説明

抄紙用フェルト

【課題】 抄紙機での搾水性(水透過性)や偏平化に対する耐久性が良く、しかも湿紙平滑性や耐脱毛性に優れた抄紙用フェルトを提供する。
【解決手段】 抄紙用フェルトの基体の湿紙側に配置される機械走行方向(MD)糸または機械横断方向(CMD)糸の少なくとも一方の糸が、繊度100dtex以下のフィラメントを複数本収束した、実質的に無撚或いは無撚に近く緩く撚られたマルチフィラメント糸からなる織布を用いた抄紙用フェルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機械に使用される抄紙用フェルト(以下、単に「フェルト」と称することがある。)に関する。詳しくは、抄紙機のプレスパートで加圧されて湿紙シートから水分を搾る働きをする抄紙用フェルトに関するものである。
【0002】
本発明の目的は、搾水性及び湿紙平滑性が良好で、しかも短繊維ウエッブの耐脱毛性に優れた抄紙用フェルト、特に抄紙機の高速走行に適した湿紙平滑性の良い抄紙用フェルトを提供することにある。
【背景技術】
【0003】
抄紙機の抄紙工程は、大きく分けて成形(フォーミング)、プレス、乾燥の3つのパートからなり、水分が連続的に取り除かれる。夫々のパートにおいて、脱水機能に対応した抄紙用具が使用されている。プレスパートにおいては、抄紙用フェルトが使用されている。
【0004】
従来、抄紙用フェルトは、湿紙から水を搾る(搾水性)、湿紙の平滑性を高める(平滑性)、湿紙を搬送する(湿紙搬送性)と云った役割を果たしており、フェルトの基本的な機能として、これらのすべてがバランスしていなければならない。
【0005】
湿紙中の水分は、湿紙が一対のプレスロール間を通過する際、加圧によりフェルトに移行し、フェルト裏面側から排出されるか、抄紙機のサクションボックスで吸引され、フェルト系外に排出される。この為、フェルトにとって重要なことは、水透過性と、加圧により圧縮されたフェルトが除圧時には偏平化することなく回復する機能(耐偏平化性)である。そして、これらの機能は、使用初期からの持続性も重要である。
【0006】
通常の抄紙用フェルトでは、織成された織布と該織布に短繊維ウエッブをニードルパンチの技法で植毛するバットオンベース又はバットオンメッシュタイプが主流である。最近は、高速抄紙機のためのバットオンメッシュタイプが好適に使用され、湿紙平滑性と短繊維ウエッブの耐脱毛性が重要視されている。
【0007】
図1により、一般的なフェルトの構成を説明する。抄紙用フェルト10は無端状に形成されており、織布等からなる基体20と、基体20にニードルパンチで絡合一体化された短繊維ウエッブ(ステープルファイバー)層30とからなる。基体20は、フェルト10の機械的強度を発現させるためのものであり、図1においては、機械走行方向(MD)糸50と機械横断方向(CMD)糸40とを織成して得られた織布が使用されている。
【0008】
フェルト10は、前述した通り、抄紙機のプレスパート(図示せず)において使用される。その際、フェルト10は複数のガイドロールに張力を掛けられ配置される。そして、一対のプレスロール、又はプレスロールとシューとによって構成されるプレス部において、湿紙とともに高い圧力が加えられることにより搾水する。なお、フェルト10は、プレスロールの回転に追随して走行するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
フェルトの使用環境は、紙の生産性向上に起因した抄紙機の運転速度の高速化や、プレスパートにおけるロールプレス又はシュープレスの高圧化等に伴い、近年ますます苛酷なものとなっている。その結果、高加圧下において抄紙用フェルトが偏平化し、水透過性や耐偏平化性が低下する等、搾水性が著しく低下する間題があった。
また、同時に、抄紙機の高速化に伴い短繊維ウエッブの脱毛が顕在化していることから、紙質への影響が懸念されている。
したがって、フェルトの要求機能として先に挙げた水透過性並びに耐偏平化性による搾水性の持続、及び短繊維ウエッブの耐脱毛性については、一層高レベルの性能が求められている。
【0010】
この問題を解決するために、様々な提案がなされている。例えば、基体部分の比率を高めてフェルトの偏平化を防ぐという提案がある。基体部分の比率を高める方法としては、特許文献1,2に開示されているように、袋織等による無端状の基布、又は有端状の基体の両端を継ぎ合わせて無端状にした基布を複数反重ね合わせて短繊維ウエッブを積層した後、ニードリングにより絡合一体化して製造する方法がある。
【0011】
一方、抄紙機での使用において、フェルト構造体は圧縮/回復を繰返しながら次第にその厚みを減じる。即ち、フェルト構造体における短繊維ウエッブ層が偏平化し、脱毛し易くなることが一般的に知られている。これは、フェルト構造体のうち、基体よりも繊度の細い短繊維ウエッブが、繰返しの圧縮と摩擦の作用で擦り減ったり切断されるためである。通常のフェルトではステープルファイバー(短繊維ウエッブ)は1〜50dtex、好ましくは3〜30dtexのものが使用されている。そこで繊度がこれより太いステープルファイバーを使用したり、短繊維ウエッブ層の少ないフェルトにすると、フェルトの偏平化と脱毛性は抑制される反面、湿紙平滑性を満たすことができなくなる。
【0012】
湿紙平滑性を改善するような従来の技術としては、例えば特許文献1のようなものがある。これは、2枚以上の重ね合わせ織物の中間に、糸を互いに略平行に横方向にのみ配列した不織布を挿入するフェルト構造体である。挿入された不織布は織布のナックル部(MD糸とCMD糸とが織り成す糸の浮き沈み)やMD糸が湿紙平滑性に影響するのを回避する役割を有する。しかしながら、このような不織布を用いた構造体はフェルトの坪量が重くなるため、搾水性や掛け入れ性を悪化させるという欠点があった。
【0013】
また搾水性の向上のために、マルチストランド糸を使用する提案がある。例えば特許文献3によれば、抄紙用フェルトの織布においてマルチストランド糸が互いに加撚したフィラメントを複数含み、かつ該フィラメントが0.04mm〜0.18mmの直径を有するもので、布の水透過性が改善されるものであった。しかしながら、該フィラメントは加撚されて剛性の高い糸となるから、湿紙平滑性の面で問題があった。
【0014】
【特許文献1】特開2003−13385号
【特許文献2】特開平6−280183号
【特許文献3】特開平8−260378号
【0015】
本発明は、上述した欠点をなくし、抄紙機での搾水性(水透過性)や偏平化に対する耐久性が良く、しかも湿紙平滑性や耐脱毛性に優れた抄紙用フェルトを提供することを目的とする。
【0016】
本発明の発明者は、これらの目的に適合するフェルトの構造について検討した結果、基体の湿紙側に配置されたMD糸またはCMD糸の少なくとも一方の糸が、繊度100dtex以下のフィラメントを複数本収束した、実質的に無撚または緩く撚られたマルチフィラメント糸からなる基体を使用することにより、前記目的が達成されることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0017】
すなわち本発明は、抄紙用フェルトの基体の片面又は両面に短繊維ウェッブを積層してニードリングにより絡合一体化してなる抄紙用フェルトにおいて、前記基体の湿紙側に配置されるMD糸またはCMD糸の少なくとも一方の糸が、繊度100dtex以下のフィラメントを複数本収束した、実質的に無撚のマルチフィラメント糸からなることを特徴とする抄紙用フェルトである。
【0018】
また本発明では、前記マルチフィラメント糸が、好ましくは1m当たり1〜50回、更に好ましくは1m当たり1〜30回の撚り数の、緩く撚られた撚糸を使用することができる。
【0019】
更に本発明では、前記基体が、同種又は異種の2枚以上の織成された織布、或いは織成された三重織りの織布を使用することができる。
【0020】
本発明においては、基体を構成する織布の湿紙側に配置されるMD糸またはCMD糸の少なくとも一方の糸が、繊度100dtex以下のフィラメントを複数本収束した、実質的に無撚のマルチフィラメント糸を好適に使用することができるため、織布の湿紙側表面に突出するCMD糸のナックル部分は平坦になり、例え湿紙側の短繊維ウエッブ層が少なくても、前記目的を達成することができる。
【0021】
また、繊度の比較的太い(例えば100dtex以上)のフィラメントよりも、本発明の前記マルチフィラメント糸は繊度が低くかつ実質的に無撚であるため短繊維ウエッブとの交絡性が高く、短繊維ウエッブの耐脱毛性が改善される。
【0022】
また、本発明ではマルチフィラメント糸を好ましくは1m当たり1〜50回、更に好ましくは1m当たり1〜30回の撚り数の、緩く撚られた撚糸を使用しても、前記目的を達成することができる。撚り数が50回を超えると、糸の剛性が高くなるため湿紙平滑性が悪くなる。
【0023】
本発明では、特定の繊度(100dtex以下)のフィラメントを複数本収束したマルチフィラメント糸であって、実質的に無撚の或いは無撚に近い1〜50回の撚り数の緩く撚られた撚糸(マルチフィラメント糸)を使用するから、糸が扁平となる効果を奏するため前記目的を達成することができる。
【0024】
このように、基体の湿紙側に配置されるMD糸またはCMD糸の少なくとも一方の糸が100dtex以下の繊度のフィラメントを複数本収束してマルチフィラメント糸とし、しかも実質的に無撚、或いは無撚に近い緩く撚られたマルチフィラメント糸を使用するから、織布のナックル部分での糸の浮き沈み(凹凸)を小さくすることができるので、抄紙用フェルトの湿紙平滑性を向上させることができる。
【0025】
なお、本発明で実質的に無撚、或いは無撚に近い緩く撚られたマルチフィラメントとは、撚られたマルチフィラメント糸が撚糸方向とは逆方向に撚り戻そうとする力(回転トルク)が発生しない状態を指すものであって、好ましくは1m当たり1〜50回、更に好ましくは1m当たり1〜30回の撚り数のマルチフィラメント糸であると定義する。
【0026】
本発明において基体は、同種または異種の2枚以上の織成された織布を積層織布として構成し、湿紙側に配置される織布においては、その湿紙側に配置されるMD糸またはCMD糸の少なくとも一方の糸が100dtex以下の繊度のフィラメントを複数本収束してマルチフィラメント糸とし、しかも実質的に無撚、或いは無撚に近い緩く撚られたマルチフィラメント糸を使用することができる。
積層織布としては、上布を一重織りの織布とし、下布を一重織り以上の織布からなるものが好ましい。この場合、下布がフェルトの機械的強度を担い、上布が湿紙平滑性と短繊維ウエッブの耐脱毛性を担うことができる。
【0027】
また本発明の別の形態では、基体が織成された三重織りの織布からなり、その湿紙側に配置されるMD糸またはCMD糸の少なくとも一方の糸が100dtex以下の繊度のフィラメントを複数本収束してマルチフィラメント糸とし、しかも実質的に無撚、或いは無撚に近い緩く撚られたマルチフィラメント糸を使用することができる。好適には、基体が経三重織りの織布からなり、その湿紙側に配置されるMD糸(上層)が100dtex以下の繊度のフィラメントを複数本収束してマルチフィラメント糸とし、しかも実質的に無撚、或いは無撚に近い緩く撚られたマルチフィラメント糸を使用する。経三重織りの織布を構成する他のMD糸は、本発明のマルチフィラメント糸以外の糸、例えばモノフィラメント単糸やモノフィラメント撚糸を使用することができる。この場合、他のMD糸がフェルトの機械的強度を担い、上層の糸が湿紙平滑性と短繊維ウエッブの耐脱毛性を担うことができる。
【0028】
本発明のマルチフィラメント糸の原料としては、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル、ポリエステル等を用いることができるが、特に強度や耐久性の面で優れるポリアミドが好ましい。
【0029】
本発明のマルチフィラメント糸は、無撚或いは無撚に近い緩く撚られたものが使用できるため、織成するときに糸のバラケが問題となることがある。このため、フィラメントの形状をバルキー(嵩高い)にしたり、水溶性の収束剤をマルチフィラメントに塗布、含浸して仮固定する。収束剤は本発明のフェルトが抄紙機で使用されるときに水と接触することで容易に除去できるものを選択するとよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、基体を構成する織布の湿紙側に配置される、実質的に無撚或いは無撚に近い緩く撚られたマルチフィラメント糸が、織布のナックル部分で糸の浮き沈み(凹凸)が小さくなるため、湿紙平滑性に優れる。また、本発明のマルチフィラメント糸は短繊維ウエッブとの交絡性が高いため、短繊維ウエッブの耐脱毛性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の実施形態の1例を、図2に基づき説明する。まず、本発明の抄紙用フェルト100は、基体200と、短繊維ウエッブ層300とにより構成される。短繊維ウエッブ層300は、短繊維ウエッブ(ステープルファイバー)をニードルパンチで基体200へ絡合一体化させることにより形成される。
基体200は、2枚の基体、すなわち基体A(210)及び基体B(220)からなる。そのうち1枚の基体A(210)はフェルト100の機械的強度を持たせるための材料であり、充分な強度が得られるものであれば、特に限定されず、種々の材料を用いることができる。例えば、MD糸52とCMD糸42とを織成することにより得られる織布を用いることができる。図2では異種の基体A(210)及び基体B(220)が積層されているが、基体B(220)が本発明の要件を満たすものであれば同種の物でもよい。
【0032】
基体A(210)はMD糸52とCMD糸42とにより、完成されるべきフェルトよりも狭い幅を有する織布を形成し、この織布をスパイラルに巻回し、隣り合う織布縁部同士を接合することにより得られたものを使用することもできる。さらに、完成すべきフェルトの幅とほぼ同じ幅を有する、MD糸52とCMD糸42とからなる織布を同軸上に巻回することにより得られる基体であってもよい。また、織布による基体のみならず、MD糸52を接着剤にて固定して得られる基体や、MD糸52とCMD糸42を織成せずに、単に重ねた構成による基体であってもよい。
【0033】
本発明においては、基体A(210)のほかに、更にもう一つの基体B(220)が積層されて、全体の基体200を構成している。この基体B(220)は本発明の特徴であるMD糸51とCMD糸41の、少なくとも一方の糸が、繊度100dtex以下のフィラメントを複数本収束した、実質的に無撚或いは無撚に近い緩く撚られたマルチフィラメント糸からなる織布で構成されている。
【0034】
図3は本発明の別の実施形態を表している。本発明の抄紙用フェルト150は、基体250と、短繊維ウエッブ層300とにより構成される。短繊維ウエッブ層300は、短繊維ウエッブ(ステープルファイバー)をニードルパンチで基体250へ絡合一体化させることにより形成される。
基体250は、三重織りの織布からなり、その湿紙側に配置されるMD糸53(上層)が100dtex以下の繊度のフィラメントを複数本収束したマルチフィラメント糸で、しかも実質的に無撚、或いは無撚に近い緩く撚られたマルチフィラメント糸を使用している。他のMD糸54,55は、本発明のマルチフィラメント糸以外の糸、例えばモノフィラメント単糸やモノフィラメント撚糸を使用することができる。この場合、他のMD糸54,55はフェルトのMD方向の機械的強度を担うものであれば、材質や繊度は問わない。またCMD糸43はMD糸と組織化して三重織りの織布を形成するもので、フェルトのCMD方向の機械的強度を担うものであれば、材質や繊度は問わない。
【実施例】
【0035】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお実施例1〜5と比較例1では、基体A(210)の上に本発明の特徴を備えたもう一つの基体B(220)が積層されて、全体の基体200を構成するものであるが、基体A(210)は全て下記の構成のものを使用した。
基体A(210)の構成:
(1)MD糸52及びCMD糸42
MD糸52、CMD糸42とも、下記の撚糸を共通して使用した。
(2)撚糸条件;「2/2/330」
(但し「」内の撚糸の表示形式は、「上撚り時における下撚り糸材束本数/下撚り時における単糸束本数/単糸繊度=dtex」を表す。
(3)下撚り:S方向250回/m
(4)上撚り:Z方向160回/m
(5)織成:
MD糸52:60本/5cm,CMD糸42:40本/5cm、で3/1の袋織一重織布を織成した。
【0036】
[実施例1]
図2に示すように、基体A(210)の上に、下記基体B(220)を積層してなる基体200に短繊維ウエッブ層300を積層したフェルト100を作成した。なお、短繊維ウエッブ層300は基体200の両面に積層するが、湿紙側面には坪量300g/m、機械側面には坪量100g/mで積層し、ニードルパンチして基体200へ絡合一体化させた。
基体B(220)の構成:
(1)MD糸51:下記マルチフィラメント糸を使用した。
(a)フィラメント;ナイロン6の繊度80dtex
(b)収束本数:40本
(c)撚り数:実質的に無撚(1回/m。ここではZ方向に撚っている)
(2)CMD糸41:ナイロン6のモノフィラメント単糸(500dtex)
(3) 織成:
MD糸51:40本/5cm、CMD糸41:34本/5cmで3/1の袋織一重織布を織成した。
【0037】
[実施例2]
実施例1において、基体B(220)としてMD糸にはCMD糸41と同じナイロン6のモノフィラメント単糸を、CMD糸にはMD糸51と同じマルチフィラメント糸で織成した袋織一重織布を使用した以外は実施例1と同様の構造のフェルトを作成した。
【0038】
[実施例3]
実施例1において、基体B(220)としてCMD糸にMD糸51と同じマルチフィラメント糸で織成した袋織一重織布を使用した以外は実施例1と同様の構造のフェルトを作成した。
【0039】
[実施例4]
実施例1において、基体B(220)のMD糸51のマルチフィラメント糸を、緩く撚られた撚糸(Z方向に30回/m)で織成した袋織一重織布を使用した以外は実施例1と同様の構造のフェルトを作成した。
【0040】
[実施例5]
実施例1において、基体B(220)のMD糸51のマルチフィラメント糸を、緩く撚られた撚糸(Z方向に50回/m)で織成した袋織一重織布を使用した以外は実施例1と同様の構造のフェルトを作成した。
【0041】
[実施例6]
図3に示すように、下記基体250に短繊維ウエッブ層300を積層したフェルト150を作成した。なお、短繊維ウエッブ層300は基体200の両面に積層するが、湿紙側面には坪量300g/m、機械側面には坪量100g/mで積層し、ニードルパンチして基体250へ絡合一体化させた。
基体250の構成:
(1)MD糸:
(a)湿紙側に配置された上層のMD糸53には実施例1のMD糸51と同じマルチフィラメント糸を使用した。
(b)中層のMD糸54には基体A(210)のMD糸52と同じ撚糸を使用した。
(c)下層のMD糸55にもMD糸54と同じ撚糸を使用した。
(2)CMD糸43:ナイロン6のモノフィラメント単糸(1000dtex)
(3) 織成:
MD糸53:80本/5cm、MD糸54,55:40本/5cm、CMD糸43:20本/5cmで3/1 1/3の袋織経三重織布を織成した。
【0042】
[実施例7]
実施例6において、基体250としてMD糸53にはCMD糸43と同じナイロン6のモノフィラメント単糸(1000dtex)を使用し、CMD糸には実施例5のMD糸53と同じマルチフィラメント糸で織成した、袋織三重織布を使用した以外は実施例6と同様の構造のフェルトを作成した。
【0043】
[実施例8]
実施例6において、基体250としてCMD糸に実施例5のMD糸53と同じマルチフィラメント糸で織成した、袋織経三重織布を使用した以外は実施例6と同様の構造のフェルトを作成した。
【0044】
[実施例9]
実施例6において、基体250としてMD糸53には実施例4と同じ緩く撚られたマルチフィラメント糸(Z方向に30回/m)で織成した袋織経三重織布を使用した以外は実施例6と同様の構造のフェルトを作成した。
【0045】
[比較例1]
実施例1において、基体B(220)としてMD糸にCMD糸43と同じナイロン6のモノフィラメント単糸(330dtex)で織成した、袋織一重織布を使用した以外は実施例1と同様の構造のフェルトを作成した。
【0046】
[比較例2]
実施例6において、基体250としてMD糸53にもMD糸54と同じ撚糸で織成した、袋織三重織布を使用した以外は実施例6と同様の構造のフェルトを作成した。
【0047】
上記の実施例1〜9、及び比較例1〜2で作成した抄紙用フェルトの耐偏平化性(圧縮疲労性能)と湿紙平滑性及び耐脱毛性を下記の方法で評価した。
【0048】
(1) 耐偏平化性(圧縮疲労性能)
抄紙用フェルトのテストサンプルに対して、繰返し疲労試験機(島津製作所製サーボパルサー圧縮試験機)で1500KN/cm、10Hzのパルス荷重を20万回繰返し、テスト前のフェルト密度に対するテスト後のフェルト密度の比で評価した。数値が低い程、耐偏平化性が良いことを示している。
【0049】
(2) 湿紙平滑性
抄紙用フェルトのテストサンプル上(湿紙表面側)にプレスケール感圧紙を乗せ、100KN/cmの圧力でプレスして、フェルト表面の凹凸を感圧紙に転写し目視で湿紙平滑性を評価した。ここでは基体の湿紙側表面のナックル部分の凹凸が確認できる。
【0050】
(3) 耐脱毛性
JIS 1023−1992に基づくテーバー研磨試験機により、抄紙用フェルトのテストサンプルから脱落した繊維量を測ることで、フェルトの耐脱毛性を評価した。この試験機では、回転するターンテーブル上に円盤状のサンプルを置載し、さらにサンプル上に摩擦抵抗の大きい回転ロールを当接させて、フェルトの短繊維ウエッブの繊維脱落量を測るもので、1kgのホイールで5000回回転させた後の、脱落繊維量(mg)を測定した。
【0051】
実施例および比較例の抄紙用フェルトの評価を表に示す。
【0052】
【表1】



【0053】
表から明らかなように、本発明の実施例のフェルトは比較例のフェルトに比べて、耐偏平化性に関しては遜色ない程度であり、湿紙平滑性及び耐脱毛性に関しては優れた評価結果を示している。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、耐偏平化機能を保持したまま湿紙平滑性と耐脱毛性に優れたフェルトが得られる。これを抄紙用フェルトとして用いた場合、抄紙工程におけるロール又はシュープレス等の加圧による耐偏平化機能を維持し高い搾水性が長期間持続される。また湿紙平滑性と耐脱毛性に優れており、近年の抄紙機の高速化や、プレス部の高圧化にも対応する高性能のフェルトが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】従来の一般的抄紙用フェルトの断面図。
【図2】本発明の実施形態を示す抄紙用フェルトの断面図。
【図3】本発明の別の実施形態を示す抄紙用フェルトの断面図。
【符号の説明】
【0056】
10 抄紙用フェルト
20 基体
30 短繊維ウエッブ層
40 基体20のCMD糸
41 基体220のCMD糸
42 基体210のCMD糸
43 基体250のCMD糸
50 基体20のMD糸
51 基体220のMD糸
52 基体210のMD糸
53 基体250のMD糸
54 基体250のMD糸
55 基体250のMD糸
100 抄紙用フェルト
150 抄紙用フェルト
200 基体
210 基体A
220 基体B
250 基体
300 短繊維ウエッブ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙用フェルトの基体の片面又は両面に短繊維ウェッブを積層してニードリングにより絡合一体化してなる抄紙用フェルトにおいて、前記基体の湿紙側に配置される機械走行方向(MD)糸または機械横断方向(CMD)糸の少なくとも一方の糸が、繊度100dtex以下のフィラメントを複数本収束した、実質的に無燃のマルチフィラメント糸からなることを特徴とする抄紙用フェルト。
【請求項2】
前記マルチフィラメント糸が、1m当たり1〜50回の撚り数の、緩く撚られた撚糸であることを特徴とする、請求項1に記載の抄紙用フェルト。
【請求項3】
前記マルチフィラメント糸が、1m当たり1〜30回の撚り数の、緩く撚られた撚糸であることを特徴とする、請求項1に記載の抄紙用フェルト。
【請求項4】
前記基体が、同種又は異種の2枚以上の織成された織布からなることを特徴とする、請求項1または2に記載の抄紙用フェルト。
【請求項5】
前記基体が、織成された三重織りの織布からなることを特徴とする、請求項1または2に記載の抄紙用フェルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−68153(P2009−68153A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−240909(P2007−240909)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】