説明

手術用ガーゼ

【課題】X線造影糸として、高濃度でX線造影剤が含有され、繊維表面からの脱落の危険性もなく、又柔軟性にも優れた、X線造影糸を配列した手術用ガーゼを提供すること。
【解決手段】X線造影剤を単糸の芯部に含有するセルロース鞘芯型のマルチフィラメントを、不織布又は綿布からなるガーゼに配列したことを特徴とする手術用ガーゼ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術用カーゼに関するものであり、詳しくは、X線造影剤を含有するセルロース鞘芯型のマルチフィラメントを、不織布又は綿布からなるガーゼに配列してなる手術用ガーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の手術用ガーゼ等に用いられるX線造影糸は、X線造影剤を繊維全体に含有させることは特許文献1に開示されているが、X線造影剤を繊維全体に含有させているため、X線造影剤の含有率の高いX線造影糸は得られなかった。 従って、特定量のX線造影剤の含有を堅持してX線造影性能を高める方策としては、太い繊維を用いる必要があるが、その場合、X線造影糸自体がコスト高となり、さらに、X線造影糸自体の柔軟性が損なわれ、加工性能の低下を招くという問題点があった。又、X線造影剤が繊維表面に多く存在する為、X線造影糸を含有している手術用ガーゼは、その取り扱い時にX線造影剤が繊維表面から脱落し易いという問題も指摘されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−238943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の問題を解決し、X線造影糸として、高濃度でX線造影剤が含有され、繊維表面からの脱落の危険性もなく、又柔軟性にも優れた、X線造影糸を配列した手術用ガーゼを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するにあたり、鋭意検討した結果、X線造影剤を高濃度に、しかも繊維の芯部に含有させた特殊なセルロース鞘芯型繊維を見出し、それをガーゼに配列させることで本発明の完成に至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
(1)X線造影剤を単糸の芯部に含有するセルロース鞘芯型のマルチフィラメントを、不織布又は綿布からなるガーゼに配列したことを特徴とする手術用ガーゼ。
(2)鞘芯型マルチフィラメントが、X線造影剤を10〜70wt%含有することを特徴とする上記(1)に記載の手術用ガーゼ。
(3)鞘芯型マルチフィラメントが、鞘部と芯部の面積割合が1/1〜1/3であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の手術用ガーゼ。
【0006】
(4)前記鞘芯型マルチフィラメントを引き揃えて、複合糸とし、該複合糸の繊度が300〜4000dtexであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の手術用ガーゼ。
(5)鞘芯型マルチフィラメントが、60〜800本のフィラメントから構成されており、単糸繊度が2〜8dtexであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の手術用ガーゼ。
(6)鞘芯型マルチフィラメントの撚数が20〜100T/Mであることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の手術用ガーゼ。
(7)鞘芯型のマルチフィラメントを配列した不織布が、セルロース長繊維不織布であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の手術用ガーゼ。
【発明の効果】
【0007】
本発明のX線造影糸は、X線造影剤を高濃度に、しかも繊維の芯部に限定して含有させた特殊なセルロース鞘芯型繊維であり、それをガーゼ等に配列させることで、細い糸でも充分なX線造影性能を有し、繊維表面からのX線造影剤の脱落がなく、安全性も高く、耐磨耗性、ソフト性に優れる手術用ガーゼを提供できる。また、セルロース鞘芯型繊維が、鞘芯の構成面積で、鞘部の構成を小さくし、芯部の構成を大きくすることで、更に、X線造影性能を高めることが出来る。
さらに、X線造影糸自体が、全体に細い繊維として構成され、しかも、マルチフィラメントから形成されるため、柔軟性に優れ、加工性、取り扱い性も良好であり、手術用ガーゼに配列しても、ガーゼの柔軟性を損なうものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のX線造影糸は、X線造影剤を単糸の芯部に含有するセルロース鞘芯型のマルチフィラメントから形成される。
X線造影剤の含有率が、鞘芯型マルチフィラメント全体の10〜70wt%であることが好ましく、より好ましくは40〜70wt%である。X線造影剤の含有率がこの範囲であると、高濃度のX線造影剤が含有されたX線造影糸を、安定して生産できる。
本発明での鞘芯型繊維とは、芯部が実質的に鞘部で被覆されている構造を有するものであり、同心円状の鞘芯構造がより好ましい態様である。さらに、鞘芯型繊維は、鞘部及び芯部のいずれもが、実質的にセルロース素材からなることが好ましい。
X線造影剤としては、硫酸バリウムが好ましく、本発明の鞘芯型マルチフィラメントは芯部を形成するセルロース中に硫酸バリウムの粒子が含有されているものである。芯部に含有させれば、硫酸バリウムが外部に脱落せず、安全であり、有用である。
【0009】
手術用ガーゼとして、X線造影糸を着色するために、硫酸バリウムとともに青色顔料を添加することも出来る。この場合、顔料の添加量は0.01〜0.1%が好ましい。
鞘部及び芯部が共にセルロース繊維から構成されていると、セルロースの鞘芯型繊維化において、紡糸状態が安定化しやすく、紡糸工程での均一な延伸、凝固が行われ易い。その結果、鞘部と芯部の形態が均一で、しかも芯部を鞘部が実質的に被覆する構造とすることができ、更に紡糸での延伸が比較的容易であり、鞘芯部の構成面積を容易にしかも安定して変更できる。
硫酸バリウムは市販の局方同等品硫酸バリウムを用い、その粒子径は0.01〜10ミクロンが好ましく、より好ましくは0.1〜1ミクロンの範囲である。
【0010】
本発明の、セルロース鞘芯型繊維は、芯部の割合が30〜80wt%であることが好ましく、より好ましくは40〜75wt%の範囲である。
本発明のセルロース鞘芯型繊維は、鞘芯型マルチフィラメントを引き揃えて、複合糸とすることが好ましく、その複合糸の繊度は300〜4000dtexが好ましく、より好ましくは1000〜2000dtexの範囲である。
鞘芯型マルチフィラメントの単糸繊度は、2〜8dtexが好ましく、より好ましくは3〜6dtexである。単糸繊度がこの範囲にあると、セルロース鞘芯型繊維自体が非常に柔らかく柔軟性に優れたX線造影糸となる。
【0011】
また、マルチフィラメント本数は、60〜800本が好ましく、より好ましくは、100〜500本の範囲である。
鞘芯型マルチフィラメントの撚数は、20〜100T/Mが好ましく、より好ましくは40〜80T/Mの範囲である。撚数がこの範囲にあるとガーゼ組織との接合性が向上する。
セルロース素材としては、再生セルロースが好ましく、特に好ましくはキュプラ、ビスコース、リヨセルが挙げられる。
【0012】
以下、本発明の鞘芯型マルチフィラメント繊維の製造方法について、好ましい例として、銅アンモニアセルロース鞘芯型マルチフィラメントでの方法について説明する。
鞘芯型繊維を製造するにあたって、鞘部と芯部の両方の構造を有する複合型の2重式押出紡口を用いることが重要である。
鞘芯型マルチフィラメントを得る場合、マルチ配列された2重紡口を用いることができる。鞘部側として、セルロースのみを銅アンモニア溶媒に溶かしたセルロースドープ(セルロース濃度約10wt%)を用い、芯部側には、セルロースを銅アンモニア溶媒に溶かしたセルロースドープに硫酸バリウム粒子を添加したドープ(セルロース濃度約9wt%)を用い、両者を鞘芯型の2重式押出紡口から吐出させ、紡糸することができる。この様に、芯部のドープを鞘部のドープより、セルロース濃度をやや低めに設定し、低粘度化することで、安定した鞘芯構造のマルチフィラメント繊維が紡糸できる。
紡糸方法は、湿式紡糸法が用いられ、流下緊張紡糸法や、浴中押出紡糸法が挙げられるが、紡糸の安定性、生産性の観点から流下緊張紡糸法が好ましい。
【0013】
本発明において、鞘芯型マルチフィラメントでの鞘部と芯部の面積割合は、1/1〜1/3の範囲が好ましく、より好ましくは、1/1〜1/2の範囲である。芯部の構成を大きくすることで、X線造影剤の造影効果をさらに向上させることが出来、いわゆる、鞘部を薄皮状にすることで、芯部の機能を最大限に発揮させることが出来る。
セルロース鞘芯型マルチフィラメントにおいて、鞘部を薄皮状にする方法として、紡糸工程での曳糸性または延伸性に優れたセルロースドープを用いることが、好適な態様である。特に、鞘部、芯部に、セルロースを銅アンモニア溶媒に溶かした銅アンモニアセルロースドープが、その紡糸工程での曳糸性、延伸性に優れ、鞘部を薄皮状にする方法として適したセルロースドープである。
【0014】
ガーゼ素材としては、セルロース繊維不織布、合成繊維混合不織布が好ましく、特に好ましくはセルロース長繊維不織布である。不織布の目付けとしては、20〜100g/m2 が好ましく、より好ましくは30〜60g/m2 である。本発明において、不織布を多層に積層し、層間に本発明のX線造影糸を配列することが好ましい。この場合、セルロース繊維不織布同士または、セルロース繊維不織布と合成繊維混合不織布との積層が好ましい。
綿ガーゼは、特に限定されるものではなく、市販されているものでよい。ガーゼの目付は20〜100g/m2 が好ましく、より好ましくは30〜50g/m2 である。
【0015】
ガーゼとX線造影糸を複合一体化する方法としては、例えばセルロース繊維不織布を上、下2層構造になるように個別に送り出し、内層にX線造影糸が挟み込まれ、固定する方法が好ましい。固定する方法は、高圧噴射水流やニードルパンチング法等が一般的である。複合不織布の繊維損傷を考えると高圧噴射水流による繊維交絡方法のほうが好ましい。高圧噴射水流には20〜100kg/cm2 の圧力の柱状水流が好ましく、より好ましくは40〜80kg/cm2 の圧力がより好ましい。
【0016】
X線造影糸の配列を図1に示す。X線造影ガーゼ3はセルロースから成る不織布1の中央に沿って、硫酸バリウムを含有しX線を遮断する性能を有するX線造影糸2が挟み込まれている。X線造影ガーゼ3は、不織布1に1本のX線造影糸2を挟み込んだが、複数本のX線造影糸2を挟み込んでもよい。或いは、不織布1に沿って直線状でなくジグザグ状とすることもできる。そして、X線造影糸2は白い不織布に対し、例えば青色に着色されており、視認によっても確認出来るようになっている。
X線造影糸の配列ピッチは、手術用ガーゼの使用目的、大きさによって適宜設定することができるが、ピッチとしては、10〜300mmが好ましい。配列は、ストライプ状、格子状等に適用される。
本発明のガーゼに用いる不織布としては、セルロース繊維不織布が好ましく、より好ま
しくはセルロース長繊維不織布であり、ベンリーゼ(旭化成せんい社製)である。
【実施例】
【0017】
以下、実施例などを挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例などにより何ら限定されるものではない。尚、各特性値の測定法は下記の通りである。
(1)糸抜け強度
20℃、65%RHに温湿度調節された部屋に24時間放置後、引張試験機を用いて、ガーゼからX線造影糸を引き抜く際の抵抗力を測定した。具体的には、引張試験機((株)オリエンテック製、テンシロン万能試験機)のチャックに、はみ出させたX線造影糸条と他端のガーゼ(X線造影糸条をはさまない様に注意した)とをチャック間距離25cmではさみ、引張速度20cm/分で最大荷重(N)を測定した。
【0018】
(2)X線造影性能
X線透視装置を用いて下記の条件でX線写真を撮影、評価した。
・照射電圧:40KV
・照射電流:100mA
・照射時間:10msec
写真の判定は官能検査で行った。
◎:鮮明な白線が確認出来る
○:白線がぼんやりと確認出来る
×:線としては確認出来ない
【0019】
(実施例1)
実施例1のX線造影剤を含有する鞘芯型繊維の製造方法について述べる。
平均粒径0.8μmの硫酸バリウム粉末を、10wt%濃度のセルロースを含有する銅アンモニアセルロース溶液に、硫酸バリウムが68wt%になるように練り込み、芯成分とした。鞘成分と芯成分とが面積比で1:1の比率になるように、ドープの吐出量を調整した。
紡糸工程に用いた複合2重式押出紡口は、孔径が0.5mm、孔数が60であった。銅安人絹の流下緊張紡糸方法により、凝固、延伸、精練、及び乾燥工程を経て鞘芯型繊維を製造した。得られた鞘芯型マルチフィラメントにおいて、X線造影剤の含有率は45wt%であり、繊度は300dtex、フィラメント本数は60本、フィラメント繊度は5dtexであった。
このようにして得られた、鞘芯型繊維6本を、汎用の撚糸機で、スピンドル速度4000rpmにて、撚数50T/Mに合撚し、総繊度1800dtexのセルロース鞘芯型マルチフィラメント複合糸を得た。
【0020】
次に、ベルトコンベア装置のベルト上に、銅アンモニアセルロース長繊維不織布(旭化成せんい社製ベンリーゼ、目付け17g/m2 )、上記X線造影複合糸、銅アンモニアセルロース長繊維不織布(旭化成せんい社製、ベンリーゼ17g/m2 )を、X線造影複合糸を中間に挟むようにして、X線造影複合糸の配列間隔を25cmとして、それぞれの供給装置から供給する。この3層積層物はさらにベルトコンベアの後流側で水流噴射装置からの高圧水流により上下各層の繊維が交絡一体化され、本発明のガーゼが形成される。その際X線造影糸は、ベルトコンベア速度と等速でベルトコンベア上の銅アンモニアセルロース不織布上に送り出され、不織布間に挿入された。得られた3層積層複合シートは、70kg/cm2 の高圧水流で水流交絡させた後、乾燥機を通して目付35g/m2 の複合不織布を得た。この複合不織布について、糸抜け強度、X線造影性能を評価し、その評価結果を表1に示した。
【0021】
(実施例2)
実施例1における硫酸バリウムの含有率を、芯部に対して82wt%となる条件とし、鞘芯型マルチフィラメント全体に対し57wt%になるように練り込んだ以外は、実施例1と同様の条件にして目付35g/m2 の複合不織布を得た。
(実施例3)
実施例1における硫酸バリウムが88wt%になるように練り込んだ以外は実施例1と同様にして目付35g/m2 の複合不織布を得た。
(実施例4)
実施例1おいて、鞘成分と芯成分とが質量比で1:2の比率になるようにドープの吐出量を調整した以外は、実施例1と同じ条件で、実施例1と同様にして目付35g/m2 の複合不織布を得た。
【0022】
(比較例1)
平均粒径0.8μmの硫酸バリウム粉末を、10wt%濃度のセルロースを含有する銅アンモニアセルロース溶液に硫酸バリウムが60wt%になるように練り込み、紡糸ドープとした。このドープを紡口から吐出し、キュプラ法により単層構造のX線造影糸を得ようとしたが、全く延伸することが出来ず繊維は得られなかった。
(比較例2)
平均粒径0.8μmの硫酸バリウム粉末を、10wt%濃度のセルロースを含有する銅アンモニアセルロース溶液に硫酸バリウムが45wt%になるように練り込み、紡糸ドープとした。このドープを紡口から吐出し、キュプラ法により凝固、延伸、精練、乾燥工程を経て、銅アンモニアセルロース繊維を製造した。得られた繊維は単層構造の繊維であった。
【0023】
【表1】

【0024】
該結果より、本発明のX線造影ガーゼは、X線造影糸条を引っ張る際の荷重が大きく、X線造影糸条が抜け出るよりもX線造影糸が破断する程であった。従って、本発明のX線造影ガーゼは、X線造影性能を充分に有し又、X線造影糸条が抜け落ちるおそれも極めて低く、充分な柔らかさもあり、外科手術等に有用であることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】X線造影ガーゼの概略図である。
【符号の説明】
【0026】
1 不織布本体
2 X線造影糸
3 X線造影ガーゼ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線造影剤を単糸の芯部に含有するセルロース鞘芯型のマルチフィラメントを、不織布又は綿布からなるガーゼに配列したことを特徴とする手術用ガーゼ。
【請求項2】
鞘芯型マルチフィラメントが、X線造影剤を10〜70wt%含有することを特徴とする請求項1に記載の手術用ガーゼ。
【請求項3】
鞘芯型マルチフィラメントが、鞘部と芯部の面積割合が1/1〜1/3であることを特徴とする請求項1又は2に記載の手術用ガーゼ。
【請求項4】
鞘芯型マルチフィラメントを引き揃えて、複合糸とし、該複合糸の繊度が300〜4000dtexであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の手術用ガーゼ。
【請求項5】
鞘芯型マルチフィラメントが、60〜800本のフィラメントから構成されており、単糸繊度が2〜8dtexであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の手術用ガーゼ。
【請求項6】
鞘芯型マルチフィラメントの撚数が20〜100T/Mであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の手術用ガーゼ。
【請求項7】
鞘芯型のマルチフィラメントを配列した不織布が、セルロース長繊維不織布であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の手術用ガーゼ。

【図1】
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【公開番号】特開2008−278929(P2008−278929A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123288(P2007−123288)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】