説明

抄紙用プレスフェルトおよびその製造方法

【課題】再湿現象を抑制すると同時に、耐圧縮疲労性、平滑性、耐脱毛・摩耗性及び搾水性等の機能をバランス良く具備した抄紙用プレスフェルトを提供する。
【解決手段】本発明の抄紙用プレスフェルトは、
湿紙接触繊維層と第1バット繊維層の少なくとも一方に、絶対粘度が80mPa・s以上である高分子量ナイロンからなる芯成分と、該芯成分よりも低融点のナイロンからなる鞘成分、とから構成される芯鞘複合繊維を含み、1対のロール間に無端状に掛け渡され、前記芯鞘複合繊維の鞘成分を溶融する温度以上の熱風を当てながら、または前記熱風を当てた直後に熱プレスすることで、前記芯鞘複合繊維を含む繊維層の密度が、前記芯鞘複合繊維を含まない繊維層の密度より高く構成したことにより、平滑性、耐脱毛・摩耗性、耐圧縮疲労性、および搾水性がバランスよく具備された特徴を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機械に使用される抄紙用プレスフェルト(以下、単に「プレスフェルト」という。)とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、製紙工程において、湿紙から搾水するため、プレス装置が使用されている。プレス装置において、紙層形成が行われた湿紙は、プレスニップでプレスフェルトを介して搾水される。なお、一般的に、プレス装置は、複数のプレスニップから構成される。
【0003】
図5は、プレス装置におけるプレスニップの概略図である。
このプレスニップは、一対のプレスロールP’,P’と、湿紙W’を挟持する一対のプレスフェルト11’,11’からなり、プレスロールP’,P’の加圧部において、プレスフェルト11’,11’と湿紙W’に圧力を加えて、湿紙W’から水分が搾り出されて、プレスフェルト11’,11’に吸収される。
【0004】
しかし、加圧部の中央(ニップ部)から出口にかけて、湿紙W’とプレスフェルト11’,11’に掛けられた圧力が急激に解放されるため、この部分において、プレスフェルト11’,11’の体積が急激に膨張する。その結果、プレスフェルト11’,11’に負圧が生じ、さらに、湿紙W’が細繊維からなるため毛細管現象も加わって、プレスフェルト11’,11’に吸収されていた水分が、再び湿紙側へ移行する現象、すなわち、再湿現象(re-wetting)が起きる。
【0005】
この再湿現象を防止するためのプレスフェルトとして、例えば、特許文献1に開示されているプレスフェルトがある。これは、基層、湿紙側バット層、プレス側バット層からなるプレスフェルトにおいて、湿紙側バット層中に親水性不織布が配置されたもので、この親水性不織布の親水作用によって、親水性不織布への水分移行作用、移行された水分の保持作用が発揮されるため、再湿現象を効果的に抑制することができるとされている。
【0006】
また、抄紙用プレスフェルトでは、湿紙から水を搾る機能(搾水性)を維持するために、加圧により圧縮されたプレスフェルトを除圧時に偏平化することなく回復させる機能(耐圧縮疲労性)や、プレスフェルトが平滑になることにより湿紙平滑性を高める機能(平滑性)及び耐脱毛・摩耗性等も重要視されている。
このような機能を備えたプレスフェルトとして、例えば、2成分材料よりなる芯鞘構造を有する繊維を含むプレスフェルトが特許文献2に開示されている。
このプレスフェルトでは、バット層の繊維として、低融点の鞘材料と高融点の芯材料からなる2成分材料が用いられ、プレスフェルトの加熱硬化処理により低融点の鞘材料が軟化してバット層内にマトリックスが形成されることにより、プレスフェルトの脱排水性能を向上させ、しかも、圧縮抵抗力を増強させることができるとされている。
【0007】
【特許文献1】特開2004−143627号公報
【特許文献2】特開平8−302584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び2のプレスフェルトは、プレス装置による繰返しの圧縮疲労を受け易いという問題がある。
また、特許文献2のプレスフェルトのように2成分材料をバット層に用いる場合、プレスフェルト製造時の熱プレスの影響により、芯材料の機械的強度の低下や化学的劣化が起こり、その結果、プレスフェルトの使用中に繊維が切断されたり、脱毛・摩耗が進み、早期に交換を必要とすることが多かった。
また特許文献2では、ベースファブリック表面に繊維質バット材料を接着させ、約150℃〜180℃の範囲で加熱硬化処理を実行して、2成分材料の低融点鞘材料を軟化あるいは溶融させる程度の温度に設定されることが明記されているが、通常のプレスフェルトの加熱処理は図6のような、1対のロール間にプレスフェルトを掛け渡し、プレスフェルトを周回しながら熱風を当てたり熱プレスロールをプレスフェルトに当接して行われる。このような周回しながら連続的に熱処理する方法に関して、2成分材料の低融点鞘材料を軟化あるいは溶融させる程度の温度を設定することは困難であった。
従って、再湿現象を抑制すると同時に、耐圧縮疲労性、平滑性、耐脱毛・摩耗性及び搾水性等の機能をバランス良く具備したプレスフェルトとその製造方法が望まれていた。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑み、再湿現象を抑制するとともに、平滑性・耐摩耗性・耐圧縮疲労性、及び搾水性に優れた抄紙用プレスフェルトを提供するため、特にバット繊維に2成分材料である芯鞘複合繊維を利用した場合の、最適な熱処理条件を取り入れて構成されたプレスフェルトおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基層と、基層の湿紙側の表面に形成された第1バット繊維層と、プレス側の表面に形成された第2バット繊維層と、前記第1バット繊維層の湿紙側の表面に形成された湿紙接触繊維層とを備え、
前記湿紙接触繊維層または前記第1バット繊維層の何れか一方に、絶対粘度が80mPa・s以上である高分子量ナイロンからなる芯成分と、該芯成分よりも低融点のナイロンからなる鞘成分、とから構成される芯鞘複合繊維を含む抄紙用プレスフェルトが、1対のロール間に無端状に掛け渡され、前記芯鞘複合繊維の鞘成分を溶融する温度以上の熱風を当てながら、または前記熱風を当てた直後に、前記抄紙用プレスフェルトに熱プレスすることで、前記芯鞘複合繊維を含む繊維層の密度が、前記芯鞘複合繊維を含まない繊維層の密度より高く構成した抄紙用プレスフェルトおよびその製造方法により、前記課題を解決した。
また、前記抄紙用プレスフェルトの湿紙接触繊維層および第1バット繊維層の両方に、絶対粘度が80mPa・s以上である高分子量ナイロンからなる芯成分と、該芯成分よりも低融点のナイロンからなる鞘成分とから構成される芯鞘複合繊維を含む抄紙用プレスフェルトを、1対のロール間に無端状に掛け渡され、前記芯鞘複合繊維の鞘成分を溶融する温度以上の熱風を当てながら、または前記熱風を当てた直後に、前記抄紙用プレスフェルトに熱プレスすることで、前記湿紙接触繊維層の密度が、前記第1バット繊維層の密度より高く構成した抄紙用プレスフェルトおよびその製造方法により、前記課題を解決した。
本発明の熱風の温度は、160℃〜200℃の範囲であることを特徴とする抄紙用プレスフェルトおよびその製造方法である。
また、本発明の熱プレスの温度は、140℃〜180℃の範囲であることを特徴とする抄紙用プレスフェルトおよびその製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、芯鞘複合繊維を含む繊維層が、予め熱風の作用で低融点のナイロンからなる鞘成分が十分に軟化あるいは溶融しているとき、またはその直後に、引続きこれより低温の熱プレスの作用で鞘成分が溶着して圧着し、前記芯鞘複合繊維を含む繊維層が緻密な繊維層を形成することができる。その結果、プレス側層の水分は、前記湿紙接触繊維層がバリアとなって湿紙側に移動しにくくなるため、再湿現象を抑制することができる。
また、前記芯鞘複合繊維の芯成分を高粘度にすること、すなわち高分子量ナイロンを使用することで、熱風や熱プレスによる熱劣化の影響が少なくなるので、プレスフェルトの耐脱毛・摩耗性及び耐圧縮疲労性が向上し、その結果、プレスフェルトの寿命(ライフ)が延びてフェルト交換回数が減る、脱毛・摩耗による抜け毛が湿紙に付着することが少なくなり製紙品質が改善する、湿紙接触面の平滑性が維持される等の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の抄紙用プレスフェルトについて詳しく説明する。
図1は本発明によるプレスフェルト5のCMD方向の断面図である。
なお、「機械方向(MD)」は、抄紙機がプレスフェルトを移動させる経方向であり、「機械横断方向(CMD)」は、抄紙機がプレスフェルトを移動させる方向を横切る緯方向である。
図1に示すように、プレスフェルト5は、基層30と、基層の湿紙側の表面に形成された第1バット繊維層22と、プレス側の表面に形成された第2バット繊維層23とを具え、前記第1バット繊維層の湿紙側の表面に配された湿紙接触側バット繊維層21とからなる。
基層の湿紙側の表面に形成された第1バット繊維層22と、プレス側の表面に形成された第2バット繊維層23は、ステープルファイバーから構成され、ニードルパンチングによりそれぞれ基層30の湿紙側及びプレス側に絡合一体化され、更に湿紙接触側バット繊維層21は、第1バット繊維層22にニードルパンチングにより絡合一体化されている。
【0013】
本発明のプレスフェルト5は、図1では湿紙接触側バット繊維層21が、温度25℃での絶対粘度が80mPa・s以上である高分子量ナイロンからなる芯成分と、この芯成分よりも低融点のナイロンからなる鞘成分、とから構成される芯鞘複合繊維41のステープルファイバーを含み、基層の湿紙側の表面に形成された第1バット繊維層22は、芯鞘複合繊維41を含まない、従来のナイロン繊維42のステープルファイバーで構成されているが、これとは逆の構成、すなわち湿紙接触側バット繊維層21には芯鞘複合繊維41を含まない、従来のナイロン繊維42のステープルファイバーで構成し、第1バット繊維層22には、温度25℃での絶対粘度が80mPa・s以上である高分子量ナイロンからなる芯成分と、この芯成分よりも低融点のナイロンからなる鞘成分から構成される芯鞘複合繊維41のステープルファイバーを含む構成としてもよい。
ここで、温度25℃での絶対粘度が80mPa・s以上とは、ナイロンを0.5g/95%硫酸100mlで溶解し、25℃の温度で測定した絶対粘度であり、これは振動式粘度計で測定することができる。
なお、図1では、便宜上、芯鞘複合繊維41が誇張して示されている。
【0014】
従来、2成分材料よりなる芯鞘構造を有する繊維をプレスフェルトのバット層に用いる場合、芯成分の粘度、すなわち、分子量については考慮されていなかった。本発明では、芯成分を従来よりも高粘度、すなわち、高分子量ナイロンを使用し、且つ、この芯鞘複合繊維からなる層を、基層の湿紙側の表面に形成された第1バット繊維層の表面上に配置することにより、熱風や熱プレスによる熱劣化の影響が少なく、平滑性、耐脱毛・摩耗性、耐圧縮疲労性がバランスよく具備される。
【0015】
芯鞘複合繊維41の芯成分に用いられるナイロンは、温度25℃での絶対粘度が80mPa・s以上の高分子量ナイロンであり、且つ、鞘成分よりも融点の高いものが用いられる。芯成分のナイロンを高粘度(80mPa・s以上)にすることにより、プレスフェルトの耐脱毛・摩耗性及び耐圧縮疲労性が向上する。これは高分子量ナイロンでは分子鎖が長くなるから、分子鎖同士の絡み合い効果による機械的特性(強度や摩擦・摩耗などの耐久性)が向上するためであると考えられる。 絶対粘度が80mPa・s未満(中粘度)のナイロンを用いた場合、熱風や熱プレスによる熱劣化の影響を受けたり、耐脱毛・摩耗性及び耐圧縮疲労性の効果が十分に得られない。
【0016】
芯成分に好ましく用いられるナイロンとしては、高分子量ナイロン6、高分子量ナイロン66、高分子量ナイロン46、高分子量ナイロン610、高分子量ナイロン612等であることが好ましい。詳しくはεカプロラクタムの重合(ナイロン6)や、ヘキサメチレンジアミン・アジピン酸塩の重縮合(ナイロン66)、1,4−ジアミノブタン・アジピン酸塩の重縮合(ナイロン46)、ヘキサメチレンジアミン・セバシン酸塩の重縮合(ナイロン610)、ヘキサメチレンジアミン・ドデカン二酸塩の重縮合(ナイロン612)等、ナイロン塩の重縮合により得られたナイロンが好ましく、しかもDSC(示差走査熱分析計)による融点が200℃以上である脂肪族ナイロンを挙げることができる。これらの高分子ナイロンの0.5g/95%硫酸100mlでの絶対粘度は、80mPa・s以上であることが好ましい。なお、これらの高分子量ナイロンは公知の重合方法、或いは一旦重合したナイロンフレークを、酸素を含まない120〜200℃の不活性ガス雰囲気内に置いて、固相重合する方法(例えば、特表2002−529604号)により製造されたものが用いられる。
【0017】
芯鞘複合繊維41の鞘成分に用いられるナイロンは、芯成分よりも低融点のナイロンが用いられる。鞘成分に好ましく用いられるナイロンとしては、ナイロン6/12、ナイロン6/610、ナイロン66/6、ナイロン66/12、ナイロン66/610等の二元共重合ナイロン、ナイロン6/66/12、ナイロン6/66/610等の三元共重合ナイロンを挙げることができる。なお、これらの共重合ナイロンは組成(共重合成分の重量%)により融点が変動することは良く知られる処であるが、本発明で使用できる共重合ナイロンは、その融点が180℃以下のものに限られる。
【0018】
また、湿紙接触側バット繊維層21、プレス側バット繊維層23を構成するナイロン繊維42、及び、芯鞘複合繊維41と混綿されるナイロン繊維42としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン612等が好適である。
【0019】
図2は、湿紙接触側バット繊維層21と第1バット繊維層22の両方に、本発明の芯鞘複合繊維41のステープルファイバーを含んでいる。好ましくは湿紙接触側バット繊維層21には第1バット繊維層22に比べて芯鞘複合繊維41のステープルファイバーの含有量を多くすると良い。
このような構造とすることにより、湿紙接触側バット繊維層21は再湿性と搾水性をバランスのよい構造にすることができる。つまり、芯鞘複合繊維41の含有量が多い湿紙接触側バット繊維層21はより緻密になるから再湿性と平滑性が維持でき、また芯鞘複合繊維41の含有量の少ない第1バット繊維層22は緻密性は低いが圧縮性が寄与されるため搾水性が向上するので、プレスフェルトとしては再湿性と搾水性を同時に付与することができる。このことから、芯鞘複合繊維41を含むバット繊維層が単層の場合と比べて、平滑性と脱毛・摩耗性が維持されつつ、緻密層が2層に構成されるために再湿性が一層改善され、しかも搾水性も改善されるといった相乗効果を有することとなる。
【0020】
基層30は、図1及び図2に示すように、緯糸31(フェルトのCMD方向糸)と経糸32(同じくMD方向糸)をモノフィラメント単糸で織成することにより得られた織布が好ましく用いられるが、織組織としては(2/1,1/2)、(3/1,1/3)、(5/1,1/5)等の二重組織や三重組織、或いは(一重組織+二重組織)、(二重組織+二重組織)等の積層組織が使用できる。モノフィラメント単糸の太さは直径0.1mm〜0.6mmで、組織の糸密度は10〜100本/25mmが使用できる。
なお、本発明はこれに限定されず、MD方向糸材とCMD方向糸材を織成せずに重ねた構成、フィルム、編物、細い帯状体をスパイラルに巻回して幅広の帯状体を得た構成等、種々の構成を適宜採用することができる。また、基層30の素材としては、羊毛等の天然繊維や、耐摩耗性、耐疲労性、伸張特性、防汚性等に優れたポリエステルやナイロン6、ナイロン66等の合成繊維が用いられる。
【0021】
ここで、本発明のプレスフェルトの製造方法における熱処理方法について説明する。図6は本発明の熱処理装置を概略的に示したものである。
図6に示すように、ロール50,51間にプレスフェルト5を掛け渡し、ロールを回転させながら熱源53から熱風をプレスフェルト5に当て、引続き熱ロール53をプレスフェルト5に当接して熱プレスする。図6の場合、ロール51にも熱を供給してもよい。熱源53には風量20m3/秒〜30m3/秒で、180℃〜200℃の熱風温とし、熱ロール52はロール表面温度160℃〜180℃の範囲で設定するとよい。
【0022】
このようにしてプレスフェルトの製造方法における熱処理方法において、熱風と熱プレスの作用で鞘成分が十分に軟化あるいは溶融して溶着して圧着することにより、湿紙接触側バット繊維層21が緻密になり、プレスフェルト表面の平滑性が向上する。湿紙接触側バット繊維層21が緻密になると、プレスフェルト5がニップ加圧下を脱してゆく際に、基層と、基層の湿紙側の表面に形成された第1バット繊維層と、プレス側の表面に形成された第2バット繊維層にある水分が、緻密層がバリアとなって移動しにくくなり、再湿現象が効果的に抑制される。
【0023】
なお、本発明ではプレスフェルトの製造方法における熱処理の順序は、まずプレスフェルトに予め熱風を当てて低融点のナイロンからなる鞘成分を十分に軟化あるいは溶融しておき、その直後にこれより低温度の熱プレスを施すことが肝要である。この順序を逆にすると、鞘成分が十分に軟化あるいは溶融する前に熱ロールのプレスニップゾーンを通過してしまうので、芯鞘複合繊維を含む繊維層を緻密な繊維層として形成することができなくなる。
【実施例】
【0024】
本発明の抄紙用プレスフェルトの製造方法と、それによるプレスフェルトの機能を、以下の実施例によって具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
(芯鞘複合繊維の製造)
精錬されたナイロン6(カプロラクタム:融点220℃)と共重合ナイロン6/12(カプロラクタム/ラウロラクタム:融点140℃)を準備し、各々を脱気口付きの押出機に個別に投入した後、押出機中で揮発物を除去し、溶融した芯材のナイロン6及び鞘材の共重合ナイロン6/12を、溶融状態にて定量ギアポンプにより定量して、各芯鞘複合紡糸ノズルに供給した。芯鞘複合紡糸ノズルを経て紡糸された芯鞘複合繊維をチムニーで冷却しつつオイリングして一旦自然延伸比で巻取り、その後延伸し捲縮加工後に定長でカットし、芯鞘複合繊維のステープルファイバーを製造した。
なお、芯鞘複合繊維の製造には「東洋精密工業製のMODEL−EMF」紡糸装置を使用することができる。この装置では、押出機とネルソン式多段延伸機及び巻取機が使用できる。
【0026】
本実施例では、芯材として高分子量ナイロン6(25℃での絶対粘度85mPa・s,融点220℃)と、中分子量ナイロン6(25℃での絶対粘度70mPa・s,融点220℃)の2種類、鞘材料として共重合ナイロン6/12(融点140℃)を使用し、芯部と鞘部の容積比率が1:1である芯鞘複合繊維のステープルファイバーを2種類製造した。芯材として高分子量ナイロン6を使用したものを複合繊維A、中分子量ナイロン6を使用したものを複合繊維Bとする。
なお、本実施例の絶対粘度85mPa・sと絶対粘度70mPa・sの数値を、汎用的な測定手段(ウベローデ粘度法)での相対粘度(ηrイーターアール)で表すとηr=4.5及び3.0となる。因みに絶対粘度80mPa・sはηr=4.0に相当する。
【0027】
(プレスフェルトの製造)
実施例、比較例ともに諸条件を共通とするため、全てのプレスフェルトの基本構成を次の通りとした。
・基層:織布 [240dtexのナイロンモノフィラメントを2本撚り(下撚り)し、該下撚り糸を2本束ねて撚った(上撚り)撚糸を、MD方向糸材とCMD方向糸材にして織成した、(3/1,1/3)の二重組織] :坪量300g/m2
・湿紙接触側バット繊維層には(17dtexのナイロン6繊維、及び17dtexの複合繊維A又はBのステープルファイバー)で総坪量120g/m2
:第1バット繊維層には(17dtexのナイロン6繊維、及び17dtexの複合繊維Aのステープルファイバー)で総坪量120g/m2
:第2バット繊維層には(17dtexのナイロン6繊維のステープルファイバー)で総坪量100g/m2
・針打ち密度:700回/cm2
(プレスフェルト1の作成)
基層と、17dtexのナイロン6繊維のステープルファイバーを40%、及び17dtexの複合繊維Aのステープルファイバーを60%含む湿紙接触側バット繊維層と、17dtexのナイロン6繊維のステープルファイバーを70%、及び17dtexの複合繊維Aのステープルファイバーを30%含む第1バット繊維層と、17dtexのナイロン6繊維のステープルファイバーからなる第2バット繊維層からなるプレスフェルトとした。
(プレスフェルト2の作成)
基層と、17dtexのナイロン6繊維のステープルファイバーを40%、及び17dtexの複合繊維Aのステープルファイバーを60%含む湿紙接触側バット繊維層と、17dtexのナイロン6繊維のステープルファイバーからなる第1バット繊維層と、17dtexのナイロン6繊維のステープルファイバーからなる第2バット繊維層からなるプレスフェルトとした。
(プレスフェルト3の作成)
基層と、17dtexのナイロン6繊維のステープルファイバーを40%、及び17dtexの複合繊維Bのステープルファイバーを60%含む湿紙接触側バット繊維層と、17dtexのナイロン6繊維のステープルファイバーからなる第1バット繊維層と、17dtexのナイロン6繊維のステープルファイバーからなる第2バット繊維層からなるプレスフェルトとした。
(プレスフェルト4の作成)
基層と、17dtexのナイロン6繊維のステープルファイバーからなる湿紙接触側バット繊維層と、17dtexのナイロン6繊維のステープルファイバーからなる第1バット繊維層と、17dtexのナイロン6繊維のステープルファイバーからなる第2バット繊維層からなるプレスフェルトとした。
【0028】
(実験1;プレスフェルトの熱処理)
針打ち後のプレスフェルト1〜4を、図6の1対のロール間に掛け渡し、プレスフェルトを5m/分の速度で周回させながら、上部熱源から風量20m3/秒で、温度140℃〜220℃の熱風を当て、引続き表面温度120℃〜200℃の熱プレスロール(プレス圧30kg/cm)をプレスフェルトの上部から当接させた。ここでは熱風温度と熱ロール表面温度の種々変えた実験を行い、その結果を表1に記載した。なお、表1には熱プレスロールを先にプレスフェルトの上部から当接させ、その後熱風を当てた熱処理条件5も記載して、本発明との差異を比較している。
【0029】
【表1】


なお、表中の熱処理条件の欄において、熱処理条件1〜熱処理条件4では熱風が先行して行われ、熱処理条件5では熱プレスが先行して行われることを示している。また丸1とは熱処理の施したプレスフェルトの湿紙接触側バット繊維層の密度、丸2とは第1バット繊維層の密度を示す。( )内の数値はそれぞれの密度の差(丸1−丸2)の範囲を示している。そして、これらの密度の求め方は、バット繊維層の総坪量を層厚みで除した値であり、層厚みは各プレスフェルトの断面厚みを計測して求めることができる。
【0030】
(実験2;抄紙用プレスフェルトの性能評価)
表1で得た、熱処理条件2を施した後のプレスフェルト1〜4を用いて以下の条件、方法により再湿現象と搾水性の評価及び耐圧縮疲労性、耐脱毛・摩耗性、平滑性の評価を行なった。
【0031】
(再湿現象と搾水性の評価)
図3及び図4に示される装置により再湿現象と搾水性の評価を行った。
まず、図3、図4に示される装置において、図中、Pはプレスロール、110はトップ側フェルト、10はボトム側フェルト、SCはサクションチューブ、SNはシャワーノズルである。
なお、実験2では、いずれの装置においてもボトム側フェルト10にプレスフェルト1〜4を使用している。この場合、トップ側フェルトとしては、抄紙用プレスフェルトの製造において、熱処理前のプレスフェルト4と同様のプレスフェルトを使用した。
また、図3、図4に示される装置は、ともに、フェルトの走行速度が800m/minであり、プレス圧力が80kg/cmである。
【0032】
図3に示される装置は、ニップ圧下を脱した湿紙が、ボトム側フェルト10に載置され搬送される構造となっている。従って、ニップ圧下を脱した後、ボトム側フェルト10に載置され搬送された位置(プレス出口1)における湿紙の湿潤度合いを計測すると、再湿現象が発生した湿紙の水分含有量データを得ることができる。
これに対し、図4に示される装置は、ボトム側フェルト10がプレスロールに接触する面積が大きく、ニップ圧下を脱した湿紙が、フェルト10,110に接触する時間が非常に短いものである。ここで、このニップ圧下を脱した直後の位置(プレス出口2)における湿紙の湿潤度合いを計測すると、再湿現象のあまり生じていない湿紙の水分含有量データが得られる。
【0033】
ここで、図3の装置による水分含有量データと、図4の装置による同データを求め、再湿現象と搾水性の評価を行った。搾水性の評価については、図3の装置によるプレス出口1での水分含有量データにおいて、水分48%以上49%未満のものは(搾水性評価「良」)とした。そして水分49%以上のものは(搾水性評価「不良」)とした。再湿現象の評価については、図3の装置による水分含有量データと、図4の装置による同データの差において、両者の差が0.5%未満のものは再湿現象を生じないものとした(評価「良」)。一方、この両者の差が0.5%以上1.0%未満のものは、やや再湿現象が生じているとし(評価「可」)、1.0%以上のものは再湿現象が生じているとした(評価「不良」)。
【0034】
(繰返し圧縮疲労試験)
120kg/cm2で5Hzパルス荷重を繰返し30万回与え、圧縮疲労試 験を行なった。圧縮疲労性を(試験後の密度/仕上がり密度)比で表し、1.30未満を「優」、1.30以上1.39以下のものを「良」、1.40以上のもの「不良」とした。
【0035】
(テーパー脱毛・摩耗試験)
JIS1023−1992に基づくテーパー研磨試験機により、抄紙用フェルトから脱落した繊維量を測ることにより、耐脱毛・摩耗性の評価を行なった。回転するターンテーブル上に円盤状の試験片を載置し、さらに試験片上に抵抗の大きい回転ロールを当接させて、繊維の脱落量(脱毛・摩耗量)を測った。(荷重:0.5kg、ホイール:CS−17、回転数:3000回、単位:mg)
脱毛・摩耗量が40mg以下のものを「良」、40mgを超えたものを「不良」とした。
【0036】
(表面粗さの測定)
テーパー脱毛・摩耗試験前の、仕上がりフェルトの十点平均粗さRz(μm)(JIS−B0601)を測定し、フェルト表面の平滑性の評価を行なった。
表面粗さ60μm未満のものを「優」、60μm以上99μm以下のものを「良」、100μm以上のものを「不良」とした。
各試験の測定結果及び評価を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
(結果の評価)
表1の実験1(熱処理条件の試験)において、本発明の製造方法に関する熱処理条件2と3によって、芯鞘複合繊維を含む繊維層の密度が、芯鞘複合繊維を含まない繊維層の密度より高く構成されているか、あるいは湿紙接触繊維層の密度が、第1バット繊維層の密度より高く構成されているから、表2に示されるプレスフェルトの諸機能が発揮される。すなわち、表2のプレスフェルト1〜4において、本発明の抄紙用プレスフェルト1と2は、再湿現象を抑制すると同時に、耐圧縮疲労性、耐脱毛・摩耗性、平滑性及び搾水性の機能をバランス良く具備することが確認された。
また表1の熱処理条件5では、熱風が熱プレスより先行して行われるから、芯鞘複合繊維の鞘成分が十分に軟化あるいは溶融する前に熱ロールのプレスニップゾーンを通過してしまうので、芯鞘複合繊維を含む繊維層を緻密な繊維層として形成することができなくなる。
【0039】
また、芯鞘複合繊維の芯成分に中分子量ナイロンを用いたプレスフェルト3は、高分子量ナイロンを用いたプレスフェルト1と比較して、耐圧縮疲労性・耐脱毛・摩耗性が悪くなることが分かる。 さらに、プレスフェルト4は、バット繊維層を芯鞘複合繊維を含まない、ナイロン6繊維を使用しているので、耐脱毛・摩耗性、平滑性及び再湿性が悪いことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のプレスフェルトの実施形態の断面図。
【図2】本発明のプレスフェルトの別の実施形態の断面図。
【図3】本発明のプレスフェルトの効果を確認するための装置の概要図。
【図4】本発明のプレスフェルトの効果を確認するための装置の概要図。
【図5】製紙機械のプレス装置の概略説明図。
【図6】本発明のプレスフェルトを製造する装置の概略図。
【符号の説明】
【0041】
5:抄紙用プレスフェルト
21:湿紙接触側バット繊維層
22:第1バット繊維層
23:第2バット繊維層
30:基層
31:緯糸
32:経糸
41:芯鞘複合繊維
42:ナイロン繊維
50、51:ロール
52:熱プレスロール
53:熱風装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基層と、基層の湿紙側の表面に形成された第1バット繊維層と、プレス側の表面に形成された第2バット繊維層と、前記第1バット繊維層の湿紙側の表面に形成された湿紙接触繊維層とを備え、
前記湿紙接触繊維層または前記第1バット繊維層の何れか一方に、絶対粘度が80mPa・s以上である高分子量ナイロンからなる芯成分と、該芯成分よりも低融点のナイロンからなる鞘成分、とから構成される芯鞘複合繊維を含む抄紙用プレスフェルトが、1対のロール間に無端状に掛け渡され、前記芯鞘複合繊維の鞘成分を溶融する温度以上の熱風を当てながら、または前記熱風を当てた直後に、前記抄紙用プレスフェルトに熱プレスすることで、前記芯鞘複合繊維を含む繊維層の密度が、前記芯鞘複合繊維を含まない繊維層の密度より高く構成されていることを特徴とする、抄紙用プレスフェルト及びその製造方法。
【請求項2】
基層と、基層の湿紙側の表面に形成された第1バット繊維層と、プレス側の表面に形成された第2バット繊維層と、前記第1バット繊維層の湿紙側の表面に形成された湿紙接触繊維層とを備え、
前記湿紙接触繊維層および前記第1バット繊維層に、絶対粘度が80mPa・s以上である高分子量ナイロンからなる芯成分と、該芯成分よりも低融点のナイロンからなる鞘成分とから構成される芯鞘複合繊維を含む抄紙用プレスフェルトが、1対のロール間に無端状に掛け渡され、前記芯鞘複合繊維の鞘成分を溶融する温度以上の熱風を当てながら、または前記熱風を当てた直後に、前記抄紙用プレスフェルトに熱プレスすることで、前記湿紙接触繊維層の密度を前記第1バット繊維層の密度より高く構成されていることを特徴とする、抄紙用プレスフェルト及びその製造方法。
【請求項3】
熱風の温度が、160℃〜200℃の範囲である、請求項1と2に記載の抄紙用プレスフェルトおよびその製造方法。
【請求項4】
熱プレスの温度が、140℃〜180℃の範囲である、請求項1と2に記載の抄紙用プレスフェルトおよびその製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−327155(P2007−327155A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−159322(P2006−159322)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】