説明

手術用穿孔器具

【課題】貫通孔の出口側に大径の太孔を容易に形成することができ、且つ器具の強度確保と入口側の細孔径の縮小化とを両立できる手術用穿孔器具を提供する。
【解決手段】穿孔入口側に細孔61が配置され、穿孔出口側に太孔62が配置される貫通孔60を骨に穿設するための穿孔器具1を、先端10aおよび基端10bを有する筒状のシャフト10と、シャフト10の軸線A10に略直交する回動軸Kをもってシャフト10の先端10aに回動可能に枢支され、細孔穿孔用の刃51および太孔穿孔用の刃52を有する軸状のカッタービット20と、シャフト10の基端10bに連結されるベース部材3とを備えるものとし、ベース部材3を、シャフト10に挿入されてカッタービット20の回動を規制する棒状部30を備えるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膝関節等の内部に靭帯を移植して再建する靭帯再建手術等で骨を穿孔する際に用いる手術用穿孔器具に関する。
【背景技術】
【0002】
大腿骨と脛骨とは前十字靭帯および後十字靭帯などにより結ばれており、両骨が前後左右にずれることなく、関節が安定に保たれている。膝関節へ強度な衝撃が加わると、これら前十字靭帯または後十字靭帯が断裂することがある。このような場合、早期に膝関節を安定させるために移植靭帯を移植する靭帯再建手術が広く行われている。靭帯再建手術は、人工靭帯や患部と異なる部位からとった靭帯を断裂した靭帯部位に移植するものであり、靭帯を骨に定着させるために大腿骨および脛骨に孔を開け、靭帯の端部をこの孔に挿入させている。
【0003】
前十字靭帯および後十字靭帯は大腿骨と脛骨と間の関節腔内に位置しており、その端部を定着させるため孔を関節腔と反対側から開けることができる。ところが、移植靭帯を挿入できる大きさの孔を全長にわたって形成すると、必要以上に骨を切削することになるため、専用の穿孔器具を用いて、関節腔側では移植靭帯を挿入できる大きさを有し、関節腔と反対側ではこれよりも断面が小さな孔を形成することがある。この穿孔器具は、押しながら削孔(以下、押し切りと称する。)して小径の貫通孔を形成した後に、切削刃の径を大きくして引きながら削孔(正確には拡径。以下、引き切りと称する。)して貫通孔の出口側に径の大きな孔を大きくする。
【0004】
このような穿孔器具として、先端に切削刃が形成されたドリルの先端外周面に雄ねじを形成し、貫通孔を削孔した後に大径の切削部材をドリルの先端に螺着させるようにしたもの(特許文献1参照)が知られている。また、細孔穿孔と太孔穿孔とを兼ねたドリルビットを穿孔器具の先端に一体に設けたもの(特許文献2,3参照)も知られている。この穿孔工具は、シャフトの先端に回動可能にドリルビットを設け、シャフトの周りに筒状のロッキングチューブを設けることで、ドリルビットをシャフトの軸線に揃う細孔穿孔用の第1の回動角とシャフトの軸線に揃わない太孔穿孔用の第2の回動角とで固定できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7637910号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開公報第2009/0171359号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開公報第2009/0278950号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のような切削部材がドリルと別体であると、細孔穿孔後に関節腔内で切削部材をドリル先端に装着する作業が難しい。一方、特許文献2,3のようなドリルビットが一体となった穿孔器具は、細孔穿孔後にドリルビットを回動させれば太孔を穿孔することが可能であるが、ドリルビットの回動角を固定するためにロッキングチューブを設ける構造であるため、穿孔器具の強度を確保するためには細孔(ロッキングチューブ)の径が大きくならざるを得なかった。
【0007】
本発明はこのような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、靭帯再建手術に際して、骨に開けた貫通孔の出口側に入口側に比較して大径の太孔を容易に形成することができ、且つ器具の強度確保と入口側の細孔径の縮小化とを両立できる手術用穿孔器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、穿孔入口側に比較的小径の細孔(61)が配置され、穿孔出口側に前記細孔に連続する比較的大径の太孔(62)が配置される貫通孔(60)を骨(71,72)に穿設するための手術用穿孔器具(1)であって、先端(10a)および基端(10b)を有する筒状のシャフト(10)と、前記シャフトの軸線(A10)に略直交する回動軸(K)をもって前記シャフトの先端に回動可能に枢支される軸状の切削部材(20,120,220)と、前記シャフトの基端に連結されるベース部材(3)とを備え、前記切削部材は、その軸線(A20,A120,A220)が前記シャフトの軸線と略一致する第1の回動角にあるときに前記シャフトの先端方向の端部に位置する細孔穿孔用の刃(51)と、その軸線が前記シャフトの軸線と交差する第2の回動角にあるときに前記シャフトの基端方向の端部に位置する太孔穿孔用の刃(52)とを有し、前記ベース部材は、前記シャフトに挿入されて前記切削部材の回動を規制する棒状部(30)を備えるように構成する。
【0009】
このように構成することにより、棒状部により切削部材の回動を規制できるとともに、手術用穿孔器具の外郭をなすシャフトが切削部材を支持するため、手術用穿孔器具の外径に対する切削部材の支持強度を高めることができる。また、シャフトは棒状部を挿入させるために筒状を呈しているが、シャフト自体の強度低下も僅かで済む。
【0010】
また、本発明の一側面によれば、前記切削部材には、前記シャフトの中空部(18)に臨む面に凹凸が形成され、前記棒状部は、先端(30)が前記切削部材の凹部(ロック孔24)に突入することで前記切削部材の回動を規制するように構成することができる。
【0011】
このように構成することにより、棒状部のシャフトへの挿入量を変化させることで切削部材の回動を規制することができ、切削部材の回動の規制および解除を容易に行うことができる。
【0012】
また、本発明の一側面によれば、前記シャフトの基端にはねじ(11)が形成され、前記ベース部材は、電動回転工具にチャックされるチャック部(32)と、前記シャフトの前記ねじに螺合するねじ(37)が形成されるとともに、前記棒状部と前記チャック部とを連結する連結部(34)を更に備え、前記シャフトと前記連結部との螺着により、前記シャフトと前記棒状部との軸方向の相対位置が一定に保たれるように構成することができる。
【0013】
このように構成することにより、シャフトと連結部とを螺合させるだけでシャフトと棒状部の軸方向位置を調整するとともに一定に保つことができ、切削部材の回動の規制および解除作業を容易にすることができる。
【0014】
また、本発明の一側面によれば、前記太孔穿孔用の刃は、前記細孔穿孔用の刃をなす共通刃(127)であり、該共通刃は前記切削部材が前記第1の回動角にあるときに前記切削部材の軸線に対して前記切削部材を先細にする向きのテーパ角(θ)をもって傾斜しており、前記切削部材は、前記第1の回動角に対して90度に前記テーパ角を加えた角度まで回動可能であり、且つ前記共通刃が前記シャフトの軸線に直交する平面上に延在する回動角で回動を規制されるように構成することができる。
【0015】
このように構成することにより、太孔穿孔用の刃を細孔穿孔用の刃と共通にして切削部材を簡単な構成にし得るとともに、共通刃とした場合であっても太孔の底(細孔との段差部)を平面とすることができ、太孔の底に移植靭帯を密着させることができる。
【発明の効果】
【0016】
このように本発明によれば、骨に開けた貫通孔の出口側に入口側に比較して大径の太孔を容易に形成することができ、且つ器具の強度確保と入口側の細孔径の縮小化とを両立できる手術用穿孔器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る手術用穿孔器具の斜視図
【図2】図1に示す手術用穿孔器具の分解斜視図
【図3】図1に示すドリル部材の側面図
【図4】図3中のIV−IV断面図
【図5】図1に示すベース部材の側面図
【図6】図5中のV−V断面図
【図7】図1に示す手術用穿孔器具の使用状態を示す要部側面図
【図8】図7中のVIII−VIII断面図
【図9】図1に示すドリルビットの斜視図
【図10】図1に示すドリルビットの正面図
【図11】図1に示すドリルビットの側面図
【図12】大腿骨に貫通孔(細孔)を穿設する状態を示す模式図
【図13】関節空にてドリルビットを倒す状態を示す模式図
【図14】大腿骨に太い孔を穿設する状態を示す模式図
【図15】関節空にてドリルビットを元の位置に戻す状態を示す模式図
【図16】貫通孔に靭帯取り付け用紐を通す状態を示す模式図
【図17】膝関節に移植靭帯を取り付ける状態を示す模式図
【図18】膝関節に移植靭帯を取り付けた状態を示す模式図
【図19】第1変形例に係るドリルビットの斜視図
【図20】図19に示すドリルビットの正面図
【図21】図19に示すドリルビットの側面図
【図22】図19に示すドリルビットにより太孔を穿設した状態を示す模式図
【図23】第2変形例に係るドリルビットの正面図
【図24】図23に示すドリルビットの側面図
【図25】図23に示すドリルビットにより太孔を穿設した状態を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る手術用穿孔器具(以下、単に穿孔器具1と記す。)およびこれを用いた手術方法の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
穿孔器具1は、靭帯再建手術などで骨に貫通孔60(図14参照)を穿設する際に使用されるものであり、図1、図2に示すように、先端に切削刃を備えた軸状のドリル部材2と、ドリル部材2の基端側にドリル部材2と同軸に延設され、電動回転工具による把持に供されるベース部材3とから構成される。
【0020】
ドリル部材2は、先端10aおよび基端10bを有する筒状のシャフト10と、シャフト10の先端10aに回動可能に枢支された軸状のドリルビット20とを備えている。ここで、軸状とは、長材からなること、換言すれば、幅方向に比べて寸法の大きな長手を有する形状であることを意味する。以下、ドリルビット20について、断面中心を結んだ長手方向と平行な直線を軸線A20と称することとする。
【0021】
ベース部材3は、シャフト10の内径よりも小さな直径を有してベース部材3の軸線Aに沿って延在する棒状部30と、棒状部30の基端側に棒状部30と同軸に延在し、電動回転工具にチャックされる柱状のチャック部32と、シャフト10よりも大径を有し、棒状部30およびチャック部32と同軸の柱状に形成され、棒状部30とチャック部32とを連結する連結部34と備えている。
【0022】
図3、図4に示すように、シャフト10の基端10b側には、雄ねじ11が形成されるとともに、軸線方向に沿う切欠12が端面に開口し且つ対向する両側面に至る態様で形成されている。一方、シャフト10の先端10aにはスリット13が形成されている。このスリット13の両側に位置する一対の壁14には、シャフト10の軸線A10に直交する支持孔15が形成されており、支持孔15に嵌挿されて一対の壁14に支持されるピン16がドリルビット20を軸支している。つまり、ドリルビット20はシャフト10の軸線A10に直交する回動軸Kをもってシャフト10の先端10aに回動可能に枢支される。また、シャフト10の基端10b近傍の中間位置には、矩形断面の貫通孔17がシャフト10の軸線A10に略直交する向きに形成されている。
【0023】
図5、図6に示すように、棒状部30の先端には、他の部分に比べて小径とされた先端部30aが形成されている。この先端部30aは、後述するようにロック孔24に挿入されてドリルビット20の回動を規制する。
【0024】
連結部34は、段付きの円柱状を呈する連結部材35からなり、その軸線Aに沿って貫通孔36が形成されている。貫通孔36には棒状部30を構成する棒状部材31が挿入され、チャック部32を構成するチャック部材33と棒状部材31とが同軸に連続する状態で連結部材35の後端面にて溶接されて三者が互いに一体とされている。また、貫通孔36の先端側は大径とされるとともに、その内面にシャフト10の雄ねじ11に螺合する雌ねじが形成されたねじ孔37とされている。このねじ孔37にシャフト10の基端10bを挿入してシャフト10と連結部34とを螺着させることにより、シャフト10と棒状部30との軸方向の相対位置が一定に保たれる。
【0025】
連結部34には、その軸線Aに直交する貫通孔38が軸線Aを通る位置に形成され、この貫通孔38にピン39が挿入されている。これにより、ねじ孔37の終端(後端)に垂直な壁面が形成され、連結部34に対するシャフト10のねじ込み深さが設定されるとともに、ねじ孔37が雌ねじ形成用のタップに沿ったテーパ状となることによって穿孔時のトルクによりシャフト10がねじ孔37に噛み込むことが防止される。
【0026】
図7、図8に示すように、ドリルビット20には、ドリルビット20の軸線A20がシャフト10の軸線A10と一致する状態(図7の(A)に示す状態)でシャフト10の中空部18に臨む位置と、ドリルビット20の軸線A20がシャフト10の軸線A10と直交する状態(図7の(B)に示す状態)でシャフト10の中空部18に臨む位置との2箇所に、それぞれの状態でシャフト10の軸線A10に沿って延びてピン16(正確にはピン16が挿入される後述する貫通孔23)に至るロック孔24が穿設されている。つまり、ピン16を中心にした開き角が90度の2つのロック孔24が穿設されている。
【0027】
シャフト10の軸方向長さと棒状部30の軸方向長さとは、シャフト10が連結部34のねじ孔37に螺合してピン39(図6)に当接した状態で棒状部30の先端部30aがロック孔24に突入する関係となるように設定されている。つまり、棒状部30は、シャフト10がねじ孔37の全長にわたって挿入されたときに、その先端部30aをロック孔24に突入することで、ドリルビット20の軸線A20がシャフト10の軸線A10に一致する第1の回動角(図7の(A)に示す状態)とシャフト10の軸線A10に直交する第2の回動角(図7の(B)に示す状態)とにおいてドリルビット20の回動を規制するとともに、シャフト10のねじ孔37への挿入深さが浅くされたときに、先端部30aをロック孔24から離脱させてドリルビット20の回動規制を解除する。
【0028】
図9〜図11に示すように、ドリルビット20は、切欠部26が形成された略円柱状を呈するカッター部21と、カッター部21の基端に連続して偏平形状をなし、ピン16を挿入させるための貫通孔23が形成された基部22とから構成される。
【0029】
前述したように、基部22の表面には2箇所にロック孔24が形成されている。また、基部22は、ドリルビット20の第1の回動角から一方向への回動を可能にすべく一方の側面が基端面22aにかけて円弧形状とされるとともに、ドリルビット20の第1の回動角から他方向への回動を不能にすべく他方の側面が基端面22aに対して直角に形成されてストッパ25を形成している。
【0030】
カッター部21は、円柱の軸線A20を中心にした概ね4分の1が切欠部26とされている。カッター部21の先端面21aは、切欠部26により形成された一方のエッジ41を始点として軸線A20を中心とした時計回り方向に頂角が徐々に小さく変化する半円錐を連続させた形状となるように加工されている。そして、この先端面21aの切欠部26との境界に形成された軸線A20に交差するエッジ41が細孔穿孔用の刃51となり、外周面21bに切欠部26によって形成された軸線A20に平行なエッジ42が太孔穿孔用の刃52となる。
【0031】
細孔穿孔用の刃51の先端角θpは0度であり、先端面21aによる半円錐の頂角の変化が細孔穿孔用の刃51に逃げ角を形成している。また、外周面21bのうち太孔穿孔用の刃52に隣接する部分は平面にカットされて太孔穿孔用の刃52に逃げ角(ここでは20度)を形成し、切欠部26を形成する面のうち太孔穿孔用の刃52に隣接する部分は、正面視で切欠部26を4分の1円よりも大きくする向きに傾斜してすくい角(ここでは25度)を形成している。なお、太孔穿孔用の刃52は、軸線A20に対してストッパ25が形成された側と反対側に形成されており、ドリルビット20が第2の回動角にあるときにシャフト10の基端方向を向く。
【0032】
このように形成されたドリルビット20は、第1の回動角にあるときにシャフト10の先端方向の端部に細孔穿孔用の刃51が位置し、第2の回動角にあるときにシャフト10の基端方向の端部に太孔穿孔用の刃52が位置する。ドリルビット20が第1の回動角にあるときに、細孔穿孔用の刃51の径方向外側の端部はシャフト10の軸線A10に対してシャフト10の外周縁10cと略同一距離の位置にあり、ドリルビット20が第2の回動角にあるときに、太孔穿孔用の刃52の径方向外側の端部はシャフト10の軸線A10に対してシャフト10の外周縁10cよりも遠い位置にある。
【0033】
したがって、ドリルビット20をシャフト10に対して第1の回動角で固定してドリル部材2をその先端方向に押しながら細孔穿孔用の刃51により穿孔する際には、シャフト10と略同径の孔が形成され、ドリルビット20をシャフト10に対して第2の回動角で固定してドリル部材2をその基端方向に引きながら太孔穿孔用の刃52により穿孔する際には、シャフト10よりも大径の孔が形成される。そして、ドリルビット20が第2の回動角にあるときに、太孔穿孔用の刃52がシャフト10の軸線A10に対して直交する向きに延在しているため、図7の(B)に示すように、太孔62の底62a(細孔61との段差)が平面となり、太孔62の底62aへの移植靭帯70(図18参照)の密着が可能になる。
【0034】
このように構成された穿孔器具1によれば、棒状部30によりドリルビット20の回動を規制できるとともに、ドリル部材2の外郭をなすシャフト10がドリルビット20を支持するため、ドリル部材2の外径すなわちシャフト10の外径に対してドリルビット20の支持強度を高くすることができる。また、シャフト10は棒状部30を挿入させるために筒状を呈しているが、シャフト10自体の強度低下も僅かで済む。そのため、細孔61の径を小さくすることができる。なお、本実施形態では、細孔61の直径を2.4mm程度としている。
【0035】
また、棒状部30のシャフト10への挿入量すなわちシャフト10のねじ孔37への挿入量を変化させて棒状部30の先端部30aをロック孔24に突入させることでドリルビット20の回動を規制することができ、ドリルビット20の回動規制およびその解除を容易に行うことができる。そして、シャフト10と連結部34とを螺合させるだけでシャフト10と棒状部30との軸方向の相対位置を調整するとともに一定に保つことができるため、手術時におけるドリルビット20の回動規制およびその解除作業が容易である。
【0036】
次に、このように形成された穿孔器具1を用いて行う靭帯再建手術の手順について説明する。
【0037】
まず、図12に示すように、切開して露出させた大腿骨71に対し、ドリルビット20をシャフト10に対して第1の回動角で固定した穿孔器具1を図示しない電動回転工具で時計回りに回転させながらシャフト10の軸線方向に押し付け、細孔穿孔用の刃51によって脛骨72との間の関節腔73に至る細孔61(貫通孔60)を穿設(押し切り)する。
【0038】
次に、電動回転工具を停止した状態でシャフト10を反時計回り(取り外し方向)に回転させ、連結部34のねじ孔37に対する挿入深さを浅くして棒状部30の先端部30aをロック孔24から脱出させた後、図13に示すように、関節腔73に別の手術用器具74を挿入してドリルビット20を90度回動させるとともに、シャフト10を時計回り(ねじ込み方向)に回転させ、棒状部30の先端部30aをロック孔24に突入させる。
【0039】
ドリルビット20を第2の回動角で固定した後、図14に示すように、穿孔器具1を再度電動回転工具で時計回りに回転させながらシャフト10の軸線方向に引くことで、太孔穿孔用の刃52によって貫通孔60における関節腔73側(出口側)に太孔62を穿設(引き切り)する。これにより、穿孔入口側に比較的小径の細孔61が配置され、穿孔出口側に細孔61に連続する比較的大径の太孔62が配置される貫通孔60が大腿骨71に形成される。
【0040】
その後、電工回転工具の回転を停止し、ドリルビット20が太孔62から突出するまで穿孔器具1を静かに押し込み、シャフト10を取り外し方向に回転させ、棒状部30の先端部30aをロック孔24から脱出させた後、図15に示すように、関節腔73内にて別の手術用器具74によりドリルビット20を90度回動させて第1の回動角に戻すととともに、穿孔器具1を引き抜く。
【0041】
同様にして脛骨72に対しても、穿孔入口側に細孔61が配置され、穿孔出口側に太孔62が配置された貫通孔60を穿設する。そして、穿孔器具1をドリル部材2とベース部材3とに分離させた後、図16に示すように、ドリル部材2の基端側の切欠12に、先端に輪が形成された移植靭帯引き抜き用の紐75を係止して貫通孔60に挿入する。
【0042】
さらに、図17に示すように、移植靭帯70の一端に延出された固定用の紐70aを移植靭帯引き抜き用の紐75の輪に通し、移植靭帯引き抜き用の紐75を引き抜いて移植靭帯70の端部を太孔62に埋没させる。なお、図示は省略するが、図16および図17に示す手順の代わりに、ドリル部材2の基端側を貫通孔60に挿入し、基端近傍に形成された貫通孔60に移植靭帯70の固定用の紐70aを通してドリル部材2を引き抜き、固定用の紐70aを引き抜くことで移植靭帯70の端部を太孔62に埋没させてもよい。
【0043】
同様にして脛骨72に対しても、ドリル部材2を用いて移植靭帯引き抜き用の紐75を貫通孔60に挿入した後、移植靭帯70の他端に延出させた固定用の紐70aを移植靭帯引き抜き用の紐75の輪に通して移植靭帯引き抜き用の紐75を引き抜き、図18に示すように、移植靭帯70の端部を太孔62に埋没させ、両固定用の紐70aを所定の固定具76などを用いて大腿骨71および脛骨72に固定する。
【0044】
≪第1変形例≫
次に、図19〜図22を参照して、本発明に係る穿孔器具1の第1変形例について説明する。なお、上記実施形態と同様の構成要素については同一の符号を用いてその説明や使用方法の説明を省略し、異なる点を重点的に説明する。以下の変形例についても同様とする。
【0045】
図19〜図21に示すように、本変形例に係る穿孔器具1は、上記と異なる形状のドリルビット120を有している。ドリルビット120は、偏平形状をなし、ピン16を挿入させるための貫通孔23が形成された基部22と、基部22に連続して偏平形状をなすカッター部121とから構成される。
【0046】
カッター部121は、正面視において、回動軸Kと直交する方向に長手を有しており、想像線で示すシャフト10の外周縁10c上の点から軸線A120寄りに向かって回転対称に延在する直線状の2つのエッジ141a、141bと、2つのエッジ141a、141bの先端を直線で結ぶエッジ141cとを備えている。ドリルビット120の軸線A120をシャフト10の軸線A10に一致させた第1回動角において、エッジ141a、141b、141cが細孔穿孔用の刃51となり、ドリルビット120の軸線A120をシャフト10の軸線A10に交差させた第2回動角において、シャフト10の基端方向の端部に位置するエッジ141aが太孔穿孔用の刃52となる。つまり、細孔穿孔用の刃51のうちエッジ141aが太孔穿孔用の刃52をなす共通刃である。
【0047】
細孔穿孔用の刃51の先端角θp、具体的には、細孔穿孔時のエッジ141a、141bの先端角θpはθ×2度である。すなわち、エッジ141a、141bは、ドリルビット120が第1の回動角にあるときにドリルビット120の軸線A120に対してドリルビット120を先細にする向きのテーパ角θをもって傾斜している。また、太孔穿孔用の刃52をなすエッジ141aには、ドリルビット120が第2の回動角にあるときに、ここでは20度の逃げ角(図20参照)が形成されている。
【0048】
基部22の表面には、上記実施形態と同様に2箇所にロック孔24が形成されており、そのうちの1つは、ドリルビット120の軸線A120がシャフト10の軸線A10と一致する状態でシャフト10の中空部18に臨む位置に軸線A120に沿って形成されているが、他の1つは、ドリルビット120の軸線A120がシャフト10の軸線A10に対して90度よりも角度θだけ大きく傾斜した状態でシャフト10の中空部18に臨む位置に形成されている。つまり、ピン16を中心にした2つのロック孔24の開き角は(90+θ)度となっており、ドリルビット120は、その軸線A120をシャフト10の軸線A10に対して(90+θ)度傾斜させた第2の回動角で回動を規制される。
【0049】
このように形成されたドリルビット120は、図22に示すように、第2の回動角にあるときにシャフト10の基端方向の端部に位置する太孔穿孔用の刃52がシャフト10の軸線A10に直交する平面上に延在する。したがって、太孔62の底62a(細孔61との段差)が平面となり、太孔62の底62aへ移植靭帯70を密着させることができる。
【0050】
≪第2変形例≫
次に、図23〜図25を参照して、本発明に係る穿孔器具1の第2変形例について説明する。まず、図23および図24に示すように、本変形例に係る穿孔器具1は、上記変形例と同様に異なる形状のドリルビット220を有している。ドリルビット220が基部22と基部22に連続して偏平形状をなすカッター部221とから構成される点は上記変形例と同様であるが、本変形例のカッター部221は、所定の先端角θpを有する略矩形平板状を呈している。カッター部221は、先端の略二等辺三角形の等辺の一方に位置するエッジ241a、241bと、二等辺三角形の頂角側となるエッジ241a、241bの端部同士を結ぶエッジ241cと、長辺に沿い、且つ正面視において、想像線で示すシャフト10の外周縁10c上に位置する2つのエッジ242a、242bとを備えている。
【0051】
ドリルビット220の軸線A220をシャフト10の軸線A10に一致させた第1回動角において、エッジ241a、241b、241cが細孔穿孔用の刃51となり、ドリルビット220の軸線A220をシャフト10の軸線A10に直交させた第2回動角において、シャフト10の基端方向の端部に位置するエッジ242a、241aが太孔穿孔用の刃52となる。
【0052】
このように形成されたドリルビット220は、図25示すように、第2の回動角にあるときにシャフト10の基端方向の端部に位置する太孔穿孔用の刃52のうちエッジ242aがシャフト10の軸線A10に直交する平面上に位置する。したがって、太孔62の底62a(細孔61との段差)は、他の断面に比べて先端角θpに応じてその面積が小さくなるものの、平面となるため、太孔62の底62aへ移植靭帯70を密着させることができる。
【0053】
以上で具体的実施形態についての説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。例えば、本発明の穿孔器具1は、膝のみならず、靭帯のあるその他の部位、すなわち、肩、肘、手、足関節における靭帯再建手術においても適用が可能である。また、本発明の穿孔器具1は、靭帯再建手術以外の手術において骨に穿孔する場合にも適用することができる。また、上記実施形態では、各ドリルビット20,120,220につきロック孔24が2つ形成されているが、3つ以上のロック孔24を形成して様々な回動角で固定できるようにしてもよい。また、上記実施形態では、棒状部30の先端部30aが小径とされてロック孔24に突入することでドリルビット20の回動が規制されるようになっているが、棒状部30の先端は小径とされている必要はなく、棒状部30に係止される形態であれば、ドリルビット20がロック孔24の代わりに溝などの凹凸を備える構成としてもよい。
【0054】
一方、上記実施形態に示した本発明に係る穿孔器具1およびこれを用いた手術方法の各構成要素は、必ずしも全てが必須ではなく、少なくとも本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。例えば、上記靭帯再建手術の手順では、太孔62の穿設後にドリルビット20を関節腔73内で手術用器具74によりドリルビット20を回動させて第1の位置に戻しているが、棒状部30の先端部30aをロック孔24から脱出させた状態でそのまま穿孔器具1を引っ張ることでドリルビット20を回動させてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 穿孔器具(手術用穿孔器具)
2 ドリル部材
3 ベース部材
10 シャフト
10a 先端
10b 基端
11 雄ねじ
12 切欠
13 スリット
18 中空部
20、120、220 ドリルビット(切削部材)
24 ロック孔(凹部)
30 棒状部
30a 先端部
32 チャック部
34 連結部
37 ねじ孔
41、141a、141、141c、241a、241b、241c エッジ(細孔穿孔用の刃)
42、141a、241a、242a エッジ(太孔穿孔用の刃)
51 細孔穿孔用の刃
52 太孔穿孔用の刃
60 貫通孔
61 細孔
62 太孔
71 大腿骨
72 脛骨
10 シャフト10の軸線
20、A120、A220 カッタービットの軸線
K 回動軸
θ テーパ角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穿孔入口側に比較的小径の細孔が配置され、穿孔出口側に前記細孔に連続する比較的大径の太孔が配置される貫通孔を骨に穿設するための手術用穿孔器具であって、
先端および基端を有する筒状のシャフトと、
前記シャフトの軸線に略直交する回動軸をもって前記シャフトの先端に回動可能に枢支される軸状の切削部材と、
前記シャフトの基端に連結されるベース部材とを備え、
前記切削部材は、その軸線が前記シャフトの軸線と略一致する第1の回動角にあるときに前記シャフトの先端方向の端部に位置する細孔穿孔用の刃と、その軸線が前記シャフトの軸線と交差する第2の回動角にあるときに前記シャフトの基端方向の端部に位置する太孔穿孔用の刃とを有し、
前記ベース部材は、前記シャフトに挿入されて前記切削部材の回動を規制する棒状部を備えることを特徴とする手術用穿孔器具。
【請求項2】
前記切削部材には、前記シャフトの中空部に臨む面に凹凸が形成され、
前記棒状部は、先端が前記切削部材の凹部に突入することで前記切削部材の回動を規制することを特徴とする、請求項1に記載の手術用穿孔器具。
【請求項3】
前記シャフトの基端にはねじが形成され、
前記ベース部材は、電動回転工具にチャックされるチャック部と、前記シャフトの前記ねじに螺合するねじが形成されるとともに、前記棒状部と前記チャック部とを連結する連結部を更に備え、
前記シャフトと前記連結部との螺着により、前記シャフトと前記棒状部との軸方向の相対位置が一定に保たれることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の手術用穿孔器具。
【請求項4】
前記太孔穿孔用の刃は、前記細孔穿孔用の刃をなす共通刃であり、該共通刃は前記切削部材が前記第1の回動角にあるときに前記切削部材の軸線に対して前記切削部材を先細にする向きのテーパ角をもって傾斜しており、
前記切削部材は、前記第1の回動角に対して90度に前記テーパ角を加えた角度まで回動可能であり、且つ前記共通刃が前記シャフトの軸線に直交する平面上に延在する回動角で回動を規制されることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の手術用穿孔器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2013−17610(P2013−17610A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152645(P2011−152645)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(398059596)株式会社アイメディック (1)
【Fターム(参考)】