説明

投写型表示装置

【課題】従来のランプに代え、固体光源をその光源として採用するのに適した投写型表示装置の構造を提供する。
【解決手段】白色光を射出する光源ユニットと、当該光源ユニットからの白色光をR(赤色),G(緑色),B(青色)の3原色光に分離する光分離光学系と、分離されたR,G,Bの各偏光光を、それぞれ、映像信号に応じて光変調してR,G,Bの各光学像を形成するR,G,Bの光変調手段と、当該R,G,Bの光変調手段により形成された各光学像を光合成する光合成手段と、当該合成された光学像を拡大して投射する投射手段とを備えた投写型表示装置において、前記光源ユニットは、固体発光素子からの励起光を含んだ点光源から出射した白色光を、前記R,G,Bの光変調手段に射出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源からの光を透過型又は反射型の液晶パネル、或いは、複数のマイクロミラーを配列したディジタルミラーディバイス(DMD)などで映像信号に応じて光強度変調し、形成された光学像を拡大して投射する投写型表示装置に係わり、特に、固体光源をその光源として採用するに適した投写型表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光源からの光をライトバルブで映像信号に応じて光強度変調し、形成された光学像を拡大して投射する光学ユニットを、駆動回路,電源回路や冷却用ファンなどと共に筐体内に収納した投写型表示装置は、例えば、以下の特許文献1により、既に知られている。
【0003】
かかる従来の投写型表示装置では、特に、投射面における十分な明るさを確保するため、照明光学系として、通常、入力電力当たりの発光効率の高い(例えば、70lm/W)超高圧水銀ランプを光源として利用することが主流となっていた。
【0004】
しかしながら、白色光を発生する放電ランプを用いると、高電圧電源が必要であり、その取り扱いが難しく、また、寿命が短く耐衝撃性が低いことから、これに代えて、発光ダイオードやレーザダイオードなどの固体光源を投写型表示装置の光源として利用することが種々提案されている。
【0005】
例えば、以下の特許文献2では、3原色である、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の光を発光する発光ダイオードをアレイ状に配列した面状光源を、R、G、Bに対応する光変調器(ライトバルブ)の背面に配置された投写型表示装置が提案されている。
【0006】
また、以下の特許文献3では、投写型表示装置の光源として、固体光源である、紫外線を発光する発光ダイオードを使用し、当該紫外線を、R、G、Bの蛍光体層からなるカラーホイールに順次照射してR光、G光、B光に変換し、これら各色光を、順次、空間変調器を介して、投写レンズにより拡大して投射することによって光学像を表示する投写型表示装置が既に知られている。
【0007】
そして、以下の特許文献4によれば、紫外線による損傷を防止し、光学部品の長寿命を確保するため、上述した紫外線を励起光として発光する発光ダイオードに代えて、青色の光を発生する発光ダイオード又はレーザ発光器を使用するものも、既に提案されている。更に、以下の特許文献5には、複数の発光ダイオードを用い、射出される光線束を集光して利用する場合、特に、緑色の発光ダイオードからの光量の不足を解消するための構造が開示されている。即ち、G色の発光ダイオードからの光に対してB色の発光ダイオードから光(励起光)をダイクロイックミラーにより合成し、G光を透過すると共に、B光を吸収することにより励起され、G光を発光する第三光源を備えた光源装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−171045号公報
【特許文献2】特開2002−268140号公報
【特許文献3】特開2004−341105号公報
【特許文献4】特開2009−277516号公報
【特許文献5】特開2009−259583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、超高圧水銀ランプは、紫外線を大量に発生させることから、照明光学系を構成する液晶バルブや偏光板など、特に、有機物によって構成される部品に対して大きなストレスを与えることとなり、そのため、かかる部品の寿命を損なってしまう。また、当該ランプ自体も、電極の磨耗や発光管の白濁による明るさの低下が比較的に短い時間で発生する。更には、水銀を含むことからその廃棄処分が難しいなどの課題があった。そして、かかる超高圧水銀ランプに代え、上述したように、上記の特許文献には、発光ダイオードやレーザダイオードなどの固体光源を利用した投写型表示装置の光源が種々提案されているが、しかしながら、特に、投写型表示装置の光源としては、以下のような課題を有している。
【0010】
即ち、投写型表示装置は、超高圧水銀ランプに代表されるように、発光効率の高い点状の光源からの白色光を、透過型又は反射型の液晶パネル、或いは、複数のマイクロミラーを配列したディジタルミラーディバイス(DMD)などで映像信号に応じて光強度変調し、形成された光学像を拡大して投射するものである(光学素子部分)。これに対して、上述した特許文献を含む従来技術により提案されている光源装置(固体光源)は、必ずしも、投写型表示装置に適した光源を提供するものではない。即ち、上述した従来の光源装置により得られる光は、比較的大きな面積に集積して配置された多数の固体光源からの光を集めたものであり、そのため、必要な光量の白色光の点光源を形成するものではなく、従来の水銀ランプに代えて上述した固体光源を採用した場合には、光強度変調部を含む光学系部分において十分な性能が得られず、投射面でのホワイトバランスの劣化や色むらが発生してしまう原因ともなってしまう。
【0011】
そこで、本発明では、上述した従来技術における問題点に鑑みてなされたものであり、更に詳細には、固体光源をその光源として採用するに適した投写型表示装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、上述した目的を達成するため、まず、白色光を射出する光源ユニットと、当該光源ユニットからの白色光をR(赤色),G(緑色),B(青色)の3原色光に分離する光分離光学系と、分離されたR,G,Bの各偏光光を、それぞれ、映像信号に応じて光変調してR,G,Bの各光学像を形成するR,G,Bの光変調手段と、当該R,G,Bの光変調手段により形成された各光学像を光合成する光合成手段と、当該合成された光学像を拡大して投射する投射手段とを備えた投写型表示装置において、前記光源ユニットは、固体発光素子からの励起光を含んだ点光源から出射した白色光を、前記R,G,Bの光変調手段に射出する投写型表示装置が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、前記に記載した投写型表示装置において、前記光源ユニットから射出される白色光は、励起光と、当該励起光により励起された蛍光体からの発光光を含んでいることが好ましく、前記蛍光体は、白色に対して前記励起光とは補色の関係となる波長領域の光束を発光することが好ましい。更には、前記励起光はB色光であり、前記蛍光体からの発光光はY色光であることが好ましい。そして、更に、前記光源ユニットから射出される白色光は、前記半導体レーザ素子からのB色のレーザ光と、前記蛍光体からの発光光はY色光とを、時分割で、順次、切り替えることにより混色して生成することが好ましい。
【0014】
そして、本発明によれば、前記に記載した投写型表示装置において、更に、前記光源ユニットから射出される白色光は、平行光であることが好ましく、更には、前記光源ユニットから射出される白色光は、更に、その偏光面を所定の方向に揃えられていることが好ましい。そして、前記光源ユニットの出力側に、更に、当該光源ユニットから射出される白色光の偏光面を、所定の方向に揃えるための手段を備えていることが好ましい。
【0015】
加えて、本発明によれば、前記に記載した投写型表示装置において、前記光源ユニットから射出される白色光から色分離されてR,G,Bの各偏光光を、映像信号に応じて光変調してR,G,Bの各光学像を形成するR,G,Bの光変調手段は、透過型の液晶パネル、又は、反射型の液晶パネルであることが好ましく、又は、複数のマイクロミラーを配列したディジタルミラーディバイス(DMD)であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
上述した本発明によれば、投写型表示装置において、その照明光学系を、固体光源を光源とする固体発光光源に代替することにより、容易に、投写型表示装置に適用することが可能で、固体発光素子を光源としても、その光学系部分において十分な性能を得ることができ、即ち、投射面でのホワイトバランスの劣化や色むらの発生に対して、従来よりも改善された投写型表示装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例になる投写型表示装置の全体構成を示す図である。
【図2】上記投写型表示装置における光源ユニット(固体発光光源)の構成及び原理の詳細について説明する図である。
【図3】上記光源ユニット(固体発光光源)の縦断面図である。
【図4】上記光源ユニット(固体発光光源)を構成する分離ミラーの特性の一例を示す図である。
【図5】上記光源ユニット(固体発光光源)を構成する円盤(ホイール)部材の詳細構造を示す図である。
【図6】上記円盤(ホイール)部材により反射される励起光と、当該励起により発光する蛍光光との関係の一例を示す図である。
【図7】上記円盤(ホイール)部材の表面に凹部を形成した他の例を示す図である。
【図8】上記円盤(ホイール)部材の他の例における蛍光光の散乱状態を、凹部を形成しない例との比較で示す図である。
【図9】上記円盤(ホイール)部材の更に他の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、共通な機能を有する構成要素には、同一の符号を付与する。
【0019】
まず、添付の図1を参照しながら、本発明の一実施例になる投写型表示装置について述べる。なお、この図1は、本実施例に係わる投写型表示装置の全体構成を示しており、特に、映像信号に応じた光強度変調を、所謂、透過型液晶パネルにより行う装置を示す。また、この図において、各色光の光路に配置されている要素を区別する際には符号の後に色光を表すR,G,Bを添えて示し、区別する必要がない場合には、色光の添え字を省略する。加えて、この図では、偏光方向を明確にするため、ローカル右手直角座標系が導入されている。即ち、光軸101をZ軸として、Z軸に直交する面内で、図1の紙面に平行な軸をY軸とし、図1の紙面裏から表に向かう軸をX軸とする。X軸に平行な方向を「X方向」、Y軸に平行な方向を「Y方向」と呼ぶ。偏光方向がX方向の偏光光を「X偏光光」といい、偏光方向がY方向の偏光光を「Y偏光光」という。
【0020】
図1において、投写型液晶表示装置の光学系は、照明光学系100と、光分離光学系30と、リレー光学系40と、3つのフィールドレンズ29(29R、29G、29B)と、3つの透過型の液晶パネル60(60R、60G、60B)と、光合成手段である光合成プリズム200と、投射手段である投写レンズ300とを備えている。液晶パネル60は、光入射側に入射側偏光板50(50R、50G、50B)を備え、光出射側に出射側偏光板80(80R、80G、80B)を備えている。これらの光学素子は、基体550に装着されて光学ユニット500を構成する。また、光学ユニット500は、液晶パネル60を駆動する駆動回路570、液晶パネル60などを冷却する冷却用ファン580、各回路に電力を供給する電源回路560と共に、図示しない筐体に搭載され、もって、投写型表示装置を構成する。
【0021】
以下、上述した投写型表示装置を構成する各部の詳細を説明する。まず、映像表示素子である液晶パネル60を均一に照射する照明光学系100は、以下にその詳細を説明するが、略白色光を射出する固体発光素子からなる光源ユニット10と、オプチカルインテグレータを構成する第1、第2のアレイレンズ21,22と、偏光変換素子25と、集光レンズ(重畳レンズ)27とを含んで構成されている。
【0022】
上記照明光学系100からの略白色光を光の3原色光に光分離する光分離光学系30は、2つのダイクロイックミラー31、32と、光路方向を変える反射ミラー33とを含んでいる。また、リレー光学系40は、フィールドレンズである第1リレーレンズ41と、リレーレンズである第2リレーレンズ42と、光路方向を変える2つの反射ミラー45、46とを含んでいる。
【0023】
上記の構成において、固体発光素子からなる光源ユニット10からは、図に破線で示す光軸101に略平行な光束が射出される。そして、この光源ユニット10から射出された光は、偏光変換インテグレータに入射する。なお、この偏光変換インテグレータは、図にも示すように、第1のアレイレンズ21と第2のアレイレンズ22からなる均一照明行うオプチカルインテグレータと、光の偏光方向を所定偏光方向に揃えて直線偏光光に変換するための、偏光ビームスプリッタアレイからなる偏光変換素子25とを含んでいる。即ち、上述した偏光変換インテグレータでは、上記第2のアレイレンズ22からの光は、偏光変換素子25により、所定の偏光方向、例えば、直線偏光光のX偏光光(光軸101に直交する面内で偏光方向が図1の紙面に垂直なX方向の光)に揃えられる。
【0024】
そして、第1のアレイレンズ21の各レンズセルの投影像は、それぞれ集光レンズ27、フィールドレンズ29G、29B、リレー光学系40、フィールドレンズ29Rにより、各液晶パネル60上に重ね合わせられる。このようにして、ランプ(光源)からの偏光方向がランダムな光を所定偏光方向(ここではX偏光光)に揃えながら、液晶パネルを均一照明することができる。
【0025】
一方、光分離光学系30は、照明光学系100から射出された略白色光を光の3原色であるB光(青色帯域の光)と、G光(緑色帯域の光)と、R光(赤色帯域の光)とに光分離し、対応する液晶パネル60(60B、60G、60R)に向かうそれぞれの光路(B光路、G光路、R光路)に導光する。即ち、ダイクロイックミラー31により反射したB光は、反射ミラー33を反射して、フィールドレンズ29B、入射側偏光板50Bを通過して、B光用の液晶パネル60Bに入射する(B光路)。また、G光およびR光は、ダイクロイックミラー31を透過し、ダイクロイックミラー32によりG光とR光に分離される。G光はダイクロイックミラー32を反射して、フィールドレンズ29G、入射側偏光板50Gを通して、G光用液晶パネル60Gに入射する(G光路)。R光はダイクロイックミラー32を透過し、リレー光学系40に入射する。
【0026】
リレー光学系40に入射したR光は、フィールドレンズの第1リレーレンズ41によって、反射ミラー45を経て、第2リレーレンズ42の近傍に集光(収束)し、フィールドレンズ29Rに向けて発散する。そして、フィールドレンズ29Rで光軸にほぼ平行とされ、入射側偏光板50Rを通過して、R光用の液晶パネル60Rに入射する(R光路)。
【0027】
続いて、光強度変調部を構成する各液晶パネル60(60R、60G、60B)は、駆動回路570で駆動され、X方向を透過軸とする入射側偏光板50(50R、50G、50B)により偏光度が高められ、光分離光学系30から入射するX偏光の色光を、図示するカラー映像信号に応じて変調(光強度変調)し、各色光のY偏光の光学像を形成する。
【0028】
上述のようにして形成された各色光のY偏光の光学像は、出射偏光板80(80R、80G、80B)に入射する。上記の出射側偏光板80R、G、Bは、Y方向を透過軸とする偏光板である。これにより、不要な偏光光成分(ここでは、X偏光光)が除去され、コントラストが高められる。
【0029】
上述のようにして形成された各色光のY偏光の光学像は、光合成手段である光合成プリズム200に入射する。この時、G光の光学像は、Y偏光(光合成プリズム200のダイクロイック膜面に対してP偏光)のままで入射する。一方、B光路及びR光路では、出射側偏光板80B、80Rと光合成プリズム200との間に1/2λ波長板90B、90Rを設けていることから、Y偏光のB光及びR光の光学像は、X偏光(光合成プリズム200の色合成を行うダイクロイック膜面に対してS偏光)の光学像に変換され、その後、光合成プリズム200に入射する。これは、ダイクロイック膜210の分光特性を考慮したもので、G光をP偏光光、R光とB光をS偏光光とする所謂SPS合成とすることで、効率良く光合成するためである。
【0030】
続いて、光合成プリズム200は、B光を反射するダイクロイック膜(誘電体多層膜)210bと、R光を反射するダイクロイック膜(誘電体多層膜)210rとが、4つの直角プリズムの界面に略X字状(クロス状)に形成されたものである。光合成プリズム200の3つの入射面の内、対向する入射面に入射したB光とR光(ダイクロイック膜面に対してS偏光光)は、クロスしたB光用のダイクロイック膜210bおよびR光用のダイクロイック膜210rでそれぞれ反射される。また、中央の入射面に入射したG光(ダイクロイック膜面に対してP偏光光)は直進する。これらの各色光の光学像は光合成され、カラー映像光(合成光)が出射面から出射する。
【0031】
そして、上述した光合成プリズム200から出射した合成光は、例えば、ズームレンズであるような投写レンズ300によって、透過型又は投写型のスクリーン(図示せず)上に投影され、もって、拡大投射した映像を表示することとなる。なお、上述した冷却用ファン580は、上記投写型表示装置を構成する各種の部品のうち、特に、光源ユニット10からの高強度の光により加熱され、又は、冷却を必要とする部品、例えば、入射側偏光板50、液晶パネル60、出射側偏光板80等は、これらの部品へ向けて形成された流路585により送風が行われる。即ち、光源ユニット10からの照射光の一部を吸収して生じる熱を冷却する。
【0032】
なお、上記の実施例では、光強度変調部を、3つの透過型の液晶パネル60(60R,60G,60B)により構成した例を示したが、しかしながら、本発明はこれに限定されることなく、当該光強度変調部を、例えば、反射型の液晶パネル、或いは、複数のマイクロミラーを配列したディジタルミラーディバイス(DMD)などで構成してもよい。
【0033】
続いて、上記に構成を説明した投写型表示装置、特に、その照明光学系100において、光軸101に略平行な白色光の光束を射出するための、固体発光素子からなる光源ユニット(固体発光光源)10の詳細について、以下に説明する。
【0034】
添付の図2は、本発明の一実施例(実施例1)になる光源ユニット10の原理を説明するための図である。図からも明らかなように、当該ユニット10は、固体素子の発光源である青色帯域(B色)の光を発光する半導体レーザ素子、又は、発光ダイオードを略円板状の基板上に複数配列した半導体レーザ素子群110と、上記半導体レーザ素子群110のレーザ光出射面に対向して、略45度の角度で傾斜して配置された分離ミラー120と、当該分離ミラー120のレーザ光反射面に対向する位置に配置された、例えば放物面を備えた、反射鏡(リフレクタ)130と、当該反射鏡の焦点(F)の近傍において回転する円盤(ホイール)部材140と、そして、当該円盤(ホイール)部材を所望の回転速度で回転駆動するための駆動手段、例えば、電動モータ150を備えている。なお、この光源ユニット10(但し、電動モータ150を除く)の縦断面を、添付の図3に示す。
【0035】
上述した光源ユニット10の構成において、まず、励起光を発生する半導体レーザ素子群110について説明する。以下の説明からも明らかとなるように、励起光を発生するための光源としては、固体発光素子である、例えば、発光ダイオードやレーザ光源が優れているが、しかしながら、一般に、高出力レーザは高価であることから、上述したように、複数の青色レーザの半導体レーザ素子を併用し、励起光源とすることが好ましい。特に、可視光領域の青色光帯域に属し、エネルギー効率が高いこと、狭帯域であること、更には、単一偏波であることなどを理由として、青色レーザ光が望ましく、本実施例では、青色帯域(B色)の光を発光する半導体レーザ素子を、例えば、上述した円板状、矩形、又は、多角形の基板上に多数配列し、もって、半導体レーザ素子群110としている。また、これら多数の半導体レーザ素子は、その発光面から出射する光の偏光面が所定の方向に揃うように配置されている。
【0036】
次に、上記半導体レーザ素子群のレーザ光出射面に対向して傾斜配置された分離ミラー120は、以下の説明からも明らかとなるように、半導体レーザ素子群から射出され、その偏光面を所定の方向に揃えた青色レーザ光を、反射鏡(リフレクタ)130に向けて透過すると共に、反射鏡(リフレクタ)から入射する、当該偏光面に対して直交する方向に偏光面を有する光については、これを反射する働きをする。なお、この分離ミラー120の特性の一例を、添付の図4に示す。
【0037】
更に、反射鏡(リフレクタ)130には、その内面側に、放物線を回転して得られる放物面、又は、当該放物面を基調とした曲面、或いは、楕円を回転して得られる楕円面、又は、当該楕円面を基調とした曲面を有する反射鏡(面)131が形成されている。なお、後にも詳細に説明するが、上記半導体レーザ素子群110から出射されて上記分離ミラー120を通過した青色レーザ光は、この反射鏡(リフレクタ)130の内面側の反射面で反射されて、その焦点近傍(上記図2において、「F」で示す)に集光される。また、当該焦点近傍から出射された光を、平行光として、上記分離ミラー120に向けて反射する。
【0038】
そして、添付の図5(A)及び(B)には、上述した円盤(ホイール)部材140の詳細を示す。なお、図5(A)は円盤(ホイール)部材140の側面断面を、そして、図5(B)はその上面図を示している。
【0039】
これらの図からも明らかなように、この円盤(ホイール)部材140は、その中心部に回転駆動のための回転軸141を備えると共に、円盤状に形成された基材142を備えている。そして、回転制御が可能な円盤状の基材142の表面には、複数(本例では12個)のセグメント領域が設けられている。これら複数のセグメント領域は、二つの領域に分けられる。一方のセグメント領域(図5(B)では、「Y」で示す)には、可視光領域の励起光(青色(B)レーザ光)を受光して所定の波長帯領域の光を発光する蛍光体層からなる蛍光面143が設けられ、他方のセグメント領域には、励起光を反射・拡散する反射面144を設けると共に、その表面を覆って、更に、励起光の位相を1/4波長(1/4λ)だけ移動する位相変換手段である透過膜145(図5(B)では、「Y」で示す)が形成されている。そして、この基材142を所定の速度で回転させることにより、上記の反射鏡(リフレクタ)130により反射されて焦点近傍Fに集光された励起光は、図5(B)の太線の円で示すように、交互に、蛍光面143(Y)と、そして、その表面が透過膜145Yで覆われた反射面144へ入射することとなる。その結果、上述した円盤(ホイール)部材140からは、蛍光体からの発光光束と、基材142の反射面144で拡散反射した励起光とが、時分割で、取り出されることとなる。
【0040】
なお、上述した基材142の一方のセグメント領域Yに塗布して形成される蛍光体、即ち、青色領域の励起光により励起されて発光する蛍光体としては、青色光の補色の関係にある黄色光を高効率に発光するYAG蛍光体((Y,Gd)(Al,Ga)O12:Ce3+)が一般的である。しかしながら、本発明ではこれに限定することなく、その他、青色領域の励起光により励起されて黄色光を発光するものであればよい。なお、この青色領域の励起光と、当該励起光により励起されて発光するY色の蛍光光について、それらの波長と強度の関係の一例について、添付の図6に示す。
【0041】
また、蛍光体は、励起光により励起された発熱するため、当該蛍光体をその表面に形成する円盤状の基材142としては、熱伝導率が高い部材を用いることが好ましい。例えば、熱伝導率が5/W・m−1・K−1以上の、水晶やサファイア、又は、金属等を用いることで、効率良く冷却することができ、その結果として、蛍光体の発光光率を高めると共に、その長寿命化にとっても有効である。
【0042】
続いて、上記にその詳細な構成を説明した光源ユニット10の動作、即ち、投写型表示装置の照明光学系100において、光軸101に略平行な白色光の光束を射出する動作について、以下に説明する。
【0043】
再び、上記図2を参照しながら説明すると、半導体レーザ素子群110からの偏光面が所定の方向に揃った青色帯域(B色)の光は、分離ミラー120を透過して反射鏡(リフレクタ)130に向かい、その内面側の反射鏡(面)131により反射されて、その焦点近傍Fに集光される。この焦点近傍Fに集光された青色帯域(B色)の光は、円盤(ホイール)部材140の回転に伴い、当該部材を構成する円盤状の基材142の表面に形成された蛍光面143(Y)と反射面144(B)に、順次、入射する。その結果、青色帯域(B色)の光は、上記蛍光面143では、励起光として蛍光体層に受光され、その蛍光光である黄色光に変換されて発光する。他方、上記反射面144(B)では、その表面で反射・散乱され、これが連続して繰り返されることとなる。なお、この時、反射面144(B)に入射し、その反射面で反射・散乱される光は、その表面を覆う、位相を1/4波長(1/4λ)だけ移動する位相変換手段である透過膜145を2度通過するため、その偏光面を90度だけ変更される(即ち、位相が1/2波長(1/2λ)だけ移動される)。
【0044】
そして、上述したように、円盤(ホイール)部材140の蛍光面143から発光する光(黄色光)と、その反射面144(B)からの反射光であるB色光とは、再度、上記反射鏡(リフレクタ)130に向かい、その内面側の反射鏡(面)131により反射されて、平行光束として、再び、分離ミラー120に向かうこととなる。なお、この分離ミラー120は、上述したように、透過膜145により偏光面を90度だけ変更されたB色光を透過する。また、蛍光面143から発光する光(黄色光)も、同様に、分離ミラー120を通過する。その結果、励起光であるB色光は蛍光面からの黄色光は、上記円盤(ホイール)部材140の回転に伴って混色され、略白色の光となる。即ち、上述した光源ユニット10によれば、分離ミラー120の裏面(半導体レーザ素子群110からの偏光面の入射面と反対の面)から、図2の下側の方向に向かって、投写型表示装置の照明光学系100に入射する白色の照明光が得られることとなる。また、分離ミラー120を小型にすれば、B反射面144や反射鏡130で偏光面の乱れが存在したとしても、反射面144(B)からの反射光であるB色光の通過が、分離ミラー120で妨げられるのを低減することができ、より高効率となる。
【0045】
更に他の方式としては上述した反射鏡(面)131の一部に透過性の窓もしくは開口部を設け光ファイバー等で励起光を反射面の焦点に集めることで同様の効果を得ることできる。この結果、前述の第一の方式と同様、励起光と蛍光体からの発光光束とが混色して略白色となる。
【0046】
上述したように、本発明の一実施例による光源ユニット10によれば、蛍光体から発光した所定の波長帯域光束(黄色光)と、反射面で反射・拡散した励起(青色)光束とを、順次、切り替えて出射することにより、残光により混色し、白色の光源を得ることが可能となる。より具体的には、光源ユニット10を構成する部材であって、励起光を黄色光に変換する蛍光面と共に、励起光を反射する反射面とを備えた円盤(ホイール)部材140を、高速に回転させることにより、即ち、励起光が入射するセグメントを順次切り替えることにより、白色光を得るものであり、これにより、当該ユニット10は、照明光学系として適用することが可能となる。
【0047】
そして、特に、投写型表示装置の照明光学系100で使用される白色の光源は、点状の光源から得られた光束であることが重要である。即ち、上述した従来の一般的な投写型表示装置では、その光源として、主に、入力電力当たりの発光効率の高い超高圧水銀ランプが広く採用されており、その場合、当該ランプのフィラメントが点状の発光光源を構成しており、かかる点状の発光光源からの光を平行光にすることにより光源となる白色光を得ていた。そのため、投写型表示装置では、本明細書の従来技術においても述べたように、照明光学系100からの白色光によって所望の映像を生成する光学系は、例えば、光強度変調部を含め、光分離光学系30やリレー光学系40等を含め、当該点状の発光光源から得られる平行光を前提として、その設計が行われていた。そのため、固体発光素子による光源として、R,G,Bを含む多数の発光ダイオードや半導体レーザ素子を平面上に配列してなる光源を採用した場合、光学系部分において十分な性能が得られず、投射面でのホワイトバランスの劣化や色むらが発生してしまうという問題点がある。
【0048】
かかる問題点に対し、上述した本発明の一実施例による光源ユニット10によれば、その構成からも明らかなように、半導体レーザ素子群110からの励起(青色)光は、上記反射鏡(リフレクタ)130によりその焦点Fに集光され、円盤(ホイール)部材140の蛍光面と反射面とにおいて、点状の光として黄色光に変換され、又は、反射される。このことから、本発明の一実施例による光源ユニット10により得られる白色光は、上述した水銀ランプと同様に、点状の光源から得られた光束となる。そのため、本発明の一実施例による光源ユニット10は、従来の投写型表示装置においても、照明光学系100だけを除いて、そのまま採用することも可能であり、有利である。なお、その場合、発光ダイオードやレーザダイオードなどの固体光源の採用による長寿命化や耐衝撃性の向上に加え、更に、放電ランプを用いることにより必要となる高電圧電源が不要となることから、製品の製造価格を低減すると言う観点からも有利である。
【0049】
更に、添付の図7(A)と(B)、及び、図8(A)と(B)には、上述した円盤(ホイール)部材140の他の例を示す。
【0050】
この他の例では、円盤(ホイール)部材140を構成する円盤状の基材142の表面、特に、励起光が入射する焦点Fの近傍(図5(B)の太線円の部分)の表面に、多数の微小な凹部146を形成したものであり、図7(A)には、円盤状の基材から切り出して微小凹部形成部分の拡大斜視図を、図7(B)には、当該凹部の一つを含む基材の拡大断面図を示している。そして、これらの図からも明らかなように、表面に形成した多数のすり鉢状の窪みである凹部146を覆うように、蛍光体層からなる蛍光面143が形成されている。
【0051】
この他の例になる円盤(ホイール)部材140によれば、励起光の入射表面に当該凹部を形成しない場合(図8(A)を参照)に比較して、励起光の入射により当該凹部146を形成した面から発光する蛍光光は、図8(B)にも示すように、その散乱方向が狭められる(方向性を有する)ことから、その上方に配置された反射鏡(リフレクタ)130に捕捉され易く、そのため、光の利用効率の点からも有利であろう。
【0052】
更に、その他の変形例を、添付の図9に示す。この変形例では、図からも明らかなように、上記円盤(ホイール)部材140の外周部に、励起光が入射する上記焦点Fの近傍から発光する蛍光光が反射鏡(リフレクタ)130の反射面131に到達しない光を反射するための、球面のリフレクタ(球面リフレクタ)147を設ける。かかる球面リフレクタ147によれば、上記焦点Fの近傍から発光する蛍光光のほぼ全部を反射鏡(リフレクタ)130を介して出力することが可能となることから、光の利用効率の点からも有利であろう。
【0053】
また、上述した実施例では、反射鏡(リフレクタ)130からその焦点近傍Fに集光される励起光に対して、蛍光面143と反射面144とを、経時的に順次、切り替えるための手段として、円盤状の基材142の表面を複数のセグメントに分割して、蛍光面143と反射面144とを形成する円盤(ホイール)部材140を利用するものとしたが、しかしながら、本発明では、これに限定されることなく、例えば、一枚の矩形状の基材の表面に蛍光面143と反射面144とを形成し、これを前後に移動することによっても、同様の効果を得ることが可能であろう。
【符号の説明】
【0054】
10…光源ユニット、110…半導体レーザ素子群、120…分離ミラー、130…反射鏡(リフレクタ)、140…円盤(ホイール)部材、142…基材、143…蛍光面、144…反射面、145…透過膜、150…電動モータ、21…第1のアレイレンズ、22…第2のアレイレンズ、25…偏光変換素子、27…集光レンズ、29…フィールドレンズ、31,32…ダイクロイックミラー、33…反射ミラー、41…第1リレーレンズ、42…第2リレーレンズ、45,46…反射ミラー、50…入射側偏光板、60…液晶パネル、80…出射側偏光板、90…1/2λ波長板、200…光合成プリズム、210…ダイクロイック膜、300…投写レンズ、560…電源回路、570…駆動回路、580…冷却用FAN、585…流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色光を射出する光源ユニットと、当該光源ユニットからの白色光をR(赤色),G(緑色),B(青色)の3原色光に分離する光分離光学系と、分離されたR,G,Bの各偏光光を、それぞれ、映像信号に応じて光変調してR,G,Bの各光学像を形成するR,G,Bの光変調手段と、当該R,G,Bの光変調手段により形成された各光学像を光合成する光合成手段と、当該合成された光学像を拡大して投射する投射手段とを備えた投写型表示装置において、
前記光源ユニットは、固体発光素子からの励起光を含んだ略点光源から出射した白色光を、前記R,G,Bの光変調手段に射出することを特徴とする投写型表示装置。
【請求項2】
前記請求項1に記載した投写型表示装置において、前記光源ユニットから射出される白色光は、励起光と、当該励起光により励起された蛍光体からの発光光を含んでいることを特徴とする投写型表示装置。
【請求項3】
前記請求項2に記載した投写型表示装置において、前記蛍光体は、白色に対して前記励起光とは補色の関係となる波長領域の光束を発光することを特徴とする投写型表示装置。
【請求項4】
前記請求項3に記載した投写型表示装置において、前記励起光はB色光であり、前記蛍光体からの発光光はY色光であることを特徴とする投写型表示装置。
【請求項5】
前記請求項4に記載した投写型表示装置において、更に、前記光源ユニットから射出される白色光は、前記半導体レーザ素子からのB色のレーザ光と、前記蛍光体からの発光光はY色光とを、時分割で、順次、切り替えることにより混色して生成することを特徴とする投写型表示装置。
【請求項6】
前記請求項5に記載した投写型表示装置において、更に、前記光源ユニットから射出される白色光は、固体発光素子からの励起光を含んだ略点光源から出射した白色光を、焦点を有する反射面からなる光束捕捉手段で、捕捉した白色光であることを特徴とする投写型表示装置。
【請求項7】
前記請求項1に記載した投写型表示装置において、更に、前記光源ユニットから射出される白色光は、略平行光であることを特徴とする投写型表示装置。
【請求項8】
前記請求項1に記載した投写型表示装置において、前記光源ユニットから射出される白色光から色分離されてR,G,Bの各偏光光を、映像信号に応じて光変調してR,G,Bの各光学像を形成するR,G,Bの光変調手段は、透過型の液晶パネルであることを特徴とする投写型表示装置。
【請求項9】
前記請求項1に記載した投写型表示装置において、前記光源ユニットから射出される白色光から色分離されてR,G,Bの各偏光光を、映像信号に応じて光変調してR,G,Bの各光学像を形成するR,G,Bの光変調手段は、反射型の液晶パネルであることを特徴とする投写型表示装置。
【請求項10】
前記請求項1に記載した投写型表示装置において、前記光源ユニットから射出される白色光から色分離されてR,G,Bの各偏光光を、映像信号に応じて光変調してR,G,Bの各光学像を形成するR,G,Bの光変調手段は、複数のマイクロミラーを配列したディジタルミラーディバイス(DMD)であることを特徴とする投写型表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−164173(P2011−164173A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23911(P2010−23911)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(509189444)日立コンシューマエレクトロニクス株式会社 (998)
【Fターム(参考)】