説明

抄紙用ドライヤーカンバス

【課題】ワープループ継手で形成される共通孔へ芯線を容易に挿入でき、且つ、要求される様々な特性を満たすことのできる抄紙用ドライヤーカンバスを提供する。
【解決手段】経糸に透明及び不透明のモノフィラメントの双方を使用し、透明のモノフィラメント糸でループを形成する。これにより、共通孔へ芯線を挿入する際に、共通孔の外部から芯線の存在及び位置を視認することができるため、挿入作業を容易化することができる。また、不透明のモノフィラメント糸の経糸を用いることで、様々な要求特性を維持・付加することができ、また、光電式反射型断紙検知装置を配備した抄紙乾燥機にも対応できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆるワープループ継手を持つ抄紙用ドライヤーカンバス(以下、単に「カンバス」という)に関し、継手部の接合作業が容易かつ短時間で完了できるようにする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無端状で使用されるカンバスの継手としては、長手方向(経糸方向)の両端部で経糸を折り返してループを形成後、折り返した経糸を本体組織に織り込む、いわゆるワープループ継手(例えば、特許文献1参照)や、この両端部で折り返す経糸にスパイラル線を係止させたスパイラル継手(例えば、特許文献2及び3参照)が主流である。これら両端部のワープループまたはスパイラルループを突き合わせて噛み合わせ、このループの共通孔に接合用芯線を挿通することにより無端状とされる。
【0003】
前者のワープループ継手は、ループの大きさを小さく形成できて、湿紙にマーク付きなどを発生させにくく、またスパイラル線を介さず、本体経糸で形成したループ同士が直接結合するので、剛性のある、しっかりした接合が可能になるという利点を有する。一方、後者のスパイラル継手は、スパイラル線が予め機械的に成型されているので、ループの形状や大きさが揃って整然とした配列になるため、ループの噛み合わせや、接合用芯線の挿通抵抗が少なく、作業がスムーズに行えるという利点を有する。
【0004】
ところで、近年、紙質の高品質化、抄紙効率向上のための高抄速化、乾燥用熱の高容量化などの工程背景があるため、カンバス継手部では、ループの小型化及び強度確保のために、カンバス幅に対するループ幅の総和の割合(ループ幅占有率)の高率化が進んでいる。このようにループ幅占有率が大きくなると、特に抄紙幅の広いカンバスの継手接合時には、接合用芯線の挿通抵抗が高くなって芯線がスムーズに挿通できず、また、芯線挿入途中で芯線先端がループ側面につかえたり、前記ループの共通孔から飛び出すことも多くなって芯線挿通作業に手間がかかる。
【0005】
また、カンバスの経糸には、カンバス用途における付加機能、例えば、耐湿熱性、耐摩耗性、防汚性、導電性などの強化付与の目的で、モノフィラメント糸の製造時に無機・有機の調整物質が添加されたり、別材質の合成樹脂が混練された、白色系または有色の不透明のモノフィラメント糸が用いられていることが多い。上記のように、ループ幅占有率を高めた場合、挿入している芯線を抜き差ししながら挿入を進めることがあるが、ループを不透明の経糸で形成すると、このような調整作業時に、挿入する芯線が高密度に配されて噛み合ったループに隠れて目視できず、正常挿入されている範囲も把握できないため、一連の作業が困難を極める。
【0006】
この点に鑑み、特許文献2及び3に示されているスパイラル継手を有するカンバスでは、透明のスパイラル線を用いて、共通孔に挿通中の芯線の存在を外部から確認できるようにしている。
【0007】
【特許文献1】特開平8−311796号公報
【特許文献2】特開2001−104018号公報
【特許文献3】特表2007−510827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、紙質やカンバスの構成によっては、スパイラル継手を採用できない場合も多い。例えば、ループをきわめて小さくすることが要求される用途ではワープループ継手が適当であるし、また、比較的扁平度が高い経糸を用いて表面性を向上させたカンバスでは、経糸とスパイラル線のコイルの係止部が捻れるため採用できないことがある。
【0009】
ワープループ継手の場合、例えば経糸全てに透明のモノフィラメント糸を用いればループを透明とすることができるため、挿通中の芯線の存在を確認できる。しかし、透明のモノフィラメント糸の透明性を維持するためには、添加することができる材料が限定されるため、カンバスに要求される様々な特性を維持、付加することが困難となる。
【0010】
本発明の課題は、ワープループ継手で形成される共通孔へ芯線を容易に挿入でき、且つ、要求される様々な特性を維持、付加することのできる抄紙用ドライヤーカンバスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明は、合成繊維のモノフィラメント糸からなる経糸を用いて長尺織物を形成し、この長尺織物の端末の経糸の一部を折り返して織物の長手方向両端末に多数のループを形成し、この織物の両端末の前記ループを噛み合わせて出来る共通孔に接合用芯線を挿入し、無端状として抄紙乾燥機に使用する抄紙用ドライヤーカンバスであって、前記長尺織物の幅方向中央領域において、経糸に透明のモノフィラメント糸及び不透明のモノフィラメント糸を用い、少なくとも前記多数のループの一部を透明のモノフィラメント糸で形成したことを特徴とする。
【0012】
このように、本発明では、経糸に透明及び不透明のモノフィラメント糸の双方を使用している。このうち、透明のモノフィラメント糸でループを形成することで、共通孔へ芯線を挿入する際に、共通孔の外部から芯線の存在及び位置を視認することができるため、挿入作業を容易化することができる。一方、不透明のモノフィラメント糸の経糸を用いることで、カンバスに要求される様々な特性を維持、付加することができる。
【0013】
ここで、「長尺織物の幅方向中央領域」とは、カンバス全長にわたり概ね湿紙と接する領域であって、概ね湿紙と接しない耳部領域を除いた領域を指す。また、「ループ」とは、内部に接合用芯線を挿入したものを指す。また、「透明」とは、有色無色を問わず、フィラメント糸の向こう側の物体を視認できる程度の透明性を有することを言い、完全な透明だけでなく半透明も含む。また、「不透明」とは、透明でないこと、すなわち、フィラメント糸の向こう側の物体を視認できないことを言う。
【0014】
このようなカンバスにおいて、前記ループを形成する透明のモノフィラメント糸からなる経糸を長尺織物の幅方向に複数本散在配置させ、その他の経糸に不透明のモノフィラメント糸を用いれば、織物幅方向の複数箇所で透明のモノフィラメントが一連の不透明のモノフィラメント糸によるループ列の中で窓の役割を果たし、織物の全幅に亘ってその窓から芯線を確認しながら挿入作業を行うことができる。このような構成は、織物幅を大きくしたときに特に有効である。さらに、前記ループを形成する経糸及びこれに隣接する経糸を含む複数本の経糸に透明のモノフィラメント糸を用いてこれを組をとし、この組を長尺織物の幅方向に複数組散在配置させると、各窓の大きさを大きくすることができるため、芯線の挿入作業をさらに容易に行うことができる。
【0015】
このようなカンバスでは、織物の組織を、織物表面に露出し織物裏面に露出しない表面側経糸と織物裏面に露出し織物表面に露出しない裏面側経糸とを織物の厚さ方向で整合配置することにより対を成した二重経糸を構成し、この二重経糸が緯糸と交絡する組織を経糸所定本数ごとに長尺織物の幅方向にずらして配列した組織にすることがある。このとき、前記対をなした二重経糸のうち、少なくとも一部における一方の経糸に透明のモノフィラメント糸を用い、他方の経糸に不透明のモノフィラメント糸を用いれば、透明のモノフィラメントを用いた部分の二重経糸の不透明性を確保することができる。尚、「表面側」とは湿紙と接する側のことを言い、その反対側を「裏面側」と言う。
【0016】
このような構成は、例えば、前記長尺織物の組織を、繊度が大小異なる大繊度緯糸と小繊度緯糸の2種類の緯糸を1本ずつ交互に配列した緯単層とし、表面側経糸の織物幅方向寸法を裏面側経糸の織物幅方向寸法と同じかそれよりも大きくし、1対もしくは隣接する2対の二重経糸を前記小繊度緯糸にのみ交絡させ、それぞれ表面側と裏面側において前記大繊度緯糸2本と前記小繊度緯糸1本の計3本分長浮きさせ、かつ、織物幅方向で小繊度緯糸交絡位置を前記対の経糸単位で交互にずらしながら配列させた組織としたカンバスに適用することができる。尚、「隣接する2対の二重経糸」とは、前記1対の表裏の経糸がそれぞれ2本のモノフィラメント糸の引き揃えになっている状態を意味する。
【0017】
カンバスが配置される抄紙乾燥機には、湿紙の断紙を検出する光電式反射型断紙検知装置(以下、単に「断紙検知装置」という。)が設置される場合がある。この断紙検知装置は、湿紙(通常は白色あるいは淡色)とカンバスとを色彩により区別する装置であり、ドライヤーカンバスに添着走行する湿紙に投光し、その反射光を受光し、通紙時と断紙時との反射光の光量差を感知出来るようにして断紙を検知するようにした装置である。従って、カンバスのうち、断紙検知装置で検知される部分の色彩が湿紙の反射率に近づくと、同装置の誤作動や不作動が発生する恐れがある。カンバスに透明のモノフィラメント糸を用いた場合、透明に白色の濁り等があれば反射率が高くなり、湿紙とカンバスとの判別を誤る恐れがある。
【0018】
そこで、上記のように、カンバスの経糸に透明だけでなく不透明のモノフィラメントも用いることにより、カンバスの透明部分を減じれば、このような不具合が生じる恐れを低減できる。また、断紙検知装置により検知される部分に湿紙と区別できる色彩である不透明のモノフィラメント糸を配置すれば、前記不具合を確実に回避できる。例えば、分光反射曲線の380〜780nmの範囲の各波長における反射率が40%以下の色彩であるモノフィラメント糸を用いれば、カンバスの検知部と湿紙との反射率の差を十分に取ることができるため、断紙検知装置が誤動作する恐れを回避できる。
【0019】
参考として、図8に、本出願人の先の出願に係る特許第2558375号公報に記載された、カンバスの色彩の反射率測定試験結果より得られた分光反射曲線を示す。図8のうち、(a)は標準白板、(b)(c)は紺色カンバス、(d)は薄紺色カンバス、(e)は橙色カンバス、(f)は薄茶色カンバス、(g)は黒色カンバスの分光反射曲線を示している。この試験は、下記の分光測光器及び条件で測定したものである。
測色:JIS Z 8722 d−0 Sa 10W 10
日立製 607型カラーアナライザ
光源:ハロゲンランプ
標準の光:C
【0020】
図8によると、分光反射曲線の380〜780nmの範囲の各波長における反射率が40%以下の色彩は、(g)の黒色及び(f)の薄茶であり、これらであれば380〜780nmの何れの波長においても、通常の湿紙の色彩である(a)白色の反射率との間に十分に差があることが解かる。このような低反射率の不透明のモノフィラメント糸の色彩としては、黒や黒色系が最も無難なものとして知られており(上記特許2558375号公報参照)、その他の濃暗色も好適に採用することができる。
【0021】
ところで、上記ワープループ継手を有するカンバスでは、ループの形成性やループ形態保持性、接合用芯線に対する挿通抵抗などの点で、紡績糸や合成繊維のマルチフィラメント糸よりも合成繊維のモノフィラメント糸を用いることが好ましい。特に、透明のモノフィラメント糸としては、ポリエステルモノフィラメント糸が、実用上の耐熱性や強度、剛性を十分に有するため好ましい。 なお、このポリエステルモノフィラメント糸とは、ポリエステルを主体材質とするものであって、必ずしも単一材質であることを意味するものではなく、前述したような、モノフィラメント糸に種々の機能を付加する目的の物質を含有するものも含む。
【0022】
また、透明のモノフィラメント糸の織物幅方向の断面が扁平形状であると、断面円形や織物厚さ方向の寸法が大きい場合よりも糸厚みが薄くなって接合用芯線の視認性がさらに高まる。
【0023】
接合ループが高密度に配置された織物、具体的には、織物の全幅寸法に対して、織物の両端末に形成されたループの幅寸法の総和の占める割合であるループ幅占有率Rが65%以上であるカンバスでは、接合用芯線を挿通孔に挿入する作業が難しくなるため、本発明を適用して芯線の外部からの視認性を高めることが有効となる。尚、接合ループ幅占有率Rは、計算上は100%を超えることもあるが、実際に噛み合わせた状態のループが織物の全幅を超えることは無いため、計算上100%を超えるものは全て100%とみなす。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明によれば、ワープループ継手で形成される共通孔へ芯線を容易に挿入でき、且つ、要求される付加特性を満たすことのできるカンバスを得ることができる。加えて、光電式反射型断紙検知装置を配備した抄紙乾燥機に対応可能なカンバスを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
図1に、本発明に係るカンバスを模式的に示す。このカンバスは、合成繊維のモノフィラメントからなる経糸及び緯糸を用いて長尺織物を形成し、この長尺織物の長手方向両端末にいわゆるワープループ継手を有するものであり、図1に示すように、隣り合う4本の経糸を用いて1個の噛み合わせ用ループが作成される。カンバスの長手方向一方の端末において、隣接する経糸11から経糸14までの4本の経糸のうち、経糸11により接合用芯線Cを挿通するためのループAを形成した残糸を、経糸12の組織内に綴り込む。経糸12は、経糸11の挿入を受け入れる分だけ端末手前で切除されている。次に経糸13はベルト最先端の緯糸を周回保持し、反転後に経糸14の組織内に綴り込まれる。経糸14は、前記経糸12のように端末手前で切除されている。この処理を1単位としてカンバス幅方向に順次繰り返し、織物の一方の端末に複数のループAを形成する。同様にカンバスの長手方向他方の端末では、経糸13により複数のループA’を形成している。こうして、図1に示すように、経糸4本に対して1個の噛み合わせ用ループA、あるいはA’が形成されることになる。なお、同図では緯糸の図示は省略している。
【0027】
こうして織物の両端末にループA及びA’を形成した後、図2に示すようにループA及びA’を互いに噛み合わせて共通孔Bを形成し、この共通孔Bに接合用芯線Cを挿入することにより、長尺織物の両端末を連結して無端状とされる。
【0028】
ところで、図1に示すワープループ継手の作成例では、経糸4本当たり1本で継手ループを形成しているが、この場合において、仮に経糸の充填率(経糸の織物幅方向寸法×経糸総本数(カンバス表面側からの直視可能本数)÷織物全幅寸法×100%)を100%とした高密度の場合は、カンバス両端を突き合わせると、経糸4本分の幅に対してループが2個並ぶ。この場合、継手部全幅寸法Lに対する前記ループの幅の総和lの百分率(ループ幅占有率R=(l/L)×100)は、ループの幅を経糸の織物幅方向の断面寸法と見なすと50%となる。例えば、緯糸に乾熱収縮率の高い糸などを用いて、前記経糸充填率を130%(この場合のループ幅占有率は65%)以上に大きくした高密度のカンバスの場合、ループ間の隙間も非常に狭くなる。
【0029】
このように、ループ間の隙間が狭くなると、共通孔Bに芯線Cを挿入する際に芯線Cを外部から確認することが難しくなり、作業が非常に困難となる。そこで、ループA、A’を形成する経糸11、13に透明のモノフィラメント糸を用いれば、ループA、A’で形成される共通孔Bの内部に挿入する芯線Cを外部から確認することができるため、芯線Cの存在を確認しながら作業を容易に行うことができる。また、その他の経糸12、14に不透明のモノフィラメント(図1及び図2に散点で示す)を用い、これを実績のある従来糸のほか、機能強化のための各種添加剤を含む機能強化糸とすれば、カンバス用途に要求される様々な特性を満たすことができる。
【0030】
ワープループ継手の製作要領とその構成の一例としては前述したが、実際上は、その構成の変化形もあり得るのでこの構成に限るものではない。例えば、図1に示す経糸11〜14の並び順を変化させたり、織物幅方向の一部でループ形成を省略したり、またはループ形成を連続するなどの変則的な構成も含むものである。これらの経糸のうち、ループを形成する経糸の少なくとも一部に透明のモノフィラメント糸を用いることにより、本願課題が達成できる。したがって、本発明では、ループを形成するすべての経糸に透明のモノフィラメント糸を用いてもよいが、ループを形成する経糸の一部に透明のモノフィラメント糸を用い、それ以外の経糸には従来から用いられている白色、乳白色、灰色、赤色、黒色、青色など種々の不透明色モノフィラメント糸を用いてもよい。
【0031】
カンバスの幅方向両端に形成される耳部領域(図示省略)は、表面に湿紙が介在せず、高温の蒸気雰囲気で加熱されたドライヤーの表面に直接接触するので、表面に湿紙が介在する中央領域に比較して熱劣化の進行速度が一段と早くなることが避けらない。この対策として、両耳部領域には、耐熱性や耐湿熱性のさらに高い素材糸を用いるか、同機能を有する合成樹脂を塗布するなどの処理がしばしば行われる。このように、両耳部領域は別の機能構成を余儀なくされる場合があるため、本発明の構成から外している。本発明は、中央領域のみで接合用芯線の視認性向上が出来れば課題は十分達成されるので、両耳部領域の構成は自由に設計できる。
【0032】
本発明の実施形態は上記に限られない。図3に、本発明の他の実施形態に係るカンバスを模式的に示す。このカンバスは、長尺織物の組織を、織物表面に露出し織物裏面に露出しない表面側経糸21、23と織物裏面に露出し織物表面に露出しない裏面側経糸22、24とを織物の厚さ方向で整合配置することにより対を成した二重経糸を構成し、この二重経糸が緯糸32と交絡する組織を経糸所定本数ごとに長尺織物の幅方向にずらして配列した組織としたものである。詳しくは、長尺織物の組織を、繊度が大小異なる大繊度緯糸31と小繊度緯糸32の2種類の緯糸を1本ずつ交互に配列した緯単層とし、表面側経糸21、23の織物幅方向寸法W1を裏面側経糸22、24の織物幅方向寸法W2と同じかそれよりも大きくし(W1≧W2)、1対もしくは隣接する2対の二重経糸を小繊度緯糸32にのみ交絡させ、それぞれ表面側と裏面側において2本の大繊度緯糸31と1本の小繊度緯糸32の計3本分長浮きさせ、かつ、織物幅方向で小繊度緯糸32交絡位置を前記対の経糸単位で交互にずらしながら配列させた組織としたものである。尚、図1〜3では、それぞれの折り返し残糸の織り込み長を簡略化のため短く表示しているが、実際には、先端緯糸から多数本の緯糸と織り込み組織させている。
【0033】
この場合も、ワープループ継手の構成は経糸4本当たり1個のループが形成されるが、図3に示すように、表面側の経糸21を折り返して、真下の裏面側の経糸22の組織内に綴り込むことが出来るので、表面からの見かけ上は隣接経糸2本で1個のループAが出来る。なお、経糸23と24は、最先端の緯糸31aの保持に係ることを示している。
【0034】
この経糸二重組織のカンバスにおいて、前記経糸の充填率(この組織の場合、裏面に露出し表面に露出しない裏面側経糸22、24はカンバス表面側から直視できないので、算入しない)を100%とした場合、両端部の継手ループA、A’を噛み合わせると、一方の端部のループAの隙間が他方の端部のループA’により埋まって、ループ間に隙間のない、ループ幅占有率100%の継手が形成できる。
【0035】
このような組織はワープループ継手を作成する際に前述した継手部構成が可能となり、ループが接合用芯線の挿入方向に対し直角方向に形成されるので捻れず非常に好ましい。この組織でループ幅占有率を非常に大きくすると、挿入した接合用芯線がほとんど見えなくなるが、このような場合に本発明の効果が特に大きいものになる。
【0036】
以上のようなカンバスに用いる透明のモノフィラメント糸の構成比率は、カンバスのループ幅占有率や、ループの大きさ、継手部接合作業場所の環境などにより調整をすることが出来る。また、ループを形成する透明のモノフィラメント糸からなる経糸を、長尺織物の幅方向に複数本散在配置させ、その他の経糸に不透明のモノフィラメント糸を用いると、透明のモノフィラメント糸の使用を最小限の本数とすることができると共に、透明のモノフィラメントが一連の不透明のモノフィラメント糸によるループ列の中で芯線の通過や存在を確認できる窓の役割を果たすことができる。さらに、ループを形成する経糸及びこれに隣接する経糸を含む複数本の経糸に透明のモノフィラメント糸を用いてこれを組をとし、この組を長尺織物の幅方向に複数組散在配置させると、各窓の大きさを大きくすることができるため、芯線の挿入作業をさらに容易に行うことができる。
【0037】
なお、幅方向に散在配置する複数の組のそれぞれの経糸本数は、必ずしも同数とする必要はない。例えば、ループを形成する透明のモノフィラメント糸を織物幅方向で散在させる場合、その組間の間隔は200〜1000mm程度が好ましい。また、上記の組を形成する経糸本数は、カンバスの構成や接合現場状況に応じて設定すればよく、1〜10本程度が一つの目安であるが、この数値に限定するものではない。
【0038】
また、以上のようなカンバスは、光電式反射型断紙検知装置を備えた抄紙乾燥機に好適に用いることができる。このとき、カンバスのうち、少なくとも断紙検知装置により検知させる部分に配置される部分の不透明のモノフィラメント糸は、断紙検知装置が湿紙と区別できる色彩であることが好ましい。例えば、断紙検知器で分光測光器を用いて測色した場合、分光反射曲線の380〜780nmの各波長における反射率が40%以下の色彩とすることが目安であり、この色彩のモノフィラメント糸、好ましくは、黒色のモノフィラメント糸とすると、断紙検知装置が設置されている抄紙乾燥機にも対応可能なカンバスとなる。尚、上記では、分光反射曲線の波長を可視光の全範囲(380〜780nm)としているが、実際には断紙検知装置の光源の波長を狭い範囲で固定する場合がある。このとき、その光源の波長においてカンバスの受光部の色彩と湿紙の色彩が認識区別できればよいので、上記380〜780nmの範囲の中の一部で反射率が40%以下の色彩であれば、その特定光源とカンバス色彩の組み合わせで断紙が検知可能な場合がある。
【0039】
これらの色彩を呈する不透明のモノフィラメントを使用し、断紙検知装置が検知する部分に透明のモノフィラメント糸の経糸が位置しないように経糸を配置することで、カンバスの検知部分と湿紙との反射率差を大きくすることができ、断紙検知器の誤動作を防止できる。あるいは、同装置の検知部分に透明のモノフィラメント糸を配置する場合は、同装置が誤作動を起こさない程度の少数本となるよう織物設計をすることで、検知装置の誤動作を防止できる。
【0040】
また、前述した緯糸層が単層、かつ経糸二重組織では、透明のモノフィラメント糸を散在配置構成としてなくても、表面側経糸のすべてに透明のモノフィラメント糸を用い、裏面側経糸の全てに前記反射率が40%以下の、例えば黒色などの濃暗色の不透明色のモノフィラメント糸を用いると、裏面側の経糸色が表面側の透明経糸を透して投光を受けるので、前記断紙検知装置を設置した抄紙乾燥機に対応が可能になる。
【0041】
この場合、透明の継手ループの径を小さく形成することで、断紙検知装置が設置されている抄紙乾燥機であっても、同装置の誤動・不作動リスクは回避できる。この際に必要があれば、表面側経糸のループ形成後にカンバス本体に織り込む残糸部を不透明色に塗装すると継手周辺部まで本体同様の不透明性が確保出来る。
【0042】
また、上記の緯糸層が単層、かつ経糸二重組織において、表面側経糸にてループを形成し、透明のモノフィラメント糸(あるいは前記組)を前記長尺織物の幅方向に複数散在配置させ、これ以外の表面側経糸に黒色などの濃暗色の不透明色のモノフィラメント糸を用いる構成ももちろん可能である。この場合、前記裏面側経糸には、透明のモノフィラメント糸、不透明色のモノフィラメント糸のいずれのモノフィラメント糸でも使用可能である。
【0043】
ところで、透明のモノフィラメント糸は種々材質のものが市販されており、これを利用できる。その材質としては、ポリエステルが好ましいが、他に、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイドなど、またはこれら材質の2種以上を併用することができる。特にポリエステルは実用上の耐熱性や強度、剛性が十分であり、織物のカンバスに用いられる糸材質としては圧倒的に主流になっており、本発明の透明のモノフィラメント糸の材質としても好適である。
【0044】
また、本発明の透明モノフィラメント糸には、抄紙環境によっては、ポリエステルより優位な性能部分を活かして、ポリアミドやポリプロピレンを用いることも可能である。特に前者は耐摩耗性、後者は耐湿熱性に重点を置く場合に採用することがあるが、一方で前者は寸法安定性、後者は耐熱性・耐摩耗性の機能面でポリエステルより劣るため、適用は必要最小限とし、従来型の不透明のポリエステルモノフィラメント糸を主体とし、併用することが望ましい。
【0045】
なお、ポリフェニレンサルファイドは耐湿熱性、耐熱性に優れ、強度も十分であり、カンバスの材質として非常に好ましいが、比較的高価であることから、コストパーフォーマンスを考える場合は、例えば湿熱劣化しやすいカンバスの耳部付近などに限定的に用いればよい。もちろん、上述の構成の透明モノフィラメント糸として用いることも可能である。
【0046】
ただし、前述したように、透明とすることにより、カンバス適用糸としての付加機能が低下する場合があるので、従来型の不透明、例えば白色系、黒色系のモノフィラメント糸と併用することが望ましい。前記付加機能の低下を抑えた透明のモノフィラメント糸の場合は価格が上昇するが、そのコストを考慮する意味でも上記併用構成が望ましい。
【0047】
ところで、カンバスの表面側経糸が例えば黒色のような濃暗色になると、使用中のカンバスへの汚れ付着が点検しにくく、その汚れが湿紙に転写して問題となる場合がある。その際、一部経糸に透明のモノフィラメント糸(あるいは前記組)が散在するような構成にすると、その部分は暗色でなくなるので汚れを発見しやすい利点がある。さらには、同じく使用中に乾燥熱の局部負荷などにより、カンバスがわずかに変形したときでも、その複数の透明のモノフィラメント糸が、経糸方向(走行方向)に沿った直線ラインのとなるので、その変形が把握しやすく、トラブル原因が推察しやすい利点もある。
【0048】
また、前記経糸の織物幅方向の断面が扁平形状であると、断面円形やカンバス厚さ方向の寸法が大きい経糸の場合よりも、糸厚みが薄くなって接合用芯線の視認性がさらに高まる。元々扁平断面糸は、カンバス表面の平滑性を増すので、上質紙の乾燥に対応する目的でも用いられるが、本発明の効果も大きくなって好ましい。扁平形状糸の配置は、その長径がおよそカンバス幅方向となる配置とする。なお、扁平形状とは、楕円、長円、長方形、またはそのそれぞれの形状を主体にした変化形状が含まれる。
【0049】
本発明は、前記長尺織物の全幅寸法に対する、前記両端末のループ幅寸法の総和の百分率が実質的に65〜100%の範囲、特には90〜100%の範囲、すなわち、継手ループ間の隙間が狭いかもしくは無い場合に、特に有効であることは前にも述べたとおりである。
【実施例1】
【0050】
本発明の効果を、実施例と比較例とを用いて説明する。糸の材質、色彩、透明性を異ならせた実施例及び比較例に係るカンバスを用意し、これらのループ接合部に芯線を挿入した際、外部から芯線が目視できるかどうかを確認した。実施例及び比較例共に、図4に示す仕様表に示す組織を有し、経糸及び緯糸の繊度、断面形状、密度もほぼ同じに調整した。いずれも継手部は公知の継手織機で製作し、図3に示したような、ループ形成と先端緯糸周回保持が交互に配列する構成とし、ループ幅占有率は99%とした。
【0051】
接合用芯線は芯線本体を不透明白色のポリエステルモノフィラメント糸とし、その一端にリードワイヤーとしてステンレスの単線を接続し、先端は細く仕上げて、視認性を増すために赤色塗料を25mm程度塗布したものを使用している。図の写真では撮影範囲がリードワイヤー部のみとなっている。
【0052】
[実施例1]カンバス本体部の仕様は図4,継手部の仕様は図3の通りである。この組織は、表面に露出し裏面に露出しない表面側経糸と、裏面に露出し表面に露出しない裏面側経糸の2本を前記長尺織物表裏面に垂直方向で整合配置させて1対とし、この1対を交絡する緯糸をずらしながら織物幅方向に配列した組織であるが、すべての表面側経糸と緯糸にゴールド系色の半透明のポリフェニレンサルファイドのモノフィラメント糸を用い、すべての裏面側経糸に白色不透明のポリエステルモノフィラメント糸を用いている。
【0053】
その両端継手部のループを噛み合わせ、その共通孔に接合用芯線を通したときの写真を図5に示しており、芯線の存在はかなり明瞭に確認できる。ポリエステルモノフィラメント糸は本体裏側に位置し、継手手前で切除され、同切除部に表面側経糸を迎え入れている状況にあるため、同図では現れていない。
【0054】
[実施例2]カンバスの本体部及び継手部の仕様は実施例1と同じであるが、表面側経糸4本を組としてポリエステルモノフィラメント糸の半透明糸を用いており、各4本とも一端部はループを形成、他端部は緯糸周回保持の処理をしている。それ以外の表面側経糸には黒色不透明のポリエステルモノフィラメント糸を、裏面側経糸には白色不透明のポリエステルモノフィラメント糸を用いている。上記4本の組は、約50cmの間隔でカンバス幅方向に散在させている。
【0055】
その両端継手部のループを噛み合わせ、その一つの組を含む部分に接合用芯線を通したときの写真を図6に示しており、図6aは芯線挿入前、図6bでは、リードワイヤーの赤色塗装した先端が見え始め、図6cはその先端が通過中、図6dはリードワイヤーの胴部が通過している状態である。このようにリードワイヤーの赤色先端の通過とその存在が確認可能である。
【0056】
[比較例1]カンバスの本体部及び継手部の仕様は実施例1と同じであり、すべての経糸、緯糸共に不透明白色のポリエステルモノフィラメント糸を用いた従来型カンバスである。
【0057】
その両端の継手ループを噛み合わせその共通孔に接合用芯線を通したときの写真を図7に示した。接合用芯線がループ内に挿通された部分は全く視認できず、接合用芯線の挿通作業がスムーズに運ばないときには極めてその対応が困難である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係るカンバスのループ接合部を示す平面図である。
【図2】図1のカンバスのループを噛み合わせた状態を示す断面図である。
【図3】他の例に係るカンバスのループ接合部を示す平面図(a)、及び断面図(b)である。
【図4】実施例及び比較例に係るカンバスの仕様を示す表である。
【図5】実施例1のカンバス継手部への接合用芯線挿通開始時の写真である。
【図6】(a)〜(d)は、実施例2のカンバス継手部への接合用芯線挿通状況の接写写真である。
【図7】比較例1のカンバス継手部への接合用芯線挿通開始時の写真である。
【図8】カンバスの色彩の反射率測定試験結果より得られた分光反射曲線である。
【符号の説明】
【0059】
11〜14 経糸
21、23 表面側経糸
22、24 裏面側経糸
31 大繊度緯糸
32 小繊度緯糸
A ループ
B 共通孔
C 接合用芯線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維のモノフィラメント糸からなる経糸を用いて長尺織物を形成し、この長尺織物の端末の経糸の一部を折り返して織物の長手方向両端末に多数のループを形成し、この織物の両端末の前記ループを噛み合わせて出来る共通孔に接合用芯線を挿入し、無端状として抄紙乾燥機に使用する抄紙用ドライヤーカンバスであって、
前記長尺織物の幅方向中央領域において、経糸に透明のモノフィラメント糸及び不透明のモノフィラメント糸を用い、少なくとも前記多数のループの一部を透明のモノフィラメント糸で形成したことを特徴とする抄紙用ドライヤーカンバス。
【請求項2】
前記ループを形成する透明のモノフィラメント糸からなる経糸を、長尺織物の幅方向に複数本散在配置させ、その他の経糸に不透明のモノフィラメント糸を用いた請求項1に記載の抄紙用ドライヤーカンバス。
【請求項3】
前記ループを形成する経糸及びこれに隣接する経糸を含む複数本の経糸に透明のモノフィラメント糸を用いてこれを組をとし、この組を長尺織物の幅方向に複数組散在配置させ、その他の経糸に不透明のモノフィラメント糸を用いた請求項2に記載の抄紙用ドライヤーカンバス。
【請求項4】
前記長尺織物の組織を、織物表面に露出し織物裏面に露出しない表面側経糸と織物裏面に露出し織物表面に露出しない裏面側経糸とを織物の厚さ方向で整合配置することにより対を成した二重経糸を構成し、この二重経糸が緯糸と交絡する組織を経糸所定本数ごとに長尺織物の幅方向にずらして配列した組織とし、前記対をなした二重経糸のうち、少なくとも一部における一方の経糸に透明のモノフィラメント糸を用い、他方の経糸に不透明のモノフィラメント糸を用いた請求項1〜3の何れかに記載の抄紙用ドライヤーカンバス。
【請求項5】
前記長尺織物の組織を、繊度が大小異なる大繊度緯糸と小繊度緯糸の2種類の緯糸を1本ずつ交互に配列した緯単層とし、表面側経糸の織物幅方向寸法を裏面側経糸の織物幅方向寸法と同じかそれよりも大きくし、1対もしくは隣接する2対の二重経糸を前記小繊度緯糸にのみ交絡させ、それぞれ表面側と裏面側において前記大繊度緯糸2本と前記小繊度緯糸1本の計3本分長浮きさせ、かつ、織物幅方向で小繊度緯糸交絡位置を前記対の経糸単位で交互にずらしながら配列させた組織とした請求項4に記載の抄紙用ドライヤーカンバス。
【請求項6】
前記抄紙乾燥機が、湿紙の断紙を検出する光電式反射型断紙検知装置を備えたものである請求項1〜5の何れかに記載の抄紙用ドライヤーカンバス。
【請求項7】
前記光電式反射型断紙検知装置により検知される部分に、湿紙と区別できる色彩である不透明のモノフィラメント糸を配置した請求項6に記載の抄紙用ドライヤーカンバス。
【請求項8】
前記光電式反射型断紙検知装置により検知される部分の不透明のモノフィラメント糸が、分光測光器を用いて測色した場合、分光反射曲線の380〜780nmの各波長における反射率が40%以下の色彩である請求項6に記載の抄紙用ドライヤーカンバス。
【請求項9】
前記光電式反射型断紙検知装置により検知される部分の不透明のモノフィラメント糸が黒色である請求項7又は8に記載の抄紙用ドライヤーカンバス。
【請求項10】
前記透明のモノフィラメント糸が、ポリエステルモノフィラメント糸である請求項1〜9のいずれかに記載の抄紙用ドライヤーカンバス。
【請求項11】
前記透明のモノフィラメント糸の織物幅方向の断面が扁平形状である請求項1〜10のいずれかに記載の抄紙用ドライヤーカンバス。
【請求項12】
前記織物の全幅寸法に対して、織物の両端末に形成されたループの幅寸法の総和の占める割合であるループ幅占有率Rが、65%≦R≦100%の範囲内である請求項1〜11のいずれかに記載の抄紙用ドライヤーカンバス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−84741(P2009−84741A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255256(P2007−255256)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000238234)シキボウ株式会社 (33)
【Fターム(参考)】