説明

打診具

【課題】被検体に傷を付けることなく被検体の損傷を確実に検出することができる打診具の提供。
【解決手段】この打診具20は、建築物の壁面の損傷を検査するための道具である。打診具20は、本体26と、この本体26の先端に設けられた打診子27と、この打診子27を回転自在に支持する支持機構28とを備えている。打診子27は、仮想軸線Nの周りに回転自在である。打診子27は、カボチャの様な形状を呈し、その周面に8本の凸条43が形成されている。この凸条43の外周面は滑らかな円弧面に形成されている。凸条43の外周面の曲率半径は、2mm〜5mmである。凸条43同士が隣り合う部位45は、滑らかな曲面に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物、建造物の表面(特に仕上面)の損傷(特に浮き上がり)を検知するために使用される打診具の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造物の表面に施工された仕上層であるタイルやモルタル等は、経年変化により「浮き」と称される損傷を受けることがある。これが放置されると、構造物の表面から仕上層が剥離落下するおそれがあり、危険である。そのために仕上層は、剥離の有無について定期的に検査される。この検査には、打診具と称される道具が用いられ、作業者は、打診具を仕上層に衝突させて、その衝突音等により当該仕上層の損傷の有無を判断する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図5は、従来の打診具の外観図である。同図が示すように打診具1は、5本の筒状部材2〜6を有し、これらは伸縮自在に組み立てられている。具体的には、各筒状部材2〜6は薄肉円筒状に形成されており、筒状部材2の外径寸法は、筒状部材3の内径寸法よりも小さく設定されている。これにより筒状部材2は、筒状部材3の内部に引出自在に挿入されている。筒状部材3と筒状部材4との関係、筒状部材4と筒状部材5との関係及び筒状部材5と筒状部材6との関係も、筒状部材2と筒状部材3との関係と同様である。したがって、各筒状部材2〜5がそれぞれ隣り合う筒状部材3〜6から引き出されることによって、打診具1の長さが伸長され、又は縮短されるようになっている。さらに、筒状部材6は、その周囲に樹脂等からなるシート部材7を備えている。このシート部材7は、作業者によって把持されるグリップを構成している。
【0004】
筒状部材2の先端には、球状の打診子8が設けられている。作業者は、この打診子8を構造物の表面に打ち付けるか又は摺動させる。このときに衝突音又は摺動音が発生するが、作業者は、この衝突音等の音色に基づいて当該構造物の損傷の有無を判断する。ところが、打診子8が構造物に打ち付けられたり摺動されたりすると、構造物の表面の硬度が低い場合等では、当該表面に傷が付くことがある。そのため、この打診子8が筒状部材2の先端に回転自在に設けられている場合もある。この場合、作業者は、打診子8を構造物の表面に沿って転動させ、そのときに発生する転動音に基づいて当該構造物の損傷の有無を判断する。
【0005】
このように、球状の打診子8が回転する場合には、被検体としての構造物に傷が付きにくくなるが、そのときに発生する音(転動音)は、打診子8が被検体に打ち付けられる場合に比べて小さくなるために、作業者は、損傷の有無を判断しずらくなるという問題がある。この問題が解決されるために、従来の打診具では、打診子が多面体に形成されたものがある(例えば、特許文献2参照)。打診子が多面体に形成されることによって打診子の断面形状が多角形となるから、打診子の外周面に複数の角部が規則的に並設されることになる。この打診子が被検体の表面を転動すると、上記角部が順次規則的に被検体に衝突し、大きな衝突音が発生する。これにより作業者は、当該衝突音に基づいて被検体の損傷の有無を判断しやすくなる。
【0006】
【特許文献1】実開平4−122363号公報
【特許文献2】特開2004−28581号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、打診子の外周面に角部が形成されると、当該打診子が被検体の表面を転動した場合に、当該角部と被検体とが衝突したときの衝撃が大きくなり、被検体の表面に傷がつくおそれがある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、被検体に傷を付けることなく被検体の損傷を確実に検出することができる打診具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的が達成されるため、本発明に係る打診具は、壁面の損傷を検知するための打診具であって、壁面に当接される球状の打診子と、打診子の中心を通る仮想軸線の周りに回転自在な状態で当該打診子を支持する支持機構とを備え、打診子の周面に子午線方向に延びる複数の凸条が緯線方向に沿って並設されており、各凸条の外周面が円弧状に形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
この打診具では、打診子の周面に複数の凸条が形成されているから、打診子が被検体(例えば壁面)の表面上を転動すると、順次規則的に凸条が当該被検体の表面に衝突し、間欠的に衝突音が発生する。この衝突音は、作業者が被検体の損傷の有無を判断するために十分に大きい音である。しかも、各凸条の外周面が円弧面に形成されているので、各凸条と被検体とが衝突したときの衝撃は小さい。
【0011】
上記凸条は、6本以上16本以下の範囲で設けられているのが好ましい。また、上記凸条の外周面の赤道曲率半径は、2mm以上5mm以下に設定されているのが好ましい。これにより、被検体にダメージを与えることなく、十分に大きい衝撃音が発生する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、打診子が被検体に当接転動された場合には、被検体が受ける衝撃は小さいが、その衝突音は十分に大きくなる。したがって、被検体の損傷の有無を検査する作業者は、被検体に傷等を付けることなく、衝突音に基づいて正確に検査を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る打診具の正面図であり、(a)は打診具が伸長された状態を示し、(b)は打診具が縮短された状態を示している。また、図2は、この打診具の要部分解斜視図である。
【0015】
この打診具20は、建築物の壁面の損傷を検査するための道具であり、作業者は、この打診具20を用いて当該壁面を打診し、その打音により損傷の有無を検査する。本明細書では、この検査は「壁面損傷検査」と称される。打診具20は、本体26と、この本体26の先端に設けられた打診子27と、この打診子27を回転自在に支持する支持機構28(図2参照)とを備えている。本実施形態に係る打診具20の特徴とするところは、打診具20が後述の構造を有する打診子27を備えており、これにより、作業者は、被検体である建築物の壁面に傷等を付けることなく確実に壁面損傷検査を行うことができるようになっている点、及び上記本体26が複数の筒状部材21〜25を備えており、これにより、本体26は、図1(a)(b)が示すように伸縮自在に構成されている点である。以下、打診具20の構造について詳述される。
【0016】
本体26は、本実施形態では5本の筒状部材21〜25を備えている。各筒状部材21〜25は入子式に組み立てられており、これにより、本体26は軸方向に伸縮自在となっている。具体的には、各筒状部材21〜25は、円筒状に形成され、ステンレス鋼等の金属により構成されている。筒状部材21の外径寸法は、筒状部材22の内径寸法よりも小さく設定されており、これにより、筒状部材21は、筒状部材22に対して軸方向に沿ってスライド可能である。同様に、筒状部材22は、筒状部材23に対してスライド可能であり、筒状部材23及び筒状部材24は、それぞれ筒状部材24及び筒状部材25に対して軸方向にスライド可能である。なお、本体26を構成する筒状部材の数は、5本に限定されるものではなく、適宜設計変更されるものである。
【0017】
本実施形態では、筒状部材25は、その後端部の周囲にゴムや樹脂からなるシート部材30が設けられている。これにより、筒状部材25は、作業者が把持するグリップを兼ねている。この筒状部材25の後端面には、ロープ等のひも部材が連結される連結具31が設けられている。作業者は、例えばひも部材の一端をこの連結具31に連結すると共に他端を身体に連結することができる。これにより、打診具20が仮に作業者の手から滑り落ちたとしても、作業者の身体から離脱することはない。その結果、壁面損傷検査が高所で行われる場合であっても、打診具20が地面に落下することが防止される。
【0018】
支持機構28は、本体26の先端部、具体的には上記筒状部材21の先端に設けられている。支持機構28は、支持軸32と、位置決め軸33とを備えている。この支持機構28は、打診子27が仮想軸線Nの周りに回転自在となるように当該打診子27を支持している。この仮想軸線Nは、上記本体26の軸方向と一致している。
【0019】
支持軸32は、大径部34と小径部35とを備え、これらは軸方向に連続している。したがって、大径部34と小径部35との境界部分には段部が形成されている。上記筒状部材21の先端部は、大径部34の後端部に嵌め込まれ、固定されている。小径部35の先端中央部には、上記仮想軸線Nの方向に沿って大径部34側に向かってねじ孔36が設けられている。上記位置決め軸33は、このねじ孔36にねじ込まれるようになっている。また、位置決め軸33としては、本実施形態ではボルトが採用されている。位置決め軸33は、螺合部37と頭部38とを有し、螺合部37が上記ねじ軸36にねじ込まれることによって、打診子27が支持軸32に位置決めされるようになっている。
【0020】
図3は打診子27の側面図であり、図4は平面図である。これらの図が示すように、打診子27は、球状に形成されており、樹脂や金属等により構成され得る。打診子27は、貫通孔39を有する。この貫通孔39は、打診子27の中心を通過して当該打診子27を貫通している。貫通孔39は、大径孔40と、これに連続する小径孔41とを備えている。この小径孔41の内径寸法は、上記支持軸32の小径部35(図2参照)の外径寸法に対応されており、したがって、上記小径部35は、隙間なく小径孔41に嵌め込まれる。これにより、打診子27は、小径部35に支持された状態で、上記仮想軸線Nの周りに回転自在となる。
【0021】
また、上記大径孔40の内径寸法は、上記位置決め軸33の頭部38の外径寸法に対応しており、且つ大径孔40の深さは、上記頭部38の高さ寸法に対応している。したがって、打診子27が上記小径部35に支持された状態で位置決め軸33が小径部35にねじ込まれると、位置決め軸33の頭部38は、上記大径孔40の内部に嵌め込まれる。本実施形態では、図2が示すように、小径部35のねじ孔36の深さ寸法L1は、位置決め軸33の螺合部37の長さ寸法L2に対応している。したがって、位置決め軸33が小径部35に完全にねじ込まれた状態で、位置決め軸33の頭部38が打診子27の上記大径孔40の底面42を押圧することなく当該大径孔40内に嵌め込まれる。すなわち、この位置決め軸33は、打診子27を支持軸32に締結するものではなく、打診子27が支持軸32から脱落しないように位置決めするものである。したがって前述のように、打診子27は、上記仮想軸Nの周りに自由に回転することができるようになっている。
【0022】
図3及び図4が示すように、打診子27は、その周面に複数の凸条43を備えている。本実施形態では、8本の凸条43が打診子27と一体的に形成されている。各凸条43は、放射状に形成されており、打診子27の子午線方向に延び且つ緯線方向に均等に配置されている。ここで、「子午線方向」とは、打診子27の周面に沿い且つ仮想軸線Nに沿う方向である。また、「緯線方向」とは、打診子27の周面に沿い且つ子午線方向に直交する方向である。なお、図3が示すように、緯線方向のうち打診子27の外径寸法が最大となるポイントは、特に「赤道E」と定義される。
【0023】
図4が示すように、各凸条43の外周面44は、円弧状に湾曲されている。本実施形態では、この外周面44の曲率半径R1は、3.5mmに設定されている。この場合の曲率半径R1は、赤道における凸条43の外周面44の曲率半径(赤道曲率半径)である。また、隣り合う凸条43が交差する部位45は、曲面によって構成されており、これにより、隣り合う凸条43同士は、滑らかに連続している。この部位45を構成する曲面の曲率半径は、例えば0.5mmに設定され得る。ただし、この部位45の曲率半径は、かかる寸法に限定されるものではなく、適宜設計変更され得るものであるし、この部位45が屈曲面により構成されていてもよいことは勿論である。
【0024】
この打診具20は、次のようにして使用される。図1が示すように、打診具20は伸縮可能であるから、壁面損傷検査が行われないときは、(b)図が示すように縮短状態とされ、壁面損傷検査が行われるときは、(a)図が示すように伸長される。打診具20が伸長されるときは、作業者が打診子27及びグリップを構成する筒状部材25を把持し、両者を引き離すように軸方向に沿って引っ張る。打診具20を構成する各筒状部材21〜25は入子式に組み立てられているから、隣り合う筒状部材同士は、相対的にスライドし、打診具20が伸ばされる。これにより、作業者は、打診具20を所望の長さに設定し、壁面損傷検査を行うことができる。
【0025】
作業者は、打診子27を被検体である構造物の壁面等に当接させ、本体26を操作することによって打診子27を被検体の表面に対して転動させる。打診子27は複数の凸条43を備えているから、打診子27が被検体の表面上を転動すると、順次規則的に凸条43が被検体の表面に衝突し、間欠的に(すなわち一定の周期で)衝突音が発生する。仮に、打診子が従来のように滑らかな球形である場合は、その衝突音は小さいが、本実施形態に係る打診子27では、凸条43が被検体に衝突するので、その衝突音は、作業者が被検体の損傷の有無を判断するために十分に大きいものである。しかも、凸条43の外周面が円弧面に形成されているので、各凸条43と被検体とが衝突したときの衝撃は小さくなる。したがって、作業者は、被検体に傷等を付けることなく、大きな衝突音に基づいて正確に検査を行うことができる。
【0026】
本実施形態では、上記凸条43は8本設けられているが、凸条43の数は、6本以上16本以下の範囲で適宜設定され得る。凸条43が5本以下の場合は、凸条43と被検体との衝撃が大きくなり、被検体に傷等を付けるおそれがあり、凸条が17本以上の場合は、衝突音の周期が非常に短くなり、滑らかな球形の打診子が転動する場合のように衝突音が小さくなってしまうからである。また、本実施形態では、凸条43の外周面の曲率半径R1は3.5mmに設定されているが、2mm以上5mm以下の範囲で適宜設定され得る。曲率半径R1が2mm未満では、凸条43が鋭利な形状となって被検体に傷が付くおそれがあり、曲率半径R1が5mmを超える場合は、衝突音が小さくなりすぎるおそれがあるからである。凸条43がかかる限定された形状に形成されることによって、被検体にダメージを与えることなく、十分に大きい衝撃音が発生するので、作業者は、安心して正確な検査を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、建築物等の壁面の損傷の検査に使用される打診具に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る打診具の正面図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る打診具の要部分解斜視図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係る打診具の打診子の側面図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に係る打診具の打診子の平面図である。
【図5】図5は、従来の打診具の外観図である。
【符号の説明】
【0029】
20・・・打診具
26・・・本体
27・・・打診子
28・・・支持機構
32・・・支持軸
33・・・位置決め軸
34・・・大径部
35・・・小径部
36・・・ねじ孔
37・・・螺合部
38・・・頭部
39・・・貫通孔
40・・・大径孔
41・・・小径孔
42・・・大径孔の底部
43・・・凸条
44・・・外周面
45・・・隣り合う凸条が交差する部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面の損傷を検知するための打診具であって、
壁面に当接される球状の打診子と、
打診子の中心を通る仮想軸線の周りに回転自在な状態で当該打診子を支持する支持機構とを備え、
打診子の周面に子午線方向に延びる複数の凸条が緯線方向に沿って並設されており、各凸条の外周面が円弧状に形成されている打診具。
【請求項2】
上記凸条は、6本以上16本以下の範囲で設けられている請求項1に記載の打診具。
【請求項3】
上記凸条の外周面の赤道曲率半径は、2mm以上5mm以下に設定されている請求項1又は2に記載の打診具。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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