説明

手術用顕微鏡システム

【課題】光ガイドの設けられたカニューレ(注射針)を患者眼球内へ挿入する必要なく、両手を使った眼科手術、特に硝子体切除手術を可能とし、それと同時に少なくとも観察者が認識する対象領域が完全に照明されるという照明可能性を創作する。
【解決手段】特に硝子体切除用のものである眼科用の手術用顕微鏡システム(200)は、顕微鏡照明装置を備えた手術用顕微鏡(10)と、観察対象側に配設された広角レンズ(21)及び顕微鏡側に配設された画像正立用のプリズムユニット(22)を備えており且つ対物レンズ側で前記手術用顕微鏡(10)の前に配置される広角装置(20)とを有し、前記広角装置(20)は照明ユニット(25)を有し、該照明ユニット(25)は、前記広角レンズ(21)の前に配置された観察対象(40)を、照明光(29)を用いて前記広角レンズ(21)を通って照明するために設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の記載)
本出願は、2011年4月18日出願のドイツ特許出願第 10 2011 007 607.7 号の優先権主張に基づくものであり、同出願の全記載内容は引用をもって本明細書に組み込み記載されているものとする。
【0002】
本発明は、特に硝子体切除(Vitrektomie)用のものである眼科(Ophthalmologie)用の手術用顕微鏡システム、並びに該手術用顕微鏡システムのための照明ユニット及び広角装置に関する。
【背景技術】
【0003】
(背景技術とその分析)
硝子体外科における眼球の硝子体の手術治療は、例えば、白内障手術中の硝子体損失の場合や、眼球前部の損傷の場合や、小児外科においてや、網膜疾患の場合や、複雑な網膜剥離の場合などに必要とされる。そのために様々な方法が知られている。
【0004】
ここで選択する方法は、1970年代初頭に取り入れられた経毛様体扁平部硝子体切除術(PPV:Pars-Plana-Vitrektomie)である。この切除術は、硝子体空間へのアクセス(Zugang)が毛様体扁平部を介して行われる、閉状態の眼球内顕微外科手術法に関するものである。PPVは、他の箇所では閉状態にある結膜を通って、外科器具の縫合を伴わない挿入挿出を可能とする。通常、PPVでは全部で2〜3箇所の切開が必要であり、この際、挿入される器具の径は、各々おおよそ1.0ミリメートル(19ゲージ)又は0.9ミリメートル(20ゲージ)である。通常、1つの注入チャンネルと2つの作業チャンネルが設けられ、それにより1つの共通のアクセスに比べて個々の切開の径を減少させることができる。複数個所に小さな切開を施す場合の実際の外傷は、1箇所の大きな切開の場合よりも少ないが、個々の切開の径とその数はできるだけ少なくされるべきである。
【0005】
PPV時に必要な眼球内部の照明の標準として、外科医の非主導的な手(例えば左手)で保持され、眼球内へ挿入され、そして光ガイド(Lichtleiter)と接続されている内部ゾンデ(Endosonde)が用いられている。外科医の主導的な手(例えば右手)では外科器具が保持され、そして該器具を用い、片手で硝子体及び網膜への手術(執刀)が行われる。硝子体内出血の除去や黄斑前膜(praemakulaere Membranen)の切除のような比較的簡単な外科治療のためには、多くの場合、片手の器具操作が実用的である。しかし眼球内部の比較的複雑な手術の場合には、両手を使った操作の方が好ましいとされている。
【0006】
コッホ(Koch)らにより1992年に開発された所謂マルチポータル照明システム(MIS:multiportales Illuminationssystem)(下記非特許文献1を参照)では、19ゲージよりも小さい(1.0ミリメートルよりも小さい)径を有する器具が、照明手段の設けられたカニューレ(注射針)を通して挿入されることにより、完全な広角観察のもと、両手を使ったアクティブな硝子体外科手術が可能とされる。従って、例えば手で保持される光ガイドによる補助的な照明装置は、もはや不必要である。
【0007】
両手を使った硝子体外科手術のための代替的な方法は、シュミット(Schmidt)らにより提案されている(下記非特許文献2)。ここでは、第4の切開が施され、この切開を通して光ゾンデが挿入される。
【0008】
通常、硝子体外科手術中の広角観察のためには、手術用顕微鏡と患者の角膜との間にレンズが配置される。助手により又は保持リングを用いて直接的に角膜上で位置決めが行われる所謂角膜コンタクトレンズの他に、手術用顕微鏡のための広角アタッチメントも使用される。
【0009】
通常、両方の場合において十分な広角観察のためには非球面レンズが使用されるが、該非球面レンズにより左右反対で上下反対(倒立)の画像が作られることになる。この画像反転は、診断時には甘受することができるが、眼球手術時には、熟練の執刀医においてですら配位問題をもたらし、この際、反転された立体視は困難を招来する。
【0010】
従って上述の技術分野において、画像を(左右)反転且つ正立させる装置を使用することが知られており、例えば下記特許文献1〜4において記載されている。付加的な構成部材により、顕微鏡の構造高さは顕著に増加されてはならず、その理由は、執刀医が同時に手術を実行し且つ顕微鏡を覗き込まなくてはならないためである。従って顕微鏡の接眼レンズと患者の眼球との間の間隔は任意に増加させることはできない。
【0011】
更に、画像を反転且つ正立させる装置は、顕微鏡を交換する必要なしで、眼球の前部分においても眼底においても作業できるようにするために、できるだけ迅速に顕微鏡の光線路内へ旋回挿入される必要がある。従って下記特許文献3で開示されているように、使用される広角レンズの顕微鏡側に配設される様々なプリズム系(通常はポロプリズムを有する)を使用することが目的に適っている。
【0012】
下記特許文献4から、観察光線路を延長或いは短縮するためにプリズムが摺動可能に配設されているプリズムユニットが公知である。それにより、広角装置が該広角装置に付設のプリズムユニットと共に画像正立のために旋回挿入或いは旋回挿出される場合に、顕微鏡の焦点を非正視眼においても維持することが可能とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】DE 36 15 842 A1
【特許文献2】DE 38 26 069 A1
【特許文献3】DE 200 21 955 U1(実用新案)
【特許文献4】WO 91/15150 A1
【特許文献5】DE 10 2009 058 792 B3
【特許文献6】DE 10 2006 038 911 A1
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Augustin, "Augenheilkunde", 3. Aufl., Springer-Verlag Berlin, Heidelberg, 2007(アウグスティン著、「眼科学」、第3版、シュプリンガー出版 ベルリン、ハイデルベルク、2007)
【非特許文献2】Schmidt et al., "Bimanuelle Membranextraktion bei schwerer proliferativer diabetischer Vitreoretinopathie mit permanenter Endoillumination", Spektrum Augenheilkd. 2003, 17, 177-180(シュミット他著、「常時内部照明を用いた重症の繁殖性の糖尿病硝子体網膜症における両手を使った膜摘出」、スペクトル眼科学、2003年、17、177〜180)
【非特許文献3】Horiguchi et al., "New System for Fiberoptic-Free Bimanual Vitreous Surgery", Arch. Ophthalmol. 2002, 120, 491(堀口他著、「繊維光学技術を伴わない両手を使った硝子体外科手術のための新システム」、アーカイブ・オブ・オプタルモロジー、2002年、120、491)
【0015】
尚、上記特許文献1〜6、非特許文献1〜3の全開示内容はそれらの引用をもって本書に組込み記載されているものとする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
紹介した上記システムは、眼球内への光ガイドの挿入を尚必要としている。しかし上述したように、この種の切開はできるだけ少なくすることが望ましいとされている。
【0017】
更に上記特許文献5は、ドイツにおける本願の出願日(又は優先日)よりも以前に出願されそれ以後に公開されたものであるが、目を観察するための光学観察装置に関するものである。この光学観察装置は、目の前側区域を観察するための顕微鏡装置と、目の網膜を観察するために顕微鏡装置の前側において旋回可能な視覚化装置とを含んでいる。この顕微鏡装置と視覚化システムは、各々につき限定的に使用され、即ち目の前側区域を観察する場合には視覚化装置(アタッチメントモジュール)が光線路から外方へ旋回され、それに対し、目の網膜を観察する場合には視覚化装置が光線路の内方へ旋回される。この際、網膜の観察は、少なくとも1つのデジタルカメラを有する視覚化装置を用いて行われ、デジタルカメラからのデータが顕微鏡装置の反射要素(又はスーパーインポーズ要素)へと提供される。網膜の画像は、反射部材のディスプレイと、適切な光学素子と、ビームスプリッタとを用い、顕微鏡装置の接眼レンズを介して視覚化される。提案されているこの解決策は、視覚化装置自体を顕微鏡装置のように構成しなくてはならないこと、そして視覚化装置のデータが顕微鏡装置上で視覚化されるように反射要素を提供しなくてはならないことにより極めて複雑なものとなっている。また提案されている視覚化装置は、本発明の意味において広角装置ではない。
【0018】
また上記特許文献6からは、患者の眼底を観察するために手術顕微鏡にアタッチメントされる眼底検査用アタッチメントモジュールが公知である。そこで提案されている解決策の背景は、アタッチメントモジュールの眼底検査用ルーペで反射される、照明光からの妨害反射光を回避することである。それために上記特許文献6は、顕微鏡照明から眼底検査用ルーペを通り過ぎて検査対象の患者眼球へと光を案内するための幾つかの解決策を提案している。1つの実施形ではアタッチメントモジュールが、照明光学系を備えた固有の光源を有している。提供される照明光は、反射面を用いて眼底検査用ルーぺを通り過ぎて患者眼球へと導かれる。そこで提案されているアタッチメントモジュールは、ここでも本発明の意味において広角装置ではない。
【0019】
従って本発明の課題は、光ガイドの設けられたカニューレ(注射針)を患者眼球内へ挿入する必要なく、両手を使った眼科手術、特に硝子体切除手術を可能とし、それと同時に少なくとも観察者が認識する対象領域が完全に照明されるという照明を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記背景技術を踏まえ、本発明は、特許請求の範囲における独立請求項の特徴を有する、特に硝子体切除用のものである眼科用の手術用顕微鏡システム、並びに該手術用顕微鏡システムのための照明ユニット及び広角装置を提案する。本発明の有利な実施形態は、下位請求項の対象であり、以下の説明から読み取れる。
【0021】
本発明に従って提案された解決策は、観察対象側に配設された広角レンズ及び顕微鏡側に配設された画像正立用のプリズムユニットを備えており且つ対物レンズ側で顕微鏡の前に配置される広角装置を有している手術用顕微鏡において、該広角装置に照明ユニットを付設し、該照明ユニットを用い、照明光が前記広角レンズを通って、前記広角レンズの前に配置された観察対象、特に眼球上へ或いは眼球内へ入射可能であることを含んでいる。
【0022】
即ち、本発明の一視点により、特に硝子体切除用のものである眼科用の手術用顕微鏡システムが提供される。この手術用顕微鏡システムは、顕微鏡照明装置を備えた手術用顕微鏡と、観察対象側に配設された広角レンズ及び顕微鏡側に配設された画像正立用のプリズムユニットを備えており且つ対物レンズ側で前記手術用顕微鏡の前に配置される広角装置とを含んでいる。前記広角装置は照明ユニットを有し、該照明ユニットは、前記広角レンズの前に配置された観察対象を、照明光を用いて前記広角レンズを通って照明するために設けられている。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、発明が解決しようとする課題に対応する効果、即ち、光ガイドの設けられたカニューレ(注射針)を患者眼球内へ挿入する必要なく、両手を使った眼科手術、特に硝子体切除手術を可能とし、それと同時に少なくとも観察者が認識する対象領域が完全に照明されるという照明可能性が達成される。
【0024】
切開を回避するために、従来技術から、例えば堀口(Horiguchi)らにより説明されているように(上記非特許文献3)所謂繊維光学技術を伴わない(ファイバーオプティックフリーの)硝子体内の外科システムが知られている。そこでは、手術用顕微鏡内に既に設けられている光源が照明手段として使用される。照明光が観察光線路内へ入射結合され、そして広角レンズを通って検査される観察対象上へ入射される。しかし入射される光量は、多くの場合、特に顕微外科手術の場合には十分とは言えない。それに加え、好ましくない光の反射が発生する。
【0025】
それに対し、本発明により提案された措置により、その都度の手術要求に対して目的を定めて適合させて調節可能である高性能の照明光が提供され、該照明光は(通常の顕微鏡照明装置の他に)特別に設けるべき、光源を備えた追加的な照明ユニットから発生し、従って同時に、眼球内への不利な切開を最小限に減少させることが可能とされる。
【0026】
患者眼球の実際の外傷は、本発明の枠内において好ましくは、光ガイドを伴わない比較的薄いカニューレ(例えば25ゲージ、即ち0.5ミリメートル)も使用可能であることにより極めて減少される。小さい切開に基づくこれらのカニューレの縫合を伴わない挿入挿出が可能である。
【0027】
本発明に従うシステムの使用時には、外科医による光ガイドの手動保持は基本的にもはや不必要である。従って両手を使った硝子体切除手術時の器具の操作(ハンドリング)が著しく簡素化される。器具の極めて簡単な操作に並び、光ガイドゾンデなどが排除されるため、コスト面でも有利である。通常、眼球外科手術の枠内で使用される器具が多いと、手術台上にあるケーブルや光ガイドや制御機器などにより、不都合な場合には取り違えや外科手術作業の障害が発生する。本発明に従い提案された装置により、これらのコンポーネントの大部分を省略することができ、それにより対応する手術がより整然と明確に且つより簡単になる。
【0028】
本明細書に添付の図面の簡単な説明は、以下のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】従来技術に従う広角装置を備えた手術用顕微鏡の一例を示す図である。
【図2】本発明の有利な一実施形態に従う広角装置を備えた手術用顕微鏡を示す図である。
【図3】本発明の有利な一実施形態に従う広角装置を示す図である。
【図4】本発明の有利な一実施形態に従う広角装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態の概要について説明する。
【0031】
特別な長所として、本発明の枠内では、広角装置の照明ユニットが使用され、該広角装置は、光源の他にビームスプリッタ(光線分配器)を有する。ビームスプリッタを使用することにより、光源から来る光は、極めて簡単に、該当する手術用顕微鏡の光線路内へ、例えば広角装置の光線路内へ入射することができる。
【0032】
有利には、前記ビームスプリッタ(Strahlteiler)は、従来技術から知られており高品質で且つ規定の特性を有することのできる、部分透過性ミラー(半透過性ミラー)として構成されている。
【0033】
この際、画像正立用のプリズムユニットのプリズム表面の1つを、広角装置における部分透過性ミラーとして又は部分透過性プリズム面として構成することは特に有利であり、それにより、光源から来る光は、観察光線路を偏向するプリズム内へ特に効果的に入射することができる。部分透過性(teildurchlaessig)であり光反射性(spiegelnd)のプリズム表面は、例えば金属物質の蒸着により製造することができる。
【0034】
この種のビームスプリッタ或いはミラーにおいて、反射/透過(透光)比率(Reflexions-/Transmissionsverhaeltnis)は、60対40から90対10までの間の値を有し、好ましくは80対20から90対10までの間の値、特に80対20又は90対10の値が適している。反射部分が大きいほど、観察対象からの光が観察者(外科医)へと到達する。
【0035】
照明ユニットは、好ましくは、光源と、集光器(Kondensoranordnung)及び/又は絞り器(Blendenanordnung)を有する。集光器及び/又は絞り器を使用することにより、光源により提供された照明光の光量及び/又は焦点(フォーカス)を規定して調節することができ、それによりいつでも、行われる手術の枠内で必要な光量が十分に且つ正確な場所に提供される。更にそれにより、所望の場合には、特別な照明技術が実現可能である。
【0036】
有利には、光源として、LEDやOLED("Organic LED"、有機半導体材料から成る薄箔状の発光素子)などの光放出半導体素子や、ハロゲンランプなどを使用することができ、この際、特にLEDは、小さい空間上の特に高い発光効率と、廃熱が極めて少ないことにより傑出している。特別な照明技術のために有利には、規定の光スペクトル又は所定の光温度を有する特殊ランプを使用することができる。
【0037】
有利には、広角装置及び/又は照明ユニットには、少なくとも1つの光トラップ(遮光装置、Lichtfalle)、又は少なくとも1つの光ラビリンス(光迷路装置、Lichtlabyrinth)、又は少なくとも1つの偏光フィルタ及び/又は吸収フィルタが装備されている。それにより、広角システム(広角装置)の内部に存在する散乱光源からの光を少なくとも部分的に抑制することができる。この種の散乱光源は、異なる屈折率の媒体の境界移行が行われる場所、即ち例えばレンズ表面及び/又はプリズム表面においてどこでも発生しうる。本発明に従う装置の枠内でこのことは、光源において、照明ユニットに付設の集光レンズ(コンデンサレンズ)において、及び/又はビームスプリッタ(光線分配器)において特に当てはまる。適切な偏光フィルタ及び/又は吸収フィルタを使用することにより、他の波長或いは偏光特性を有する散乱光は、対象観察のために用いられる光により取り除かれる(フィルタリングされる)。偏光フィルタについては、散乱光を回避するために使用可能である、4分の1波長板や、円偏光フィルタや、複屈折光学要素も挙げられる。
【0038】
照明ユニットを少なくとも部分的に広角装置の組み込み構成部材として構成することは特に有利であると認められる。それにより構造体を極めて小さく構成することができ、その大きさは、画像正立用の従来のプリズムユニット或いは広角装置の大きさを超過することはない、又は超過したとしても少なくとも特記すべきほどのものではない。この際、一方では全照明ユニットを適切な構造グループに統合することが可能である。その後、この構造グループは電源へ接続されるだけである。しかし、広角装置内に光ガイドを連結するためのアクセス部を設けることも考慮でき、それにより外部で準備された光を入射結合させることもできる。
【0039】
既述のように、本発明により提案される手術用顕微鏡は、主として、眼科手術、特に硝子体切除手術における使用に適している。
【0040】
本発明に従い同様に提案される照明ユニット及びそれに対応する広角装置については、既述の特徴及び長所を参照されたい。
【0041】
通常、広角装置は、要求に応じ、手術用顕微鏡の観察光線路内へ旋回挿入可能である。顕微鏡観察が広角装置を伴わなくても可能であるために、手術用顕微鏡は固有の顕微鏡照明装置(顕微鏡光源を備えた顕微鏡照明システム)を有する必要がある。旋回挿入される広角装置において、顕微鏡照明装置をスイッチオフし且つ広角装置の照明ユニットを用いてのみ作業することは有利でありえる。広角装置の旋回挿入時に顕微鏡照明装置をスイッチオフし、それに並行して広角装置の照明ユニットをスイッチオンするための自動機構を設けることができる。同時に手術用顕微鏡における他のパラメータを、適宜、最適な広角観察に適合させることもできる。
【0042】
上記のごとく、本発明において下記の好適な形態が可能である。尚、下記の各形態は本願の特許請求の範囲の各請求項に記載した各々の構成要件にも対応している。また本願の特許請求の範囲に付記されている図面参照符号は専ら本発明の理解の容易化のためのものであり、本発明を後続段落で説明する具体的な実施形態に限定するものではないことをここに付言する。
(形態1)上記一視点のとおり、特に硝子体切除用のものである眼科用の手術用顕微鏡システムであって、顕微鏡照明装置を備えた手術用顕微鏡と、観察対象側に配設された広角レンズ及び顕微鏡側に配設された画像正立用のプリズムユニットを備えており且つ対物レンズ側で前記手術用顕微鏡の前に配置される広角装置とを含んでいる前記手術用顕微鏡システムにおいて、前記広角装置は照明ユニットを有し、該照明ユニットは、前記広角レンズの前に配置された観察対象を、照明光を用いて前記広角レンズを通って照明するために設けられていること。
(形態2)前記広角装置はビームスプリッタを有し、該ビームスプリッタを用い、前記照明光が当該手術用顕微鏡システムの観察光線路内へ入射結合可能であることが好ましい。
(形態3)前記ビームスプリッタは、部分透過性ミラーとして構成されていることが好ましい。
(形態4)前記部分透過性ミラーは、特に画像正立用の前記プリズムユニットにおける部分透過性プリズム面として構成されていることが好ましい。
(形態5)前記部分透過性ミラーの反射/透過比率は、60対40から90対10までの間の値、特に80対20又は90対10の値を有することが好ましい。
(形態6)前記照明ユニットは、光源と、集光器及び/又は絞り器とを有することが好ましい。
(形態7)前記光源は、光放出半導体素子及び/又はハロゲンランプを有することが好ましい。
(形態8)前記広角装置及び/又は前記照明ユニットは、光トラップ及び/又は光ラビリンスを有することが好ましい。
(形態9)前記広角装置及び/又は前記照明ユニットは、偏光フィルタ及び/又は吸収フィルタを有することが好ましい。
(形態10)前記照明ユニットは、少なくとも部分的に前記広角装置の組み込み構成部材として構成されていることが好ましい。
(形態11)当該手術用顕微鏡システムは硝子体切除手術において使用されることが好ましい。
(形態12)前記手術用顕微鏡システムのための照明ユニットは、前記手術用顕微鏡システムの手術用顕微鏡の前に配置される広角装置の一部分として構成されていることが好ましい。
(形態13)前記手術用顕微鏡システムのための広角装置は、前記手術用顕微鏡システムの手術用顕微鏡の前に配置されており且つ前記照明ユニットを有することが好ましい。
【0043】
本発明における別の長所と別の形態は、以下の説明及び図面から読み取れる。
【0044】
前述の特徴及び後続段落で説明する特徴は、本発明の枠を逸脱することなく、各々記載された組み合わせだけでなく、他の組み合わせでも又は単独でも使用可能であることは自明のことである。
【0045】
以下、添付の図面に図示された(本発明を限定するものではない)具体的な実施形態に基づき、本発明を詳細に説明する。
【0046】
尚、添付の図面においては、同じ要素又は同様に作用する要素には同じ符号が付けられている。この際、反復する説明は、本明細書の明解性のために省略するものとする。
【0047】
図1には、全体として符号100で示された、手術用顕微鏡10を備えた手術用顕微鏡システムが図示されており、該手術用顕微鏡10には広角装置20が付設されている。手術用顕微鏡10は、立体観察(stereoskopische Betrachtung)のために設備されており、対物レンズ11と、接眼レンズ12を備えたビューアとを有している。
【0048】
手術用顕微鏡10の対物レンズ側には、図3、4について詳細に説明される広角装置20が配置されている。広角装置20は、観察対象(患者眼球)側に配設されている広角レンズ21を有している。広角レンズ21の顕微鏡側には、ここでは非図示のプリズムユニットが設けられている。
【0049】
鎖線矢印により示されているように、手術用顕微鏡10の観察光線路30が、対物レンズ11と、広角レンズ21を備えた広角装置20とを通って延在し、患者眼球40上へ配向されている。手術用顕微鏡10並びに広角装置20は支持アームシステム50において保持されている。支持アームシステム50は、把持部材54を用いて例えば(非図示の)スタンド又は手術室天井に固定可能である。補助的な支持アーム51を介し、広角装置20は把持部材52に固定連結されており、旋回点53の周りで好ましくは水平方向及び垂直方向において旋回可能である。従って全体として広角装置20は、観察光線路30から(水平方向及び/又は垂直方向において)旋回挿出可能である。
【0050】
図2には、広角装置20を有する図1の手術用顕微鏡10を備えた手術用顕微鏡システムが全体として符号200で図示されている。図1のものと比べ、以下で詳細に説明するように、広角装置20内へ組み込まれ、ここでは模式的にだけ図示された照明ユニット25が設けられており、該照明ユニット25を用い、照明光29が広角レンズ21を通って患者眼球40上或いは患者眼球40内へ配向可能である。図2から見てとれるように、図2の手術用顕微鏡システム200には、構造高さの格別な変更を伴うことなく照明可能性を装備させることができる。
【0051】
図3には、全体として符号300で示された、本発明の特に有利な一実施形態に従う、照明ユニット25を備えた広角装置20が詳細に図示されている。広角装置20の観察対象(患者眼球)側には広角レンズ21が模式的に図示されており、該広角レンズ21は、例えば40D非球面レンズ(40D-Asphaerenlinse)とすることができる。広角レンズ21の顕微鏡側には、広角レンズ21により左右反対に提供された患者眼球40の画像を正立させるためのプリズムユニット22が設けられている。
【0052】
プリズムユニット22は、3つのプリズム22a、22b、22cを有し、これらのプリズムにより、観察光線路30が複数回にわたり偏向され、最終的に左右の正しい画像が(非図示の)手術用顕微鏡を用いて観察可能である。広角装置20の各々の構成要素は、部分的に開放されて図示されているハウジング23内に収容されている。広角装置20は、組み込まれた照明ユニット25を有し、該照明ユニット25は、例えばLED(発光ダイオード)又はハロゲンランプなどの光源26と、集光器及び/又は絞り器27とを含んでいる。それにより発生された照明光29は、ここではプリズム22cの部分透過性プリズム表面として形成されているビームスプリッタ(光線分配器)28を介して光線路内へ入射結合され、広角レンズ21を通って患者眼球40上及び患者眼球40内へ到達する。図3では図示されていないが、例えば電力供給装置のような適切な接続手段、及び/又は、不必要な熱を排出するための例えばファンや冷却リブのような冷却装置を設けることもできる。光源26の代わりに、適切な箇所において光を冷光源から光ガイドを介して広角装置20内へ入射結合させることも可能である。広角装置20の照明ユニット25の光源26の他にこの手術用顕微鏡10は、従来どおり構成することのできる固有の顕微鏡照明装置を有する。広角装置20が手術用顕微鏡10の観察光線路30内へ旋回挿入される場合(図2を参照)にこの(非図示の)顕微鏡照明装置をスイッチオフとすることが有利である。図3において、上述のように構成することのできる支持システム50について詳細には図示されていない。
【0053】
図示されている実施形態では、観察光線路30を延長及び/又は短縮させるために、プリズムユニット22のプリズム22bを摺動させる位置調節装置60が設けられており、該位置調節装置60は、支え台61と、歯付きロッド62と、位置調節可能な歯車63(この歯車63に付設の位置調節手段は図示されていない)とを含んでいる。歯車63の位置調節、即ち回転により歯付きロッド62が摺動され、プリズム22bの移動が行われ、それにより、既述のように、遠視及び/又は近視の眼球を、顕微鏡の焦点合わせ(フォーカシング)を変更する必要なく、旋回挿入或いは旋回挿出される広角装置20を用いて検査又は手術することができる。
【0054】
図4には、全体として符号400で示された、本発明の別の一実施形態に従う、照明ユニット25を備えた広角装置20が図示されている。この実施形態の広角装置20は、図3の広角装置20と比べ、基本的に他の種類のプリズムの使用により異なっている。ここでも観察光線路30は、設けられているプリズム或いは光学要素22a〜22dを通って複数回にわたり偏向され、それにより正立画像を提供するよう正立されている。照明ユニット25から来る光は、光線路内へ入射結合され、患者眼球40内へ到達する。
【0055】
既に説明した特に図3及び4から見てとれるように、本発明では特別なプリズム種類に限定されるのではなく、光学画像の正立を可能とし且つ特に部分透過性プリズム表面を介して照明光線路の入射結合を可能とする全ての形状のプリズムを使用することができる。またそれに相応する機能を備えたレンズユニット及び/又はミラーユニットを使用することも可能である。
【0056】
尚、本発明の全開示(特許請求の範囲及び図面を含む)の枠内において、更にその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更、調整が可能である。また、本発明の特許請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせないし選択が可能である。即ち、本発明は、特許請求の範囲及び図面を含む全開示、技術的思想に従って当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0057】
10 手術用顕微鏡
11 対物レンズ
12 接眼レンズ
20 広角装置
21 広角レンズ
22 プリズムユニット
22a プリズム
22b プリズム
22c プリズム
22d 光学要素
23 ハウジング
25 照明ユニット
26 光源
27 集光器及び/又は絞り器
28 ビームスプリッタ
29 照明光
30 観察光線路
40 観察対象、患者眼球
50 支持アームシステム
51 支持アーム
52 把持部材
53 旋回点
54 把持部材
60 位置調節装置
61 支え台
62 歯付きロッド
63 歯車
100、200 手術用顕微鏡システム
300、400 照明ユニットを備えた広角装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科用の手術用顕微鏡システムであって、
顕微鏡照明装置を備えた手術用顕微鏡(10)と、
観察対象側に配設された広角レンズ(21)及び顕微鏡側に配設された画像正立用のプリズムユニット(22)を備えており且つ対物レンズ側で前記手術用顕微鏡(10)の前に配置される広角装置(20)とを含んでいる
前記手術用顕微鏡システムであって、
前記広角装置(20)は照明ユニット(25)を有し、該照明ユニット(25)は、前記広角レンズ(21)の前に配置された観察対象(40)を、照明光(29)を用いて前記広角レンズ(21)を通って照明するために設けられていること
を特徴とする手術用顕微鏡システム。
【請求項2】
前記広角装置(20)はビームスプリッタ(28)を有し、該ビームスプリッタ(28)を用い、前記照明光(29)が当該手術用顕微鏡システム(200)の観察光線路(30)内へ入射結合可能であること
を特徴とする、請求項1に記載の手術用顕微鏡システム。
【請求項3】
前記ビームスプリッタ(28)は、部分透過性ミラーとして構成されていること
を特徴とする、請求項2に記載の手術用顕微鏡システム。
【請求項4】
前記部分透過性ミラーは、部分透過性プリズム面として構成されていること
を特徴とする、請求項3に記載の手術用顕微鏡システム。
【請求項5】
前記部分透過性ミラーの反射/透過比率は、60対40から90対10までの間の値を有すること
を特徴とする、請求項3に記載の手術用顕微鏡システム。
【請求項6】
前記照明ユニット(25)は、光源(26)と、集光器及び/又は絞り器(27)とを有すること
を特徴とする、請求項2〜5のいずれか一項に記載の手術用顕微鏡システム。
【請求項7】
前記光源(26)は、光放出半導体素子及び/又はハロゲンランプを有すること
を特徴とする、請求項6に記載の手術用顕微鏡システム。
【請求項8】
前記広角装置(20)及び/又は前記照明ユニット(25)は、光トラップ及び/又は光ラビリンスを有すること
を特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の手術用顕微鏡システム。
【請求項9】
前記広角装置(20)及び/又は前記照明ユニット(25)は、偏光フィルタ及び/又は吸収フィルタを有すること
を特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の手術用顕微鏡システム。
【請求項10】
前記照明ユニット(25)は、少なくとも部分的に前記広角装置(20)の組み込み構成部材として構成されていること
を特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の手術用顕微鏡システム。
【請求項11】
当該手術用顕微鏡システムは硝子体切除手術において使用されることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の手術用顕微鏡システム。
【請求項12】
前記部分透過性ミラーは、画像正立用の前記プリズムユニット(22)における部分透過性プリズム面として構成されていることを特徴とする、請求項3〜11のいずれか一項に記載の手術用顕微鏡システム。
【請求項13】
前記部分透過性ミラーの反射/透過比率は、80対20又は90対10の値を有することを特徴とする、請求項3〜12のいずれか一項に記載の手術用顕微鏡システム。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の手術用顕微鏡システムのための照明ユニット(25)であって、
前記手術用顕微鏡システムの手術用顕微鏡(10)の前に配置される広角装置(20)の一部分として構成されていること
を特徴とする照明ユニット。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の手術用顕微鏡システムのための広角装置(20)であって、
前記手術用顕微鏡システムの手術用顕微鏡(10)の前に配置されており且つ請求項14に記載の照明ユニット(25)を有すること
を特徴とする広角装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−223577(P2012−223577A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−91214(P2012−91214)
【出願日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【出願人】(500056219)ライカ ミクロジュステムス(シュヴァイツ)アーゲー (42)
【Fターム(参考)】