説明

打楽器演奏マニピュレータ及び打楽器演奏ロボット

【課題】簡便に連打間隔をコントロールすることが可能な打楽器演奏マニピュレータを提供すること。
【解決手段】本発明の一態様に係る打楽器演奏マニピュレータ10は、スティック15と、スティック15を回転自在に支持する手部23fと、手部23fを動かして、スティック15の先端がドラム30の打面30aに向かう回転力をスティック15に付与するアクチュエータ28と、スティック15と当接することによって、スティック15の打面30aから離れる側の回転限界を規定する上側ストッパ13と、上側ストッパ13の位置を変更して、スティック15の回転範囲を変えるアクチュエータ14とを備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打楽器を演奏するマニピュレータ及びそのマニピュレータを備えたロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、テーマパークのアトラクション等で、打楽器を演奏するロボットが活躍している。このロボットは、スティックを持ったマニピュレータを備えており、演奏する曲にあわせてマニピュレータを動作させることによって、スティックの先端を打楽器の打面に打ち下ろして演奏する。特許文献1には、スティックを備えるマニピュレータの振り下ろし開始タイミングと、振り下ろし速度と、マニピュレータの振り上げ開始タイミングとを制御することによって、打楽器を演奏する打楽器演奏ロボットが開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の技術によると、打楽器から音を発生させるタイミングや、発生する音の音量を自在に制御することができ、ロボットに所望のパターンで演奏させることが可能である。しかしながら、特許文献1に記載の打楽器演奏ロボットでは、打楽器の打面を連続的に叩くロール演奏を行う場合、アクチュエータを駆動して腕先を繰返し上下動して、スティック先端を打面に繰返し衝突させる必要がある。アクチュエータが腕先を上下動させる速度は、アクチュエータの応答特性に大きく左右される。このため、ロール演奏の速度、すなわち、ロール演奏しているときの単位時間あたりの打数は、腕先の動きを制御するアクチュエータの性能によって制限される。ロール演奏の速度が遅いと、ロボットが演奏できるパターンが限られてしまう。ロボットに自在に演奏をさせるためには、アクチュエータの性能に関わらず、より速いロール演奏を実現できる技術が望まれていた。
【0004】
そこで、アクチュエータの性能に関わらず、単打演奏も高速ロール演奏も実施することができる打楽器演奏ロボットが提案されている(特許文献2)。特許文献2に記載の打楽器演奏ロボットは、掌部に回転軸を支点として回転可能に連結されているスティックを有している。スティックと掌部の間にはバネが圧縮状態で挿入されており、このバネの復元力を利用して、スティックを動かすことにより高速なロール演奏を行うことができる。ロール演奏の速度は、バネの剛性やあらかじめ与えられた収縮量等を考慮して所望の速度となるように調整することができる。
【特許文献1】特開2004−177686号公報
【特許文献2】特開2006−159295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の打楽器演奏ロボットでは、依然として改善すべき点が残されている。すなわち、特許文献2に記載の打楽器演奏ロボットは、打面へ向かう方向へのバネの復元力により、ロール演奏を行っていた。このため、スティックにはバネにより常に打面へ向かう方向への力がかかっており、このバネの力によって1回のストロークで2打叩くダブルストローク奏法を実現させることも可能である。しかし、ダブルストロークの幅、すなわち、1打目と2打目の間隔はバネ乗数に依存し、これを制御することは困難であった。
【0006】
また、スティックに常にかかるバネの復元力により、小さい音量で演奏をすることが困難であった。さらに、打楽器の打面を単発的に叩く単打演奏を行うつもりでも、バネの力により2打目が誤って叩かれる場合があった。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、本発明の目的は、簡便に連打間隔をコントロールすることが可能な打楽器演奏マニピュレータ及びこれを備える打楽器演奏ロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に係る打楽器演奏マニピュレータは、スティックと、前記スティックを回転自在に支持する支持部と、前記支持部を動かして、前記スティックの先端が打楽器の打面に向かう回転力を前記スティックに付与する第1のアクチュエータと、前記スティックと当接することによって、前記スティックの打楽器の打面から離れる側の回転限界を規定する第1のストッパと、前記第1のストッパの位置を変更して、前記スティックの回転範囲を変える第2のアクチュエータとを備えるものである。第1のストッパの位置を変更することにより、簡便に1ストロークで連打する際の連打間隔を調整することができる。
【0009】
本発明の第2の態様に係る打楽器演奏マニピュレータは、上記のマニピュレータにおいて、前記スティックの回転範囲が連打法よりも単打法のほうが大きくなるように、前記第1のストッパの位置が決定されるものである。第1のストッパの位置を変更して、スティックの回転範囲を変えることにより、連打法と単打法とを実現することができる。
【0010】
本発明の第3の態様に係る打楽器演奏マニピュレータは、上記のマニピュレータにおいて、連打法の前記スティックの回転範囲は、発音量と1打目と2打目の時間間隔とに基づいて決定されるものである。このように第1のストッパの位置を変更することにより、簡便に連打間隔を調整することができる。
【0011】
本発明の第4の態様に係る打楽器演奏マニピュレータは、上記のマニピュレータにおいて、連打法の場合、前記支持部は打楽器の打面の位置と略等しい位置に固定され、前記スティックが1打目を叩いた後、1打目の反動を利用して2打目を叩くものである。これにより、確実に連打法を実現することができる。
【0012】
本発明の第5の態様に係る打楽器演奏マニピュレータは、上記のマニピュレータにおいて、単打法の場合、前記スティックが1打目を叩いた後、前記スティックがリバウンドしている間に、前記支持部は前記スティックの先端が打楽器の打面に衝突しないように前記打楽器の打面から離れるものである。これにより、スティックの先端が打楽器の打面と衝突して跳ね上がってから、打面に再度衝突するまでの間に支持部を打面から遠ざけ、単打法を実現することができる。
【0013】
本発明の第6の態様に係る打楽器演奏マニピュレータは、上記のマニピュレータにおいて、前記スティックと当接することによって、前記スティックの打楽器の打面に向かう側の回転限界を規定する第2のストッパをさらに備え、前記支持部は、前記第2のストッパと当接するスティックの先端が打楽器の打面に衝突しないように、打楽器の打面から離れるものである。これにより、スティックの先端が再び打楽器の打面へ衝突する前に、スティックがストッパと衝突して回転が規制され、スティックの先端が打楽器の打面へ到達せず、単打法を実現することができる。
【0014】
本発明の第7の態様に係る打楽器演奏ロボットは、上記いずれかに記載の打楽器演奏マニピュレータと、前記第1のアクチュエータを駆動する駆動部とを備えるものである。これにより、簡便に連打間隔をコントロールでき、複数の奏法を実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡便に連打間隔をコントロールすることが可能な打楽器演奏マニピュレータ及びこれを備える打楽器演奏ロボットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面において、同一要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明は省略する。
【0017】
本実施の形態に係る打楽器演奏マニピュレータ及び打楽器演奏ロボットについて、図1〜図5を参照して説明する。図1は、本実施の形態に係る打楽器演奏ロボット20の構成を示す図である。図2は、本実施の形態に係る打楽器演奏マニピュレータ10の構成を示す図である。図3〜図5は、図2に示す打楽器演奏マニピュレータ10を用いて打楽器を演奏する際の動作を示す図である。
【0018】
まず、図1を参照して、本実施の形態に係る打楽器演奏ロボット20の構成について説明する。打楽器演奏ロボット20は、ヒトを模して作成されたヒューマノイド・ロボットである。ここでは、打楽器演奏ロボット20は、打楽器の一例であるドラム30を演奏する場合について説明する。図1に示すように、打楽器演奏ロボット20は、頭部21、胴体部22、右腕部23、左腕部24、車輪25、制御部26等を備えている。
【0019】
胴体部22は、略直方体形状を有している。胴体部22には、打楽器演奏ロボット20の動作を統括的に制御する制御部26が収納されている。胴体部22には、右腕部23、左腕部24が接続されている。右腕部23は、肩関節23a、上腕部23b、肘関節23c、前腕部23d、手首関節23e、手部23fを有している。また、同様に、左腕部24は、肩関節24a、上腕部24b、肘関節24c、前腕部24d、手首関節24e、手部24fを有している。なお、右腕部23と、左腕部24とは略同一の構成を有しているため、左腕部24については説明を省略し、以下、右腕部23の構成のみについて詳細に説明する。
【0020】
胴体部22には、上腕部23bの一端が、肩関節23aを介して揺動自在に取り付けられている。上腕部23bの他端には、肘関節23cを介して、前腕部23dの一端が接続されている。前腕部23dは肘関節23cを支点として揺動可能である。また、上腕部23bの内部には前腕部23dを揺動させるアクチュエータ27が設けられている。アクチュエータ27としては、例えば、ソレノイドやモータ等を用いることができる。このアクチュエータ27は、制御部26から出力される制御信号により駆動される。
【0021】
前腕部23dの他端には、手首関節23eを介して手部23fが連結されている。手部23fは、手首関節23eを支点として揺動可能である。前腕部23dの内部には、手部23を揺動させるアクチュエータ28が設けられている。アクチュエータ28としては、ソレノイドやモータ等を用いることができる。このアクチュエータ28もまた、制御部26から出力される制御信号により駆動される。手部23fには、ドラム30を演奏する(叩く)ためのスティック15が支持されている。従って、手部23fがスティック15を支持する支持部である。手部23fによるスティックの支持については、後に詳述する。
【0022】
また、胴体部22の下側には、車輪25が接続されている。打楽器演奏ロボット20は、車輪25を回転させることによって、前進/後退をする。本実施の形態に係る打楽器演奏ロボット20は、ヒトがドラム30を叩きながら行進するように、車輪25を回転させて移動しながらドラム30の演奏を行う。
【0023】
ここで、図2を参照して、手部23fによるスティック15の支持の様子について説明する。図2に示すxyz直交座標系において、x方向はスティック15を水平に保持したときの手部23からスティック15の先端15aに向かう方向(スティック15が延びる方向)を示し、y方向は水平に保持したスティック15に垂直な方向(鉛直方向)を示し、z方向はx、y平面に垂直な方向を示している。図2に示すように、打楽器演奏マニピュレータ10は、手部23f、回転軸11、下側ストッパ12、上側ストッパ13等を備えている。
【0024】
スティック15は、回転軸11によって手部23fに回転自在に連結されている。スティック15は、回転軸11を支点として回転可能である。本実施の形態では、スティック15は、そのグリップ部分15bにおいて手部23fに連結されている。
【0025】
下側ストッパ12は、スティック15と当接することによって、スティック15のドラム30の打面30aに向かう側の回転限界を規定する。すなわち、図2において、反時計回りの方向のスティック15の回転限界を規定している。下側ストッパ12は、手部23fの先端(指先)に、スティック15よりも下側(−y方向)の位置に固定されている。すなわち、下側ストッパ12は、手部23fにおいて、回転軸11よりもスティック15の先端15a側に設けられている。また、下側ストッパ12は、スティック15よりも−y方向においてドラム30の打面30a側の位置に設けられている。従って、スティック15の先端15aがドラム30の打面30aに向かう方向は、スティック15が下側ストッパ12に近づく方向である。また、スティック15の先端15aがドラム30の打面30aと衝突するとき、スティック15は下側ストッパ12と当接しない。
【0026】
上側ストッパ13は、スティック15と当接することによって、スティック15のドラム30の打面30aから離れる側の回転限界を規定する。すなわち、図2において、時計回りの方向のスティック15の回転限界を規定している。上側ストッパ13は、手部23fの手首側に、スティック15よりも下側(−y方向)の位置に設けられている。すなわち、上側ストッパ13は、手部23fにおいて、回転軸11よりもスティック15の先端15aと反対側に設けられている。また、上側ストッパ13は、−y方向においてスティック15よりもドラム30の打面30a側の位置に設けられている。従って、スティック15の先端15aがドラム30の打面30aから離れる方向は、スティック15が上側ストッパ13に近づく方向である。上側ストッパ13は、モータ等のアクチュエータ14により、±y方向に移動可能に設けられている。なお、下側ストッパ12、上側ストッパ13は樹脂等により形成することができる。また、下側ストッパ12、上側ストッパ13の配置位置については、上述の例に限定されない。例えば、下側ストッパ12を手部23fの手首側に、スティック15よりも上側(+y方向)の位置に設けてもよく上側ストッパ13を手部23fの先端に、スティック15よりも上側(+y方向)の位置に設けてもよい。スティック15が上側ストッパ13、及び下側ストッパ12の両方と当接することによって、回転軸11を固定することができる。すなわち、上側ストッパ13及び下側ストッパ12によって、スティック15の回転軸11に対する角度が一定になる。従って、上側ストッパ13及び下側ストッパ12がスティック15に当接している状態では、アクチュエータ28によって手部23を駆動しても回転軸11は固定されている。
【0027】
本実施の形態に係る打楽器演奏ロボット20は、ドラム30を単打法により演奏する動作と、連打法により演奏する動作を含む複数の演奏法を行うことができる。ここで、図3〜図5を参照して、単打法及び連打法における打楽器演奏マニピュレータ10の動作について説明する。
【0028】
なお、本明細書において「単打法」とは1回のストロークで打楽器の打面を単発的に叩くことをいい、「連打法」とは1回のストロークで打楽器の打面を連続的に叩くことをいう。以下の説明では、「単打法」を「シングルストローク奏法」とする。また、「連打法」の一例として1回のストロークで2回打面を叩く「ダブルストローク奏法」を行う場合について説明する。
【0029】
まず、図3を参照して、ダブルストローク奏法を行う場合について説明する。図3において、破線はスティック15の先端が打面30aに衝突している状態を示し、実線はスティック15が打面30aに衝突して跳ね上げられた状態を示している。ダブルストローク奏法を行う際、制御部26はアクチュエータ28を駆動して、手部23fをスティック15をドラム30から離れる方向に動かす。このとき、回転軸11を固定し、スティック15が動かないようにして、スティック15を持ち上げる。例えば、上側ストッパ13、及び下側ストッパ12によって、スティック15の回転角度を固定した状態で、手部23fを駆動する。すなわち、スティック15が回転軸11に対して回転しない位置まで上側ストッパ13を移動させる。その後、回転軸11を固定した状態でアクチュエータ38を駆動して、手部23fをスティック15を振り下ろす方向(図3の反時計回りの方向)に回転させて、スティック15をドラム30に向けて所定の初速度で振り下ろす。このスティック15の初速度は、所望の発音量に応じて適宜変更することができる。このように、制御部26は、アクチュエータ28によって、スティック15が所定の速度になるまで手部23を加速させる。そして、スティック15が所定の速度に到達したら、手部23を等速で駆動する。手部23が等速となったら、アクチュエータ14によって上側ストッパ13を駆動して、スティック15の回転をフリーにする。このようにして、スティック15に所定の初速度が与えられる。これにより、図3の破線で示すように、スティック15の先端15aがドラム30の打面30aに衝突し、1打目の打音が発生する。
【0030】
これにより、従来スティックに常にかかるバネの復元力により、小さい音量で演奏をすることが困難であったが、本発明によれば、所望の発音量に応じた初速度をスティック15に付与することができるため、大きい音量のみならず小さい音量での演奏も実現することができる。なお、上記の例では、上側ストッパ13及び下側ストッパ1によって、回転軸を固定したが、その他の方法によって、固定してもよい。
【0031】
1打目を振り下ろした際、手部23fの位置は、ドラム30の打面30aにおいて、スティック15の先端15aが衝突する打点位置と略等しい位置で固定される。すなわち、制御部26はアクチュエータ28を駆動して、手部23fを減速させ、手部23fを所定の位置で停止させる。また、1打目を振り下ろしている間に、スティック15に所定の初速度が与えられたら、制御部26はアクチュエータ14を制御して、上側ストッパ13を所定の位置まで移動させる。これにより、スティック15がフリーとなり、回転軸11に対して回転する。従って、スティック15は、回転軸11を中心として自由に回転できる状態で手部23fに保持される。このため、図3の実線で示すように、スティック15の先端15aは、打面30aとの衝突によって跳ね上げられる。
【0032】
このとき、上側ストッパ13の位置は、スティック15の可動範囲が、例えば0°〜6°となるようにアクチュエータ14により変更されている。ここで、スティック15の可動範囲とは、スティック15が下側ストッパ12と当接し、上側ストッパ13と当接するまでのスティック15の角度をいう。従って、ダブルストローク奏法を行う際のスティック15の可動範囲は、図3に示すθdの角度である。ここでは、θd=6°に設定している。これにより、図3の実線で示すように、スティック15は回転軸11を支点として時計回りの方向に回転し、上側ストッパ13に衝突する。
【0033】
その後、スティック15の後ろ側が上側ストッパ13により跳ね上げられ、再度図3の破線で示すように、スティック15の先端15aがドラム30の打面30aの方向に向かって振り下ろされる。これにより、スティック15の先端15aがドラム30の打面30aに再度衝突し、2打目の打音が発生する。このように、上側ストッパ13により、スティック15の可動範囲を規定することにより、1回のストロークで2打の打音を発生するダブルストローク奏法を実現することができる。
【0034】
スティック15の可動範囲は、発音量と、1打目と2打目の時間間隔によって決定することができる。すなわち、発音量により、手部23fの初速度が決定され、打面30aに衝突するときの打点速度が算出される。1打目と2打目の時間間隔は、1回目の打面30aへの衝突際のスティック15のリバウンド時間である。このため、打点速度と1打目と2打目の時間間隔に基づいてスティック15の可動範囲を決定する。例えば、1打目と2打目の時間間隔を40〜70msecの間で調整することができる。このようにしてスティック15の可動範囲を決定すると、スティック15の回転は上側ストッパ13との衝突等により徐々に減衰し、2打目の打音が発生した後は再度スティック15が跳ね上がることはない。
【0035】
このように、上側ストッパ13の位置に応じて、手部23fの動作を変更することにより、簡便に1打目と2打目の時間間隔を所望の値に調整したダブルストローク奏法が実現できる。発音量と、1打目と2打目の時間間隔とに応じたスティック15の初速度及び上側ストッパ13の位置を予め登録しておいてもよい。例えば、制御部26のメモリなどに、スティック15の初速度、及び上側ストッパ13の位置を発音量と時間間隔に応じて設定しておく。そして、実際の演奏時に、所定の発音量及び時間間隔になるように、制御部26が各アクチュエータを駆動する。
【0036】
また、手部23fの位置は、ドラム30の打面30aにおいて、スティック15の先端15aが衝突する打点位置と略等しい位置に限定されるものではない。例えば、手部23fをドラム30の打面30aにおいて、スティック15の先端15aが衝突する打点位置よりも下側としてもよい。すなわち、スティック15がドラム30に深く打ち込まれるようにしてもよい。このような場合でも、スティック15の先端15aの打面30aとの衝突による跳ね上がりを利用して、連打法を実現することができる。
【0037】
また、2打目の打音を発生した後に、手部23fを+y方向に移動させ、下側ストッパ12にスティック15を当接させて2打目以降、スティック15の先端15aが打面30aに衝突しないようにしてもよい。
【0038】
次に、図4を参照して、シングルストローク奏法を行う場合について説明する。図4(a)において、破線はスティック15の先端が打面30aに衝突している状態を示し、実線はスティック15が打面30aに衝突して跳ね上げられた状態を示している。また、図4(b)において、破線は手部23fを上げる前の状態を示し、実線は手部23fを上げた後の状態を示している。シングルストローク奏法を行う際、制御部26はアクチュエータ28を駆動して、手部23fをスティック15をドラム30から離れる方向に動かす。このとき、下側ストッパ12、及び上側ストッパ13によって回転軸11を固定し、スティック15が動かないようにして、スティック15を持ち上げる。その後、回転軸11を固定したままアクチュエータ38を駆動して、手部23fをスティック15を振り下ろす方向(図4(a)の反時計回りの方向)に回転させて、スティック15をドラム30に向けて所定の初速度で振り下ろす。この手部23fの初速度は、所望の発音量に応じて適宜変更することができる。スティック15に所定の初速度が与えられたら、上側ストッパ13を駆動して、スティック15をフリーにする。これにより、図4(a)の破線で示すように、スティック15の先端15aがドラム30の打面30aに衝突し、打音が発生する。
【0039】
スティック15に所定の初速度が与えられた後、スティック15が自由に回転できるように、回転軸11の固定を解除する。従って、スティック15は、回転軸11を中心として自由に回転できる状態で手部23fに保持される。このため、図4(a)の実線で示すように、スティック15の先端15aは、打面30aとの衝突によって跳ね上げられる。このとき、上側ストッパ13の位置は、スティック15の可動範囲が、例えば0°〜45°となるようにアクチュエータ14により変更されている。従って、シングルストローク奏法を行う際のスティック15の可動範囲は、図4(a)に示すθsの角度である。図4(a)に示すように、ここでは、θs=45°に設定している。これにより、図4(a)中実線で示すように、打面30aにより跳ね上げられたスティック15は回転軸11を支点として時計回りの方向に回転し、上側ストッパ13に衝突する。その後、スティック15の後ろ側が上側ストッパ13により跳ね上げられ、再度スティック15の先端15aがドラム30の打面30aの方向に向かって振り下ろされる。
【0040】
1打目の打音が発生した後スティック15がリバウンドしている間に、手部23fの位置は、ドラム30の打面30aにおいて、スティック15の先端15aが衝突する打点位置よりも高い位置(+yの位置)で固定される。すなわち、手部23fは、スティック15の先端15aがドラム30の打面30aに衝突して跳ね上げられた後、再度打面30aへ衝突する前に、その位置が変更される。例えば、図4(b)に示すように、打点位置よりも5°高い位置に手部23fが固定される。これにより、スティック15の先端15aが再度ドラム30の打面30a方向に振り下ろされても、図4(b)の破線で示されるようにスティック15は下側ストッパ12と当接して打面30aに衝突することがない。このような打楽器演奏ロボット20の単打法の動作は、スティック15の先端15aが打面30aから跳ね上げられてから再度打面30aへ衝突する前に、アクチュエータ28を駆動して手部23fをスティック15を振り上げる方向に僅かに回転させることで、実現することができる。
【0041】
上述のとおり、スティック15の回転範囲は、ダブルストローク法よりもシングルストローク法のほうが大きい。このように、スティック15の回転範囲を大きくすることによって、スティック15の先端15aが再度打面に衝突するまでの時間を長くすることができる。これにより、スティック15の先端15aが再度打面30aと衝突する前に、手部23fをスティック15を振り上げる方向に回転させることができる。このように、上側ストッパ13の位置に応じて、手部23fの動作を変更することにより、シングルストローク奏法も実現することができる。
【0042】
このようにして単打を行うと、スティック15は打面30aを叩いた後すぐに打面30aから離れる。従って、打面30aの振動が妨げられることがなく、ドラム30からきれいな音を出すことができる。
【0043】
次に、図5を参照して、シンバル奏法を行う場合について説明する。シンバル奏法とは、ドラムセットに用いられるクラッシュシンバルや、ライドシンバルを叩く際に用いられる奏法である。ここでは、シンバルの打面30bを叩く例について説明する。図5(a)は、スティック15がシンバルに衝突した状態を示している。また、図5(b)において、破線は手部23fを下げる前の状態を示し、実線は手部23fを下げた後の状態を示している。
【0044】
シンバル奏法を行う際、上述と同様に、制御部26はアクチュエータ28を駆動して、手部23fをスティック15を打面30bから離れる方向に動かす。このとき、下側ストッパ12、及び上側ストッパ13によって回転軸11を固定し、スティック15が動かないようにして、スティック15を持ち上げる。その後、回転軸11を固定したままアクチュエータ38を駆動して、手部23fをスティック15を振り下ろす方向(図5の反時計回りの方向)に回転させて、スティック15をシンバルに向けて所定の初速度で振り下ろす。この手部23fの初速度は、所望の発音量に応じて適宜変更することができる。これにより、スティック15の先端15aがシンバル打面30bに衝突し、打音が発生する。
【0045】
このとき、上側ストッパ13の位置は、スティック15の可動範囲が、0°となるようにアクチュエータ14により変更されている。このため、下側ストッパ12及び上側ストッパ13と当接して、スティック15は回転しない。そして、1打目を振り下ろした後、手部23fは、ドラム30の打面30bにおいて、スティック15の先端15aが衝突する打点位置よりも低い位置(−yの位置)まで動かされる。例えば、図5(b)の実線で示すように、手部23fの位置が変更され、打点位置が10°低い位置(−10°)となる。
【0046】
これにより、スティック15は下側ストッパ12及び上側ストッパ13と当接したまま、打面30bに深く打ち込まれる。このようにしてシンバルを叩くと、スティック15は打面30bと衝突した後、打面30bを深く打ち込むこととなる。従って、シンバルの振動が妨げられることがなく、シンバルからきれいな音を出すことができる。このように、本発明によれば、上側ストッパ13の位置に応じて、腕部の動きを変更することによって、複数の奏法を実現することができる。
【0047】
なお、上述の実施の形態では、打楽器の一例としてドラム30を用いた例について説明したが、これに限定されるものではない。これ以外にも、例えば、バスドラム、メロディックタム、フロアタム、ティンパニ、和太鼓といった膜鳴打楽器、シンバル、トライアングル、ゴング、釣鐘、木魚等の体鳴打楽器でもよい。さらに、シロフォン、マリンバを含む木琴や、グラッケンシュピール、ヴィブラフォンを含む鉄琴といった鍵盤打楽器でもよい。さらに、膜面の振動をセンサによって検知し、膜面の振動を信号によって送信し、他の音源で音を生成する電子ドラムであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本実施の形態に係る打楽器演奏ロボットの構成を説明する図である。
【図2】実施の形態に係るマニピュレータの構成を示す図である。
【図3】打楽器を演奏する際のマニピュレータの動作を説明する図である。
【図4】打楽器を演奏する際のマニピュレータの動作を説明する図である。
【図5】打楽器を演奏する際のマニピュレータの動作を説明する図である。
【符号の説明】
【0049】
10 打楽器演奏マニピュレータ
11 回転軸
12 下側ストッパ
13 上側ストッパ
14 アクチュエータ
15 スティック
15a スティックの先端
20 打楽器演奏ロボット
21 頭部
22 胴体部
23 右腕部
24 左腕部
23a、24a 肩関節
23b、24b 上腕部
23c、24c 肘関節
23d、24d 前腕部
23e、24e 手首関節
23f、24f 手部
25 車輪
26 制御部
27、28 アクチュエータ
30 ドラム
30a、30b 打面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スティックと、
前記スティックを回転自在に支持する支持部と、
前記支持部を動かして、前記スティックの先端が打楽器の打面に向かう回転力を前記スティックに付与する第1のアクチュエータと、
前記スティックと当接することによって、前記スティックの打楽器の打面から離れる側の回転限界を規定する第1のストッパと、
前記第1のストッパの位置を変更して、前記スティックの回転範囲を変える第2のアクチュエータとを備える打楽器演奏マニピュレータ。
【請求項2】
前記スティックの回転範囲が連打法よりも単打法のほうが大きくなるように、前記第1のストッパの位置が決定される請求項1に記載の打楽器演奏マニピュレータ。
【請求項3】
連打法の前記スティックの回転範囲は、発音量と1打目と2打目の時間間隔とに基づいて決定される請求項1又は2に記載の打楽器演奏マニピュレータ。
【請求項4】
連打法の場合、前記支持部は打楽器の打面の位置と略等しい位置に固定され、
前記スティックが1打目を叩いた後、1打目の反動を利用して2打目を叩く請求項1、2又は3に記載の打楽器演奏マニピュレータ。
【請求項5】
単打法の場合、前記スティックが1打目を叩いた後、前記スティックがリバウンドしている間に、前記支持部は前記スティックの先端が打楽器の打面に衝突しないように前記打楽器の打面から離れる請求項1〜4のいずれか1項に記載の打楽器演奏マニピュレータ。
【請求項6】
前記スティックと当接することによって、前記スティックの打楽器の打面に向かう側の回転限界を規定する第2のストッパをさらに備え、
前記支持部は、前記第2のストッパと当接するスティックの先端が打楽器の打面に衝突しないように、打楽器の打面から離れる請求項5に記載の打楽器演奏マニピュレータ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の打楽器演奏マニピュレータと、
前記第1のアクチュエータを駆動する駆動部とを備える打楽器演奏ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−207299(P2008−207299A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48304(P2007−48304)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】