説明

抄紙用ニードルフェルト

【課題】高い圧縮性を備え、優れた防汚性を発揮する抄紙用フェルトを提供する。
【解決手段】本発明の抄紙用フェルトは、
基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層と、
前記基層のプレス側の表面に形成された第2バット層と、
前記湿紙と直接接触するように前記第1バット層の湿紙側の表面に形成された湿紙接触繊維層とを備え、
前記湿紙接触繊維層は高分子弾性材に包含されており、
該高分子弾性材は抄紙用フェルトに付着する汚染物質と共に、前記湿紙接触繊維層から離脱することを特徴を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機のプレスパートに使用されるフェルトに関し、特に防汚性を具備して成る抄紙用フェルトに関する。更に詳しくは、抄紙用フェルトを構成するポリアミド繊維が抄紙工程で原料中に含まれる汚染物質(ガムピッチ、タール、リグニン、その他粘着性物質)や、タルク、クレーに代表される添料並びに水酸化アルミニウムに汚染される事を防止する技術に関する。
【技術背景】
【0002】
紙の原料から水分を除去する抄紙機において、成形(フォーミング)、プレス、乾燥の大きく分けて3つのパートにより水分が連続的に脱水される。
そして、それぞれのパートで脱水の機能に対応した抄紙用具が用いられている。
【0003】
プレスパートで使用されている抄紙用フェルトは、基体(主に織布)に短繊維バット(主として2〜50dtex)を積層し、ニードルパンチング等により植毛して構成されている。
【0004】
抄紙用フェルトの基本的な機能は、湿紙から水を絞る(搾水性)、湿紙の平滑性を高める、湿紙を搬送すると云った役割を果たしている。
とりわけ、抄紙用フェルト機能の中の湿紙から水を脱水する機能は重要視され、
一対のロール加圧を通過することにより、湿紙から水をフェルト移行し、フェルト中の水を系外に排出するために、フェルトの透過性と圧縮性の持続性が重要視されている。
【0005】
最近、環境保護の観点から古紙のリサイクルが進み、紙の原料に対するリサイクル原料の割合が増加している。しかしながら、リサイクル原料に含まれる汚染物質や添料は、抄紙用具に蓄積しさまざまなトラブルを引き起こしている。
【0006】
とりわけ、緻密な構造の抄紙用フェルトでは汚染物質や添料が充填し易く、使用期間を通じてこれらの物質がフェルト中に蓄積され、フェルトの透過性及び圧縮性が低下し、搾水性や湿紙平滑性を著しく低下せしめる。
【0007】
このようなフェルトの汚染に対処するため、抄紙機の稼動中、フェルトに高圧シャワーをかける洗浄や、抄紙機の稼動を停止して洗浄剤で洗浄する対策が取られてきた。このような対策はフェルトの短繊維に物理的な損傷を与えたり、洗浄剤により化学的な劣化を生じ、短繊維が抜け落ち紙に付着したり、短繊維の偏平化を促進することによりフェルト機能の低下を引き起こし、抄紙機の生産性を損なうものであった。
【0008】
この問題を解決する手法として、抄紙機で使用される抄紙用具に対して、古紙中に混在する汚染物質が付着しないような被覆に関する提案が成されている。
【0009】
汚染物質の付着を防ぐ方法として防汚成分にフッ素化合物を含む被覆を行う方法がある。(例えば、特許文献1、2参照)
【0010】
この場合、抄紙用フェルトに防汚成分としてフッ素化合物を含む被覆を行った場合、フェルトが疎水性となり、湿紙からフェルトへの水の移行が妨げられたり、湿紙とフェルトの密着性が低下し、湿紙を搬送する際に湿紙が剥がれ落ちてしまうという問題がある。
【0011】
また、汚染物質が付着しない方法として、熱硬化性樹脂中に防汚成分としてポリビニルピロリドン化合物や親水性ポリエステル等の親水性成分を含ませる防汚方法がある。(例えば、特許文献3、4、5参照)
【0012】
しかし、親水性の防汚成分に熱硬化性樹脂を混合して塗布し乾燥して親水性樹脂被膜を形成させ、持続性を高めた場合、フェルト中の短繊維間が熱硬化樹脂により固着されるので、使用期間中の抄紙用フェルトは硬く、圧縮性が低下してしまう等の問題がある。
【0013】
よって、本発明を構成する抄紙用フェルトの基本的な機能、即ち搾水性、湿紙平滑性、湿紙搬送性と云った機能を維持しつつ、フェルトの使用期間末期まで、防汚性を維持することは困難であった。
【0014】
【特許文献1】 特開平10−245788号公報
【特許文献2】 特開平6−65886号公報
【特許文献3】 特開平5−125685号公報
【特許文献4】 特開平9−105094号公報
【特許文献5】 特開2002−173886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、抄紙用フェルトの構成成分であるポリアミド繊維に対して、水系樹脂の乾燥固形物を高分子弾性材の被覆として形成し、該被覆が抄紙用フェルトに付着する汚染物質と共に、抄紙用フェルトから離脱することにより、抄紙用フェルトの汚染防止を行い、且つ抄紙用フェルトの圧縮性を阻害することなく長期にわたり防汚性を持続し、搾水性、湿紙平滑性、湿紙搬送性と云った機能をフェルトの使用期間中維持することを目的とするものである。
【問題点を解決するための手段】
【0016】
本発明では、抄紙機のプレスパートに設けられたプレス装置に配置され、当該プレス装置におけるプレスと共に一つのプレス機構を形成し、湿紙を挟持しながら前記プレスにより加圧され、それにより前記湿紙から搾り出された水分を吸収し放出する一対の抄紙用フェルトのうち少なくとも一方の抄紙用フェルトであって、
基層と、
前記基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層と、
前記基層のプレス側の表面に形成された第2バット層と、
前記湿紙と直接接触するように前記第1バット層の湿紙側の表面に形成された湿紙接触繊維層とを備え、
前記湿紙接触繊維層は高分子弾性材に包含されており、
該高分子弾性材は抄紙用フェルトに付着する汚染物質と共に、前記湿紙接触繊維層から離脱することを特徴とする抄紙用フェルトである。
【0017】
また、本発明の好適な高分子弾性材の包含する量は、湿紙接触繊維層に対して1重量%〜10重量%の前記高分子弾性材を含むことを特徴とした抄紙用フェルトである。
【0018】
そして、本発明の好適な高分子弾性材は水系樹脂からなることを特徴とする抄紙用フェルトである。
【0019】
本発明の水系樹脂は、合成樹脂エマルション樹脂または水溶性合成樹脂が使用できる。合成樹脂エマルション樹脂としてはウレタン系エマルション、酢酸ビニル系エマルション、スチレンーブタジエン系エマルション、アクリル系エマルションなど、エマルション樹脂の安定化のために保護コロイド、界面活性剤、粘度調整剤などが加えられており、水分の蒸発で粒子が合体して連続した被覆固形物になるものである。
水溶性合成樹脂としては水溶性アルキド樹脂、水溶性メラミン樹脂、水溶性尿素樹脂、水溶性フェノール樹脂、水溶性アクリル樹脂、水溶性エポキシ樹脂など、その分子中に親水基が導入されて水溶性になっており、特にカルボキシル基や水酸基を含有したものが好適に使用できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、湿紙接触繊維層に設けられた高分子弾性材である水系樹脂が、抄紙用フェルトに付着する汚染物質と共に、前記湿紙接触繊維層から離脱する特徴を有しており、高分子弾性材の被覆量は漸減するので、抄紙用フェルトの圧縮性を阻害することなく長期にわたり防汚性を維持し、搾水性、湿紙搬送性、湿紙平滑性といった諸機能を、フェルトの使用末期まで維持することができる。
【0021】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、本発明を実施するための最良の形態を添付の図面を参照して詳細を説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る好適な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
図1は本発明に係る抄紙用フェルト100の縦断面図である。
【0024】
図1に示されるように、抄紙用フェルト100は、基層11と、第1バット層12と、第2バット層13と、湿紙接触繊維層14と、を備える。より詳細には、基層11の湿紙側の表面に第1バット層12が形成され、基層11のプレス側の表面に第2バット層13が形成され、第1バット層12の湿紙側の表面に湿紙と直接接触するように湿紙接触繊維層14が形成されている。これら基層11、第1バット層12、第2バット層13および湿紙接触繊維層14は、ニードリングにより絡合一体化されている。
【0025】
基層11は、抄紙用フェルト100に強度を付与するためのものであり、例えば、耐摩耗性、耐疲労性、伸張特性および防汚性、等に優れたナイロン6、ナイロン66、等の合成繊維、羊毛等の天然繊維、等を素材とした織布または糸材を織らずに重ね合わせたもの、或いはフィルム状にしたもの、等を適宜用いることができる。本実施形態では、基層11として、織成されたものを採用している。
【0026】
第1バット層12及び第2バット層13は、6デシテックス(dtex)以上の繊度(一般的には、17デシテックス程度)のステープルファイバ15により形成された繊維層である。第1バット層12及び第2バット層13を形成する素材は、基層11と同様の素材が適宜用いられる。尚、第2バット層13は、抄紙用フェルト100に要求される特性に応じて省略してもよい。
【0027】
湿紙接触繊維層14を形成する繊維は、第1バット層12と同等か、それよりも細い繊度(例えば6デシテックス程度)のステープルファイバ16により形成された繊維層である。湿紙接触繊維層14を形成する素材は、第1バット層12と同様の素材が適宜用いられる。
【0028】
湿紙接触繊維層14は、その湿紙表面側から高分子弾性材20が含浸されている。具体的に、湿紙接触繊維層14は、1重量%〜10重量%の高分子弾性材20を含む。高分子弾性材20は、合成樹脂エマルション(すなわちウレタン系エマルションやエポキシ系エマルション等)や水溶性樹脂(すなわち水溶性アクリル樹脂や水溶性エポキシ樹脂等)等の水系樹脂を、ロールで塗布、或いはスプレーで吹き付けて湿紙接触繊維層14に含浸させた後、加熱して乾燥固形物にする。このとき、高分子弾性材20の含浸が湿紙接触繊維層14を包含し、かつ第1バット層12の内部で止まるように、含浸する量を調整する。
【0029】
このように構成される抄紙用フェルト100の標準的な一例の各構成要素の坪量は、湿紙接触繊維層14の坪量が200g/m、第1バット層12の坪量が400g/m、基層11の坪量が600g/m、そして第2バット層13の坪量が100g/mである。また、湿紙接触繊維層14には、5重量%(10g/m)の高分子弾性材20が含浸、被覆される。
【0030】
なお、高分子弾性材20の好適な含浸量は、水蒸発残渣分として、湿紙接触繊維層14の重量に対して1〜10重量%である。1重量%より少ない場合はフェルトの十分な防汚効果が得られず、10重量%より多い場合ではフェルトの透水性や圧縮性などの搾水機能を阻害するため好ましくない。
【0031】
上記の説明のとおり、本発明の抄紙用フェルトは、
基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層と、
前記基層のプレス側の表面に形成された第2バット層と、
前記湿紙と直接接触するように前記第1バット層の湿紙側の表面に形成された湿紙接触繊維層とを備え、
前記湿紙接触繊維層は高分子弾性材に包含されており、
該高分子弾性材は抄紙用フェルトに付着する汚染物質と共に、前記湿紙接触繊維層から離脱することを特徴を有するので、フェルト機能が低下したり抄紙機の稼動を中断することなく、長期のわたり防汚性を持続させることができる。
本発明の抄紙用フェルトによれば、古紙中に混在する汚染物質は湿紙接触繊維層に付着しても、次第に高分子弾性材の被覆と共に離脱するので、湿紙接触繊維層に汚染物質が蓄積することがなく、従って抄紙機の生産性を損なう事がない。
【実施例】
【0032】
本発明に係る抄紙用プレスフェルトの効果を確認すべく、以下のような実験を行った。
なお、実施例、比較例ともに諸条件を共通とするため、全てのフェルトの基本構成を次の通りとした。
基体(ナイロンモノフィラメントの撚糸を平織):坪量300g/m
湿紙接触繊維層(6デシテックスのナイロン6の短繊維):坪量200g/m
第1バット層(17デシテックスのナイロン6の短繊維):坪量400g/m
第2バット層(17デシテックスのナイロン6の短繊維):坪量が400g/m
針打ち密度:700回/cm
【0033】
(実施例1〜5)
表1に示すように抄紙用フェルト重量に対して湿紙接触繊維層に高分子弾性材として水系樹脂(ウレタン系エマルション)を含浸・付着し、乾燥後、一対のロール間で熱プレスして抄紙用フェルト全体の密度を0.50g/cm3一定にして、実施例1〜5の抄紙用フェルトを得た。
【0034】
(比較例1)
基本構成のフェルトに対して水を散布し、乾燥後、一対のロール間で熱プレスして抄紙用フェルト全体の密度を0.50g/cm3一定にして比較例1の抄紙用フェルトを得た。
【0035】
(比較例2)
表1に示すように抄紙用フェルト重量に対して湿紙接触繊維層に高分子弾性材として熱硬化性ウレタン樹脂を含浸・付着し、乾燥後、一対のロール間で熱プレスして抄紙用フェルト全体の密度を0.50g/cm3一定にして、比較例2の抄紙用フェルトを得た。
【0036】
以上の抄紙用フェルトを準備した後、図2に示される装置により実施例1〜5、比較例1〜2の抄紙用フェルトの圧縮性と防汚性の比較を行った。 まず、図2に示される実験装置は、一対のプレスロールPにフェルトFに一定の張力を掛けてフェルトFを回転させ繰り返しプレスする装置である。シャワーノズルSからは人工汚染液を散布して、フェルトの防汚性を評価した。
【0037】
人工汚染液とは、ピッチ系汚れとしては新聞抄造工程のプレスパートに設置されている、サクションボックスリップに堆積したパルプピッチ固形物を乾燥させた後に、ピッチ固形物100部に対してエチルアルコール/ベンゼンの1対1混合溶剤1部で抽出し、抽出液(上澄液)を100部の水で希釈しながら、ホモジマイザーで懸濁液(人工汚染液)を作成した。この懸濁液をシャワーノズルSから散布して、フェルトの防汚性を評価した。この人工汚染液によるフェルトの汚染量を表1の汚れ量1で表した。
【0038】
また添料系汚れとしては、タルク2%懸濁液に硫酸アルミニウムを溶解させてPH5に調整し、この懸濁液をシャワーノズルSから散布して、フェルトの防汚性を評価した。この人工汚染液によるフェルトの汚染量を表1の汚れ量2で表した。
【0039】
実験装置の駆動条件は、プレス圧力が100kg/cm、フェルト駆動速度は500m/分で、懸濁液をシャワーノズルSから散布しながら100時間継続して行われた。
なお、計測に当たっては、実験開始直後の数値と、実験終了時の数値とをそれぞれ求めた。また、圧縮率はフェルトに一定の加圧(30kg/m)を掛けた時の厚みを求め、次式によって求めたものである。
圧縮率(%)=100×(加圧前の厚み−加圧厚み)/加圧前の厚み
また、汚れ量1,2は、試験後の抄紙用フェルトを洗浄し、洗浄前後のフェルトの重量変化割合から算出したものである。
以上の項目の試験結果を表1に示す
【0040】
実施例1〜4は新品時および試験後でも高い圧縮性を備え、フェルト繊維表面に付着する水系樹脂の被覆は汚染物質と共に離脱するので、優れた防汚性を発揮することが確認された。
実施例5は新品時の付着率が多いため、初期の圧縮率が低くなっているが、付着樹脂は試験中に人工汚染物質と共に離脱するので、試験後の圧縮率と優れた防汚性を発揮することが確認された。
比較例1は汚れ量が多く、試験後の圧縮率が低いので抄紙用フェルトとしての機能は悪くなる。
比較例2は熱硬化性樹脂に人工汚染物質が付着し蓄積するので、試験後の圧縮率は低く防汚性が悪いことが確認された。
以上のとおり、本発明によると抄紙用フェルトは、表1のように高い圧縮性を備え、フェルト繊維表面に汚染物質と共に離脱することができる水系樹脂の被覆を有しているために、優れた防汚性を発揮することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の抄紙用フェルトの概略を示す断面図である。
【図2】本発明の実験装置の概略図である。
【符号の説明】
【0042】
11:基層
12:第1バット層
13:第2バット層
14:湿紙接触繊維層
15:ステープルファイバ
16:ステープルファイバ
20:高分子弾性材
100:抄紙用フェルト
200:実験装置
F:抄紙フェルト
P:プレスロール
S:シャワーノズル
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙機のプレスパートに設けられたプレス装置に配置され、当該プレス装置におけるプレスと共に一つのプレス機構を形成し、湿紙を挟持しながら前記プレスにより加圧され、それにより前記湿紙から搾り出された水分を吸収し放出する一対の抄紙用フェルトのうち少なくとも一方の抄紙用フェルトであって、
基層と、
前記基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層と、
前記基層のプレス側の表面に形成された第2バット層と、
前記湿紙と直接接触するように前記第1バット層の湿紙側の表面に形成された湿紙接触繊維層とを備え、
前記湿紙接触繊維層は高分子弾性材に包含されており、
該高分子弾性材は抄紙用フェルトに付着する汚染物質と共に、前記湿紙接触繊維層から離脱することを特徴とする抄紙用フェルト。
【請求項2】
前記湿紙接触繊維層が、1重量%〜10重量%の前記高分子弾性材を含むことを特徴とする請求項1に記載した抄紙用フェルト。
【請求項3】
前記高分子弾性材が水系樹脂からなることを特徴とする請求項1と2に記載した抄紙用フェルト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−177380(P2007−177380A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−381172(P2005−381172)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】