説明

抄紙搬送フェルトおよび該抄紙搬送フェルトを備えた抄紙機のプレス装置

【課題】 プレス機構のプレスによる加圧によって受ける損傷が少なく、優れた耐久性と適度な搾水性を備え、且つ湿紙表面の平滑化機能に優れた抄紙搬送フェルトおよび該抄紙搬送フェルトを備えた抄紙機のプレス装置を提供すること。
【解決手段】 抄紙搬送フェルト100は、基層11と、基層11の湿紙側の表面に形成された第1バット層13Aと、基層11のロール側またはシュー側の表面に形成された第2バット層13Bと、湿紙と直接接触するように第1バット層13Aの湿紙側の表面に形成された湿紙接触繊維層15と、を備える。湿紙接触繊維層15は異形断面繊維15Aにより形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙搬送フェルトおよび該抄紙搬送フェルトを備えた抄紙機のプレス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に抄紙機は、ワイヤーパートと、プレスパートと、ドライヤーパートと、を備える。これらワイヤーパート、プレスパート、およびドライヤーパートは、この並び順で湿紙の搬送方向に沿って配置される。湿紙は、ワイヤーパート、プレスパート、およびドライヤーパートそれぞれに配設された抄紙搬送用具に次々と受け渡されながら搬送されるとともに水分を搾り出され(即ち、搾水され)、最終的には、ドライヤーパートにおける抄紙搬送用具であるドライヤーカンバス上で乾燥させられる。プレスパートに配置されたプレス装置は、湿紙の搬送方向に沿って直列に並んで配置された複数のプレス機構を具備する。
【0003】
各プレス機構は、一対の無端ベルト状の抄紙搬送フェルトと、当該抄紙搬送フェルトそれぞれの一部を間に挟むように上下に対向配置されるプレスとして一対のロール(即ち、ロールプレス)或いはロールおよびシュー(即ち、シュープレス)と、を有しており、略同一速度で同一方向に走行する抄紙搬送フェルトにより搬送されてくる湿紙を該抄紙搬送フェルトと共にロールとロール或いはロールとシューとで加圧することにより、該湿紙から水分を搾水しながら抄紙搬送フェルトにその水分を吸収させる。尚、このような抄紙機には、湿紙を挟持した抄紙搬送フェルトの一部をロールとロールとで挟みながら加圧するプレス装置がプレスパートに設けられたロールプレス型抄紙機、湿紙を挟持した抄紙搬送フェルトの一部をロールとシューとで挟みながら加圧するプレス装置がプレスパートに設けられたシュープレス型抄紙機、等がある。特にシュープレス型抄紙機によれば、より一般的なロールプレス型抄紙機と比べて、プレスの加圧部(即ち、ニップ)のプレスゾーンを広く取れ、それにより加圧時間を長くできるので、より搾水性に優れる。
【0004】
抄紙機において特にプレス装置の抄紙搬送フェルトにより搬送される湿紙は、直列に配置された複数のプレス機構の抄紙搬送フェルトにより搬送および搾水されながら抄紙搬送フェルト間で順次受け渡され、且つその湿紙表面が平滑化される。よって、プレス装置における抄紙搬送フェルトには、湿紙搬送機能および湿紙搾水機能だけでなく、次工程へ湿紙を渡す際に湿紙を抄紙搬送フェルトからスムーズに離脱させる(換言すれば、抄紙搬送フェルトからの湿紙の剥がれを容易にする)紙離れ機能、および湿紙表面を平滑化させる湿紙表面平滑化機能が要求される。特に、プレスパートにおいて湿紙の搬送方向の下流側に配置されるプレス機構の抄紙搬送フェルトには、湿紙の搬送方向の上流側のプレス機構により多くの水分が湿紙から搾り出されていることもあり、湿紙搾水機能よりもむしろ湿紙表面平滑化機能の方が重要な機能として求められる。
【0005】
ところで、プレス機構の加圧部の中央から出口にかけての部分では、湿紙と抄紙搬送フェルトに掛けられた圧力が急激に解放されるため、この部分において抄紙搬送フェルトおよび湿紙の体積が急激に膨張する。その結果、抄紙搬送フェルトおよび湿紙に負圧が生じ、更には、湿紙が細繊維からなるために毛細管現象も加わって、抄紙搬送フェルトに吸収されていた水分が再び湿紙へ移行する所謂再湿現象(re-wetting)が生じる。このように、加圧部の中央から出口にかけての部分が、抄紙機のプレス装置の搾水性能を低下させる大きな要因となっている。
【0006】
抄紙搬送フェルトの再湿現象およびプレスの際のブローイング等を防止するようにした抄紙搬送フェルトとしては、エマルジョン樹脂を含浸し且つ湿紙側部分に工夫を凝らしたものが知られている(特許文献1参照)。当該抄紙搬送フェルトは、より詳細には、基層の表面に形成されたバット層にエマルジョン樹脂が含浸されるとともに当該バット層の湿紙側の表面が緻密で且つセーム革状の滑らかな表面となるようにカレンダー加工されることによりバリヤー層が形成されるか或いは、基層の表面に形成された粗繊維層にエマルジョン樹脂が含浸されるとともに当該粗繊維層上にバリヤー層(不織布層)が設けられ且つ更に当該バリヤー層(不織布層)上に細繊維層が形成され、当該バリヤー層によりエマルジョン樹脂が抄紙搬送フェルトの湿紙側の表面にまで浸透することが阻止されたものであるので、抄紙搬送フェルトの再湿及びブローイングが防止され、それにより抄紙速度を上げることを可能にする。また、これにより、プレス機構の加圧部において抄紙搬送フェルトが湿紙と共に加圧された際に、抄紙搬送フェルト内に含まれている空気が湿紙側表面に押し出されて湿紙表面の面粗さを粗くする、湿紙表面平滑化への阻害要因の低減が図られる。
【0007】
また、抄紙搬送フェルトの表面に液体不透過層を形成するようにしたものも知られている(特許文献2参照)。この抄紙搬送フェルトは、熱可塑性繊維または溶融繊維を含む繊維層を備え、繊維層の表面を加熱することにより熱可塑性繊維または溶融繊維を溶融させて、液体不透過層を形成するようにしたものである。
【特許文献1】米国特許第4500588号明細書
【特許文献2】独国実用新案出願公開第DE29706427U1号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
直列に配置された複数のプレス機構に装着される抄紙搬送フェルトそれぞれに要求される主な機能はそれぞれ異なり、複数のプレス機構のうち湿紙の搬送方向の上流側に配置されたプレス機構に装着される抄紙搬送フェルトには主に湿紙搾水機能が求められ、そして湿紙の搬送方向の下流側に配置されたプレス機構に装着される抄紙搬送フェルトには主に湿紙表面平滑化機能が求められる。即ち、湿紙の表面平滑度は、複数のプレス機構のうち主に湿紙の搬送方向の下流側に配置されたプレス機構に装着される抄紙搬送フェルトに依存する割合が多い。従って、複数のプレス機構のうち湿紙の搬送方向の下流側に配置されたプレス機構に装着される抄紙搬送フェルトは、その湿紙側表面が平滑な面に形成されるべきである。しかし、複数のプレス機構のうち湿紙の搬送方向の下流側に配置されたプレス機構に搬入される湿紙は水分を全く含まないものではないため、当該下流側に配置されたプレス機構に装着される抄紙搬送フェルトにも、多少なりとも搾水性を有するものを配置することが望ましい。
【0009】
また、湿紙に含まれる水分は、プレス機構の加圧部において圧縮、回復する抄紙搬送フェルトに吸収されて搾水される。即ち、抄紙搬送フェルトには、効率よく搾水するために適度の通気性と圧縮、回復性が必要である。
【0010】
抄紙機のプレス装置、特にシュープレス型抄紙機や1ニップ型抄紙機のプレス装置では、プレスの加圧部(即ち、ニップ)の所で抄紙搬送フェルトに非常に大きな圧力をかけて搾水するため、プレスの加圧部に直接接触する側の抄紙搬送フェルトのバット層が傷み易く、抄紙搬送フェルトの寿命(即ち、抄紙搬送フェルトの使用可能期間)が短いので、こまめに抄紙搬送フェルトを新品に交換するメンテナンスを要求される。
【0011】
また、湿紙の表面平滑度を高めるため、抄紙搬送フェルトの湿紙に直接接触するバット層の表面を形成する繊維を単に細繊維に置き換えることは困難である。具体的な理由としては、抄紙搬送フェルトの製造工程の一つであるニードリング工程(ニードリング工程における前段階にカーディングがあり、このカーディング後の繊維ウエッブシートをニードリングにて植設する。)における前段階で細繊維をカーディングすると繊維塊(即ち、繊維の塊)ができ易く、当該繊維塊は、カーディング直後のニードリングでフェルトに植設されてしまい、抄紙搬送フェルトの表面に比較的大きな凹凸を形成するので、湿紙の表面平滑度が低下するからである。
【0012】
特許文献1で開示されている湿紙側表面がカレンダー加工された抄紙搬送フェルトは、表面平滑性の良い、不透水性の(即ち、湿紙側表面からプレス側表面へ水を通さない)、抄紙搬送フェルトであるが、湿紙搾水性能に劣る。従って、このような抄紙搬送フェルトには高い湿紙搾水機能を期待することはできないため、当該抄紙搬送フェルトを用いるには、これより湿紙の搬送方向の上流側に配置されたプレス機構において湿紙からの搾水が完了していることが望ましい。換言すれば、特許文献1で開示されている湿紙側表面がカレンダー加工された抄紙搬送フェルトは、直列に配置された複数のプレス機構のうち湿紙の搬送方向の下流側に配置されたプレス機構に装着されるのが好適であろう。しかし、次工程であるドライヤーパートでの加熱乾燥時に多くの熱エネルギを要することになるので、プレスパートにおいては、できるかぎり湿紙の水分を減らすことが重要な点となっている。従って、複数のプレス機構のうち湿紙の搬送方向の下流側に配置されるプレス機構に装着される抄紙搬送フェルトにも、多少なりとも湿紙搾水機能が備わっていることがより望ましい。また、特許文献1で開示されている基層側の粗繊維層と繊維塊を含み得る湿紙側の細繊維層とに不織布層が介在する抄紙搬送フェルトも、抄紙搬送フェルトに高い湿紙表面平滑化機能を求める抄紙機のプレス装置には不向きである。
【0013】
特許文献2に開示されている抄紙搬送フェルトでは、熱可塑性繊維または溶融繊維を含む繊維層の表面を加熱して、熱可塑性繊維または溶融繊維を溶融させることにより液体不透過層が形成されている。この抄紙搬送フェルトは、繊維層の表面から加える熱量を調整することにより液体不透過層の厚さを或る程度制御することができる特徴を有する。しかし、加熱側表面、即ち、液体不透過層表面の繊維の特性を加熱により劣化させない範囲内で加熱する必要があるため、熱可塑性繊維または溶融繊維の熱劣化や熱分解を考慮すると、その抄紙搬送フェルトの深さ(即ち、液体不透過層の厚さ)は限定される。従って、形成される液体不透過層の厚さはあまり厚くすることはできず自ずと制限される。また、湿紙側表面は、繊維層となっているので加圧部において加圧されると繊維が非常に大きな圧力や摩擦を受けて、繊維層の表面の繊維の抜け落ちや切れ落ち(即ち、所謂脱毛)が著しく生じる。抄紙搬送フェルトの湿紙に直接接触する繊維層表面の繊維の脱毛は、印刷物等の紙製品の品質を悪くする。一方、繊維層の表面は、繊維の脱毛により表面が粗くなるため、湿紙の表面平滑度を著しく低くする。
【0014】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、プレス機構のプレスによる加圧によって受ける損傷が少なく、優れた耐久性と適度な搾水性を備え、且つ湿紙表面の平滑化機能に優れた抄紙搬送フェルトおよび該抄紙搬送フェルトを備えた抄紙機のプレス装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述した目的を達成するため、本発明に係る抄紙搬送フェルトおよび該抄紙搬送フェルトを備えた抄紙機のプレス装置は、下記(1)〜(8)を特徴としている。
(1) 抄紙機のプレスパートに設けられたプレス装置に配置され、当該プレス装置におけるプレスと共に一つのプレス機構を形成し、湿紙を挟持しながら搬送し且つ前記プレスにより加圧される一対の抄紙搬送フェルトのうち少なくとも一方の抄紙搬送フェルトであって、
高分子弾性材を含む基層と、
前記基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層と、
前記高分子弾性材を含み且つ前記基層のプレス側の表面に形成された第2バット層と、
前記湿紙と直接接触するように前記第1バット層の湿紙側の表面に形成された、異形断面繊維からなる湿紙接触繊維層と、
を備えていること。
(2) 上記(1)の構成の抄紙搬送フェルトの前記異形断面繊維が、フラットファイバであること。
(3) 上記(1)または(2)の構成の抄紙搬送フェルトの前記第1バット層が、
前記基層の湿紙側の表面に配置された、前記高分子弾性材および繊維を含む第1部と、
前記第1部と前記湿紙接触繊維層との間に配置された、前記繊維からなる第2部と、
を有すること。
(4) 上記(1)〜(3)のいずれかの構成の抄紙搬送フェルトを備えた抄紙機のプレス装置であること。
(5) 上記(1)〜(3)のいずれかの構成の抄紙搬送フェルトを有する前記プレス機構を複数備えた抄紙機のプレス装置であって、当該複数のプレス機構が、それらの前記抄紙搬送フェルトにより搬送される湿紙の搬送方向に沿って直列に並設されていること。
(6) 上記(1)〜(3)のいずれかの構成の抄紙搬送フェルトを有する前記プレス機構を複数備えた抄紙機のプレス装置であって、当該複数のプレス機構が、それらの前記抄紙搬送フェルトにより搬送される湿紙の搬送方向に沿って直列に並設され、
前記複数のプレス機構のうち前記搬送方向の下流側に配置されたプレス機構に、上記(1)〜(3)のいずれかの構成の抄紙搬送フェルトが配置されること。
(7) 上記(4)〜(6)のいずれかの構成の抄紙機のプレス装置がシュープレス型抄紙機のプレス装置であり、当該プレス装置の前記プレスが、前記抄紙搬送フェルトを加圧するロールおよびシューを有するシュープレスであること。
(8) 上記(4)〜(6)のいずれかの構成の抄紙機のプレス装置がロールプレス型抄紙機のプレス装置であり、当該プレス装置の前記プレスが、前記抄紙搬送フェルトを加圧する一対のロールを有するロールプレスであること。
【0016】
上記(1)の構成の抄紙搬送フェルトによれば、基層および第2バット層が高分子弾性材を含み、且つ湿紙接触繊維層が異形断面繊維からなる。よって、基層および第2バット層は、例えば合成樹脂等の高分子弾性材を含んで形成されているので、プレス機構のプレスによる加圧に対する機械的強度が高い。従って、上記(1)の構成の抄紙搬送フェルトは、プレスの加圧部により強く押圧されても損傷を受けることが少なく、耐久性に優れる。これにより、抄紙搬送フェルトが長寿命化されるので、抄紙搬送フェルトの交換頻度を少なくすることができる。また、高分子弾性材を含まない湿紙接触繊維層は、適度の圧縮、回復性を有するので、湿紙から水分を吸収することができる。同様に第1バット層も高分子弾性材を全く含まないように構成するか、或いは第1バット層の高分子弾性材を全く含まない部分を大きくして適度の圧縮、回復性を有するようにすれば、湿紙からの水分を吸収することができる。更に、湿紙と直接接触する湿紙接触繊維層は、異形断面繊維からなるので、湿紙の表面平滑度を向上させることができる。
特に、上記(2)の構成の抄紙搬送フェルトのように、異形断面繊維がフラットファイバであれば、湿紙の表面平滑度を向上させる上で好ましい。
上記(3)の構成の抄紙搬送フェルトによれば、第1バット層が、基層の湿紙側の表面に配置された、高分子弾性材および繊維を含む第1部と、該第1部と湿紙接触繊維層との間に配置された、繊維からなる第2部と、を有するので、第1バット層の第2部は高分子弾性材を含まず、適度の圧縮、回復性を有する。よって、湿紙からの水分を吸収することができる。尚、第1バット層における第1部の割合が第2部と比較して大きい抄紙搬送フェルトはプレス装置における湿紙の搬送方向の下流側で用いると好適であり、そして第1バット層における第2部の割合が第1部と比較して大きい抄紙搬送フェルトはプレス装置における湿紙の搬送方向の上流側で用いると好適である。尚、第1バット層の第1部および第2部は、当然ながらそれぞれ抄紙搬送フェルトの断面構造を形成する部分であればよく、例えば抄紙搬送フェルトの厚み方向に並ぶ層として形成された場合のように明確に区別できるものであっても、或いは当該層のように視覚的に明確に区別できないものであってもよい。つまり、たとえ第1バット層の第1部と第2部とが視覚的に明確に区別できない場合であっても、第1バット層において、高分子弾性材を含む第1部が基層の湿紙側の表面に配置されるとともに、高分子弾性材を含まない第2部が第1部と湿紙接触繊維層との間に配置されていればよい。尚、基層の湿紙側の表面から第1バット層の第2部へ向けて高分子弾性材の含有率が徐々に減少するように高分子弾性材が第1バット層の第1部に含まれる形態を採ってもよい。
尚、上記(1)〜(3)に係る高分子弾性材としては、例えば、水系ウレタン樹脂、水系アクリル樹脂、水系エポキシ樹脂、水系合成ゴム(即ち、水系エマルジョン樹脂)等といった合成樹脂が挙げられる。これらの高分子弾性材は、抄紙搬送フェルトにローラまたはコーターブレードで塗布或いはスプレーで吹き付けて基層および第2バット層、そして必要に応じて第1バット層の第1部にも含浸させ、更に、加熱して硬化される。
また、上記(4)の構成の抄紙機のプレス装置によれば、上記(1)〜(3)のいずれかの抄紙搬送フェルトを備えるので上述したように優れた作用および効果を奏する。
また、上記(5)の構成の抄紙機のプレス装置のように、上記(1)〜(3)のいずれかの構成の抄紙搬送フェルトを有するプレス機構を複数備えた抄紙機のプレス装置であって、当該複数のプレス機構が、それらの抄紙搬送フェルトにより搬送される湿紙の搬送方向に沿って直列に配置されていれば、特に湿紙から効率良く搾水すると共に湿紙表面を平滑化する上で好適であり、高速での抄紙操業が可能となる。
また、上記(6)の構成の抄紙機のプレス装置のように、複数のプレス機構のうち抄紙搬送フェルトにより搬送される湿紙の搬送方向の下流側に配置されたプレス機構に、上記(1)〜(3)のいずれかに記載した抄紙搬送フェルトが配置されるので、高分子弾性材の含浸量の少ない抄紙搬送フェルトと比べて透水性についてはやや低下する場合も考えられるが、高い湿紙表面平滑化機能を有するので、湿紙の表面平滑度を向上させることができ且つ高速での抄紙を可能にする。
上記(7)の構成の抄紙機のプレス装置によれば、シュープレス型抄紙機のプレス装置とすることにより、加圧部(即ち、ロールとシューとにより形成されるニップ)のプレスゾーンが広く、それにより加圧時間を長くできるので、より搾水性に優れ、湿紙表面を良好に平滑化できる。
上記(8)の構成の抄紙機のプレス装置によれば、ロールプレス型抄紙機のプレス装置としても、上述したような本発明による優れた作用および効果の恩恵を受けることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、プレス機構のプレスによる加圧によって受ける損傷が少なく、優れた耐久性と適度な搾水性を備え、且つ湿紙表面の平滑化機能に優れた抄紙搬送フェルトおよび該抄紙搬送フェルトを備えた抄紙機のプレス装置を提供することができる。
【0018】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための最良の形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る複数の好適な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0020】
図1は本発明に係る抄紙搬送フェルトの第1実施形態(抄紙搬送フェルト100)の縦断面図、図2は異形断面繊維の一例であるフラットファイバの断面拡大図、図3は異形断面繊維の他の一例である分割繊維の断面拡大図、図4は本発明に係る抄紙搬送フェルトの第2実施形態(抄紙搬送フェルト200)の縦断面図、そして図5は本発明に係る抄紙機のプレス装置の一実施形態の概略構成を示す平面図である。
【0021】
(第1実施形態)
図1に示されるように、抄紙搬送フェルト100は、基層11と、バット層13(第1バット層13Aおよび第2バット層13B)と、湿紙接触繊維層15と、を備える。より詳細には、基層11の湿紙側の表面に第1バット層13Aが形成され、基層11のプレス側(より詳細には、一対のロールのうちの一方側またはロールおよびシューのうちの一方側)の表面に第2バット層13Bが形成され、湿紙と直接接触するように第1バット層13Aの湿紙側の表面に湿紙接触繊維層15が形成されている。これら基層11、バット層13(第1バット層13Aおよび第2バット層13B)、および湿紙接触繊維層15は、ニードリングにより絡合一体化されている。
【0022】
基層11は、抄紙搬送フェルト100に強度を付与するためのものであり、例えば、耐摩耗性、耐疲労性、伸張特性および防汚性、等に優れたナイロン6(即ち、N6)、ナイロン66(即ち、N66)、等の合成繊維、羊毛等の天然繊維、等を素材とした織布および糸材を織らずに重ね合わせたもの、或いはフィルム状にしたもの、等を適宜用いることができる。本実施形態では、基層11として、織成されたものを採用している。
【0023】
バット層13(第1バット層13Aおよび第2バット層13B)は、6デシテックス(dtex)以上の繊度(一般的には、17デシテックス程度)のステープルファイバ17により形成された非分割繊維層である。バット層13を形成する素材は、基層11と同様の素材が適宜用いられる。尚、第2バット層13Bは、抄紙搬送フェルト100に要求される特性に応じて省略してもよい。
【0024】
基層11および第2バット層13Bは、それぞれを形成する繊維間或いはステープルファイバ17間の空間に高分子弾性材23を含んで形成されている。高分子弾性材23としては、例えば、水系ウレタン樹脂、水系アクリル樹脂、水系エポキシ樹脂、水系合成ゴム(即ち、水系エマルジョン樹脂)等といった合成樹脂が挙げられる。それらの高分子弾性材23は、第2バット層13Bの表面側(図1においては下面)からローラまたはコーターブレードで塗布或いはスプレーされて第2バット層13Bおよび基層11に含浸された後、熱風で乾燥、硬化される。基層11および第2バット層13Bは高分子弾性材23を含んで形成されるので、基層11および第2バット層13Bを形成する繊維の交絡点が高分子弾性材23によって結合されて形状が安定し、機械的強度が向上する。即ち、抄紙搬送フェルト100は、プレス機構の加圧部で加圧されても長期間に亘って扁平化することがなく、その密度、通気度の経時変化が少なく安定している。
【0025】
湿紙接触繊維層15は、異形断面繊維の一例であるフラットファイバ15Aからなる。フラットファイバ15Aは、図2に示されるように、その断面において、例えば、縦寸法aと横寸法bの比が1:3の長方形断面を有する繊維であり、繊度が6デシテックス程度の細い繊維である。フラットファイバ15Aの素材については、例えばナイロン6(即ち、N6)である。このような繊維の具体例としては、EMS−CHEMIE社製のフラットファイバ:商品名「TM5100」等が挙げられる。
【0026】
このように構成される抄紙搬送フェルト100の標準的な一例の各構成要素の坪量は、湿紙接触繊維層15の坪量が200g/m、第1バット層13Aの坪量が400g/m、基層11の坪量が650g/m、そして第2バット層13Bの坪量が100g/mである。また、高分子弾性材23は、基層11および第2バット層13Bにそれぞれ5重量%含浸されており、湿紙接触繊維層15および第1バット層13Aには含浸されない。
【0027】
また、抄紙搬送フェルト100を軽量化した一例の各構成要素の坪量は、湿紙接触繊維層15の坪量が100g/m、第1バット層13Aの坪量が200g/m、そして基層11の坪量が200g/mであり、第2バット層13Bは省略される。また、高分子弾性材23は、基層11に1重量%含浸されており、湿紙接触繊維層15および第1バット層13Aには含浸されない。
【0028】
また、抄紙搬送フェルト100を重量化した一例の各構成要素の坪量は、湿紙接触繊維層15の坪量が300g/m、第1バット層13Aの坪量が800g/m、基層11の坪量が1500g/m、そして第2バット層13Bの坪量が300g/mである。高分子弾性材23は、基層11および第2バット層13Bにそれぞれ10重量%含浸されており、湿紙接触繊維層15および第1バット層13Aには含浸されない。
【0029】
抄紙搬送フェルト100の製造方法を簡単に説明する。先ず、織成された基層11の両面にニードリング等によりバット層13が一体化されたものを準備する。そして、第1バット層13Aの表面にフラットファイバ15Aのウエッブシートを載置した後、湿紙接触繊維層15が形成されるようにフラットファイバ15Aのウエッブシート、バット層13および基層11を貫いてニードリングして絡合一体化する。
【0030】
次に、第2バット層13Bの表面(図1においては下面)に高分子弾性材23をローラまたはコーターブレードで塗布或いはスプレーで吹き付けて第2バット層13Bおよび基層11に高分子弾性材23を含浸させた後、熱風乾燥させて硬化させる。基層11および第2バット層13Bへの高分子弾性材23の含浸量は、抄紙搬送フェルト100が装着されるプレス機構の求める特性に応じて適宜選択される。
【0031】
これにより、耐久性に優れ且つ圧縮、回復性が小さな基層11および第2バット層13Bと、基層11および第2バット層13Bに比較して大きな圧縮、回復性を有する第1バット層13Aおよび湿紙接触繊維層15が形成される。
【0032】
尚、湿紙接触繊維層15は、フラットファイバ15Aからなるものに限定されず、代わりに図3に示されるような分割繊維15Bからなるものであってもよい。分割繊維15Bは、押圧や摩擦等によって複数の細繊維(後述される花弁部19および茎部21)に分割する構造を持つ複合繊維であり、繊度が3.3デシテックス以下のものが好ましく、繊度が1.9デシテックス、そして長さが51mmの断面円形の繊維が更に好ましい。分割繊維15Bは、例えば、6つの断面扇形の花弁部19と当該花弁部19のうち隣り合うものの側面同士を結合させる断面略アスタリスク形状の茎部21といった7つの部分から構成され、これらの部分が断面円形に統合され、分割可能に形成されている。
【0033】
分割繊維15Bの素材については、例えばナイロン6(即ち、N6)で形成され、そして茎部21が例えばポリブチレンテレフタレート(即ち、PBT)で形成される。このような分割繊維15Bの具体例としては、商品名「PA31」:東レ株式会社製等が挙げられる。尚、分割繊維15Bの繊度を3.3デシテックス以下としたのは、主に湿紙接触繊維層15の形成を容易にするためであり、具体的には、抄紙搬送フェルト100自体の製造工程であるニードリング工程における前段階でカーディングする際には分割繊維15Bが分割されず、分割工程(例えば、ニードリング、起毛機による起毛工程、精練による湯洗、プレス機構のプレスによる加圧、等)の際に効果的に分割されるようにするためである。
【0034】
尚、抄紙する紙の種類に合わせて最適な特性を有する抄紙搬送フェルト100とするため、基層11、バット層13、および湿紙接触繊維層15をそれぞれ形成する繊維の種類、および高分子弾性材23の種類や含浸量は、各々または組み合わせた際の特性等を考慮して適宜選定される。
【0035】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態である抄紙搬送フェルト200について図4を参照しながら説明する。尚、既に説明した第1実施形態(即ち、抄紙搬送フェルト100)と同様な構成要素については、図中に同一符号あるいは相当符号を付して説明を簡略化あるいは省略する。
【0036】
図4に示されるように、第2実施形態の抄紙搬送フェルト200は、第1実施形態の抄紙搬送フェルト100と同様に基層11と、バット層13(第1バット層13Aおよび第2バット層13B)と、湿紙接触繊維層15と、を備えるが、第1バット層13Aの構成のみが第1実施形態の抄紙搬送フェルト100と異なる。より詳細には、基層11の湿紙側の表面に第1バット層13Aの第1部(層)13Aaが形成され、第1バット層13Aの第1部13Aaの湿紙側の表面に第1バット層13Aの第2部(層)13Abが形成され、基層11のプレス側(より詳細には、一対のロールのうちの一方側またはロールおよびシューのうちの一方側)の表面に第2バット層13Bが形成され、湿紙と直接接触するように第1バット層13Aの第2部13Abの湿紙側の表面に湿紙接触繊維層15が形成されている。これら基層11およびバット層13(第1バット層13Aおよび第2バット層13B)は、ニードリングにより絡合一体化されている。
【0037】
このように構成される抄紙搬送フェルト200の標準的な一例の各構成要素の坪量は、湿紙接触繊維層15の坪量が200g/m、第1バット層13Aの第2部13Abの坪量が200g/m、第1バット層13Aの第1部13Aaの坪量が200g/m、基層11の坪量が650g/m、そして第2バット層13Bの坪量が100g/mである。また、高分子弾性材23は、基層11、第1バット層13Aの第1部13Aa、および第2バット層13Bにそれぞれ5重量%含浸されており、湿紙接触繊維層15および第1バット層13Aの第2部13Abには含浸されない。
【0038】
また、抄紙搬送フェルト200を軽量化した一例の各構成要素の坪量は、湿紙接触繊維層15の坪量が100g/m、第1バット層13Aの第2部13Abの坪量が100g/m、第1バット層13Aの第1部13Aaの坪量が100g/m、そして基層11の坪量が200g/mであり、第2バット層13Bは省略される。また、高分子弾性材23は、基層11および第1バット層13Aの第1部13Aaにそれぞれ1重量%含浸されており、湿紙接触繊維層15および第1バット層13Aの第2部13Abには含浸されない。
【0039】
また、抄紙搬送フェルト200を重量化した一例の各構成要素の坪量は、湿紙接触繊維層15の坪量が300g/m、第1バット層13Aの第2部13Abの坪量が400g/m、第1バット層13Aの第1部13Aaの坪量が400g/m、基層11の坪量が1500g/m、そして第2バット層13Bの坪量が300g/mである。高分子弾性材23は、基層11、第1バット層13Aの第1部13Aa、および第2バット層13Bにそれぞれ10重量%含浸されており、湿紙接触繊維層15および第1バット層13Aの第2部13Abには含浸されない。
【0040】
抄紙搬送フェルト200の製造方法を簡単に説明する。先ず、織成された基層11の両面に、第1バット層13Aの第1部13Aa、第1バット層13Aの第2部13Ab、第2バット層の順にニードリング等によりバット層13が一体化されたものを準備する。そして、第1バット層13Aの第2部13Abの表面にフラットファイバ15Aのウエッブシートを載置した後、湿紙接触繊維層15が形成されるようにフラットファイバ15Aのウエッブシート、バット層13および基層11を貫いてニードリングして絡合一体化する。
【0041】
次に、第2バット層13Bの表面(図4においては下面)に高分子弾性材23をローラまたはコーターブレードで塗布或いはスプレーで吹き付けて第2バット層13B、基層11および第1バット層の第1部13Aaに高分子弾性材23を含浸させた後、熱風乾燥させて硬化させる。第2バット層13B、基層11および第1バット層の第1部13Aaへの高分子弾性材23の含浸量は、抄紙搬送フェルト200が装着されるプレス機構の求める特性に応じて適宜選択される。
【0042】
これにより、耐久性に優れ且つ圧縮、回復性が小さな基層11、第1バット層13Aの第1部13Aa、および第2バット層13Bと、これら基層11、第1バット層13Aの第1部13Aa、および第2バット層13Bと比較して大きな圧縮、回復性を有する第1バット層13Aの第2部13Abおよび湿紙接触繊維層15が形成される。
【0043】
次に、無端ベルト状(環状)に形成された抄紙搬送フェルト100;200を装着した抄紙機(シュープレス型抄紙機)のプレス装置300を図5を参照しながら説明する。
【0044】
図5に示されるように、プレス装置300は、湿紙Wの搬送方向(矢印A方向)に沿って第1プレス機構51および第2プレス機構53の2台のプレス機構が直列に並んで配置(即ち、並設)された、所謂クローズドドロータイプのプレス装置300である。湿紙Wが一対の抄紙搬送フェルト100;200に挟持された状態で搬送され且つ加圧されるクローズドドロータイプの抄紙機とすることにより、湿紙Wを例えば1200〜1400m/minといった高速で安定して搬送することができる。これにより、オープンドロータイプの抄紙機等と比較して極めて高い効率で抄紙することが可能となる。
【0045】
第1プレス機構51は、一対の抄紙搬送フェルト100と、第1ニップ(換言すれば、第1加圧部)を間に形成するように対向配置された第1シュー55および第1ロール57(換言すれば、第1シュープレス)と、を備える。第2プレス機構53は、一対の抄紙搬送フェルト200と、第2ニップ(換言すれば、第2加圧部)を間に形成するように対向配置された第2シュー59および第2ロール61(換言すれば、第2シュープレス)と、を備える。
【0046】
尚、図5に示されるように、抄紙搬送フェルト100;200を第1プレス機構51および第2プレス機構53の上下の抄紙搬送フェルトとして採用してもよいが、第1プレス機構51および第2プレス機構53の上下いずれか一方の抄紙搬送フェルトに採用してもよい。第1プレス機構51および第2プレス機構53の上下いずれか一方の抄紙搬送フェルトとして抄紙搬送フェルト100;200を装着する場合には、その他の抄紙搬送フェルトには抄紙特性に合わせて任意の抄紙搬送フェルトを採用すればよい。また、抄紙搬送フェルト100のみ、または、抄紙搬送フェルト200のみを第1プレス機構51および第2プレス機構53の抄紙搬送フェルトとして採用してもよい。一般的には、下流側に配置された第2プレス機構53に装着される抄紙搬送フェルトは、搾水性能よりも表面平滑化機能が重視された特性を有する抄紙搬送フェルトが用いられる。
【0047】
図5に示されるように、ワイヤーパート(不図示)から搬出されて第1プレス機構51に受け渡された湿紙Wは、一対の抄紙搬送フェルト100に挟持されながら搬送され、そして第1シュー55および第1ロール57により加圧されることにより搾水され、その搾水された水分が抄紙搬送フェルト100の湿紙接触繊維層15および第1バット層13Aに吸収される。次に湿紙Wは、第2プレス機構53に受け渡されて一対の抄紙搬送フェルト200に挟持されながら搬送され、そして第2シュー59および第2ロール61により加圧されることにより更に搾水され、その搾水された水分が抄紙搬送フェルト200の湿紙接触繊維層15から第1バット層13Aの主に第2部13Abに吸収される。
【0048】
尚、抄紙搬送フェルト100;200の湿紙接触繊維層15は、フラットファイバ(異形断面繊維)によって形成され、その湿紙側表面が密、且つ平滑となっている。従って、表面が平滑な湿紙Wが抄紙されてドライヤーパート(不図示)に受け渡されて乾燥される。また、第1シュー55および第1ロール57、或いは第2シュー59および第2ロール61等の加圧部に接触する抄紙搬送フェルト100;200の第2バット層13B、および基層11(抄紙搬送フェルト200の場合、加えて第1バット層13Aの第1部13Aa)は、高分子弾性材23を含んで形成されて機械的強度が強化されているので、加圧部において強く押圧されても損傷を受けることはない。従って、優れた耐久性を備えている。
【0049】
尚、上記のように、一例として2段のプレス機構51,53を備えたシュープレス型抄紙機のプレス装置300を本発明に係る抄紙機のプレス装置の一実施形態として説明したが、一つのプレス機構を具備したプレス装置あるいは多数のプレス機構が直列に並設されたプレス装置であってもよいことは言うまでもない。
【0050】
ここで、本発明の理解を深めるため、本発明に係る抄紙搬送フェルトの実施形態の構成および該抄紙搬送フェルトを備えた抄紙機のプレス装置の実施形態の構成を簡潔に述べる。
【0051】
抄紙搬送フェルト100;200は、抄紙機のプレスパートに設けられたプレス装置300に配置され、当該プレス装置におけるプレス(ロール(57;61)およびシュー(55;59))と共に一つのプレス機構(51;53)を形成し、湿紙Wを挟持しながら搬送し且つ前記プレスにより加圧される一対の抄紙搬送フェルトのうち少なくとも一方の抄紙搬送フェルト100;200であって、
高分子弾性材23を含む基層11と、
基層11の湿紙W側の表面に形成された第1バット層13Aと、
高分子弾性材23を含み且つ基層11のプレス側の表面に形成された第2バット層13Bと、
湿紙Wと直接接触するように第1バット層13Aの湿紙W側の表面に形成された、異形断面繊維からなる湿紙接触繊維層15と、
を備える。
【0052】
尚、異形断面繊維は、例えば、フラットファイバ15Aまたは分割繊維15Bである。
【0053】
また、抄紙搬送フェルト200においては、第1バット層13Aが、基層11の湿紙側の表面に配置された、高分子弾性材23および繊維を含む第1部13Aaと、該第1部13Aaと湿紙接触繊維層15との間に配置された、繊維からなる第2部13Abと、を有する。ここで異形断面繊維による作用効果について説明する。異形断面繊維としては特にフラットファイバ15Aおよび分割繊維15Bが本発明においては好適であり、フラットファイバ15Aおよび分割繊維15Bのいずれかが湿紙接触繊維層15に用いられることにより湿紙Wの表面を平滑にする効果を奏する。また、フラットファイバ15A、分割繊維15B、等といった異形断面繊維は、抄紙搬送フェルト200を形成する第1バット層13A等の他の部分とニードリングによって絡合一体化されるが、第1バット層13Aにおける高分子弾性材23を含む第1部13Aaにまで絡合し、異形断面繊維のうち幾つかの周囲の一部分は高分子弾性材23により覆われるので、異形断面繊維が抄紙搬送フェルト200の一部として使用されている間は、高分子弾性材23により覆われた部分は、フラットファイバ15Aについては裂けることなく、また分割繊維15Bについては細繊維化することなく(即ち、分割することなく)、使用される。異形断面繊維が裂けたり或いは更に分割すると第1バット層13Aの第2部13Abの透水性が損なわれるが、高分子弾性材23を含む第1バット層13Aの第1部13Aaの透水性が損なわれることはない。尚、フラットファイバ15Aおよび分割繊維15Bは、抄紙搬送フェルト(100;200)を製作するためのニードリングの際に、一部分が裂けたり或いは分割するが、全体が完全に裂けたり或いは分割したりはしない。
【0054】
プレス装置300は、抄紙搬送フェルト100;200を有するプレス機構を複数備えたプレス装置であって、当該複数のプレス機構51,53が、それらの抄紙搬送フェルト100,200により搬送される湿紙Wの搬送方向Aに沿って直列に並設される。
【0055】
以上、説明したように、抄紙搬送フェルト100;200によれば、基層11および第2バット層13Bが高分子弾性材23を含み、且つ湿紙接触繊維層15が異形断面繊維15Aまたは15Bからなる。よって、基層11および第2バット層13Bは、例えば合成樹脂等の高分子弾性材23を含んで形成されるので、プレス機構51,53のプレスによる加圧に対する機械的強度が高い。従って、抄紙搬送フェルト100;200は、プレスの加圧部により強く押圧されても損傷を受けることが少なく、耐久性に優れる。これにより、抄紙搬送フェルト100;200が長寿命化されるので、抄紙搬送フェルト100の交換頻度を少なくすることができる。また、高分子弾性材23を含まない湿紙接触繊維層15は、適度の圧縮、回復性を有するので、湿紙Wから水分を吸収することができる。同様に第1バット層13Aも高分子弾性材23を全く含まないように構成するか、或いは第1バット層13Aの高分子弾性材23を全く含まない部分を大きくして適度の圧縮、回復性を有するようにすれば、湿紙Wからの水分を吸収することができる。更に、湿紙Wと直接接触する湿紙接触繊維層15はフラットファイバ15A等の異形断面繊維からなるので、湿紙Wの表面平滑度を向上させることができる。
【0056】
また、抄紙搬送フェルト200によれば、第1バット層13Aが、基層11の湿紙側の表面に配置された、高分子弾性材23および繊維を含む第1部13Aaと、該第1部13Aaと湿紙接触繊維層15との間に配置された、繊維からなる第2部13Abと、を有するので、第1バット層13Aの第2部13Abは高分子弾性材23を含まず、適度の圧縮、回復性を有する。よって、湿紙Wからの水分を吸収することができる。尚、第1バット層13Aにおける第1部13Aaの割合が第2部13Abと比較して大きい抄紙搬送フェルトはプレス装置300における湿紙Wの搬送方向の下流側で用いると好適であり、そして第1バット層13Aにおける第2部13Abの割合が第1部13Aaと比較して大きい抄紙搬送フェルトはプレス装置300における湿紙Wの搬送方向の上流側で用いると好適である。尚、第1バット層13Aの第1部13Aaおよび第2部13Abは、当然ながらそれぞれ抄紙搬送フェルト200の断面構造を形成する部分であればよく、図4に示されるように抄紙搬送フェルト200の厚み方向に並ぶ層として形成された場合のように明確に区別できるものであっても、或いは当該層のように視覚的に明確に区別できないものであってもよい。つまり、たとえ第1バット層13Aの第1部13Aaと第2部13Abとが視覚的に明確に区別できない場合であっても、第1バット層13Aにおいて、高分子弾性材23を含む第1部13Aaが基層11の湿紙側の表面に配置されるとともに、高分子弾性材23を含まない第2部13Abが第1部13Aaと湿紙接触繊維層15との間に配置されていればよい。尚、基層11の湿紙側の表面から第1バット層13Aの第2部13Abへ向けて高分子弾性材23の含有率が徐々に減少するように高分子弾性材23が第1バット層13Aの第1部13Aaに含まれる形態を採ってもよい。
【0057】
抄紙機のプレス装置300によれば、抄紙搬送フェルト100;200を有する複数のプレス機構51,53が、それらの抄紙搬送フェルト100;200により搬送される湿紙Wの搬送方向に沿って直列に並設されていれば、特に湿紙Wから効率良く搾水すると共に湿紙表面を平滑化する上で好適であり、高速での抄紙操業が可能となる。特に、複数のプレス機構51,53のうち抄紙搬送フェルト100;200により搬送される湿紙Wの搬送方向の下流側に配置されたプレス機構53に、上記したいずれかの抄紙搬送フェルト100;200を配置すれば、高分子弾性材23の含浸量の少ない抄紙搬送フェルトと比べて透水性についてはやや低下する場合も考えられるが、高い湿紙表面平滑化機能を有するので、湿紙Wの表面平滑度を向上させることができ且つ高速での抄紙を可能にする。また、抄紙搬送フェルト100;200は、搾水機能を備えるので下流側に配置されたプレス機構53に装着されても湿紙Wから水分を吸収して次工程であるドライヤーパートに受け渡し、熱風乾燥による熱エネルギの消費を少なくすることができる。
【0058】
尚、本発明は、前述した実施形態および変形例に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、前述した実施形態および変形例における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0059】
例えば、搬送の途中で湿紙Wが単独で搬送される部分を有するオープンドロータイプのシュープレス型抄紙機のプレス装置に本発明の抄紙搬送フェルトを装着しても同様に有効に作用する。また、クローズドドロータイプ或いはオープンドロータイプのロールプレス型抄紙機のプレス装置に本発明の抄紙搬送フェルトを装着しても、上述したような本発明による優れた作用および効果の恩恵を受けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る抄紙搬送フェルトの第1実施形態の縦断面図である。
【図2】図1に示される抄紙搬送フェルトの湿紙接触繊維層を形成するフラットファイバの拡大断面図である。
【図3】図1に示される抄紙搬送フェルトの湿紙接触繊維層を形成する分割繊維の拡大断面図である。
【図4】本発明に係る抄紙搬送フェルトの第2実施形態の縦断面図である。
【図5】本発明に係る抄紙機のプレス装置の一実施形態の概略構成を示す平面図である。
【符号の説明】
【0061】
100 抄紙搬送フェルト
200 抄紙搬送フェルト
300 抄紙機のプレス装置
11 基層
13 バット層
13A 第1バット層
13Aa 第1バット層の第1部
13Ab 第1バット層の第2部
13B 第2バット層
15 湿紙接触繊維層
15A フラットファイバ(異形断面繊維)
15B 分割繊維(異形断面繊維)
23 高分子弾性材
51 湿紙の搬送方向上流側に配置されたプレス機構
53 湿紙の搬送方向下流側に配置されたプレス機構
A 湿紙の搬送方向
W 湿紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙機のプレスパートに設けられたプレス装置に配置され、当該プレス装置におけるプレスと共に一つのプレス機構を形成し、湿紙を挟持しながら搬送し且つ前記プレスにより加圧される一対の抄紙搬送フェルトのうち少なくとも一方の抄紙搬送フェルトであって、
高分子弾性材を含む基層と、
前記基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層と、
前記高分子弾性材を含み且つ前記基層のプレス側の表面に形成された第2バット層と、
前記湿紙と直接接触するように前記第1バット層の湿紙側の表面に形成された、異形断面繊維からなる湿紙接触繊維層と、
を備えていることを特徴とする抄紙搬送フェルト。
【請求項2】
前記異形断面繊維が、フラットファイバであることを特徴とする請求項1に記載した抄紙搬送フェルト。
【請求項3】
前記第1バット層が、
前記基層の湿紙側の表面に配置された、前記高分子弾性材および繊維を含む第1部と、
前記第1部と前記湿紙接触繊維層との間に配置された、前記繊維からなる第2部と、
を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載した抄紙搬送フェルト。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一つに記載した抄紙搬送フェルトを備えた抄紙機のプレス装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれか一つに記載した抄紙搬送フェルトを有する前記プレス機構を複数備えた抄紙機のプレス装置であって、当該複数のプレス機構が、それらの前記抄紙搬送フェルトにより搬送される湿紙の搬送方向に沿って直列に並設されていることを特徴とする抄紙機のプレス装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項3のいずれか一つに記載した抄紙搬送フェルトを有する前記プレス機構を複数備えた抄紙機のプレス装置であって、当該複数のプレス機構が、それらの前記抄紙搬送フェルトにより搬送される湿紙の搬送方向に沿って直列に並設され、
前記複数のプレス機構のうち前記搬送方向の下流側に配置されたプレス機構に、請求項1〜請求項3のいずれか一つに記載した抄紙搬送フェルトが配置されることを特徴とする抄紙機のプレス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−144149(P2006−144149A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−333274(P2004−333274)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】