説明

手術支援装置

【課題】低コストかつ簡易な構成で、手術中における手術器具の傾斜角度を、術前計画に基づく傾斜角度に一致させうる手術支援装置を実現する。
【解決手段】手術支援装置1は、手術器具2の加速度を計測する加速度センサ3と、前記加速度センサ3の出力信号から前記手術器具2の現在の傾斜角度を算出する演算手段4と、術前計画情報を入力するための入力手段5と、前記演算手段4により算出された前記手術器具2の現在の傾斜角度と、前記入力手段5により入力された術前計画情報に基づく傾斜角度とを、それぞれ同時に表示する表示手段6とから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脊椎外科手術や人工股関節手術などの整形外科手術を支援するために使用する手術支援装置に関する。具体的には、本発明の手術支援装置は、手術中における手術器具の傾斜角度を、術前計画に基づく傾斜角度に一致させるために利用する。
【背景技術】
【0002】
従来から、変形性股関節症や大腿骨頭壊死症、関節リウマチなどに対する治療として、人工股関節手術が行われている。この人工股関節手術は、損傷した股関節部分を、人工股関節に置き換える手術であり、一般的には以下のような手順で行われている。
【0003】
まず、股関節の骨が露出するまで、太ももの皮膚、筋肉、その他の組織を切開する。そして、大腿骨頭を寛骨臼から外し、骨ノミなどの手術器具を用いて、損傷した軟骨や骨の表面を削ると共に、寛骨臼の表面を、挿入する人工股関節に合わせて整形し、当該部分に寛骨臼の代わりとなる金属製のカップを嵌め込む。次いで、大腿骨の骨頭を切り取り、髄腔を整形した後、金属製のステムをこの髄腔内に挿入し固定する。そして、大腿骨の骨頭の代わりとなる金属製のステムを、高分子ポリエチレン製などのインサートを介して、金属製のカップに嵌め込む。そして最後に、切開した部分を縫合し、手術創を閉じる。
【0004】
このような手順で行われる人工股関節手術においては、骨の削り角度や人工股関節の設置角度などを術前計画に基づく角度にできるだけ近づけることが、被検者の術後のスムーズな歩行を可能とする面から、特に重要になる。ところが、従来の人工股関節手術においては、骨の削り角度や人工股関節の設置角度などは、術者(執刀医)の経験や勘を頼りに決定される場合が多かった。このため、術者のリスクが大きいだけでなく、術者間で手術精度にばらつきが生じるといった問題を招いていた。
【0005】
このような事情に鑑み、近年になって、例えば、特許文献1、2および非特許文献1、2などに記載されているような手術ナビゲーションシステムの開発が進み、実際に一部で実施され始めている。このうちの非特許文献1に記載された手術ナビゲーションシステムは、術前もしくは術中に撮影したCTやMRIなどの画像上に、術前計画に基づく手術器具の位置や傾斜角度などを表示すると共に、3次元光学カメラを用いて追跡された手術中における手術器具の位置や傾斜角度などを、前記画像上に重ねて表示する。これにより、手術器具を術前計画に従って誘導することができる。このような手術ナビゲーションシステムによれば、術者のリスクを低減できると共に、術者間での手術精度のばらつきも解消できる。ただし、このような手術ナビゲーションシステムを実施するためには、3次元光学カメラなどの高価かつ大掛かりな装置が必要になるため、導入に際しては医療機関への負担が大きく、導入が広がらない原因の一つになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2006−509609号公報
【特許文献2】特開2008−188400号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「画像支援ナビゲーションシステムによる手術リスクの軽減 〜耳鼻咽喉科領域を中心に〜」 医療安全推進者ネットワーク Medsafe.net ホームページ[平成21年7月29日検索]、インターネット、<URL:http://www.medsafe.net/contents/special/62gazounavi.html>
【非特許文献2】「整形外科手術支援システム 寛骨臼回転骨切り術」MEDICAL IMAGING TECHNOLOGY Vol.15 No2 March 1997 p87〜94
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述のような事情に鑑み、低コストかつ簡易な構成で、手術中における手術器具の傾斜角度を、術前計画に基づく傾斜角度に一致させることができる、手術支援装置を実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の手術支援装置は、加速度センサ(Gセンサ)と、演算手段と、入力手段と、表示手段とを備える。
【0010】
このうちの加速度センサは、手術器具の一部に支持固定されて、この手術器具の加速度を計測する。前記演算手段は、前記加速度センサの出力信号に基づき、前記手術器具の現在の傾斜角度を算出する。また、前記入力手段は、術前計画情報を入力するために用いる。そして、前記表示手段は、前記演算手段により算出された現在の傾斜角度と、前記入力手段により入力された術前計画情報に基づく傾斜角度とを、それぞれ表示する。
【0011】
好ましくは、前記演算手段により、手術器具の現在の傾斜角度と術前計画情報に基づく傾斜角度とを、それぞれ数値として表示手段に表示させると共に、これら各傾斜角度から例えば3次元のグラフィックデータを生成し、このグラフィックデータに基づいた画像を表示手段に表示させる。
【0012】
さらに好ましくは、前記演算手段により、手術器具の現在の傾斜角度と術前計画情報に基づく傾斜角度とを比較し、これら両傾斜角度同士の間に予め設定した閾値以上の差がある場合に、このような差があることを視覚的に表示手段に表示させる。
【発明の効果】
【0013】
上述のような構成を有する本発明の手術支援装置によれば、低コストかつ簡易な構成で、手術中における手術器具の傾斜角度を、術前計画に基づく傾斜角度に容易に一致させることができる。
【0014】
すなわち、本発明の手術支援装置は、加速度センサから求められる手術器具の現在の傾斜角度と、術前計画情報に基づく手術器具の傾斜角度とを、表示手段により同時に表示できるため、術者はこの表示手段の表示を確認しながら手術を進めることができる。このため、本発明によれば、手術中における手術器具の傾斜角度を、術前計画に基づく傾斜角度に容易に一致させることができる。
【0015】
特に、本発明の場合には、手術器具の現在の傾斜角度を求めるために、前述した手術ナビゲーションシステムに利用される3次元光学式カメラなどと比べて安価な加速度センサを利用するため、手術支援装置全体としてのコストを十分に低く抑えられる。また、構成が簡易であるため、装置が大型化することもない。
【0016】
したがって、このような本発明の手術支援装置によれば、低コストかつ簡易な構成でありながら、前述した手術ナビゲーションシステムを利用した場合と同様に、術者のリスクを低減できると共に、術者間での手術精度にばらつきが生じることを防止できる。
【0017】
なお、本発明の手術支援装置は、以上に述べたように、低コストかつ簡易な構成であるため、臨床前のトレーニング装置としても好ましく利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態の1例を示す、手術支援装置の模式図である。
【図2】同じくブロック図である。
【図3】表示手段により表示された術前計画情報(傾斜角度)の入力画面を示す図である。
【図4】同じく傾斜角度以外の術前計画情報の入力画面を示す図である。
【図5】同じく術中画面示す図である。
【図6】同じく術後画面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1〜5は、本発明の実施の形態の1例を示している。図1および図2に示すように、本例の手術支援装置1は、骨ノミなどの手術器具2に支持固定されて、この手術器具2の加速度を計測する加速度センサ3と、この加速度センサ3の出力信号に基づいて前記手術器具2の現在の傾斜角度を算出する演算手段4と、術前計画情報を入力するための入力手段5と、前記演算手段4により算出された現在の傾斜角度と前記入力手段5により入力された術前計画情報に基づく傾斜角度とをそれぞれ表示する表示手段6とを備える。なお、本例の場合には、演算手段4、入力手段5、表示手段6は、パソコン(Personal Computer)7として構成されており、このうちの演算手段4は、ソフトウェアの実行に基づいて各種演算処理を行う。また、本例の場合には、前記加速度センサ3と前記パソコン7(演算手段4)とを接続するケーブル間にコントローラ8(図2には省略)を設けている。
【0020】
前記加速度センサ3は、予めガス減菌した状態で、前記手術器具2の一部に、図示しない取付治具を用いて支持固定されている。具体的には、前記加速度センサ3は、2軸の加速度を計測可能なもので、手術台に載置された被検体の頭尾方向軸および左右方向軸の加速度(重力加速度)をそれぞれ計測可能な状態で前記手術器具2に取り付けられている。この様な加速度センサ3の零点設定(キャリブレーション)は、手術台のレールなどを基準として、手術直前に行う。また、本例の場合には、このような零点設定を、前記加速度センサ3に接続された前記パソコン7を利用して行う。このような加速度センサ3としては、ピエゾ抵抗型などの一般的に市販されている各種加速度センサを利用することができる。たとえば、エス・ティー・マイクロエレクトロニクス社(STMicroelectronics NV)製の2軸(あるいは3軸)加速度センサ、有限会社浅草ギ研社製の2軸(あるいは3軸)加速度センサ、沖電気工業株式会社製の3軸加速度センサ(「ML8950」)などを利用できる。
【0021】
前記演算手段4は、前記加速度センサ3の出力信号に基づいて、前記手術器具2の現在(リアルタイム)の傾斜角度を算出するもので、具体的には、前記加速度センサ3が計測した被検体の頭尾方向軸および左右方向軸の加速度を表す出力信号から、アークサイン関数などを用いて、これら両軸の傾斜角度を算出する。
【0022】
また、前記演算手段4は、このようにして算出した両軸の傾斜角度から、前記手術器具2の矢状面(被検体を左右に切断する面と平行な面)に対する傾斜角度(a1)、および、水平面に対する傾斜角度(a2)をそれぞれ算出する。そして、算出されたこれら両傾斜角度(a1、a2)と、前記入力手段5により予め入力した術前計画情報に基づく、矢状面に対する傾斜角度(b1)および水平面に対する傾斜角度(b2)とを、それぞれ数値として前記表示手段6に表示させると共に、上記各傾斜角度(a1およびa2、並びに、b1およびb2)から、それぞれグラフィックデータを生成し、このグラフィックデータに基づいた画像を、前記表示手段6に表示させる。
【0023】
さらに、前記演算手段4は、前記手術器具2の現在の傾斜角度(a1、a2)と、術前計画情報に基づく傾斜角度(b1、b2)とを比較し、これら傾斜角度(a1とb1、a2とb2)同士の間に、予め設定した閾値以上の差がある場合に、このような差があることを視覚的に前記表示手段6に表示させる。このような各種演算処理を行う演算手段4としては、前記パソコン7を構成するCPUが相当する。
【0024】
前記入力手段5は、術前計画情報を入力するために用いる。すなわち、本例の手術支援装置1を使用して手術を行う場合にも、従来と同様に、手術を行う以前に術前計画を立てる。この術前計画の立案には、CTやMRIなどの画像データを3Dソフトで解析処理したものを利用し、手術内容や手術部位(位置)に応じた手術器具の傾斜角度、すなわち、矢状面に対する傾斜角度(b1)および水平面に対する傾斜角度(b2)を決定する。そして、このようにして決定した術前計画情報を、前記入力手段5を利用して、予め前記パソコン7に入力し、必要に応じて記憶手段に記憶しておく。このような術前計画情報には、上述した手術器具2の傾斜角度(b1、b2)の他に、患者名、担当医名、疾患名などの各種情報が含まれる。また、このような術前計画情報の入力作業は、図3および図4に示すように、前記表示手段6に表示された入力画面を利用して行う。このような入力手段5としては、キーボード、マウスの他、バーコードリーダやカメラなどの各種入力装置が相当する。
【0025】
前記表示手段6は、前記演算手段4の指令に基づき、この演算手段4が算出した前記手術器具2の現在の傾斜角度(a1、a2)と、前記入力手段5により入力された術前計画情報に基づく傾斜角度(b1、b2)とを、それぞれ数値として表示すると共に、これら傾斜角度(a1およびa2、並びに、b1およびb2)から生成されたグラフィックデータに基づく画像を表示する。具体的には、図5に示すように、上記各傾斜角度(a1、a2、b1、b2)を、それぞれ対比しやすいように表中に表示すると共に、術者が直感的に傾斜角度を理解できるように3次元の画像(直方体状の図形)として表示する。この図形は、その全長で水平面に対する傾斜角度を表現すると共に、図形自身の傾斜角度で、矢状面に対する傾斜角度を表現している。また、前記表示手段6は、前記傾斜角度(a1とb1、a2とb2)同士の間に、予め設定した閾値以上の差があると前記演算手段4が判定した場合に、このような差があることを視覚的に表示する。具体的には、両傾斜角度同士の間に±5度以上の差がある場合には、現在の傾斜角度を示す数値の色および図形の色を青色に変化させ、±3度以内の差がある場合には、これらの色を赤色に変化させる。また、必要に応じて、このような傾斜角度に差が生じていることを、例えばスピーカなどの音声手段を利用して、術者に聴覚的に知らせることもできる。また、前記表示手段6は、図6に示すように、手術が終了した後に、患者名、疾患名などの情報と、手術器具2の術前計画に基づく傾斜角度(b1、b2)および実際に手術を行った際の手術器具2の傾斜角度(手術記録)とを合わせて表示する。このような表示手段6としては、モニタが相当する。
【0026】
また、前記コントローラ8は、前記加速度センサ3の出力信号に対して、ノイズ除去、信号増幅、A/D変換などの補正処理を行い、この加速度センサ3の出力信号を前記演算手段4が演算処理しやすいものに変換する。したがって、この加速度センサ3の出力信号をこの演算手段4がそのまま利用できるのであれば、前記コントローラ8は省略してもよい。
【0027】
以上のような構成を有する本例の手術支援装置1によれば、低コストかつ簡易な構成で、手術中における手術器具2の傾斜角度を、術前計画に基づく傾斜角度に容易に一致させることができる。
【0028】
すなわち、本例の手術支援装置1を使用すれば、前記加速度センサ3から求められる前記手術器具2の現在の傾斜角度(a1、a2)と、術前計画情報に基づく傾斜角度(b1、b2)とを、表示手段6により同時に表示させることができるため、術者は、この表示手段6の表示を確認しながら手術を進めることができる。このため、手術中における前記手術器具2の傾斜角度を、術前計画に基づく傾斜角度に容易に一致させることができる。
【0029】
特に、本例の場合には、前記手術器具2の傾斜角度を求めるために、前述した手術ナビゲーションシステムに利用するような3次元光学式カメラなどに比べて安価な加速度センサ3を利用するため、手術支援装置1全体としてのコストを十分に低く抑えられる。また、構成が簡易であるため、装置が大型化することもない。
【0030】
したがって、このような本例の手術支援装置1によれば、低コストかつ簡易な構成でありながら、前述した手術ナビゲーションシステムを利用した場合と同様に、術者のリスクを低減できると共に、術者間での手術精度にばらつきが生じることを防止できる。
【0031】
また、本例の手術支援装置1は、以上に述べたように、低コストかつ簡易な構成であるため、臨床前シミュレーションあるいは研修医の教育用ツールトレーニング装置としても好ましく利用できる。
【0032】
なお、本例の手術支援装置1を使用した場合に、被検体に対する前記手術器具2の位置決めは、従来と同様に、術者の目視あるいはX線を利用して行うことができる。
【0033】
上述した実施の形態では、加速度センサ3と、パソコン7(演算手段4)とを、有線ケーブルにより接続した例を示したが、前記加速度センサ3と前記パソコン7とは、無線により通信させてもよい。このような無線通信を採用すれば、手術中に、前記加速度センサ3と前記パソコン7とを接続するケーブルが邪魔になることがなくなり、手術の効率向上、手術時間の短縮などを図れる。なお、このような無線通信を採用した場合には、他の医療機器に与える無線電波の影響を最小限に抑えるべく、指向性を有する無線を利用することが好ましい。また、本発明は、演算手段4、入力手段5、表示手段6を、パソコン7として構成する構造に限定されるものではない。すなわち、本発明の手術支援装置1は、前記加速度センサ3と前記各手段4〜6とを小型のパッケージとして構成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、整形外科手術を支援するために使用する手術支援装置に関し、低コストかつ簡易な構成で、手術中における手術器具の傾斜角度を、術前計画に基づく傾斜角度に容易に一致させることができ、装置を大型化することなく、手術ナビゲーションシステムを利用した場合と同様に、術者のリスクを低減できると共に、術者間での手術精度にばらつきが生じることを防止できる。さらには、手術教育用ツールとしても有用である。
【符号の説明】
【0035】
1 手術支援装置
2 手術器具
3 加速度センサ
4 演算手段
5 入力手段
6 表示手段
7 パソコン
8 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
手術器具に支持固定されてこの手術器具の加速度を計測する加速度センサと、
該加速度センサの出力信号に基づいて手術器具の現在の傾斜角度を算出する演算手段と、
術前計画情報を入力するための入力手段と、
前記演算手段により算出された現在の傾斜角度と前記入力手段により入力された術前計画情報に基づく傾斜角度とをそれぞれ表示する表示手段と、
を備えることを特徴とする手術支援装置。
【請求項2】
前記演算手段は、前記手術器具の現在の傾斜角度と前記入力手段により入力された術前計画情報に基づく傾斜角度とを、それぞれ数値として前記表示手段に表示させると共に、これら各傾斜角度からグラフィックデータを生成し、このグラフィックデータに基づいた画像を前記表示手段に表示させる、請求項1に記載した手術支援装置。
【請求項3】
前記演算手段は、前記手術器具の現在の傾斜角度と前記入力手段により入力された術前計画情報に基づく傾斜角度とを比較し、これら両傾斜角度同士の間に予め設定した閾値以上の差がある場合に、このような差があることを視覚的に前記表示手段に表示させる、請求項1または2に記載した手術支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−67415(P2011−67415A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221273(P2009−221273)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(509267775)株式会社アスロメディカル (2)