説明

手袋

【課題】全体を薄肉化して指先の細かい作業等に適用可能で、しかも透湿性に優れ長時間装着しても汗によって手が蒸れたりべたついたりしにくい上、防水性を有し外部から水が侵入しにくい手袋を提供する。
【解決手段】全体をゴムまたは樹脂からなり、透湿度が100g/m・hr以上で、かつ厚みが0.07mm以上、2.0mm以下の多孔質膜によって一体に形成するとともに、その片面に、不透水性でかつ透湿性の薄膜を積層した手袋である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体がゴムまたは樹脂の皮膜によって一体に形成された手袋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般家庭や工場、医療現場、あるいはスポーツといった様々な場面において人の手肌を保護したり、食中毒や感染症等を防止したり、あるいは取り扱う対象物(半導体や精密機器等)を手肌の皮脂等から保護したりするために、各種の手袋が広く利用されている。
特に、全体がゴムまたは樹脂の皮膜によって一体に形成された手袋は、薄肉で指先の細かい作業等にも適しているため広く利用されている。
【0003】
前記手袋は、いわゆる浸漬法によって製造するのが一般的である。
例えば、全体がゴムの皮膜によって一体に形成された手袋を製造する場合は、まずゴムラテックスに加硫剤等の各種添加剤を配合して未加硫もしくは前加硫状態の浸漬液を調製する。また手袋の立体形状に対応した型を用意して、その表面を凝固剤で処理する。
次いで、前記型を前記浸漬液に一定時間に亘って浸漬したのち引き上げることで、型の表面に浸漬液を付着させる。
【0004】
そして引き上げた型ごと加熱して浸漬液を乾燥させるとともにゴムを加硫させるか、あるいは一旦乾燥させた後に型ごと加熱してゴムを加硫させたのち脱型することにより手袋が製造される。
また、全体が樹脂の皮膜によって一体に形成された手袋は、樹脂のエマルションに各種添加剤を配合して調製した浸漬液を使用すること以外は前記と同様にして製造することができる。
【0005】
ところが、前記ゴムや樹脂の皮膜は透湿性や吸湿性を有さないため、前記手袋を長時間装着していると、汗によって手が蒸れたりべたついたりして不快感を生じるという問題がある。
手袋の透湿性や吸湿性を高めるために、種々検討がされている。
例えば特許文献1には、平均単繊維径1〜1000nmの繊維からなり、透湿性を有する粒子除去層と、繊維状活性炭織物等からなるガス吸着層とを積層するとともに、その縫い目部分を有機化学物質に対して透過抑制性を有する樹脂でシールした防護手袋が記載されている。
【0006】
特許文献2には、縦方向の引張伸度が170%以上、厚みが500μm以下の繊維生地からなる編手に、ウレタン樹脂の発泡層を含浸被着させた手袋が記載されている。
特許文献3には、手袋本体の内面に糸を隆起状に編み出して凸条部を形成した作業用手袋が記載されている。
特許文献4には、掌部の少なくとも一部および指部の掌側の少なくとも一部を、0.3デシテックス以下の極細繊維からなる不織布および高分子弾性体を基体とする人工皮革シートで形成したスポーツ用手袋が記載されている。
【0007】
特許文献5には、高分子弾性体および繊維絡合不織布からなる基体層の上に、ポリウレタン樹脂、直鎖型エステル系ウレタンオリゴマー、またはフッ素変性ポリウレタン樹脂混合物からなる多孔質表面層を一体化した手袋用の皮革様シートが記載されている。
特許文献6には、ゴムまたは樹脂からなる防水層の内側に、織布または不織布からなる伸縮性補強層と、織布等からなる通気層とを順に積層した作業用手袋が記載されている。
【0008】
さらに特許文献7には、2層のプラスチックフィルム材間に1層の不織布シートを挟んだプラスチックフィルム製手袋が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−214768号公報
【特許文献2】特開2008−38303号公報
【特許文献3】特開2007−9346号公報
【特許文献4】特開2001−293125号公報
【特許文献5】特開2004−11041号公報
【特許文献6】特開2007−126761号公報
【特許文献7】特開平8−144112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、前記特許文献1〜7の手袋はいずれも、布や編手、あるいは人工皮革等の部材を含むため、全体がゴムまたは樹脂の皮膜によって一体に形成された手袋のように薄肉化することが難しく、指先の細かい作業などには適していない。また、例えば特許文献3〜5の手袋は、表面から内部へ水が侵入するのを防止できないという問題もある。
本発明の目的は、全体を薄肉化して指先の細かい作業等に適用可能で、しかも透湿性に優れ長時間装着しても汗によって手が蒸れたりべたついたりしにくい上、防水性を有し外部から水が侵入しにくい手袋を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、全体がゴムまたは樹脂の皮膜によって一体に形成された手袋であって、前記皮膜は、透湿度が100g/m・hr以上で、かつ厚みが0.07mm以上、2.0mm以下の多孔質膜であるとともに、前記多孔質膜の片面には、不透水性でかつ透湿性の薄膜が積層されていることを特徴とするものである。
本発明によれば、前記所定の透湿度と厚みとを備えた、高い透湿性を有する多孔質膜によって手袋の全体を形成するとともに、前記多孔質膜の片面に、不透水性でかつ透湿性の薄膜を積層することで、前記手袋に、前記多孔質膜による良好な透湿性を維持しながら、さらに良好な防水性をも付与して、外部から水が侵入するのを防止することができる。
【0012】
しかも本発明によれば、前記手袋は、前記のように厚みが2.0mm以下の多孔質膜と、その片面に形成された薄膜からなるため、全体を薄肉化して指先の細かい作業等にも適用可能である。
なお、薄膜に良好な不透水性と透湿性とを付与することを考慮すると、前記薄膜はポリウレタン、または前記ポリウレタンと、前記多孔質膜のもとになるゴムまたは樹脂との混合物によって形成するのが好ましい。
【0013】
また、薄膜に良好な不透水性と透湿性とを付与しつつ、手袋の全体を薄肉化して指先の細かい作業等にも適用可能とすることを考慮すると、前記薄膜の厚みは5μm以上、200μm以下とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、全体を薄肉化して指先の細かい作業等に適用可能で、しかも透湿性に優れ長時間装着しても汗によって手が蒸れたりべたついたりしにくい上、防水性を有し外部から水が侵入しにくい手袋を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、全体がゴムまたは樹脂の皮膜によって一体に形成された手袋であって、前記皮膜は、透湿度が100g/m・hr以上で、かつ厚みが0.07mm以上、2.0mm以下の多孔質膜であるとともに、前記多孔質膜の片面には、不透水性でかつ透湿性の薄膜が積層されていることを特徴とするものである。
前記のうち多孔質膜は、従来の皮膜と同様に、浸漬法によって、ゴムのラテックスを含む浸漬液を型の表面に付着させて手袋の形状に成膜するとともにゴムを加硫させるか、あるいは樹脂のエマルションを含む浸漬液を型の表面に付着させて手袋の形状に成膜するとともに樹脂を固化または硬化させることによって形成することができる。
【0016】
この際、型の表面に付着させる前の浸漬液を、あらかじめかく拌して泡立たせておいたり、あるいは浸漬液にあらかじめ発泡剤を配合しておき、前記浸漬液を型の表面に付着させたのち、ゴムの加硫時や樹脂の固化または硬化時の熱によって発泡させたりすることで多孔質膜が形成される。特に浸漬液を泡立たせて多孔質膜を形成するのが、発泡剤の配合を省略して低コスト化等を図る上で好ましい。
【0017】
前記多孔質膜としては、その表裏両面間に亘って孔が連通した連続気孔構造を有するもの、それぞれの孔が独立した独立気孔構造を有するもの、あるいは連続気孔構造と独立気孔構造が混在した複合構造を有するもの等、任意の気孔構造を有する多孔質膜がいずれも採用できる。
このうち独立気孔構造を有する多孔質膜は、他の多孔質膜に比べて透湿度が低くなる傾向があるが、隣り合う独立気孔間の薄い膜自体の持つ透湿性によって全体の透湿度が前記100g/m・hr以上を確保しうるものであれば、採用することができる。
【0018】
本発明において、多孔質膜の透湿度が100g/m・hr以上に限定されるのは、透湿度が前記範囲未満では手袋全体での透湿性が不足して、長時間装着した際に汗によって手が蒸れたりべたついたりしやすくなるためである。
なお、前記効果をより一層向上することを考慮すると、多孔質膜の透湿度は、前記範囲内でも125g/m・hr以上、特に250g/m・hr以上であるのが好ましい。
【0019】
ただし、透湿度を過剰に高くするためには、多孔質膜の厚みを過剰に小さくしたり、あるいは発泡倍率を過剰に大きくしたりしなければならず、結果として手袋の強度等が低下するおそれがある。
そのため、手袋に適度な強度を付与すること等をも考慮すると、多孔質膜の透湿度は、前記範囲内でも300g/m・hr以下であるのが好ましい。
【0020】
多孔質膜の透湿度を前記範囲内に調整するためには、例えば前記多孔質膜を形成するゴムまたは樹脂の種類を変更したり、多孔質膜の厚みや発泡倍率等を調節したりすればよい。
なお本発明では、透湿度を、日本工業規格JIS L1099:2006「繊維製品の透湿度試験方法」所載のA法に則って測定した値でもって表すこととする。
【0021】
また、本発明において多孔質膜の厚みが0.07mm以上に限定されるのは、例えば浸漬法では、厚みが前記範囲未満の連続した多孔質膜を形成できないためである。また、形成できたとしても手袋の強度等が低下するためである。
一方、多孔質膜の厚みが2.0mm以下に限定されるのは、前記範囲を超える厚みの大きい多孔質膜を有する手袋では、全体を薄肉化して指先の細かい作業等に適用できないためである。また、多孔質膜の透湿度が低下することで手袋全体での透湿性が不足して、長時間装着した際に汗によって手が蒸れたりべたついたりしやすくなるためである。
【0022】
なお、手袋に適度な強度を付与しながら、その全体をできるだけ薄肉化して指先の細かい作業等に適用できるようにすることを考慮すると、多孔質膜の厚みは、前記範囲内でも0.1mm以上であるのが好ましく、1.5mm以下、中でも1.0mm以下、特に0.6mm以下であるのが好ましい。
多孔質膜の厚みを前記範囲内に調整するためには、例えば前記浸漬法によって浸漬液を型の表面に付着させる際の条件等を調節したりすればよい。
【0023】
多孔質膜は単層でもよいし、2層以上の積層構造であってもよい。積層構造の多孔質膜は、そのトータルの厚みが前記0.07mm以上、2.0mm以下の範囲内となるように、前記積層構造の多孔質膜を構成する各層の厚みを設定すればよい。
多孔質膜を形成するゴムとしては天然ゴム、および合成ゴムの中からラテックス化が可能な種々のゴムがいずれも使用可能であり、かかるゴムとしては、例えば天然ゴム、脱蛋白天然ゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0024】
前記ゴムを加硫させる加硫剤としては硫黄や有機含硫黄化合物等が挙げられる。前記加硫剤の配合割合は、ゴムラテックス中の固形分(ゴム分)100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下であるのが好ましい。
前記ゴムおよび加硫剤を含む浸漬液中には、さらに加硫促進剤、加硫促進助剤、老化防止剤、充填剤、分散剤、安定剤、発泡剤等の各種添加剤を配合してもよい。
【0025】
このうち加硫促進剤としては、例えばPX(N−エチル−N−フェニルジチオカルバミン酸亜鉛)、PZ(ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛)、EZ(ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛)、BZ(ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛)、MZ(2−メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩)、TT(テトラメチルチウラムジスルフィド)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0026】
前記加硫促進剤の配合割合は、ゴムラテックス中のゴム分100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下であるのが好ましい。
加硫促進助剤としては、例えば亜鉛華(酸化亜鉛)、および/またはステアリン酸等が挙げられる。前記加硫促進助剤の配合割合は、ゴムラテックス中のゴム分100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下であるのが好ましい。
【0027】
老化防止剤としては、一般に非汚染性のフェノール類が好適に用いられるが、アミン類を使用してもよい。前記老化防止剤の配合割合は、ゴムラテックス中のゴム分100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下であるのが好ましい。
充填剤としては、例えばカオリンクレー、ハードクレー、炭酸カルシウム等の1種または2種以上が挙げられる。前記充填剤の配合割合は、ゴムラテックス中のゴム分100質量部あたり10質量部以下であるのが好ましい。
【0028】
分散剤は、前記各種添加剤をゴムラテックス中に良好に分散させるために配合されるものであり、前記分散剤としては、例えば陰イオン系界面活性剤等の1種または2種以上が挙げられる。前記分散剤の配合割合は、分散対象である成分の総量の0.3質量部以上、1質量部以下であるのが好ましい。
安定剤は、前記のように型の表面に付着させる前の浸漬液を泡立たせる際に、前記泡立ちを助けるためのものであり、前記安定剤としては、例えば界面活性剤等の、浸漬液の泡立ちを助ける機能を有する種々の安定剤が使用可能である。前記安定剤は、例えば発泡剤を発泡させて多孔質膜を形成する場合は省略しても良いが、配合する場合は、求められる透湿度を実現しうる所定の厚み、および発泡倍率を有する多孔質膜を形成できるように、その配合割合を適宜設定すればよい。
【0029】
発泡剤は、前記のように型の表面に付着させた浸漬液を、ゴムの加硫時の熱によって発泡させて多孔質膜を形成するためのものであり、前記発泡剤としては、浸漬液中に分散させることができ、しかもゴムの加硫時の熱によって発泡させることができる種々の発泡剤が使用可能である。前記発泡剤は、浸漬液を泡立たせて多孔質膜を形成する場合は省略しても良いが、配合する場合は、求められる透湿度を実現しうる所定の厚み、および発泡倍率を有する多孔質膜を形成できるように、その配合割合を適宜設定すればよい。
【0030】
一方、多孔質膜を形成する樹脂としては、塩化ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂等の、エマルション化が可能な樹脂の1種または2種以上が挙げられる。
このうちウレタン系樹脂や硬化性アクリル系樹脂等の熱硬化性樹脂によって多孔質膜を形成する場合は、前記浸漬法によって浸漬液を型の表面に付着させ、次いで一旦乾燥させた後に必要に応じて型ごと加熱して樹脂を硬化反応させるか、あるいは型ごと加熱して浸漬液を乾燥させるのと同時に樹脂を硬化反応させればよい。
【0031】
また、塩化ビニル系樹脂や熱可塑性のアクリル系樹脂等の熱可塑性樹脂によって多孔質膜を形成する場合は、型ごと浸漬液を乾燥させて樹脂を固化させればよい。また、型ごと加熱して浸漬液を乾燥させ、次いで冷却して樹脂を固化させてもよい。
前記樹脂を含む浸漬液中には、さらに老化防止剤、充填剤、分散剤、安定剤、発泡剤等の各種添加剤を配合してもよい。
【0032】
このうち老化防止剤としては、先に例示した非汚染性のフェノール類やアミン類等の1種または2種以上が挙げられる。前記老化防止剤の配合割合は、樹脂エマルション中の固形分(樹脂分)100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下であるのが好ましい。
充填剤としては、前記例示の充填剤の1種または2種以上が挙げられる。前記充填剤の配合割合は、樹脂エマルション中の樹脂分100質量部あたり10質量部以下であるのが好ましい。
【0033】
分散剤としては、前記例示の陰イオン系界面活性剤等の1種または2種以上が挙げられる。前記分散剤の配合割合は、分散対象である成分の総量の0.3質量部以上、1質量部以下であるのが好ましい。
安定剤としては、前記のように界面活性剤等の、浸漬液の泡立ちを助ける機能を有する種々の安定剤が使用可能である。前記安定剤は省略しても良いが、配合する場合は、求められる透湿度を実現しうる所定の厚み、および発泡倍率を有する多孔質膜を形成できるように、その配合割合を適宜設定すればよい。
【0034】
発泡剤としては、前記のように浸漬液中に分散させることができ、しかも樹脂の固化または硬化時の熱によって発泡させることができる種々の発泡剤が使用可能である。前記発泡剤は省略しても良いが、配合する場合は、求められる透湿度を実現しうる所定の厚み、および発泡倍率を有する多孔質膜を形成できるように、その配合割合を適宜設定すればよい。
【0035】
また樹脂がウレタン系樹脂等の熱硬化性樹脂である場合は、さらに当該樹脂の架橋剤、硬化剤等を、前記浸漬液中に、適宜の割合で配合してもよい。
前記多孔質膜の片面、すなわち多孔質膜からなる手袋の内面または外面には、不透水性でかつ透湿性の薄膜が積層される。
前記薄膜としては、不透水性でかつ透湿性を有する種々の材料からなる薄膜が挙げられる。前記薄膜は、例えばポリウレタン、シリコーンゴム、セルロースアセテート、エチルセルロース、およびポリビニルアルコールからなる群より選ばれた少なくとも1種のポリマ、または前記ポリマと、前記多孔質膜のもとになるゴムまたは樹脂との混合物等によって形成することができる。
【0036】
特に、薄膜に良好な不透水性と透湿性とを付与することを考慮すると、前記薄膜はポリウレタン、または前記ポリウレタンと、前記多孔質膜のもとになるゴムまたは樹脂との混合物によって形成するのが好ましい。
また、前記薄膜の厚みは5μm以上、特に10μm以上であるのが好ましく、200μm以下、中でも100μm以下、特に50μm以下であるのが好ましい。
【0037】
厚みが前記範囲未満では、多孔質膜の片面に、良好な不透水性を有する連続した薄膜を形成できないため、外部から水が侵入するのを確実に防止できないおそれがある。
一方、厚みが前記範囲を超える場合には、薄膜に十分な透湿性を付与できないため、手袋を長時間装着した際に汗によって手が蒸れたりべたついたりしやすくなるおそれがある。
【0038】
さらに前記薄膜は、良好な不透水性を確保するために、非多孔質膜であるのが好ましい。
前記薄膜は、そのもとになる、前記ポリマ等を含む塗布液を調製し、前記塗布液を、例えば浸漬法、スプレー法等の任意の塗布方法によって、先に形成した多孔質膜の表面に塗布したのち乾燥させることによって形成できる。
【0039】
また、前記ポリマがポリウレタンやシリコーンゴム等の架橋性のポリマである場合、前記浸漬液中には、当該ポリマの架橋剤、硬化剤等を、適宜の割合で配合しておき、前記乾燥と同時に、あるいは乾燥後に加熱する等してポリマを架橋反応させればよい。
前記薄膜の形成工程は、先に形成した多孔質膜を型に装着した状態のままで実施するのが、作業工程上は好ましいが、型から外した多孔質膜の表面に、後から薄膜を形成してもよい。また、多孔質膜を形成する前の型の表面に、前記手順で先に薄膜を形成したのち、後から多孔質膜を形成してもよい。
【0040】
先に説明したように多孔質膜は2層以上の積層構造に形成してもよいが、そのうちの少なくとも1層は、積層構造の多孔質膜のトータルの厚みが前記0.07mm以上、2.0mm以下の範囲内で、かつ透湿度が100g/m・hr以上の範囲を維持できるのであれば、非多孔質の膜(例えば前記薄膜と同様の膜など)であってもよい。
ただし、いわゆるサポートタイプの手袋を構成する繊維製の編手袋は、手袋の薄肉化を妨げ、作業性を低下させるため、本発明では積層させないこととする。
【実施例】
【0041】
〈実施例1〉
(多孔質膜用の浸漬液の調製)
天然ゴムラテックスに、当該天然ゴムラテックス中のゴム分(乾燥ベース)100質量部あたり、加硫剤としての硫黄1質量部、加硫促進剤BZ(ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛)1質量部、加硫促進助剤としての亜鉛華1質量部、および老化防止剤としてのp−クレゾールとジクロロペンタジエンのブチル化生成物の適量を配合したのちかく拌しながら30℃で24〜48時間前加硫させた。
【0042】
次いで前記天然ゴムラテックスを、かく拌器を用いて高速かく拌することで泡立たせて、多孔質膜用の浸漬液を調製した。
(多孔質膜の形成)
型としては、陶器製で手袋の形状に対応するものを用意した。
前記型を、まず25%硝酸カルシウム水溶液に浸漬し、引き上げたのち乾燥させることで、前記型の表面を凝固剤としての硝酸カルシウムによって処理した。
【0043】
次いで前記型を、液温を25℃に保持した先の多孔質膜用の浸漬液に一定の速度で浸漬し、30秒間保持したのち一定の速度で引き上げることで、前記型の表面に浸漬液を付着させた。
そして引き上げた型ごと100℃に加熱したオーブン中に入れて30分間加熱して浸漬液を乾燥させるとともにゴムを加硫させて、手袋の全体を構成する、天然ゴムからなる単層構造の多孔質膜を形成した。
【0044】
前記多孔質膜の透湿度を、日本工業規格JIS L1099:2006「繊維製品の透湿度試験方法」所載のA法に則って測定したところ125g/m・hrであった。また厚みを、マイクロメータを用いて測定したところ0.5mmであった。
(薄膜用の塗布液の調製)
ポリウレタン系の水性コート剤〔DIC(株)製のハイドラン(登録商標)WLS−208〕に、前記水性コート剤中のポリウレタン100質量部あたり4質量部の架橋剤〔DIC(株)製のハイドラン アシスタCS−7〕を配合して、薄膜用の塗布液を調製した。
【0045】
(手袋の製造)
先に型の表面に形成した多孔質膜の表面に、前記薄膜用の塗布液を、乾燥後の厚みが20μmとなるように塗布して乾燥させるとともにポリウレタンを架橋反応させて薄膜を形成したのち脱型して、前記多孔質膜と薄膜の2層構造からなる手袋を製造した。
〈実施例2〜4、比較例1〉
浸漬液の泡立たせ方、および型の浸漬条件等を調整して、天然ゴムからなり、下記表1に示す透湿度、および厚みを有する単層構造の多孔質膜を形成したこと以外は実施例1と同様にして、前記多孔質膜と、ポリウレタンの薄膜の2層構造からなる手袋を製造した。
【0046】
【表1】

【0047】
〈比較例2〉
浸漬液の泡立たせ方、および型の浸漬条件等を調整して、厚み0.05mmの多孔質膜を形成しようと試みたが、連続した多孔質膜を形成できなかったため、薄膜の形成、および特性の評価を断念した。
〈比較例3〉
天然ゴムからなる、実施例2で形成したのと同じ単層構造の多孔質膜を、薄膜を形成せずに脱型して、前記多孔質膜のみからなる単層構造の手袋とした。
【0048】
〈比較例4〉
天然ゴムからなる、実施例2で形成したのと同じ単層構造の多孔質膜の上に、実施例1で調製したのと同じ各成分からなり、泡立たせる前の状態の多孔質膜用の浸漬液を塗布し、加熱して浸漬液を乾燥させるとともにゴムを加硫させて、天然ゴムからなる、不透水性でかつ不透湿性の薄膜(厚み20μm)を形成したこと以外は実施例2と同様にして、前記多孔質膜と薄膜の2層構造からなる手袋を製造した。
【0049】
〈透湿度測定〉
前記各実施例、比較例で製造した手袋の透湿度を、前記JIS L1099:2006「繊維製品の透湿度試験方法」所載のA法に則って測定した。
〈官能試験〉
前記各実施例、比較例で製造した手袋を6名の被験者に装着してもらい、装着10分後の蒸れの有無を下記の5段階で評価してもらった。そして、最も人数の多かった段階でもってその手袋の蒸れにくさの評価とした。
【0050】
A:全く蒸れなかった。
B:殆ど蒸れなかった。
C:僅かに蒸れた。
D:蒸れた。
E:非常に蒸れた。
【0051】
〈防水性試験〉
前記各実施例、比較例で製造した手袋を装着した状態で10分間水に浸漬した際に、内部に水が侵入しなかったものを防水性あり、水が侵入したものを防水性なしとして評価した。
以上の結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2の比較例3の結果より、天然ゴムの多孔質膜単独からなる手袋は透湿性に優れ、蒸れを生じないものの防水性がなく、外部から水が侵入するのを防止できないことが判った。
また比較例4の結果より、前記多孔質膜と、天然ゴムからなる不透水性でかつ不透湿性の薄膜とを積層した手袋は防水性を有し、外部から水が侵入するのを防止できるものの透湿性がなく、長時間装着した際に手が非常に蒸れることが判った。
【0054】
これに対し実施例1〜4の結果より、前記多孔質膜と、ポリウレタンからなる不透水性でかつ透湿性の薄膜とを積層した手袋は防水性を有し、外部から水が侵入するのを防止できるとともに透湿性にも優れ、蒸れを生じないことが判った。
また前記実施例1〜4と比較例1の結果より、手袋全体の透湿性を向上して蒸れを生じないようにするためには、前記多孔質膜の透湿度が100g/m・hr以上である必要があることが判った。
【0055】
さらに実施例1〜4と比較例2の結果より、連続した多孔質膜を形成するためには、前記多孔質膜の厚みが0.07mm以上である必要があることが判った。
〈実施例5〉
下記の手順で調製した多孔質膜用の浸漬液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、NBRからなり、透湿度250g/m・hr、厚み0.5mmの単層構造の多孔質膜を形成し、次いで前記実施例1と同様にして、前記多孔質膜と、ポリウレタンの薄膜の2層構造からなる手袋を製造した。
【0056】
(多孔質膜用の浸漬液の調製)
NBRラテックス〔日本ゼオン(株)製のNIPOL(登録商標)LX550〕に、当該NBRラテックス中のゴム分(乾燥ベース)100質量部あたり、加硫剤としての硫黄1質量部、加硫促進剤BZ(ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛)1質量部、加硫促進助剤としての亜鉛華2質量部、および老化防止剤としてのp−クレゾールとジクロロペンタジエンのブチル化生成物の適量を配合したのちかく拌しながら30℃で24〜48時間前加硫させた。
【0057】
次いで前記NBRラテックスを、かく拌器を用いて高速かく拌することで泡立たせて、多孔質膜用の浸漬液を調製した。
〈実施例6〉
下記の手順で調製した多孔質膜用の浸漬液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、CRからなり、透湿度250g/m・hr、厚み0.5mmの単層構造の多孔質膜を形成し、次いで前記実施例1と同様にして、前記多孔質膜と、ポリウレタンの薄膜の2層構造からなる手袋を製造した。
【0058】
(多孔質膜用の浸漬液の調製)
CRラテックス〔昭和電工(株)製のショウプレン(登録商標)671A〕に、当該CRラテックス中のゴム分(乾燥ベース)100質量部あたり、加硫剤としての硫黄1質量部、加硫促進剤BZ(ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛)1質量部、加硫促進助剤としての亜鉛華1質量部、および老化防止剤としてのp−クレゾールとジクロロペンタジエンのブチル化生成物の適量を配合したのちかく拌しながら30℃で24〜48時間前加硫させた。
【0059】
次いで前記CRラテックスを、かく拌器を用いて高速かく拌することで泡立たせて、多孔質膜用の浸漬液を調製した。
〈実施例7〉
アクリルエマルション〔日本ゼオン(株)製のNIPOL LX874〕を、かく拌器を用いて高速かく拌することで泡立たせて、多孔質膜用の浸漬液を調製した。
【0060】
そして前記浸漬液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、アクリル系樹脂からなり、透湿度250g/m・hr、厚み0.5mmの単層構造の多孔質膜を形成し、次いで前記実施例1と同様にして、前記多孔質膜と、ポリウレタンの薄膜の2層構造からなる手袋を製造した。
〈実施例8〉
下記の手順で調製した多孔質膜用の浸漬液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、塩化ビニル系樹脂からなり、透湿度250g/m・hr、厚み0.5mmの単層構造の多孔質膜を形成し、次いで前記実施例1と同様にして、前記多孔質膜と、ポリウレタンの薄膜の2層構造からなる手袋を製造した。
【0061】
(多孔質膜用の浸漬液の調製)
塩化ビニル樹脂粉末100質量部に、ジ−2−エチルヘキシルフタレート100質量部、およびカルシウム−亜鉛系安定剤〔(株)ADEKA製のアデカスタブ(登録商標)AC−116〕3質量部を配合したのち混練して塩化ビニルペーストゾルを調製した。
次いで前記塩化ビニルペーストゾルを、かく拌器を用いて高速かく拌することで泡立たせて、多孔質膜用の浸漬液を調製した。
【0062】
前記各実施例で製造した手袋について、先の各試験を実施した。結果を表3に示す。
【0063】
【表3】

【0064】
表3の実施例5〜8、および先の表2の実施例2の結果より、多孔質膜を、天然ゴムに代えて合成ゴムや樹脂で形成しても、その透湿度および厚みを同等に設定することで、同等の結果が得られることが判った。
〈実施例9〉
実施例1で調製したのと同じ各成分からなり、泡立たせる前の状態の多孔質膜用の浸漬液と、同じく実施例1で調製したのと同じ、ポリウレタン系の薄膜用の塗布液とを質量比で1:1となるように配合して薄膜用の塗布液を調製した。
【0065】
そして前記塗布液を用いて、天然ゴムからなる単層構造の多孔質膜の上に、前記天然ゴムとポリウレタンとの混合物からなる、不透水性でかつ透湿性の薄膜(厚み20μm)を形成したこと以外は実施例2と同様にして、前記多孔質膜と薄膜の2層構造からなる手袋を製造した。
〈実施例10、11〉
ポリウレタンからなる薄膜の厚みを5μm(実施例10)、100μm(実施例11)としたこと以外は実施例2と同様にして、天然ゴムからなる単層構造の多孔質膜と、前記薄膜の2層構造からなる手袋を製造した。
【0066】
前記各実施例で製造した手袋について、先の各試験を実施した。結果を表4に示す。
【0067】
【表4】

【0068】
表4の実施例9、および先の表2の実施例2の結果より、ポリウレタンからなる薄膜に代えて、ポリウレタンと天然ゴムとの混合物からなり、不透水性でかつ透湿性を有する薄膜を形成しても、同等の結果が得られることが判った。
また実施例10、11、および実施例2の結果より、薄膜の厚みは5μm以上、200μm以下であるのが好ましいことが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体がゴムまたは樹脂の皮膜によって一体に形成された手袋であって、前記皮膜は、透湿度が100g/m・hr以上で、かつ厚みが0.07mm以上、2.0mm以下の多孔質膜であるとともに、前記多孔質膜の片面には、不透水性でかつ透湿性の薄膜が積層されていることを特徴とする手袋。
【請求項2】
前記薄膜はポリウレタン、または前記ポリウレタンと、前記多孔質膜のもとになるゴムまたは樹脂との混合物からなる請求項1に記載の手袋。
【請求項3】
前記薄膜の厚みは5μm以上、200μm以下である請求項1または2に記載の手袋。

【公開番号】特開2013−87374(P2013−87374A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226849(P2011−226849)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】