説明

抄紙プレス工程における汚れ防止剤及びこれを用いた汚れ防止方法

【課題】抄紙プレス工程において、プレスロールを清浄な状態に保ち、湿紙がプレスロールに付着し難く、プレスロールから容易に剥離され、かつドクターブレードの磨耗を軽減できる、低発泡性の、プレスロールの汚れ防止剤、及びこれを用いた汚れ防止方法を提供することを課題としている。
【解決手段】エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体を有効成分として含有することを特徴とするプレスロールの汚れ防止剤、または該共重合体と水溶性ポリマーを有効成分として含有することを特徴とするプレスロールの汚れ防止剤、及びこれらを用いた汚れ防止方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紙の製造におけるプレス工程において、プレスロールの汚れを防止し、かつプレスロールから湿紙を剥離させやすくし、さらにはドクターブレードの磨耗を防止する、低発泡性の、プレスロールの汚れ防止剤、及びそれを用いたプレスロールの汚れ防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙の製造において、抄紙工程で形成された湿紙は多量の水分を含みながら次工程のプレス工程に送られ、プレスロールとフェルトにより脱水される。この湿紙のプレス工程での脱水は、その後の乾燥工程におけるエネルギー消費を大幅に節約することができるため、非常に重要な工程となっている。
【0003】
プレス工程は2本あるいはそれ以上のプレスロール(通常、単に「ロール」という)を組み合わせて、その間に湿紙とフェルトを重ねた状態で挟み込み、該プレスロール間にニップ圧かけることによって、湿紙中の水分がフェルト側へ移行することによって脱水が行われる。
【0004】
ロールのニップ点を通過した後、湿紙は速やかにロール表面から剥離することが理想的であるが、通常はニップ点を少し過ぎたところで湿紙は剥離する。しかし、湿紙の剥離が悪い(湿紙剥離性の低下)と、ニップ点を大きく過ぎた位置で湿紙がロール表面から剥離する。一方、湿紙は後続のロールによって引張られているために湿紙には常に張力(ドロー)が掛かっている。ドローは、前工程(プレス工程)と後工程(乾燥工程)の紙の走行スピード差であり、一般に「m/分」の単位で表される。ドローが高いほど、前工程と後工程の走行スピード差があることを意味し、結果として湿紙が強く引っ張られていることになる。湿紙がロールに付着してニップ点を大きく過ぎた位置で剥離すると、湿紙は「ドローが高い」状態となり、紙切れ(断紙)が発生しやすくなる。断紙が起きると、紙を継ぐのに多大な時間と労力を必要とするため、著しい生産性の低下をもたらす。このような現象はロールの回転が速いほど、抄紙速度が大きいほど生じやすく、近年の抄紙機の高速化は、よりその傾向を強めている。
【0005】
この湿紙剥離性低下の現象は、湿紙に含まれている原料由来のピッチや、古紙原料に含まれるホットメルト、インク、微細繊維、各種添加薬剤等の汚れがプレスロール表面に付着することによって生じやすい。プレスロールへの汚れの付着は、最終製品である紙の表面の凹凸の原因となったり、紙に再付着してシミとなったりして、製品の品質を著しく低下させる原因にもなる。従って、プレスロールへの汚れの付着を防止することによって、プレスロールからの湿紙の剥離性を向上させ、製品の品質を維持することができる。
【0006】
そのための装置・用具上の対策としては、回転するプレスロールにドクターブレードを圧接することによって、プレスロール表面に付着している汚れを掻き取ることが行われている。しかしながら、回転するプレスロールにドクターブレードを圧接させた場合、時間とともに徐々にドクターブレードがすり減ってしまう。特にロールが岩石や金属等の硬い素材である場合、その傾向が著しい。このため、最終的には、磨耗によってすり減ったドクターブレードを新品のドクターブレードと交換するため、抄紙機の稼動を停止させなければならなくなる。こうしたドクターブレードの交換に伴う抄紙機の稼動停止は、抄紙コストの高騰を招くこととなる。
【0007】
そこで、プレスロールの汚れを防止し、プレスロールから湿紙が剥離しやすく、ドクターブレードの磨耗を防止する方策が行われている。
【0008】
例えば、ロール表面にモリブデン、ニッケル、クロム等の金属を含有する層を作り湿紙の剥離性を改善する方法(例えば特許文献1、特許文献2参照)が提案されている。しかし、この方法はロール自体を替える必要があるため、高額な費用が必要となり、経済的負担が大きくなる欠点がある。プレスロールの表面温度よりも低い融点をもつワックスをプレスロールに連続的に供給することにより、プレスロール表面の紙の過付着を防止する方法(例えば特許文献3参照)がある。しかしながら、この方法ではプレスロールの表面温度に合わせたワックスの融点の管理が必要となり、プレス工程における工程管理が難しくなる。また、低融点のパラフィンは一般的に有機物との相溶性が良いため、有機物系の汚れ成分がプレスロール表面に付着してロールが汚れやすくなる欠点もある。また、特定のエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック共重合体をロール表面に散布して剥離性を向上させる方法(例えば特許文献4参照)がある。しかし、該共重合体は親水性が高く高発泡性のため、ロール表面で泡を生じてロールと湿紙の均一な剥離性が維持できなくなったり、湿紙中に気泡が入り操業中の紙切れ等の生産性低下を起こしたり、紙製品に穴あき等の製品上の欠点や品質の低下等を生じる。また、特定分子量のポリジアリルジメチルアンモニウム塩、エピクロルヒドリン−ジアルキルアミン縮合物から選択されるカチオンポリマーと高級脂肪族アミンにエチレンオキサイドまたはエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加させた非イオン活性剤を有効成分とするピッチ抑制剤をロール表面に散布してピッチ汚れを防止する方法(例えば特許文献5参照)がある。また、有機フッ素化合物の分散液をロール表面に散布して、ドクターブレードの磨耗を防止する方法(例えば特許文献6参照)がある。しかし、この方法ではドクターブレードの磨耗は軽減可能であるが、排水処理液に有機フッ素化合物が混入するため、排水処理工程における処理が煩雑化するとともに、処理費用が増大する欠点がある。
【0009】

【特許文献1】特開昭56−65750号公報
【特許文献2】特許第2987598号公報
【特許文献3】特許第3273137号公報
【特許文献4】特許第3930896号公報
【特許文献5】特開2004−44067号公報
【特許文献6】特開2005−273026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、プレスロールを清浄な状態に保ち、湿紙がプレスロールに付着し難く、プレスロールから容易に剥離され、かつドクターブレードの磨耗を軽減できる、低発泡性の、プレスロールの汚れ防止剤、及びこれを用いた汚れ防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題解決のため鋭意研究を行った結果、特定のエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体がプレスロールの汚れ防止に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の請求項1に係る発明は、抄紙プレス工程において、(A)一般式(1)及び一般式(2)で表されるエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体を有効成分として含有することを特徴とするプレスロールの汚れ防止剤である。
【0013】
【化1】

【0014】
(ただし、式中、lとnの和は10〜80の整数であり、l及びnはいずれも0ではなく、mは15〜70の整数である。)
【0015】
【化2】

【0016】
(ただし、式中、pは10〜80の整数、qは15〜70の整数である。)
請求項2に係る発明は、(B)水溶性ポリマーを含有する請求項1記載のプレスロールの汚れ防止剤である。
【0017】
請求項3に係る発明は、(B)水溶性ポリマーが、水溶性アニオンポリマー、水溶性カチオンポリマー、水溶性非イオンポリマー及び水溶性両性ポリマーの少なくとも1種である請求項1記載のプレスロールの汚れ防止剤である。
【0018】
請求項4に係る発明は、(A)エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体と、(B)水溶性ポリマーを重量比で1:0.2〜1:2である請求項2又は3記載のプレスロールの汚れ防止剤である。
【0019】
請求項5に係る発明は、(B)水溶性ポリマーが、ポリジメチルジアリルアンモニウムクロリド(DADMAC)、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン縮合体、ジメチルアミン−アンモニア−エピクロルヒドリン共重合体、ポリジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの少なくとも1種である請求項2乃至4のいずれかに記載のプレスロールの汚れ防止剤である。
【0020】
請求項6に係る発明は、抄紙プレス工程において、(A)エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体、又は(A)エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体と(B)水溶性ポリマーを湿紙が直接接触するプレスロール表面に散布することを特徴とするプレスロールの汚れ防止方法である。
【0021】
請求項7に係る発明は、抄紙プレス工程におけるプレスロールのドクターブレードの摩耗防止方法であって、(A)エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体、又は(A)エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体と(B)水溶性ポリマーを直接、プレスロール表面に散布することを特徴とするプレスロールのドクターブレードの摩耗防止方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の、抄紙プレス工程における汚れ防止剤及びこれを用いた汚れ防止方法により、プレスロールの汚れを防止(プレスロールの汚れ防止効果)して、プレスロール表面を清浄な状態に保ち、湿紙がプレスロールに付着し難く、プレスロールから容易に剥離され(湿紙剥離性の向上効果)、かつドクターブレードの磨耗を軽減でき(ドクターブレードの磨耗防止効果)、また発泡もなくなる(発泡低減効果)ため、ロール間のドローを低く保ち、紙切れ(断紙)の発生を抑え、断紙による生産性の低下を防ぐことができ、かつ製品の品質を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、紙の製造におけるプレス工程において、特定のエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体を有効成分として含有することを特徴とするプレスロールの汚れ防止剤、及び、それを用いたプレスロールの汚れ防止方法である。
【0024】
本発明のプレスロールの汚れ防止剤は、水分を含んだ湿紙を一対のプレスロール間に挟んで該湿紙を脱水するとともに、該プレスロールにドクターブレードを圧接させて該プレスロールの付着物の除去を行う抄紙プレス工程において、プレスロールの汚れを防止し、プレスロールからの湿紙の剥離を容易にし、ドクターブレードの磨耗も防止する、低発泡性の、プレスロールの汚れ防止剤である。
【0025】
本発明において対象となる紙は、特に限定されるものではなく、抄紙機で抄紙され、抄紙された湿紙がプレス工程に送られて脱水され、さらに乾燥工程を経て成紙となる紙である。例えば、クラフト紙、上質紙、中質紙、下級紙、紙ナプキンやトイレットペーパーなどの家庭紙、薄葉紙、板紙、ライナー、中芯さらに特殊紙等がある。
【0026】
本発明におけるプレス工程は、抄紙工程で湿紙を形成した後、次工程で該湿紙を脱水する工程であり、通常、3〜5本の脱水用プレスロールとフェルトの組合せで構成されている。
【0027】
プレスロールとフェルトの組合せによる脱水は、例えば2本のプレスロール(以下、「ロール」という。)を軸方向に平行に並べて“ロール間に僅かな間隙”を設け、この僅かな間隙に湿紙とフェルトを重ねた状態で挟み込み、該ロール間にニップ圧をかけることによって、湿紙中の水分がフェルト側へ移行し、脱水が行われる。通常、複数のロールを用いて複数の“ロール間に僅かな間隙”を作り、連続的な脱水が行われている。湿紙が接触する側のロールには紙の剥離性を考慮して、紙に馴染みやすく平滑性のある硬質ゴム製ロール、セラミック製ロール、天然花崗岩や人造花崗岩で作られたストーンロールがよく用いられる。
【0028】
本発明のプレスロールの汚れ防止剤は、下記一般式(1)及び(2)のエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体(以下、「エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド重合体」とする。)を含むものである。
【0029】
【化1】

【0030】
一般式(1)の式中、lとnの和は10〜80の整数であり、l及びnはいずれも0ではなく、mは15〜70の整数である。lとnの和は好ましくは20〜60の整数であり、さらに好ましくは25〜50の整数である。mは好ましくは20〜65の整数であり、さらに好ましくは30〜60の整数である。
【0031】
【化2】

【0032】
一般式(2)の式中、pは10〜80の整数、qは15〜70の整数である。pは好ましくは20〜60の整数であり、さらに好ましくは25〜50の整数である。qは好ましくは20〜65の整数であり、さらに好ましくは30〜60の整数である。
【0033】
本発明のプレスロールの汚れ防止剤はエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド重合体に加え、さらに水溶性ポリマーを含有することが好ましい。水溶性ポリマーのイオン性は、非イオン性、カチオン性、アニオン性、両性の水溶性ポリマーであり、中でもカチオン性、両性が好ましい。具体的にカチオン性水溶性ポリマーとしては、ポリジメチルジアリルアンモニウムクロリド(DADMAC)、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン縮合体、ジメチルアミン−アンモニア−エピクロルヒドリン共重合体、ポリジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、両性ポリマーとしては(メタ)アクリル酸−ジメチルジアリルアンモニウムクロリド共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸トリメチルアンモニウム共重合体などが挙げられる。また、これらカチオン性単量体やアニオン性単量体にノニオン性単量体を重合させることにより得られるポリマーであってもよい。
【0034】
本発明のプレスロールの汚れ防止剤において、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド重合体と水溶性ポリマーの混合比は重量比で、1:0.2〜1:2であることが好ましい。
【0035】
本発明のプレスロールの汚れ防止剤の使用方法は、通常、プレス工程の湿紙が接触するロール表面にプレスロールの汚れ防止剤を塗布して使用される。具体的には、シャワー水あるいはポンド水にプレスロールの汚れ防止剤を添加して、プレス工程の湿紙が接触するプレスロール表面に均一かつ十分に行き渡るように散布して用いられる。
【0036】
プレスロールの汚れ防止剤の添加量は、抄紙機の抄紙速度、プレス工程に供給される湿紙の含水率、プレス工程の構成内容および運転状況、プレス工程のロールの材質などによって異なり一律に決められるものではないが、通常、プレスロール表面に対して、有効成分として0.01〜10(mg/m−ロール表面積)である。
【0037】
代表的なプレス工程として、図1に示したプレス工程を例に取り、具体的に本発明のプレスロールの汚れ防止剤の使用方法を説明する。抄紙後の湿紙1はボトムフェルト9とピックアップフェルト8に挟まれ、2Pロール2によって搾水、脱水され、次にピックアップフェルト8とセンターロール(プレスロール)4に挟まれて搾水、脱水され、さらにセンターロール(プレスロール)4と3Pフェルト10で搾水、脱水が行われ、スムーザーロール5へと送られる。センターロールには2本のドクターブレード11、12とそれぞれドクターシャワー6、7が設置されている。プレスロールの汚れ防止剤は薬液注入ポンプを用いて2本のドクターシャワー6、7ラインに注入され、センターロール(プレスロール)4の表面に散布、塗布される。プレスロールの汚れ防止剤の、センターロール(プレスロール)4のロール表面への塗布量が有効成分として0.01〜10(mg/m−ロール表面積)になるように薬液注入ポンプを調整する。
【0038】
プレスロールの汚れ防止剤の使用により、プレスロールへの汚れの付着が抑制され、また付着した汚れの除去が容易になる。その結果、プレスロールの汚れが低減されることにより、湿紙のプレスロールからの剥離性向上効果が得られ、ドローの低下となって安定操業が得られる。また、予想し得なかった効果として、プレスロールの汚れ防止剤を薬液注入ポンプを用いて2本のドクターシャワー6、7ラインに注入し、センターロール(プレスロール)4の表面に散布し塗布する方法、あるいは、プレスロールの汚れ防止剤をプレスロールのドクターブレード11、12の表側(汚れを掻き取る側)刃先に均一かつ十分に行き渡るように散布し塗布する方法よって、プレスロールのドクターブレードの摩耗抑制効果が得られる。
【0039】
プレスロールの汚れ防止剤には、本発明の効果を妨げない程度に他の成分、例えば;ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ドデシルトリメチルアンモニウム塩などのカチオン性界面活性剤;ポリオキシエチレン(付加数4〜20)グリコール脂肪酸(炭素数12〜20)エステル、高級アルコール(炭素数12〜22)のポリオキシエチレン(付加数4〜30)付加物、高級アルコール(炭素数12〜22)のポリオキシエチレン(付加数4〜30)ポリオキシプロピレン(付加数1〜5)付加物、などの非イオン性界面活性剤;ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、ホスホノブタントリカルボン酸、アミノトリホスホン酸などのホスホン酸などを配合してもよい。
【実施例】
【0040】
本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例A−1の調製)
エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体(プロピレンオキサイド基の分子量3250、総分子中のエチレンオキサイドの含有率30%であり、l+n=32、m=56の重合体)の10重量%水溶液を調製した。
(実施例A−2の調製)
エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体(プロピレンオキサイド基の分子量2250、総分子中のエチレンオキサイドの含有率40%であり、l+n=34、m=39の重合体)の10重量%水溶液を調製した。
(実施例A−3の調製)
エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体(プロピレンオキサイド基の分子量1750、総分子中のエチレンオキサイドの含有率40%であり、l+n=27、m=30の重合体)の10重量%水溶液を調製した。
(実施例A−4の調製)
エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体(プロピレンオキサイド基の分子量3250、総分子中のエチレンオキサイドの含有率50%であり、l+n=74、m=56の重合体)の10重量%水溶液を調製した。
(実施例A−5の調製)
エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体(プロピレンオキサイド基の分子量2750、総分子中のエチレンオキサイドの含有率20%であり、l+n=16、m=47の重合体)の10重量%水溶液を調製した。
(実施例A−6の調製)
エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体(プロピレンオキサイド基の分子量950、総分子中のエチレンオキサイドの含有率50%であり、l+n=22、m=16の重合体)の10重量%水溶液を調製した。
(実施例A−7の調製)
エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体(プロピレンオキサイド基の分子量2250、総分子中のエチレンオキサイドの含有率40%であり、l+n=34、m=39の重合体):7重量%とカチオン性水溶性ポリマーであるジメチルジアリルアンモニウムクロリド:3重量%を加えた水溶液を調製した。
(実施例A−8の調製)
エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体(プロピレンオキサイド基の分子量2250、総分子中のエチレンオキサイドの含有率40%であり、l+n=34、m=39の重合体):7重量%と両性水溶性ポリマーであるアクリル酸−メタクリル酸トリメチルアンモニウム共重合体:3重量%を加えた水溶液を調製した。
(実施例A−9の調製)
エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体(プロピレンオキサイド基の分子量2250、総分子中のエチレンオキサイドの含有率40%であり、p=34、q=39のランダム重合体)の10重量%水溶液を調製した。
【0041】
(比較例B−1の調製)
エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体(プロピレンオキサイド基の分子量1750、総分子中のエチレンオキサイドの含有率80%であり、l+n=159、m=30の重合体)の10重量%水溶液を調製した。
(比較例B−2の調製)
エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体(プロピレンオキサイド基の分子量2050、総分子中のエチレンオキサイドの含有率70%であり、l+n=109、m=35の重合体)の10重量%水溶液を調製した。
(比較例B−3の調製)
エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体(プロピレンオキサイド基の分子量950、総分子中のエチレンオキサイドの含有率30%であり、l+n=9、m=16の重合体)の10重量%水溶液を調製した。
(比較例B−4の調製)
エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体(プロピレンオキサイド基の分子量696、総分子中のエチレンオキサイドの含有率85%であり、l+n=90、m=12の重合体)の10重量%水溶液を調製した。
【0042】
(汚れ防止試験)
新聞紙を抄造しているマシンではプレスロールに汚れ(ピッチ)が付着して湿紙の剥離性が低下していた。そこで、本付着ピッチを採取し、クロロホルムでソックスレー抽出した後、その抽出分をクロロホルム:エタノール=2:1混合溶媒に溶かし20%濃度のピッチ試料とした。200mlビーカーに水100mlと調製したA−1〜A−9、及びB−1〜B−4を1000mg入れ、これをミキサー(特殊機化工業製TKオートホモミキサーM型)にて9000rpmに攪拌しながら調製したピッチ試料500mgを注入し、さらに1分間攪拌した。ビーカー及びミキサーの付着物をクロロホルムにて抽出し、付着量を求めた。付着量が少ないほど汚れ(ピッチ)がプレスロールに付着しにくく、好ましい。結果を表1に示した。
【0043】
【表1】

【0044】
本発明のプレスロールの汚れ防止剤:A−1〜A−9は、ピッチ付着量が少なく、優れた汚れ(ピッチ)付着防止効果があることが分かる。
【0045】
(湿紙剥離試験)
フリーネス350(CSF:カナディアンスタンダード)の広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)を使用し、TAPPI式手抄シートマシンにて、坪量60g/m2の手抄シートを作成し、作成した手抄シートを幅1.5cm×長さ28cmの短冊状に切り、それをイオン交換水に10秒間浸漬して、湿紙試験片とした。
一方、調製したA−1〜A−9、及びB−1〜B−4の水溶液を水で希釈して1%水溶液を調製し、幅5cm×長さ30cmのステンレス板に3ml噴霧した後、直ちに湿紙試験片をステンレス板上に密着するように載せ、0.5kg/cm2の圧力で10秒間プレス脱水を行った。その後、引っ張り試験機(ストログラフM−50 東洋精機株式会社製作所製)にセットし、50mm/分のスピードで剥離試験(90°剥離試験)を行い、引張力の最大値を剥離力として評価を行った。この剥離力の小さいものほどプレスロールから紙が剥がれやすく、好ましい。結果を表2に示した。
【0046】
【表2】

【0047】
本発明のプレスロールの汚れ防止剤:A−1〜A−9は、低い90°剥離力を示し、優れた湿紙剥離効果があることが分かる。
【0048】
(抄紙試験)
中性中質紙を抄造しているマシンのプレス工程では人造花崗岩製のセンターロールにピッチ付着が認められ、湿紙が過付着してセンターロールとスムーザーロール間のドローが高くなり、頻繁に紙切れ(断紙)を起こしていた。また、ドクターブレードの磨耗も早く取り替え頻度が高くなっていた。このプレス工程は図1に示すように、抄紙後の湿紙が先ずピックアップフェルト8とボトムフェルト9に接触し脱水されるが、まだ多くの水分を含んだ状態でセンターロール4と接触し、次いで3Pフェルト10でさらに脱水が行われ、スムーザーロール5へと送られる。センターロールには2本のドクターとそれぞれドクターシャワー6、7が設置されている。
【0049】
そこで、センターロールに散布される2本のドクターシャワー6、7のシャワー水に、調製したA−1、A−2、A−7及びB−1、B−2をそれぞれシャワー水に対して有効成分として0.5mg/m−ロール表面積となるように添加した。10日間におけるドローの平均低下度、ドクターブレードの平均磨耗量ならびに発泡性を評価した。発泡性については、目視評価とし「○:泡立ちが低く操業に全く問題ない。」「×:泡立ちがあり、操業に影響を及ぼす可能性がある。」の2段階で評価した。結果を表3に示した。
【0050】
【表3】

【0051】
本発明のプレスロールの汚れ防止剤:A−1、A−2、A−7は、ドローの低下(改善)が大きく、ドクターブレードの磨耗量が少なく、泡立ちが少なく、操業への影響もない。このドローの改善により断紙数は大幅に減少し、生産性が向上した。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】抄紙機のプレスパートの模式図である。
【符号の説明】
【0053】
1…湿紙
2…2Pロール
3…3Pロール
4…センターロール(プレスロール)
5…スムーザーロール
6…#1ドクターシャワー
7…#2ドクターシャワー
8…ピックアップフェルト
9…ボトムフェルト
10…3Pフェルト
11、12・・・ドクターブレード



【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙プレス工程において、(A)一般式(1)及び一般式(2)で表されるエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体を有効成分として含有することを特徴とするプレスロールの汚れ防止剤。

【化1】


(ただし、式中、lとnの和は10〜80の整数であり、l及びnはいずれも0ではなく、mは15〜70の整数である。)

【化2】


(ただし、式中、pは10〜80の整数、qは15〜70の整数である。)
【請求項2】
(B)水溶性ポリマーを含有する請求項1記載のプレスロールの汚れ防止剤。
【請求項3】
(B)水溶性ポリマーが、水溶性アニオンポリマー、水溶性カチオンポリマー、水溶性非イオンポリマー及び水溶性両性ポリマーの少なくとも1種である請求項1記載のプレスロールの汚れ防止剤。
【請求項4】
(A)エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体と、(B)水溶性ポリマーを重量比で1:0.2〜1:2である請求項2又は3記載のプレスロールの汚れ防止剤。
【請求項5】
(B)水溶性ポリマーが、ポリジメチルジアリルアンモニウムクロリド(DADMAC)、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン縮合体、ジメチルアミン−アンモニア−エピクロルヒドリン共重合体、ポリジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの少なくとも1種である請求項2乃至4のいずれかに記載のプレスロールの汚れ防止剤。
【請求項6】
抄紙プレス工程において、(A)エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体、又は(A)エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体と(B)水溶性ポリマーを湿紙が直接接触するプレスロール表面に散布することを特徴とするプレスロールの汚れ防止方法。
【請求項7】
抄紙プレス工程におけるプレスロールのドクターブレードの摩耗防止方法であって、(A)エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体、又は(A)エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体と(B)水溶性ポリマーを直接、プレスロール表面に散布することを特徴とするプレスロールのドクターブレードの摩耗防止方法。


【図1】
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【公開番号】特開2009−280935(P2009−280935A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135549(P2008−135549)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】