説明

抄紙用フェルト洗浄剤及びそれを用いる抄紙用フェルト洗浄方法

【課題】発泡が少なく、より強力な有機物の除去作用を有する抄紙用フェルト洗浄剤及びそれを用いる抄紙用フェルト洗浄方法を提供する
【解決手段】
炭素数8〜24のアルキル基またはアルケニル基と、酸化エチレン鎖を有するエーテル化合物、あるいはエステル化合物において、その酸化エチレン鎖に、さらに酸化プロピレンを1〜10モル含む構造を有する界面活性物質を有効成分として含有することを特徴とする抄紙用フェルト洗浄剤及びそれを用いる抄紙用フェルト洗浄方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製紙工業の抄紙工程で使用される抄紙用フェルトの洗浄剤及びそれを用いる抄紙用フェルト洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製紙工程は、パルプ調成、抄造、脱水、乾燥等の工程から構成されている。パルプは抄造工程の抄き網部において大部分の水が取り除かれて湿紙となるが、この湿紙は、なお多くの水分を有している。このまま加熱乾燥をするには、多量の蒸気を必要とするので、乾燥工程の手前に脱水工程を設け、プレス脱水の後、乾燥工程へ送られる。該脱水工程は、主にプレスロールとフェルトの組合せからなり、フェルトに載せられた湿紙は、2つのプレスロールの間を通過することによって、プレス脱水される。プレスにおける脱水は、フェルトの搾水性に大きく依存しており、フェルトに汚れが付着していると、十分な脱水が行なわれず、また均一な脱水ができなくなり、乾燥工程(ドライヤー工程)での乾燥に要するエネルギーが増えたり、また紙切れを起こしたりする原因となる。従って、脱水工程で用いられる抄紙用フェルトを常に清浄な状態に保つことは、生産性を向上させる上で極めて重要である。
【0003】
一般的に、抄紙用フェルトの汚れは、アルミニウム塩、カルシウム塩などの無機塩や填料由来の無機物と、木材由来の樹脂酸や古紙原料由来の天然ゴムや各種合成樹脂系粘着剤・接着剤などの有機物が複合している。
【0004】
そこで、従来の抄紙用フェルトの洗浄剤では、無機物の汚れに対しては、塩酸、硫酸、スルファミン酸などの無機酸、キレート作用を有するEDTA(エチレンジアミン四酢酸のナトリウム塩)やクエン酸、リンゴ酸、酒石酸などの有機酸、その他、ホスホン酸などが多用され、有機物の汚れに対しては、各種の界面活性剤が用いられていた。
【0005】
無機物と有機物の複合汚れに対応して、ホスホン酸と陰イオン系界面活性剤又は非イオン系界面活性剤を組合せた洗浄剤(特許文献1参照)や、カルボン酸と非イオン系界面活性剤を組合せた汚れ除去方法(特許文献2参照)などが提案されており、これらの文献で用いられている界面活性剤は高級アルコールの酸化エチレン付加物、エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック共重合体などである。
【0006】
しかし、近年の古紙原料使用量および回収水使用量の増加により、抄紙用フェルトの汚れ成分の比率は、有機物主体となりつつあり、相対的に無機物の割合は低下している。また、無機物は粘着性有機物を介してフェルト等の抄紙用具に付着している場合が多く、有機物の洗浄除去を徹底すれば、無機汚れも減少する。
【0007】
このような最近の抄紙用フェルトの汚れの変化に対して、従来から使用されている界面活性剤の添加量増による対応も試みられているが、高級アルコールの酸化エチレン付加物などでは、添加量を増しても洗浄効果が向上しにくく、むしろ添加量を増したことによる発泡問題に起因する操業上の問題を引き起こす可能性が高かった。
そのため、発泡等の問題が少なく、より強力な有機物の除去作用を有する抄紙用フェルト洗浄剤が強く望まれている。
【0008】
【特許文献1】特開平4−202299号公報
【特許文献2】特開2005−226180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような有機物汚れの増加と、それに対応する洗浄剤の添加量増が引き起こす発泡問題は、操業上の大きな課題である。本発明は、発泡が少なく、より強力な有機物の除去作用を有する抄紙用フェルト洗浄剤及びそれを用いる抄紙用フェルト洗浄方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、抄紙用フェルトを清浄な状態に保つ洗浄剤について、鋭意検討した結果、疎水部位として特定の炭素数範囲のアルキル基またはアルケニル基と、親水部位として特定のモル数の酸化エチレン鎖を有した界面活性物質において、その酸化エチレン鎖中に特定範囲のモル数の酸化プロピレンを含有させた場合に、より優れた有機物汚れの洗浄効果を示し、また発泡性も小さいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、請求項1の発明は、炭素数8〜24のアルキル基またはアルケニル基と、酸化エチレン鎖を有するエーテル化合物、あるいはエステル化合物において、その酸化エチレン鎖に、さらに酸化プロピレンを1〜10モル含む構造を有する界面活性物質を有効成分として含有することを特徴とする抄紙用フェルト洗浄剤である。
【0012】
請求項2の発明は、前記酸化エチレンの付加モル数が1〜40モルである請求項1に記載の抄紙用フェルト洗浄剤である。
【0013】
請求項3の発明は、前記酸化エチレンの付加モル数が1〜20モルである請求項1に記載の抄紙用フェルト洗浄剤である。
【0014】
請求項4の発明は、製紙工程における脱水工程のシャワー水系に、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の抄紙用フェルト洗浄剤を添加することを特徴とする抄紙用フェルト洗浄方法である。
【0015】
請求項5の発明は、水温が30〜60℃である、製紙工程における脱水工程のシャワー水系に、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の抄紙用フェルト洗浄剤を添加することを特徴とする抄紙用フェルト洗浄方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の抄紙用フェルト洗浄剤及びそれを用いる抄紙用フェルト洗浄方法によれば、製紙工業の抄紙工程で使用される抄紙用フェルトの汚れに対し、十分な洗浄効果を有し、該抄紙用フェルトを常に清浄な状態に保持することができる。その結果、フェルトの汚れに起因する操業性の低下を防ぎ、製品の品質不良を無くすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の抄紙用フェルト洗浄剤の有効成分である前記界面活性物質は、疎水部位である炭素数8〜24のアルキル基またはアルケニル基と、親水部位である酸化エチレン鎖に、さらに酸化プロピレンを含む構造を持つエーテル化合物、あるいはエステル化合物である。
【0018】
該界面活性物質の疎水部位である炭素数8〜24のアルキル基またはアルケニル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。このようなアルキル基の例としては、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ミリスチル基、セチル基、ステアリル基、アラキジル基、ベヘニル基、テトラドコサイル基、イソステアリル基、大豆アルキル基、牛脂アルキル基、ヤシアルキル基などが挙げられ、アルケニル基の例としてはオレイル基、リノール基などが挙げられる。なお、炭素数8未満のアルキル基またはアルケニル基では洗浄能力が低下し、炭素数24を超える場合は水への溶解性が低下するために、結果として洗浄能力が低下する。
【0019】
該界面活性物質の親水部位として疎水部位に付加される酸化エチレンは、分子全体として界面活性を有するに足ることができれば、その付加モル数は限定されるものではない。炭素数8から24のアルキル基またはアルケニル基に対する、一般的な酸化エチレンの付加モル数は、1から40程度であるが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、酸化エチレンの付加モル数が、この範囲を越えて著しく多い場合は、洗浄力が低下する傾向にある。
【0020】
該界面活性物質の酸化エチレン鎖に、さらに付加される酸化プロピレンの付加モル数は、1から10モルである。付加される酸化プロピレンの付加モル数が、10モルより多いと、界面活性が低下し、抄紙用フェルトの洗浄剤として供した場合は、十分な洗浄効果が得られない。また、酸化エチレン鎖に含まれる酸化プロピレンの付加形態は、ブロック状でもランダム状でもよい。
【0021】
該界面活性物質は、例えば株式会社ADEKAから高級アルコール系界面活性剤として市販されている、アデカトールLBシリーズなどを使用することができる。
【0022】
本発明の該界面活性物質は、水溶液または親水性溶媒に溶解した溶液として、抄紙用フェルト洗浄剤を調製することができる。該界面活性剤と水または親水性溶媒との割合に特に制限は無く、溶液の状態となれば良い。
【0023】
さらに、対象とする汚れの状況によっては、無機酸、有機酸、キレート剤やホスホン酸のような無機物汚れに対応する成分を、本発明の界面活性物質と併用あるいは配合しても良い。
【0024】
また、本発明の抄紙用フェルト洗浄剤の使用方法は、製紙工程における脱水工程のシャワー水系に、該抄紙用フェルト洗浄剤を添加することを特徴とし、主としてフェルトの汚れを除去あるいは汚れの付着を防止するために、フェルト用薬品洗浄シャワーに圧入することを基本とする。ただし、フェルトの汚れは、フェルト周辺の抄紙用具、例えばサクションボックスやロールを介することもあるため、サクションボックス手前の潤滑シャワーや、ロール洗浄シャワーに適用しても良い。これらシャワー水への添加量は、汚れの程度によって適宜変えることができるが、一般的な濃度としては本発明の界面活性物質として1〜5000mg/Lであることが好ましい。
【0025】
本発明の抄紙用フェルト洗浄剤を添加する該シャワー水の水温は30〜60℃が好ましく、さらに好ましくは40〜50℃である。水温が30℃より低い場合は、本発明の抄紙用フェルト洗浄剤の有効成分である前記界面活性物質の、フェルトの有機物汚れに対する浸透速度が遅くなり、洗浄効果が低下する。また、水温が60℃より高い場合は、該界面活性物質の曇点を上回るので、該界面活性物質の洗浄効果が発揮されなくなる。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
試験1(洗浄率試験方法)
古紙原料の配合割合が多い中性中質紙の製造を行なっている抄紙工程から採取した抄紙用フェルトを、10cm×20cmの大きさに切って、試験用のフェルトとした。このフェルトを、40℃に調整した本発明の界面活性物質を所定濃度含むフェルト洗浄剤溶液に1時間浸漬した。次に、このフェルトを取り出し、クロロホルムを抽出溶媒としてソックスレー抽出装置で5時間抽出し、抽出物を樹脂汚れ残分(B)gとした。洗浄前のフェルト中の樹脂汚れ分(A)gを、別途測定しておき、下式により洗浄率を求めた。試験結果を表1に示した。
洗浄率(%)={(A−B)/A}×100
【0028】
試験2(発泡性試験方法)
共栓付500mlメスシリンダーに、所定濃度の本発明の界面活性物質を含んだ水溶液を100ml入れ、栓をした後に上下に強く10回振とうさせた直後の泡高さ(mm)を測定した。測定結果を表1に示した。
【0029】
試験3(洗浄液温による洗浄率試験方法)
試験1と同じ試験方法であって、本発明の界面活性物質を所定濃度含むフェルト洗浄剤溶液の液温を40℃の代わりに、10℃、20℃、30℃、50℃、60℃、70℃にそれぞれ調整した試験を行った。試験1と同様に洗浄率を求め、試験結果を表2に示した。
【0030】
【表1】

【0031】
表1の結果から、本発明の抄紙用フェルト洗浄剤溶液で洗浄した供試フェルト(実施例1〜12)では、いずれも洗浄率は50%以上であり、発泡高さは、50mm以下であった。一方、従来から使用されている界面活性剤である、高級アルコールの酸化エチレン付加物(比較例1〜4、6〜10、12)、高級脂肪酸の酸化エチレン付加物(比較例13)、エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック共重合体(比較例14)や、化学構造は本発明で用いる界面活性物質と同じであるが、酸化プロピレン付加モル数が本発明の特定範囲から外れている化合物(比較例5、11)を含む溶液で洗浄した供試フェルトでは、いずれも洗浄率は50%以下であった。また、発泡高さもほとんどが、50mm以上であり、50mm以下であった比較例1、5、6も洗浄率が50%以下であった。
従って、本発明の抄紙用フェルト洗浄剤及びそれを用いる抄紙用フェルト洗浄方法によれば、従来品に比べて、より多くの抄紙用フェルトの有機物汚れを除去でき、かつ、発泡も少ないことが示された。
【0032】
【表2】

【0033】
表2の結果から、本発明の抄紙用フェルト洗浄剤溶液の液温が、30℃、40℃、50℃、60℃の場合(実施例15〜18、21、24)は、液温が10℃、20℃、及び70℃の場合(実施例13、14、19、20、22、23、25)に比べて、洗浄率が高い。従って、水温が30〜60℃である、製紙工程における脱水工程のシャワー水系に、本発明の抄紙用フェルト洗浄剤を添加することで、高い洗浄効果が得られることが示された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数8〜24のアルキル基またはアルケニル基と、酸化エチレン鎖を有するエーテル化合物、あるいはエステル化合物において、その酸化エチレン鎖に、さらに酸化プロピレンを1〜10モル含む構造を有する界面活性物質を有効成分として含有することを特徴とする抄紙用フェルト洗浄剤。
【請求項2】
前記酸化エチレンの付加モル数が1〜40モルである請求項1に記載の抄紙用フェルト洗浄剤。
【請求項3】
前記酸化エチレンの付加モル数が1〜20モルである請求項1に記載の抄紙用フェルト洗浄剤。
【請求項4】
製紙工程における脱水工程のシャワー水系に、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の抄紙用フェルト洗浄剤を添加することを特徴とする抄紙用フェルト洗浄方法。
【請求項5】
水温が30〜60℃である、製紙工程における脱水工程のシャワー水系に、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の抄紙用フェルト洗浄剤を添加することを特徴とする抄紙用フェルト洗浄方法。