説明

手術着用マスク

【課題】マスク本体により鼻部をその形状に対応して被覆することにより、マスク本体の固定位置のズレを防止し、着用者の負担が少なく、感染リスクの少ない手術着用マスクを得る。
【解決手段】マスク本体4の上端縁の中央に弧状凹部を弧状に切り欠き形成し、弧状凹部の形状に沿ってマスク本体の上端縁をトリミングする。マスク本体の上端縁を着用者6側に折り返して弧状凹部の下側を外側に湾曲突出させることにより、この湾曲突出部分の着用者側に、着用者の鼻部をその突出に対応して被覆可能な鼻被覆部7を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術着の前身頃の上部に固定して用いる手術着用マスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、手術着の前身頃の上部に固定して用いる手術着用マスクとして特許文献1に示す如きものが存在する。この従来技術は、手術着の前身頃の上端に、略長方形のマスク本体の下端を固定し、このマスク本体の上端に、頭部装着用の一本の紐体の中央部を接続して形成している。このように略長方形のマスク本体を手術着の上端に固定することにより、手術着の着用者の頸部、口部、鼻部等をマスク本体により被覆することが可能となるため、患者側から飛散した血液、体液等が着用者の頸部、口部、鼻部等に付着して、着用者の身体が汚染されるのを防止することが可能となる。
【0003】
また、この従来技術に於いては、マスク本体の両側部にギャザーを設けることにより,マスク本体の中央部を外側に膨出させてマスク本体を立体的に形成している。このようにマスク本体を立体的に形成することにより、マスク装着時に於ける鼻部への圧迫感を軽減することが可能となり、使用感を向上させることができる。
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3036973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の手術着用マスクは、マスク本体の中央部を均等に膨出させているため、マスク本体が鼻筋に接触するのみで、鼻部をその突出に対応して被覆することはできなかった。そのため、手術中にマスク本体の固定位置にズレが生じやすいものとなり、着用者がこの固定位置のズレを頻繁に直さなければならないため、着用者の負担が大きなものとなっていた。また、着用者が手でマスク本体の固定位置を直し、そのマスク本体に触った手で更に患者の患部に手術を施すこととなるため、マスク本体に付着していた菌が着用者の手を介して患者の患部に付着するおそれもあり、感染リスクを増大させるものであった。
【0006】
そこで、本発明は上述の如き課題を解決しようとするものであって、マスク本体により鼻部をその突出に対応して被覆することにより、マスク本体の固定位置のズレを防止し、着用者の負担が少なく、感染リスクの少ない手術着用マスクを得ようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、手術着の前身頃の上部に固定するマスク本体と、このマスク本体の上部両側に接続した頭部装着用の紐体とからなる手術着用マスクを前提としている。
【0008】
そして、前述の如き従来技術の課題を解決するため、マスク本体の上端縁の中央に弧状凹部を弧状に切り欠き形成し、この弧状凹部の形状に沿ってマスク本体の上端縁をトリミングしている。また、このトリミングしたマスク本体の上端縁を着用者側に折り返して前記弧状凹部の下側を外側に湾曲突出させることにより、この湾曲突出部分の着用者側に着用者の鼻部をその突出に対応して被覆可能な鼻被覆部を形成している。
【0009】
また、マスク本体は、下部中央を縦方向に重ね合わせて重合部を形成することにより、この重合部の上方に着用者のあご部の下側を被覆可能なあご被覆部を形成し、使用時にこのあご被覆部で着用者のあごの下側を被覆することによりあごの下側とあご被覆部を係合するものであっても良い。このようにあごの下側とあご被覆部を係合することにより、紐体の頭部装着時に生じるマスク本体の上方への摺動を抑制することが可能となる。そのため、着用者が手術中にマスク本体を手でずり下げてマスク本体の固定位置を修正する必要がないものとなり、着用者の負担を軽減することが可能となる。また、上述の如く着用者が手でマスク本体の位置を修正する必要がなく、着用者の手がマスク本体に付着した菌により汚染されるおそれもないため、感染リスクを低減させることが可能となる。また、あごの下側とあご被覆部を係合することにより、あごの落ち着きを良くするとともにマスク本体の中央部にゆとりを持たせることが可能となり、マスク本体の使用感を向上させることが可能となる。
【0010】
また、マスク本体は、伸縮性素材を用いて形成したものであっても良い。このようにマスク本体を伸縮性素材を用いて形成することにより、前述の如くマスク本体の上端縁を着用者側に折り返して前記弧状凹部の下側を外側に湾曲突出させる際に、マスク本体を弾性変形させながら作業を行うことが可能となるため、上記作業の作業性を向上させることが可能となる。また、マスク本体を伸縮させることにより、着用者の顔の大きさに合わせてマスク本体の大きさを変化させることが可能となり、ゆとり量を最小限に設計することができるとともに、顔の立体感に合いやすく、マスク本体の使い勝手を向上させることができる。
【0011】
また、上記伸縮性素材はニット素材であっても良く、この場合には、マスク本体の伸縮性と通気性を高めることが可能となる。
【0012】
また、マスク本体は、マスク本体よりも伸縮性が低いトリミングテープにより上端縁をトリミングしたものであっても良い。このように形成することにより、前記弧状凹部の形状を確実に保持した状態で、前述のマスク本体の上端縁の折返し作業を行うことが可能となる。そのため、弧状凹部の下側を確実に外側に湾曲突出させることが可能となり、鼻被覆部の成形を容易なものとすることが可能となる。
【0013】
また、マスク本体は、両側部にタック又はギャザーを設けることにより、中央部を外側に膨出させたものであっても良い。このように形成することにより、手術着用マスクの装着時に於ける鼻部への圧迫感を軽減することが可能となり、手術着用マスクの使用感を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は上述の如く、マスク本体の上端縁の中央に弧状凹部を弧状に切り欠き形成し、この弧状凹部の形状に沿ってトリミングしたマスク本体の上端縁を、着用者側に折り返すものであるから、前記弧状凹部の下側を外側に湾曲突出させることが可能となり、この湾曲突出部分の着用者側に着用者の鼻部をその突出に対応して被覆可能な鼻被覆部を形成することができる。そのため、手術着用マスクの装着時に於いて、マスク本体を鼻部全体及び頬部にフィットさせることが可能となる。そのため、手術着用マスクの装着時に於けるマスク本体の装着位置のズレを防止することが可能となり、着用者が手術中にマスク本体の固定位置のズレを直す必要もなく、着用者の負担を軽減することが可能となる。また、着用者が手でマスク本体の固定位置を直すことにより、着用者の手がマスク本体に付着した菌により汚染されるおそれもなく、感染リスクを低減させることが可能となる。
【実施例1】
【0015】
以下、本発明の実施例1を図1〜図6に於いて説明すれば、(1)は手術着用マスクで、図2に示す如く、手術着(2)の前身頃(3)の上端に固定している。また、上記手術着用マスク(1)は、図1、図2に示す如く、下端部を前記手術着(2)の前身頃(3)の上端に固定するマスク本体(4)と、このマスク本体(4)の上部両側に固定する頭部装着用の一対の紐体(5)とから構成している。また、この紐体(5)は、ゴム等の弾性体を環状に形成したものであっても良い。以下本明細書中に於いては説明の便のため、上端、下端等の用語は、図1〜図6を基準として用いる。
【0016】
本実施例について更に詳細に説明すると、上記マスク本体(4)は、ポリエステル繊維を編み込んだニット素材により伸縮自在に形成している。このようにマスク本体(4)を伸縮性素材により形成することにより、ゆとり量を最小限に設計することができるとともに、顔の立体感に合いやすいものとすることが可能となる。また、上述の如く伸縮性素材をニット素材にて形成することにより、外側から着用者(6)側への空気の通りが良好なものとなり、伸縮性素材の通気性を向上させることが可能となる。
【0017】
また、本実施例に於いては、マスク本体(4)の伸縮性を横方向よりも縦方向をより伸びやすいものとしている。このように形成することにより、マスク本体(4)を縦方向に伸縮させて、顔の大小、首の長短等の体型の個人差に適宜対応させることが可能となり、マスク本体(4)の使い勝手を向上させることができる。
【0018】
また、上述の如くニット素材をポリエステル長繊維により形成することにより、リントの発生を防ぎ、且つニット素材に撥水耐久性を持たせることが可能となる。そのため、患者側にとって汚染又は感染のリスク要因となるリントの発生を防ぐことが可能となるとともに、患者側から飛散した血液や体液がマスク本体(4)に染み込んで着用者(6)側から流出し、着用者(6)の口部、顎部、頸部等が汚染されるのを良好に防止することが可能となる。なお、ニット素材としては、上記ポリエステル長繊維の他に、ナイロン等の耐久性合成繊維を用いることも可能である。
【0019】
また、本実施例の手術着用マスク(1)に於いては、図1、図3、図4に示す如く、マスク本体(4)の中央上部に、着用者(6)の鼻の形状に対応して被覆可能な鼻被覆部(7)を形成している。この鼻被覆部(7)の形成方法について詳細に説明すると、マスク本体(4)の上端縁の中央には、外周部のトリミング前の生地の段階に於いて、図5に示す如く弧状凹部(8)を弧状に切り欠き形成する。そして、このように上端縁に弧状凹部(8)を形成したマスク本体(4)の外周を、図6に示す如く、弧状凹部(8)の形状に沿って、マスク本体(4)よりも伸縮性の低いトリミングテープ(11)によりトリミングする。
【0020】
そして、上記トリミングの後に、マスク本体(4)の上端縁を、図6に一点鎖線で示す位置に於いて弧状凹部(8)の形状に沿って着用者(6)側に折り返す。このように弧状凹部(8)の形状を保持したままマスク本体(4)の上端縁を折り返すと、マスク本体(4)の弧状凹部(8)の下側が、弧状凹部(8)の湾曲形状に沿って外側に湾曲突出するものとなり、この湾曲突出部分の着用者(6)側に着用者(6)の鼻部をその突出に対応して被覆可能な鼻被覆部(7)が図1、図3、図4に示す如く形成されるものとなる。
【0021】
なお、本実施例に於いては前述の如く、マスク本体(4)を伸縮性素材により形成している。そのため、上述の如くマスク本体(4)の上端縁を着用者(6)側に折り返して前記弧状凹部(8)の下側を外側に湾曲突出させる際に、マスク本体(4)を弾性変形させながら作業を行うことが可能となり、マスク本体(4)の捩れを防止して滑らかな仕上がりを可能とするとともに、上記作業の作業性を向上させることが可能となる。
【0022】
また、本実施例に於いては前述の如く、マスク本体(4)の外周を図6に示す如くトリミングする際に、マスク本体(4)よりも伸縮性が低いトリミングテープ(11)を用いている。そのため、上述の如くマスク本体(4)を伸縮性素材にて形成する場合であっても、マスク本体(4)の上端縁の折返し作業時に於けるマスク本体(4)の上端縁の伸縮を抑制することが可能となる。そのため、前記弧状凹部(8)の形状を確実に保持した状態で上記折返し作業を行うことが可能となり、弧状凹部(8)の下側を確実に外側に湾曲突出させることが可能となり、鼻被覆部(7)の成形を容易なものとすることが可能となる。
【0023】
本実施例に於いてはこのように、マスク本体(4)の湾曲突出部分の着用者(6)側に鼻被覆部(7)を形成することにより、手術着用マスク(1)の装着時に、マスク本体(4)により着用者(6)の鼻部をその突出に対応して被覆することが可能となるため、マスク本体(4)を鼻部全体及び頬部にフィットさせることが可能となる。そのため、手術中にマスク本体(4)の固定位置にズレが生じにくいものとなり、着用者(6)がマスク本体(4)の固定位置のズレを直す必要もなく、着用者の負担を軽減することが可能となる。また、着用者が手でマスク本体(4)の固定位置を直すことにより、着用者の手がマスク本体(4)に付着した菌により汚染されるおそれもなく、感染リスクを低減させることが可能となる。
【0024】
また、マスク本体(4)は、図1、図3、図4に示す如く、着用者(6)側の下部中央を縦方向に重ね合わせることにより、重合部(12)を形成している。この重合部(12)は、図1に示す如く、マスク本体(4)側の一側と上端縁に縫合部(13)を設けることにより、その重合形状を保持している。このように、マスク本体(4)の下部中央に重合部(12)を形成することにより、重合部(12)の両側の生地が重合部(12)方向に絞り込まれるとともに、重合部(12)の上方の生地が着用者(6)側に弾性変形するため、この重合部(12)の上方に、図1、図3、図4に示す如く、椀状に窪んだあご被覆部(14)が形成される。
【0025】
そして、マスク本体(4)の着用時に於いては、図4に示す如く、上記あご被覆部(14)で着用者(6)のあごの下側を被覆することによりあごの下側とあご被覆部(14)を係合する。その際、上述の如く椀状に窪ませて形成したあご被覆部(14)にあごの下側が引っ掛かるため、紐体(5)が図4に矢印aで示す如くマスク本体(4)を後頭部の上方に牽引しても、マスク本体(4)が上方にずり上がるおそれがないものとなる。そのため、着用者(6)が手術中にマスク本体(4)を手でずり下げてマスク本体(4)の固定位置を修正する必要がないものとなり、着用者(6)の負担を軽減することが可能となる。また、上述の如く着用者(6)が手でマスク本体(4)の位置を修正する必要がなく、着用者(6)の手がマスク本体(4)に付着した菌により汚染されるおそれもないため、感染リスクを低減させることが可能となる。また、あごの下側とあご被覆部(14)を係合することにより、あごの落ち着きを良くするとともにマスク本体(4)の中央部にゆとりを持たせることが可能となり、マスク本体(4)の使用感を向上させることが可能となる。
【0026】
また、上記マスク本体(4)は、前記トリミングの際にマスク本体(4)の両側部の布地を連続的に重ね合わせることにより、図1、図3に示す如く、ギャザー(15)を形成している。このようにマスク本体(4)の両側部にギャザー(15)を設けることにより、マスク本体(4)の両側に膨らみを持たせて中央部を外側に膨出させることが可能となり、前述の弧状凹部(8)の折返しによって形成される鼻被覆部(7)の形状を、顔の前面形状に更に適合した形状とすることが可能となる。そのため、手術着用マスク(1)の装着時に於ける鼻部への圧迫感を更に軽減させることが可能となり、手術着用マスク(1)の使用感を向上させることができる。なお、本実施例に於いては上述の如く、ギャザー(15)によりマスク本体(4)にふくらみを持たせているが、他の異なる実施例に於いては、ギャザー(15)ではなくタックによりマスク本体(4)にふくらみを持たせることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】手術着用マスクの着用者側からの斜視図。
【図2】手術着用マスクを固定した手術着の正面図。
【図3】手術着用マスクの着用者側の平面図。
【図4】着用状態を示す図3のA−A線断面図。
【図5】トリミング前のマスク本体を示す背面図。
【図6】トリミング後上端縁の折返し前のマスク本体を示す背面図。
【符号の説明】
【0028】
1 手術着用マスク
2 手術着
3 前身頃
4 マスク本体
5 紐体
6 着用者
7 鼻被覆部
8 弧状凹部
11 トリミングテープ
12 重合部
14 あご被覆部
15 ギャザー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
手術着の前身頃の上部に固定するマスク本体と、このマスク本体の上部両側に接続した頭部装着用の紐体とからなる手術着用マスクに於いて、マスク本体の上端縁の中央に弧状凹部を弧状に切り欠き形成し、この弧状凹部の形状に沿ってマスク本体の上端縁をトリミングするとともに、このトリミングしたマスク本体の上端縁を着用者側に折り返して前記弧状凹部の下側を外側に湾曲突出させることにより、この湾曲突出部分の着用者側に着用者の鼻部をその突出に対応して被覆可能な鼻被覆部を形成したことを特徴とする手術着用マスク。
【請求項2】
マスク本体は、下部中央を縦方向に重ね合わせて重合部を形成することにより、この重合部の上方に着用者のあご部の下側を被覆可能なあご被覆部を形成し、使用時にこのあご被覆部で着用者のあごの下側を被覆することによりあごの下側とあご被覆部を係合して、紐体の頭部装着時に生じるマスク本体の上方への摺動を抑制可能としたことを特徴とする請求項1の手術着用マスク。
【請求項3】
マスク本体は、伸縮性素材を用いて形成したことを特徴とする請求項1又は2の手術着用マスク。
【請求項4】
伸縮性素材は、ニット素材であることを特徴とする請求項3の手術着用マスク。
【請求項5】
マスク本体は、マスク本体よりも伸縮性の低いトリミングテープにより上端縁をトリミングしたことを特徴とする請求項1、2又は3の手術用マスク。
【請求項6】
マスク本体は、両側部にタック又はギャザーを設けることにより、中央部を外側に膨出させたことを特徴とする請求項1、2、3、又は5の手術着用マスク。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−297394(P2009−297394A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157821(P2008−157821)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(594158460)ナガイレーベン株式会社 (10)