説明

手注ぎ式機器

【課題】手注ぎ式機器を転倒させた場合でも、手注ぎ式機器を正立状態から転倒状態へ確実に移行させ、傾斜正立状態にて湯水の蒸気口を介する外部への排出を確実に防止する。
【解決手段】有底円筒状の機器本体2とハンドル部8とを備え、機器本体2の転倒時に、蓋体5の蒸気口18を介して機器本体2内の湯水Wの外部への流出を防止する転倒止水弁Qを蓋体5内に備え、ハンドル部8に略平面状の外側表面8aを備え、ハンドル部8の下方側における機器本体2の後部側の下方外周面2bには径方向外方側に突出する突出部50が、機器本体2の前後方向視でハンドル部8の左右方向の幅内で且つ当該幅の中心線L4に対して左右方向の何れか一方側に偏倚した位置に配設され、突出部50の突出高さがハンドル部8の側面視でハンドル部8の外側表面8aと機器本体2の下方外周面2bとを結ぶ仮想直線L1よりも機器本体2の径方向外方側に突出する突出高さに設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に湯水を収容する有底円筒状の機器本体と、機器本体の上部開口を開閉自在な蓋体と、蓋体の上部に配設された蒸気口を介して機器本体内の蒸気を外部に排出する蒸気排出機構と、機器本体の後部側の外周面において上方から下方へ向けて延設された把持用のハンドル部とを備え、機器本体の転倒時に、蒸気口を介して機器本体内の湯水が外部へ流出するのを防止する転倒止水弁を蓋体内に備えた手注ぎ式機器に関する。
【背景技術】
【0002】
このような手注ぎ式機器として、電気ポットや電気ケトル等を例示できるが、例えば、特許文献1及び2に開示の電気ケトルでは、転倒止水弁として、機器本体が転倒すると蒸気排出用通路の連通口を閉じるように移動すべく錘体が弁座に設けられており、内容器内に収容されている湯水の蒸気口からの漏出を防止するように構成されている。
【0003】
このような転倒止水弁は、例えば、錐体が、側断面視で上底が下底よりも面積の大きな概略逆台形形状に形成され、上面視で上底及び下底が略円形に形成されており、側部は上底及び下底の両周縁部を結ぶ傾斜面を備えて形成され、この錐体の形状に対応する形状の弁座に配設される。
そして、機器本体の底面が、例えば机の上面に対して平行に載置された状態(正立状態)では、錐体の下底は弁座の下方側に当接し、錐体の上底は弁座の上方側から離間して、当該上方側に形成された連通口が開放状態となる(本願の図2参照)。これにより、機器本体内の蒸気を当該連通口を介して蓋体の上部に形成された蒸気口に通流可能に構成されている。一方で、機器本体が転倒して、機器本体の側面である外周面が机の上面に対して平行となった状態(転倒状態)では、錐体の側部の傾斜面が弁座内の傾斜面に沿って弁座の上部側に移動して、錐体の下底は弁座の下方側から離間し、錐体の上底は弁座の上方側に当接して、当該上方側に形成された連通口が閉鎖状態となる(本願の図6参照)。これにより、内容器内の蒸気及び湯水が蒸気口に通流するのを阻止して、外部に湯水等が流出するのを良好に防止できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−125285号公報
【特許文献2】特開2009−142648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記電気ケトルにおいては、機器本体の後部側の外周面において上方から下方へ向けて延設された把持用のハンドル部が配設されるが、例えば、ハンドル部の把持のし易さの追求や、デザイン性の追求、ハンドル部内に何らかの機器を配設するなどの種々の理由から、ハンドル部の外側(外方側)に略平面状の外側表面を形成することが考えられている。
【0006】
このようなハンドル部の外側に略平面状の外側表面を形成した電気ケトルでは、電気ケトルの機器本体を誤って転倒させた場合、通常であれば、機器本体の底面の略全面が机等の上面に当接した正立状態から、機器本体の底面の略全面が机等の上面から離間して当該機器本体の外周面の略全面が机等の上面に当接した転倒状態となるが、ごく稀に、正立状態から転倒状態への移行時に、機器本体が傾斜正立状態となってしまうことがある。この傾斜正立状態とは、正立状態から転倒状態への移行時に、ハンドル部の外側に形成された略平面状の外側表面と機器本体の外周面とが同時に机の上面に当接して、機器本体が机の上面に対して所定角度傾斜した姿勢で静止した状態である。この傾斜正立状態では、ハンドル部の外側表面と机の上面とはほぼ線接触となっており、有底円筒状の機器本体の外周面と机の上面とは点接触となっているため、機器本体は傾斜正立状態で静止するのである(本願の図5参照)。なお、この傾斜正立状態における、ハンドル部の外側表面と机の上面とのほぼ線接触は、実質的に、ほぼ線接触の線分の両端部の2点での接触となる場合もあるため、ハンドル部の外側表面における両端部の2点と、有底円筒状の機器本体の外周面と机の上面との1点との、3点での接触となる場合もある。
【0007】
仮に、電気ケトルの機器本体が傾斜正立状態となった場合には、例えば、図5(a)に示すように、機器本体が机の上面に対してハンドル部側に所定角度傾斜した姿勢で静止し、しかも、転倒止水弁の錐体は弁座の傾斜面を若干移動するものの、弁座の上部側に形成された連通口を閉塞するほど十分に移動しない状態となってしまう。このような場合には、機器本体内に収容された湯水が、蓋体の上部に形成された蒸気口を介して外部に排出されてしまう可能性があり、改良の余地があった。
【0008】
本発明は、このような従来の問題点に着目したもので、その目的は、手注ぎ式機器を誤って転倒させた場合でも、手注ぎ式機器を正立状態から転倒状態へ確実に移行させ、手注ぎ式機器が傾斜正立状態となって湯水が蒸気口を介して外部に排出されるのを確実に防止できる手注ぎ式機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る手注ぎ式機器は、内部に湯水を収容する有底円筒状の機器本体と、前記機器本体の上部開口を開閉自在な蓋体と、前記蓋体の上部に配設された蒸気口を介して前記機器本体内の蒸気を外部に排出する蒸気排出機構と、前記機器本体の後部側の外周面において上方から下方へ向けて延設された把持用のハンドル部とを備え、前記機器本体の転倒時に、前記蒸気口を介して前記機器本体内の湯水が外部へ流出するのを防止する転倒止水弁を前記蓋体内に備えた手注ぎ式機器であって、その特徴構成は、
前記ハンドル部が、当該ハンドル部の外側に略平面状の外側表面を備え、前記ハンドル部の下方側における前記機器本体の後部側の下方外周面には、前記機器本体の径方向外方側に突出する突出部が形成され、前記突出部が、前記機器本体の前後方向視で、前記ハンドル部の左右方向の幅内で、且つ、当該幅の中心線に対して左右方向の何れか一方側に偏倚した位置に配設され、前記突出部の突出高さが、前記ハンドル部の側面視で、前記ハンドル部の外側表面と前記機器本体の下方外周面とを結ぶ仮想直線よりも前記機器本体の径方向外方側に突出する突出高さに設定されている点にある。
【0010】
ここで、手注ぎ式機器は、基本的に、有底円筒状の機器本体を備え、機器本体の後部側の外周面において上方から下方へ向けて延設された把持用のハンドル部が、当該ハンドル部の外側に略平面状の外側表面を備えるので、手注ぎ式機器の機器本体を誤って転倒させた場合、ごく稀に、機器本体の底面が例えば机の上面に対して平行に載置された正立状態から、機器本体が転倒して、機器本体の側面である外周面が机の上面に対して平行となった転倒状態への移行時に、機器本体が傾斜正立状態となってしまうことがある。この傾斜正立状態とは、正立状態から転倒状態への移行時に、ハンドル部の外側に形成された略平面状の外側表面と機器本体の外周面とが同時に机の上面に当接して、機器本体が机の上面に対して所定角度傾斜した姿勢で静止した状態である。この傾斜正立状態では、ハンドル部の外側表面と机の上面とはほぼ線接触となっており、有底円筒状の機器本体の外周面と机の上面とは点接触となっているため、機器本体は傾斜正立状態で静止するのである(本願の図5参照)。なお、この傾斜正立状態における、ハンドル部の外側表面と机の上面とのほぼ線接触は、実質的に、ほぼ線接触の線分の両端部の2点での接触となる場合もあるため、ハンドル部の外側表面における両端部の2点と、有底円筒状の機器本体の外周面と机の上面との1点との、3点での接触となる場合もある(以下同様である)。
【0011】
このような状況でも、上記特徴構成によれば、手注ぎ式機器の機器本体が誤って転倒して正立状態(本願の図2参照)から転倒状態(本願の図6参照)に移行する際、傾斜正立状態で静止する可能性がある場合でも、ハンドル部の外側表面と机の上面とはほぼ線接触するものの、有底円筒状の機器本体の外周面においては、少なくとも、当該外周面のうち下方外周面に形成され径方向外方側に突出する突出部が机の上面と点接触することとなる(本願の図4参照)。
この場合、突出部は、機器本体の前後方向視で、ハンドル部の左右方向の幅内で、且つ、当該幅の中心線に対して左右方向の何れか一方側に偏倚した位置に配設され、しかも、突出部の突出高さが、ハンドル部の側面視で、ハンドル部の外側表面と機器本体の下方外周面とを結ぶ仮想直線よりも機器本体の径方向外方側に突出する突出高さに設定されているため、ハンドル部の外側表面と机の上面とがほぼ線接触する場合には、必然的に突出部も机の上面に点接触する。加えて、この点接触箇所は、機器本体の前後方向視で、機器本体の軸芯及びハンドル部の幅の中心線よりも偏倚し、機器本体の重心からも偏倚した位置となり、机の上面からの抗力を突出部を介して機器本体に作用させることとなるため、有底円筒状の機器本体の軸芯回りの回転モーメントを作用させることとなる。従って、機器本体は、例えば、図4(b)の矢印で示す回転方向に回転することとなり、傾斜正立状態で静止することなく正立状態から転倒状態に確実に移行することとなる。
よって、電気ケトルを誤って転倒させた場合でも、電気ケトルを正立状態から転倒状態へ確実に移行させ、電気ケトルが傾斜正立状態となって湯水が蒸気口を介して外部に排出されるのを確実に防止できる。
【0012】
本発明に係る手注ぎ式機器の更なる特徴構成は、前記機器本体の下方外周面が下方に行くに連れて縮径する下方縮径外周面を備え、前記突出部が前記下方縮径外周面に配設されている点にある。
【0013】
上記特徴構成によれば、ハンドル部の側面視で、ハンドル部の外側表面と機器本体の下方外周面(下方縮径外周面)とを結ぶ仮想直線が通過する箇所の一つである当該下方縮径外周面に、突出部を設けることができるので、当該突出部の突出高さを比較的低くすることができ、当該突出部を備えた機器本体を容易且つ低コストで製造することができる。
【0014】
本発明に係る手注ぎ式機器の更なる特徴構成は、前記下方縮径外周面に配設された前記突出部の突出高さが、前記ハンドル部の側面視で、前記機器本体の底面から延出される仮想延長線、及び、当該仮想延長線に直交する前記機器本体の外周面端部を通る仮想延長線よりも、前記機器本体の下方縮径外周面側に位置する突出高さに設定されている点にある。
【0015】
上記特徴構成によれば、下方縮径外周面に形成された突出部の先端が、ハンドル部の側面視で、機器本体の底面から延出される仮想延長線、及び、当該仮想延長線に直交する機器本体の外周面端部を通る仮想延長線よりも、機器本体の下方縮径外周面側に位置するので、比較的目立たないように突出部を設けることができ美観を損なうことがなく、また、当該突出部が電気ケトルを使用する際の邪魔になることもない。
【0016】
本発明に係る手注ぎ式機器の更なる特徴構成は、前記ハンドル部内には、前記機器本体内の湯水を加熱する加熱手段を制御する制御用の平板状の基板が、前記ハンドル部の外側表面と対向して並行に配設されている点にある。
【0017】
上記特徴構成によれば、ハンドル部が、当該ハンドル部の外側に略平面状の外側表面を備えた形状であるので、ハンドル部内に平板状の基板を当該外側表面に対向する状態で確実に配設することができ、また、当該基板上に操作用の操作感知部を設けて、ハンドル部の外側表面に設けた操作スイッチにより当該操作感知部を押圧する構成とする際において、構造変更の自由度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】電気ケトルの斜視図
【図2】電気ケトルの機器本体の要部の縦断側面視図
【図3】正立状態にある機器本体の後面視図
【図4】実施形態に係る機器本体が傾斜正立状態から転倒状態に移行する直前の状態を示す概念図
【図5】比較例に係る機器本体が傾斜正立状態で静止している状態を示す概念図
【図6】転倒状態にある機器本体の後面視図
【図7】別実施形態に係る機器本体の側面視図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る手注ぎ式機器の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1〜図3に示すように、手注ぎ式機器の一例である電気ケトルは、電源供給用の電源プレート1と、その電源プレート1上に着脱自在に載置される機器本体2とを備え、有底円筒状の機器本体2内には、湯水Wを収納する内容器3が収納配置され、その内容器3内の湯水を加熱する加熱手段としてのヒータ4が内容器3の底部下方に配置されている。そして、電源コード(図示せず)を介して商用電力が給電される電源プレート1上に機器本体2を載置することにより、機器本体2側のヒータ4に通電可能となるように構成されている。
【0020】
上部が開口した機器本体2の上方には、機器本体2の上部開口2Aを開閉自在な蓋体5が設けられるとともに、蓋体5の外周部の上部側には、弁操作具6と注ぎ口7とが互いに対向する位置に配設され、機器本体2の側方の外周面には、弁操作具6の下方に位置する状態で、注ぎ口7から内容器3内の湯水Wを注ぐ際に把持する把持用のハンドル部8が連設されている。
【0021】
弁操作具6は、それを下方へ押圧操作することによって、蓋体5に内蔵された弁(図示せず)を開いて、内容器3内の湯水Wが注ぎ口7から流出するのを可能にするものであり、したがって、ハンドル部8を把持し、かつ、弁操作具6を下方へ押圧操作しながら機器本体2を傾けることにより、注ぎ口7から内容器3内の湯水Wを注ぐことができる。
【0022】
ヒータ4の作動を制御する制御用の基板9は、全体が略長方形で平板状に形成され、ハンドル部8の内部に形成される空間内において、ハンドル部8のハンドルカバー8Aの外側表面8aと対向した状態で並行に配設されており、主にヒータ4の作動を制御するように構成されている。なお、図示しないが、基板9は、ヒータ4を制御操作するための湯沸し用の操作感知部と保温用の操作感知部とを有している。
【0023】
機器本体2は、概ね、有底円筒状の外郭部材11の口縁部に口縁部材12を嵌め込むと共に、その口縁部材12に有底円筒状の内容器3を吊り下げ支持して構成され、更に、操作部10を備えたハンドル部8が口縁部材12と外郭部材11とに跨って取り付けられている。なお、外郭部材11は、機器本体2の外郭を形成する円筒部分11Aと、円筒部分11Aの底部を閉鎖する底部分11Bとを備えて構成されている。
【0024】
次に、蓋体5について説明を加える。
蓋体5は、蓋本体部材13と、その蓋本体部材13の上方の蓋カバー14と、蓋本体部材13の下方の内蓋板15と、その内蓋板15の外周部のシール材16とを一体的に組み付けて構成されている。
また、蓋体5には、蓋体5を機器本体2の上部開口2Aを閉じる閉じ位置に保持する一対のフック部材17(図1参照)、注ぎ口7からの内容器3内の湯水Wの流出を許容するか否かに弁(図示せず)の開閉状態を切り換えるための弁機構V、及び、内容器3内で発生する蒸気Sを外部に放出するための蒸気口18を備えた蒸気排出機構A等が設けられている。
機器本体2の口縁部材12には、注ぎ口7の下方部分を構成する溝状部12mが形成され、蓋体5の蓋本体部材13には、注ぎ口7の上方部分を構成する庇部13eが設けられている。
そして、口縁部材12の溝状部12mの上方を蓋本体部材13の庇部13eが覆う状態となる蓋体装着用の相対位置関係で、蓋体5を機器本体2の上部開口2Aに装着すると、口縁部材12の溝状部12mと蓋本体部材13の庇部13eにより、筒状の注ぎ口7が形成されることになる。
【0025】
また、円板状に形成された内蓋板15には複数の孔(図示せず)が形成され、蓋体5における蓋本体部材13と内蓋板15との間には、内蓋板15に形成された複数の孔を通して機器本体2の内容器3に連通する容器連通空間19が形成されている。
【0026】
蓋体5の蓋カバー14には、蓋本体部材13の蒸気口18を臨ませるための蒸気口用開口20が形成されている。なお、蒸気口用開口20には、複数のスリットが形成された蒸気口キャップ21が嵌め込まれている。
【0027】
蓋体5の蓋本体部材13には、基端が容器連通空間19に臨み且つ注ぎ口7に延びて、内容器3内の湯水を注ぎ口7へ導く湯水流路22、及び、基端が容器連通空間19に臨み且つ先端が蓋体5の上面部にまで延びる蒸気排出用通路23が形成され、その蒸気排出用通路23の先端開口部が蒸気口18として機能する。蒸気口18は、蓋体5の上面視において、注ぎ口7と弁操作具6との並び方向(前後方向)において、注ぎ口7側とは反対側となるハンドル部8の側(後側)に偏った位置に設けられている。容器連通空間19に臨む蒸気排出用通路23の最上流箇所(蒸気排出用通路23の基端部)には、転倒止水弁Qが設けられており、この転倒止水弁Qには、機器本体2が転倒すると蒸気排出用通路23の連通口26A、26Bを閉じるように移動すべく、転倒止水弁Qとなる2個の錘体24が設けられている。従って、機器本体2が転倒しても、2個の錘体24が蒸気排出用通路23の連通口26A、26Bを閉じるように移動して、内容器3内に収容されている湯水Wの蒸気口18からの漏出が防止される。
【0028】
また、内容器3内の蒸気Sが蒸気口18から機器本体2の外部へ排出される時の蒸気Sの流れを図2において矢印(破線)で示す。内容器3内で発生した蒸気Sは内蓋板15の複数の孔を通過し、容器連通空間19へ進み、転倒止水弁Qを有する蒸気排出用通路23を通って、蒸気口18から排出されるように構成されている。なお、内容器3内で発生した蒸気Sを機器本体2の外部に排出する蒸気排出機構Aは、容器連通空間19、転倒止水弁Q、蒸気排出用通路23、蒸気口18、蒸気口キャップ21によって構成されている。
【0029】
転倒止水弁Qについて説明を加えると、転倒止水弁Qの2個の錐体24のそれぞれは、図2示すように、側断面視で上底が下底よりも面積の大きな概略逆台形形状であり、上面視で上底及び下底が略円形に形成されており、側部は上底及び下底の両周縁部を結ぶ傾斜面を備えて形成され、これら錐体24の形状に対応する形状の弁座25に配設されている。
従って、図2に示すように、機器本体2の底面が、例えば机の上面(図示せず)に対して平行に載置された状態(正立状態)では、錐体24の下底は弁座25の下方側に当接し、錐体24の上底は弁座25の上方側から離間して、当該上方側に形成された連通口26A、26Bが開放状態となり、内容器3内の蒸気Sを当該連通口26A、26Bを介して蒸気口18に通流可能に構成されている。一方で、図6に示すように、機器本体2が転倒して、機器本体2の側面である外周面2aが机の上面に対して平行となった状態(転倒状態)では、錐体24の側部の傾斜面が弁座25内の傾斜面に沿って弁座25の上部側に移動して、錐体24の下底は弁座25の下方側から離間し、錐体24の上底は弁座25の上方側に当接して、当該上方側に形成された連通口26A、26Bが閉鎖状態となり、内容器3内の蒸気S及び湯水Wが蒸気口18に通流するのを阻止可能に構成されている。
【0030】
ハンドル部8は、合成樹脂により一体成形されたハンドルカバー8Aと、同じく合成樹脂により一体成形されたハンドル基部8Bとにより構成され、ハンドル基部8Bの上方と下方が、図2に示すように、複数のボルト30a、30bによって、弁操作具6の下方に位置する状態で機器本体2の側方に固着連設され、ハンドルカバー8Aが、そのハンドル基部8Bの外側に取り付け固定される。なお、この固定状態においては、基板9を覆う箱形状の基板カバー31とハンドルカバー8Aとの間で防水部材32を圧縮しつつ固定されているので、基板カバー31とハンドルカバー8Aとの間は、その全周にわたって完全な状態で水密性が保持されている。
【0031】
次に本願の特徴的な構成について説明する。
図1〜図3に示すように、ハンドル部8のハンドルカバー8Aには、ハンドル基部8Bとは反対側の外側(図2の右側)に、略平面状の外側表面8aを備えている。ここで、略平面状とは、完全な平面に限らず、若干外方或いは内方に膨出する曲面をも含む概念である。なお、この外側表面8aには、ハンドル部8内に配設された基板9における湯沸し用の操作感知部と保温用の操作感知部とをそれぞれ操作可能な、操作部10の湯沸し用の運転スイッチ10aと保温用の保温スイッチ10bとが設けられている。
【0032】
外郭部材11(機器本体2)における円筒部分11A及び底部分11Bは、円筒部分11Aでは上下方向で同径の外周面2aを備えて形成され、底部分11Bでは下方に行くに連れ縮径する下方縮径外周面2b(下方外周面)を備えて形成されている。外郭部材11の円筒部分11Aは、長方形状の板部材の短手方向の両端部を接続することで形成され、接続個所の下端部に形成された接続用の開口が閉塞部材51により閉塞されている。なお、当該閉塞部材51の突出高さは、後述する仮想直線L1よりも機器本体2の径方向内方側に位置する突出高さに設定されている。外郭部材11の底部分11Bは、円筒部分11Aの下端部に接続されている。
【0033】
ハンドル部8の上部は、外郭部材11の円筒部分11Aの上部に固定され、ハンドル部8の下部は、外郭部材11の円筒部分11Aの上下方向の略中間部分に固定されている。
ハンドル部8の下部が円筒部分11Aに固定された箇所よりも下方側における、機器本体2の後部側の下方外周面である下方縮径外周面2bには、機器本体2の径方向外方側に突出する突出部50が形成されている。
図2に示すように、突出部50の突出高さが、ハンドル部8の側面視で、ハンドル部8の外側表面8aと機器本体2の下方縮径外周面2bとを結ぶ仮想直線L1よりも機器本体2の径方向外方側に突出する突出高さに設定されている。
また、この突出部50の突出高さが、ハンドル部8の側面視で、機器本体2の底面から延出される仮想延長線L2、及び、当該仮想延長線L2に直交する機器本体2の外周面端部(円筒部分11Aの外周面2aの下端部)を通る仮想延長線L3よりも、機器本体2の下方縮径外周面2b側に位置する突出高さに設定されている。
さらに、図3に示すように、突出部50が、機器本体2の前後方向視で、ハンドル部8の左右方向の幅内(当該幅の中心線L4から左右方向におけるハンドル部8の外側表面8aの端部までの距離Dを合算した距離2D内)で、且つ、当該幅の中心線L4に対して左右方向の何れか一方側に偏倚した位置に配設されている。すなわち、突出部50は、機器本体2の前後方向視で、ハンドルの幅の中心線L4に対して左側(図3の左側)に距離Pだけ偏倚した位置に配設されている。当該突出部50の位置は、当該位置は概略楕円形状に形成された突出部50の径方向外方側への突出高さが最も高い位置を基準として説明した。なお、突出部50の形状は、概略楕円形状に限らず、円形、多角形状等の形状とすることもできる。
【0034】
次に、図2〜図6に基づいて、電気ケトルが誤って転倒した際の動作を、本願の実施形態である突出部50を備えた電気ケトルの場合、及び、比較例として突出部50を備えない電気ケトルの場合について、対比して説明する。
【0035】
〔比較例〕
突出部50を備えない比較例に係る電気ケトルの機器本体2を誤ってハンドル部8側に転倒させた場合、機器本体2の底面が例えば机の上面に対して平行に載置された正立状態(図2及び図3参照)から、機器本体2の側面である外周面2aが机の上面に対して平行となった転倒状態(図6参照)への移行時に、機器本体2が傾斜正立状態(図5参照)で静止する場合がある。この傾斜正立状態とは、正立状態から転倒状態への移行時に、ハンドル部8の外側に形成された略平面状の外側表面8aと機器本体2の下方縮径外周面2bとが同時に机の上面に当接して、機器本体2が机の上面に対して所定角度(本比較例では、30度程度)傾斜した姿勢で静止した状態である。この傾斜正立状態では、ハンドル部8の外側表面8aと机の上面とはほぼ線接触となっており、有底円筒状の機器本体2の下方縮径外周面2bと机の上面とは点接触となっているため、機器本体2は傾斜正立状態で静止してしまうのである(図5参照)。なお、図5(b)では、理解を容易にするため、ハンドル部8を仮想線で示している。
【0036】
このように機器本体2が傾斜正立状態となった場合には、図5(a)に示すように、機器本体2が机の上面に対してハンドル部8側に所定角度傾斜した姿勢で静止し、しかも、転倒止水弁Qの錐体24は弁座25の傾斜面を若干移動するものの、弁座25の上部側に形成された連通口26A、26Bを閉塞するほど十分に移動しない状態となってしまう。このような場合には、機器本体2内に収容された湯水Wが、蓋体5の上部に形成された蒸気口18を介して外部に排出されてしまうこととなる。
【0037】
〔実施例〕
一方で、突出部50を備えた本願の実施例に係る電気ケトルの機器本体2を誤ってハンドル部8側に転倒させた場合、正立状態(図2参照)から転倒状態(図6参照)に移行する際、傾斜正立状態で静止する可能性がある場合でも、ハンドル部8の外側表面8aと机の上面とはほぼ線接触するものの、有底円筒状の機器本体2の下方縮径外周面2bにおいては、少なくとも、当該下方縮径外周面2bに形成され径方向外方側に突出する突出部50が机の上面と点接触することとなる(図4参照)。なお、図4(b)では、理解を容易にするため、ハンドル部8を仮想線で示している。
【0038】
この場合、突出部50は、機器本体2の前後方向視で、ハンドル部8の左右方向の幅(2D)内で、且つ、当該幅の中心線L4に対して左右方向の何れか一方側に距離Pだけ偏倚した位置に配設され、しかも、突出部50の突出高さが、ハンドル部8の側面視で、ハンドル部8の外側表面8aと機器本体2の下方縮径外周面2bとを結ぶ仮想直線L1よりも機器本体2の径方向外方側に突出する突出高さに設定されているため、ハンドル部8の外側表面8aと机の上面とがほぼ線接触する場合でも、必然的に突出部50も机の上面に点接触する。加えて、この点接触箇所は、機器本体2の前後方向視で、機器本体2の軸芯X及びハンドル部8の幅の中心線L4よりも偏倚し、機器本体2の重心からも偏倚した位置となり、机の上面からの抗力を突出部50を介して機器本体2に作用させることとなるため、有底円筒状の機器本体2の軸芯X回りの回転モーメントを作用させることとなる。従って、機器本体2は、図4(b)の矢印で示す回転方向に回転することとなり、傾斜正立状態で静止することなく正立状態から転倒状態に確実に移行することとなり、転倒状態では転倒止水弁Qにより蒸気口18を介して外部に湯水Wが排出されるのを確実に防止することが可能となる。
【0039】
また、実施例に係る突出部50を備えた電気ケトルでは、ハンドル部8の側面視で、ハンドル部8の外側表面8aと機器本体2の下方縮径外周面2bとを結ぶ仮想直線L1が通過する箇所の一つである当該下方縮径外周面2bに、突出部50を設けることができるので、当該突出部50の突出高さを比較的低くすることができ、当該突出部50を備えた機器本体2を容易且つ低コストで製造することができる。さらに、下方縮径外周面2bに形成された突出部50の先端が、ハンドル部8の側面視で、機器本体2の底面から延出される仮想延長線L2、及び、当該仮想延長線L2に直交する機器本体2の外周面端部を通る仮想延長線L3よりも、機器本体2の下方縮径外周面2b側に位置するので、比較的目立たないように突出部50を設けることができ美観を損なうことがなく、また、当該突出部50が電気ケトルを使用する際の邪魔になることもない。
【0040】
よって、電気ケトルを誤って転倒させた場合でも、電気ケトルを正立状態から転倒状態へ確実に移行させ、電気ケトルが傾斜正立状態となって湯水Wが蒸気口18を介して外部に排出されるのを確実に防止できる電気ケトルを、美観を損ねず、且つ、使い勝手を阻害せず、しかも、製造コストの増加をできるだけ抑制しながら、提供することができた。
【0041】
〔別実施形態〕
(A)上記実施形態では、突出部50を、機器本体2の下方縮径外周面2bに配設したが、機器本体2が上記傾斜正立状態で静止することを防止できる構成であれば、その他の位置に配設することもできる。例えば、図7に示すように、機器本体2の円筒部分11Aと底部分11Bとにわたってカバー部材60を配設し、当該カバー部材60に突出部50を設け、突出部50の突出高さをハンドル部8の外側表面8aとカバー部材60の外周面とを結ぶ仮想直線L1よりも機器本体2の径方向外方側に突出する突出高さに設定することもできる。
同様に、突出部50を、機器本体2の筒状部分11Aの下方外周部に設けてもよい。また、突出部50を、下方縮径外周面2bを省略して、機器本体2の筒状部分11Aの下方外周部に設けてもよい。さらに、突出部50の突出高さを、ハンドル部8の側面視で、仮想延長線L2、及び、仮想延長線L3よりも、機器本体2の径方向外方側に突出部50の先端が位置するように設定してもよい。
【0042】
(B)上記実施形態では、突出部50を、機器本体2の後面視で、ハンドル部8の中心線L4から左側に距離Pだけ偏倚させたが、中心線L4よりも左右方向の何れか一方に偏倚していれば、右側でも左側でもどちらに偏倚していても良く、また、その偏倚距離も中心線L4から左右方向への距離D以下であればよい。
【0043】
(C)上記実施形態では、手注ぎ式機器の一例として、電源供給用の電源プレート1と機器本体2とが別体に構成された電気ケトルを示したが、電源供給用の電源プレート1と機器本体2とが一体化された、いわゆる電気ポットなどの各種の湯沸し器にも適用可能であり、更に、内容器3を備えていない湯沸し器にも適用可能である。
【0044】
(D)上記実施形態では、基盤9をハンドル部8内の空間に設けたが、その他の場所、例えば、機器本体2内の底部等に配設する構成としてもよい。
【0045】
(E)上記実施形態では、ハンドル部8のハンドル基部8Bの上方と下方を共に機器本体2の側方に固着連設したが、これに限らず、ハンドル基部8Bの上方のみ機器本体2の上方に固着連設し、下方を固着連設せずに機器本体2の側方から径方向外方側に離間配置する構成としてもよい。
【0046】
(F)上記実施形態では、上面視で、軸芯Xを中心とする略真円の有底円筒状の機器本体2について説明したが、有底円筒状の機器本体2としては、上面視で、楕円形状等の機器本体2とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上説明したように、手注ぎ式機器を誤って転倒させた場合でも、手注ぎ式機器を正立状態から転倒状態へ確実に移行させ、手注ぎ式機器が傾斜正立状態となって湯水が蒸気口を介して外部に排出されるのを確実に防止できる手注ぎ式機器を提供することができる。
【符号の説明】
【0048】
2 機器本体
2a 外周面
2b 下方縮径外周面(下方外周面)
2A 上部開口
5 蓋体
8 ハンドル部
8a 外側表面
9 基板
18 蒸気口
50 突出部
A 蒸気排出機構
D 中心線からハンドル部の外側表面の端部までの距離
P 中心線から突出部において最も突出した箇所との距離
S 蒸気
W 湯水
Q 転倒止水弁
X 機器本体の軸芯
L1 ハンドル部の側面視における、ハンドル部の後部側表面と機器本体の下方外周面とを結ぶ仮想直線
L2 ハンドル部の側面視における、機器本体の底面から延出される仮想延長線
L3 ハンドル部の側面視における、機器本体の外周面端部を通る仮想延長線
L4 機器本体の前後方向視における、ハンドル部の左右方向の幅の中心線
L5 機器本体の前後方向視における、ハンドル部の左右方向の幅を示す仮想線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に湯水を収容する有底円筒状の機器本体と、前記機器本体の上部開口を開閉自在な蓋体と、前記蓋体の上部に配設された蒸気口を介して前記機器本体内の蒸気を外部に排出する蒸気排出機構と、前記機器本体の後部側の外周面において上方から下方へ向けて延設された把持用のハンドル部とを備え、前記機器本体の転倒時に、前記蒸気口を介して前記機器本体内の湯水が外部へ流出するのを防止する転倒止水弁を前記蓋体内に備えた手注ぎ式機器であって、
前記ハンドル部が、当該ハンドル部の外側に略平面状の外側表面を備え、
前記ハンドル部の下方側における前記機器本体の後部側の下方外周面には、前記機器本体の径方向外方側に突出する突出部が形成され、
前記突出部が、前記機器本体の前後方向視で、前記ハンドル部の左右方向の幅内で、且つ、当該幅の中心線に対して左右方向の何れか一方側に偏倚した位置に配設され、
前記突出部の突出高さが、前記ハンドル部の側面視で、前記ハンドル部の外側表面と前記機器本体の下方外周面とを結ぶ仮想直線よりも前記機器本体の径方向外方側に突出する突出高さに設定されている手注ぎ式機器。
【請求項2】
前記機器本体の下方外周面が下方に行くに連れて縮径する下方縮径外周面を備え、前記突出部が前記下方縮径外周面に配設されている請求項1に記載の手注ぎ式機器。
【請求項3】
前記下方縮径外周面に配設された前記突出部の突出高さが、前記ハンドル部の側面視で、前記機器本体の底面から延出される仮想延長線、及び、当該仮想延長線に直交する前記機器本体の外周面端部を通る仮想延長線よりも、前記機器本体の下方縮径外周面側に位置する突出高さに設定されている請求項2に記載の手注ぎ式機器。
【請求項4】
前記ハンドル部内には、前記機器本体内の湯水を加熱する加熱手段を制御する制御用の平板状の基板が、前記ハンドル部の外側表面と対向して並行に配設されている請求項2又は3に記載の手注ぎ式機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−63218(P2013−63218A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204695(P2011−204695)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000002473)象印マホービン株式会社 (440)
【Fターム(参考)】