説明

投影露光システム用の少なくとも1つの磁石を有するアクチュエータ、その製造方法、及び磁石を有する投影露光システム

本発明は、少なくとも1つの磁石(22)を備える投影露光システム用のアクチュエータであって、磁石を、マイクロ技術製造法により製造した磁石保持板(12)で封入及び/又は支持し、これは、移動マニピュレータ表面(23)を、付加的な接続材料を用いずに一体接続又は結合接続により磁石保持板で保持することにより、確実な接続を得るような方法で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロリソグラフィ用の投影露光システムに関し、特に、極端紫外域(EUV)の波長の光で動作し、少なくとも1つの磁石と当該投影露光システムにおける光学素子の作動用のアクチュエータを有する投影露光装置、及び対応の投影露光システムを操作する方法に関する。さらに、投影露光システム用の対応のアクチュエータを製造する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ技術コンポーネント、特にマイクロ電子及び/又はマイクロ機械コンポーネントの製造に用いるマイクロリソグラフィ用の投影露光システムでは、種々のコンポーネント、特に光学素子の移動、調整、及び位置決めがある程度必要である。例えば、マイクロミラーアレイ(MMA)を用いることができ、このとき複数の小型ミラーを傾斜させなければならない。
【0003】
種々のコンポーネント、例えば光学素子、特にマイクロミラーの作動は、電磁動作原理に基づいたアクチュエータで行うことができる。この目的で、電気コイルにより実現した電磁石が磁界を発生させ、この磁界が永久磁石の磁界と相互作用することにより、コンポーネントを作動させる対応の力を利用可能にする。
【0004】
しかしながら、特に非常に小さな寸法を有することが多い対応のアクチュエータの製造は、複数の個別製造ステップを実行しなければならないため複雑である。さらに、アクチュエータの機能性を損なわないことも確実にしなければならない。例えば、結合点と称する複数の接続点を有するマイクロ技術的に作製したアクチュエータの場合、生じる問題は、関与する製造労力を膨大にするといったようなことだけでなく、結合点が対応の機械的力、特に剪断力を確実に吸収できないことでもある。
【0005】
さらに、このような結合点は、特定の波長の光、例えば極端紫外波長域の光を投影露光システムで用いる場合に損害を受ける可能性がある。
【0006】
加えて、アクチュエータも磁石全般も、対応の投影露光システムで見られる動作条件によって、例えば13.5nmの波長域の迷光及び/又は水素雰囲気によって他の点で損傷を受けてはならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、投影露光システム又は投影露光システム用のアクチュエータを提供すること、及び従来技術の欠点を回避する対応の製造プロセス又は動作プロセスを特定すること、特に、耐用寿命の長い種々のコンポーネントを動かすアクチュエータの安全で確実な動作を確保することである。特に、対応のアクチュエータを製造する方法は、効果的に実現可能であり、且つ動作時に生じる応力、例えば剪断力に適応するのに適した対応のアクチュエータを作製するものとする。さらに、アクチュエータは、投影露光システム、特に極端紫外光の波長域で動作させる投影露光システムに適しているものとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、請求項1に記載の特徴を有する投影露光システム、請求項21に記載の特徴を有するアクチュエータ、請求項28に記載の特徴を有する投影露光システムを操作する方法、及び請求項33又は35に記載の特徴を有する投影露光システム用のアクチュエータを製造する方法により達成する。有利な実施形態は、従属請求項の主題である。
【0009】
本発明は、希土類系の永久磁石、例えばサマリウムコバルト系又はネオジウム鉄ホウ素系の磁石に、対応の投影露光システム内に存在し得る水素雰囲気中での水素化物形成の傾向がある結果として、永久磁石の磁気効果が減退又は消失し得ることにより、少なくとも1つの永久磁石を有する電磁駆動式アクチュエータの使用に支障があるという知識に基づく。
【0010】
したがって、本発明の第1態様から、アクチュエータ(複数可)の磁石(複数可)を完全に封入することで、原子状水素からも一部が構成される水素雰囲気に磁石を曝さないようにすることを提案する。特に、投影露光システムの1つ若しくは全部のアクチュエータ又はその部品に設けた全部の磁石を、完全に封入することができる。
【0011】
磁石の封入は、磁石のカプセルハウジング及び/又はコーティングにより実現することができる。
【0012】
対応のコーティングの選択は、コーティングが磁石を周囲雰囲気から隔てる緻密なシェルをもたらすだけでなく、コーティングがそれに対応して耐水素拡散性であることで、長期にわたって水素が磁石を透過することができないように行われ得る。特に、コーティングは多層で形成することができる。
【0013】
コーティングは、ニッケル、亜鉛、銅、又はそれらの合金製とすることができる。
【0014】
付加的又は代替的に、磁石を収容して周囲雰囲気からの磁石の気密分離も行うカプセルハウジングを設けることができる。カプセルハウジングは、金属、例えばステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金等から形成することができる。
【0015】
特に、カプセルハウジングは、対応の金属シートの溶接から得ることができ、このとき溶接対象部分の溶接シーム又は当接面を、外部雰囲気とハウジング内部との間に直線状又は平坦状の接続領域がないように設計する。これにより、シールが容易になる一方で、溶接によるハウジングの形成中にハウジング内に配置した磁石を溶接時の損傷から保護する容易な方法が得られる。
【0016】
ハウジング又は金属シートの厚さは、0.1mm〜4mmの範囲で選択することができ、最低0.1mmの厚さであれば、水素拡散による損傷を目標寿命にわたって確実に回避するか又はなくすことができ、ハウジングの厚さ又はシートの厚さの上限で、十分な磁力を確実に用いることができる。
【0017】
金属ハウジング以外に、マイクロ技術製造プロセスを用いたアクチュエータの形成時に、カプセルハウジングは、対応のマイクロパターニング可能な材料、例えば半導体材料、特にケイ素、ケイ素合金、ゲルマニウム、ゲルマニウム合金、及びそれに対応する化合物、例えば酸化ケイ素及び酸化ゲルマニウムから形成することもできる。このようなカプセルハウジングの壁の厚さは、大幅に薄くすることができ、数ナノメートル又は数マイクロメートル〜数ミリメートル、例えば最大3mmの範囲にすることができる。
【0018】
磁石として、あらゆる永久磁石、特に希土系、例えばネオジウム、プラセオジウム、ランタン、セリウム、これらの希土類と鉄及びホウ素との化合物、特にネオジウム鉄ホウ素、プラセオジウム鉄ホウ素、ランタン鉄ホウ素、セリウム鉄ホウ素、及びサマリウムコバルト系の磁石を用いる。
【0019】
サマリウムコバルト磁石を用いる場合、封入せずに済ますこともできるが、これには投影露光システムの動作パラメータを一定の範囲内に保つことが条件である。サマリウムコバルト磁石では、水素分圧が一定の閾値を超えた場合にのみ磁石の損傷を伴う不可逆的な水素形成が始まる結果として、投影露光システムをこの限界値未満で操作することにより損傷を回避できることが注目されている。したがって、対応のサマリウムコバルト磁石が投影露光システム内にある限り、水素分圧は、4.5bar以下、好ましくは3bar以下、特に1bar以下に保つべきである。
【0020】
同時に、温度は、15℃以上、特に20°以上に維持することができる。
【0021】
独立して、また本発明の他の態様と関連して保護を追求する本発明の別の態様から、特にマイクロ技術製造プロセスにより製造することで、移動マニピュレータ表面の特に好都合な取付けを得るようにするアクチュエータを提案する。
【0022】
投影露光システム用の対応のアクチュエータにおいて、アクチュエータは、作動対象コンポーネント、例えば光学素子、特にミラーを配置することができる少なくとも1つのマニピュレータ表面を有し、作動対象コンポーネントは、マニピュレータ表面の移動又は調整によって作動対象コンポーネントの移動又は調整又は作動全般を実現できるように配置する。電磁効果の原理に基づく対応のアクチュエータは、少なくとも1つの磁石及び電気コイルを有し、これらは、電流がコイルを流れると、得られる磁界が永久磁石の磁界と相互作用して作動力を発生させ、それを用いてマニピュレータ表面を移動させるように配置する。
【0023】
対応のアクチュエータは、磁石を取付ける磁石取付板と、電気コイルを保持又は取付けるコイル板とを有し、これらは互いに適当な方法で接続する。
【0024】
本発明によれば、マニピュレータ表面は、付加的な接続材料、例えば接着剤又は結合材を排除して磁石取付板に一体的に保持するか又は母材の連続性を保って結合し(bonded with material continuity)、その目的は、確実な取付け及び生じる力、特に剪断力の確実な吸収である。一体的とは、対応のマニピュレータ表面を単一の材料ブロックから加工することで、異なる材料を用いず、元の表面等の意図的な界面がないようにすることを意味する。代替的に、対応の接着剤化合物又は付加的な接続物質若しくは接続材料、例えば結合材等の使用を伴う化合物を排除して、結合接続部を設けることもできる。しかしながら、これに関して、例えば気相蒸着等のコーティング法により施した異なる材料が存在することも可能である。
【0025】
有利には、このような構成では、マニピュレータ表面に対向して取付けることができる磁石に、ハウジング又はカプセルハウジングを設けることができ、このとき対応のカプセルハウジングの製造をマイクロ技術製造プロセスに統合する。特に、マニピュレータ表面を、磁石用のハウジング又はカプセル体によって少なくとも部分的に形成することで、特に、カプセルハウジングも、磁石保持板の残りの部分、特に磁石保持板の取付領域と、付加的な接続材料なしで一体的に又は母材の連続性を保った結合により接続するようにすることができる。
【0026】
一体接続部又は母材の連続性を保った結合による接続部は、ばね棒により形成することができ、これもマニピュレータ表面に移動度を与える。
【0027】
概して、このようなマニピュレータの構造は、複数の平面内に多層構造又は1つの構造を設け、下側の第1平面にはコイル板を設け、コイルをシリコン等の半導体材料のウェーハ又は板に取付けることから得ることができる。コイルは、それに従ってリソグラフィプロセス等によりマイクロ技術的に作製することができる。コイル板の上の第2平面には、磁石保持板を設けることができ、これは、コイル板に母材の連続性を保って結合し且つ/又は接続材料を介して接続する。磁石保持板は、永久磁石を電気コイルに対して配置する役割及び移動マニピュレータ表面を提供する役割を果たすことができる。特にこれに関して、マニピュレータ表面は、永久磁石の片側に設けることができる。マニピュレータ表面及び磁石は、カプセルハウジングの有無を問わず、磁石保持板に可動に取付けることができ、取付けは、例えば、一方では磁石保持板の取付領域に、他方ではマニピュレータ表面及び/又は磁石ハウジングに、一体的に結合又は接続した少なくとも1つのばね棒を介して行う。
【0028】
マニピュレータ表面には、続いて適当なコンポーネント、例えばミラー又はマイクロミラーを直接又はスペーサ等を介して配置することができる。
【0029】
マニピュレータ表面及び/又は磁石ハウジング、ばね棒及び/又は磁石保持板の取付領域は、磁石取付板の固体材料、例えばシリコンウェーハから、マイクロシステム技術に従った材料パターニング技法により加工することができる。
【0030】
これに対応して、一変形形態では、最初に1つのパターニング可能な板、例えばシリコンウェーハを設けることができ、その上に少なくとも1つのばね棒構造を、その後の取付領域とマニピュレータ表面の少なくとも1つの領域との間に、例えばリソグラフィ堆積法により形成することができる。その後、マニピュレータ表面の対応の移動度を、ばね棒構造を露出させることにより実現することができ、マニピュレータ表面は、続いて接着剤等の付加的な接続材料を排除して、パターニング可能な板上に一体的に保持するか又は母材の連続性を保って結合する。続いてマニピュレータの反対側に磁石を配置することにより、対応の磁石保持板を上述のアクチュエータ構造用に作製することができる。続いてこれを、対応のコイル板及び作動対象コンポーネントに、例えば接着剤又は他の接続材料を用いて適宜接続することができる。
【0031】
磁石の気密区画化用のカプセルハウジングを同時に形成する代替的な手法では、パターニング可能な板を設けてばね棒構造を形成した後に、マニピュレータ表面の領域に空洞を形成して、そこに磁石又は対応の磁粉を挿入することができる。本明細書において、磁石及び磁粉という用語は、同義に用いることができるため、磁石に関して言及する場合は常に、対応の磁粉又は圧密磁粉での実現も意味することは指摘に値する。
【0032】
懸濁液の形態であり得る磁粉を空洞に充填した後に、空洞をカバー要素で気密シールすることにより、カプセルハウジングを形成することができる。カプセルハウジングは、ばね棒構造の露出時に、空洞内の磁粉又は磁石の周りに対応の壁領域を残すことにより製造する。これにより、磁石保持板の取付領域に最適に取着される封入磁石を有するマニピュレータ表面を製造する非常に単純で効果的な方法が得られる。
【0033】
本発明のさらなる利点、特性、及び特徴は、以下の実施形態の詳細な説明から明らかとなるであろう。添付図面は、純粋に概略的な形態で各図を示す。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明による封入リング磁石の断面図である。
【図2】本発明のアクチュエータの製造を示す断面図である。
【図3】本発明のアクチュエータの製造を示す断面図である。
【図4】本発明のアクチュエータの製造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は、リング磁石1の断面図を示し、その2つの部分を断面及び環状構造により示す。リング磁石1は、マイクロリソグラフィ用の投影露光システム、特に極端紫外光の波長域で動作する投影露光システムのアクチュエータで用いることを意図したものである。本発明は、あらゆる既知の投影露光システムに適しているため、簡単のために、投影露光システムの図は省いてある。
【0036】
磁石1は、例えばネオジウム鉄ホウ素磁石又はサマリウムコバルト磁石とすることができる。
【0037】
EUV投影露光システムは、水素雰囲気下で動作するため、磁石の損傷、特に希土類系の磁石の損傷が、水素化物形成により生じ得る。水素との接触を回避するために、リング磁石1は、対応の環状カプセルハウジング2により周囲雰囲気から保護する。
【0038】
環状カプセルハウジング2は、2つの部分3及び4から構成し、これらを円周方向の溶接継手7及び8を介して互いに溶接する。部分3及び4は、厚さ0.1mm〜約4mmの薄い金属シートから形成することができ、金属シートは、ステンレス鋼、アルミニウム、又はアルミニウム合金であることが好ましい。カプセルハウジング2は、ステンレス鋼における対応のオーステナイト微細構造部分(austenitic microstructure portion)により、少なくとも部分的に非磁性であることが有利である。
【0039】
溶接継手7及び8にハウジング部分3及び4の当接面を形成して、直接的な直線状又は平坦状の接続面がカプセルハウジング2の内部と外部との間に形成されないようにする。正確には、図1の図示の実施形態における当接領域は角度を付けられている。これは、シール機能を向上させるだけでなく、溶接シームの実行時に、カプセルハウジング2内に配置したリング磁石1に溶接が損傷を与えることがあり得ないという利点もある。
【0040】
カプセルハウジング2は、カプセルハウジング2の内部にリング磁石1を完全に充填するのではなく残留体積5が残るよう構成する。残留体積5には、空気又は別のガスを充填することができ、封入リング磁石1を真空に置くことによりカプセルハウジング2の密封性を確認できるようにする。
【0041】
図2〜図4は、別の実施形態に従った投影露光システム、特にEUV投影露光システムで用いるアクチュエータの製造の断面図を示す。製造プロセスを図2〜図4に示すアクチュエータは、マイクロパターニングプロセスにより、特にリソグラフィ法により製造し、アクチュエータの寸法は、マイクロ技術的大きさに限定するのではなくより大きな寸法で確実に実現することができる。例えば、アクチュエータ10により作動するミラー13のサイズは、直径又は辺長に関して最大4mmの大きさである。
【0042】
図4から明らかなように、アクチュエータ10は、4つの平面に分割することができ、第1平面をコイル板11により形成する。図示の実施形態のコイル板11は、シリコン半導体材料から形成し、マイクロ電子コイル15の取付けに用いる。マイクロ電子コイル15は、リソグラフィ堆積法によりコイル板11の表面に堆積することができる。
【0043】
コイル板11の上には、いわゆる磁石保持板12を配置し、これは、コイル15と協働してミラー13を動かすことができる、特に傾斜させることができる磁石22を備える。磁石保持板12の設計及び製造は、図2及び図3を参照して以下で詳述する。
【0044】
アクチュエータ10の第2平面を形成する磁石保持板12の上には、スペーサ14を第3平面として磁石22の反対側でマニピュレータ表面23上に設け、その上にさらに、傾斜させる移動ミラー13を配置する。
【0045】
すでに上述したように、コイル15を通る電流の流れは磁界を発生させることができ、この磁界が磁石22の磁界と相互作用して、ミラー13を傾斜させる。
【0046】
マニピュレータ表面23及びその上に配置したスペーサ14の移動度を高めるために、マニピュレータ表面23及び磁石22を、磁石保持板12の取付領域25にばね棒19を介して接続することで、ばね棒19の変形がマニピュレータ表面23及びその上に配置したスペーサ14の傾斜、及び接続したミラー13の傾斜も可能にする。
【0047】
図示の実施形態のばね棒19は、マニピュレータ表面の領域の周りで渦巻ばねとして実施する。
【0048】
アクチュエータ10のマイクロ技術製造を、図2及び図3に部分的に示す。
【0049】
図2は、初期製造段階における磁石保持板12の断面図である。この製造段階で、磁石保持板12は、ばね棒19に対応する微細構造をすでに有している。これは例えば、気相堆積による材料の対応の堆積を用いたリソグラフィ堆積法によっても製造することができる。図示の実施形態の磁石保持板12をシリコン製にすることで、ばね棒19の微細構造もシリコンから形成することができる。
【0050】
ばね棒19のパターニング層の堆積前に、不動態酸化物(passivation oxide)、例えば二酸化ケイ素を、磁石保持板12を形成するシリコンウェーハの表面上に形成して、後続のパターニングプロセスのための保護層としての役割を果たすようにすることができる。それに応じて、二酸化ケイ素保護層17を下側の特定の領域にも設けることができ、このとき後続の材料除去領域用の凹部を二酸化ケイ素領域にすでに設けておく。同様に、凹部を二酸化ケイ素層18の中央に設けることで、シリコンウェーハに空洞26を形成することができるようにし、この空洞26は、磁石又は磁粉22を収容する役割を果たす。磁粉は、純粋な粉体として、又は液体形態の懸濁液として充填し、後続のステップで乾燥又は硬化させ、必要であれば磁化することができる。図3は、磁粉又は磁石22を充填した図2からの磁石保持板12を示す。
【0051】
続いて、磁石保持板12を、保護層17を設けた裏側からドライエッチング法により処理して、ばね棒構造19の領域の材料を除去する。この目的で、例えば、ディープ反応性イオンエッチング(DRIE)を用いて、シリコンをばね棒構造19の下にあるSiO保護層18まで除去することができる。これにより、自由空間27ができる。二酸化ケイ素保護層18は、これに関してドライエッチングプロセス用の停止層としての役割を果たし、続いて適当な方法により溶解することでばね棒19を露出させることができる。
【0052】
DRIEドライエッチングによる環状の自由空間27の形成時に、ポット形のハウジング構造21を磁石又は磁粉22の周りに残すことで、封入磁石ユニット20ができる。封入磁石ユニット20のカプセルハウジング21は、ばね棒19に母材の連続性を保って結合し、ばね棒19をさらに、磁石保持板12の取付領域25に母材の連続性を保って結合する。
【0053】
上側では、磁石ハウジング21をカバー要素23でシールすることができ、カバー要素23は、コーティングの形態で堆積するか又は他のハウジング部分に同様に母材の連続性を保って結合する。カバー要素23の代替として、スペーサ14を直接用いて、接続層24により、例えば共晶金属結合により得られるいわゆる結合部位を介して、カプセルハウジング21をシールすることができる。
【0054】
スペーサ14の上には、再び対応の接続層を介してミラー13を配置することができる一方で、磁石保持板12の下側には、接続層16を介して、例えば共晶金属結合によりコイル板11を配置することができる。
【0055】
マイクロ技術製造を通して、封入磁石20は、磁石保持板12に直接母材の連続性を保って結合して可動に取付けることができ、これは、磁石及びそれに接続したマニピュレータ表面を保持するための対応の接続層、例えば接着剤層等を必要とせずに行われる。こうした接続層は、特に極端紫外光の波長域で動作させる投影露光システムでは耐用寿命に関して問題となり得る。さらに、このような接続層は、剪断力の適応に関して問題となり得る。本発明の製造技法ではこれが回避されるが、それは、ばね棒及び磁石22のハウジング21を、接続手段を一切介在させずに取付領域25に母材の連続性を保って結合するからである。特に、取付領域25の領域における酸化層18を省くことができ、その結果として、気相堆積によりシリコン上に堆積したばね棒構造19のシリコンは、シリコンウェーハのシリコンに直接堆積して最適な付着状態となる。
【0056】
封入磁石20を含む磁石ハウジング21の形成が有利であるが、ばね棒領域19間の磁石ハウジング21の代わりに、マニピュレータ表面23を形成するための連続板を設け、必要な磁石をマニピュレータ表面23の下側に対応の接続技法、例えば接着結合等を用いて取着した、アクチュエータの形成も考えられる。この場合も、接続層、例えば結合層又は接着剤層を一切介在させない、ばね棒と保持領域(複数可)との好ましい一体接続部又は母材の連続性を保った結合による接続部を有するアクチュエータの有利な構成が得られる。特に、このような設計は、サマリウムコバルト磁石で選択することができ、この磁石では、水素圧力が4.5bar未満、特に3bar未満、好ましくは1bar以下である対応の動作条件及び15℃よりも高い、特に20℃よりも高い動作温度の場合に、封入が絶対に必要というわけでない。
【0057】
マニピュレータ表面23の裏側に取付けた磁石を水素の影響から適当なコーティング、例えばニッケル等により保護することも考えられる。
【0058】
本発明は、併記の実施形態を参照して詳細に説明したが、本発明がこれらの実施形態にされるのではなく、添付の特許請求の範囲から逸脱せずに変形及び変更が可能であることが、当業者には明らかである。特に、変更は、個々の特徴の除外又は提示した特徴の各種組み合わせに関連し得る。特に、本発明は、提示した全ての特徴のあらゆる組み合わせを含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの磁石、又は、少なくとも1つの磁石(1,22)を備える少なくとも1つのアクチュエータを有する、マイクロリソグラフィ用の投影露光システムにおいて、
前記少なくとも1つの磁石を完全に封入したことを特徴とする、投影露光システム。
【請求項2】
請求項1に記載の投影露光システムにおいて、
複数の磁石を設け、該磁石の全部を完全に封入したことを特徴とする、投影露光システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の投影露光システムにおいて、
1つ又は複数の前記磁石をカプセルハウジング(2,21)及び/又はコーティングにより封入したことを特徴とする、投影露光システム。
【請求項4】
請求項3に記載の投影露光システムにおいて、
前記コーティングは耐水素拡散性であることを特徴とする、投影露光システム。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の投影露光システムにおいて、
前記コーティングを複数の層で形成したことを特徴とする、投影露光システム。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項に記載の投影露光システムにおいて、
前記コーティングは、ニッケル、亜鉛、及び銅からなる群からの少なくとも1つの元素を含むことを特徴とする、投影露光システム。
【請求項7】
請求項3に記載の投影露光システムにおいて、
前記カプセルハウジング(2)を、金属、ステンレス鋼、アルミニウム、及びアルミニウム合金からなる群からの少なくとも1つの成分から形成したことを特徴とする、投影露光システム。
【請求項8】
請求項3に記載の投影露光システムにおいて、
前記カプセルハウジング(21)を、半導体材料、ケイ素、ケイ素合金、二酸化ケイ素、ゲルマニウム、ゲルマニウム合金、及び酸化ゲルマニウムからなる群からの少なくとも1つの成分から形成したことを特徴とする、投影露光システム。
【請求項9】
請求項3、7、又は8のいずれか1項に記載の投影露光システムにおいて、
前記カプセルハウジングの壁は、数nm〜3mmの厚さを有することを特徴とする、投影露光システム。
【請求項10】
請求項3又は7に記載の投影露光システムにおいて、
前記カプセルハウジングの壁は、0.1mm〜4mmの厚さを有することを特徴とする、投影露光システム。
【請求項11】
請求項3、7〜10のいずれか1項に記載の投影露光システムにおいて、
前記カプセルハウジングは、前記磁石に加えて閉じ込めガス体積を含むことを特徴とする、投影露光システム。
【請求項12】
請求項3、7、10、又は11のいずれか1項に記載の投影露光システムにおいて、
前記カプセルハウジング(2)を溶接し、溶接対象コンポーネントにおける、溶接シームを配置して前記溶接対象コンポーネント同士を接触させる当接面を、該当接面が前記カプセルハウジングの内部と外部環境との間の直接接続部を構成しないように配置したことを特徴とする、投影露光システム。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の投影露光システムにおいて、
1つ又は複数の前記磁石(1,22)は、希土類、ネオジウム、プラセオジウム、ランタン、セリウム、希土類と鉄及びホウ素との化合物、ネオジウム鉄ホウ素(NdFeB)、プラセオジウム鉄ホウ素(PrFeB)、ランタン鉄ホウ素(LaFeB)、セリウム鉄ホウ素(CeFeB)、及びサマリウムコバルト(SmCo)からなる群からの少なくとも1つの成分に基づくことを特徴とする、投影露光システム。
【請求項14】
請求項1〜4又は8のいずれか1項に記載の投影露光システムにおいて、
前記磁石を、固体材料から材料除去により形成したカプセルハウジング内に収容したことを特徴とする、投影露光システム。
【請求項15】
請求項1〜4、8、又は14のいずれか1項に記載の投影露光システムにおいて、
前記磁石を、マイクロシステム技術に従った材料パターニング技法により製造したカプセルハウジング内に収容したことを特徴とする、投影露光システム。
【請求項16】
請求項1〜4、8、14、又は15のいずれか1項に記載の投影露光システムにおいて、
前記カプセルハウジングは、少なくとも部分的に、板状アクチュエータ部分の一体的なコンポーネント又は母材の連続性を保って結合したコンポーネントであり、前記カプセルハウジングを、前記アクチュエータ部分に可動に取付けたことを特徴とする、投影露光システム。
【請求項17】
請求項16に記載の投影露光システムにおいて、
前記アクチュエータ部分(12)は、前記磁石用の取付板であり、該取付板を、少なくとも1つの電気コイルを有するコイル板上に配置して、前記コイルを通る電流の流れが前記磁石の位置を変えることができ、前記アクチュエータを作動させることができるようにしたことを特徴とする、投影露光システム。
【請求項18】
請求項16又は17に記載の投影露光システムにおいて、
前記カプセルハウジングを有する前記磁石を、板状アクチュエータ部分(12)の凹部内に少なくとも1つのばね棒により保持し、該ばね棒を、接続材料を用いずに前記カプセルハウジング及び前記板状アクチュエータ部分の前記取付板に一体的に接続又は母材の連続性を保って結合したことを特徴とする、投影露光システム。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の投影露光システムにおいて、
前記磁石は、複数のマイクロミラーを有するマイクロミラーアレイのミラー又はマイクロミラー用のアクチュエータの一部であることを特徴とする、投影露光システム。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか1項に記載の投影露光システムにおいて、
極端紫外スペクトル(EUVL)の光を用いるよう構成したことを特徴とする、投影露光システム。
【請求項21】
特に請求項1〜20のいずれか1項に記載の投影露光システムに従った、投影露光システム用のアクチュエータであって、可動である少なくとも1つのマニピュレータ表面(23)と、前記マニピュレータ表面を作動させる少なくとも1つの磁石及びコイルと、前記磁石を取付ける磁石保持板(12)及び前記コイル(15)を収容するコイル板(11)とを備え、電流が前記コイルを流れると、前記磁石を、したがって前記マニピュレータ表面を動かすことができるように、これらを互いに接続した、アクチュエータにおいて、
前記マニピュレータ表面を、付加的な接続材料を用いずに一体接続部又は母材の連続性を保った結合による接続部を介して、前記磁石保持板に少なくとも部分的に保持したことを特徴とする、アクチュエータ。
【請求項22】
請求項21に記載のアクチュエータにおいて、
前記マニピュレータ表面を前記磁石に対向するよう構成したことを特徴とする、アクチュエータ。
【請求項23】
請求項21又は22に記載のアクチュエータにおいて、
前記マニピュレータ表面を、前記磁石用のハウジング又はカプセルハウジングにより少なくとも部分的に形成したことを特徴とする、アクチュエータ。
【請求項24】
請求項21〜23のいずれか1項に記載のアクチュエータにおいて、
一方で前記マニピュレータ表面及び/又は前記磁石ハウジングと、他方で前記磁石保持板の少なくとも1つの取付領域との間の接続部を、少なくとも1つのばね棒により形成したことを特徴とする、アクチュエータ。
【請求項25】
請求項21〜24のいずれか1項に記載のアクチュエータにおいて、
前記マニピュレータ表面及び/又は前記磁石ハウジング、前記ばね棒及び/又は前記取付領域を、前記磁石保持板の固体材料からマイクロシステム技術に従った材料パターニング技法により加工したことを特徴とする、アクチュエータ。
【請求項26】
請求項21〜25のいずれか1項に記載のアクチュエータにおいて、
スペーサ及びミラーを前記マニピュレータ表面に配置したことを特徴とする、アクチュエータ。
【請求項27】
請求項21〜26のいずれか1項に記載のアクチュエータにおいて、
前記磁石保持板及び前記コイル板を、母材の連続性を保った結合による接続部及び/又は接続材料を介して互いに接続したことを特徴とする、アクチュエータ。
【請求項28】
サマリウムコバルト(SmCo)系の少なくとも1つの磁石を備える少なくとも1つのアクチュエータを有する、マイクロリソグラフィ用の投影露光システムを操作する方法であって、
1つ又は複数の前記磁石がある場合に水素分圧を常に4.5bar以下に保つことを特徴とする、方法。
【請求項29】
請求項28に記載の方法において、
1つ又は複数の前記磁石がある場合に水素分圧を常に3bar以下に保つことを特徴とする、方法。
【請求項30】
請求項28に記載の方法において、
1つ又は複数の前記磁石がある場合に前記水素分圧を常に1bar以下に保つことを特徴とする、方法。
【請求項31】
請求項28〜30のいずれか1項に記載の方法において、
1つ又は複数の前記磁石がある場合に温度を常に15℃以上に保つことを特徴とする、方法。
【請求項32】
請求項28〜31のいずれか1項に記載の方法において、
1つ又は複数の前記磁石がある場合に温度を常に20℃以上に保つことを特徴とする、方法。
【請求項33】
投影露光システム用のアクチュエータ、特に請求項21〜27のいずれか1項に記載のアクチュエータを製造する方法であって、
a)パターニング可能な板を準備するステップと、
b)少なくとも1つの取付領域とマニピュレータ表面の少なくとも1つの領域との間で、前記板上に少なくとも1つのばね棒構造を形成するステップと、
c)前記マニピュレータ表面の移動度を提供する目的で前記ばね棒構造を露出させるステップと、
を含む、方法。
【請求項34】
請求項33に記載の方法において、
少なくとも1つの磁石を前記マニピュレータ表面に対向して配置することを特徴とする、方法。
【請求項35】
投影露光システム用のアクチュエータ、特に請求項21〜27のいずれか1項に記載のアクチュエータを製造する方法であって、
a)パターニング可能な板を準備するステップと、
b)少なくとも1つの取付領域とマニピュレータ表面の少なくとも1つの領域との間で、前記板上に少なくとも1つのばね棒構造を形成するステップと、
c)前記マニピュレータ表面の前記領域に空洞を形成するステップと、
d)前記空洞に磁粉又は磁石を充填するステップと、
e)前記空洞をカバー要素でシールするステップと、
f)前記マニピュレータ表面の移動度を提供する目的で前記ばね棒構造を露出させるステップと、
を含む、方法。
【請求項36】
請求項33〜35のいずれか1項に記載の方法において、
前記マニピュレータ表面及び/又は前記磁石を設けた前記パターニング可能な板は、磁石保持板であり、少なくとも1つの電気コイルを有するコイル板に接続することを特徴とする、方法。
【請求項37】
請求項33〜36のいずれか1項に記載の方法において、
ミラーを前記マニピュレータ表面に配置することを特徴とする、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−517695(P2012−517695A)
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548661(P2011−548661)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051238
【国際公開番号】WO2010/091977
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(503263355)カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー (435)
【Fターム(参考)】