説明

抄紙機用ロール及びその製造方法

【課題】金属製ロールシェル1の表面に下地層とハステロイ層2を介在させてその上にセラミック層を被着させた抄紙機用ロールにおいて、腐食性流体の浸入を遮断して、金属製ロールシェルの腐食を防止するともに、紙ウェブの剥離性を向上させる。
【解決手段】真空雰囲気中でセラミック層3の表面に合成樹脂からなる封孔処理剤を塗布ステップと、セラミック層3を15〜45℃の温度下で加圧雰囲気中に置くことにより、セラミック層3に封孔処理剤を含浸させるステップと、該含浸層の上にセラミックを溶射してセラミック層5を形成するステップとからなる処理工程を1回又は複数回繰り返すことにより、セラミック層3、5の内部に1層又は複数層の封孔処理層4を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレスロールなどの抄紙機用ロールにおいて、白水等の浸入等ロールを取り巻く腐食性環境に対する防食性及び紙ウェブの剥離性を向上させたロール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来抄紙機のプレスロール等においては、湿紙に対する良好な濡れ特性及び剥離性等が要求されるため、従来より、主として、結晶に極めて微細な気孔を有して鏡面状の仕上げ加工が可能で、表面硬度も高く、濡れ特性に優れかつ湿紙の剥離性が良く、しかも撓屈性が少なくさらに錆が出ない花崗岩質の天然ストーンロールが採用されている。
【0003】
しかし近年紙ウェブの走行速度が上がるにつれて、ロールに対して要求される強度と耐性が増大し、花崗岩ロールではかかる要求に対応できなくなってきている。また最近のニーズであるロール面のプロファイル調整にも対応できず、また産地が限られ入手困難になってきているとともに、製造されたロール毎にその表面特性(例えば気孔率、表面硬度、保水性等)にバラツキが見られるという本質的な問題がでてきた。
【0004】
そのため天然ストーンロールの代替技術として、セラミック溶射ロールが提案されている。即ち金属製ロールシェルの表面に、セラミック溶射被膜と金属製ロールシェルとの間に良好な密着性を確保し、防食性を有する下地層を被着した後、セラミック粉末をガスプラズマ溶射等によって溶射し、セラミック溶射被膜を形成している。表面にセラミック層を被覆したロールは、表面強度が高く、高温の使用に耐え、ロール表面の摩擦係数が小さいために紙ウェブの剥離性に優れている。
抄紙機のプレスロール等では、前述のように、湿紙に対する良好な濡れ特性及び剥離性等が要求され、セラミック被膜ロールはこのような要求に対応し得るものである。
【0005】
例えば特許文献1(特開平4−146290号公報)には、金属製ロールシェルの外周にセラミックを溶射してセラミック層を形成した抄紙機用プレスロールが開示されている。このセラミックロールは、金属製ロールシェルの表面に、該金属製ロールシェルより小さい熱膨張係数を有する金属材料(例えば耐食性に優れたモリブデン系金属、ニッケル系金属等)の粉末をガス溶射法、ガスプラズマ溶射法等により被覆した下地層を形成し、その上にセラミック層を形成し、該セラミック層の表層部分のセラミック粒子間の間隙に合成樹脂又はワックスよりなる離型性を有する有機高分子物質が充填されてなるものである。
【0006】
特許文献1に開示されたプレスロールは、湿紙の離型性を良くし、かつ湿紙に平滑性を付与するために、離型性を有する有機高分子物質をセラミック粒子間の間隙に充填し、セラミック層の表面に空隙をなくし、ロール表面を鏡面状に(表面粗さ(JIS B 0601による)0.2〜2.0μm(Ra))仕上げている。
なお下地層は、セラミック層の良好な密着性を確保するために用いられ、さらに付加的作用として例えば防食性に優れた材料を用いている。
【0007】
また特許文献2(特開平10−292288号公報)には、金属製ロールシェルの表面に下地層として被着/防食層を介在させてCr・TiO系セラミックあるいはAl・ZrO系セラミックを被覆した抄紙機用ロールが開示されている。また特許文献2では、紙ウェブのロールに対する剥離性を良好にするために、ロール表面の粗さを0.2〜2.0μmにすることが開示されている。
【0008】
また特許文献3(特開平11−335993号公報)には、図5に示すように、金属製ロールシェル(たとえば鋳鉄製ロールシェル)からなる基材01の表面に、ハステロイを溶射して下地層層02が形成され、その上にセラミック層03が溶射されたプレスロール及びその製造方法が開示されている。
ハステロイは、緻密な構造をもち、ロールシェル表面への密着強度が高く、かつ電食を起こすことがなくて防食性に優れ、また鋳鉄と熱膨張係数がほとんど同じであることから、熱歪による割れを起こすおそれがない等優れた性質を発揮する。
また特許文献3には、セラミック層03の表面をダイヤモンド加工と超精密研磨の併用により0.8μm以下の表面精度に仕上げ加工してプレスロールを製造することが開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開平4−146290号公報
【特許文献2】特開平10−292288号公報
【特許文献3】特開平11−335993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1〜3によれば、ロールに被覆されたセラミック層の表面は、湿紙の離型性を良くし、かつ湿紙に平滑性を付与するために、セラミック層の表面に空隙をなくし、精密研磨によりロール表面を平滑に仕上げるようにしている。
しかし最近本発明者等の実験等によれば、セラミック層の表面を平滑に仕上げることが必ずしも紙ウェブの離型性をよくすることにはならず、むしろセラミック層の表面に微細な気孔を有したほうが離型性をよくすることがわかってきた。
【0011】
また特許文献3に開示された構成において、下地層として防食性の優れたハステロイ層を介在させた構成であっても、プレスロール等は、湿紙を構成し腐食性を有する白水に絶えず接触し、またアルカリ性洗浄水や酸性洗浄水で頻繁に洗われる強腐食環境に置かれている。
従って図6に示すように、セラミック溶射層03を構成するセラミック粒子04の間に存在する隙間を腐食性流体eが浸入し、セラミック層03及びハステロイ層02を浸透して、基材01に接触し、この結果基材表面が腐食して腐食箇所Eが発生するとともに、セラミック層03に割れ/剥離が生じるという問題がある。
【0012】
防食性に優れたハステロイ層を下地層として介在させても、抄紙機用ロールが置かれた強腐食環境において腐食性流体の基材への浸透を完全に抑えることができなかった。
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、金属製ロールシェルの表面に下地層とハステロイ層を介在させてその上にセラミック層を被着させた抄紙機用ロールにおいて、セラミック層への腐食性流体の浸入を遮断して、金属製ロールシェルの腐食を防止するとともに、紙ウェブのロールに対する剥離性を向上させることができる抄紙機用ロールを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる目的を達成するため、本発明の抄紙機用ロールの製造方法は、
金属製ロールシェルの表面に下地層としてハステロイを被覆し、その上にセラミック層を被覆してなる抄紙機用ロールの製造方法において、
真空雰囲気中で前記セラミック層の表面にエポキシ系樹脂又はシリコン系樹脂からなる封孔処理剤を塗布ステップと、
その後前記セラミック層を15〜45℃の温度下で加圧雰囲気中に置くことにより、前記セラミック層に前記封孔処理剤を含浸させて封孔処理層を形成するステップと、
該封孔処理層の上にセラミックを溶射してセラミック層を形成するステップとからなる処理工程を1回又は複数回繰り返すことにより、前記セラミック層の内部に1層又は複数層の封孔処理層を形成することを特徴とする。
【0014】
本発明者等の実験等によれば、セラミック層の表面を鏡面状に平滑に仕上げることが必ずしも紙ウェブの離型性をよくすることにはならず、むしろセラミック層表面の微細な気孔を維持したほうが離型性がよくなるとの知見を得、かかる知見に基づいて本発明方法に至ったものである。
即ち金属製ロールシェルの表面に下地層として優れた性質を有するハステロイ層を介してその上にセラミック層を被覆してなるロールの表面に、まず真空中でエポキシ系樹脂又はシリコン系樹脂からなる封孔処理剤を塗布する。
【0015】
真空中で封孔処理剤を塗布することにより、セラミック層と封孔処理剤との間に気泡が混入することがなく、封孔処理剤がセラミック層表面に密接に密着するようになる。
次に封孔処理剤を塗布したセラミック層を15〜45℃の温度下で加圧雰囲気中に置く。15〜45℃の温度に保持したことにより、封孔処理剤の粘度が下がり、セラミック粒子間への浸透性がよくなる。さらにセラミック層を加圧雰囲気下に置くことにより、封孔処理剤がセラミック粒子間に含浸した封孔処理層が形成される。
【0016】
該封孔処理層を乾燥して固化させた後、該封孔処理層の上にセラミックを溶射してセラミック層を形成する。かかる処理工程を1回又は複数回繰り返すことにより、セラミック層の内部に1層又は複数層の前記封孔処理層を形成する。
一方ロール外表面は封孔処理剤を含浸させないセラミック層とし、セラミック層を構成するセラミック粒子による微細な気孔を有した面がそのまま現れたロール表面とする。
【0017】
本発明方法では、セラミック層の内部に合成樹脂からなる封孔処理層を1層又は複数層形成することにより、腐食性流体の下地層としてのハステロイ層やさらにその下方のロールシェルに浸透するのを阻止することができる。
またロール外表面をセラミック粒子の微細な気孔をそのまま現わした表面としたことにより、ロールに巻装される紙ウェブがロール表面に密着されるのではなく、ロール表面との間で若干の空隙をもたせるようにし、セラミック層の持つ良好な濡れ性(親水性)によって該空隙に十分な水膜をつくることにより、紙ウェブの剥離を容易にすることができる。
【0018】
抄紙機用ロールでは、プレスパートでロール表面に湿紙を付着させて加圧脱水する場合やカレンダパートで紙ウェブの表面を平滑化処理する場合に紙ウェブがロールに適度に付着性をもって付着され、かつ次の工程に移送する場合に適度の剥離性をもつ必要があるが、本発明では、セラミック層表面の微細な気孔を残すことで適度の付着性と適度の剥離性をもたせている。
【0019】
本発明方法において、好ましくは、封孔処理剤の塗布時にセラミック層表面と封孔処理剤とに間に気泡を混入させないための最適な真空値として、真空雰囲気の真空値を1.3kPa〜1.3Paとするとともに、セラミック層表面に微細な気孔を残すように封孔処理剤を含浸させるために最適な加圧値として、加圧雰囲気の加圧値を0.1〜0.7MPaとする。
また封孔処理剤として、離型性を有するエポキシ系樹脂又はシリコン系樹脂が好適である。これらの合成樹脂は、使いやすく、安全で、耐食性があるからである。
【0020】
また本発明の抄紙機用ロールは、
金属製ロールシェルの表面に下地層としてハステロイを被覆し、その上にセラミック層を被覆してなる抄紙機用ロールにおいて、
前記セラミック層の内部にセラミック粒子間の空隙に合成樹脂からなる封孔処理剤を含浸させてなる封孔処理層を1層又は複数層形成したことを特徴とする。
【0021】
本発明の抄紙機用ロールは、セラミック層の内部にセラミック粒子間の空隙に合成樹脂からなる封孔処理剤を含浸させてなる封孔処理層を1層又は複数層形成してなり、これによって腐食性流体の浸透を防止するとともに、紙ウェブに対して適度の付着性と剥離性とを保有させるようにしたものである。
即ちセラミック層の表面に微細な気孔を残すことにより、紙ウェブがセラミック層の表面に巻装されたとき、紙ウェブとセラミック層表面が完全に密着することなく、適度に空隙をもつ。この空隙に水膜をつくることにより、紙ウェブに対する適度の付着性と適度の剥離性をもたせることができる。
なお本発明におけるセラミック層表面の粗さは、紙ウェブのロールに対する適度の付着性と適度の剥離性をもたせる観点から(JIS B 0601による)0.2〜2.0μm(Ra)にすることが好ましい。
【0022】
本発明ロールにおいて、好ましくは、ロール外表面を構成するセラミック層の厚さを50〜200μmとする。セラミック層表面は抄紙機の運転により、セラミック層の表面性が低下したときは、表面を研磨するが、封孔層に影響はなく封孔の効果を維持できる。
1回の研磨により10μm以下の厚さのセラミック層が研磨され、ロールを長期に使用可能なようにするために、好ましくはセラミック層表面から封孔処理層までの厚さを50〜200μmとする。
【発明の効果】
【0023】
本発明方法によれば、真空雰囲気中でロール外表面を形成するセラミック層の表面に合成樹脂からなる封孔処理剤を塗布ステップと、その後前記セラミック層を15〜45℃の温度下で加圧雰囲気中に置くことにより、セラミック層に封孔処理剤を含浸させて封孔処理層を形成るステップと、該封孔処理層の上にセラミックを溶射してセラミック層を形成するステップとからなる処理工程を1回又は複数回繰り返すことにより、セラミック層の内部に1層又は複数層の封孔処理層を形成することにより、セラミック層の内部に1層又は複数層の合成樹脂からなる封孔処理層を形成するため、該封孔処理層がセラミック表層からの腐食性流体の浸入を防止して、ロールシェルの腐食を防止することができるとともに、ロール外表面を封孔処理しないセラミック層で構成し、ロール外表面に微細な気孔を残しているため、紙ウェブがロールに巻装されたとき、セラミック層と紙ウェブとの間に隙間が形成され、これによって紙ウェブに対する適度の付着性と剥離性とを得ることができる。
【0024】
また本発明のロールによれば、ロール外表面を構成するセラミック層の内部にセラミック粒子間の空隙に合成樹脂からなる封孔処理剤を含浸させてなる封孔処理層を1層又は複数層形成したことにより、セラミック表層からの腐食性流体の浸入を防止して、ロールシェルの腐食を防止することができるとともに、セラミック層の表面に微細な気孔を残しているため、紙ウェブがロールに巻装されたとき、セラミック層と紙ウェブとの間に隙間が形成され、これによって紙ウェブに対する適度の付着性と剥離性とを得ることができる。
また好ましくは、セラミック層表面から封孔処理層までを50〜200μmとすることにより、封孔処理層を研磨しながら長期に使用でき、抄紙機の長期に亘る運転期間中に腐食性流体の浸入を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明をそれのみに限定する趣旨ではない。
図1は本発明の第1実施例を示す断面図、図2は、実施例1の封孔処理層の形成工程を示すブロック線図、図3は、第1実施例で用いる減圧チャンバの斜視図、図4は、本発明の第2実施例を示す断面図、図5は、本発明の第3実施例を示す断面図である。
【実施例1】
【0026】
本発明の第1実施例を示す図1において、抄紙機のプレスロール又はカレンダロール等に使用される金属製ロールシェル(例えば鋳鋼製ロールシェル)からなる基材1の表面に、下地層としたハステロイ層2を被覆し、その上にセラミック層3を被覆している。ハステロイ層2の被覆方法は、ロールシェル1の表面をショットブラストにより下地処理した後、ロールシェル1の表面にハステロイを溶射ガンで溶射して気孔率が0.1%以下の防食性のあるハステロイ層2を形成する。ハステロイ層2の層厚は200μmとしている。
【0027】
次にセラミック粉末をプラズマ溶接してセラミック溶射被膜層3を形成する。このようにして形成されたセラミック層3の表面に、合成樹脂、好ましくはエポキシ系樹脂又はシリコン系樹脂等の離型性を有する樹脂の溶液を減圧チャンバ内でスプレー等の手段により塗布する。
合成樹脂からなる封孔処理層4を形成する方法を図2及び3により説明する。図2及び3において、まず図2に示すように、抄紙機用ロール11のセラミック層が被覆された外周面の封孔処理を施す領域を減圧/加圧チャンバ12で覆い、矢印aのようにチャンバ内の空気を抜いて真空雰囲気とする。
【0028】
真空雰囲気の真空度は、1.3kPa〜1.3Paの範囲内の真空度にする。次に減圧/加圧チャンバ12で覆われた封孔処理すべきセラミック層3にスプレー等の手段によりエポキシ系樹脂又はシリコン系樹脂等の離型性を有する合成樹脂を塗布する。このとき合成樹脂が塗布されたセラミック層表面は、真空雰囲気であるので、セラミック層表面の塗布領域に気泡が混入しない。
次に減圧/加圧チャンバ12内に加圧空気bを入れて減圧/加圧チャンバ12内を加圧する。加圧値は0.1〜0.7MPaとする。
【0029】
減圧/加圧チャンバ12内を加圧することにより、セラミック層3の表面に塗布された合成樹脂をセラミック粒子間に含浸させる。このとき減圧/加圧チャンバ12内を15〜45℃の温度に保持する。減圧/加圧チャンバ12内を15〜45℃の温度に保持すると、合成樹脂の粘度が下がり、浸透性が良くなる。従って減圧/加圧チャンバ12内を15〜45℃の温度に維持しながら前記加圧値の範囲内で加圧すると、図1に示すように、セラミック層3の表層に合成樹脂の含浸層(封孔処理層)4が形成される。
【0030】
次に合成樹脂による含浸層4を乾燥させて硬化させる。かかる処理工程によってセラミック層3の表層部に強固な合成樹脂の封孔処理層4が形成される。さらに含浸層4の表面にセラミックを溶射してセラミック層5を形成する。
かかる構成の第1実施例によれば、セラミック層3及び5の間に封孔処理層4を形成したことにより、腐食性流体の浸透が封孔処理層4で阻止され、セラミック層3を浸透して基材1に到達することを防止することができる。
【0031】
また図1に示すように、ロール外表面にセラミック層5を形成しているので、セラミック層5の表面はセラミック粒子6による微細な気孔を形成している。このためロールに接触する紙ウェブに対して適度の付着性及び剥離性を付与することができる。従来抄紙機用ロールの剥離性を良くするためには、できるだけロール面を平滑にする必要があると考えられていた。そのため抄紙機用ロールに結晶に極めて微細な気孔を有し鏡面仕上げが可能な花崗岩質の天然ストーンロールが用いられていた。
【0032】
しかるに本発明者等は、長年の研究、実験等からロール表面を滑らかにするよりもむしろ微細な気孔を維持し、紙ウェブとロールとの間にその凹凸により若干の空隙をもたせたほうが紙ウェブの剥離性が向上するとの知見に達した。この知見に基づき、本発明方法によって、セラミック層表面にセラミック粒子の微細な気孔を残し、セラミック層の内部に封孔処理層4を形成することにより、ロールに対する紙ウェブの適度な付着性及び剥離性を付与せしめることを可能にしたものである。
【0033】
本発明法による封孔処理によって腐食環境から基材1等を遮断することに加え、電気防食法等を併用してもよい。電気防食法は、犠牲陽極を用いる流電陽極方式又は不溶性陽極を用いて外部から電気を流す外部電源方式のそちらか、あるいはこれらを組合せて実施してもよい。
【実施例2】
【0034】
次に本発明の第2実施例を図4により説明する。図4において、本実施例は、セラミック層の内部に2層の封孔処理層を形成したものである。即ち金属製ロールシェル(例えば鋳鋼製ロールシェル)からなる基材21の表面にハステロイ層22を被覆し、その上にセラミック溶射層23を形成する。セラミック溶射層23の表層部分に前記第1実施例と同様の方法で合成樹脂を含浸させて第1の封孔処理層24を形成する。
【0035】
第1の封孔処理層24の上にセラミックを溶射してセラミック層25を形成し、さらにその上に第2の封孔処理層26を前記と同様の方法で形成する。第2の封孔処理層26の表面にさらにセラミック層27を溶射してロール外表面を構成するセラミック層27を形成する。
かかる第2実施例によれば、セラミック層の中間に2層の封孔処理層を形成したことにより、さらに腐食性流体の遮断効果を向上させることができ、これによってロール基材1の防食効果を更に高めることができる。
【実施例3】
【0036】
次に本発明の第3実施例を図5により説明する。図5において、本実施例は、ハステロイ層32の表面に被覆されたセラミック層33のハステロイ層32に接する下層部分に封孔処理層34を形成したものである。封孔処理層34の形成方法は前記第1又は第2実施例と同一の方法で行なう。
このように第3実施例によれば、ハステロイ層32に接するセラミック層33の最下層部に封孔処理層34を形成したので、腐食性流体をこの封孔処理層34で遮断することができる。またセラミック層33の全厚を50〜200μmとすればよく、しかも封孔処理層を1層形成すれば済み、製造コストが低減できる利点がある。
【0037】
なお前記各実施例において、セラミック層のうち、合成樹脂を含浸させて封孔処理する層とロール表層を構成する層とで気孔率を変え、即ち封孔処理する層の気孔率を大きく取ることにより、封孔処理を容易にすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、従来使われていたストーンロールよりも強度及び耐性を増大させ、かつ表面平滑性等の表面特性を安定化させたセラミック被膜ロールに耐腐食性及び紙ウェブの剥離性を向上させた抄紙機用ロールを製造できるので、最近の紙ウェブの走行速度の増大にも対応できる長寿命の抄紙機用ロールを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施例の断面図である。
【図2】前記第1実施例の処理工程のブロック線図である。
【図3】前記第1実施例に使用される減圧/加圧チャンバ12の斜視図である。
【図4】本発明の第2実施例の断面図である。
【図5】本発明の第3実施例の断面図である。
【図6】従来のセラミック溶射層を有する抄紙機用ロールの断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1、21、31 基材(金属製ロールシェル)
2、22、32 ハステロイ層
3、5、23、25、27、33 セラミック層
4 封孔処理層
6、28、35 セラミック粒子
24 第1の封孔処理層
26 第2の封孔処理層
11 ロール
12 減圧/加圧チャンバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製ロールシェルの表面に下地層としてハステロイを被覆し、その上にセラミック層を被覆してなる抄紙機用ロールの製造方法において、
真空雰囲気中で前記セラミック層の表面にエポキシ系樹脂又はシリコン系樹脂からなる封孔処理剤を塗布するステップと、
その後前記セラミック層を15〜45℃の温度下で加圧雰囲気中に置くことにより、前記セラミック層に前記封孔処理剤を含浸させて封孔処理層を形成するステップと、
該封孔処理層の上にセラミックを溶射してセラミック層を形成するステップとからなる処理工程を1回又は複数回繰り返すことにより、前記セラミック層の内部に1層又は複数層の封孔処理層を形成することを特徴とする抄紙機用ロールの製造方法。
【請求項2】
金属製ロールシェルの表面に下地層としてハステロイを被覆し、その上にセラミック層を被覆してなる抄紙機用ロールにおいて、
前記セラミック層の内部にセラミック粒子間の空隙に合成樹脂からなる封孔処理剤を含浸させてなる封孔処理層を1層又は複数層形成したことを特徴とする抄紙機用ロール。
【請求項3】
ロール外表面を構成するセラミック層の厚さを50〜200μmとしたことを特徴とする請求項2記載の抄紙機用ロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−154361(P2007−154361A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−351591(P2005−351591)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】