説明

手術器具用マット

【課題】滅菌処理を確実に行うことができるとともに、品質を良好に保つことができ、且つ手術器具を落下困難に保持可能とする手術器具用マットを得る。
【解決手段】シリコン8を基布7に一体的に形成配置したシリコンシート2を、布製のマット本体1に縫着するとともに、このマット本体1に、上記シリコンシート2を縫着していない折り返し片4を設け、この折り返し片4をシリコンシート2側に折り返し、更に同一方向に順次折り畳むことにより、シリコンシート2と布製のマット本体1とを交互に重畳可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者を被覆したサージカルドレープ上に載置し、手術器具を保持するための手術器具用マットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、手術時に医師等の手術従事者が、患者を被覆しているサージカルドレープ上に手術器具を一時的に載置する場合がある。しかしながら、患者を被覆しているサージカルドレープ上は曲面で凹凸があるとともに、素材によっては表面が滑りやすいものとなるため、表面に載置した手術器具が床面に落下する事態が生じやすく、円滑な手術の妨げとなっていた。
【0003】
そこで、上記の如き手術器具の落下を防止することを目的として、非特許文献1に示す如きシリコン製マットが使用されている。このシリコン製マットはシリコン樹脂を平板状に成形したものであって、患者を被覆しているサージカルドレープ上に載置して使用するものである。そして、このシリコン製マットの表面に手術器具を、シリコン樹脂特有の粘着性により脱落困難に安定的に載置可能としている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「’09−’10ムラナカ総合カタログ 手術室・中材」、村中医療器株式会社、2009年、P210
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の如きシリコン製マットは、表面どうしが自身の粘着力により密着しやすいものである。そのため、シリコン製マットを折り畳んでオートクレーブ内に積載し、高圧蒸気滅菌した際には表面どうしが密着しやすいものとなり、密着部分に蒸気が十分に行き渡らず滅菌処理を確実に行うことが困難となっていた。
【0006】
そこで、上記の如き表面どうしの密着を防ぐためにシリコン製マットの表面に布を配置し、この布を介してシリコンシートの表面全体に蒸気を行き渡らせる方法も知られているが、別途布を用意しなければならないとともに、シリコン製マットの表面全体に布を確実に被覆しなければならないことから、作業に手間と時間がかかるものとなっていた。
【0007】
また、シリコン製マットを布に縫着して使用することも考えられるが、シリコン製マットを直接布に縫着した場合には、シリコン製マットが縫い穴の部分から裂けたり破れたりして布から剥離しやすくなり、品質の点で問題が生じる懸念がある。
【0008】
そこで、本発明は上述の如き課題を解決しようとするものであって、高圧蒸気滅菌処理を確実に行うことができるとともに、品質を良好に保つことができ、且つ手術器具を落下困難に保持可能とする手術器具用マットを得ようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上述の如き課題を解決するため、シリコンを基布に一体的に形成配置したシリコンシートを、布製のマット本体に縫着している。このように、シリコンを基布に一体的に形成配置したシリコンシートを用いることにより、マット本体にシリコンシートを縫着しても、シリコンシートが縫い穴から裂けたり破れたりすることなく、シリコンシートをマット本体に確実に固定配置することができ、品質を良好に保つことが可能となる。また、シリコンシートの表面に手術器具を載置した場合に、シリコンシート表面の粘着力によって手術器具を落下困難に保持することができる。
【0010】
そして、マット本体には、上記シリコンシートを縫着していない部分を形成し、この部分を折り返し片としている。このようにシリコンシートを縫着していない折り返し片を設け、この折り返し片をシリコンシート側に折り返して同一方向に順次折り畳むことにより、シリコンシートと布製のマット本体とが交互に重畳されるものとなる。そのため、このように折り畳んで高圧蒸気滅菌を行うことにより、シリコンシートの表面どうしが密着することなく布製のマット本体を介して蒸気をシリコンシートの表面に満遍なく行き渡らせることができ、滅菌処理を容易且つ確実なものとすることができる。
【0011】
また、マット本体は、シリコンシートを縫着した状態で、外周を布製のバイアステープで縁取ったものであっても良い。このように外周を布製のバイアステープで縁取ることにより、マット本体を折り畳んだ際に、交互に重畳したマット本体とシリコンシートとの間に、上記バイアステープの厚みによってバイアステープを設けない場合よりも更に大きな隙間を形成することができる。
【0012】
そのため、高圧蒸気滅菌の際にバイアステープを介してマット本体とシリコンシートとの隙間にバイアステープを設けない場合と比較して更に蒸気が入りやすいものとなり、滅菌処理を更に効果的に行うことができる。また、マット本体をバイアステープで縁取ることにより、布製のマット本体の切れ端から糸くずなどが出ることを防止することができるため、手術時の清潔を保つことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は上述の如くシリコンシートを縫着していない折り返し片をマット本体に形成配置したものであるから、折り返し片をシリコンシート側に折り返し更に同一方向に順次折り畳むことにより、シリコンシートと布製のマット本体とを交互に重畳することができる。そのため、高圧蒸気滅菌の際にシリコンシートの表面どうしが密着することなく、布製のマット本体を介して蒸気をシリコンシートの表面に満遍なく行き渡らせることができるため、滅菌処理を容易且つ確実なものとすることが可能となる。
【0014】
また、シリコンシートはシリコンを基布に一体的に形成配置したものであるから、このシリコンシートをマット本体に縫着した場合でもシリコンシートが縫い穴から裂けたり破れたりすることなく、シリコンシートをマット本体に確実に固定することができ、品質を良好に保つことが可能となる。また、シリコンシートの表面に手術器具を載置した場合には、シリコンシートの表面の粘着力によって手術器具を落下困難に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例1を示す平面図。
【図2】実施例1の折り返し片を折り返した状態を示す平面図。
【図3】実施例1の手術器具用マットを折り畳んだ状態を示す斜視図。
【図4】図3のA-A線断面図。
【図5】実施例1のシリコンシートの拡大断面写真。
【実施例1】
【0016】
本発明の実施例1を図1〜5において説明すると、(1)はマット本体であって、このマット本体(1)にシリコンシート(2)を縫着するとともに、外周にはバイアステープ(3)を縫着している。本実施例について以下に説明すると、上記マット本体(1)は略長方形状であって、ポリエステル繊維製であるため燃えにくいものである。
【0017】
そして、このマット本体(1)には、図1に示す如く、マット本体(1)と同一幅でマット本体(1)よりも形成長さの短い略長方形のシリコンシート(2)を縫い付けている。このシリコンシート(2)は、基布(7)にシリコン(8)を含浸させてシリコン含浸体(10)を形成した後、このシリコン含浸体(10)の表面にシリコン(8)を塗布することにより、図5に示す如くシリコン(8)を基布(7)に一体的に形成配置したものである。
【0018】
このようにしてシリコンシート(2)を形成することにより、シリシリコンシート(2)をマット本体(1)に縫い付けた際にシリコンシート(2)が縫い穴から破れたり裂けたりすることなく、シリコンシート(2)を確実にマット本体(1)に固定配置することが可能となり、品質を良好に保つことができる。
【0019】
また、シリコンシート(2)は、シリコンを塗布した面を表面に配置してマット本体(1)に縫い付けており、このシリコンシート(2)上に手術器具を載置した場合には、シリコンシート(2)の表面の粘着性により、手術器具を安定してシリコンシート(2)上に保持することができる。そのため、シリコンシート(2)上の手術器具が床面に落下する危険性が少なくなり、手術を円滑に行うことができる。
【0020】
また、上記シリコンシート(2)を縫着したマット本体(1)において、図1に示す如く、シリコンシート(2)を縫着していないマット本体(1)の一側部分を一定幅の折り返し片(4)としている。
【0021】
そして、上記の如く形成した手術器具用マット(5)を高圧蒸気滅菌処理する際には、図2に示す如く折り返し片(4)をシリコンシート(2)側に折り返し、更に図3に示す如く全体をロール状に折り畳むことにより、図4に示す如くマット本体(1)とシリコンシート(2)とが交互に重畳するものとなる。
【0022】
また、図1に示す如く、上記の如くシリコンシート(2)を縫着したマット本体(1)の外周にはバイアステープ(3)を縁取っている。このようにマット本体(1)の外周にバイアステープ(3)を縁取ることにより、マット本体(1)の切れ端から糸くずなどが出ることを防止することができるため、手術時の清潔を保つことができる。そして手術時には、患者に被覆したサージカルドレープ上に上記の如く形成した手術器具用マット(5)を載置するとともに、この手術器具用マット(5)の折り返し片(4)を布鉗子等によりサージカルドレープ上に固定配置することができる。
【0023】
上記の如く構成した手術器具用シートの滅菌方法について以下に説明する。まず、図2に示す如く、折り返し片(4)をシリコンシート(2)の表面側に折り返すとともに、図3に示す如く更に全体を略同一幅でロール状に折り畳む。そして、このようにロール状に折り畳んだ手術器具用マット(5)を、オートクレーブ内に積載して高圧蒸気滅菌処理を行う。
【0024】
上記の如く本実施例の手術器具用マット(5)をロール状に折り畳むことにより、図4に示す如くシリコンシート(2)とマット本体(1)とが交互に配置されるものとなる。そのため、高圧蒸気滅菌を行った際にシリコンシート(2)の表面どうしが密着することなく、布製のマット本体(1)を介してシリコンシート(2)の表面全体に蒸気を満遍なく接触させることが可能となる。
【0025】
従って、手術器具用マット(5)の滅菌処理を容易且つ確実なものとすることができる。また、上記の如く手術器具用マット(5)をロール状に折り畳むことによりコンパクトな形状とすることができるため、オートクレーブ内により多くの手術器具用マット(5)を積載することが可能となり、滅菌処理を効率的に行うことができる。
【0026】
また、マット本体(1)の外周を布製のバイアステープ(3)で縁取っているため、手術器具用マット(5)を折り畳むことにより交互に重畳したマット本体(1)とシリコンシート(2)との間に、図4に示す如く上記バイアステープ(3)の厚みによって隙間(6)を形成することができる。そのため、高圧蒸気滅菌の際にバイアステープ(3)を介してマット本体(1)とシリコンシート(2)との隙間(6)に蒸気が入りやすいものとなり、滅菌処理を更に効果的に行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0027】
1 マット本体
2 シリコンシート
3 バイアステープ
4 折り返し片
6 隙間
7 基布
8 シリコン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンを基布に一体的に形成配置したシリコンシートを、布製のマット本体に縫着するとともに、このマット本体に、上記シリコンシートを縫着していない部分を形成して折り返し片とし、この折り返し片をシリコンシート側に折り返し、更に同一方向に順次折り畳むことにより、シリコンシートと布製のマット本体とを交互に重畳可能としたことを特徴とする手術器具用マット。
【請求項2】
マット本体は、シリコンシートを縫着した状態で、外周を布製のバイアステープで縁取ることにより、マット本体を折り畳んだ際に、交互に重畳したマット本体とシリコンシートとの間に、上記バイアステープの厚みによって隙間を形成可能としたことを特徴とする請求項1の手術器具用マット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−139263(P2012−139263A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292208(P2010−292208)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(594158460)ナガイレーベン株式会社 (10)