説明

抄紙工程用セラミックロール

【課題】抄紙工程におけるプレスパート等において、紙への平滑性付与機能を備えつつ、紙との高い剥離性を有する抄紙工程用セラミックロールの提供。
【解決手段】外周面側にセラミック層3を備える抄紙工程用セラミックロール1であって、上記セラミック層3表面にスクラッチ目を有し、このスクラッチ目の主方向が周方向に対して傾斜している方向性領域7を有することを特徴とする。上記方向性領域7がスクラッチ目の主方向を長手方向とする帯状形状を有し、この方向性領域7が軸方向に沿って一定間隔に配設されていることが好ましい。さらには上記方向性領域7が、周方向に沿ってジクザグ状に形成されていることが好ましい。また、上記スクラッチ目の主方向の周方向に対する傾斜角としては4°以上60°以下が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙工程におけるプレスパート等にて湿紙の脱水を行う際に用いられるセラミックロールに関する。
【背景技術】
【0002】
製紙における抄紙工程では、抄紙された湿紙に含まれる多量の水分を除去し、乾燥することが必要とされる。この湿紙からの水分除去方法として、通常、抄紙工程において、フェルト上に保持された湿紙を2本のロール間に挟み、加圧することによって脱水するプレスパートが設けられている。このプレスパートにて用いられるロールとしては、加圧による脱水及び湿紙表面への平滑性の付与のために、2本のロールの少なくとも1本に表面が硬質のロールが用いられている。
【0003】
上述の表面が硬質のロールは、高荷重、高速回転及び長期使用に耐えられる材質であることが要求され、古くから天然花崗岩を用いたストーンロールが用いられている。このストーンロールは、鏡面上の表面仕上げが可能であるため、紙への平滑性付与機能が高く、また表面硬度も高いため摩耗が少なく、上述の高荷重、高速回転及び長期使用に耐えることが可能である。しかし、ストーンロールは、天然石を素材としているため、入手が困難になりつつある。また、長尺大型化するプレスロール用の大型石材を採石し、運搬、加工することは困難を極める。さらには、ストーンロールは天然素材であるため、製造される各ロール毎に、又は1本のロールにおける各部分毎においても、硬度などの表面特性にバラツキが生じるという不都合がある。
【0004】
そこで、ストーンロールに代わるロールとして、表面にガスプラズマ溶射法などによって溶射したセラミック層を有するセラミックロールが広く採用されつつある。このようなセラミックロールは、溶射によって表面に設けられたセラミック層が緻密であるため、ロール表面の平滑性が高い。
【0005】
この表面の平滑性の高いセラミックロールは、紙表面の平滑性を向上させることができる一方、ロール表面と湿紙との密着性が高くなり過ぎるため、紙の剥離性が低下する。このように紙剥離性が低いと、湿紙がプレスロールを通過する際に湿紙表面部分が剥がれるおそれがある。その剥がれた湿紙表面の紙カスがロール表面に付着することで、紙の品質低下の要因となる。また、紙との剥離性が低いと、プレスロール以降の工程で紙切れが発生し、生産ラインを停止させるおそれもある。
【0006】
かかるセラミックロールは、プレスパートにて長期使用すると、湿紙との接触により表面が徐々に摩耗され平滑度が高まり、加えて、ロール中央部が摩耗して表面が湾曲する傾向がある。
【0007】
従って、セラミックロールの表面の平滑性を制御するために、製造工程において、又、定期的なメンテナンスにおいて、適度な表面粗さを有するように表面を研磨することがなされている(特開平9−241820号公報等参照)。この表面の研磨方法としては、例えば、粗研磨した後に、研磨砥石又は研磨フィルムによって仕上研磨し、この仕上研磨において、研磨砥石の場合は粒度が#120〜#1000番手のものを用い、研磨フィルムの場合は15μm〜100μmの研磨粒子からなるものを用いることで、表面粗さとしてコア部のレベル差(Rk)、コア部の負荷長さ率(Mr2)及び突出谷部深さ(Rvk)を制御する方法が提案されている(特開2005−273090号公報参照)。
【0008】
しかしながら、このように特定の研磨材を用いることでロール表面の表面粗さを単に制御した抄紙工程用のロールによれば、研磨によって生じるスクラッチ目に湿紙表面のパルプ繊維が詰まりやすく、この紙剥離性を高めることには限界がある。そこで、抄紙工程におけるプレスパート等において、紙への平滑性付与機能を備えつつ、より高い紙離れ性を有するセラミックロールの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−241820号公報
【特許文献2】特開2005−273090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、これらの事情に鑑みてなされたものであり、抄紙工程におけるプレスパート等において、紙への平滑性付与機能を備えつつ、紙との高い剥離性を有するセラミックロールの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた発明は、
外周面側にセラミック層を備える抄紙工程用セラミックロールであって、
上記セラミック層表面にスクラッチ目を有し、
このスクラッチ目の主方向が周方向に対して傾斜している方向性領域を有することを特徴とする。
【0012】
当該抄紙工程用セラミックロールによれば、スクラッチ目の主方向がロールの周方向に対して傾斜している方向性領域を有するため、抄紙工程のプレスパートにおいて、この方向性領域における抄紙された湿紙の繊維配向方向と、スクラッチ目の主方向とを異なる方向とすることができる。従って、当該セラミックロールによれば、方向性領域において湿紙表面のパルプ繊維が、微細なスクラッチ目に埋もれ込みにくくなるため、紙へ平滑性を付与しつつ、紙との剥離性を高めることができる。
【0013】
上記方向性領域がスクラッチ目の主方向を長手方向とする帯状形状を有し、この方向性領域が軸方向に沿って一定間隔に配設されていることが好ましい。当該セラミックロールによれば、このように方向性領域が軸方向に沿って一定間隔に配設されていることで、軸方向において方向性領域と他の領域とを交互に備えていることとなる。従って、当該セラミックロールによれば、パルプ繊維がまとまってスクラッチ目に埋もれ込むことを防ぎ、紙の剥離性をさらに高めることができる。
【0014】
上記方向性領域は、周方向に沿ってジクザグ状に形成されていることが好ましい。当該セラミックロールによれば、このように方向性領域が、周方向に沿ってジクザク状に形成されているため、この方向性領域における主方向の変換箇所の存在により、湿紙の繊維配向方向とスクラッチ目の主方向との差が小さい場合であっても繊維がこのスクラッチ目に埋もれ込みにくくなる。従って、当該セラミックロールによれば、さらに紙の剥離性を高めることができる。
【0015】
上記スクラッチ目の主方向の周方向に対する傾斜角としては、4°以上60°以下が好ましい。当該セラミックロールは、スクラッチ目の主方向が上記範囲に傾斜していることで、効果的に紙の剥離性を高めることができる。
【0016】
当該セラミックロールの外周面の算術平均粗さ(Ra)としては、0.2μm以上2μm以下が好ましい。当該セラミックロールによれば、外周面の算術平均粗さ(Ra)を上記範囲とすることで、プレスされる湿紙の平滑度を低下させることなく、紙の剥離性を高めることができる。
【0017】
ここで、「スクラッチ目」とは、砥石や研磨フィルム等の研磨材を用いた研磨によって形成される微細な筋状の研磨跡をいう。「算術平均粗さ(Ra)」は、JIS−B0601(1994)に準じ、カットオフλc2.5mm、評価長さ12.5mmで測定した値である。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、当該抄紙工程用セラミックロールによれば、抄紙工程におけるプレスパートにて、湿紙へ高い平滑性を付与し、加えて、湿紙との剥離性を高めることができ、紙の品質低下を防ぎ、歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る抄紙工程用セラミックロールを示す模式図。
【図2】図1の抄紙工程用セラミックロールの表面を示す模式的部分拡大図。
【図3】図1の抄紙工程用セラミックロールとは異なる抄紙工程用セラミックロールの表面を示す模式的部分拡大図。
【図4】図1の抄紙用セラミックロールの研磨方法を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施形態を詳説する。
図1の抄紙工程用セラミックロール1は、ロール本体2と、このロール本体2の外周面側に積層されるセラミック層3とを主に備えている。
【0021】
ロール本体2は、抄紙工程におけるプレスパートにて一般的に採用されているものを用いることができる。このロール本体2は、円筒状に形成され所定肉厚を有する鋳鋼製のロールシェル4と、このロールシェル4の両端にそれぞれ嵌合される円盤状のヘッド5と、この各ヘッド5の中心から外側方向に突設される軸6とを備えている。
【0022】
セラミック層3は、上記ロールシェル4の外周面に積層されている。このセラミック層3を形成するセラミックとしては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。また、このセラミック層3の厚さとしても特に限定されない。当該セラミック層3は、例えば、アルミナ(Al)に対しチタニア(TiO)を10〜65%の割合で混合してなるセラミック粉末を溶射することによって積層することができる。
【0023】
当該セラミックロール1は、このセラミック層3の表面、すなわち外周面の全面にスクラッチ目を有している。このスクラッチ目は、外周面を研磨材にて研磨することによって形成されている。
【0024】
当該セラミックロール1は、このスクラッチ目の主方向(図2における矢印方向)が、ロール1の周方向(図2における縦方向)に対して傾斜している方向性領域7を有している。このスクラッチ目は、例えば、後述するように砥粒を付着させた研磨フィルムによって研磨することによって形成されるものである。なお、この方向性領域7においては、この主方向とは異なる方向を有するスクラッチ目が混在していてもよい。
【0025】
なお、当該セラミックロール1の外周面における方向性領域7以外の領域のスクラッチ目の方向性は特に限定されない。この方向性領域7以外の領域のスクラッチ目としては、例えば、ランダムな方向、複数の方向からなるスクラッチ目が混在するもの、非直線のスクラッチ目等が挙げられ、さらには方向性領域7とは異なる主方向を有するスクラッチ目であってもよい。
【0026】
当該セラミックロール1によれば、このようにスクラッチ目の主方向がロールの周方向に対して傾斜している方向性領域7を有するため、抄紙工程のプレスパートにおいて、この方向性領域7におけるスクラッチ目の主方向と抄紙された湿紙の主な繊維配向方向とを異なる方向とすることができる。なぜなら、抄紙された紙における繊維配向方向は、基本的に抄紙工程における流れ方向となり、すなわち、プレスパートにおけるセラミックロール1の周方向となるからである。従って、当該セラミックロール1によれば、抄紙された湿紙を圧接した際にも、方向性領域7においては、湿紙表面のパルプ繊維がこの微細なスクラッチ目に埋もれ込みにくくなるため、紙の剥離性を高めることができる。
【0027】
この方向性領域7は、図2の拡大図で示されるように、スクラッチ目の主方向(図2における矢印方向)を長手方向とする帯状形状を有している。なお、この帯状形状とは、一定の幅を有している略矩形形状をいい、厳密に長方形でなくとも、例えば、頂点の角が取れているような形状であってもよい。また、この方向性領域7は、セラミックロール1の軸方向(図2における横方向)に沿って一定間隔に配設されている。
【0028】
当該セラミックロールによれば、このように方向性領域7が軸方向に沿って一定間隔に配設されていることで、軸方向において方向性領域7と他の領域とを交互に備えていることとなる。従って、抄紙工程のプレスパートにこのセラミックロール1を用いた際に、ロール表面から離れる瞬間の湿紙表面において、この方向性領域7と接している部分と、方向性領域7以外の領域と接している部分とが存在することとなる。つまり、当該セラミックロールによれば、この湿紙の表面において、パルプ繊維が方向性領域7におけるスクラッチ目の主方向と一致し、このスクラッチ目にパルプ繊維が埋もれるものがあったとしても、この方向性領域7以外の領域が近接しているため、スクラッチ目に埋もれるパルプ繊維をごく一部に留めることができる。すなわち、当該セラミックロール1によれば、一定量のパルプ繊維がまとまってスクラッチ目に埋もれ込むことを防ぎ、紙の剥離性をさらに高めることができる。
【0029】
この方向性領域7の幅としては、特に限定されないが、2mm以上20mm以下が好ましく、3mm以上10mm以下がさらに好ましい。また、この方向性領域7の間隔(方向性領域7以外の領域の幅)も、特に限定されないが、例えば、2mm以上20mm以下が好ましく、3mm以上10mm以下がさらに好ましい。このような方向性領域7の幅及び間隔を設けることで、紙との剥離性を効果的に高めることができる。方向性領域7の幅及び間隔が上記範囲より小さいと、このようなスクラッチ目の形成作業性が低下する一方、紙との剥離性が向上しないおそれがある。また、方向性領域7の幅及び間隔が上記範囲より大きいと、一定量のパルプ繊維がまとまって方向性領域7又はこれ以外の領域のスクラッチ目に埋もれ込みやすくなるため、紙との剥離性が向上しないおそれがある。
【0030】
また、この方向性領域7の長さとしても、特に限定されず、例えば、外周面全面が一本の螺旋状の方向性領域7から形成されてもよいし、逆に、短冊状の方向性領域7の集合であってもよい。
【0031】
当該方向性領域7は、上述のように帯状形状であり、さらに、ロール1の周方向(図2における縦方向)に沿ってジグザグ状に形成されている。当該セラミックロール1によれば、このように方向性領域7が、周方向に沿ってジクザク状に形成されているため、この方向性領域7における主方向の変換箇所が存在することとなる。従って、当該セラミックロールをプレスパートに用いた場合において、湿紙の繊維配向方向とスクラッチ目の主方向との差が小さい場合であっても、繊維が、まとまってはこのスクラッチ目に埋もれ込みにくくなる。すなわち、方向性領域7のスクラッチ目の主方向と、あるパルプ繊維の繊維配向方向が一致した場合であっても、上述の変換箇所においては、スクラッチ目の主方向とは異なる方向となるため、パルプ繊維の埋もれ込みを一本あるいは少量の繊維の一部に留めることができる。従って当該セラミックロール1によれば、さらに紙との剥離性を高めることができる。
【0032】
この方向性領域7におけるジグザグ形状のサイズとしては特に限定されないが、例えばジグザグの繰り返し単位長さ(方向変換箇所間の長さ)が、5mm以上50mm以下が好ましく、10mm以上40mm以下がさらに好ましい。ジグザグ形状が上記サイズであることで、当該セラミックロール1の紙剥離性をさらに効果的に向上させることができる。
【0033】
方向性領域7におけるスクラッチ目の主方向の周方向に対する傾斜角の下限としては、4°が好ましく、10°がより好ましく15°がさらに好ましい。一方、この傾斜角の上限としては60°が好ましく、50°がより好ましく、40°がさらに好ましい。このようなスクラッチ目の傾斜角を有するセラミックロール1によれば、より効果的に紙との剥離性を高めることができる。この傾斜角が上記下限より小さいと、湿紙の繊維配向方向と方向性領域7におけるこのスクラッチ目の主方向との差が小さくなり、パルプ繊維がスクラッチ目に埋もれ込みやすくなり、紙との剥離性が向上しないおそれがある。逆に、この傾斜角が上記上限より大きい場合はこのような急な傾斜角を形成しにくくなる一方、紙との剥離性の向上効果は頭打ちとなる。
【0034】
当該セラミックロール1の外周面の算術平均粗さ(Ra)の下限としては、0.2μmが好ましく、0.4μmがより好ましく、0.6μmがさらに好ましく、0.8μmが特に好ましい。一方、この算術平均粗さ(Ra)の上限としては2μmが好ましく、1.6μmがより好ましく、1.4μmがさらに好ましく、1.2μmが特に好ましい。当該セラミックロール1によれば、外周面の算術平均粗さ(Ra)が上記範囲であることで、プレスされる湿紙の平滑度を低下させることなく、紙離れ性を高めることができる。外周面の算術平均粗さ(Ra)が上記下限より小さいと、平滑性が高すぎ、紙離れ性が低下するおそれがある。一方、この算術平均粗さ(Ra)が上記上限を超えると、プレスされる湿紙表面の平滑度が低下し、得られる紙の品質が低下するおそれがある。
【0035】
当該セラミックロール1の外周面の最大高さ(Ry)の下限としては、4μmが好ましく、6μmがさらに好ましい。一方、この最大高さ(Ry)の上限としては、12μmが好ましく、10μmがさらに好ましい。当該セラミックロール1の外周面の最大高さ(Ry)が上記下限より小さいと、平滑性が高すぎて湿紙との剥離性が低下する。逆に、この最大高さ(Ry)が上記上限を超えると、プレスされる湿紙の平滑性が低下し、紙の品質が低下するおそれがある。
【0036】
当該セラミックロール1の外周面の十点平均粗さ(Rz)の下限としては、4μmが好ましく、6μmがさらに好ましい。一方、この十点平均粗さ(Rz)の上限としては、12μmが好ましく、10μmがさらに好ましい。当該セラミックロール1の外周面の十点平均粗さ(Rz)が上記下限より小さいと、平滑性が高すぎて湿紙との剥離性が低下するおそれがある。逆に、この十点平均粗さ(Rz)が上記上限を超えると、プレスされる湿紙の平滑性が低下し、紙の品質が低下するおそれがある。
【0037】
なお、この最大高さ(Ry)及び十点平均粗さ(Rz)は、算術平均粗さ(Ra)と同様、JIS−B0601(1994)に準じ、カットオフλc2.5mm、評価長さ12.5mmで測定した値である。
【0038】
なお、この外周面の算術平均粗さ(Ra)、最大高さ(Ry)及び十点平均粗さ(Rz)は、方向性領域7及びこれ以外の領域関係なく上記範囲であることが好ましい。また、この算術平均粗さ(Ra)、最大高さ(Ry)及び十点平均粗さ(Rz)は、セラミックロール1の水平方向に略等間隔に5箇所(両端において被研磨部分がある場合は除く)、それぞれの円周方向に略等間隔に各4箇所の計20箇所で測定した平均値とする。また、この各表面粗さは、例えば、株式会社ミツトヨ製のSJ−201Pを用いて測定することができる。
【0039】
図3の抄紙工程用セラミックロール11は、セラミックロール1の方向性領域7とは異なる形状の方向性領域17を有するものである。この方向性領域17は、スクラッチ目の主方向(図3における矢印方向)を長手方向とする短冊状の形状を有している。また、この方向性領域17は、セラミックロール11の軸方向(図3における横方向)に沿って一定間隔に配設されている。さらには、この方向性領域17は、セラミックロール11の周方向(図3における縦方向)に沿ってジグザグ状に配置されている。
【0040】
当該セラミックロール11によっても、スクラッチ目の主方向がロールの周方向に対して傾斜している方向性領域17を有し、この方向性領域がさらに上述の形状及び配置をとっているため、抄紙工程におけるプレスパートに用いた際に、湿紙との高い剥離性を発揮することができる。
【0041】
次に、当該抄紙工程用セラミックロール1の製造方法について説明する。
【0042】
当該セラミックロールは、ロール本体2の表面に公知の方法によってセラミック層を積層させたもの、又は、既存のセラミックロールを抄紙工程のプレスパート等として長期使用して外周面が平滑化されたものを以下の研磨工程によって研磨することによって製造することができる。この研磨工程とは以下の工程を有する。
(1)抄紙工程用セラミックロール外周表面を粗面化する粗研磨工程
(2)粗研磨工程を経たセラミックロールの外周表面の粗度を調整する中仕上げ工程
(3)中仕上げ工程を経たセラミックロールの外周表面に、周方向に対して傾斜したスクラッチ目を形成する方向性領域形成工程
【0043】
以下、各工程について具体的に説明する。
【0044】
(1)粗研磨工程
この粗研磨工程においては、ダイヤモンド砥石などを用いて、平坦な外周表面を一定程度まで粗面化する。このダイヤモンド砥石による研磨方法としては、例えば、セラミックロールを周方向に回転させ、このセラミックロールの外周表面にダイヤモンド砥石を当接させることによって行うことができる。この粗研磨工程を経たセラミックロール外周表面の表面粗さ(Ra)としては、例えば、1.7μm〜2.2μm程度となる。
【0045】
(2)中仕上げ工程
この中仕上げ工程においては、上記粗研磨工程で荒らされた表面を抄紙工程用セラミックロールとして好適な表面粗さとなるように、粗度を調整する。この中仕上げ工程における研磨は、例えば、ダイヤモンドフィルムを研磨材として用いたフィニッシャー装置を使用することができる。このフィニッシャー装置は、ベルト状にしたダイヤモンドフィルムを複数のローラ間に架け渡し、この複数のローラを回転させながら研磨する装置である。このフィニッシャー装置を用いた研磨は、セラミックロールを周方向に回転させ、このセラミックロールの外周表面にフィニッシャー装置に取り付けたダイヤモンドフィルムをフィニッシャー装置の1つのロールを介して当接させることによって行われる。
【0046】
この中仕上げ工程に用いられるダイヤモンドフィルムとしては、ポリエステル製基布に粒度#320番手〜#1000番手のダイヤモンド砥粒を積層したもの等が好適に使用される。また、粒度の異なる複数のダイヤモンドフィルムを用いて、複数回研磨を行い、所望する表面粗さに調整していくことが好ましい。このような中仕上げ工程を経たセラミックロール外周表面の表面粗さ(Ra)としては、例えば1.1μm〜1.2μm程度となる。
【0047】
(3)方向性領域形成工程
この方向性領域形成工程においては、中仕上げ工程を経て一定程度の表面粗さに調整されたセラミックロールの外周表面に方向性領域を形成する。この方向性領域形成工程における研磨は、図4に示されるように、上記(2)中仕上げ工程と同様、フィニッシャー装置21を使用して行うことができる。この方向性領域形成工程においては、基布にクロスハッチ状に砥粒を付着させたクロスハッチフィルム22を複数のローラ23間に架け渡したものを使用することでジグザク状の方向性領域7を形成することができる。
【0048】
このクロスハッチフィルム22の基布としては、例えば、合成繊維(ポリエステル繊維等)と綿とで編まれた生地を樹脂液に漬けて強度を上げたものなどが用いられる。また、このクロスハッチフィルム22のクロスハッチの形状としては、特に限定されず、例えば矩形形状や、正方形状が挙げられる。このクロスハッチが正方形状である場合のサイズとしては、2〜10mm程度が好ましく、3〜7mm程度がさらに好ましい。なお、このクロスハッチは2〜3mmの間隔を保って碁盤目状に配置されている。
【0049】
この方向性領域形成工程における研磨も、セラミックロールを周方向に回転させ、このセラミックロールの外周表面にフィニッシャー装置21に取り付けたクロスハッチフィルム23を当接させることによって行われる。この際、フィニッシャー装置21は、セラミックロール1の一端から他端へ軸方向に移動しながら研磨することで、セラミックロール1の外周表面全面に、方向性領域7を形成することができる。また、フィニッシャー装置21は、この軸方向への移動と同時に、ローラ23及びクロスハッチフィルム22を軸方向へ振動(オシレーション)させている。このように、クロスハッチフィルム22を振動させることで、方向性領域7をジグザグ状に形成することができる。
【0050】
上述のクロスハッチの形状や各研磨条件を調整することによって、方向性領域の形状(長さ、幅、繰り返し長さ、間隔等)を調整することができ、例えば、方向性領域を短冊状に形成することなども可能である。
【0051】
なお、(1)粗研磨工程に先駆けて、ロール表面の付着物を除去する付着物除去工程を設けてもよい。この付着物除去工程としては、シリコンフィルムによってロール表面を研磨する方法などを用いることができる。また、(3)方向性領域形成工程を経たロール表面の表面粗さを最終的に調整するため、再度ダイヤモンドフィルム等を用いた全体の研磨を行ってもよい。
【0052】
なお、本発明の抄紙工程用セラミックロールは、上記実施形態に限定されず、例えば、方向性領域を外周面全面に有していてもよい。また、この方向性領域は、ジグザク状でなくても、単なる帯状形状であってもよい。さらには、個々の方向性領域が、例えば楕円状等であってもよく、これらの複数の楕円形状から全体的にジグザグ状の方向性領域が形成されていてもよい。上述のような方向性領域を有するセラミックロールであっても、スクラッチ目の主方向が周方向に対して傾斜していることにより、抄紙工程におけるプレスパートに用いた際、湿紙との高い剥離性を発揮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上のように、本発明の抄紙工程用セラミックロールは、抄紙工程におけるプレスパート等において好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0054】
1 抄紙工程用セラミックロール
2 ロール本体
3 セラミック層
4 ロールシェル
5 ヘッド
6 軸
7 方向性領域
11 抄紙工程用セラミックロール
17 方向性領域
21 フィニッシャー装置
22 クロスハッチフィルム
23 ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面側にセラミック層を備える抄紙工程用セラミックロールであって、
上記セラミック層表面にスクラッチ目を有し、
このスクラッチ目の主方向が周方向に対して傾斜している方向性領域を有することを特徴とする抄紙工程用セラミックロール。
【請求項2】
上記方向性領域がスクラッチ目の主方向を長手方向とする帯状形状を有し、
この方向性領域が軸方向に沿って一定間隔に配設されている請求項1に記載の抄紙工程用セラミックロール。
【請求項3】
上記方向性領域が、周方向に沿ってジクザグ状に形成されている請求項2に記載の抄紙工程用セラミックロール。
【請求項4】
上記スクラッチ目の主方向の周方向に対する傾斜角が4°以上60°以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の抄紙工程用セラミックロール。
【請求項5】
外周面の算術平均粗さ(Ra)が0.2μm以上2μm以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の抄紙工程用セラミックロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−144460(P2011−144460A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4242(P2010−4242)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】