説明

抄紙加工用アクリル系樹脂分散体を製造する方法および抄紙加工用アクリル系樹脂分散体

【課題】パルプや無機繊維などをバインダー樹脂の水性分散体とともに凝集させて、紙あるいは不織布、シート状物等を製造する抄紙技術において、硫酸や硫酸バンドの使用量が少ない場合にも、凝集性に優れるバインダー樹脂を提供する。
【解決手段】カルボン酸塩型アニオン系界面活性剤(A)の存在下で、アクリル系単量体を含む単量体混合物を乳化重合する抄紙加工用アクリル系樹脂分散体を製造する方法、および前記抄紙加工用アクリル系樹脂分散体を用いた抄紙方法にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙加工のバインダーとして用いるアクリル系樹脂分散体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パルプや無機繊維などをバインダー樹脂の水性分散体とともに凝集させて、紙あるいは不織布、シート状物等を製造する抄紙技術の開発が進められている。こうして得られる紙や不織布、シート状物等は、用いるパルプや無機繊維特有の機能が付与できることから種々の用途に利用されている。
【0003】
通常、このような抄紙技術においてサイズ剤の定着とpH調整を主な目的として、硫酸バンドが広く用いられている。さらに、pH調整のために硫酸を添加する場合もある。
【0004】
例えば、特許文献1には、バインダーとして、アクリル系樹脂分散体を使用し、定着剤として硫酸バンドを使用する方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2にはアクリル系樹脂分散体をバインダーとして用いた紙、不織不の製造方法が記載されており、アクリル系樹脂分散体を製造する際に、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のノニオン系界面活性剤、硫酸ドデシルナトリウム等のアニオン系界面活性剤等を使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭56−4799号公報
【特許文献2】特開平9−78423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1記載の方法では、硫酸イオンと、パルプ原料に由来するカルシウムイオンやバリウムイオンが結合して、水に極めて難溶性の硫酸カルシウムや硫酸バリウムのスケールが発生する。これを防ぐために、硫酸や硫酸バンドの使用量を減らすと、アクリル系樹脂分散体の凝集性が低下し歩留まりが低下するという問題があった。
【0008】
また、特許文献2記載のアクリル系樹脂分散体も、アクリル系樹脂分散体を製造する際の界面活性剤を最適化したものではなく、硫酸や硫酸バンドの使用量を減らした場合に凝集性が低下するという問題があった。
【0009】
本発明の目的は、この問題点を解決し、硫酸や硫酸バンドの使用量が少ない場合にも、 凝集性に優れる抄紙加工用アクリル系樹脂分散体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は、界面活性剤の存在下でアクリル系単量体を含む単量体混合物を乳化重合する抄紙加工用アクリル系樹脂分散体を製造する方法であって、前記界面活性剤がカルボン酸塩型アニオン系界面活性剤(A)を含む、抄紙加工用アクリル系樹脂分散体を製造する方法にある。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によって得られた抄紙加工用アクリル系樹脂分散体により、抄紙工程においてスケールの発生や、添加剤の効果の阻害原因となる硫酸や硫酸バンドの使用量を減らすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、カルボン酸塩型アニオン系界面活性剤(A)の存在下で、アクリル系単量体を含む単量体混合物を乳化重合する抄紙加工用アクリル系樹脂分散体を製造する方法である。
【0013】
本発明では、カルボン酸塩型アニオン系界面活性剤(A)の存在下でアクリル系単量体を含む単量体混合物を乳化重合することで、硫酸や硫酸バンドの量が少量でも凝集性に優れる抄紙加工用アクリル系樹脂分散体を得ることが可能となる。
【0014】
本発明において、カルボン酸塩型アニオン系界面活性剤(A)は、例えば、以下のものが挙げられる。牛脂脂肪酸ソーダ石鹸、ステアリン酸ソーダ石鹸、牛脂脂肪酸カリ石鹸、オレンイン酸カリ石鹸、ひまし油カリ石鹸、などの脂肪酸塩類;アルケニルコハク酸ジカリウム、アルケニルコハク酸ジナトリウムなどのアルケニルコハク酸塩類等。
【0015】
重合安定性の点からコハク酸型アニオン系界面活性剤が好ましい。なお、これらの界面活性剤は単独であるいは2種類以上で使用される。
【0016】
さらに本発明では、硫酸塩型アニオン系界面活性剤(B)を併用することが好ましい。
カルボン酸塩型アニオン系界面活性剤(A)と硫酸塩型アニオン系界面活性剤(B)を併用することで、硫酸や硫酸バンドの量が少量でも凝集性に優れる抄紙加工用アクリル系樹脂分散体を、安定して得ることが可能となる。
【0017】
硫酸塩型アニオン系界面活性剤(B)は、例えば、以下のものが挙げられる。ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ジアルキルサクシネートスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩等。
【0018】
重合安定性の点からジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩が好ましい。なお、これらの界面活性剤は単独であるいは2種類以上で使用される。
【0019】
また、性能に影響を与えない範囲でカルボン酸塩型アニオン系界面活性剤(A)と硫酸塩型アニオン系界面活性剤(B)以外の界面活性剤を含有していても良い。
【0020】
カルボン酸塩型アニオン系界面活性剤(A)の含有量は、重合する全単量体100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下が好ましく、更に好ましくは1.5質量部以上5質量部以下が好ましい。0.1質量部以上であると凝集性が向上するので好ましい。
【0021】
硫酸塩型アニオン系界面活性剤(B)の含有量は、重合する全単量体100質量部に対して0.01質量部以上8質量部以下が好ましく、更に好ましくは0.1質量部以上3質量部以下が好ましい。0.01質量部以上であると得られる水性分散体の機械的安定性が向上する傾向にあり、8質量部以下であると抄造して得られる製品の吸湿性が低くなるので好ましい。
【0022】
また、硫酸塩型アニオン系界面活性剤(B)は、カルボン酸塩型アニオン系界面活性剤(A)と硫酸塩型アニオン系界面活性剤(B)の総量中に10〜30質量%含まれることが好ましい。10質量%以上であると重合安定性に優れ、30質量%未満であると凝集性に優れる。
【0023】
本発明のアクリル系単量体としては、例えば、以下のものが挙げられる。なお、本発明において、(メタ)アクリルは、アクリルまたはメタクリルを意味する。
【0024】
炭素数1〜18のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート類:メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、i−アミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等。シクロアルキル(メタ)アクリレート類:シクロヘキシル(メタ)アクリレート、pt−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等。ヒドロキシル基含有ラジカル重合性単量体類:2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等。ポリオキシアルキレン基含有(メタ)アクリレート類:ヒドロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシポリプロピレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリエチレンオキシド−プロピレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリエチレンオキシド−ポリテトラメチレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリエチレンオキシド−テトラメチレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリプロピレンオキシド−ポリテトラメチレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリプロピレンオキシド−テトラメチレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、アリロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、オクトキシ(ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシ(ポリエチレンオキシド−プロピレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート等。
【0025】
ヒドロキシシクロアルキル(メタ)アクリレート類:p−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等。ラクトン変性ヒドロキシル基含有ラジカル重合性単量体類。アミノアルキル(メタ)アクリレート類:2−アミノエチル(メタ)アクリレート、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−アミノプロピル(メタ)アクリレート、2−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等。アミド基含有重合性単量体:(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等。多官能性(メタ)アクリレート類:エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等。金属含有ラジカル重合性単量体:ジアクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸亜鉛等。耐紫外線基含有(メタ)アクリレート類:2−(2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、1−(メタ)アクリロイル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−アミノ−4−シアノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等。他の(メタ)アクリル系単量体:ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートメチルクロライド塩、アリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等。アルデヒド基又はケト基に基づくカルボニル基含有単量体:アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン、ピバリンアルデヒド、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトニトリルアクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等。
【0026】
アクリル系単量体を含む単量体混合物には、上記アクリル系単量体に加えて、ラジカル重合可能なものであれば(メタ)アクリル系単量体以外の単量体を含んでいても良い。このような単量体としては、例えば、以下のものが挙げられる。芳香族ビニル系単量体:スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、メトキシスチレン等。共役ジエン系単量体:1,3−ブタジエン、イソプレン、2−クロル−1,3―ブタジエン等。カルボキシル基含有単量体:(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、これらのハーフエステル、2−(メタ)アクリロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロキシエチルヘキサヒドロフタル酸等。その他ビニル系単量体:酢酸ビニル、塩化ビニル、エチレン、プロピオン酸ビニル等。後述するグラフト交叉剤を有するシリコーンポリマー。オキシラン基含有ラジカル重合性単量体:グリシジル(メタ)アクリレート等。N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のエチレン性不飽和アミドのアルキロール又はアルコキシアルキル化合物等。
【0027】
また、本発明のアクリル系単量体を含む単量体混合物は、アクリル系樹脂分散体の貯蔵安定性、アクリル系樹脂分散体と無機原料及び添加物等を配合してスラリー化する際の配合安定性の点から、カルボキシル基含有単量体を含むことが好ましい。
【0028】
カルボキシル基含有単量体の含有量は、重合する全単量体中に0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜8質量%がより好ましい。カルボキシル基含有単量体の含有量が0.1質量%以上であれば、アクリル系樹脂分散体の貯蔵安定性が向上する。
【0029】
カルボキシル基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、シトラコン酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノブチル、ビニル安息香酸、シュウ酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、5−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、マレイン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、マレイン酸ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
本発明では、カルボン酸塩型アニオン系界面活性剤(A)の存在下で、アクリル系単量体を含む単量体混合物を乳化重合する。
【0031】
乳化重合は、公知の方法で行えばよく、少量の単量体混合物を乳化重合して種粒子を得た後、残りの単量体混合物を供給するシード重合法が、重合安定性の点で好ましい。
【0032】
なお、種粒子の重合を行う際に、カルボン酸塩型アニオン系界面活性剤(A)または硫酸塩型アニオン系界面活性剤(B)を添加しても良い。
【0033】
さらに、アクリル系単量体を含む単量体混合物として、異なる組成からなる単量体混合物を用いて、多段で重合しても良い。例えば、Foxの計算式で得られるガラス転移温度が異なる単量体混合物を2段階で重合することにより、アクリル系樹脂の凝集性が向上し、得られる紙或いは不織布、シート等の柔軟性と非タック性のバランスが良好となる傾向にある。
【0034】
また、カルボン酸塩型アニオン系界面活性剤(A)と硫酸塩型アニオン系界面活性剤(B)を併用する場合、カルボン酸塩型アニオン系界面活性剤(A)と硫酸塩型アニオン系界面活性剤(B)と単量体混合物とを乳化した乳化分散液を滴下してもいいが、単量体混合物を硫酸塩型アニオン系界面活性剤(B)で乳化したものと、カルボン酸塩型アニオン系界面活性剤(A)の2液に分けて滴下することが、重合安定性の点で好ましい。
【0035】
開始剤は一般的にラジカル重合に使用されるものが使用可能であり、その具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル等の油溶性アゾ化合物類や2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシエチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2´−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)及びその塩類、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}及びその塩類、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)及びその塩類、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]及びその塩類等の水溶性アゾ化合物、過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物類等が挙げられる。
【0036】
これらの開始剤は単独でも使用できるほか、2種類以上の混合物としても使用できる。
【0037】

また、10時間半減期温度が70℃以下である2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、及びその塩類等の水溶性アゾ化合物、もしくは重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、アスコルビン酸塩、ロンガリット等の還元剤をラジカル重合触媒と組み合わせて用いることもできる。
【0038】
ラジカル重合開始剤の添加量は、通常、ラジカル重合性単量体の全量に対して0.01〜10質量部の範囲であるが、重合の進行や反応の制御を考慮に入れると、0.05〜5質量部の範囲が好ましい。重合温度は90℃以下が好ましい。重合時間は2時間以上が好ましい。
【0039】
また、本発明方法で得られた抄紙加工用アクリル系樹脂分散体中のアクリル系樹脂の ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した質量平均分子量は、本発明の抄紙加工用アクリル系樹脂分散体を用いて得られた紙或いは不織布、シート等の耐久性の点から5万〜500万が好ましい。
【0040】
さらに、アクリル系樹脂分散体中のアクリル系樹脂のFoxの計算式で得られるガラス転移温度が0℃以下が好ましい。ガラス転移温度が0℃以下であることにより、凝集性に優れる傾向にある。
【0041】
Foxの計算式から得られるTgとは、下記式(1)により算出したのものである。各単量体の単独重合体のガラス転移温度は「POLYMERHANDBOOK」4TH EDITONに記載されている標準的な分析値を用いた。表1に、代表的な単独重合体のTgの文献値を示す。
【数1】

・・・(1)
Tg:共重合体のガラス転移温度(℃)
Tgi:i成分の単独重合体のガラス転移温度(℃)
Wi:i成分の質量比率、ΣWi=1
【0042】
【表1】

本発明の方法で得られた抄紙加工用アクリル系樹脂分散体は、天然繊維、パルプ、レーヨン、ビニル系重合体、ポリエステルなどの合成繊維、ガラスファイバー、セラミックファイバー、ロックウール、酸化チタン、チタン酸カリウムなどの無機繊維と配合し公知の方法で、スラリー化し、硫酸、硫酸バンド等を添加し、紙、不織布、シート等に抄造することができる。
【実施例】
【0043】
本発明を実施例および比較例によりさらに詳しく説明する。また、評価は以下の方法で実施した。
【0044】
(重合安定性)
乳化重合によって得られたアクリル系樹脂分散体中のカレットを以下の方法で評価した。
アクリル系樹脂分散体を#100のナイロン布でろ過し、ろ過残渣を水洗・乾燥・計量した。水性分散体の固形分に対するろ過残渣の割合を計算し、以下の基準で評価した。
ろ過残渣〔%〕=ろ過残渣〔g〕/水性分散体の固形分〔g〕×100
重合安定性○: 0.1%未満
重合安定性△: 0.5%未満0.1%以上
重合安定性×: 0.5%以上
(凝集性)
直径1cm以上のアクリル系樹脂の凝集物を生成するのに要した10質量%硫酸水溶液の量から以下の方法で凝集性を評価した。
300mlのビーカーに10質量%に希釈したアクリル系樹脂分散体を100g計量する。この分散体に10質量%硫酸水溶液を1mlづつ添加し、直径1cm以上の凝集物を生成するのに要した10質量%硫酸水溶液の量を測定した。
凝集性○: 15ml未満
凝集性△: 15ml以上30ml未満
凝集性×: 30ml以上
(重量平均分子量)
得られたアクリル系樹脂分散体のテトラヒドロフラン可溶成分をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値として以下の条件で測定した。
測定装置:東ソー(株)製、高速GPC装置HLC−8020
カラム:東ソー(株)製、TSKgelGMHXLを3本直列に連結
オーブン温度:38℃
溶離液:テトラヒドロフラン
試料濃度:0.3重量%
流速:1mL/分
注入量:0.1mL
検出器:RI(示差屈折計)
(実施例1)
温度計、窒素ガス導入管、攪拌棒、滴下漏斗、冷却管を装備した2リットルの4つ口フラスコに、純水360g及びラテムルASK(コハク酸型界面活性剤:花王(株)製)10.71gを入れ、30分間窒素ガスを通気し、純水中の溶存酸素を置換した。窒素ガス通気を停止した後、120rpmで攪拌しながら80℃に昇温した。
【0045】
ここに、エチルアクリレート24g、n−ブチルアクリレート6.0gと純水6.0gに溶かした過硫酸アンモニウム0.9gを投入し重合を実施した。
【0046】
重合発熱ピークを確認した後、エチルアクリレート441.8g、n−ブチルアクリレート119.7g、アクリル酸8.6g、ペレックスOTP(スルホコハク酸型界面活性剤:花王(株)製)4.29g及び純水240gから得られる乳化分散液と、ラテムルASK42.85gと純水30gからなる界面活性剤水溶液の2液を5時間掛けて並列で滴下した。
【0047】
滴下終了後6gの純水を滴下して乳化分散液滴下配管を洗浄した。純水滴下終了した後1時間、80℃にて攪拌を継続し、その後室温まで冷却し、28%アンモニア水溶液を2・1g添加してpHを8に調整して、アクリル系樹脂分散体を得た。得られたアクリル系樹脂分散体の評価結果を表2に示す。
【0048】
(実施例2)
温度計、窒素ガス導入管、攪拌棒、滴下漏斗、冷却管を装備した2リットルの4つ口フラスコに、純水360g及びラテムルASK10.71gを入れ、30分間窒素ガスを通気し、純水中の溶存酸素を置換した。窒素ガス通気を停止した後、120rpmで攪拌しながら80℃に昇温した。
【0049】
ここに、エチルアクリレート24g、n−ブチルアクリレート6.0gと純水6.0gに溶かした過硫酸アンモニウム0.9gを投入し重合を実施した。重合発熱ピークを確認した後、エチルアクリレート441.8g、n−ブチルアクリレート119.7g、アクリル酸8.6g、ペレックスOTP4.29g、ラテムルASK42.85g及び純水270gから得られる乳化分散液を5時間掛けて滴下した。
【0050】
滴下終了後6gの純水を滴下して乳化分散液滴下配管を洗浄した。純水滴下終了した後1時間、80℃にて攪拌を継続し、その後室温まで冷却し、28%アンモニア水溶液を2・1g添加してpHを8に調整して、アクリル系樹脂分散体を得た。得られたアクリル系樹脂分散体の評価結果を表2に示す。
【0051】
(実施例3〜11)
追加で添加する界面活性剤の種類及び量と単量体の種類及び量を表2に示す通り変更した以外は、実施例1と同様の方法でアクリル系樹脂分散体を得た。得られたアクリル系樹脂分散体の評価結果を表2に示す。
【0052】
(比較例1〜2)
界面活性剤の種類及び量を表2に示す通り変更した以外は、実施例1と同様の方法で、アクリル系樹脂分散体を得た。得られたアクリル系樹脂分散体の評価結果を表1に示す。
【0053】
比較例1、2は、アニオン系界面活性剤(A)を使用していないため、凝集性が不十分となった。
【0054】
【表2】

MMA:メチルメタクリレート
EA:エチルアクリレート
nBA:n−ブチルアクリレート
EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
AA:アクリル酸
A1:ラテムルASK コハク酸塩型アニオン系界面活性剤 固形分28質量% 花王(株)
A2:SS−40N カルボン酸塩型アニオン系界面活性剤 固形分87質量% 花王(株)
B1:ペレックスOTP スルホコハク酸塩型アニオン系界面活性剤 固形分70質量% 花王(株)
B2:ニューコール707SF 硫酸塩型アニオン系面活性剤 固形分33質量% 日本界面活性剤(株)
C:エマルゲン1150S−60 ノニオン系界面活性剤 固形分60% 花王(株)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤の存在下でアクリル系単量体を含む単量体混合物を乳化重合する抄紙加工用アクリル系樹脂分散体を製造する方法であって、前記界面活性剤がカルボン酸塩型アニオン系界面活性剤(A)を含む、抄紙加工用アクリル系樹脂分散体を製造する方法。
【請求項2】
前記界面活性剤が硫酸塩型アニオン系界面活性剤(B)を更に含む請求項1記載の抄紙加工用アクリル系樹脂分散体を製造する方法。
【請求項3】
カルボン酸塩型アニオン系界面活性剤(A)と硫酸塩型アニオン系界面活性剤(B)の総量中に、硫酸塩型アニオン系界面活性剤(B)が10〜30質量%含まれている請求項2記載の抄紙加工用アクリル系樹脂分散体を製造する方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の方法で得られた抄紙加工用アクリル系樹脂分散体。
【請求項5】
請求項4記載の抄紙加工用アクリル系樹脂分散体を用いた抄紙方法。

【公開番号】特開2013−91859(P2013−91859A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232588(P2011−232588)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】