説明

打上花火用揚げ薬組成物

【課題】 揚げ薬は、爆轟現象が発生することなく燃焼領域で推進ガスを発現するため、安全性が著しく向上した煙火打ち揚げ作業が確保され、かつ打上薬量の低減化による安価で快適な打ち上げ作業を可能する。
【解決手段】 65〜85重量部の過酸化カルシウムに対して15〜35重量部のアルミニウム粉末が混合されてなる過酸化カルシウム・アルミニウム粉配合発熱成分100部に対して燃焼ガス発生成分として外割りで20〜100重量部のポリオキシメチレン粉を配合してなる打上花火用揚げ薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、煙量少なく、黒色火薬に優る揚力(推力)が得られる、特に打ち上げ花火の揚げ薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
花火の業界においても、火薬配合組成物における重金属類の使用の逓減、抑制が、環境衛生上の配慮が強く求められている。打ち上げ花火は、打ち上げ筒内の装填される打ち上げ玉の下方乃至下部に装填したる揚げ薬の推力によって打ち上げられる。この打ち上げ花火の揚げ薬には、発生煙量が多いが使い易く、割り薬への着火が容易に行える黒色小粒薬が実用されているのが現状である。揚げ薬の働きは、玉を揚げると同時に割り玉の導火線に確実に点火しなければならない。花火業界では、黒色火薬が.この両機能を確実に発揮するものと業界では信じられ実用化されてきた。〈文献1参照〉。
黒色火薬は、木炭粉、硫黄粉及び硝石粉の粉体混合組成物であり、これら組成物粉体を圧摩工程と水質造粒工程で製造されが、時として約1%未満程度の天然若しくは合成ゴム等のバインダーで顆粒が整えられ見かけ密度0.85〜1.05g/cm範囲にある粉体配合組成物の造粒体である。
黒色小粒火薬は、木炭、硫黄という易可燃性物質の粉体を強い酸化剤の粉体とを湿式圧摩プロセスで混合、造粒し調製された火薬組成物であり、原料それ自体は安価であるものの、製造、加工のコストが嵩む火薬組成物である。加えて、花火の打ち上げ現場で、黒色火薬は黒煙と硫黄の燃焼ガスを環境に発散するという宿命的な欠点をもっている。したがって、花火の観賞上の景観と、環境をより清浄に保つ上でも、黒色火薬に代わる揚げ薬が期待されていた。
従来、高圧ガス発生組成物として酸化鉄、酸化銅等の酸化剤成分と金属アルミニュウムの還元剤からなるテルミット剤が適切なエネルギー源(高熱、高電流印加等)をうけることによって酸化還元反応とそれに伴った高熱が発生するため、この組成物に配合された結晶水をもつ無機硫酸塩化合物から瞬間的に水蒸気を放出し、あるいはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリオキシメチレン(POM)等の高分子物体が瞬時に分解ガスを放出し岩盤あるいはコンクリート物体の破砕薬剤として実用化されてきた。
該破砕薬剤は低振動、低騒音の低公害破砕薬として使用せれているものの、反応残渣に銅化合物、或いは硫酸化合物等土壌汚染物質が発生するため破砕後土壌改良の後処置が発生する課題が残されている。
【0003】
【文献1】
「花火の化学」細谷政夫、細谷文雄共著(東海大学出版会1999年8月5日第1版第1刷発行)
【特許文献2】 特開平3−277181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は煙量少なくして、黒色火薬と同等以上の発射力をもつ打ち揚げ用薬組成物であり、さらに打ち上げ後の浮遊する粉塵固形残渣及び発生ガスが人体および土壌環境に有害な影響を持たない打上花火揚げ薬組成物を提供するもである。また本発明による打ち揚げ薬組成物はコストの低減化とともに、電気導火線による点火が容易に行える熱特性をもつため作業安全性は著しく向上し、かつ打上げ筒の温度上昇が軽減するため筒揆事故の発生頻度が激減し、より安全で快適な花火の打ち上げ作業に道を拓くができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、過酸化カルシウムと金属アルミニュウム粉とで構成される特定組成のテルミット系発熱源で特定量の粉状ポリオキシメチレンを瞬時にガス化せしめることで、推力、低煙化、低コスト化等の前記した課題を解決した。
すなわち本発明は、65〜85重量部の過酸化カルシウムに対して15〜35重量部のアルミニウム粉末が混合されてなる過酸化カルシウム・アルミニウム粉配合発熱成分100部に対して燃焼ガス発生成分として外割りで20〜100重量部のポリオキシメチレン粉を配合してなる打ち上げ花火用揚げ薬組成物である。
【0006】
本発明の打上花火用の揚げ薬は、最も一般的には、過酸化カルシウム、アルミニウム粉、粉末ポリオキシメチレンを所定の配合割合でトルエン等の不活性の有機溶媒の存在下、湿潤混和の後、網造粒等の工程を経て0.6〜0.9g/cmの見かけ密度を有する0.2〜1.2mm範囲の造粒径を有する粒薬の形態に調製されている。通常、湿式下の混和過程でゴム等の合成高分子系バインダーが配合粉体重量に対して概ね2%以下の割合で添加され、造粒体の形態、摩擦安定を付与する。混和組成中、パラフィンワックス、シリコーン類、ステアリン酸、ステアリン酸アルミニウム等の高級脂肪酸金属塩などの撥水剤や、アルミニュウムの酸化防止剤がアルミニウムに対して0.1〜0.3重量%程度添加することも、又ポリテトラフルオロエチレンのような粉塵飛散防止剤を添加することも好ましい設計である。
【0007】
過酸化カルシウム(CaO)は、粒子径が50〜300μmの範囲にあり、より好ましくは80〜250μmの粒子径の範囲にある。本発明で用いられる過酸化カルシウムはCaO濃度が設定された市販品、若しくはCaClとHとの反応によって得られた所定酸素含有量に調製した過酸化カルシュウムを用いることができ後述する。
参照:文献:実験化学講座、無機物の合成IIp.245(丸善)(文献1)
アルミニウム粉末の粒子径は30〜50μm,好ましくは38〜43μm範囲のできるだけ小さい粒子径範囲を有するアルミ粉体を用いることが適している。
次にポリオキシメチレン粉末の粒子径は150〜550μmの範囲のものが用いられ 好ましくは200〜400μmである。 粉末ポリオキシの製造はミル破砕、若しくはポリオキシメチレンの溶液をノズル径とその速度を変えて噴霧することに所定の粒子径をもつポリオキシメチレン粉末を得ることができる。
3成分系の粉体粒子径を各々最適化することにより各反応物の接触面積を大きくし、配合成分の固―固反応速度を高めポリオキシメチレンの高速分解によるガス化速度を所定の値に調節することができる。
【0008】
過酸化カルシウム〈分子量、72.08;酸素含量44.41重量%〉は、塩化カルシウム6水和物11gを5mlの水に溶解し、3重量%過酸化水素水50mlを混合して処理し、この溶液に希薄アンモニア水を加え冷却するとCaO・8HOが沈殿する。
これをろ過、水洗、乾燥し、炭酸ガスを含まない酸素気流中で熱するとCa(OH)の不純物をもつ無水和物CaOが得られる。本発明で用いられる過酸化カルシウムは、過酸化物純分が70重量%好ましくは80重量%以上であることが好ましい。
本発明において、粒薬の粒子径は打ち上げ用黒色火薬と同様レベルであり、概ね0.2〜1.2mmで選ばれる。本発明の揚げ薬の燃焼速度(開放燃焼速度)は 黒色火薬の燃焼速度が400〜600m/secに対し、本発明による組成物の燃焼速度は400〜800m/secの範囲にある。
かくして、本発明の打ち揚げ薬は打上筒内で割玉薬への導火線に対する確実な着火を達成することができ打ち揚げ薬として実用化することが可能となった。
参照:火災爆発危険性の測定p.55,疋田強(文献2)
本発明の揚げ薬による花火の打上方法は、鉄製もしくは強化プラスチックからなる通常直径10〜30cm、長さ1.0〜1.5mの発射筒下部に本発明による揚げ薬20〜50gを充填しその上部に円形の打上玉を設置し、揚げ薬に導火線若しくは電気導火線へ点火することにより上空へ打上玉を発射する方法がとられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る揚げ薬は、過酸化カルシウムを酸化剤とし粉状アルミニウムを還元剤とするテルミット反応によって発生する熱源により、ポリオキシメチレンの急速分解ガス化により、黒色火薬と同等以上の推力を発現することができる効果が発揮される。本発明の揚げ薬は粒薬ないし細粒の形態で用いられ、安全な電熱点火方式により容易に確実に着火させることができ、しかも着火時の煙量が黒色火薬に比べて著しく少ない特徴を持っている。本発明の揚げ薬は爆轟することなく、高速のガス発生速度を達成することができるので、打上薬量の減少、打ち上げ筒の温度上昇を低減されるため経済的に安価な打ち上げ方式となり、安全で快適な作業形態が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に実施例をあげて、本発明を説明するが、本発明は実施例に記載される発明に限定されるものではない。
【実施例1】
【0011】
平均粒径が150μmの過酸化カルシウム(CaO)の純度が82重量%と平均粒径が200μmの純度72重量%の過酸化カルシウムサンプルA、Bを用いて、それぞれ調製したCaO/アルミニウム粉(Al)/ポリオキシメチレン粉(POM)組成の12種類の平均粒径が0.8mm粒状の揚げ薬を調製した。
ここに、試料揚げ薬は、それぞれの混合組成物100重量部に対して、トルエン溶剤で溶解された合成ゴム系エラストマーが30重量%含むバインダー溶液100重量部を加え充分に混練した。この湿潤混練混合組成物それぞれを、ステンレス製の篩にかけて造粒、篩い分けして、温水乾燥機を用いてトルエンを駆逐して,CaO/Al粉/POM粉配合でなる見かけ密度0.7g/cmレベルの見かけ比重を有する造粒揚げ薬を調製した。
これらの揚げ薬と、対照として花火打上に常用される黒色小粒薬(日本化薬製)を用いて燃焼試験を行った。試験の試料揚げ薬各5gを電気点火器と共にプラスチック容器に包み、3号打ち上げ筒の下部に装填した後、その上部へ3号模擬玉を設置し揚げ薬を電気点火により着火した。デジタル常速度ビデオカメラレコーダ(CR−TRV900;ソニー株式会社製)を用いて、着火以後の燃焼状況、模擬玉の飛翔の様子を記録した。燃焼試験時の環境(社団法人日本煙火協会、検査所屋外燃焼試験所)は、晴れ、気温13.7℃、相対湿度48RH%、風向,風速;南西,3m/secであった。
【0012】
・模擬玉、打上筒の条件:
模擬玉の外径 81mm 模擬玉の重量 200g
打上筒〈材料:クラフト紙〉の内径 91mm
模擬玉・打上筒間の隙間 約11%
・燃焼試験結果の解析方法:
デジタル常速度ビデオカメラレコーダの映像をコンピュータで処理し、着火時と模擬玉が打ちあがる模擬玉の軌跡等の様子を1秒間に2000コマで記録たされた一連の静止画を解析することで、模擬玉の打ち上げ時平均初速度〈m/sec〉を算出した。ここで、平均初速度は発射後模擬球が確認できた位置から高さ約2m(打上筒の底部真上2mに水平に展張られ停止ネット)内で算出される打上飛翔距離に基づいて算出した。
【0013】
【表1】

【実施例2】
【0014】
過酸化カルシウム(CaO)の純度がそれぞれ88重量%、72重量%の異なる過酸化カルシウムサンプルA、B(粒子径60〜250mμ)を用いて、CaO/アルミニウム粉(粒子径35〜42μm)/ポリオキシメチレン粉(160〜400μm)の重量比41:9:50をそれぞれ計量して、混合組成物100重量部に対して、合成ゴム系エラストマーであるバインダーを30重量%含むトルエン溶液を100重量部を加えて充分に混練した。この湿潤混練混合組成物それぞれを、ステンレス製の篩にかけて造粒、篩い分けして、温水乾燥を用いてトルエンを駆逐して、0.2〜1.2mmの粒子径範囲に構成されるCaO/Al粉//POM粉配合でなる見かけ密度0.7g/cmの見かけ比重を有する造粒揚げ薬A,Bを調製した。
得られたA、B造粒揚げ薬について、JISK−4810の落槌感度試験、6号瞬発雷管挿入SUS〈内径22mm、外径28mm〉充填サンプルの砂上起爆特性試験を行った。その結果A、B揚げ薬共に、爆轟現象が発生することなく爆発危険の少ない燃焼ガスの燃焼速度は400〜800m/sec範囲の打上ガスを発生させ、揚げ薬として安全且つ確実に使用できることが確かめられた。
【0015】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明に係る揚げ薬は、黒色火薬に比べて発射時の煙量が著しく少なく、かつ推力の大きい打上花火用揚げ薬として有用である。また本発明の揚げ薬は、高分子物質の急激な分解ガス圧を利用した推進力であって、黒色火薬のような燃焼現象ではないため発生するガス温度は著しく低温であり打ち上げ筒の灼熱現象等が全く発生することなく、打上花火の安全作業が確保され、さらに安価な揚げ薬として快適な打ち上げ作業を可能する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
65〜85重量部の過酸化カルシウムに対して15〜35重量部のアルミニウム粉末が混合されてなる過酸化カルシウム・アルミニウム粉配合発熱成分100重量部に対してガス発生成分として外割りで20〜100重量部のポリオキシメチレン粉を配合してなる打ち上げ花火用揚げ薬組成物。
【請求項2】
過酸化カルシウム成分のうち過酸化物純分が70重量以上%の過酸化カルシウムである請求項2記載の打ち上げ花火用揚げ薬組成物。
【請求項3】
揚げ薬の燃焼速度が400〜800m/secである請求項記載の打ち上げ花火用揚げ薬組成物。