説明

手術用小型パッド

【課題】臓器に損傷を与える虞を低くでき、吸水性及び柔軟性を保持する手術用小型パッドを提供する。
【解決手段】本発明に係る手術用小型パッド10は、不織布が複数枚積層されてなる吸収性パッド部1にX線非透過性糸2及び引出糸4が取り付けられた手術用小型パッド10において、X線非透過性糸2は複数枚の層間又は最外層に沿って配置されると共に、縫い糸3でそのX線非透過性糸2の長さ方向に縫着されることによって複数の不織布が相互に縫合されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば脳外科手術や整形外科手術の際に用いる小型パッドであって、X線造影等により体内での存在を見出すことの可能な、即ち遺残防止に寄与できる手術用小型パッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
外科手術の際には、出血の抑制、液の吸収、擦過傷、乾燥又は汚染からの器官の保護等の目的で多数のガーゼが使用される。これらのガーゼが体内に残ると、例えば痛みや違和感或いは微熱等、様々な身体の不調を招くだけでなく、当該臓器のみならず隣接臓器に悪影響を及ぼすこともあり、ガーゼの遺残部位によっては、消化器系、循環器系、呼吸器系、脳・神経系、骨格系などに対して予測不能の長期的障害を与え、時には感染症を惹起することもある。また、免疫不全の遠因となることもある。このような虞があることから、手術終了に際しては全てのガーゼを体外へ取り出すことが不可欠である。
【0003】
そこで手術においては、ガーゼを構成する経糸の1本を造影糸に代えて織り込んだガーゼが用いられることがあり、手術終盤の手術部位を閉じる前にX線造影(レントゲン撮影)を行って、映し出された造影糸を手がかりにガーゼの残留の有無を確認し、発見したものを取り除くという方法が採用されることが多くなっている。
【0004】
造影糸としては、ポリプロピレン、ポリスチレン系樹脂に硫酸バリウムを練り込んだマルチフィラメント、またはポリ塩化ビニルやシリコン系樹脂に硫酸バリウムを練り込んだ糸状体が用いられている(例えば、特許文献1参照)。これらの樹脂系素材は吸水性に乏しく血液に染まらないことから、ガーゼ本体が血液により染まっていても、例えば青色に染着した造影糸であれば肉眼でも視認し易いという利点がある。肉眼でも発見できないものはX線造影によって検出される。
【0005】
また、例えば特許文献2には、ガーゼの繊維がほつれてX線造影糸が外れることを防ぐためのX線造影糸入りガーゼが記載されている。具体的には、織布又は不織布に、熱可塑性繊維を含むX線造影糸を溶着して固定することにより、X線造影糸の抜け落ちを防止している。
【0006】
さらに、不織布と不織布との間にX線造影糸を挟んでサンドイッチ状態にして、ウォータージェット等の水圧でX線造影糸を挟み込みながら不織布を合着することによって、X線造影糸の抜け落ち防止を図るものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−319966号公報
【特許文献2】特開2005−177034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、不織布等にX線造影糸を溶着固定する方法では、溶着部分が硬いので臓器に損傷を与える虞がある。また、ウォータージェットの水圧でX線造影糸を挟み込む方法ではX線造影糸の抜け落ちを防止するために、相当の水圧を用いてX線造影糸の挟み込みを強固にするため、この水圧により不織布の厚みが著しく薄くなってしまうので、不織布本来の吸水性や柔軟性が低下する。
【0009】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、臓器に損傷を与える虞を低くでき、吸水性及び柔軟性を保持する手術用小型パッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る手術用小型パッドは、
不織布が複数枚積層されてなる吸収性パッド部にX線非透過性糸及び引出糸が取り付けられた手術用小型パッドにおいて、
前記X線非透過性糸は前記複数枚の層間又は最外層に沿って配置されると共に、縫い糸で該X線非透過性糸の長さ方向に縫着されることによって前記複数の不織布が相互に縫合されることを要旨とする。
【0011】
本発明に係る手術用小型パッドにおいては、X線非透過性糸を吸収性パッド部に溶着固定することがないので、X線非透過性糸は柔軟性を保つことができ、手術用小型パッド全体としても柔軟性を保ち得る。したがって臓器に損傷を与える虞を小さくすることができる。
【0012】
また、ウォータージェット等の水圧を与えるわけではないので、この水圧で不織布の厚みが薄くなってしまい、或いは更に吸水性や柔軟性が低減されてしまうこともない。しかも、X線非透過性糸がその長さ方向に縫着されるので、当該縫着領域を除く吸収性パッド部の他の領域は柔軟性及び吸水性を保つことができる。
【0013】
X線非透過性糸は複数枚の不織布の層間又は最外層に沿って配置してもよいが、層間に配置すると、吸収性パッド部の両面がしなやかになり、どちらの面も吸水側に適したものとすることができる。
【0014】
不織布の形状は適宜設定することができ、矩形、正方形、菱形、或いは楕円形や丸形等であってもよい。
【0015】
上記X線非透過性糸としては、細いものを用いるとX線造影において見付け難くなるので太めの糸を用いるのがよい。また、X線非透過性物質としては、硫酸バリウム、硫酸銀、酸化チタン、及びシリコン等が挙げられ、このX線非透過性物質をポリプロピレン、ポリスチレン、又は塩化ビニル等の樹脂に含有させて糸状にするとよい。
【0016】
複数の不織布はニードルパンチにより互いに押し付けられて積層されていることが望ましい。ウォータージェットで圧縮し形成したパッドよりも吸収性パッド部全体の柔軟性と吸水性を高めるとともに、各不織布が剥れる可能性を低くするためである。
【0017】
本発明に係る手術用小型パッドにおいては、X線非透過性糸は縫い糸が当該X線非透過性糸をかがり付けるようにして吸収性パッド部に縫い付けられることが好ましい。このようにすることでX線非透過性糸を吸収性パッド部にしっかりと固定でき、抜け落ちる可能性を低くすることができる。
【0018】
引出糸の一端を吸収性パッド部に縫着又は溶着により固定してもよい。縫着により固定するとパッド全体の柔軟性を保つことができ、溶着により固定した場合でもこの溶着範囲は2mm×6mm程度と小さいので、パッド全体の柔軟性は保たれており、溶着部分が臓器に損傷を与える可能性は充分に低くなっている。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る手術用小型パッドによれば、この手術用小型パッド全体がしなやかであるので、手術の際に組織に損傷を与える可能性を低くできるとともに、手術用小型パッドの吸水性能を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)は本発明の一実施形態に係る手術用小型パッドの一方面(表面)を示す斜視図であり、(b)はその他方面(裏面)を示す斜視図である。
【図2】図1(a)に示すA−A線断面図である。
【図3】引出糸の取り付け方法の他例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る手術用小型パッドについて図面を参照しつつ説明する。本発明は不織布タイプの手術用小型パッドに適用することができる。
【0022】
本発明に係る手術用小型パッド10は、不織布が複数枚積層されてなる吸収性パッド部1にX線非透過性糸2及び引出糸4が取り付けられた手術用小型パッドにおいて、X線非透過性糸2は複数枚の層間又は最外層に沿って配置されると共に、縫い糸3によってその長さ方向に縫着されることによって複数の不織布が相互に縫合されるものである。以下、詳細に説明する。
【0023】
図1(a)に示すように、本実施形態に係る手術用小型パッド10は吸収性パッド部1及びPET(ポリエチレンテレフタレート)系製の引出糸4からなる。なお引出糸4は吸収性パッド部1を体内から体外へ取り出すためのものであり、遺残事故の防止が図られている。
【0024】
吸収性パッド部1の大きさは、例えば幅5mm〜30mm×長さ5mm〜60mmであり、本発明の手術用小型パッド10は脳外科手術や整形外科手術のように細かい部分に対して手術を行う場合に主に用いられる。
【0025】
吸収性パッド部1は、図2に示すように、例えば6枚のレーヨン製の不織布1a,1b,1c,1d,1e,1fが積層されて一体化されたものである。
【0026】
この吸収性パッド部1の不織布1a上にX線非透過性糸2を載せて、縫い糸3によりX線非透過性糸2が吸収性パッド部1に縫い付けられている。このように、不織布の最外層に沿ってX線非透過性糸2を配置してもよいし、複数枚の不織布の層間に配置してもよい。
【0027】
X線非透過性糸2の縫い付け方法としては、縫い糸3がX線非透過性糸2をかがり付けるようにしてジグザグ状となるように縫い付ける飾り縫いを用いてもよい。詳しくは、縫い糸3を上糸としてミシン針(図示しない)に通し、吸収性パッド部1の上面からそのミシン針を突き刺して吸収性パッド部1の下面側にループを形成し、そのループに下糸3aを通しミシン針を吸収性パッド部1から抜く。この動作を繰り返すことによりX線非透過性糸2を吸収性パッド部1に縫着する。
【0028】
図1(b)の下糸3aが見える側を吸水側とすることが好ましい。この下糸3aの面にはX線非透過性糸2が存在しないことから、吸収性パッド部1の吸水性を高く保つことができるとともに、吸収性パッド部1の柔軟性(柔らかさ)も高く保つことができる。
【0029】
本発明では、X線非透過性糸2が縫い糸3によって吸収性パッド部1にしっかりと縫い付けられているので、X線非透過性糸2の抜け落ちが防止される。また、X線非透過性糸2の抜け落ちの可能性をより低減するために、X線非透過性糸2は若干波状となって吸収性パッド部1に縫い付けられることが好ましい。
【0030】
X線非透過性糸2は、硫酸バリウムを練り込んだポリプロピレン製マルチフィラメントを無撚りで引き揃えたものであることが好ましい。無撚りのマルチフィラメントは柔軟性に優れているという点でモノフィラメントや撚糸と比べて好ましい。
【0031】
図1(a),(b)に示すように、引出糸4はその一方端部分がX線非透過性糸2を交互に跨ぐようにしてジグザグ縫いされ(ジグザグ縫い部4a)、吸収性パッド部1に縫い付けられている。
【0032】
このように引出糸4のジグザグ縫い部4aによってもX線非透過性糸2が吸収性パッド部1に押さえ付けられているので、X線非透過性糸2はしっかりと固定されて抜け落ちの可能性がさらに低減されている。したがって、X線造影画像においてパッドの有無を判別でき、遺残事故が起こる可能性を充分に低減することができる。
【0033】
また、X線非透過性糸2は無撚りマルチフィラメントであるから柔軟性に優れており、しかもこのX線非透過性糸2は融着されているわけではないので、手術用小型パッド全体として柔軟性を保っている。
【0034】
したがって、本発明では手術用小型パッド10全体がしなやかであるので、手術の際に組織に損傷を与える可能性を低くできるとともに、手術用小型パッド10の吸水性能を保っている。
【0035】
本発明の好ましい一実施の形態は上記の通りであるが、本発明はそれだけに制限されない。本発明の主旨から逸脱しない範囲で異なる変形、追加、修飾を行うことができる。さらに、本実施形態において本発明の構成による作用および効果を述べているが、これら作用および効果は一例であり本発明を限定するものではない。
【0036】
例えば吸収性パッド部1として不織布を6枚積層して構成したが、積層の枚数は特に限定されるものではなく、例えば2層や3層、或いは5層構造のものであってもよい。
【0037】
また上記実施形態では、引出糸4がX線非透過性糸2を跨ぐように縫い付けたものを示したが、これに限るものではなく、X線非透過性糸2の存在しない吸収性パッド部1の部分に引出糸4が縫い付けられたものであってもよい。
【0038】
また上記実施形態では、引出糸4のジグザグ縫い部4aの進行方向に沿ってX線非透過性糸2が縫着されているものを示したが、これに限るものではなく、図3に示すように、手術用小型パッド部20においてX線非透過性糸2の長さ方向と略直交して引出糸4がその溶着部4bにより溶着されたものであってもよい。この溶着範囲は2mm×6mm程度と小さいので、パッド全体の柔軟性は保たれており、溶着部4bが臓器に損傷を与える可能性は充分に低くなっている。
【符号の説明】
【0039】
1 吸収性パッド部
1a〜1f 不織布
2 X線非透過性糸
3 縫い糸
4 引出糸
4b 溶着部
10,20 手術用小型パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布が複数枚積層されてなる吸収性パッド部にX線非透過性糸及び引出糸が取り付けられた手術用小型パッドにおいて、
前記X線非透過性糸は前記複数枚の層間又は最外層に沿って配置されると共に、縫い糸で該X線非透過性糸の長さ方向に縫着されることによって前記複数の不織布が相互に縫合されることを特徴とする手術用小型パッド。
【請求項2】
前記複数の不織布はニードルパンチにより互いに押し付けられて積層されている請求項1に記載の手術用小型パッド。
【請求項3】
前記X線非透過性糸は、縫い糸が当該X線非透過性糸をかがり付けるようにして前記吸収性パッド部に縫い付けられている請求項1又は2に記載の手術用小型パッド。
【請求項4】
前記引出糸の一端が前記吸収性パッド部に縫着又は溶着されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の手術用小型パッド。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−94257(P2013−94257A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237509(P2011−237509)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(593148804)川本産業株式会社 (22)