求項1又は2に記載の組成物。

【公開番号】特開2011−219410(P2011−219410A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89769(P2010−89769)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】