説明

抄紙用プレスフェルト

【課題】
24枚の綾枠を備えた織機に対し、安価で重装備とならない16枚の綾枠を備えた織機において、緯糸1/5組織の織組織を有する抄紙用プレスフェルトの補強繊維基材を開発することを課題とする。また、当該補強繊維基材を用いたプレスフェルトにおいて、抄紙機での使用中、搾水性が向上し、振動が低減する抄紙用プレスフェルトを提供することを課題とする。
【解決手段】 抄紙用プレスフェルトの補強繊維基材であって、前記補強繊維基材は、6本1組の湿紙側経糸群と、6本1組のロール側経糸群と、前記湿紙側経糸群及びロール側経糸群に織り合わされる8本1組の緯糸群とから成り、更に前記湿紙側経糸群及び前記ロール側経糸群は6対の湿紙側経糸及びロール側経糸の繰返し、且つ前記8本の緯糸群の繰返しによる経二重構造を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機に使用される抄紙用プレスフェルトの補強繊維基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙の原料から水分を除去する抄紙機は、一般的にワイヤーパートとプレスパートとドライヤーパートとを備えている。これらワイヤーパート、プレスパートおよびドライヤーパートは、湿紙の搬送方向に沿ってこの順番に配置されている。
【0003】
ワイヤーパートからプレスパートに移行した湿紙は、通常補強繊維基材にバット層がニードリングされたフェルトによって搬送され、該フェルトと共にロールプレスあるいはシュープレス機構によってプレスされることにより、湿紙内の水分が除去される。
【0004】
前記フェルトの一般的な構成は、補強繊維基材にバット繊維をニードリングによって絡合一体化されたものであり、前記補強繊維基材は、一般的に織機で製織された織布が使用される。該織布の製織方法としては、袋織りと平織りとがあり、袋織りとは、織機上の経糸(整径糸でフェルトの緯糸となる)と織機上の緯糸(打込糸でフェルトの経糸となる)を、予め環状(エンドレス状)に製織する方法である。また、平織りとは、織機上の経糸(整径糸でフェルトの経糸となる)と織機上の緯糸(打込糸でフェルトの緯糸となる)を、織布の経糸方向長さが抄紙機のフェルトの走行方向の長さに等しくなるように織布を織り上げる方法で、織り上げた織布の両端を接合(縫合)することにより織布を環状にしている。
【0005】
袋織りは、平織りに対し、表布(図13(131))、及び裏布(図13(132))のそれぞれの経糸(整径糸でフェルトの緯糸となる)を制御する綾枠(綾金、図13(133、134)が必要となり、これは単純に平織りの2倍量を必要とし、織機が重装備かつ高価なものとなる。しかしながら、袋織りは、前述のように予め環状に製織している為、平織りのように製織後に接合(縫合)する作業が必要なく、生産性が極めて高いという利点がある。
【0006】
ここで、図面を用いて、補強繊維基材に適用される一般的な袋織の組織について説明する。なお、便宜上、打込糸を「経糸」、整径糸を「緯糸」と表記し、以下に経糸2重緯糸1重組織について例示する。
【0007】
図5は、4本1組の湿紙側経糸群(51(A、B、C、D))と、4本1組のロール側経糸群(52(A’、B’、C’、D’))と、前記湿紙側経糸群(51)及びロール側経糸群(52)に織り合わされる4本1組の緯糸群(53(a、b、c、d))とからなり、更に前記湿紙側経糸群(51)及び前記ロール側経糸群(52)は4対(A・A’、B・B’、C・C’、D・D’)の経糸の繰返し、且つ前記4本の緯糸群(53)の繰返しによる経二重構造を形成する様子を表しており、左側に経方向断面図(MD断面図)、右側に緯方向断面図(CMD断面図)を示す。
【0008】
そして、前記4本の緯糸群(53)の各緯糸が、連続する前記湿紙側経糸群(51)の1本の上部及び3本の下部を通り、且つ、連続する前記ロール側経糸群(52)の1本の下部及び3本の上部を通る繰返し組織、すなわち3/1・1/3(経糸が連続する緯糸の上部を通る緯糸本数/経糸が連続する緯糸の下部を通る緯糸本数・緯糸が連続するロール側経糸の下部を通るロール側経糸本数/緯糸が連続するロール側経糸の上部を通るロール側経糸本数)組織を形成する。
【0009】
緯糸群(53)が4本1組の繰返しであることから、当該織組織を袋織で製織する場合、表布、裏布の緯糸を制御する綾枠がそれぞれ最低4枚ずつ必要となり、最低合計8枚の綾枠があれば、製織することが可能である。
【0010】
図6は、8本1組の湿紙側経糸群(61(A、B、C、D、E、F、G、H))と8本1組のロール側経糸群(62(A’、B’、C’、D’、E’、F’、G’、H’))と、前記湿紙側経糸群(61)及びロール側経糸群(62)に織り合わされる8本1組の緯糸群(63(a、b、c、d、e、f、g、h))とからなり、更に前記湿紙側経糸群(61)及び前記ロール側経糸群(62)は8対(A・A’、B・B’、C・C’、D・D’、E、E’、F・F’、G・G’、H・H’)の経糸の繰返し、且つ前記8本の緯糸群(63)の繰返しによる経二重構造を形成する様子を表しており、左側に経方向断面図(MD断面図)、右側に緯方向断面図(CMD断面図)を示す。
【0011】
そして、前記8本の緯糸群(63)の各緯糸が、連続する前記湿紙側経糸群(61)の1本の上部及び7本の下部を通り、且つ、連続する前記ロール側経糸群(62)の1本の下部及び7本の上部を通る繰返し組織、すなわち7/1・1/7組織を形成する。
【0012】
緯糸群(63)が8本1組の繰返しであることから、当該織組織を袋織で製織する場合、表布、裏布の緯糸を制御する綾枠がそれぞれ最低8枚ずつ必要となり、最低合計16枚の綾枠があれば、製織することが可能である。
【0013】
図7は、8本1組の湿紙側経糸群(71(A、B、C、D、E、F、G、H))と8本1組のロール側経糸群(72(A’、B’、C’、D’、E’、F’、G’、H’))と、前記湿紙側経糸群(71)及びロール側経糸群(72)に織り合わされる8本1組の緯糸群(73(a、b、c、d、e、f、g、h))とからなり、更に前記湿紙側経糸群(71)及び前記ロール側経糸群(72)は8対(A・A’、B・B’、C・C’、D・D’、E、E’、F・F’、G・G’、H・H’)の経糸の繰返し、且つ前記8本の緯糸群(73)の繰返しによる経二重構造を形成する様子を表しており、左側に経方向断面図(MD断面図)、右側に緯方向断面図(CMD断面図)を示す。
【0014】
そして、前記8本の緯糸群(73)の各緯糸が、連続する前記湿紙側経糸群(71)の1本の上部及び7本の下部を通り、且つ、連続する前記ロール側経糸群(72)の1本の下部、3本の上部、1本の下部及び3本の上部を通る繰返し組織、すなわち7/1・1/3組織を形成する。
【0015】
緯糸群(73)が8本1組の繰返しであることから、当該織組織を袋織で製織する場合、表布、裏布の緯糸を制御する綾枠がそれぞれ最低8枚ずつ必要となり、最低合計16枚の綾枠があれば、製織することが可能である。
【0016】
前記3/1・1/3組織を袋織で形成する際、最低8枚の綾枠が必要であると述べたが、2倍量の16枚の綾枠でも当然形成することは可能である。従って、16枚の綾枠を備えた織機があれば、前記3/1・1/3、7/1・1/7、7/1・1/3の各組織を同一織機で製織することが可能である。
【0017】
図8は、6本1組の湿紙側経糸群(81(A、B、C、D、E、F))と6本1組のロール側経糸群(82(A、B、C、D、E、F))と、前記湿紙側経糸群(81)及びロール側経糸群(82)に織り合わされる6本1組の緯糸群(83(a、b、c、d、e、f))とからなり、更に前記湿紙側経糸群(81)及び前記ロール側経糸群(82)は6対(A・A’、B・B’、C・C’、D・D’、E・E’、F・F’)の経糸の繰返し、且つ前記6本の緯糸群(83)の繰返しによる経二重構造を形成する様子を表しており、左側に経方向断面図(MD断面図)、右側に緯方向断面図(CMD断面図)を示す。
【0018】
そして、前記6本の緯糸群(83)の各緯糸が、連続する前記湿紙側経糸群(81)の1本の上部及び5本の下部を通り、且つ、連続する前記ロール側経糸群(82)の1本の下部及び5本の上部を通る繰返し組織、すなわち5/1・1/5組織を形成する。
【0019】
緯糸群(83)が6本1組の繰返しであることから、当該織組織を袋織で製織する場合、表布、裏布の緯糸を制御する綾枠がそれぞれ最低6枚ずつ必要となり、最低合計12枚の綾枠があれば、製織することが可能である。
【0020】
また、特許文献1に記載の補強繊維基材(織布)は、12本1組の湿紙側経糸群(7、8、10、11、13、14、16、17、19、20、22、23)と6本1組のロール側経糸群(9、12、15、18、21、24)と前記湿紙側経糸群及びロール側経糸群に織り合わされる6本1組の緯糸群(1、2、3、4、5、6)とからなり、更に前記湿紙側経糸群及び前記ロール側経糸群は6対(7・8・9、10・11・12、13・14・15、16・17・18、19・20・21、22・23・24)の経糸の繰返し、且つ前記6本の緯糸群の繰返しによる経二重構造を形成する織布が開示されている。
【0021】
そして、前記6本の緯糸群の各糸が、連続する前記湿紙側経糸群の1本の上部、2本の下部、1本の上部及び8本の下部を通り、且つ、連続する前記ロール側経糸群の1本の下部及び5本の上部を通る繰返し組織で、湿紙側経糸本数がロール側経糸本数の2倍となった、5/1・1/5組織を形成する織布が開示されている。
【0022】
特許文献1記載の補強繊維基材(織布)は、緯糸群が6本1組の繰返しであることから、当該織組織を袋織で製織する場合、表布、裏布の緯糸を制御する綾枠がそれぞれ最低6枚ずつ必要となり、最低合計12枚の綾枠があれば、製織することが可能である。
【0023】
更に特許文献2に記載の補強繊維基材(基布)は、12本1組の湿紙側経糸群(31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42)と6本1組のロール側経糸群(51、52、53、54、55、56)と前記湿紙側経糸群及びロール側経糸群に織り合わされる12本1組の緯糸群(61、62、63、64、65、66、67、78、79、70、71、72)とからなり、更に前記湿紙側経糸群及び前記ロール側経糸群は6対(31・32・51、33・34・52、35・36・53、37・38・54、39・40・55、41・42・56)の経糸の繰返し、且つ前記12本の緯糸群の繰返しによる経二重構造を形成する織布が開示されている。
【0024】
そして、前記12本の緯糸群の各糸が、連続する前記湿紙側経糸群の1本の上部及び11本の下部を通り、且つ、連続する前記ロール側経糸群の1本の下部及び5本の上部を通る繰返し組織で、湿紙側経糸本数がロール側経糸本数の2倍となった、11/1・1/5組織を形成する織布が開示されている。
【0025】
特許文献2記載の補強繊維基材(基布)は、緯糸群が12本1組の繰返しであることがら、当該織組織を袋織で製織する場合、表布、裏布の緯糸を制御する綾枠がそれぞれ最低12枚ずつ必要となり、最低合計24枚の綾枠があれば、製織することが可能である。
【0026】
前記5/1・1/5組織及び特許文献1記載の湿紙側経糸本数がロール側経糸本数の2倍となった、5/1・1/5組織を袋織で形成する際、最低12枚の綾枠が必要であると述べたが、2倍量の24枚の綾枠でも当然形成することは可能である。また前記3/1・1/3組織を袋織で形成する際、最低8枚の綾枠が必要であると述べたが、3倍量の24枚の綾枠でも当然形成することは可能である。従って、24枚の綾枠を備えた織機があれば、前記3/1・1/3、5/1・1/5、特許文献1記載の湿紙側経糸本数がロール側経糸本数の2倍となった5/1・1/5組織、特許文献2記載の湿紙側経糸本数がロール側経糸本数の2倍となった11/1・1/5の各組織を同一織機で製織することが可能である。
【0027】
ここで24枚の綾枠を備えた織機で、16枚の綾枠を必要とする7/1・1/7及び7/1・1/3組織について製織することは可能であるが、綾枠(綾金)8枚分の糸を筬から取り除く必要がある。更にこの後、24枚の綾枠を必要とする5/1・1/5及び11/1・1/5組織について再び製織する際、取り除いた糸を筬に通さなければならない。この作業を、仕掛替え作業と呼ぶが、これは作業工数が極めて大きく、生産性が非常に悪いため、実用的ではない。
また16枚の綾枠を備えた織機と12枚の綾枠を備えた織機の関係についても同様なことがいえる。
【0028】
ここで、作業工数が極めて大きく、生産性が非常に悪い仕掛替え作業をしないことを前提に、前記各織組織と必要綾枠枚数について、表1にまとめた。
【0029】
【表1】

【0030】
表1からわかるように、24枚の綾枠を備えた織機では、7/1・1/7及び7/1・1/3組織といった緯糸群が8本1組の繰返しである組織を形成することはできない。また、16枚の綾枠を備えた織機では、5/1・1/5組織といった緯糸群が6本1組の繰返しである組織を形成することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】特開平6−146191号公報
【特許文献2】特開2006−265816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
24枚の綾枠を備えた織機に対し、安価で重装備とならない16枚の綾枠を備えた織機において、緯糸1/5組織の織組織を有する抄紙用プレスフェルトの補強繊維基材を開発することを課題とする。また、当該補強繊維基材を用いたプレスフェルトにおいて、抄紙機での使用中、搾水性が向上し、振動が低減する抄紙用プレスフェルトを提供することを課題とする。
【課題を解決する為の手段】
【0033】
本発明は、以下の技術を基礎とする。
(1)抄紙用プレスフェルトの補強繊維基材であって、前記補強繊維基材は、6本1組の湿紙側経糸群(11、21、31、41(A、B、C、D、E、F))と、6本1組のロール側経糸群(12、22、32、42(A、B、C、D、E、F))と、前記湿紙側経糸群及びロール側経糸群に織り合わされる8本1組の緯糸群(13、23、33、43(a、b、c、d、e、f、g、h))とから成り、更に前記湿紙側経糸群及び前記ロール側経糸群は6対の湿紙側経糸及びロール側経糸(A・A’、B・B’、C・C’、D・D’、E・E’、F・F’)の繰返し、且つ前記8本の緯糸群の繰返しによる経二重構造を形成することを特徴とする、抄紙用プレスフェルトの補強繊維基材を提供するものである。
【0034】
(2)前記8本の緯糸群の各緯糸が、連続する前記湿紙側経糸群の1本の上部及び5本の下部を通り、且つ、連続する前記ロール側経糸群の1本の下部及び5本の上部を通る繰返し組織であることを特徴とする、(1)に記載の抄紙用プレスフェルトの補強繊維基材を提供するものである。
【0035】
(3)前記8本の緯糸群が、2種の2本1組(a・e及びb・f、又はa・e及びc・g、又はa・e及びd・h、又はb・f及びc・g、又はb・f及びd・h、又はc・g及びd・h)の同一組織を有し、前記同一組織を有する緯糸と織り合わされる湿紙側経糸が、連続する前記緯糸群の1本の下部及び3本の上部を通り、且つ、前記同一組織を有する緯糸と織り合わされるロール側経糸が、連続する前記緯糸群の1本の上部及び3本の下部を通る繰返し組織であることを特徴とする、請求項2に記載の抄紙用プレスフェルトの補強繊維基材を提供するものである。
【0036】
(4)前記補強繊維基材の、前記湿紙側経糸群と緯糸群とで構成される湿紙側面のナックル部及び前記ロール側経糸群と緯糸群とで構成されるロール側面のナックル部が、各々隣接しないことを特徴とする、(1)から(3)に記載の抄紙用プレスフェルトの補強繊維基材を提供するものである。
【0037】
(5)前記補強繊維基材の、前記湿紙側経糸群と緯糸群とで構成される湿紙側面のナックル部、及び前記ロール側経糸群と緯糸群とで構成されるロール側面のナックル部が、2つ隣接するナックル部を含むことを特徴とする、(1)から(3)に記載の抄紙用プレスフェルトの補強繊維基材を提供するものである。
【0038】
(6)前記補強繊維基材の、前記湿紙側経糸群と緯糸群とで構成される湿紙側面のナックル部、及び前記ロール側経糸群と緯糸群とで構成されるロール側面のナックル部が、2つ隣接するナックル部のみから形成されることを特徴とする、(5)に記載の抄紙用プレスフェルトの補強繊維基材を提供するものである。
【0039】
(7)前記補強繊維基材の、前記湿紙側経糸群と緯糸群とで構成される湿紙側面のナックル部、及び前記ロール側経糸群と緯糸群とで構成されるロール側面のナックル部が、更に3つ隣接するナックル部を含むことを特徴とする、(5)に記載の抄紙用プレスフェルトの補強繊維基材を提供するものである。
【発明の効果】
【0040】
24枚の綾枠を備えた織機に対し、安価で重装備とならない16枚の綾枠を備えた織機において、緯糸1/5組織の織組織を有する抄紙用プレスフェルトの補強繊維基材を開発できた。また、当該基布を用いたプレスフェルトにおいて、抄紙機での使用中、搾水性が向上し、振動が低減する抄紙用プレスフェルトを提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1の実施形態による補強繊維基材断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態による補強繊維基材断面図である。
【図3】本発明の第3の実施形態による補強繊維基材断面図である。
【図4】本発明の第4の実施形態による補強繊維基材断面図である。
【図5】従来技術の3/1・1/3織組織の補強繊維基材断面図である。
【図6】従来技術の7/1・1/7織組織の補強繊維基材断面図である。
【図7】従来技術の7/1・1/3織組織の補強繊維基材断面図である。
【図8】従来技術の5/1・1/5織組織の補強繊維基材断面図である。
【図9】補強繊維基材湿紙側面のナックル部を表す平面図である。
【図10】抄紙機のプレスパートの一例を示す概略図である。
【図11】抄紙用プレスフェルトの一例の緯方向断面図である。
【図12】筋曲げの概念を説明する概略図である。
【図13】袋織の概念を説明する概略図である。
【発明を実施する為の形態】
【0042】
図10に抄紙機のプレスパート(100)の一例を示す。このプレスパート(100)には、対抗するロールで構成される4つのプレス部(102(a、b、c、d))が形成されている。一連のロールに掛けられた抄紙用プレスフェルト(101)は、湿紙(107)と共に、プレス部を通過することで加圧され、湿紙に含まれる水分が抄紙用プレスフェルト(101)に移行する。抄紙用プレスフェルトに移行した水分は、スプラッシュ(図示せず)、サクションロール(102)、サクションボックス(106)等によって、抄紙機系外に排出される。
【0043】
図11に抄紙用プレスフェルト(101)の緯方向断面(CMD断面)の一例を示す。抄紙用プレスフェルトは、補強繊維基材(111)と表バット層(115)と裏バット層(116)から構成されている。通常表バット層(115)及び裏バット層(116)はニードリング加工することによって、補強繊維基材(111)に絡合一体化される。なお、裏バット層(116)については、省略することもできる。
【0044】
前記補強繊維基材(111)は、通常経糸(112、113)と緯糸(114)とを織機等により製織した織布が一般的に使用される。補強繊維基材(111)、表バット層(115)及び裏バット層(116)のバット繊維の素材としては、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、脂肪族ポリアミド(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド612等)、芳香族ポリアミド(アラミド)、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、羊毛、綿、ウール、金属等を使用することができる。
【0045】
以下に本発明における補強繊維基材の実施例について説明する。
実施例1〜4における補強繊維基材の基本設計を以下の通りとする。
湿紙側経糸(打込糸) :330dtexポリアミド6モノフィラメントの2本撚糸を 更に3つ撚り合わせた撚糸を45本/5cm配置
ロール側経糸(打込糸):330dtexポリアミド6モノフィラメントの2本撚糸を 更に3つ撚り合わせた撚糸を45本/5cm配置
緯糸(整径糸) :330dtexポリアミド6モノフィラメントの3本撚糸を 36本/5cm配置
目付 :650g/m
【実施例】
【実施例1】
【0046】
補強繊維基材の織組織は、図1に示すように、6本1組の湿紙側経糸群(11(A、B、C、D、E、F))と6本1組のロール側経糸群(12(A’、B’、C’、D’、E’、F’)と、前記湿紙側経糸群(11)及びロール側経糸群(12)に織り合わされる8本1組の緯糸群(13(a、b、c、d、e、f、g、h))とからなり、更に前記湿紙側経糸群(11)及び前記ロール側経糸群(12)は6対の湿紙側経糸及びロール側経糸(A・A’、B・B’、C・C’、D・D’、E・E’、F・F’)の繰返し、且つ前記8本の緯糸群の繰返しによる経二重構造とした。また、前記8本の緯糸群の各緯糸が、連続する前記湿紙側経糸群の1本の上部及び5本の下部を通り、且つ、連続する前記ロール側経糸群の1本の下部及び5本の上部を通る繰返し組織で、2種の2本1組(a・e及びb・f)の同一組織の緯糸を有する織組織とした。本実施例1の織組織では、図9(1)に示すように、単位組織(91)の繰返しとなるが、湿紙側経糸群(11)と緯糸群(13)とで構成される湿紙側面のナックル部(90)は各々隣接していない。
【実施例2】
【0047】
補強繊維基材の織組織は、図2に示すように、6本1組の湿紙側経糸群(21(A、B、C、D、E、F))と6本1組のロール側経糸群(22(A’、B’、C’、D’、E’、F’)と、前記湿紙側経糸群(21)及びロール側経糸群(22)に織り合わされる8本1組の緯糸群(23(a、b、c、d、e、f、g、h))とからなり、更に前記湿紙側経糸群(21)及び前記ロール側経糸群(22)は6対の湿紙側経糸及びロール側経糸(A・A’、B・B’、C・C’、D・D’、E・E’、F・F’)の繰返し、且つ前記8本の緯糸群の繰返しによる経二重構造とした。また、前記8本の緯糸群の各緯糸が、連続する前記湿紙側経糸群の1本の上部及び5本の下部を通り、且つ、連続する前記ロール側経糸群の1本の下部及び5本の上部を通る繰返し組織で、2種の2本1組(a・e及びb・f)の同一組織の緯糸を有する織組織とした。本実施例2の織組織では、図9(2)に示すように、単位組織(91)の繰返しとなるが、湿紙側経糸群(21)と緯糸群(23)とで構成される湿紙側面のナックル部(90)は、2つ隣接するナックル部(92)を含む。
【実施例3】
【0048】
補強繊維基材の織組織は、図3に示すように、6本1組の湿紙側経糸群(31(A、B、C、D、E、F))と6本1組のロール側経糸群(32(A’、B’、C’、D’、E’、F’)と、前記湿紙側経糸群(31)及びロール側経糸群(32)に織り合わされる8本1組の緯糸群(33(a、b、c、d、e、f、g、h))とからなり、更に前記湿紙側経糸群(31)及び前記ロール側経糸群(32)は6対の湿紙側経糸及びロール側経糸(A・A’、B・B’、C・C’、D・D’、E・E’、F・F’)の繰返し、且つ前記8本の緯糸群の繰返しによる経二重構造とした。また、前記8本の緯糸群の各緯糸が、連続する前記湿紙側経糸群の1本の上部及び5本の下部を通り、且つ、連続する前記ロール側経糸群の1本の下部及び5本の上部を通る繰返し組織で、2種の2本1組(a・e及びb・f)の同一組織の緯糸を有する織組織とした。本実施例3の織組織では、図9(3)に示すように、単位組織(91)の繰返しとなるが、湿紙側経糸群(31)と緯糸群(33)とで構成される湿紙側面のナックル部(90)は、2つ隣接するナックル部(92)のみから構成される。
【実施例4】
【0049】
補強繊維基材の織組織は、図4に示すように、6本1組の湿紙側経糸群(41(A、B、C、D、E、F))と6本1組のロール側経糸群(42(A’、B’、C’、D’、E’、F’)と、前記湿紙側経糸群(41)及びロール側経糸群(42)に織り合わされる8本1組の緯糸群(43(a、b、c、d、e、f、g、h))とからなり、更に前記湿紙側経糸群(41)及び前記ロール側経糸群(42)は6対の湿紙側経糸及びロール側経糸(A・A’、B・B’、C・C’、D・D’、E・E’、F・F’)の繰返し、且つ前記8本の緯糸群の繰返しによる経二重構造とした。また、前記8本の緯糸群の各緯糸が、連続する前記湿紙側経糸群の1本の上部及び5本の下部を通り、且つ、連続する前記ロール側経糸群の1本の下部及び5本の上部を通る繰返し組織で、2種の2本1組(a・e及びc・g)の同一組織の緯糸を有する織組織とした。本実施例4の織組織では、図9(4)に示すように、単位組織(91)の繰返しとなるが、湿紙側経糸群(41)と緯糸群(43)とで構成される湿紙側面のナックル部(90)は、2つ隣接するナックル部(92)及び3つ隣接するナックル部(93)を含む。
【0050】
実施例1〜4に記載された織布は、安価で重装備とならない16枚の綾枠を備えた織機で、緯糸1/5組織について、緯糸1/3組織、緯糸1/7組織と仕掛換えすることなく製造することが可能となり、生産性を大きく向上させることができた。
【参考例1】
【0051】
実施例1の補強繊維基材に、表バット層として、繊度11dtex、ポリアミド6の短繊維バットを600g/m、裏バット層として、繊度13dtex、ポリアミド6の短繊維バットを100g/mをニードリングによって絡合一体化させ、目付1350g/mの抄紙用プレスフェルトを製作した。
【比較例1】
【0052】
図7に示す7/1・1/3の織組織で、湿紙側経糸(打込糸)として、繊度330dtex、ポリアミド6モノフィラメントの2本撚糸を更に3つ撚り合わせた撚糸を5cm間に45本、ロール側経糸(打込糸)として、繊度330dtex、ポリアミド6モノフィラメントの2本撚糸を更に3つ撚り合わせた撚糸を5cm間に45本、緯糸(整径糸)として330dtexポリアミド6モノフィラメントの3本撚糸を5cm間に36本配置し、目付650g/mの補強繊維基材を製作した。該補強繊維基材に、表バット層として、繊度11dtex、ポリアミド6の短繊維バットを600g/m、裏バット層として、繊度18dtex、ポリアミド6の短繊維バットを100g/mをニードリングによって絡合一体化させた、目付1350g/mの抄紙用プレスフェルトを製作した。
【0053】
参考例1と比較例1の抄紙用プレスフェルトの圧縮率、回復率、5%及び10%伸張時の、L方向バイアス強力及びR方向バイアス強力について表2に示す。
なお、圧縮率、回復率は、以下で定義される。
サンプルサイズ:117mmφ
初加重厚み(mm、285g/cm2加圧厚み):T0
加圧厚み(mm、30kg/cm2加圧厚み):T1
除圧厚み(mm、285g/cm2加圧厚み):T2
圧縮率(%)=(T0−T1)÷T0×100(%)
回復率(%)=(T2−T1)÷T1×100(%)
またL方向バイアス強力、R方向バイアス強力は以下で定義される。
サンプルサイズ:100mm×70mm(経方向×緯方向)
L方向バイアス強力:湿紙側が見える状態で左上部と右下部の対角を引張った強力
R方向バイアス強力:湿紙側が見える状態で右上部と左下部の対角を引張った強力
【0054】
【表2】

【0055】
表2から分かるように、参考例1の本発明の補強繊維を用いた抄紙用プレスフェルトの圧縮率及び回復率は、比較例1に対し良好で、抄紙機で当該フェルトを使用したとき、湿紙の搾水性向上に寄与するものである。
【0056】
また図12には、抄紙用プレスフェルト(101)が抄紙機で使用される際の、「筋曲げ」の概念図を示す。抄紙用プレスフェルト(101)は、抄紙機で走行中に、フェルト周期の振動が発生する場合がある。この振動は、フェルトの巾方向(CMD方向)に平行に伸びる質量斑等によって振動起爆点(123、実際は目視できない)が構成されることによるが、このフェルトの巾方向に平行に伸びる振動起爆点(123)を、フェルトのフロントサイドからバックサイドにかけて位置をずらす、すなわち、フェルトの巾方向に対し角度を付与することによって、振動を低減、抑制することが可能である。このことを「筋曲げ」と呼ぶが、具体的には、フェルト走行時のフロントサイド(124)及びバックサイド(125)のフェルト走行距離を変化させることで実現できる。
【0057】
表2に、参考例1及び比較例1のバイアス強力について記したが、参考例1の本発明の補強繊維基材を用いた抄紙用プレスフェルトのバイアス強力は、比較例1に対し、25%程度低く、抄紙機で当該フェルトを使用したとき、前記「筋曲げ」による振動を低減させる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0058】
24枚の綾枠を備えた織機に対し、安価で重装備とならない16枚の綾枠を備えた織機において、緯糸1/5組織を有する織組織の製織が可能となり、しかも緯糸1/3組織及び1/7組織を有する織組織と仕掛替え作業をすることなく製織可能で、生産性が非常に優れる抄紙用プレスフェルトの補強繊維基材を提供することができる。また、本発明による補強繊維基材を用いた抄紙用プレスフェルトは、抄紙機での使用中、搾水性が向上し、「筋曲げ」による振動低減効果がある。
【符号の説明】
【0059】
11、21、31、41、81(A・B・C・D・E・F)…湿紙側経糸
12、22、32、42、82(A’・B’・C’・D’・E’・F’)…ロール側経糸
13、23、33、43(a・b・c・d・e・f・g・h)…緯糸
51(A・B・C・D)…湿紙側経糸
52(A’・B’・C’・D’)…ロール側経糸
53(a・b・c・d)…緯糸
61、71(A・B・C・D・E・F・G・H)…湿紙側経糸
62、72(A’・B’・C’・D’・E’・F’・G’・H’)…ロール側経糸
63、73(a・b・c・d・e・f・g・h)…緯糸
83(a・b・c・d・e・f)…緯糸
90…ナックル部
91…繰返し単位組織
92…2つの隣接するナックル部
93…3つの隣接するナックル部
100…プレスパート
101…抄紙用プレスフェルト
102(a・b・c・d)…プレス部
103…センターロール
104…グルーブドロール
105…サクションロール
106…サクションボックス
107…湿紙
111…フェルトの補強繊維基材
112…補強繊維基材の湿紙側経糸
113…補強繊維基材のロール側経系
114…補強繊維基材の緯糸
115…表バット層
116…裏バット層
123…振動起爆点
124…フロントサイド
125…バックサイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙用プレスフェルトの補強繊維基材であって、前記補強繊維基材は、6本1組の湿紙側経糸群(11、21、31、41(A、B、C、D、F、F))と、6本1組のロール側経糸群(12、22、32、42(A、B、C、D、E、F))と、前記湿紙側経糸群及びロール側経糸群に織り合わされる8本1組の緯糸群(31、32、33、34(a、b、c、d、e、f、g、h))とから成り、更に前記湿紙側経糸群及び前記ロール側経糸群は6対の湿紙側経糸及びロール側経糸(A・A、B・B、C・C、D・D、E・E、F・F)の繰返し、且つ前記8本の緯糸群の繰返しによる経二重構造を形成することを特徴とする、抄紙用プレスフェルトの補強繊維基材。
【請求項2】
前記8本の緯糸群の各緯糸が、連続する前記湿紙側経糸群の1本の上部及び5本の下部を通り、且つ、連続する前記ロール側経糸群の1本の下部及び5本の上部を通る繰返し組織であることを特徴とする、請求項1に記載の抄紙用プレスフェルトの補強繊維基材。
【請求項3】
前記8本の緯糸群が、2種の2本1組(a・e及びb・f、又はa・e及びc・g、又はa・e及びd・h、又はb・f及びc・g、又はb・f及びd・h、又はc・g及びd・h)の同一組織を有し、前記同一組織を有する緯糸と織り合わされる湿紙側経糸が、連続する前記緯糸群の1本の下部及び3本の上部を通り、且つ、前記同一組織を有する緯糸と織り合わされるロール側経糸が、連続する前記緯糸群の1本の上部及び3本の下部を通る繰返し組織であることを特徴とする、請求項2に記載の抄紙用プレスフェルトの補強繊維基材。
【請求項4】
前記補強繊維基材の、前記湿紙側経糸群と緯糸群とで構成される湿紙側面のナックル部、及び前記ロール側経糸群と緯糸群とで構成されるロール側面のナックル部が、各々隣接しないことを特徴とする、請求項1から3に記載の抄紙用プレスフェルトの補強繊維基材。
【請求項5】
前記補強繊維基材の、前記湿紙側経糸群と緯糸群とで構成される湿紙側面のナックル部、及び前記ロール側経糸群と緯糸群とで構成されるロール側面のナックル部が、2つ隣接するナックル部を含むことを特徴とする、請求項1から3に記載の抄紙用プレスフェルトの補強繊維基材。
【請求項6】
前記補強繊維基材の、前記湿紙側経糸群と緯糸群とで構成される湿紙側面のナックル部、及び前記ロール側経糸群と緯糸群とで構成されるロール側面のナックル部が、2つ隣接するナックル部のみから形成されることを特徴とする、請求項5に記載の抄紙用プレスフェルトの補強繊維基材。
【請求項7】
前記補強繊維基材の、前記湿紙側経糸群と緯糸群とで構成される湿紙側面のナックル部、及び前記ロール側経糸群と緯糸群とで構成されるロール側面のナックル部が、更に3つ隣接するナックル部を含むことを特徴とする、請求項5に記載の抄紙用プレスフェルトの補強繊維基材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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