説明

抄紙用プレスフェルト

【課題】高い圧縮性を備え、優れた防汚性を発揮する抄紙用フェルトを提供する。
【解決手段】本発明の抄紙用フェルトは、
基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層と、プレス側の表面に形成された第2バット層と、前記第1バット層の湿紙側の表面に形成された湿紙接触繊維層とを備え、前記湿紙接触繊維層が絶対粘度が80mPa・s以上である高分子量ナイロンからなる芯成分と、該芯成分よりも低融点のナイロンからなる鞘成分とから構成される芯鞘複合繊維を含み、前記第1バット層が、前記芯鞘複合繊維を含まないナイロンの層からなるため、平滑性、耐脱毛・摩耗性、耐圧縮疲労性、および搾水性がバランスよく具備された特徴を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機械に使用される抄紙用プレスフェルト(以下、単に「プレスフェルト」という。)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、製紙工程において、湿紙から搾水するため、プレス装置が使用されている。プレス装置において、紙層形成が行われた湿紙は、プレスニップでプレスフェルトを介して搾水される。なお、一般的に、プレス装置は、複数のプレスニップから構成される。
【0003】
図5は、プレス装置におけるプレスニップの概略図である。
このプレスニップは、一対のプレスロールP’,P’と、湿紙W’を挟持する一対のプレスフェルト11’,11’からなり、プレスロールP’,P’の加圧部において、プレスフェルト11’,11’と湿紙W’に圧力を加えて、湿紙W’から水分が搾り出されて、プレスフェルト11’,11’に吸収される。
【0004】
しかし、加圧部の中央(ニップ部)から出口にかけて、湿紙W’とプレスフェルト11’,11’に掛けられた圧力が急激に解放されるため、この部分において、プレスフェルト11’,11’の体積が急激に膨張する。その結果、プレスフェルト11’,11’に負圧が生じ、さらに、湿紙W’が細繊維からなるため毛細管現象も加わって、プレスフェルト11’,11’に吸収されていた水分が、再び湿紙側へ移行する現象、すなわち、再湿現象(re−wetting)が起きる。
【0005】
この再湿現象を防止するためのフェルトとして、例えば、特許文献1に開示されているプレスフェルトがある。これは、基層、湿紙側バット層、プレス側バット層からなるフェルトにおいて、湿紙側バット層中に親水性不織布が配置されたもので、この親水性不織布の親水作用によって、親水性不織布への水分移行作用、移行された水分の保持作用が発揮されるため、再湿現象を効果的に抑制することができるとされている。
【0006】
また、抄紙用プレスフェルトでは、湿紙から水を搾る機能(搾水性)を維持するために、加圧により圧縮されたフェルトを除圧時に偏平化することなく回復させる機能(耐圧縮疲労性)や、フェルトが平滑になることにより湿紙平滑性を高める機能(平滑性)及び耐脱毛・摩耗性等も重要視されている。
このような機能を具えたフェルトとして、例えば、2成分材料よりなる芯鞘構造を有する繊維を含むプレスフェルトが特許文献2に開示されている。
このプレスフェルトでは、バット層の繊維として、低融点の鞘材料と高融点の芯材料からなる2成分材料が用いられ、プレスフェルトの加熱硬化処理により低融点の鞘材料が軟化してバット層内にマトリックスが形成されることにより、プレスフェルトの脱排水性能を向上させ、しかも、圧縮抵抗力を増強させることができるとされている。
さらに、最近の高速抄紙機械に対応するため、搾水性と平滑性に優れた織布が使用されたプレスフェルトが使われている。この織布は整経糸(フェルトのCMD方向糸)と打ち込み糸(同じくMD方向糸)とが、共にモノフィラメント単糸で織成されている(特許文献3を参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2004−143627号公報
【特許文献2】特開平8−302584号公報
【特許文献3】特開2000−170086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び2のプレスフェルトは、プレス装置による繰返しの圧縮疲労を受け易いという問題がある。
また、特許文献2のプレスフェルトのように2成分材料をバット層に用いる場合、フェルト製造時の熱プレスの影響により、芯材料の機械的強度の低下や化学的劣化が起こり、その結果、プレスフェルトの使用中に繊維が切断されたり、脱毛・摩耗が進み、早期に交換を必要とすることが多かった。
また特許文献3のプレスフェルトでは、従来の撚糸を使用したフェルトに比べてニードルパンチングによるバット繊維と織布との固着性が悪くなるため、フェルトの脱毛・摩耗性が著しく悪いことが知られている。
従って、再湿現象を抑制すると同時に、耐圧縮疲労性、平滑性、耐脱毛・摩耗性及び搾水性等の機能をバランス良く具備したプレスフェルトが望まれる。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑み、再湿現象を抑制するとともに、平滑性・耐摩耗性・耐圧縮疲労性、及び搾水性に優れた抄紙用プレスフェルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基層と、基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層と、プレス側の表面に形成された第2バット層と、前記第1バット層の湿紙側の表面に形成された湿紙接触繊維層とを備え、前記湿紙接触繊維層が絶対粘度が80mPa・s以上である高分子量ナイロンからなる芯成分と、該芯成分よりも低融点のナイロンからなる鞘成分とから構成される芯鞘複合繊維を含み、前記第1バット層が、前記芯鞘複合繊維を含まないナイロンの層からなることを特徴とする抄紙用プレスフェルトにより、前記課題を解決した。
ここで、絶対粘度が80mPa・s以上とは、ナイロンを0.5g/95%硫酸100mlで溶解し、25℃の温度で測定した絶対粘度であって、振動式粘度計で測定することができる。
前記湿紙接触繊維層における前記芯鞘複合繊維の含有率は、25%〜75%であることが好ましい。
また、前記湿紙接触繊維層を多層構造にし、前記湿紙接触繊維層のプレス側から湿紙側に向かって、前記芯鞘複合繊維の含有量を段階的に増加させてもよい。そして、前記基層は、整経糸(フェルトのCMD方向糸)と打ち込み糸(同じくMD方向糸)とが、共にモノフィラメント単糸で織成されている織布であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、芯鞘複合繊維の鞘成分が溶融して湿紙接触繊維層が緻密になる。その結果、プレス側層の水分は、前記湿紙接触繊維層がバリアとなって湿紙側に移動しにくくなるため、再湿現象を抑制することができる。
また、前記芯鞘複合繊維の芯成分を高粘度にすること、すなわち高分子量ナイロンを使用することで、フェルトの耐脱毛・摩耗性及び耐圧縮疲労性が向上し、その結果、フェルトの寿命(ライフ)が延びてフェルト交換回数が減る、脱毛・摩耗による抜け毛が湿紙に付着することが少なくなり製紙品質が改善する、湿紙接触面の平滑性が維持される等の効果を奏する。
さらに、湿紙接触繊維層を芯鞘複合繊維で構成し、基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層を芯鞘複合繊維を含まないナイロンの層で構成したことにより、平滑性、耐脱毛・摩耗性、耐圧縮疲労性、および搾水性がバランスよく具備される。
さらに、モノフィラメント単糸で織成された織布を基層に使用することにより、織布の通水性が改善されるため、搾水性に優れたフェルトを構成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の抄紙用プレスフェルトについて詳しく説明する。
図1は本発明によるプレスフェルト10のCMD方向の断面図である。
なお、「機械方向(MD)」は、抄紙機がプレスフェルトを移動させる経方向であり、「機械横断方向(CMD)」は、抄紙機がプレスフェルトを移動させる方向を横切る緯方向である。
図1に示すように、プレスフェルト10は、基層30と、基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層22と、プレス側の表面に形成された第2バット層23とを具え、前記第1バット層の湿紙側の表面に配された湿紙接触側バット層21とからなる。
基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層22と、プレス側の表面に形成された第2バット層23は、ステープルファイバーから構成され、ニードルパンチングによりそれぞれ基層30の湿紙側及びプレス側に絡合一体化され、更に湿紙接触側バット層21は、第1バット層22にニードルパンチングにより絡合一体化されている。
【0013】
本発明のプレスフェルト10は、湿紙接触側バット層21が、温度25℃での絶対粘度が80mPa・s以上である高分子量ナイロンからなる芯成分と、この芯成分よりも低融点のナイロンからなる鞘成分とから構成される芯鞘複合繊維41のステープルファイバーを含み、基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層22は、芯鞘複合繊維41を含まない従来のナイロン繊維42のステープルファイバーで構成される。
ここで、温度25℃での絶対粘度が80mPa・s以上とは、ナイロンを0.5g/95%硫酸100mlで溶解し、25℃の温度で測定した絶対粘度であり、これは振動式粘度計で測定することができる。
なお、図1では、便宜上、芯鞘複合繊維41が誇張して示されている。
【0014】
従来、2成分材料よりなる芯鞘構造を有する繊維をプレスフェルトのバット層に用いる場合、芯成分の粘度、すなわち、分子量については考慮されていなかった。本発明では、芯成分を従来よりも高粘度、すなわち、高分子量ナイロンを使用し、且つ、この芯鞘複合繊維からなる層を、基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層の表面上に配置することにより、平滑性、耐脱毛・摩耗性、耐圧縮疲労性がバランスよく具備される。
【0015】
芯鞘複合繊維41の芯成分に用いられるナイロンは、温度25℃での絶対粘度が80mPa・s以上の高分子量ナイロンであり、且つ、鞘成分よりも融点の高いものが用いられる。芯成分のナイロンを高粘度(80mPa・s以上)にすることにより、フェルトの耐脱毛・摩耗性及び耐圧縮疲労性が向上する。これは高分子量ナイロンでは分子鎖が長くなるから、分子鎖同士の絡み合い効果による機械的特性(強度や摩擦・摩耗などの耐久性)が向上するためであると考えられる。絶対粘度が80mPa・s未満(中粘度)のナイロンを用いた場合、耐脱毛・摩耗性及び耐圧縮疲労性の効果が十分に得られない。
【0016】
芯成分に好ましく用いられるナイロンとしては、高分子量ナイロン6、高分子量ナイロン66、高分子量ナイロン46、高分子量ナイロン610、高分子量ナイロン612等であることが好ましい。詳しくはεカプロラクタムの重合(ナイロン6)や、ヘキサメチレンジアミン・アジピン酸塩の重縮合(ナイロン66)、1,4−ジアミノブタン・アジピン酸塩の重縮合(ナイロン46)、ヘキサメチレンジアミン・セバシン酸塩の重縮合(ナイロン610)、ヘキサメチレンジアミン・ドデカン二酸塩の重縮合(ナイロン612)等、ナイロン塩の重縮合により得られたナイロンが好ましく、しかもDSC(示差走査熱分析計)による融点が200℃以上である脂肪族ナイロンを挙げることができる。これらの高分子ナイロンの0.5g/95%硫酸100mlでの絶対粘度は、80mPa・s以上であることが好ましい。なお、これらの高分子量ナイロンは公知の重合方法、或いは一旦重合したナイロンフレークを、酸素を含まない120〜200℃の不活性ガス雰囲気内に置いて、固相重合する方法(例えば、特表2002−529604号)により製造されたものが用いられる。
【0017】
芯鞘複合繊維41の鞘成分に用いられるナイロンは、芯成分よりも低融点のナイロンが用いられる。鞘成分に好ましく用いられるナイロンとしては、ナイロン6/12、ナイロン6/610、ナイロン66/6、ナイロン66/12、ナイロン66/610等の二元共重合ナイロン、ナイロン6/66/12、ナイロン6/66/610等の三元共重合ナイロンを挙げることができる。なお、これらの共重合ナイロンは組成(共重合成分の重量%)により融点が変動することは良く知られる処であるが、本発明で使用できる共重合ナイロンは、その融点が180℃以下のものに限られる。
【0018】
プレスフェルトの製造工程の熱プレスの際に鞘成分が溶融することにより、芯鞘複合繊維41の繊維収縮が起こり、それに伴って湿紙接触側バット層21が緻密になり、フェルト表面の平滑性が向上する。
湿紙接触側バット層21が緻密になると、プレスフェルト10がニップ加圧下を脱してゆく際に、基層と、基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層と、プレス側の表面に形成された第2バット層にある水分が、緻密層がバリアとなって移動しにくくなり、再湿現象が効果的に抑制される。
【0019】
本発明では、基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層22には芯鞘複合繊維41が含まれず、通常のナイロン繊維42で構成され、湿紙接触側バット層21のみに芯鞘複合繊維41が含まれる構成とした。これにより平滑性、耐脱毛・摩耗性、耐圧縮疲労性及び搾水性がバランスよく具備される。第1バット層22に芯鞘複合繊維41が含まれる場合、鞘成分が溶融して、基層の湿紙側の表面に形成されたバット層全体が非圧縮性となるため、耐脱毛・摩耗性には優れるが、プレスでの搾水性に劣るものとなる。
【0020】
湿紙接触側バット層21は、芯鞘複合繊維41と通常のナイロン繊維42とが一定の割合で混綿された繊維で構成されるのが好ましく、これにより平滑性・耐摩耗性・耐圧縮疲労性をよりバランスよく具えることができる。この場合、混綿の割合は、芯鞘複合繊維41の含有率75%〜25%、ナイロン繊維42の含有率25%〜75%とするのが好ましい。
芯鞘複合繊維41の含有率が25%未満の場合、湿紙接触側バット層21の緻密性が低くなるためフェルト表面の平滑性が悪くなり、再湿現象を抑制する効果が十分に得られない。
一方、芯鞘複合繊維41の含有率が75%を超えた場合は、フェルトの平滑性・耐摩耗性に優れ、再湿現象を効果的に抑制することができる反面、湿紙接触側バット層21が圧縮疲労しやすく、偏平化しやすい傾向になる。
【0021】
また、湿紙接触側バット層21を多層構造にし、該湿紙接触側バット層21のプレス側から湿紙側に向かって、芯鞘複合繊維41の含有量を段階的に増加させてもよく、これにより、平滑性と耐摩耗性を一層向上させることができる。
図2は、湿紙接触側バット層21を、第1層21a、第2層21bの2層構造とした場合の実施形態を示したものであり、第1層21aは、第2層21bよりも芯鞘複合繊維41の含有量が多くなっている。
このような構造とすることにより、湿紙接触側バット層21は再湿性と搾水性をバランスのよい構造にすることができる。つまり、芯鞘複合繊維41の含有量が多い第1層21aは緻密になるから再湿性と平滑性が維持でき、また芯鞘複合繊維41の含有量の少ない第1層21bは緻密性は低いが圧縮性が寄与されるため搾水性が向上し、湿紙接触側バット層21としては再湿性と搾水性を同時に付与することができる。このことから、湿紙接触側バット層21が単層の場合と比べて、平滑性と脱毛・摩耗性が維持されつつ、緻密層が2層に構成されるために再湿性が一層改善され、しかも搾水性も改善されるといった相乗効果を有することとなる。
逆に、湿紙接触側バット層21のプレス側から湿紙側に向かって、芯鞘複合繊維41の含有量を段階的に減少させた場合には、上記の構造とは逆の構造となるから、湿紙接触側バット層21が単層の場合と比べて、平滑性と脱毛・摩耗性、および再湿性が悪化する。
なお、図2では湿紙接触側バット層21を2層にしたが、3層以上で構成してもよい。
【0022】
なお、芯鞘複合繊維41の芯部と鞘部の容積比率は特に限定されないが、5:1〜1:5の範囲、好ましくは1:1である。
【0023】
また、湿紙接触側バット層21、プレス側バット層23を構成するナイロン繊維42、及び、芯鞘複合繊維41と混綿されるナイロン繊維42としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン612等が好適である。
【0024】
基層30は、図1及び図2に示すように、整経糸31(フェルトのCMD方向糸)と打ち込み糸32(同じくMD方向糸)をモノフィラメント単糸で織成することにより得られた織布が好ましく用いられるが、織組織としては(2/1,1/2)、(3/1,1/3)、(5/1,1/5)等の二重組織や三重組織、或いは(一重組織+二重組織)、(二重組織+二重組織)等の積層組織が使用できる。モノフィラメント単糸の太さは直径0.1mm〜0.6mmで、組織の糸密度は10〜100本/25mmが使用できる。
なお、本発明はこれに限定されず、MD方向糸材とCMD方向糸材を織成せずに重ねた構成、フィルム、編物、細い帯状体をスパイラルに巻回して幅広の帯状体を得た構成等、種々の構成を適宜採用することができる。また、基層30の素材としては、羊毛等の天然繊維や、耐摩耗性、耐疲労性、伸張特性、防汚性等に優れたポリエステルやナイロン6、ナイロン66等の合成繊維が用いられる。
【0025】
また、芯鞘複合繊維41の繊度は、抄紙機のプレスパートの前段で使用するピックアップ用フェルトでは、15〜25デシテックス(dtex)程度、また、抄紙機のプレスパートの中段で使用する2番プレスや3番プレス用のフェルトでは、10〜20デシテックス(dtex)程度のものを用いるとよい。
また、抄紙機のプレスパートの後段で使用する4番プレスやシュープレス用のフェルトでは、5〜20デシテックス(dtex)程度のものを用いるとよい。
【0026】
また、ナイロン繊維42の繊度は、抄紙機のプレスパートの前段で使用するピックアップ用フェルトの湿紙側バット層20には10〜25デシテックス(dtex)程度、プレス側バット層23には15〜25デシテックス(dtex)程度のものを用いるとよい。
また、抄紙機のプレスパートの中段で使用する2番プレスや3番プレス用のフェルトの湿紙側バット層20には10〜15デシテックス(dtex)程度、プレス側バット層層23には10〜20デシテックス(dtex)程度の繊度のものを用いるとよい。
また、抄紙機のプレスパートの後段で使用する4番プレスやシュープレス用のフェルトの湿紙側バット層32には5〜15デシテックス(dtex)程度、プレス側バット層23には5〜20デシテックス(dtex)程度の繊度のものを用いるとよい。
【実施例】
【0027】
本発明の抄紙用プレスフェルトを、以下の実施例によって具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
(芯鞘複合繊維の製造)
精錬されたナイロン6(カプロラクタム:融点220℃)と共重合ナイロン6/12(カプロラクタム/ラウロラクタム:融点140℃)を準備し、各々を脱揮口付きの押出機に個別に投入した後、押出機中で揮発物を除去し、溶融した芯材のナイロン6及び鞘材の共重合ナイロン6/12を、溶融状態にて定量ギアポンプにより定量して、各芯鞘複合紡糸ノズルに供給した。芯鞘複合紡糸ノズルを経て紡糸された芯鞘複合繊維をチムニーで冷却しつつオイリングして一旦自然延伸比で巻取り、その後延伸し捲縮加工後に定長でカットし、芯鞘複合繊維のステープルファイバーを製造した。
なお、芯鞘複合繊維の製造には「東洋精密工業製のMODEL−EMF」紡糸装置を使用することができる。この装置では、押出機とネルソン式多段延伸機及び巻取機が使用できる。
【0029】
本実施例では、芯材として高分子量ナイロン6(25℃での絶対粘度85mPa・s,融点220℃)と、中分子量ナイロン6(25℃での絶対粘度70mPa・s,融点220℃)の2種類、鞘材料として共重合ナイロン6/12(融点140℃)を使用し、芯部と鞘部の容積比率が1:1である芯鞘複合繊維のステープルファイバーを2種類製造した。芯材として高分子量ナイロン6を使用したものを複合繊維A、中分子量ナイロン6を使用したものを複合繊維Bとする。
なお、本実施例の絶対粘度85mPa・sと絶対粘度70mPa・sの数値を、汎用的な測定手段(ウベローデ粘度法)での相対粘度(ηrイーターアール)で表すとηr=4.5及び3.0となる。因みに絶対粘度80mPa・sはηr=4.0に相当する。
【0030】
(抄紙用プレスフェルトの製造)
実施例、比較例ともに諸条件を共通とするため、全てのフェルトの基本構成を次の通りとした。
・基層:織布A[240dtexのナイロンモノフィラメントを2本撚り(下撚り)し、該下撚り糸を2本束ねて撚った(上撚り)撚糸を、MD方向糸材とCMD方向糸材にして織成した、(3/1,1/3)の二重組織]:坪量300g/m
:織布B[1100dtexのナイロンモノフィラメント単糸を、MD方向糸材とCMD方向糸材にして織成した、(3/1,1/3)の二重組織]:坪量300g/m
・バット層:湿紙接触側バット層(第1層)には(17dtexのナイロン6繊維、及び17dtexの複合繊維A又はBのステープルファイバー)で総坪量120g/m
:湿紙接触側バット層(第2層)には(17dtexのナイロン6繊維、及び17dtexの複合繊維Aのステープルファイバー)で総坪量120g/m
:第1バット層には(17dtexのナイロン6繊維、及び17dtexの複合繊維Aのステープルファイバー)で総坪量120g/m
:第2バット層には(17dtexのナイロン6繊維のステープルファイバー)で総坪量100g/m
・針打ち密度:700回/cm
・熱プレス:針打ち後のフェルトを、1対の熱カレンダーロール(ロール温度160℃、プレス圧30kg/cm)に、5m/minの速度で5回繰返して通過させ、0.5g/cm以上の密度を持つフェルトを得た。
実施例1〜8及び比較例1〜6のフェルトの構成を表1及び表2に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
上記の実施例及び比較例の抄紙用プレスフェルトを使用して、以下の条件、方法により再湿現象と搾水性の評価及び耐圧縮疲労性、耐脱毛・摩耗性、平滑性の評価を行なった。
【0034】
(再湿現象と搾水性の評価)
図3及び図4に示される装置により再湿現象と搾水性の評価を行った。
まず、図3、図4に示される装置において、図中、Pはプレスロール、110はトップ側フェルト、10はボトム側フェルト、SCはサクションチューブ、SNはシャワーノズルである。
なお、上記実施例及び比較例は、いずれの装置においてもボトム側フェルト10として使用されている。この場合、トップ側フェルトとしては、比較例2に示したものと同様のプレスフェルトを使用した。
また、図3、図4に示される装置は、ともに、フェルトの走行速度が800m/minであり、プレス圧力が80kg/cmである。
【0035】
図3に示される装置は、ニップ圧下を脱した湿紙が、ボトム側フェルト10に載置され搬送される構造となっている。従って、ニップ圧下を脱した後、ボトム側フェルト10に載置され搬送された位置(プレス出口1)における湿紙の湿潤度合いを計測すると、再湿現象が発生した湿紙の水分含有量データを得ることができる。
これに対し、図4に示される装置は、ボトム側フェルト10がプレスロールに接触する面積が大きく、ニップ圧下を脱した湿紙が、フェルト10,110に接触する時間が非常に短いものである。ここで、このニップ圧下を脱した直後の位置(プレス出口2)における湿紙の湿潤度合いを計測すると、再湿現象のあまり生じていない湿紙の水分含有量データが得られる。
【0036】
ここで、図3の装置による水分含有量データと、図4の装置による同データを求め、再湿現象と搾水性の評価を行った。搾水性の評価については、図3の装置によるプレス出口1での水分含有量データにおいて、水分48%以上49%未満のものは(搾水性評価「良」)とした。そして水分49%以上のものは(搾水性評価「不良」)とした。再湿現象の評価については、図3の装置による水分含有量データと、図4の装置による同データの差において、両者の差が0.5%未満のものは再湿現象を生じないものとした(評価「良」)。一方、この両者の差が0.5%以上1.0%未満のものは、やや再湿現象が生じているとし(評価「可」)、1.0%以上のものは再湿現象が生じているとした(評価「不良」)。
【0037】
(繰返し圧縮疲労試験)
120kg/cmで5Hzパルス荷重を繰返し30万回与え、圧縮疲労試験を行なった。圧縮疲労性を(試験後の密度/仕上がり密度)比で表し、1.30未満を「優」、1.30以上1.39以下のものを「良」、1.40以上のもの「不良」とした。
【0038】
(テーパー脱毛・摩耗試験)
JIS1023−1992に基づくテーパー研磨試験機により、抄紙用フェルトから脱落した繊維量を測ることにより、耐脱毛・摩耗性の評価を行なった。回転するターンテーブル上に円盤状の試験片を載置し、さらに試験片上に抵抗の大きい回転ロールを当接させて、繊維の脱落量(脱毛・摩耗量)を測った。(荷重:0.5kg、ホイール:CS−17、回転数:3000回、単位:mg)
脱毛・摩耗量が40mg以下のものを「良」、40mgを超えたものを「不良」とした。
【0039】
(表面粗さの測定)
テーパー脱毛・摩耗試験前の、仕上がりフェルトの十点平均粗さRz(μm)(JIS−B0601)を測定し、フェルト表面の平滑性の評価を行なった。
表面粗さ60μm未満のものを「優」、60μm以上99μm以下のものを「良」、100μm以上のものを「不良」とした。
各試験の測定結果及び評価を表3に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
表3の実施例1〜8に示されるように、本発明の抄紙用プレスフェルトは、再湿現象を抑制すると同時に、耐圧縮疲労性、耐脱毛・摩耗性、平滑性及び搾水性の機能をバランス良く具備することが確認された。
【0042】
第1バット層を芯鞘複合繊維で構成した比較例1は、耐圧縮疲労性と耐脱毛・摩耗性は良いが、フェルト表面の平滑性には劣ることが分かる。
また、湿紙接触側バット層の芯鞘複合繊維の含有量が25%未満である実施例3や比較例3及び芯鞘繊維を含まない比較例2では、耐圧縮疲労性の機能は果たしているが、再湿現象が抑制されないことが分かる。
また、湿紙接触側バット層のプレス側から湿紙側に向かって、芯鞘複合繊維の含有量を段階的に減少させた比較例4は、耐圧縮疲労性・再湿性の機能を果たしているが、平滑性が悪い。これは芯鞘複合繊維をより少なく含む芯鞘複合繊維層(第2層)がフェルト表面を構成するためと考えられる。
また、芯鞘複合繊維の芯成分に中分子量ナイロンを用いた比較例5は、高分子量ナイロンを用いた実施例1と比較して、耐圧縮疲労性・耐脱毛・摩耗性が悪くなることが分かる。さらに、実施例8は、基層にモノフィラメント単糸で織成された織布を基層Bとして使用しているので、基層Aのモノフィラメント撚糸で織成された織布を使用した実施例1よりもプレス出口での水分(1及び2)が何れも低く、搾水性が優れることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明のプレスフェルトの実施形態の断面図。
【図2】本発明のプレスフェルトの別の実施形態の断面図。
【図3】本発明のプレスフェルトの効果を確認するための装置の概要図。
【図4】本発明のプレスフェルトの効果を確認するための装置の概要図。
【図5】製紙機械のプレス装置の概略説明図。
【符号の説明】
【0044】
10:抄紙用プレスフェルト
21:湿紙接触側バット層(芯鞘複合繊維層)
21a,21b:湿紙接触側バット層(芯鞘複合繊維層)
22:第1バット層
23:第2バット層
30:基層
31:整経糸
32:打ち込み糸
41:芯鞘複合繊維
42:ナイロン繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基層と、基層の湿紙側の表面に形成された第1バット層と、プレス側の表面に形成された第2バット層と、前記第1バット層の湿紙側の表面に形成された湿紙接触繊維層とを備え、
前記湿紙接触繊維層が絶対粘度が80mPa・s以上である高分子量ナイロンからなる芯成分と、該芯成分よりも低融点のナイロンからなる鞘成分とから構成される芯鞘複合繊維を含み、
前記第1バット層が、前記芯鞘複合繊維を含まないナイロンの層からなることを特徴とする、
抄紙用プレスフェルト。
【請求項2】
前記湿紙接触繊維層における前記芯鞘複合繊維の含有率が25%〜75%である、請求項1の抄紙用プレスフェルト。
【請求項3】
前記湿紙接触繊維層を多層構造とし、前記第1バット層のプレス側から湿紙側に向かって、前記芯鞘複合繊維の含有量を段階的に増加させた、請求項1又は2の抄紙用プレスフェルト。
【請求項4】
前記基層が、モノフィラメント単糸の整経糸と打ち込み糸とから織成された織布である、請求項1〜3のいずれかの抄紙用プレスフェルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−217848(P2007−217848A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−66678(P2006−66678)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】