説明

抄紙方法

【課題】
抄紙用フェルトを抄紙機に用いた抄紙方法において、加圧や水圧を湿紙に伝える作用の乏しいフェルト中の空間体積を、使用開始から初期馴染みに適切な空間量とすることで馴染み期間を短くし、汚れ蓄積や過度のコンパクト化による早期の通水性低下や圧縮性の持続不足による搾水不良がなく、蛇行などによる湿紙搬送不良のない、基本的機能をバランス良く具備した抄紙用フェルトを抄紙機に用いた抄紙方法を提供すること。
【解決手段】
基材5と、少なくとも湿紙載置側層を具えたバット層6、7により構成される抄紙用フェルトにおいて、吸水性樹脂8をフェルト中に含有させたことを特徴とする抄紙方法。基材5は、無端状のもの、あるいは有端状のフェルトを抄紙機上で連結し無端状にしたものどちらにも適用できる。
吸水性樹脂は、フェルト中、表バット層6中に留まっても(図2)、基材あるいは裏バット層7にまで含有してもよい(図3)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿紙に積層して用いられ、抄紙機の回転する一対のロール、あるいはロールおよびシューにより湿紙内の水を搾水する際に使用される抄紙用フェルト(以下、単に「フェルト」ということもある。)を抄紙機に用いた抄紙方法に関する。
さらに詳しくは、抄紙機で安定生産が可能な最高速度到達までの初期馴染み期間を含めて湿紙の搾水性を向上することができる抄紙用フェルトを抄紙機に用いた抄紙方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抄紙工程において、湿紙から搾水するために従来から一般に抄紙機は、ワイヤーパートと、プレスパートと、ドライヤーパートとを備える。これらワイヤーパート、プレスパート、およびドライヤーパートは、この順で湿紙の搬送方向に沿って配置される。湿紙は、ワイヤーパート、プレスパート、及びドライヤーパートそれぞれに配設された抄紙用具に次々と受け渡されながら搬送されるとともに搾水され、最終的にはドライヤーパートで乾燥させられる。
【0003】
これらの各々のパートで脱水機能に対応した抄紙用具が使用されている。プレスパートに配置されたプレス装置は、湿紙の搬送方向に沿って直列に並設された複数のプレス装置を具備する。
【0004】
各プレス装置は、無端状のフェルト、あるいは有端状のフェルトを抄紙機上で連結し無端状にしたフェルトと、当該フェルトそれぞれの一部を間に挟むように上下に対向配置されるプレスとして一対のロール(即ち、ロールプレス)あるいはロールおよびシュー(即ち、シュープレス)とを有しており、略同一速度で同一方向に走行するフェルトにより搬送されてくる湿紙を、該フェルトと共にロールとロールあるいはロールとシューとで加圧することにより、該湿紙から水分を搾水しながらフェルトにその水分を連続的に吸収させる。
【0005】
なお、このような抄紙機には、湿紙を挟持したフェルトの一部をロールとロールとで挟みながら加圧するプレス装置がプレスパートに設けられたロールプレス機構をもった抄紙機、湿紙を挟持したフェルトの一部をロールとシューとで挟みながら加圧するプレス装置がプレスパートに設けられたシュープレス機構をもった抄紙機、等がある。
【0006】
ここで、図1により抄紙機のプレスパートの一例について詳しく説明する。図1のプレスパートでは、抄紙工程で前パートであるワイヤーパートとその後段に位置するプレスパート、更にその後段に位置するドライヤーパートがこの順で湿紙の搬送方向に沿って設置される。図1のプレスパートは4つのプレス装置を有する標準的なトランスファーツインバー形式の抄紙機であって、図ではトップロール1aとボトムロール1bとで形成される1番プレス装置(1P)と、2番ロールとセンターロール(CR)とで形成される2番プレス装置(2P)と、3番ロールとセンターロール(CR)とで形成される3番プレス装置(3P)と、トップロール4aとボトムロール4bとで形成される4番プレス装置(4P)がプレスパートの個々のプレス装置として、湿紙の搬送方向に沿って直列に並設形成されている。なお、4番プレス装置(4P)においては、トップロール4aとボトムロール4bのいずれか一方にシュープレス装置を形成していてもよい。
【0007】
図1のトランスファーツインバー形式の抄紙機には複数枚(図では4枚)の抄紙用フェルトが使われる。通常は、湿紙をワイヤーパートから受取るピックアップフェルト(PUフェルト)と、1番プレス装置(1P)で使用される1Pフェルト、および3番プレス装置(3P)と4番プレス装置(4P)のそれぞれに使用される3Pフェルトと4Pフェルトがある。
【0008】
フェルトは、基材とバット層により構成され、バット層は基材の湿紙載置側及びプレスロール側の両面もしくは湿紙載置側にのみ配置される。この際、バット層は、バット繊維を基材にニードルパンチングにより絡合一体化して構成されている。フェルトの基本的な機能は、湿紙から水を搾る(搾水性)、湿紙の平滑性を高める、湿紙を搬送するといった役割を果たしている。
【0009】
とりわけ、フェルト機能の中の湿紙から水を脱水する機能は重要視され、一対のロール、あるいはロールおよびシューによる加圧を通過することにより、湿紙から水をフェルトに移行し、フェルト中の水を系外に排出するために、フェルト中の空間体積を適切に確保したことによる通水性と、圧縮性の持続が重要視されている。
【0010】
適切な空間体積とは、抄紙機の運転速度が安定したときの空間体積である。運転速度が早く安定することは生産量の面から重要であり、この期間を初期馴染み期間と呼んでいる。初期馴染み期間は抄紙機の運転条件により変わるが、一般には1〜2日、最長では5日ほど要する。特に、タンデムニプコフレックス抄紙機を代表とする、ノードロー・ストレートスルータイプのような湿紙搬送方式では、運転速度も速くなり初期馴染み期間を短くすることが必要となっている。
【0011】
かかる観点から、従来より様々なフェルトの開発が進んでいる。例えば、公知な手法としては、フェルトが仕上がったのち、後加工で加圧を加えてフェルトの厚みを薄くし、密度を上げる方策がとられている。加圧効果を増すために、熱媒によって加熱されたロールにフェルトを接する場合もある。作用機構としては、フェルト中にできる空間体積を減らし、プレス部で受ける加圧力を湿紙に伝えやすくしている。
【0012】
特許文献1(特表2005−524002号公報)には、フェルト表面側においてポリマー物質で処理したのち表面研摩し、コンパクト化する方策が記載されている。かかる構造の抄紙用フェルトは、始めからコンパクト化されているため、抄紙機の初期馴染み期間の短縮を導き出すものである。
【0013】
しかし、特許文献1のポリウレタン、ポリカーボネートウレタン、ポリアクリレート、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂またはそれらの混合物のポリマーを用いた抄紙用フェルトでは、該ポリマーの接着力・凝結力でコンパクト化できるものの、フェルト全体に剛性を与えてしまうものであった。剛性が増大しすぎると、プレス下での圧縮・回復挙動が抑制され十分な湿紙搾水能力が得られず、また、抄紙機に配置するときに、狭いロール間を手繰り入れる時に困難な作業を伴い、装着のし易さの点でも課題があった。
【0014】
特許文献2(特開平2−127585号公報)には、フェルト表面に発泡樹脂をコートし、乾燥固化する製法が記載されている。かかる構造のフェルトは、発泡樹脂による多孔な接触領域をもつフェルト表面が、湿紙からの水を除去するものである。
【0015】
しかし、特許文献2に記載されているフェルトは、新品時は多孔部が湿紙から搾水した水分を受容できるが、繰り返されるプレスロールからの加圧を直に受けて次第に発泡部を含んでコンパクト化される。発泡樹脂層がコンパクト化されると通水性が下がり、湿紙からの汚れを堆積して湿紙の水分を受容できなくなり、搾水性が低下してしまうといった課題があった。
【0016】
同じような発泡樹脂を使用した特許文献3(特開2005−146443号公報)では、フェルトの基材より上の湿紙接触層の間に、発泡体ゲルを、層(ウォール構造)をなすように配置する製法が提案されている。かかる構造のフェルトは、圧力分散性を良好にして基布マークを防止し湿紙表面の平滑性を向上するものである。
【0017】
しかし、特許文献3に記載されているフェルトは、ゲル発泡体層がプレスロールに直に接しないものの、特許文献2と同様の課題があった。
【0018】
特許文献4(特開昭56−53297号公報)に記載されているフェルトでは、アクリル酸ソーダ・アクリルアミド共重合体の繊維の親水性により初期馴染み期間が短くなることが期待できるものである。
【0019】
しかしながら、特許文献4に記載されているフェルトは、アクリル酸ソーダ・アクリルアミド共重合体の繊維の耐久性が低いため搾水の持続性に劣るといった課題があった。また、耐久性の低い繊維がフェルトから脱落した繊維が紙に付着し、印刷時に支障をきたすという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特表2005−524002号公報
【特許文献2】特開平2−127585号公報
【特許文献3】特開2005−146443号公報
【特許文献4】特開昭56−53297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
このような公知技術のフェルトを抄紙機に使用した抄紙方法は、初期馴染み期間は短くなるものの、初期から厚みを薄くしてフェルト中の空間を減らしているため、使用中に受ける繰り返し加圧により潰れ、使用可能な厚み限界に到達するのが早くなり、湿紙を十分に搾れる期間が短いといった課題があった。
また、より空間を減らすために製品加工時の加圧力を上げると、フェルトを構成する繊維同士がぶつかり、交絡点に圧痕が残って強力低下がおきるため、脱毛などの心配があった。
【0022】
そこで本発明は、初期馴染み期間を短くするとともに、安定使用期間確保という、相反する抄紙方法の課題を解決することを目的とする。
【0023】
詳しくは、搾水する湿紙に加圧や水圧を伝える作用の乏しいフェルト中の空間体積を、使用開始から初期馴染みに適切な空間量とすることで馴染み期間を短くし、汚れ蓄積や過度のコンパクト化による早期の通水性低下や圧縮性の持続不足による搾水不良がなく、蛇行などによる湿紙搬送不良のない、基本的機能をバランス良く具備した抄紙用フェルトを抄紙機に用いた抄紙方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
抄紙用フェルトの中に吸水性樹脂を含ませることにより、吸水後はフェルト中の空間体積を適切に確保するとともに、圧縮性の持続があることを見出して本発明を完成するに至った。
本発明は、上記課題を解決するために、基材と、少なくとも湿紙積置側バット層により構成される抄紙用フェルトを抄紙機に用いた抄紙方法において、吸水性樹脂をフェルト中に含有させたことを特徴とする。
具体的には、以下の技術を基礎とする。
【0025】
(1)基材の片面または両面にバット層を設けた抄紙用フェルトを抄紙機に用いた抄紙方法であって、前記フェルト内に吸水倍率が1.05〜10倍である吸水性樹脂を含有させた抄紙用フェルトを抄紙機に用いたことを特徴とする、抄紙方法。
【0026】
(2)上記吸水性樹脂が、次の[a]成分の化合物より選ばれるポリイソシアネート化合物と[b]成分の化合物より選ばれるポリオール化合物とを反応させて得られるウレタン構造を有する吸水性樹脂であることを特徴とする(1)に記載の抄紙方法。
[a]1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,12−ドデカメチレンジイソシアネート、1−イソシアネート−3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート)、ビス−(4−イソシアネートシクロヘキシル)メタン(水添MDI)、4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)、トリレン−ジイソシアネート、キシリレン−ジイソシアネート、テトラメチルキシリレン−ジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−フェニレン−ジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、2−および4−イソシアネートシクロヘキシル−2’−イソシアネートシクロヘキシルメタン、ビス−(イソシアネートメチル)−シクロヘキサンおよびビス−(4−イソシアネート−3−メチルシクロヘキシル)メタンより選ばれた、1種または2種以上のポリイソシアネート化合物
[b]ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリペンチレングリコール、ポリへキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールおよびペンタエリスリトールより選ばれた1種または2種以上のポリエーテルポリオール、および/またはシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、リシノレイン酸およびε−カプロラクトンより選ばれた1種または2種以上の化合物とエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、3−メチル−1,5−プロパンジオール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールおよびペンタエリスリトールより選ばれた1種または2種以上の化合物から成るポリエステルポリオール、および/またはC6−ホモ−カーボネートジオール、C5/C6共重合ポリカーボネートジオールおよびC4/C6共重合ポリカーボネートジオールより選ばれた1種または2種以上のポリカーボネートポリオール、および/またはアクリルポリオールより選ばれた1種または2種以上のポリオール化合物。
【0027】
(3)吸水性樹脂として、前記[b]成分のポリオール化合物がカルボン酸ナトリウム塩、カルボン酸カリウム塩、スルホン酸ナトリウム塩、スルホン酸カリウム塩および第4級ハロゲン化アンモニウム塩より選ばれた化合物を反応させて得られる構造を1種または2種以上含むことを特徴とする(2)に記載の抄紙方法。
【0028】
(4)吸水性樹脂として、次の化合物から選ばれる成分を有することを特徴とする(1)に記載の抄紙方法。
[化合物]:側鎖および/または末端に水素、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、ポリエーテル基、ポリグリセロール基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、アミド基、メタクリレート基、メルカプト基およびN−アルキルピロリドン基より選ばれた官能基を1種または2種以上持つ鎖状または環状シリコーン化合物;デンプンにアクリロニトリル、アクリル酸、アクリルアミド、メタクリル酸メチル、酢酸ビニル、ビニルスルホン酸、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、モノクロム酢酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、エピクロルヒドリンおよびスチレンスルホン酸より選ばれた1種または2種以上の化合物を付加反応させた構造を持つ化合物;デンプンを自己架橋させた構造を持つ化合物;カルボキシメチルセルロースにアクリロニトリル、モノクロム酢酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、エピクロルヒドリンおよびスチレンスルホン酸より選ばれた1種または2種以上の化合物を付加反応させた構造を持つ化合物;カルボキシメチルセルロースを自己架橋させた構造を持つ化合物;ヒアルロン酸および/またはアガロースをホウ素および/またはアルミニウムイオンにより架橋させた構造を持つ化合物;ヒアルロン酸および/またはアガロースを自己架橋させた構造を持つ化合物;ポリビニルアルコールにアクリル酸およびポリアクリル酸ナトリウムより選ばれた化合物をグラフト重合させた構造を持つ化合物;ポリビニルアルコールを自己架橋させた構造を持つ化合物;アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸メチル、アクリロニトリル、ビニルアルコール、イソプロピルアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミドより選ばれた1種または2種以上の化合物を共重合させた構造を持つアクリル共重合体化合物;ポリウレタンにアクリル酸およびアクリル酸ナトリウムより選ばれた化合物をグラフト重合させた構造をもつ化合物;メタクリル酸およびイソプロピルアクリルアミドより選ばれた化合物を共重合させた構造を持つメチレンビスアクリルアミド共重合体化合物;エチレングリコールジメタクリレートおよび2,3−ジヒドロキシプロピルメタクリレートより選ばれた化合物を共重合させた構造を持つヒドロキシメタアクリレート共重合体化合物;ヒドロキシメタアクリレート共重合体化合物を自己架橋させた構造を持つ化合物およびイソプロピルアクリルアミドおよびジメチルアクリルアミドより選ばれた化合物をヘクトライトで調整したナノコンポジット型ヒドロゲルより選ばれた1種または2種以上の化合物。
【0029】
(5)吸水性樹脂が、前記吸水性樹脂に架橋剤[c]成分を1種または2種以上さらに架橋反応させたものであることを特徴とする(1)〜(2)のいずれかに記載の抄紙方法。
【0030】
(6)架橋剤[c]の成分がエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ビスフェノールA、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、プロパントリオール(グリセリン)、ブタントリオール、ペンタントリオール、ヘキサントリオール、シクロペンタントリオール、シクロヘキサントリオール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ソルビトール、マンニット、スクロース、トリエタノールアミン、エタノールアミン、アンモニア、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、ジメチルチオトルエンジアミン、4,4’−ビス(2−クロロアニリン)、4,4’−ビス(sec−ブチルアミノ)−ジフェニルメタン、N,N’−ジアルキルジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンジアニリン、4,4’−メチレン−ビス(2,3−ジクロロアニリン)、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、4,4’−メチレン−ビス(2−エチル−6−メチルアニリン)、トリメチレン−ビス(4−アミノベンゾエート)、ポリ(テトラメチレンオキシド)−ジ−p−アミノベンゾエート、フェニレンジアミン、イソホロンジアミン、4,4’−メチレンビス(2−メチルシクロヘキサン−1−アミン)、4,4’−メチレンビス(シクロヘキサンアミン)、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、キシレンジアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジプロピレントリアミン、アミノエチルエタノールアミン、ピペラジン、トリ(メチルアミノ)ヘキサン、メラミン、メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、N,N−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールポリグリシジルエーテルおよびビスフェノールAジグリシジルエーテルから選ばれた、1種または2種以上を使用することを特徴とする(5)に記載の抄紙方法。
【0031】
(7)吸水性樹脂の乾燥樹脂付着量が、樹脂をフェルト内に含有させる前のフェルト重量に対して0.2〜50重量%、好ましくは0.5〜30重量%であることを特徴とする(1)に記載の抄紙方法。
【0032】
(8)吸水性樹脂中に酸化チタン、カオリン、クレー、タルク等のフィラーを、1種または2種以上添加したことを特徴とする(1)に記載の抄紙方法。
【0033】
(9)基材の片面または両面にバット層を設けた抄紙用フェルトを抄紙機に用いた抄紙方法であって、前記フェルト内に吸水倍率が1.05〜10倍である吸水性樹脂を含有させた抄紙用フェルトを抄紙機のプレスパートに用いたことを特徴とする(1)に記載の抄紙方法。
【0034】
(10)プレスパートが、湿紙を挟持したフェルトの一部をロールとロールとで挟みながら加圧するプレス装置が設けられたロールプレス機構をもった抄紙機であることを特徴とする(9)に記載の抄紙方法。
【0035】
(11)プレスパートが、湿紙を挟持したフェルトの一部をロールとシューとで挟みながら加圧するプレス装置が設けられたシュープレス機構をもった抄紙機であることを特徴とする(9)に記載の抄紙方法。
【0036】
(12)複数のプレス装置が湿紙の搬送方向に沿って直列に並設されているプレスパートにおいて、前記プレス装置の少なくとも一つに、前記抄紙用フェルトが配置されることを特徴とする(9)に記載の抄紙方法。
【0037】
(13)前記プレスパートに複数枚の前記抄紙用フェルトが配置されているものにおいて、湿紙の搬送方向の下流に位置するフェルト内の乾燥樹脂付着量が、湿紙の搬送方向の上流に位置するフェルト内の乾燥樹脂付着量よりも多いことを特徴とする(12)に記載の抄紙方法。
【0038】
(14)前記プレスパートに複数枚の前記抄紙用フェルトが配置されているものにおいて、湿紙の搬送方向の上流に位置するフェルト内の乾燥樹脂付着量が、湿紙の搬送方向の下流に位置するフェルト内の乾燥樹脂付着量よりも多いことを特徴とする(12)に記載の抄紙方法。
【発明の効果】
【0039】
本発明の抄紙方法では、抄紙用フェルトに含有される吸水性樹脂が吸水することにより、加圧や水圧を湿紙に伝える作用の乏しいフェルト中の空間体積が減り、初期馴染み期間が短くなる。また、水で膨潤した樹脂の柔軟性と耐久性により圧縮性および弾性が持続するので、搾水性を向上、維持することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】従来の抄紙機のプレスパートの概略図である。
【図2】本発明の抄紙方法に用いるフェルトにおいて、吸水性樹脂が表側(湿紙と接触する)バット層中に留まって存在している状態を示した図である。
【図3】本発明の抄紙方法に用いるフェルトにおいて、吸水性樹脂が表側バット層から裏側バット層まで達して存在している状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の抄紙方法に用いる抄紙用フェルトの一例を図に示す。なお、本発明はかかる図面に記載された具体例に示すものに限られない。
図2に例示した抄紙用フェルトは、基材5と表バット層6(湿紙載置側バット層)、基材5のプレスロール側に配置された裏バット層7(プレスロール側バット層)を備え、図2は吸水性樹脂が湿紙載置側バット層6中に留まり、図3はプレスロール側バット層7まで達した状態を示している。
【0042】
一般的に抄紙用フェルトは、基材5をバット層で挟み込んだ構成である。基材5は、経糸10aと緯糸10bとを織機等により製織した織物が一般的である。
基材の経糸及び緯糸とバット繊維の材質としては、ポリエステル( ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等) 、ポリアミド( ナイロン6 、ナイロン66 、ナイロン610 、ナイロン612等) 、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、アラミド、ポリエーテルエステルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、綿、ウール、金属等が挙げられる。
【0043】
<吸水性樹脂の種類>
吸水性樹脂は、吸水倍率が1.05〜10倍のもので、天然高分子類に属するもの、合成高分子類に属するものが1種または2種以上使用できる。
【0044】
本発明では、フェルト内に吸水倍率が1.05〜10倍である吸水性樹脂を含有する抄紙用フェルトを使用した抄紙方法である。吸水倍率が1倍を超えないものは、フェルト使用開始からの初期馴染みを良化させるために必要な空間量まで減少しないため、フェルトの馴染み期間が長くなってしまう。また、吸水倍率が10倍を超えるものは、弾性および濾水の持続性が低下し、十分な湿紙搾水能力が得られなくなる。
【0045】
天然高分子類に属する吸水性樹脂として、デンプン系では、デンプンにモノマーを付加反応させたもの、または電離線を照射させ架橋させたものが挙げられ、そのモノマーとしては、アクリロニトリル、アクリル酸、アクリルアミド、メタクリル酸メチル、酢酸ビニル、ビニルスルホン酸、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、モノクロム酢酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、エピクロルヒドリン、スチレンスルホン酸など、一般に知られたものが使用できる。
【0046】
セルロース系吸水性樹脂では、CMCにモノマーを付加反応させたもの、または電離線を照射させ架橋させたものがあり、そのモノマーとしては、アクリロニトリル、モノクロム酢酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、エピクロルヒドリン、スチレンスルホン酸などが使用できる。
【0047】
多糖類系吸水性樹脂では、ヒアルロン酸やアガロースへのホウ素やアルミニウムなどの多価イオンへの配置による架橋、または電離線を照射させ架橋させたものが使用できる。
【0048】
合成高分子類吸水性樹脂に属するものとしては、PVA系では、モノマーを付加反応させたもの、または電離線を照射させ架橋させたものがある。そのモノマーとしては、アクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウムなどが使用できる。
【0049】
アクリル系吸水性樹脂では、下記のものが挙げられる。
アクリルアミド共重合体(共重合物モノマーとして、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸、ビニルアルコール、イソプロピルアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミドなど)アクリル酸共重合体(共重合物モノマーとして、アクリル酸ナトリウム、アクリロニトリルなど)メチレンビスアクリルアミド共重合体(共重合物モノマーとして、メタクリル酸、イソプロピルアクリルアミドなど)メチレンビスアクリルアミド共重合体(共重合物モノマーとして、メタクリル酸、イソプロピルアクリルアミドなど)または、電離線照射による架橋ポリアクリル酸ナトリウム。
その他、アクリルアミド誘導体(NIPA、DMAA)モノマーを無機成分(ヘクトライト)で調製したNCゲルも使用出来る。
【0050】
ウレタン系吸水性樹脂では、ポリオールを変性したものとして、多価アルコールにエチレンオキサイドを単独またはエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加重合させた親水性ポリオールにポリイソシアネートを反応させたものがあり、ポリオールに混合したものとして、デンプンやPVA等の吸水樹脂をポリオール中に混合して、イソシアネートと反応させたものなどが使用できる。
この中でも、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)を付加重合させた親水性ポリオールにポリイソシアネートを反応させたものが好ましい。
【0051】
上記ポリイソシアネートとしては、芳香族、脂肪族、または、脂環族ポリイソシアネートがあげられ、例えばトリレジンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ヘキサメチレンジイソシアネートおよびそれらの混合物が使用できる。
【0052】
上記ポリオールとしては、芳香族多価アルコールにEOまたはPOとを付加重合させた芳香族親水性ポリオール。芳香族多価アルコールとしては4,4’−ジヒドロキシフェニルスルホン、レゾルシン、1,4−ビスヒドロキシエトキシベンゼンが好ましい。
中でも、オキシエチレン基の含有量がポリオキシアルキレン中の重量の40〜100%を占めるポリエーテルポリオールと、オキシエチレン基の含有量がポリオキシアルキレン中の重量の0.1〜30%であり、且つ分子量が1000以下のポリエーテルポリオールを反応させたものが好ましい。
【0053】
<吸水性樹脂の形状>
抄紙用フェルトのバット層に含有される吸水性樹脂の形状は粒子状であっても分散したフィルム状であっても特に限定されるものではない。ただし、吸水後にシート状のごとく連続したフィルム層を形成するようなものは、通水性を阻害し好ましくない。
【0054】
<吸水倍率について>
吸水倍率は、次の方法により測定する。
(1)試料(吸水性樹脂)を105℃で1時間乾燥したときの重量を0.01g単位まで測定し、これをMと定義する。
(2)試料を不織布製バッグに適当量(例えば100g)を入れ、20℃±2℃の充分な量の純水からなる浸漬液の中に不織布製バッグごと完全に浸漬させる。
(3)浸漬時間1時間毎に試料の入った不織布製バッグを浸漬液より取り出し、回転型脱水機(熊谷理機工業製シートフォーマー:商品名)に入れる。
(4)シートフォーマーの回転速度を所定速度1500m/分になるように設定し、設定速度に到達(12秒後)したら所定の時間(5分間)、脱水を行う。
(5)5分間脱水を継続した後、ブレーキをかけて遠心脱水を停止させる。脱水後の不織布製バッグと試料の合計重量を0.01g単位まで測定する。
(6)以後、上記(3)から(5)を繰り返し、重量増加のなくなった時点の試料と不織布製バッグの合計重量をMと定義する。
(7)前もって測定しておいた、純水に浸漬後の上記(3)から(5)によって測定された不織布製バッグの重量をSと定義し、式:吸水倍率=(M−S)÷Mにより得られた値を吸水倍率とする。
上記吸水倍率は1.05〜10倍が好ましい。
【0055】
これら吸水性樹脂を抄紙用フェルト内に含有させる位置は、特に限定されるものではないが、好ましくは湿紙載置側バット層から基材の間に含有していれば良い。
具体的には、湿紙載置側バット層6のみ、湿紙載置側バット層6からプレスロール側バット層7まで、湿紙載置側バット層6から基材5まで、ならびに、プレスロール側バット層7から基材5までの組み合わせがある。
【0056】
吸水性樹脂をフェルトに含有させる手段としては、吸水性樹脂粒子を水溶液に分散した水分散液をフェルトに塗布・含浸、スプレー散布、ブレードコートなどの手法でフェルトに付着させる。
【0057】
吸水性樹脂をフェルトに強固に保持させるために必要に応じて架橋剤を使用し、前記水分散液に分散させて塗布し、ついで加熱または電子線放射して架橋反応を行う。かかる架橋剤としては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N−メチレンビス(メタ)アクリルアミド等や、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、脂肪族多価アルコールのジまたはポリグリシジルエーテル等、及びそれらの混合物が挙げられる。また、架橋剤は1種または2種以上使用できる。
【0058】
抄紙用フェルト中にできる繊維以外の好ましい空間体積は、初期馴染みの期間から、運転速度が安定生産可能な最高速度領域に移行し使用末期に至るまで、一定の体積を維持することである。
そのため、抄紙機の操業条件、湿紙の脱水量を鑑みて、吸水した樹脂のフェルトからの脱落速度をコントロールするとよい。
【0059】
前記架橋剤の使用量は、吸水性樹脂の反応基当量(ウレタン系吸水樹脂ではイソシアネート基)と架橋剤の反応基(活性水素基)当量で決定する。その際、架橋後の耐久性能を制御するため、適切な当量比(−NCO/−H)で調整する。具体的には、当量比で0.7〜1.5が好ましい。
【0060】
本発明では、フェルト内の吸水性樹脂の乾燥樹脂付着量がフェルト重量に対して0.2〜50重量%、好ましくは0.5〜30重量%である抄紙用フェルトを使用した抄紙方法である。乾燥樹脂付着量が0.2%以下であるものは、フェルト使用開始からの初期馴染みを良化させるために必要な空間量まで減少しないため、フェルトの馴染み期間が長くなってしまう。また、乾燥樹脂付着量が50%を超えるものは、弾性および濾水の持続性が低下するため、十分な湿紙搾水能力が得られなくなる。
【0061】
本発明では、複数のプレス装置が湿紙の搬送方向に沿って直列に並設されているプレスパートにおいて、少なくとも1つのプレス装置に当該抄紙用フェルトが配置されることを特徴とする抄紙方法である。特に、プレスパートに複数枚の当該抄紙用フェルトが配置されているものにおいて、湿紙の搬送方向の下流に位置するフェルト内の吸水性樹脂の乾燥樹脂付着量と、湿紙の搬送方向の上流に位置するフェルト内の吸水性樹脂の乾燥樹脂付着量とが異なることを特徴とする抄紙方法であるときは、抄紙機全体のフェルトの馴染み期間と搾水性等の基本的機能を、バランス良く具備した抄紙方法を提供することができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例及び比較例により本発明に使用する抄紙用フェルトを説明する。なお、本発明はこれらの実施例に示される抄紙用フェルトに限定されるものではない。
実施例1〜6、比較例1〜2
本実施例及び比較例において使用した抄紙用フェルトの基本構成は次のとおりである。
基材(ナイロンモノフィラメントの撚糸、平織):坪量750g/m
バット繊維(17デシテックスのナイロン6ステープルファイバー)
基材の湿紙載置側:坪量500g/m
基材のプレスロール側:坪量250g/m
基材に裏面側のバット繊維と表面側のバット繊維とを積層し、ニードリングにより絡合一体化してフェルトを形成(比較例1)した後、表1に示す吸水性樹脂組成物をフェルトの表面バット側から塗布し、105℃で60分間乾燥したのち、140℃で30分間キュア(加熱硬化)した。
なお、フィラーの使用量は、吸水性樹脂100重量部に対し、8重量部の割合で用いた。得られた抄紙用フェルトの吸水倍率およびキュア後の乾燥状態での吸水性樹脂のフェルト付着量を表1に示す。乾燥吸水性樹脂のフェルト付着量(%)は、吸水性樹脂をフェルトに含有させる前の、フェルト素材100重量部に対する吸水性樹脂付着重量(乾燥重量)の割合を示す。
【0063】
【表1】

【0064】
実施例1〜6、比較例1〜2で得られた抄紙用フェルトを、後記の走行テスト条件;1000m/分、ロール加圧100kN/m、100時間を行い、抄紙用フェルトの搾水性、弾性持続性、通水持続性を評価した。
【0065】
搾水試験;高速プレステスター
搾水試験条件:加圧100kN/m、抄速1000m/分
プレス前湿紙含水率;70%
プレス前湿紙含水率=(プレス前湿紙重量−乾燥紙重量)÷プレス前湿紙重量×100
プレス後湿紙含水率=(プレス後湿紙重量−乾燥紙重量)÷プレス後湿紙重量×100
プレス後湿紙含水率が低いほど搾水性の良い抄紙用フェルトであり、製紙業界においてはプレス後の湿紙含水率の差が1%であっても、プレス後の紙の乾燥工程における熱エネルギー量に多大な影響を及ぼすものである。
【0066】
圧縮試験;高速プレステスター
プレス前フェルト厚み;T
プレス下フェルト厚み;T(100kN/m)
プレス後フェルト厚み;T
圧縮率(%)=(T−T)÷T×100
厚み保持率(%)=(T÷T)×100
【0067】
濾水試験;濾水テスター
濾水値;加圧20MPa。120mmφのフェルトサンプルの片面側に金属板を配置し、金属板のない側から水圧3MPaで5リットルの水が通水するのに要する時間。
この時間が短いほど通水性が良好である。
濾水持続率(%)=走行テスト前濾水値÷走行テスト後濾水値×100
その結果を表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
表2は、プレス後の湿紙含水率の値が小さい程搾水性に優れることを示し、プレス時圧縮率、プレス前後厚みの保持率の値は大きい程弾性持続性が優れることを示す。
実施例1〜6の抄紙用フェルトにおいては、含有する吸水性樹脂の膨潤により搾水性、弾性持続性が向上していることが分かる。
また、実施例1〜6の抄紙用フェルトは、濾水持続率が高い値を示しているが、これは吸水性樹脂により、新品時の過剰な空間を閉塞し、使用に伴い徐々に樹脂が脱落していくことにより、初期から使用末期に至るまで適正な通水性を発揮するためである。
【0070】
実施例1〜6および、比較例1で得られた抄紙用フェルトを、図1のトランスファーツインバー形式の抄紙機で並設して使用し、本発明の抄紙方法の実験を行った。実験では、オフセット印刷用新聞用紙を製造する過程で下記の抄紙用フェルトを使用した。なお、比較例としてすべてのプレス装置に比較例1のフェルトを使用した。
・PUフェルト;実施例2のフェルトを使用
・1Pフェルト;実施例1のフェルトを使用
・3Pフェルト;実施例3のフェルトを使用
・4Pフェルト;実施例4のフェルトを使用
【0071】
上記抄紙方法の実験の結果、本発明の抄紙方法は抄紙用フェルトの吸水性樹脂が吸水することにより、加圧や水圧を湿紙に伝える作用の乏しいフェルト中の空間体積が減り、初期馴染み期間が短くなることが分かった。また、水で膨潤した樹脂の柔軟性と耐久性により圧縮性が持続するので、搾水性が維持出来ることが分かった。これに対して、すべてのプレス装置に比較例1のフェルトを並設して使用したものは、初期馴染み期間が長く、また圧縮性が持続できず搾水性が悪いことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、抄紙機の安定生産が可能な最高速度到達までの、初期馴染み期間を含めた使用通期での湿紙の搾水性を向上する抄紙方法を提供することができ、製紙工業において、実用上有益なものである。
【符号の説明】
【0073】
5 … 基材
10a … 経糸(MD糸)
10b … 緯糸(CMD糸)
6 … 表バット層
7 … 裏バット層
8 … 吸水性樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の片面または両面にバット層を設けた抄紙用フェルトを抄紙機に用いた抄紙方法であって、前記フェルト内に吸水倍率が1.05〜10倍である吸水性樹脂を含有させた抄紙用フェルトを抄紙機に用いたことを特徴とする抄紙方法。
【請求項2】
上記吸水性樹脂が、次の[a]成分の化合物より選ばれるポリイソシアネート化合物と[b]成分の化合物より選ばれるポリオール化合物とを反応させて得られるウレタン構造を有する吸水性樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の抄紙方法。
[a]1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,12−ドデカメチレンジイソシアネート、1−イソシアネート−3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート)、ビス−(4−イソシアネートシクロヘキシル)メタン(水添MDI)、4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)、トリレン−ジイソシアネート、キシリレン−ジイソシアネート、テトラメチルキシリレン−ジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−フェニレン−ジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、2−および4−イソシアネートシクロヘキシル−2’−イソシアネートシクロヘキシルメタン、ビス−(イソシアネートメチル)−シクロヘキサンおよびビス−(4−イソシアネート−3−メチルシクロヘキシル)メタンより選ばれた、1種または2種以上のポリイソシアネート化合物
[b]ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリペンチレングリコール、ポリへキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールおよびペンタエリスリトールより選ばれた1種または2種以上のポリエーテルポリオール、および/またはシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、リシノレイン酸およびε−カプロラクトンより選ばれた1種または2種以上の化合物とエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、3−メチル−1,5−プロパンジオール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールおよびペンタエリスリトールより選ばれた1種または2種以上の化合物から成るポリエステルポリオール、および/またはC6−ホモ−カーボネートジオール、C5/C6共重合ポリカーボネートジオールおよびC4/C6共重合ポリカーボネートジオールより選ばれた1種または2種以上のポリカーボネートポリオール、および/またはアクリルポリオールより選ばれた1種または2種以上のポリオール化合物
【請求項3】
吸水性樹脂として、前記[b]成分のポリオール化合物がカルボン酸ナトリウム塩、カルボン酸カリウム塩、スルホン酸ナトリウム塩、スルホン酸カリウム塩および第4級ハロゲン化アンモニウム塩より選ばれた化合物を反応させて得られる構造を1種または2種以上含むことを特徴とする請求項2に記載の抄紙方法。
【請求項4】
吸水性樹脂として、次の化合物から選ばれる成分を有することを特徴とする請求項1に記載の抄紙方法。
[化合物]:側鎖および/または末端に水素、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、ポリエーテル基、ポリグリセロール基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、アミド基、メタクリレート基、メルカプト基およびN−アルキルピロリドン基より選ばれた官能基を1種または2種以上持つ鎖状または環状シリコーン化合物;デンプンにアクリロニトリル、アクリル酸、アクリルアミド、メタクリル酸メチル、酢酸ビニル、ビニルスルホン酸、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、モノクロム酢酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、エピクロルヒドリンおよびスチレンスルホン酸より選ばれた1種または2種以上の化合物を付加反応させた構造を持つ化合物;デンプンを自己架橋させた構造を持つ化合物;カルボキシメチルセルロースにアクリロニトリル、モノクロム酢酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、エピクロルヒドリンおよびスチレンスルホン酸より選ばれた1種または2種以上の化合物を付加反応させた構造を持つ化合物;カルボキシメチルセルロースを自己架橋させた構造を持つ化合物;ヒアルロン酸および/またはアガロースをホウ素および/またはアルミニウムイオンにより架橋させた構造を持つ化合物;ヒアルロン酸および/またはアガロースを自己架橋させた構造を持つ化合物;ポリビニルアルコールにアクリル酸およびポリアクリル酸ナトリウムより選ばれた化合物をグラフト重合させた構造を持つ化合物;ポリビニルアルコールを自己架橋させた構造を持つ化合物;アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸メチル、アクリロニトリル、ビニルアルコール、イソプロピルアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミドより選ばれた1種または2種以上の化合物を共重合させた構造を持つアクリル共重合体化合物;ポリウレタンにアクリル酸およびアクリル酸ナトリウムより選ばれた化合物をグラフト重合させた構造をもつ化合物;メタクリル酸およびイソプロピルアクリルアミドより選ばれた化合物を共重合させた構造を持つメチレンビスアクリルアミド共重合体化合物;エチレングリコールジメタクリレートおよび2,3−ジヒドロキシプロピルメタクリレートより選ばれた化合物を共重合させた構造を持つヒドロキシメタアクリレート共重合体化合物;ヒドロキシメタアクリレート共重合体化合物を自己架橋させた構造を持つ化合物およびイソプロピルアクリルアミドおよびジメチルアクリルアミドより選ばれた化合物をヘクトライトで調整したナノコンポジット型ヒドロゲルより選ばれた1種または2種以上の化合物。
【請求項5】
吸水性樹脂が、前記吸水性樹脂に架橋剤[c]成分を1種または2種以上さらに架橋反応させたものであることを特徴とする請求項1、2のいずれかに記載の抄紙方法。
【請求項6】
架橋剤[c]の成分が、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ビスフェノールA、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、プロパントリオール(グリセリン)、ブタントリオール、ペンタントリオール、ヘキサントリオール、シクロペンタントリオール、シクロヘキサントリオール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ソルビトール、マンニット、スクロース、トリエタノールアミン、エタノールアミン、アンモニア、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、ジメチルチオトルエンジアミン、4,4’−ビス(2−クロロアニリン)、4,4’−ビス(sec−ブチルアミノ)−ジフェニルメタン、N,N’−ジアルキルジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンジアニリン、4,4’−メチレン−ビス(2,3−ジクロロアニリン)、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、4,4’−メチレン−ビス(2−エチル−6−メチルアニリン)、トリメチレン−ビス(4−アミノベンゾエート)、ポリ(テトラメチレンオキシド)−ジ−p−アミノベンゾエート、フェニレンジアミン、イソホロンジアミン、4,4’−メチレンビス(2−メチルシクロヘキサン−1−アミン)、4,4’−メチレンビス(シクロヘキサンアミン)、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、キシレンジアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジプロピレントリアミン、アミノエチルエタノールアミン、ピペラジン、トリ(メチルアミノ)ヘキサン、メラミン、メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、N,N−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールポリグリシジルエーテルおよびビスフェノールAジグリシジルエーテルから選ばれた、1種または2種以上を使用することを特徴とする請求項5に記載の抄紙方法。
【請求項7】
吸水性樹脂の乾燥樹脂付着量が、樹脂をフェルト内に含有させる前のフェルト重量に対して0.2〜50重量%、好ましくは0.5〜30重量%であることを特徴とする請求項1に記載の抄紙方法。
【請求項8】
吸水性樹脂中に酸化チタン、カオリン、クレー、タルク等のフィラーを、1種または2種以上添加したことを特徴とする請求項1に記載の抄紙方法。
【請求項9】
基材の片面または両面にバット層を設けた抄紙用フェルトを抄紙機に用いた抄紙方法であって、前記フェルト内に吸水倍率が1.05〜10倍である吸水性樹脂を含有させた抄紙用フェルトを抄紙機のプレスパートに用いたことを特徴とする請求項1に記載の抄紙方法。
【請求項10】
前記プレスパートが、湿紙を挟持したフェルトの一部をロールとロールとで挟みながら加圧するプレス装置が設けられたロールプレス機構をもった抄紙機であることを特徴とする請求項9に記載の抄紙方法。
【請求項11】
前記プレスパートが、湿紙を挟持したフェルトの一部をロールとシューとで挟みながら加圧するプレス装置が設けられたシュープレス機構をもった抄紙機であることを特徴とする請求項9に記載の抄紙方法。
【請求項12】
複数のプレス装置が湿紙の搬送方向に沿って直列に並設されているプレスパートにおいて、前記プレス装置の少なくとも一つに、前記抄紙用フェルトが配置されることを特徴とする請求項9に記載の抄紙方法。
【請求項13】
前記プレスパートに複数枚の前記抄紙用フェルトが配置されているものにおいて、湿紙の搬送方向の下流に位置するフェルト内の乾燥樹脂付着量が、湿紙の搬送方向の上流に位置するフェルト内の乾燥樹脂付着量よりも多いことを特徴とする請求項12に記載の抄紙方法。
【請求項14】
前記プレスパートに複数枚の前記抄紙用フェルトが配置されているものにおいて、湿紙の搬送方向の上流に位置するフェルト内の乾燥樹脂付着量が、湿紙の搬送方向の下流に位置するフェルト内の乾燥樹脂付着量よりも多いことを特徴とする請求項12に記載の抄紙方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−12366(P2011−12366A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158575(P2009−158575)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【特許番号】特許第4545221号(P4545221)
【特許公報発行日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】