説明

抗−ErbB抗体−メイタンシノイド複合体を用いた治療法

【課題】ErbB受容体の過剰発現によって特徴付けられ、抗−ErbB抗体を用いた処置に対して応答しないか、または応答が貧弱である哺乳動物における腫瘍の処置方法の提供。
【解決手段】抗−ErbB受容体抗体とメイタンシノイド(maytansinoid)との複合体の治療上有効量を哺乳動物に投与する。さらに、この方法を用いるのに適した製品に関する。具体的には、抗−ErbB受容体抗体−メイタンシノイド複合体を用いた、ErbB受容体を標的とする癌治療に有効である。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明の背景
本発明の技術分野
本発明は、抗−ErbB受容体抗体−メイタンシノイド(maytansinoid)複合体を用い、特にErbB受容体を標的とする癌治療の処置方法、および該方法の使用に適した製品に関する。
【0002】
関連分野の説明
1.メイタンシンおよびメイタンシノイド
メイタンシンは初め東アフリカの低木マイテヌス・セーラタ(Maytenus serrata)から単離された(米国特許第 3,896,111)。次いで、特定の微生物もメイタンシノイド、例えばメイタンシノールおよびC−3メイタンシノールエステルを産生することが発見された(米国特許第 4,151,042)。合成メイタンシノールおよびメイタンシノールアナログは、例えば米国特許第4,137,230; 4,248,870; 4,256,746; 4,260,608; 4,265,814; 4,294,757; 4,307,016; 4,308,268; 4,308,269; 4,309,428; 4,313,946; 4,315,929; 4,317,821; 4,322,348; 4,331,598; 4,361,650; 4,364,866; 4,424,219; 4,450,254; 4,362,663 および 4,371,533に記載されている。
【0003】
メイタンシンよびメイタンシノイドは強い細胞障害性を有するが、癌治療における臨床的使用は、主に腫瘍に対する選択性の低さによる深刻な全身副作用によって非常に制限されている。メイタンシンを用いた臨床試験は、中枢神経系および胃腸系における重大な悪影響のため中断されていた(Issel et al., Can. Trtmnt. Rev. 5:199-207 (1978))。
【0004】
2.受容体チロシンキナーゼのErbBファミリーおよび抗−ErbB抗体
受容体チロシンキナーゼのErbBファミリーのメンバーは細胞増殖、分化および生存の重要な媒介物である。この受容体ファミリーには、上皮増殖因子受容体(EGFRまたはErbBl)、HER2(ErbB2またはp185neu)、HER3(ErbB3)およびHER4(ErbB4またはtyro2)を含む4つの異なるメンバーが含まれる。
【0005】
p185neuは化学的に処理されたラットの神経芽細胞腫由来のトランスフォーミング遺伝子産物としてもともと同定された。neu癌原遺伝子の活性型は、コードされたタンパク質の膜貫通領域における点突然変異(バリンからグルタミン酸へ)の結果得られる。neuのヒトホモログの増幅は、乳癌および卵巣癌に観察され、予後不良に関連する(Slamon et al., Science, 235:177-182 (1987); Slamon et al., Science, 244:707-712 (1989); および 米国特許第 4,968,603)。これまで、neu癌原遺伝子における点突然変異に類似した点突然変異は、ヒト腫瘍については報告されていない。ErbB2の過剰生産(均等ではないが頻繁な遺伝子増幅による)は胃、子宮内膜、唾液腺、肺、腎臓、大腸、甲状腺、膵臓および膀胱の癌腫を含む、その他の癌腫においても観察される。数ある中でも、King et al., Science, 229:974 (1985); Yokota et al., Lancet: 1:765-767 (1986); Fukushigi et al., Mol Cell Biol., 6:955-958 (1986); Geurin et al., Oncogene Res., 3:21-31 (1988); Cohen et al., Oncogene, 4:81-88 (1989); Yonemura et al., Cancer Res., 51: 1034 (1991); Borst et al., Gynecol. Oncol., 38:364 (1990); Weiner et al., Cancer Res., 50:421-425 (1990); Kern et al., Cancer Res., 50:5184 (1990); Park et al., Cancer Res., 49:6605 (1989); Zhau et al., Mol. Carcinog., 3:354-357 (1990); Aasland et al. Br. J. Cancer 57:358-363 (1988); Williams et al. Pathobiology 59:46-52 (1991); および McCann et al., Cancer, 65:88-92 (1990)を参照のこと。ErbB2は前立腺癌において過剰発現され得る(Gu et al. Cancer Lett. 99:185-9 (1996); Ross et al. Hum. Pathol. 28:827-33 (1997); Ross et al. Cancer 79:2162-70 (1997); および Sadasivan et al. J. Urol. 150:126-31 (1993))。構成的にチロシンをリン酸化するErbB2受容体をコードするErbB2癌遺伝子のスプライス型は、2000年4月13日に公開されたPCT公報 WO 00/20579に開示されている。スプライス変異体によってコードされるerbB2タンパク質は、2つのシステイン残基が保存システイン残基である16アミノ酸(CVDLDDKGCPAEORAS)のインフレーム(in frame)欠失を有する。
【0006】
ラットp185neuおよびヒトErbB2タンパク質産物を標的とする抗体を記載する。ドレービンと仲間達はラットneu遺伝子産物p185neuに対する抗体を産生した。例えば、Drebin et al., Cell 41: 695-706 (1985); Myers et al., Meth. Enzym. 198: 277-290 (1991) および WO 94/22478. Drebin et alを参照のこと。Oncogene 2:273-277 (1988)は、結果としてp185nerの2つの異なる領域に反応性のある抗体の混合物が、ヌードマウスに移植したneuをトランスフォームしたNIH−3T3細胞に対して相乗的な抗腫瘍効果を示すと報告している。1998年10月20日に付与された米国特許第 5,824,311も参照のこと。
【0007】
種々の性質を有する他の抗−ErbB2抗体は、Tagliabue et al. Int. J. Cancer 47:933-937 (1991); McKenzie et al. Oncogene 4:543-548 (1989); Maier et al. Cancer Res. 51:5361-5369 (1991); Bacus et al. Molecular Carcinogenesis 3:350-362 (1990); Stancovski et al. PNAS (USA) 88:8691-8695 (1991); Bacus et al. Cancer Research 52:2580-2589 (1992); Xu et al. Int. J. Cancer 53:401-408 (1993); WO 94/00136; Kasprzyk et al. Cancer Research 52:2771-2776 (1992); Hancock et al. Cancer Res. 51:4575-4580 (1991); Shawver et al. Cancer Res. 54:1367-1373 (1994); Arteaga et al. Cancer Res. 54:3758-3765 (1994); Harwerth et al. J. Biol. Chem. 267:15160-15167 (1992);米国特許第 5,783,186; および Klapper et al. Oncogene 14:2099-2109 (1997)に記載されている。
【0008】
Hudziak et al., Mol. Cell. Biol. 9(3): 1165-1172 (1989)には、ヒト乳癌細胞株SK−Br−3を用いることで特徴付けられた抗−ErbB2抗体のパネルの世代が記載されている。抗体を照射した後に、SK−Br−3細胞の相対的な細胞増殖を、72時間後に単層のクリスタルバイオレット染色によって決定した。この検定を用い、細胞増殖を56%まで阻害した4D5と呼ばれる抗体によって最大阻害が獲得られた。このパネルのその他の抗体は、この検定においてあまり重要ではない程度に細胞増殖を抑えた。この抗体4D5はTNF−の細胞障害効果に対して、ErbB2を過剰発現する乳癌細胞株を感作することがさらに判明した。1997年10月14日に付与された米国特許第 5,677,171を参照のこと。Hudziak et alに議論された抗−ErbB2抗体は、Fendly et al. Cancer Research 50:1550-1558 (1990); Kotts et al. In Vitro 26(3):59A (1990); Sarup et al. Growth Regulation 1:72-82 (1991); Shepard et al. J. Clin. Immunol. 11(3):117-127 (1991); Kumar et al. Mol. Cell. Biol. 11(2):979-986 (1991); Lewis et al. Cancer Immunol. Immunother. 37:255-263 (1993); Pietras et al. Oncogene 9:1829-1838 (1994); Vitetta et al. Cancer Research 54:5301-5309 (1994); Sliwkowski et al. J. Biol. Chem. 269(20):14661-14665 (1994); Scott et al. J. Biol. Chem. 266:14300-5 (1991); D'souza et al. Proc. Natl. Acad. Sci. 91:7202-7206 (1994); Lewis et al. Cancer Research 56:1457-1465 (1996); および Schaefer et al. Oncogene 15:1385-1394 (1997)においてさらに特徴付けられている。
【0009】
マウスモノクローナル抗HER2抗体はHER2をレベル2+および3+で過剰発現する乳癌細胞株の増殖を阻害するが、低レベルでHER2を発現する細胞には活性を示さない(Lewis et al., Cancer Immunol. Immunother. (1993))。この観察に基づき、抗体4D5をヒト化した(Carter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:4285-4289 (1992))。HERCEPTIN(登録商標)と称するヒト化バージョン(huMAb4D5-8, rhuMAb HER2, 米国特許第 5,821,337)を、腫瘍がHER2を過剰発現する乳癌患者であって従来の化学療法の後に進行した患者に試験した(Baselga et al., J. Clin. Oncol. 14:737-744 (1996)); Cobleigh et al., J. Clin. Oncol.17: 2639-2648 (1999))。この試験において、たいていの患者はレベル3+でHER2を発現していたが、一部分は2+腫瘍であった。HERCEPTIN(登録商標)は15%の患者に臨床上の応答(4%の患者は完全な応答、11%の患者は部分的な応答)を誘導し、この応答の持続期間の中央値が9.1カ月であったことは際立っていた。HERCEPTIN(登録商標)は、腫瘍がErbB2タンパク質を過剰発現する転移性乳癌を患っている患者の治療について、1998年9月25日に食品および薬品投与(the Food and Drug Administration)から承認を受けた。
【0010】
ホモロジースクリーニングにより、結果として他の2つのErbB受容体ファミリーメンバー;ErbB3 (米国特許第 5,183,884 および 5,480,968 並びに Kraus et al. PNAS(USA) 86:9193-9197 (1989)) および ErbB4 (欧州特許出願第 599,274; Plowman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:1746-1750 (1993); および Plowman et al., Nature, 366:473-475 (1993))は同一であった。この両方の受容体の提示は、少なくとも幾つかの癌細胞株について発現を増加させた。
【0011】
3.メイタンシノイド−抗体複合体
治療係数を改善しようとして、メイタンシンおよびメイタンシノイドを腫瘍細胞抗原に特異的に結合する抗体に連結した。メイタンシノイドを含む免疫複合体は、例えば米国特許第 5,208,020; 5,416,064 および 欧州特許 EP 0 425 235 B1において開示されている。Liu et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:8618-8623 (1996)には、ヒト結腸直腸癌を標的としたモノクローナル抗体C242に連結された、DM1と称するメイタンシノイドを含む免疫複合体が記載されている。この複合体は培養大腸癌細胞に対して高い細胞障害性を示すことが見出され、インビボでの腫瘍増殖検定において抗腫瘍活性を示した。Chari et al. Cancer Research 52:127-131 (1992)には、ヒト大腸癌細胞株上の抗原に結合するマウス抗体A7、またはHER−2/neu癌遺伝子を束縛する他のマウスモノクローナル抗体TA.1にジスルフィドリンカーを介し、メイタンシノイドを連結した免疫複合体が記載されている。インビトロで、1細胞当たり3×10のHER-2表面抗原を発現するヒト乳癌細胞株SK-BR-3について、TA.1−メイタンシノイド複合体の細胞障害を試験した。このドラッグ複合体は遊離メイタンシノイド薬に類似する程度の細胞障害性を示し、抗体1分子当たりのメイタンシノイド分子数を増やすことによって、細胞障害性を増加させることができた。A7−メイタンシノイド複合体はマウスにおいて低い全身細胞障害性を示した。
【0012】
広範囲の従来の抗癌治療を受たErbB2を過剰発現する乳癌患者の処置にHERCEPTIN(登録商標)が画期的であるとしても、一般的にこの集団のおよそ85%の患者はHERCEPTIN(登録商標)処置に対して応答しないか、応答が貧弱であるのみで、市場認可(marketing approval)前の臨床試験において、処置したいずれの患者においても障害の進行の中央時期はわずか3.1ヶ月であった。従って、HERCEPTIN(登録商標)治療に対して応答しないか、応答が貧弱であるHER2を過剰発現する腫瘍またはHER2発現に関連する障害を患っている患者のために、HER2を標的とする癌治療のさらなる開発について多大な臨床的必要性がある。
【0013】
本発明の要約
本発明はHERCEPTIN(登録商標)−メイタンシノイド複合体が、HERCEPTIN(登録商標)治療に対して応答しないか、応答が貧弱であるHER2(ErbB2)を過剰発現する腫瘍の治療に高い効果があるという予期しない実験上の発見に基づく。
【0014】
1つの態様について、本発明はErbB受容体の過剰発現によって特徴付けられ、モノクローナル抗−ErbB抗体を用いた処置に対して応答しないか、応答が貧弱である哺乳動物における腫瘍の処置方法であって、抗−ErbB抗体とメイタンシノイドとの複合体の治療上有効量を哺乳動物に投与することを包含する処置方法に関する。
【0015】
好ましい態様において、該患者はヒトである。他の好ましい態様において、該ErbB受容体は(ヒト)ErbB2(HER2)である。本方法は用いた抗−ErbB抗体の作用機構に限定されない。即ち、抗−ErbB抗体は、例えば増殖阻害の性質を有し得、並びに/あるいは細胞死および/またはアポトーシスを引き起こし得る。特に好ましい態様において、本方法は乳癌、卵巣癌、胃癌、子宮内膜癌、唾液腺癌、肺癌、腎臓癌、大腸癌、結腸直腸癌、甲状腺癌、膵臓癌、前立腺癌および膀胱癌を含む癌治療に関する。該癌が乳癌であることが好ましく、特にレベル2+以上、さらに好ましくはレベル3+でErbB2を過剰発現する乳癌が好ましいが、これらに限定されない。好ましい抗体群は4D5モノクローナル抗体の生物学的特徴を持つか、本質的に4D5モノクローナル抗体と同じエピトープに結合し、マウスモノクローナル抗体4D5(ATCC CRL 10463)のヒト化型が特に好ましい。
【0016】
本発明の複合体に用いられるメイタンシノイドには、メイタンシンまたは好ましくはメイタンシノール若しくはメイタンシノールエステルがあり得る。抗体とメイタンシノイドは、例えばN−スクシンイミジル−4−(2−ピリジルチオ)プロパノエート(SPDP)またはN−スクシンイミジル−4−(2−ピリジルチオ)ペンタノエート(SPP)のような二重特異性化学リンカーによって結合され得る。抗体とメイタンシノイド間の連結基には、例えばジスルフィド、チオエーテル、酸不安定性、感光性、ペプチダーゼ不安定性またはエステラーゼ不安定性群があり得る。
具体的な実施態様では、本発明の処置方法には、ErbB2に結合してErbB2レセプターのリガンド活性を阻害する第二抗体の投与が含まれる。望ましくは、第二抗体は、メイタンシノイドなどの細胞障害性物質と複合体化されていてもよい。
【0017】
その他の態様において、本発明は抗−ErbB抗体−メイタンシノイド複合体を含有する組成物およびそれを含む容器を含有する製品であって、該組成物がErbB受容体を好ましくはレベル2+以上で過剰発現することによって特徴付けられる癌を処置するのに使用できることを示す添付文書またはラベルをさらに含む製品に関する。
【0018】
本発明の詳しい説明
1.定義
特に規定しない限り、本明細書中で用いる技術用語および科学用語は本発明の属する技術分野における当業者に通常理解されるのと同じ意味を持つ。Singleton et al., Microbiology and Molecular Biology 2nd ed., .J. Wiley & Sons (New York, NY 1994)の辞書。当業者であれば、本発明の実施例に用い得た本明細書中に記載の方法および材料と同等または類似する多くの方法および材料を理解できよう。実際、本発明は記載の方法および材料にどのようにも限定されない。本発明について、次の用語を以下に定義する。
【0019】
「ErbB受容体」または「ErbB」は、ErbB受容体ファミリーに属し、ErbB1(EGFR)、ErbB2(HER2)、ErbB3(HER3)およびErbB4(HER4)受容体、およびこの先同定されるこのファミリーの他のメンバーを含む受容体タンパク質チロシンキナーゼである。特に、この定義には相当するerbB癌遺伝子のスプライス型によってコードされるErbB受容体が含まれ、PCT公報第 WO 00/20579(2000年4月13日に公開された)に開示されているErbB2の欠失変異体を含むが、これらに限定されない。ErbB受容体は一般に、ErbBリガンドに結合し得る細胞外ドメイン;親油性膜貫通ドメイン;保存性の細胞内チロシンキナーゼドメイン;およびリン酸化され得る幾つかのチロシン残基を有するカルボキシル末端シグナルドメインを含有するだろう。ErbB受容体は「天然配列」ErbB受容体または機能的誘導体、例えばこれらの「アミノ酸配列変異体」であってもよい。ErbB受容体は天然配列ヒトErbB受容体であることが好ましい。
【0020】
用語「ErbB1」、「上皮増殖因子受容体」および「EGFR」は本明細書中では交換可能に用いられ、例えばCarpenter et al. Ann. Rev. Biochem. 56:881-914 (1987)に開示するような、天然に発生するこれらの変異体(例えば、Humphrey et al. PNAS (USA) 87:4207-4211 (1990)のような欠失変異体EGFR)を含む天然配列EGFR、その機能的誘導体、例えばアミノ酸配列変異体を意味する。erbB1はEGFRタンパク質産物をコードする遺伝子を意味する。
【0021】
表現「ErbB2」および「HER2」は本明細書中では交換可能に用いられ、例えば、Semba et al., PNAS (USA)82:6497-6501(1985) および Yamamoto et al. Nature 319:230-234 (1986)(ジーンバンク受託番号 X03363)に記載の天然配列ヒトHER2タンパク質および機能的誘導体、例えばこれらのアミノ酸配列変異体を意味する。用語erbB2はヒトHER2をコードする遺伝子を意味し、neuはラットp185neuをコードする遺伝子を意味する。好ましいHER2は天然配列ヒトHER2である。HER2に結合する抗体の例としては、MAbs 4D5 (ATCC CRL 10463)、2C4 (ATCC HB-12697)、7F3 (ATCC HB-12216) および 7C2 (ATCC HB 12215) (米国特許第 5,772,997; W0 98/77797 および 米国特許第 5,840,525を参照のこと)が挙げられる。ヒト化抗HER2抗体には、米国特許 5,821,337の表3に記載のhuMAb4D5-1, huMAb4D5-2, huMAb4D5-3, huMAb4D5-4, huMAb4D5-5, huMAb4D5-6, huMAb4D5-7 および huMAb4D5-8 (HERCEPTIN(登録商標)); ヒト化520C9 (WO 93/21319)が含まれる。ヒト抗HER2抗体は、1998年6月30日に付与された米国特許第 5,772,997 および 1997年1月3日に公開されたWO 97/00271に記載されている。
【0022】
「ErbB3」および「HER3」は、例えば米国特許第 5,183,884 かつ 5,480,968 および Kraus et al. PNAS(USA)86:9193-9197 (1989)に記載の受容体ポリペプチド、並びにこれらのアミノ酸配列変異体を含む機能的誘導体を意味する。HER3に結合する抗体の例としては、例えば8B8抗体 (ATCC HB 12070) またはそれらのヒト化変異体が、米国特許第 5,968,511 (Akita および Sliwkowski)に記載されている。
【0023】
本明細書中、用語「ErbB4」および「HER4」は、例えば欧州特許出願番号 599,274; Plowman et al., Proc Natl. Acad. Sci. USA, 90:1746-1750 (1993); および Plowman et al., Nature, 366:473-475 (1993)に開示されているような受容体ポリペプチド、およびそれらのアミノ酸配列変異体、例えばWO 99/19488に開示されているHER4アイソマーを含む機能的誘導体を意味する。
【0024】
「天然」または「天然配列」EGFR、HER2、HER3またはHER4ポリペプチドは自然界から単離し得、組換えDNA技術、化学合成技法によって産生され得、またはこれら若しくは類似の方法のいずれかの組合せによって産生され得る。
【0025】
「機能的誘導体」には、相当する天然ポリペプチドの定性的な生物学的活性を維持する限りは天然ポリペプチドとのアミノ酸配列変異体および共有結合性(covalent)誘導体が含まれる。アミノ酸配列変異体は、天然アミノ酸配列中のいずれかの1以上の部位のアミノ酸の置換、欠失および/または挿入により天然配列とは一般に異なる。欠失変異体には、天然ポリペプチド断片およびN−および/またはC−末端の切断された変異体が含まれる。通常、アミノ酸配列変異体は、天然ポリペプチドの少なくとも約70%のホモロジー、好ましくは少なくとも約80%、さらに好ましくは少なくとも約90%のホモロジーを有しよう。
【0026】
「ホモロジー」は、配列をアライニングし、ギャップを導入した後に一致する、アミノ酸配列変異体における残基のパーセンテージとして定義され、必要であれば最大パーセントホモロジーを行なう。アライメント方法およびコンピュータープログラムは当分野において周知である。このようなコンピュータプログラムの1つとしては、1991年12月10日にアメリカ合衆国著作権協会ワシントン、DC20559のユーザードキュメンテーション(user documentation)に提出された著作者Genentech, Inc.の「Align2」がある。
【0027】
「ErbBリガンド」に関してはErbB受容体に結合する、および/または活性化するポリペプチドを意味する。本明細書中、特に目的のErbBリガンドは、天然配列ヒトErbBリガンド、例えば上皮増殖因子α(EGF)(Savage et al., J. Biol. Chem. 247:7612-7621(1972)); 形質転換増殖因子(TGF−α)(Marquardt et al., Science 223:1079-1082(1984));神経鞘腫またはケラチン生成細胞自己分泌増殖因子としても知られるアンフィレグリン(amphiregulin)(Shoyab et al. Science 243:1074-1076 (1989); Kimura et al. Nature 348:257-260 (1990); および Cook et al. Mol. Cell. Biol. 11:2547-2557 (1991)); ベータセルリン (Shing et al., Science 259:1604-1607 (1993); および Sasada et al. Biochem. Biophys. Res. Commun.190:1173 (1993)); へパリン結合上皮増殖因子(HB−EGF)(Higashiyama et al., Science 251:936-939 (1991)); エピレグリン(epiregulin)(Toyoda et al., J. Biol. Chem. 270:7495-7500 (1995); および Komurasaki et al. Oncogene 15:2841-2848 (1997)), ヘレグリン(heregulin)(以下を参照のこと); ニューレグリン(neuregulin)−2(NRG−2) (Carraway et al., Nature 387:512-516 (1997)); ニューレグリン−3(NRG−3) (Zhang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 94:9562-9567 (1997); または クリプト(cripto)(CR−1)(Kannan et al. J. Biol. Chem. 272(6):3330-3335 (1997))がある。EGFRに結合するErbBリガンドには、EGF、TGF−α、アンフィレグリン、ベータセルリン、HB−EGFおよびエピレグリンが挙げられる。HER3に結合するErbBリガンドには、ヘレグリンが挙げられる。HER4結合能を有するErbBリガンドには、ベータセルリン、エピレグリン、HB−EGF、NRG−2、NRG−3およびヘレグリンが挙げられる。
【0028】
本明細書中で用いる「ヘレグリン」(HRG)は、ErbB2-ErbB3 および ErbB2−ErbB4タンパク質複合体を活性化(即ち、それらに結合し、複合体のチロシン残基のリン酸化を誘導する)するポリペプチドを意味する。この用語に含まれる種々のヘレグリンポリペプチドは、例えば Holmes et al., Science 256:1205-1210 (1992); WO 92/20798; Wen et al., Mol. Cell. Biol. 14(3): 1909-1919 (1994) および Marchionni et al., Nature 362:312-318 (1993)に記載されている。この用語には、生物学的に活性な断片および/または天然に発生する種々のHRGポリペプチド、例えばこれらのEGF様ドメイン断片(例えば HRGβ177-244)が含まれる。
【0029】
本明細書中の「ErbBヘテロ−オリゴマー」は、少なくとも2つの異なるErbB受容体を含み、非共有結合的に会合したオリゴマーである。このような複合体は、2以上のErbB受容体を発現する細胞がErbBリガンドにさらされる場合に形成され得、例えば Sliwkowski et al., J. Biol. Chem., 269(20):14661-14665 (1994)に記載するように免疫沈降によって単離し、SDS−PAGEによって分析できる。このようなErbBヘテロ−オリゴマーの例として、EGFR−HER2、HER2−HER3およびHER3−HER4複合体が挙げられる。さらに、ErbBヘテロ−オリゴマーには、種々のErbB受容体、例えばHER3、HER4またはEGFRを用いて組み合わされた2以上のHER2受容体が含まれ得る。他のタンパク質、例えばサイトカイン受容体サブユニット(例えば、gpl30)が、ヘテロ−オリゴマーに含まれ得る。
【0030】
HER2変異体、例えばHER2断片との関連で、慣用語「天然ヒトHER2の生物学的活性を有する」は、本発明の動物モデル(トランスジェニックまたは非トランスジェニック)において過剰発現した場合に、腫瘍増殖を誘導する該断片の定性的な活性を意味するように用いる。
【0031】
本明細書中で用いる「腫瘍」は、悪性であろうと良性であろうと、全ての新生細胞増殖および成長、並びに全ての前癌性および癌性細胞および組織を意味する。
【0032】
用語「癌」および「癌性」は細胞増殖を制御できないことによって典型的に特徴付けられる哺乳類における生理学的状態を意味し、または記載する。癌の例としては、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫および白血病若しくはリンパ球悪性腫瘍を含むが、これらに限定されない。このような癌のより具体的な例としては、扁平細胞癌(例えば、扁平上皮細胞癌)、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌および肺の扁平上皮癌腫を含む肺癌、腹膜癌、肝細胞癌、胃腸癌を含む胃癌、膵臓癌、グリア癌腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝癌、膀胱癌、肝臓癌、乳癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌ないし子宮癌腫、唾液腺癌腫、腎臓癌ないし腎性癌、前立腺癌、外陰(vulval)癌、甲状腺癌、肝臓癌腫、肛門癌腫、陰茎癌腫並びに頭部癌および頚部癌が含まれる。
【0033】
ErbB受容体を「過剰発現」する癌は、同じ組織タイプの非癌性細胞と比較して、その細胞表面に非常に高レベルのErbB受容体、例えばHER2を有するものである。このよな過剰発現は遺伝子増幅、または転写若しくは翻訳の増大によって引き起こされ得る。診断または予後検定(例えば、免疫組織化学検定;IHCを介して)において、ErbB受容体の過剰発現は細胞表面に存在するErbBタンパク質の増大レベルを評価することによって決定し得る。もう1つ若しくは更なる方法としては、例えば蛍光インシチュハイブリッド形成法(FISH;1998年10月に公開されたW0 98/45479を参照のこと)、サザンブロッティングまたは実時間定量(real time quantitative)PCR(RT−PCR)などのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を介して、細胞内のErbBをコードする核酸レベルを測定し得る。血清のような生物学的液体において分断された抗原(例えば、ErbB細胞外ドメイン)を測定することによってもErbB受容体の過剰発現を調査し得る(例えば、1990年6月12日に付与された米国特許第 4,933,294; 1991年4月18日に公開された W0 91/05264; 1995年3月28日に付与された米国特許 5,401,638; および Sias et al. J. Immunol. Methods 132: 73-80 (1990)を参照のこと)。上記検定の他に、種々のインビボ検定が当業者に利用可能である。例えば、検出可能な標識、例えば患者身体内で放射性同位体で随意的に標識化した抗体に対し細胞を露光させ得、該患者の細胞に対する抗体の結合を、例えば放射能の外部走査(external scanning)によって、または予め抗体にさらされた患者から得られた生検を分析することによって評価できる。
【0034】
腫瘍が過剰発現するHER2は、細胞1個当たりに発現されるHER2分子のコピー数に対応した免疫組織化学スコアによってランク付けされ、生物化学的に、0は0〜10,000 コピー/細胞、1+は少なくとも約200,000 コピー/細胞、2+は少なくとも約500,000 コピー/細胞、3+は少なくとも約2,000,000 コピー/細胞:と決定され得る。HER2のレベル3+での過剰発現はトリプシンキナーゼのリガンド非依存活性を引き起こし(Hudziak et al., Proc. Natl. Acad Sci. USA 84: 7159-7163(1987))、乳癌のおよそ30%に生じ、これらの患者の無再発性生存および全般的生存を減少させる(Slamon et al., Science 244: 707-712(1989); Slamon et al., Science 235:177-182(1987))。
【0035】
逆にいえば、「ErbB受容体の過剰発現によって特徴付けられない」癌は、診断検定において同じ組織タイプの非癌性細胞と比較して、通常のErbB受容体レベルより高く発現していない癌である。
【0036】
「ホルモン非依存性」癌は、癌において、その増殖が細胞によって発現された受容体に結合するホルモンの存在に依存しない癌である。このような癌は、腫瘍内またはその付近のホルモン濃度を減少させる薬理学的ストラテジーまたは外科的ストラテジーの実施による臨床的な退縮に影響されない。ホルモン非依存性癌の例としては、アンドロゲン非依存性前立腺癌、エストロゲン非依存性乳癌、子宮内膜癌および卵巣癌が挙げられる。このような癌はホルモン依存性腫瘍として生じ、抗ホルモン治療の後にホルモン感受性段階からホルモン難治性腫瘍に進行するのだろう。
【0037】
本明細書中の用語「抗体」は最も広い意味で用いられ、特に無傷なモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2個の無傷な抗体から形成される多重特異性(multispecific)抗体(例えば、二重特異性抗体)および望む生物学的活性を示す限り抗体断片も網羅する。本明細書中で用いる用語「モノクローナル抗体」は実質的に単一の抗体、即ち微量に存在し得る自然発生的な突然変異体を除き、集団を構成する個々の抗体が同一である集団から得られる抗体を意味する。モノクローナル抗体は特異性が高く、単一の抗原部位を標的とする。その上、種々の決定基(エピトープ)を標的とする種々の抗体を含むポリクローナル抗体製剤とは異なり、それぞれのモノクローナル抗体は抗原の1つの決定基を標的とする。この特異性に加えて、モノクローナル抗体は他の抗体によって汚染されることなく合成し得る点で有利である。修飾語「モノクローナル」は実質的に単一の抗体集団から得られるような抗体の特徴を示し、任意の特殊な方法による抗体産生を必要としない。例えば、本発明基づき用いられるモノクローナル抗体は、初めはKohler et al., Nature, 256:495 (1975)によって記載されたハイブリドーマ法によって作成し得、また組換えDNA法によって作成し得る(例えば、米国特許第 4,816,567を参照のこと)。「モノクローナル抗体」は、例えばClackson et al., Nature, 352:624-628 (1991) および Marks et al., J. Mol. Biol., 222:581-597 (1991)に記載の技術を用いるファージ抗体ライブラリーからも単離し得る。
【0038】
具体的には、本明細書中のモノクローナル抗体には、重鎖および/または軽鎖の一部が特定の種から誘導された、または特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体の相当配列と同一若しくは単一であり、加えて、この鎖の残りの部分がその他の種から誘導され、またはその他の抗体クラス若しくはサブクラスに属する「キメラ」抗体、並びに望む生物学的活性を示す限りこのような抗体の断片が含まれる(米国特許第 4,816,567; および Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855 (1984))。本明細書中の目的のキメラ抗体には、ヒト以外の霊長類(例えば、旧世界ザル、類人猿など)およびヒトの定常領域配列から誘導された抗原に結合する可変ドメイン配列を含む霊長類化(primatized)抗体が含まれる。
【0039】
「抗体断片」は無傷な抗体の一部を含み、好ましくはそれらの抗原に結合する領域または可変領域を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab'、F(ab')2、およびFv断片; ジアボディー(diabodies); 線状抗体; 1本鎖抗体分子; および 抗体断片から形成された多重特異性抗体が挙げられる。
【0040】
「無傷な」抗体は、抗原に結合する可変領域並びに軽鎖定常ドメイン(CL)および重鎖定常ドメインCH1、CH2およびCH3を含む抗体である。この定常ドメインは、天然配列定常ドメイン (例えば、ヒト天然配列定常ドメイン)またはそれらのアミノ酸配列変異体であってもよい。この無傷な抗体は1つまたはそれ以上のエフェクター機能を有することが好ましい。
【0041】
ヒト以外(例えば、齧歯動物)の抗体の「ヒト化」型は、ヒト以外の免疫グロブリンから誘導された最小配列を含むキメラ抗体である。多くの場合、ヒト化抗体は受容者の超可変領域由来の残基がヒト以外の種(提供者抗体)、例えばマウス、ラット、ラビットまたはヒト以外の霊長類の望む特性、親和性および能力を有する超可変領域由来の残基に置換されたヒト免疫グロブリン(受容者抗体)である。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基を、ヒト以外の相当残基に置換する。さらに、ヒト化抗体は受容者抗体または提供者抗体には見られない残基を含んでいてもよい。この改変は抗体性能をさらに洗練させるために行なわれる。一般にこのヒト化抗体は、超可変ループの全て若しくは実質的に全てがヒト以外の免疫グロブリンの超可変ドメインに対応し、そのFRの全て若しくは実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のFRである、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの全てを実質的に含むだろう。このヒト化抗体は免疫グロブリン、典型的にはヒト免疫グロブリンの免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部もまた随意的に含むだろう。さらに詳細には、Jones et al., Nature 321:522-525 (1986); Riechmann et al., Nature 332:323-329 (1988); および Presta, Curr. Op. Stuct. Biol. 2:593-596 (1992)を参照のこと。
【0042】
ヒト化抗−ErbB2抗体には、米国特許 5,821,337の表3に記載されているような huMAb4D5-1、huMAb4D5-2、huMAb4D5-3、huMAb4D5-4、huMAb4D5-5、huMAb4D5-6, huMAb4D5-7 および huMAb4D5-8 (HERCEPTIN(登録商標));図6に示すようなヒト化520C9(W0 93/21319)およびヒト化2C4抗体が含まれる。
【0043】
抗体「エフェクター機能」は、抗体のFc領域(天然配列Fc領域またはアミノ酸配列変異体Fc領域)による生物学的活性を意味する。抗体エフェクター機能の例としては、C1q結合;補体依存性細胞障害;Fc受容体結合;抗体依存性細胞性障害(ADCC);食細胞作用;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体;BCR)の下方調節などが挙げられる。
【0044】
この重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、無傷な抗体を異なる「クラス」に割り振ることができる。無傷な抗体の主要な5つのクラス:IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMがあり、これらの幾つかを「サブクラス」(イソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgAおよびIgA2にさらに細分し得る。抗体の種々のクラスに対応する重鎖定常ドメインは、α、δ、ε、γ、及びμとそれぞれ呼ばれる。免疫グロブリンの種々のクラスのサブユニット構造および3次元立体配置は周知である。
【0045】
「抗体依存性細胞性障害」および「ADCC」は、Fc受容体(FcR)を発現する非特異的細胞障害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球およびマクロファージ)が標的細胞上の結合性抗体を認識し、続いて標的細胞の溶解を引き起こす細胞媒介性反応を意味する。単球はFcRI、FcRIIおよびFcRIIIを発現するのに対し、ADCCを媒介する一次細胞、NK細胞はFcRIIIのみを発現する。造血細胞におけるFcR発現が要約されているものについては、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9:457-92 (1991)の464ページの表3にある。目的分子のADCC活性を評価するために、米国特許第 5,500,362 または 5,821,337に記載されているようなインビトロADCC検定を実行し得る。このような検定について有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)およびナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。もう1つ若しくは更なる方法として、目的分子のADCC活性はインビボ、例えばClynes et al. PNAS (USA) 95:652-656 (1998)に開示されるような動物モデルにおいて評価し得る。
【0046】
「ヒトエフェクター細胞」は1つまたはそれ以上のFcRを発現し、エフェクター機能を示す白血球である。この細胞が少なくともFcRIIIを発現し、ADCCエフェクター機能を果たすことが好ましい。ADCCを媒介するヒト白血球の例としては、末梢血単核細胞(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞障害性T細胞および好中球が挙げられ、PBMCおよびNK細胞であることが好ましい。このエフェクター細胞は、例えば本明細書中に記載するような血液またはPBMCなどの自然環境源から単離し得る。
【0047】
用語「Fc受容体」または「FcR」は抗体のFc領域に結合する受容体を表すのに用いる。好ましいFcRは天然配列ヒトFcRである。さらに好ましいFcRは、IgG抗体に結合するFcR(γ受容体)であり、FcRI、FcRIIおよびFcRIII サブクラスの受容体が含まれ、対立変異体および択一的にスプライスされたこれらの受容体型が含まれる。FcRII 受容体には、こられの細胞質ドメインと本来異なる類似のアミノ酸配列を有するFcRIIA (「活性受容体」)およびFcRIIB (「阻害受容体」)が含まれる。活性化受容体FcRIIAは、その細胞質ドメインにチロシンに基づく免疫受容体活性化モチーフ(ITAM)を含む。阻害受容体FcRIIBは、その細胞質ドメインにチロシンに基づく細胞受容体阻害モチーフ(ITIM)を含む(M. in Daeeron. Annu. Rev. Immunol. 15:203-234 (1997)レビューを参照のこと)。FcRは、Ravetch および Kinet, Annu. Rev. Immunol 9:457-92 (1991); Capel et al., Immunomethods 4:25-34 (1994); および de Haas et al., J. Lab. Clin. Med. 126:330-41 (1995)に総説されている。今後同定されるFcRを含み、他のFcRは、本明細書中の用語「FcR」に包含される。この用語には、母体のIgGの胎児への移行を可能にする新生児受容体、FcRnも含む(Guyer et al., J. Immunol. 117:587 (1976) および Kim et al., J. Immunol. 24:249 (1994))。
【0048】
「補体依存性細胞障害」または「CDC」は補体存在下で標的を溶解する分子の性能を意味する。この補体活性化経路は、補体系の第1成分(C1q)が同系抗原と複合体を形成する分子(例えば、抗体)に結合することによって開始される。補体活性化を評価するために、CDC検定、例えばGazzano-Santoro et al., J. lmmunol. Methods 202:163 (1996)を行ない得る。
【0049】
「天然抗体」は、通常2つの同一の軽(L)鎖および2つの同一の重(H)鎖から構成される約150,000ダルトンのヘテロ4量体糖タンパク質である。ジスルフィド連結の数は、種々の免疫グロブリンイソタイプの重鎖間で異なるが、軽鎖はそれぞれ1つの共有ジスルフィド結合によって重鎖に連結されている。それぞれの重鎖および軽鎖もまた、鎖内のジスルフィド架橋によって一定の間隔に保たれている。重鎖はそれぞれ、幾つかの定常ドメインの一端に可変ドメイン(VH)を有する。軽鎖はそれぞれ、一端に可変ドメイン(VL)を、その反対側に定常ドメインを有する。軽鎖の定常ドメインは重鎖の最初の定常ドメインと合わさり、軽鎖の可変ドメインは重鎖の可変ドメインと合わさる。特定のアミノ酸残基が、軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインの間の界面を形成すると考えられている。
【0050】
抗体に関連して用いられる用語「可変」は、抗体可変ドメインの特定の部分が抗体間の配列において大きく異なることを意味し、特定の抗原に対する特定の抗体それぞれの結合性および特異性に用いられる。しかし、この可変性は抗体の可変ドメインに渡って一様に分布するものではない。軽鎖と重鎖の可変ドメイン両方の超可変領域と呼ばれる3つの区分に集中している。可変ドメインのより保存性の高い部分はフレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然重鎖および軽鎖の可変ドメインはそれぞれ4つのFRから構成され、ループ連結を形成し、場合によってはβ−シート構造の一部を形成する3つの超可変領域によって連結される、β−シート立体配置を主にとっている。それぞれの鎖の超可変領域は、抗体の抗原結合部位の形成に寄与するもう一方の鎖の超可変領域と、FRによって最も近づいた状態に互いに維持される(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991)を参照のこと)。定常ドメインは、抗体依存性細胞性障害(ADCC)における抗体の関与など種々のエフェクター機能を示すことを除いて、抗原に対する抗体の結合には直接関与しない。
【0051】
本明細書中で用いる場合、用語「超可変領域」は抗原結合の要因である抗体のアミノ酸残基を意味する。超可変領域は、「相補性決定領域」または「CDR」由来のアミノ酸残基(例えば、軽鎖可変ドメインにおける 24-34 (L1)、50-56 (L2) および 89-97 (L3) 並びに 重鎖可変ドメインにおける 31-35 (H1)、50-65 (H2) および 95-102 (H3)残基; Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991)) および/または 「超可変ループ」由来の残基(例えば、軽鎖可変ドメインにおける26-32 (L1)、50-52 (L2) および 91-96 (L3) 並びに 重鎖可変ドメインにおける26-32 (H1)、53-55 (H2) および 96-101(H3)残基; Chothia および Lesk J. Mol. Biol 196:901-917 (1987))を一般に含む。「フレームワーク領域」または「FR」残基は、本明細書中に規定するような超可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。
【0052】
「単離された」抗体は同定されている抗体であり、自然環境成分から分離および/または回収される。自然界の汚染成分は抗体の診断使用または治療使用を妨害するかもしれない物質であり、酵素、ホルモンおよび他のタンパク質系物質または非タンパク質系物質溶液が含まれ得る。好ましい態様について、抗体は(1)ローリー法によって決定する場合、抗体重量当たり95%以上、最も好ましくは重量当たり99%以上に、(2)スピニングカップ(spinning cup)シークエネーターの使用によって、少なくともN末端の15残基または内側のアミノ酸配列を得るのに十分な程度に、あるいは(3)クマシーブルー(Coomassie blue)または好ましくは銀染色を用い、還元または非還元環境下におけるSDS−PAGEにより均一に精製されよう。単離された抗体には、少なくとも抗体の自然環境の成分が1つも存在しないので、組換え細胞内のインシチュでの抗体が含まれる。しかし、通常単離された抗体は少なくとも1回の精製過程によって調製されるだろう。
【0053】
目的の抗原、例えばErbB2抗原に「結合する」抗体は、十分な親和性をもってその抗原に対する結合能を有する抗体であって、そのような抗体は、抗原を発現する細胞を標的とし、および/または細胞障害物質若しくはメイタンシノイドのような他の化学療法物質の標的化した運搬のための診断物質および/または治療物質として有用である。抗体がErbB2に結合する抗体である場合、通常、他のErbB受容体に対してErbB2に優先的に結合し、この抗体は他のタンパク質、例えばEGFR、ErbB3またはErbB4と著しい交差反応を示さないであろう。このよな態様について、ErbB2以外のタンパク質に対する抗体の結合範囲(例えば、内因性受容体に対する細胞表面結合)を、蛍光発色セルソーター(FACS)分析または放射性免疫沈降法(RIA)を用いて決定した場合、10%未満であろう。時々抗−ErbB2抗体は、例えばSchecter et al. Nature 312:513 (1984) および Drebin et al., Nature 312:545-548 (1984)に記載のようにラットneuタンパク質と著しい交差反応を示さないこともあるだろう。
【0054】
特に規定しない限り、表現「モノクローナル抗体4D5」および「4D5モノクローナル抗体」は、抗原またはその誘導体に結合する残基を有する抗体、マウス4D5抗体を意味する。例えば、このモノクローナル抗体4D5は、マウスモノクローナル抗体4D5(ATCC CRL 10463)またはその誘導体、例えばマウスモノクローナル抗体4D5の抗原に結合するアミノ酸残基を有するヒト化抗体4D5であってもよい。ヒト化4D5抗体の具体例としては、米国特許第 5,821,337にあるようなhuMAb4D5-1、huMAb4D5-2、huMAb4D5-3、huMAb4D5-4、huMAb4D5-5、huMAb4D5-6、huMAb4D5-7 および huMAb4D5-8 (HERCEPTIN(登録商標))が挙げられ、huMAb4D5-8 (HERCEPTIN(登録商標))が、好ましいヒト化4D5抗体である。
【0055】
称する抗体、例えば4D5と称するモノクローナル抗体の「生物学的特徴」を有する抗体は、同じ抗原(例えば、ErbB2)に結合する他の抗体から識別できる、その抗体の生物学的特徴を1つまたはそれ以上有する抗体である。例えば、4D5の生物学的特徴を有する抗体は、ErbB2の過剰発現レベルに依存する形でErbB2を過剰発現する細胞の増殖を阻害する効果を示し、および/または4D5が結合するのと同じErbB2の細胞外ドメインのエピトープに結合し得る(例えば、ErbB2に対するモノクローナル抗体4D5の結合をブロックする)。
【0056】
本明細書に使用する「増殖阻害剤」とは、細胞、特にErbB発現癌細胞の増殖をインビトロまたはインビボのいずれにおいても阻害する化合物または組成物を意味する。従って、本発明における増殖阻害剤はS期のErbB発現細胞の割合を有意に減少させることができる。増殖阻害剤の例としては、細胞周期の進行を(S期以外の時点にて)ブロックする物質、例えばG1停止およびM期停止を誘発する物質が挙げられる。従前のM期ブロッカーにはビンカ類(ビンクリスチンおよびビンブラスチン)、タキサン類、およびトポII阻害剤、例えばドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、エトポシドおよびブレオマイシンがある。G1を停止させる物質はS期停止にも影響し、例えばタモキフェン、プレドニゾン、ダカルバジン、メクロレタミン、シスプラチン、メトトレキサート、5−フルオロウラシルおよびアラ−CなどのDNAアルキル化物質である。さらなる情報は、The Molecular Basis of Cancer, Mendelsohn and Israel, eds., 「細胞周期調節、腫瘍形成遺伝子および抗新生物薬物」と題する第一章, Murakamiら(WB Saunders: フィラデルフィア, 1995)、特に13頁にて見出すことができる。
【0057】
「増殖阻害」性抗体の例としては、ErbB2に結合し、ErbB2を過剰発現している癌細胞の増殖を阻害する抗体が挙げられる。好ましい増殖阻害性抗−ErbB2抗体は抗体濃度約0.5〜30g/mlにて、細胞培養物におけるSK−BR−3乳癌細胞の増殖を20%以上、好ましくは50%以上(例えば約50%から約100%)、阻害する(ここに、増殖阻害はSK−BR−3細胞を抗体に暴露して6日後に測定)(1997年10月14日発行の米国特許第5,677,171を参照)。SK−BR−3細胞増殖阻害検定はこの特許公報および本明細書の以下に詳細に説明する。好ましい増殖阻害性抗体はモノクローナル抗体4D5、例えばヒト化4D5である。
【0058】
「細胞死を誘導する」分子(例えば抗体)は生細胞を非生細胞へとする分子である。この細胞は一般に、ErbB2受容体を発現するものであり、特にこの細胞はErbB2受容体を過剰発現するものである。好ましくは、細胞は癌細胞、例えば乳癌、卵巣癌、胃癌、子宮内膜癌、唾液腺癌、肺癌、腎臓癌、結腸癌、甲状腺癌、膵臓癌、前立腺癌または膀胱癌細胞である。インビトロでは、これらの細胞はSK−BR−3、BT474、Calu3、MDA−MB−453、MDA−MB−361またはSKOV3細胞であってもよい。インビトロでの細胞死は補体および免疫エフェクター細胞の不存在下に測定すれば、抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)または補体依存性細胞傷害(CDC)によって誘導される細胞死を区別することができる。従って、細胞死の検定は、熱不活化血清(即ち補体の不存在下)を使用し、および免疫エフェクター細胞の不存在下に行うことができる。ある分子が細胞死を誘導できるか否かは、プロピジウム・ヨーダイド(PI)、トリパンブルー(Mooreら、Cytotechnology 17:1-11(1995))または7AADの取り込みによって評価される膜完全性の喪失を、未処理細胞と比較して評価すればよい。好ましい細胞死誘導抗体は、BT474細胞を用いるPI取り込み検定においてPIの取り込みを誘導する抗体である。細胞死を誘導する抗体の例としては、抗−ErbB2抗体7C2および7F3(WO 98/17797)、例えばヒト化および/またはその親和性成熟変異体である。
【0059】
「アポトーシスを誘導する」分子(例えば抗体)はプログラムされた細胞死を誘導する分子であり、これはアネキシンVとの結合、DNAの分断、細胞の縮み、小胞体の膨脹、細胞分画化、および/または膜小胞の形成(いわゆるアポトーシス体)によって決定される。この細胞は通常、ErbB2受容体を過剰発現するものである。好ましい細胞は、腫瘍細胞、例えば乳癌、卵巣癌、胃癌、子宮内膜癌、唾液腺癌、肺癌、腎臓癌、結腸癌、甲状腺癌、膵臓癌、前立腺癌または膀胱癌細胞である。インビトロでは、この細胞はSK−BR−3、BT474、Calu3、MDA−MB−453、MDA−MB−361またはSKOV3細胞であってもよい。アポトーシスに関連する細胞事象を評価するための種々の方法が利用可能である。例えば、アネキシン結合性によってホスファチジルセリン(PS)移動を測定できる;DNAはしご化によってDNA分断を評価できる:およびDNA分断に伴う核/クロマチン濃縮は低二倍体細胞の増加によって評価できる。好ましくは、アポトーシスを誘導する分子は、BT474細胞を使用するアネキシン結合検定において未処理細胞と比較し、アネキシン結合を約2−50倍、好ましくは約5−50倍、最も好ましくは約10−50倍とする分子である。プロ−アポトーシス分子は、ErbB受容体のErbBリガンド活性化をさらにブロックするものである場合がある。別の場合、この分子は、ErbB受容体のErbBリガンド活性化を有意にブロックしない。さらに、この分子はS期の細胞パーセンテイジを大きく減少させずに、アポトーシスを誘導する場合がある(例えば、S期の細胞のパーセンテイジを対照と比較して約0−10%しか減少させない分子)。アポトーシスを誘導する抗体の例としては、抗−ErbB2抗体7C2および7F3(WO 98/17797)、例えばヒト化および/またはその親和性成熟変異体である。
【0060】
ErbB受容体のリガンド活性化を「ブロック」する抗体は、先に定義したこの活性化を減少または妨害するものであり、ここでは該抗体は、モノクローナル抗体4D5よりも実質的により有効にErbB受容体のリガンド活性化をブロックすることができ、例えばモノクローナル抗体7F3または2C4またはそのFab断片とおよそ同等に有効に、好ましくはモノクローナル抗体2C4またはそのFab断片とおよそ同等に有効にブロックできる。例えば、ErbB受容体のリガンド活性化をブロックする抗体は、ErbBへテロ−オリゴマーのブロック形成を4D5よりも約50−100%以上有効にするものであり得る。ErbB受容体のリガンド活性化のブロックは次のようにしておこすことができる:例えば、ErbB受容体とのリガンド結合、ErbB複合体形成、ErbB複合体におけるErbB受容体のチロシンキナーゼ活性および/またはErbB受容体におけるまたはErbB受容体によるチロシンキナーゼ残基のリン酸化、を妨害する。ErbB受容体のリガンド活性化をブロックする抗体の例としては、(ErbB2/ErbB3およびErbB2/ErbB4ヘテロ−オリゴマーのHRG活性化、及びEGFR/ErbB2ヘテロオリゴマーのEGF、TGF−、アンフィレグリン、HB−EGF及び/又はエピレグリン活性化をブロックする)モノクローナル抗体2C4および7F3、およびL26、L96およびL288抗体(Klapper et al. Oncogene 14:2099-2109(1997))があり、これらはEGFR、ErbB2、ErbB3およびErbB4を発現するT47D細胞に結合するEGFおよびNDFをブロックする。上記に定義したヒト化および/または親和性成熟変異体およびその他の抗体も具体的に含まれる。
【0061】
「エピトープ」なる用語は、タンパク質抗原における(モノクローナルまたはポリクローナル)抗体に対する結合部位を意味する。
【0062】
特定のエピトープに結合する抗体は「エピトープマッピング」によって同定される。タンパク質におけるエピトープをマッピングし特性化するための公知の方法は多く存在し、それには、抗体−抗原複合体の結晶構造を溶解する、競合検定、遺伝子断片発現検定、および合成ペプチド−基本検定などがあり、例えばHarlow and Lane, Using Antibodies, a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Sping Harbor, ニューヨーク1999の第2章に記載されている。競合検定は以下に詳述する。遺伝子断片発現検定によれば、タンパク質をコードするオープン解読枠を無作為に、または特異的遺伝子コンストラクトによって断片化し、発現されたタンパク質の断片の活性を、試験する抗体によって測定する。例えば、遺伝子断片をPCRによって調製し、次いでインビトロにおいてそれを放射活性アミノ酸の存在下、転写、翻訳してタンパク質とすればよい。次に、放射活性標識されたタンパク質断片に対する抗体の結合性を、免疫沈降法およびゲル電気泳動法によって測定する。特定のエピトープは、ファージ粒子の表面に提示されたランダムペプチド配列の大規模ライブラリー(ファージライブラリー)を用いて同定することができる。あるいは、重複ペプチド断片の特定のライブラリーは、単純結合検定における試験抗体に対する結合性について試験することができる。後者の方法は約5−15アミノ酸の線状エピトープを規定するのに適している。
【0063】
2つの抗体が同一または構造的に重複するエピトープを認識する場合、その抗体は、参照抗体と「同じエピトープに本質的に」結合する。2つのエピトープが同一または構造的に重複するエピトープと結合するか否かを調べる最も広範に使用される迅速な方法は競合検定であり、これは標識抗原または標識抗体のいずれかを用いる多くの種々の形態に改変することができる。通常、抗原は96ウエル平板に固定化し、標識抗体の結合をブロックする非標識抗体の能力を放射活性または酵素標識を用いて測定する。
【0064】
「エピトープ4D5」は、抗体4D5(ATCC CRL10463)が結合するErbB2の細胞外ドメインの領域である。このエピトープはErbBの膜貫通ドメインの近くに位置し、配列番号3(図4)に示すErbB2細胞外ドメイン配列内に包含されるおよそ残基519からおよそ残基625までに伸びている。4D5エピトープに結合する抗体をスクリーニングするには、Harlow and Lane(前掲)に記載されているような通常の交差ブロッキング検定を行えば良い。あるいは、エピトープマッピングを行えば、抗体がErbB2の4D5エピトープに結合するか否かを評価することができる(例えば、配列番号3に含まれるおよそ残基529からおよそ残基625までの領域内の1つまたはそれ以上の残基)。
【0065】
「エピトープ3H4」は、抗体3H4が結合するErbB2の細胞外ドメイン内の領域である。このエピトープはErbB2細胞外ドメインのアミノ酸配列内に包含されるおよそ541からおよそ599の残基を含む(図4および配列番号3を参照)。
【0066】
「エピトープ7C2/7F3」は、7C2および/または7F3抗体(それぞれATCCに寄託されている、後述)が結合するErbB2の細胞外ドメインのN末端に位置する領域である。7C2/7F3エピトープに結合する抗体をスクリーニングするには、Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Harlow and Lane編(1988)に記載されているような通常の交差ブロッキング検定を行えばよい。あるいは、エピトープマッピングを行えば、抗体がErbB2の7C2/7F3エピトープに結合するか否かを評価することができる(例えば、ErbB2のおよそ残基22からおよそ残基53までの領域内の1つまたはそれ以上の残基;図4および配列番号3参照)。
【0067】
「モノクローナル抗体抗−ErbB抗体による処置に応答しない、または応答が貧弱である」腫瘍とは、認知されている動物モデルまたはヒト臨床試験においてプラセボで処置しまたは全く処置していない群と比較して、抗−ErbB抗体処置に対する応答が数学的に有意に改善することを意味するものでなく、これは抗−ErbB抗体による初期の処置に応答するが、処置を続行するに連れて増殖する腫瘍である。抗−ErbB抗体の効能を試験するのに特に適した動物モデルは本明細書に開示し、実施例3にて説明しているトランスジェニック動物モデルである。
【0068】
「処置」なる用語は、癌の発生または拡散などの望ましくない生理学的変化または障害を防止し、または緩徐(減ずる)するための、治療的処置および予防的もしくは保存的手段の両者を意味する。本発明では、有益なまたは望ましい臨床結果には、検出できるか否かを問わず、症状の緩和、疾患程度の減少、疾患の安定化状態(即ち、悪化していない状態)、疾患の進行の遅延または緩やかさ、疾患状態の改善または軽減、および(部分的または全体的な)緩解が含まれが、これらに限定されない。「処置」は、非処置であるなら予想される生存率と比較し、高い生存率をも意味することがある。処置を必要とする対象には、症状または障害を既に有しているものや、症状または障害を有する傾向のあるもの、または症状または障害を予防すべきものが含まれる。
【0069】
「障害」とは、本発明の処置が有益となるあらゆる症状である。これには、哺乳類が問題の障害にかかりやすくなっている病態などの、慢性および急性の障害または疾患を含む。本発明にて処置される障害の例としては、良性および悪性腫瘍、白血病およびリンパ性悪性腫瘍、特に乳癌、卵巣癌、胃癌、子宮内膜癌、唾液腺癌、肺癌、腎臓癌、結腸癌、甲状腺癌、膵臓癌、前立腺癌または膀胱癌が挙げられるが、これらに限定されない。本発明にて処置されるに好ましい障害は、ErbB受容体(例えばErbB2および/またはEGFR)を過剰発現し、過剰発現している受容体に対する抗体による処置に応答しないか、その応答が貧弱である悪性腫瘍、例えば乳癌である。特に好ましい障害は、HERCEPTIN(登録商標)療法に応答しないか、その応答が貧弱である、ErbB2を過剰発現している乳癌である。
【0070】
「治療学的有効量」なる用語は、哺乳類の疾患または障害を処置するのに有効な薬物の量を意味する。癌の場合、薬物の治療学的有効量は癌細胞の数を減少させ、癌の大きさを小さくし、癌細胞の末梢器官への浸潤を阻害し(即ち、ある程度遅くし、好ましくは停止させる)、腫瘍転移を阻害し(即ち、ある程度遅くし、好ましくは停止させる)、腫瘍増殖をある程度阻害し、および/または1つまたはそれ以上の癌関連症状をある程度、緩解させることができる。薬物が、存在する癌細胞の増殖を防止し、および/または死滅させる限り、それは細胞増殖阻害性であり、および/または細胞障害性であり得る。癌療法では、例えばその効能は、疾患進行までの時間(TTP)を測定し、および/または応答速度(RR)を決定することによって判定することができる。
【0071】
本明細書にて使用している「細胞障害剤」なる用語は、細胞の機能を阻害し防止し、および/または細胞破壊をもたらす物質を意味する。この用語には、放射活性同位体(例えば、AT211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32および、Luの放射活性同位体)、化学療法剤、および小分子毒素または、細菌、真菌、植物または動物起源の断片および/またはその変異体などの酵素学的に活性な毒素、などの毒も含まれる。
【0072】
「化学療法剤」とは、癌の処置に有用な化合物である。化学療法剤の例としては、アルキル化剤、例えばチオテーパおよびシクロスホスファミド(CYTOXAN(登録商標));アルキルスルホネート類、例えばブスルファン、インプロスルファンおよびピポスルファン;アジリジン類、例えばベンゾドーパ、カルボクオン、メタウレドーパ、およびウレドーパ;アルトレートアミン(altretamine)、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスファオルアミドおよびトリメチルオロメラミンを含むエチレンイミン類およびメチルアメラミン類;ニトロゲンマスタード類、例えばクロルアンブシル、クロルナファジン、クロロホスホアミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩(mechlorethamine oxide hydrochloride)、メルファラン、ノベンビチン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード;硝酸ウレア類(nitrosureas)、例えばカルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン;抗生物質類、例えばアクラシノミシン、アクチノミシン、アウトラミシン、アザセリン、ブレオミシン類、カクチノミシン、カリケラミシン、カラビシン、カルミノミシン、カルジノフィリン、クロモミシン類、ダクチノミシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロミシン、ミトミシン類、ミコフェノリン酸(mycophenolic acid)、ノガラミシン、オリボミシン類、ペプロミシン、ポトフィロミシン、プロミシン、ケラミシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;代謝拮抗物質類(anti-metabolites)、例えばメトトレキセートおよび5−フルオロウラシル(5−FU);葉酸類似体類、例えばデノプテリン、メトトレキセート、プテロプテリン、トリメトレキセート;プリン類似体類、例えばフルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン;ピリミジン類似体類、例えばアンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロキシウリジン(floxuridine)、5−FU;アンドロゲン類、例えばカルステロン、ドロモスタノロンプロピオネート、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン;抗副腎(anti-adrenals)類、例えばアミノグルテートイミド(aminoglutethimide)、ミトタン、トリロスタン;葉酸補液(folic acid replenisher)、例えばフロリン酸(frolinic acid);アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸(aminolevulinic acid);アンサクリン;ベストラブシル;ビスアントレン(bisantrene);エダトラキセート;デホフアミン(defofamine);デメコルシン;ジアジクオン(diaziquone);エルホルニチン;エリプチニウム酢酸塩(elliptinium acetate);エトグルシド;ガリウム硝酸塩;ヒドロキシウレア;レンチナン;ロニドアミン(lonidamine);ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメト(phenamet);ピラルビシン;ポドフィリン酸(podophyllinic acid);2−エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK;ラゾキサン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸(tenuazonic acid);トリアジコン(triaziquone);2,2’,2’−トリクロロトリエチルアミン;ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン;アラビノシド(“Ara−C”);シクロホスファミド;チオテーパ;タキサン類、例えばパクリタキセル(TAXOL(登録商標)、ブリストル−マイヤーズ・スクイブ・オンコロジー、ニュージャージー州、プリンストン)およびドキセタキセル(TAXOTERE(登録商標)、ローヌ・プーランク・ロレール、フランス、アントニ);クロランブシル;ゲムシタビン;6−チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキセート;白金類似体類(platinum analogs)、例えばシスプラチンおよびカルボプラチン;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP−16);イホスファミド;ミトミシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン;ノバントロン;テニポシド;ダウノミシン;アミノプテリン;キセローダ;イバンドロネート;CPT−11;トポイソメラーゼ反応阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノール酸(retinoic acid);エスペラミシン類;カペシタビン;および上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸または誘導体;が含まれる。また、この定義中には、腫瘍へのホルモン作用を調整または阻害する抗ホルモン剤類(anti-hormonal agents)が含まれ、例えばタモキシフェン、ラロキシフェン、4(5)−イミダゾール類を阻害するアロマターゼ、4−ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン(onapristone)、およびトレミフェン(ファレストン(Fareston))を含む抗エストロゲン類;および抗エストロゲン類、例えばフルタミド(flutamide)、ニルタミド(nilutamide)、ビカルタミド、ロイプロリド、およびゴセレリン;および上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸または誘導体が含まれる。
【0073】
本明細書にて使用している「プロドラッグ」なる用語は、腫瘍細胞に対する細胞毒性が医薬活性物質である親薬物に比較して低く、酵素的に活性化されまたはより活性な親化合物型に変換される該医薬活性物質の前駆体または誘導体を意味する。例えば、Wilman, "Proddrugs in Cancer Chemotherapy" Biochemical Society Transaction, 14, pp.375-382, 615th Meeting Belfast (1986)およびStella et al., "Prodrugs; A Chemical Approach to Targeted Drug Delivery", Directed Drug Delivery, Borchardt et al. (ed), pp.247-267, Humana Press (1985)を参照。本明細書のプロドラッグにはホスフェート含有プロドラッグ、チオホスフェート含有プロドラッグ、スルフェート含有プロドラッグ、ペプチド含有プロドラッグ、Dアミノ酸改変プロドラッグ、グリコシル化プロドラッグ、ラクタム含有プロドラッグ、置換されていることあるフェノキシアセトアミド含有プロドラッグ、または置換されていることあるフェニルアセトアミド含有プロドラッグ、5−フルオロシトシンおよび、より活性な細胞毒性の遊離薬物に変換し得る他の5−フルオロウリジンプロドラッグがあるが、これらに限定されない。本発明の使用に適すプロドラッグ型に誘導化し得る細胞毒性薬物には上述の化学療法剤があるが、これに限定されない。
【0074】
「核酸」なる用語は、デオキシリボ核酸(DNA)などのポリヌクレオチドを意味し、適切な場合にはリボ核酸(RNA)を意味する。この用語には、同様にヌクレオチドアナログから調製されるDNAまたはRNAいずれかのアナログ、および適用可能であれば、1本鎖(センスおよびアンチセンス)および2本鎖ポリヌクレオチドが含まれる。「単離された」核酸分子は、その核酸の天然起源に本質的に伴われる少なくとも1つの夾雑核酸分子から分離同定される核酸分子である。単離された核酸分子は、天然に見出される形態または環境以外のものである。従って、単離された核酸分子は、天然の細胞に存在するような核酸分子とは区別される。しかし、単離された核酸分子には、例えば核酸分子が天然細胞とは異なる染色体局在にある場合、抗体を元々発現する細胞に含まれる核酸分子が包含される。
【0075】
本明細書にて使用している「ベクター」なる用語は、連結されている別の核酸を輸送することができる核酸分子を意味する。「発現ベクター」なる用語には、ベクターが運ぶそれぞれの組換え遺伝子によってコードされる対象のHER2タンパク質を合成することのできるプラスミド、コスミドまたはファージが含まれる。好ましいベクターは、連結されている核酸を自律的に複製および/または発現できるものである。本明細書では、「プラスミド」および「ベクター」は相互に交換可能に使用しており、プラスミドが最も普通に使用されるベクター型である。
【0076】
本明細書にて使用している「転写調節因子」および「転写調節配列」は相互に交換可能であり、それは作用可能に連絡されたコード配列を特定の宿主生物内にて発現するのに必須である核酸、例えばDNAを意味する。原核生物に適する制御配列には例えば、プロモーター、要すればオペレーター配列、およびリボゾーム結合部位がある。真核生物細胞はプロモーター、エンハンサー、スプライシングシグナルおよびポリアデニル化シグナルを利用できることが知られている。これらの用語は、転写を促進または調節するすべての因子、例えばプロモーター、RNAポリメラーゼの基本的相互作用に必須の重要因子、上流因子、エンハンサー、および応答因子(Lewin, "Genes V"(Oxford University Press, オックスフォード)847-873頁)を網羅するものとする。遺伝子または遺伝子クラスの転写調節因子なる用語は、天然に存在する転写調節因子および、遺伝子または遺伝子群の転写調節因子の修飾型の両者のすべてまたはその無傷の領域を含む。このような修飾型は、因子の再編成、特定因子または外来配列の欠失、およびヘテロローガスな因子の挿入を含む。転写調節因子のモジュール性およびエンハンサーなどの特定の調節因子における位置非依存的な機能により、このような修飾が可能となる。遺伝子の調節因子を切り出し、それらの位置および機能を決定するための多くの手法が利用できる。このような情報を使用し、要すれば因子の修飾を行う。しかし、使用する遺伝子の転写調節因子の無傷な領域を用いるのが好ましい。
【0077】
「組織特異的プロモーター」なる用語は、プロモーターとして利用される、即ちプロモーターと作用可能に連絡された選択したDNA配列の発現を調節するヌクレオチド配列を意味し、それは乳腺細胞などの組織特異的な細胞において選択したDNA配列を発現させるのに役立つ。例示的な態様では、乳腺特異的なプロモーターを利用した遺伝子コンストラクトを使用すれば、HER2タンパク質またはタンパク質断片を乳腺組織において優先的に発現させることができる。
【0078】
核酸が他の核酸配列に対して機能的な関係に置かれた場合、その核酸は「作用可能に連結」されている。例えば、プレ配列または分泌性のリーダーのDNAがポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現されるなら、そのDNAはポリペプチドのDNAと作用可能に連結されている。プロモーターまたはエンハンサーは、コード配列を転写させるなら、そのコード配列と作用可能に連結されている。リボゾーム結合部位は、配置されて転写を促進するなら、コード配列と作用可能に連結されている。一般に、「作用可能に連結」とは、連結されるDNA配列が隣接し、分泌リーダーの場合は解読枠内で隣接することを意味する。しかし、エンハンサーは隣接する必要がない。連結は、簡便な制限部位におけるライゲーションによって行なわれる。そのような部位が存在しない場合は、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを常法に従って使用する。
【0079】
「トランスフェクション」なる用語は、核酸、例えば発現ベクターを核酸媒介遺伝子導入によって受容細胞に導入することを意味する。本明細書にて使用している「形質転換」とは、外来DNAまたはRNAの細胞取り込みの結果として細胞の遺伝子型を変化させる工程を意味し、例えば形質転換細胞はHER2の組換え型を発現する。
【0080】
本明細書にて使用している「トランスジーン」なる用語は、それが導入されるトランスジェニック動物または細胞にとって部分的または全体的に異種(ヘテロローガス)、即ち外来性である、あるいはそれが導入されるトランスジェニック動物または細胞の内生遺伝子と同種(ホモローガス)であるが、それが挿入される細胞のゲノムを改変する態様によって動物ゲノムに挿入できるように改変され、または挿入されている核酸配列を意味する(例えば、これは天然遺伝子とは異なる位置に挿入され、あるいはその挿入によりノックアウトが起こる)。トランスジーンは1つまたはそれ以上の転写調節配列、および選択した核酸の最適発現のために必須であるイントロンなどの他の核酸と作用可能に連結され得る。
【0081】
従って、「トランスジーンコンストラクト」なる用語は、トランスジーンおよび(要すれば)転写調節因子、ポリアデニル化部位、複製起点、マーカー遺伝子などの核酸配列などを含む核酸を意味し、これは、宿主生物のゲノムへの挿入用のトランスジーンの遺伝子操作に使用することができる。
【0082】
「トランスジェニック」なる用語は、例えばトランスジーンを有する動物またはコンストラクトの性質を説明するための形容詞として本明細書では使用している。例えば、本明細書では、「トランスジェニック生物」とは、当業界にて周知のトランスジェニック手法などによってヒトを介して導入されたヘテロローガスな核酸を1つまたはそれ以上の動物細胞が含有しているあらゆる動物、好ましくは非ヒト動物である。核酸は、マイクロインジェクションや組換えウイルスの感染などの計画的な遺伝子操作による細胞前駆体への導入によって、直接または間接的に細胞へ導入される。遺伝子操作なる用語は、伝統的な交雑育種やインビトロ受精を含まず、組換えDNA分子を導入するための用語である。この分子は染色体に組み込まれ、あるいは染色体外で複製するDNAであってもよい。本明細書にて説明する典型的なトランスジェニック動物では、細胞から組換え型の対象HER2タンパク質がトランスジーンによって発現または過剰発現される。「創始株」および「創始動物」なる用語は、トランスジーンが加えられた胚の成熟体である動物、即ちDNAが挿入され、1つまたはそれ以上の代理宿主に移植された胚から成長した動物を意味する。
【0083】
「子孫」および「トランスジェニック動物の子孫」なる用語は、元の形質転換哺乳類以後のすべてのあらゆる子孫を意味する。「非ヒト哺乳類」なる用語は、ヒト以外の哺乳類クラスのすべての動物を意味する。「哺乳類」は、ヒト、家畜および牧場動物、および動物園、スポーツまたはペット動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシおよび高等霊長類などの哺乳類として分類される動物を意味する。
【0084】
本明細書にて使用している「細胞」、「細胞株」および「細胞培養物」なる表現は交換可能であり、これらはすべて子孫を包含する。従って、「形質転換体」または「形質転換細胞」なる用語には、初代被検細胞および、転換の数とは無関係にそれから誘導される培養物が含まれる。すべての子孫は計画的または偶発的な突然変異によってDNAの内容の点で正確に同一ではないと考えられる。元の形質転換細胞においてスクリーニングされるものと同じ機能または生物学的活性を有する突然変異された子孫も含まれる。区別的な用語使用は文脈から明らかとなる。
【0085】
「リポソーム」は種々の型の脂質、リン脂質および/または薬物(例えば本明細書に記載している抗−ErbB2抗体および要すれば化学療法剤など)の供給に有用な表面活性剤から構成される、哺乳動物に対する小胞である。リポソームの成分は通常、生物膜の脂質配置と同様に二層形態として形成される。
【0086】
「パッケージ挿入(事項)」なる用語は、医薬品の市販パッケージに慣例的に含まれる指示書を意味し、これには効能、用法、用量、投与方法、禁忌、および/または医薬品使用の際の警告などの情報が盛り込まれる。
【0087】
「心臓保護物質」は、抗−ErbB抗体またはそのメイタンシノイド複合体(conjugate)などの薬物の患者への投与に伴う心筋梗塞(即ち、心筋症および/または鬱血性心不全)を予防し、減少させる化合物または組成物である。心臓保護物質は例えば、フリーラジカル媒介性の心臓毒性効果をブロックまたは減少させ、および/または酸化的ストレス傷害を予防しまたは減少させることができる。この定義に包含される心臓保護物質の例としては、鉄キレート化剤デキシラゾキサン(ICRF−187)[Seifert et al., The Annals of Pharmacotherapy 28:1063-1072(1994)];脂質低下剤および/または酸化防止剤、例えばプロブコール(Singal et al. J.Mol.Cell Cardiol. 27:1055-1063(1995));アミホスチン(アミノチオール2−[(3−アミノプロピル)アミノ]エタンチオール−二水素リン酸エステル(これはWR−2721ともよばれる)およびWR−1065と呼ばれるその脱リン酸化細胞取り込み型、およびS−3−(3−メチルアミノプロピルアミノ)Pロピルホスホロチオ酸(WR−151327)、Green et al., Cancer Research 54:738-741(1994);ジゴキシン(Bristow, M.R.In: Bristow MR編. Drug-Induced Heart Disease. New York: Elsevier 191-215(1980));メトプロロールなどのβ−ブロッカー(Hjalmarson et al. Drugs 47: Suppl 4:31-9(1994);およびShaddy et al. Am.HeartJ.129:197-9(1995);ビタミンE;アスコルビン酸(ビタミンC);オレアノール酸、ウルソル酸およびN−アセチルシステイン(NAC)などのフリーラジカルスカベンジャー;α−フェニル−tert−ブチルニトロン(PBN);(Paracchini et al., Anticancer Res. 13:1607-1612(1993);P251(Elbesen)などのセレノ有機化合物などが挙げられる。
【0088】
2.詳しい説明
本発明は、HERCEPTIN(登録商標)またはHERCEPTIN(登録商標)を誘導したマウス抗体4D5が腫瘍増殖にほとんど影響しなかった、新規マウスHER2−トランスジェニック腫瘍モデルにおいて得られた結果に基づく。HERCEPTIN(登録商標)およびHERCEPTIN(登録商標)−メイタンシノイド複合体の効果を試験するためにこのモデルを用いることで、このようなトランスジェニックマウスから得られた移植腫瘍がHERCEPTIN(登録商標)治療に対して応答が貧弱であった一方で、HERCEPTIN(登録商標)−メイタンシノイド複合体が高い効果を持つことが見出されたことは驚きであった。
【0089】
従って、本発明は抗−ErbB抗体および/またはメイタンシノイド治療に対してよく応答を示さないErbBを過剰発現する腫瘍の治療に、抗−ErbB抗体−メイタンシノイド複合体を使用することに基づく。
【0090】
A.抗−ErbB抗体の産生
本発明に従って使用される抗体の産生についての具体的な技術として以下に記載する。抗体の産生は抗−ErbB抗体についての文献を例示するが、当業者にとってErbB受容体ファミリーの他のメンバーに対する抗体を類似する方法で産生し、改変できることは明らかである。
【0091】
抗体の産生に用いられるErbB2抗原は、例えば望むエピトープを含有するErbB2の細胞外ドメインの水溶性型、またはそれらの一部であってもよい。もう1つの方法としては、細胞表面にErbB2を発現する細胞(例えば、ErbB2を過剰発現するように形質転換したNIH−3T3細胞; またはSK−BR−3細胞などの癌腫細胞株、Stancovski et al. PNAS(USA) 88:8691-8695 (1991)を参照のこと)を、抗体を作成するのに用いることができる。抗体を作成するための有用なErbB2の他の型は当業者には明らかであろう。
【0092】
(i) ポリクローナル抗体
関連する抗原および補助物質の複数回皮下(sc)または腹膜内(ip)注射することによって、動物内でポリクローナル抗体を産生させることが好ましい。例えば、マーレイミドベンゾイル(maleimidobenzoyl)スルホスクシニミドエステル(システイン残基を介する複合化)、N−ヒドロキシスクシニミド(リシン残基を介する)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOCI2またはR1N=C=NR [式中、RおよびR1は異なるアルキル基である]などの二機能性物質または誘導化剤を使用して、キーホールリンペットヘモシニアン、血清アルブミン、ウシサイログロブリンまたはダイズトリプシン阻害因子など、ある種において免疫性を与える免疫原タンパク質に関連する抗原を複合化することは有用であろう。
【0093】
動物は、例えばタンパク質または複合体100g若しくは5g(それぞれラビットまたはマウス用)と3倍量の完全フロインドアジュバントを混合し、複数箇所にこの溶液を皮内注射することによって抗原、免疫原複合体または誘導体に対する免疫性を与えられる。1月後、完全フロインドアジュバント中のペプチドまたは複合体の初期量の1/5〜1/10を複数箇所に皮下注射することによって該動物を追加免疫する。7〜14日後、該動物の血を採取し、その血清は抗体タイターについて検定する。タイターが頭打ちになるまで動物を追加免疫する。この動物を異なるタンパク質および/または異なる交差連結物質を介して連結したものではなく、同じ抗原の複合体を用いて追加免疫する。複合体はタンパク質融合体として組換え細胞培養物においても作成され得る。また、ミョウバンなどの凝集剤は免疫応答を促進するのに適当に用いられる。
【0094】
(ii) モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は実質的に単一の、即ち集団を構成する個々の抗体が微量に存在し得る自然発生的な突然変異体を除いて同一である、抗体集団から得られる。このようにして、修飾語「モノクローナル」は、別個の抗体の混合物とは違う抗体の特徴を示す。
【0095】
例えば、モノクローナル抗体は、初期には Kohler et al., Nature, 256:495 (1975)に記載のハイブリドーマ法を用いて作成され得、または組換えDNA法によって作成され得る(米国特許第 4,816,567)。
【0096】
このハイブリドーマ法において、マウスまたは他の適当な宿主動物、例えばハムスターに上述のように免疫性を与え、免疫化に用いられるタンパク質に特異的に結合する抗体を産生する、または産生能のあるリンパ球を誘導する。もう1つの方法としては、リンパ球にインビトロで免疫性を与えることもできる。次いで、適当な融合剤、例えばポリエチレングリコールを用いて、リンパ球とミエローマを融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成する(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp.59-103 (Academic Press, 1986))。
【0097】
このようにして調製されたこのハイブリドーマ細胞を、融合していない親ミエローマ細胞の増殖または生存を阻害する物質を好ましくは1つまたはそれ以上含む適当な培養培地にまき、増殖させる。例えば、親ミエローマ細胞が酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRTまたはHPRT)を欠く場合、このハイブリドーマの培養培地はヒポキサンチン、アミノタンパク質およびチミジンを含ませよう(HAT培地)、この物質はHGPRTを欠く細胞の増殖を妨げる。
【0098】
好ましいミエローマ細胞は、効率的に融合し、抗体を産生する細胞を選択することによって安定に高レベルの抗体産生を支持し、そしてHAT培地などの培地に感受性であるミエローマ細胞である。これらの中で好ましいミエローマ株はマウスミエローマ株、例えばアメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴの Salk Institute Cell Distribution Centerから入手できるMOPC−21およびMPC−11マウス腫瘍およびアメリカ合衆国メリーランド州ロックビルのAmerican Type Culture Collectionから入手できるSP-2またはX63−Ag8−653細胞から誘導されたミエローマ株である。ヒトミエローマおよびマウス−ヒトヘテロミエローマ細胞株は、ヒトモノクローナル抗体の産生についても記載されている(Kozbor, J. Immunol., 133:3001 (1984); および Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
【0099】
ハイブリドーマ細胞が増殖する培養培地は、抗原に対して標的化されたモノクローナル抗体の産生に関して検定される。ハイブリドーマ細胞によって産生されたモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降またはインビトロ結合検定、例えばラジオイムノ検定(RIA)若しくは酵素連結免疫測定法(ELISA)によって決定される。
【0100】
モノクローナル抗体の結合親和力は、例えばMunson et al., Anal. Biochem., 107:220 (1980)のスキャッチャード(catchard)分析によって決定され得る。
【0101】
ハイブリドーマ細胞が望む特異性、親和性および/または活性を有する抗体を産生すると同定した後、そのクローンを限界希釈法によってサブクローンし、標準的な方法によって増殖させることができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp.59-103 (Academic Press, 1986))。この目的に対する適当な培養培地には、例えばD−MEMまたはRPMI−1640培地が挙げられる。加えて、ハイブリドーマ細胞は動物において腹水腫瘍のようにインビボにおいて増殖させることができる。
【0102】
サブクローンによって分泌されたモノクローナル抗体は、例えばタンパク質A−セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析法若しくはアフィニティークロマトグラフィーなど従来の抗体精製法によって、培養培地、腹水液または血清から適当に分離される。
【0103】
モノクローナル抗体はコードするDNAはすぐに分離され、従来の手法(例えば、マウス抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いることによって)を用いて配列決定される。このハイブリドーマ細胞は、このようなDNAの好ましい源として役に立つ。一旦単離されたDNAは発現ベクターに移しかえることができ、次いで大腸菌、類人猿COS細胞、チャイニーズハムスター卵巣 (CHO)細胞または他の方法では抗体タンパク質を産生しないミエローマにトランスフェクトし、組換え宿主細胞中のモノクローナル抗体の合成を獲ることができる。抗体をコードするDNAの細菌における組換え体発現についてのレビューには、Skerra et al., Curr. Opinion in Immunol., 5:256-262 (1993) および Plueckthun, Immunol. Revs., 130:151-188 (1992)が挙げられる。
【0104】
更なる態様において、モノクローナル抗体または抗体断片はMcCafferty et al., Nature, 348:552-554 (1990)に記載の技術を用いて作り出された抗体ファージライブラリーから単離できる。Clackson et al., Nature, 352:624-628 (1991) および Marks et al., J. Mol. Biol., 222:581-597 (1991)には、ファージライブラリーを用い、マウスおよびヒト抗体それぞれの単離が記載されている。続報には連鎖推移(Marks et al., Bio/Technology, 10:779-783 (1992))、並びに組合せ感染(combinatorial infection)および大規模ファージライブラリーを構築するためのストラテジーに関するインビボ組換え(Waterhouse et al., Nuc. Acids Res., 21:2265-2266 (1993))による高アフィニティー(nM範囲)ヒト抗体の産生が記載されている。このように、これらの技術はモノクローナル抗体の単離についての伝統的なモノクローナル抗体技術に対する実施可能な代替法である。
【0105】
DNAは、例えば同類のマウス配列(米国特許第 4,816,567; および Morrison, et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA, 81:6851 (1984))の代わりにヒト重鎖および軽鎖定常ドメインをコードする配列に置きかえることによって、または全免疫グロブリンコード配列、または非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の一部を共有的に連結することによって変更し得る。
【0106】
典型的にこのような非免疫グロブリンポリペプチドは抗体の定常ドメインを置換する、または抗体の1つの抗原結合部位の可変ドメインを置換することで、抗原に特異的である抗原結合部位、異なる抗原に特異的であるもう1つの抗原結合部位を含むキメラ二価抗体を作り出す。
【0107】
(iii) ヒト化抗体
非ヒト抗体をヒト化する方法は当分野で知られている。ヒト化抗体は、非ヒト源由来の抗体に導入された1つまたはそれ以上のアミノ酸残基を持つ。この非ヒトアミノ酸残基は、「移入」残基のようにしばしば表され、これは「移入」可変ドメインから典型的に得られる。ヒト化は、以下のウィンター(Winter)とその研究員達の方法(Jones et al., Nature, 321:522-525 (1986); Riechmann et al., Nature, 332:323-327(1988); Verhoeyen et al., Science, 239:1534-1536 (1988))、ヒト抗体の相当配列について超可変領域配列を置換することによって本質的に行なうことができる。従って、該「ヒト化」抗体は、非ヒト種由来の相当配列に置換されている無傷なヒト可変ドメインより実質的に小さいキメラ抗体(米国特許第 4,816,567)である。実際には、ヒト化抗体は典型的にはヒト抗体中の幾つかの超可変領域の残基、およびFR残基は齧歯抗体のアナログ部位由来の残基によって置換されていてもよい。
【0108】
ヒト化抗体の作成に用いられるヒト可変ドメイン、軽鎖および重鎖の選択は、抗原性を減少させるために非常に重要である。「最良適合」と呼ばれる方法に基づいて、齧歯抗体の可変ドメインの配列を既知ヒト可変ドメイン配列の全ライブラリーに対してスクリーニングする。次いで、齧歯の配列に近似するヒト配列は、ヒト化抗体に対するヒトフレームワーク領域(FR)として許容される(Sims et al., J. Immunol.,151:2296 (1993); Chothia et al., J. Mol. Bial., 196:901 (1987))。その他の方法は、軽鎖または重鎖の特定のサブグループの全ヒト抗体の共通配列から誘導された特定のフレームワーク領域を用いる。同じフレームワークは幾つかの異なるヒト化抗体に持ちることができる(Carter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992); Presta et al., J. Immunol., 151:2623 (1993))。
【0109】
抗体が抗原に対する高い親和性および他の有利な生物学的性質を保存してヒト化することがさらに重要である。この目的の達成するために、好ましい方法に基づき、ヒト化抗体は親配列の分析過程、並びに親配列およびヒト化配列の3次元モデルを用いる種々の概念的なヒト化産物によって調製される。3次元免疫グロブリンモデルが一般に利用され、当業者に周知である。選択された候補免疫グロブリン配列の有望な3次元立体配座構造を図解し、表示するコンピュータープログラムが入手可能である。この表示の検討は、候補免疫グロブリン配列の機能性における残基の適当な役割の分析、即ちその抗原に結合する候補免疫グロブリンの能力に影響を与える残基の分析を可能にする。このように、FR残基は受容体および望む抗体の特徴、例えば標的抗原に対して増大した親和性を達成するような移入配列から選択され、組み合すことができる。一般に、超可変領域残基は抗原結合に影響する、直接的かつ最も実質的に伴う。
【0110】
以下の実施例1は、模範的なヒト化抗−ErbB2抗体の産生を記載する。例えば、本明細書中のヒト化抗体は、ヒト可変重ドメイン中に含まれる非ヒト超可変領域残基を含み得、Kabat et al., Sequences of Proteins of ImmunologicalInterest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)において述べられている可変ドメイン番号方式を利用して、69H、71Hおよび73Hとし、これらから成る群から選択される位置のフレームワーク領域(FR)置換をさらに含み得る。1つの態様において、ヒト化抗体には69H、71Hおよび73Hの2つまたは全てのFR置換が含まれる。
【0111】
ヒト化抗体の変異体が考えられる。例えば、ヒト化抗体は抗体断片、例えばFabであってもよい。あるいは、ヒト化抗体は無傷な抗体、例えば無傷なIgG1抗体であってもよい。
【0112】
(iv) ヒト抗体
ヒト化に代わる手段として、ヒト抗体を作成すことができる。例えば、現在、内因性の免疫グロブリン産物の非存在下で、免疫性を与えるヒト抗体の全レパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を作り出すことが可能である。例えば、キメラおよび生殖系変異体マウスにおける抗体重鎖接合領域(JH)遺伝子のホモ接合欠失は、結果として内因性の抗体産生を完全に阻害すると記載されている。このような生殖系変異体マウスにおけるヒト生殖系免疫グロブリン遺伝子配列(array)のトランスファーは、結果として抗原誘導におけるヒト抗体の産生となるだろう。例えば、Jakobovits et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA, 90:2551 (1993); Jakobovits et al., Nature, 362:255-258 (1993); Bruggermann et al., Year in Immuno., 7:33 (1993); および 米国特許第 5,591,669、5,589,369 かつ 5,545,807を参照のこと。
【0113】
もう1つの方法としては、ファージディスプレイ法(McCafferty et al., Nature 348:552-553 (1990))を、インビトロにおいて、免疫化されていない提供者由来の免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーからヒト抗体および抗体断片を産生するのに用いることができる。この方法に従って、抗体Vドメイン遺伝子を、繊維状バクテリオファージ、例えば、M13またはfdのメジャーまたはマイナーコートタンパク遺伝子のいずれかにインフレームでクローニングし、ファージ粒子の表面に機能性の抗体断片として提示させる。繊維状粒子は、ファージゲノムの1本鎖DNAを含有するので、抗体の機能的な特徴に基づいて選択することで、その特徴を示す抗体をコードする遺伝子を結果として選択することにもなる。このように、ファージはB細胞の性質の多くに類似した性質を示す。ファージディスプレイは種々の形式で行なうことができる;これらのレビューとしては、例えばJohnson, Kevin S. および Chiswell, David J., Current Opinion in Structural Biology 3:564-571 (1993) を参照のこと。V遺伝子の幾つかの源をファージディスプレイに用いることができる。Clackson et al., Nature, 352.624-628 (1991)では、免疫化したマウスの脾臓から誘導したV遺伝子の小規模なランダム組換えライブラリーから抗−オキサゾロン抗体の多種多様な配列を単離した。免疫化されていないヒト提供者由来のV遺伝子のレパートリーを構築することができ、抗原(自己抗原を含む)の多種多様な配列についての抗体を、Marks et al., J. Mol. Biol. 222:581-597 (1991), または Griffith et al., EMB0 J. 12:725-734 (1993)に記載の方法によって本質的に単離することができる。米国特許第 5,565,332 および 5,573,905を参照のこと。
【0114】
以上に記載するように、ヒト抗体はインビトロにおいて活性化したB細胞によっても作成され得る(米国特許 5,567,610 および 5,229,275を参照のこと)。
【0115】
ヒト抗−ErbB2抗体は1998年6月30日に付与された米国特許 5,772,997 および 1997年1月3日に公開されたWO 97/00271に記載されている。
【0116】
(v) 抗体断片
種々の方法が抗体断片の産生について開発されている。もともとは、これらの断片は無傷な抗体のタンパク質分解性消化を介して誘導されていた(例えば、Morimoto et al., Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117 (1992); および Brennan et al., Science, 229:81 (1985)を参照のこと)。しかし、現在これらの断片は組換え宿主細胞によって直接産生させることができる。例えば、抗体断片は上述の抗体ファージライブラリーから単離し得る。あるいは、Fab'−SH断片は大腸菌から直接回収することができ、そして化学的にカップリングし、F(ab')2断片を形成させることができる(Carter et al., Bio/Technology 10:163-167 (1992))。その他のアプローチに従い、F(ab')2断片を直接組換え宿主細胞培養物から単離することができる。抗体断片の産生についての他の方法は当業者には明白であろう。他の態様については、抗体の選択として1本鎖Fv断片(scFv)がある。WO 93/16185; 米国特許第 5,571,894; および 米国特許第 5,587,458を参照のこと。抗体断片は、例えば米国特許 5,641,870に記載のような「線状抗体」であってもよい。このような線状抗体断片は、単一特異性または二重特異性であり得る。
【0117】
(vi) 二重特異性抗体
二重特異性抗体は少なくとも2つの異なるエピトープに対して特異的に結合する抗体である。具体例として二重特異性抗体は、ErbB2タンパク質の異なる2つのエピトープに結合し得る。他のこのような抗体について、EGFR、ErbB3および/またはErbB4の結合部位とErbB2の結合部位を組合せ得る。あるいは、抗−ErbB2アームを、白血球上の引き金分子、例えばT細胞受容体分子(例えば、CD2またはCD3)またはErbB2を発現する細胞に対する細胞性防御機構に注目してIgG(FcR)、例えばFcRI(CD64)、FcRII(CD32)およびFcRIII(CD16)に結合するアームと組合せることができる。二重特異性抗体はErbB2を発現する細胞に対して細胞障害物質を局所集中させるために用いることもできる。WO 96/16673には、二重特異性抗−ErbB2/抗−FcRIII抗体が記載されており、米国特許第 5,837,234には二重特異性抗−ErbB2/抗−FcRI抗体が開示されている。二重特異性抗−ErbB2/Fc抗体はWO 98/02463に示されている。米国特許第 5,821,337には、二重特異性抗−ErbB2/抗−CD3抗体が教示されている。
【0118】
二重特異性抗体の再製方法は当分野において周知である。二重特異性抗体の全長の従来の産生は、2つの鎖が異なる特異性を持つ免疫グロブリンの2つの重鎖−軽鎖対の共発現に基づく(Millstein et al., Nature, 305:537-539 (1983))。免疫グロブリンの重鎖および軽鎖のランダムな組合せのために、ハイブリドーマ(クアドローマ)は、1つのみが正確な二重特異性構造を持つ10種類の異なる抗体分子の潜在的な混合物を産生する。通常アフィニティークロマトグラフィー工程によって行なわれる正確な分子の精製は、予想以上に煩わしく、産生物の収率は低い。類似する方法がWO 93/08829 および Traunecker et al., EMBO J., 10:3655-3659 (1991)に開示されている。種々のアプローチに従い、望む結合特異性(抗体−抗原相当部位)を有する抗体の可変ドメインを免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合する。この融合体は、少なくともヒンジの一部を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメイン、CH2およびCH3領域を有することが好ましい。軽鎖に結合するのに必要な部位を含む第1の重鎖定常領域(CH1)が融合体の少なくとも1つに存在することが好ましい。免疫グロブリン重鎖融合体、要すれば、免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAを個々の発現ベクターに挿入し、適当な宿主生物に共トランスファー(co-transfer)する。このことは、構築に用いられる3つのポリペプチド鎖の不均一な割合が最適な産出を提供する態様において、3つのポリペプチド断片の相互の比率を調節するのに重要な柔軟性を提供する。しかし、均一な割合で少なくとも2つのポリペプチド鎖の発現が、産出を高める結果となる、またはその割合が特別な意義を持たない場合には、1つの発現ベクターに2つないし3つ全てのポリペプチド鎖のコード配列を挿入することができる。
【0119】
このアプローチの好ましい態様について、二重特異性抗には、一方のアームに第1の結合特異性をもってハイブリッド免疫グロブリン重鎖が構成され、もう一方のアームにハイブリッド免疫グロブリン重鎖−軽鎖対(第2の結合特異性を提供する)が構成される。二重特異性分子の半分にのみに、免疫グロブリン軽鎖の存在が容易な分離法を提供する場合に、この非対称な構造が不必要な免疫グロブリン鎖の組合せから望む二重特異性化合物の分離を容易にすることが見出された。このアプローチはWO 94/04690に開示されている。より詳細な二重特異性抗体を作成するについては、例えばSuresh et al., Methods in Enzymology, 121:210 (1986)を参照のこと。
【0120】
米国特許第 5,731,168に記載されている別の態様に従い、抗体分子対の間の界面を組換え細胞培養から回収するヘテロダイマーの割合を最大にすることができる。好ましい界面には、少なくとも抗体定常ドメインのCH3ドメインの一部が含まれる。この方法において、第1の抗体分子の界面由来の1つまたはそれ以上の小さいアミノ酸側鎖が、大きな側鎖(例えばチロシンまたはトリプトファン)で置換される。小さいアミノ酸側鎖(例えば、アラニンまたはスレオニン)を大きなアミノ酸側鎖に交換することによって第2の抗体分子の界面に、大きな側鎖と同一または類似する大きさの代償的な「空洞」が作られる。これは、他の不必要な最終産物、例えばホモダイマー以上にヘテロダイマーの収量を増加させる機構を提供する。
【0121】
抗体断片から二重特異性抗体を作り出す方法は文献にも記載されている。例えば、二重特異性抗体は化学結合を用いて調製できる。Brennan et al., Science, 229: 81 (1985)には、無傷な抗体をタンパク質分解的に分解し、F(ab')2断片を作成する手順が記載されている。ビジナル(vicinal)ジチオールを安定させ、分子内のジスルフィド形成を阻害するためのジチオール錯化剤亜砒酸ナトリウムの存在下で、この断片を還元する。次いで、作成されたFab'断片をチオニトロベンゾアート(TNB)誘導体に変換する。次いで、Fab'−TNB誘導体の1部を、メルカプトエチルアミンを用いて還元することによってFab'−チオールに再変換し、残りのFab'−TNB誘導体当量と混合し、二重特異性抗体を形成する。二重特異性抗体産物は酵素の選択的な固定化する物質として使用することができる。
【0122】
近年の進歩により、大腸菌からFab'−SH断片の直接的な回収を容易にし、それを化学的に会合することで、二重特異性抗体を形成することができる。Shalaby et al., J. Exp. Med., 175:217-225 (1992)には、全ヒト化二重特異性抗体F(ab')2分子の産生が記載されている。それぞれのFab'断片は大腸菌から別々に分泌させ、インビトロで直接化学的にカップリングし、二重特異性抗体を形成させる。このようにして、形成された二重特異性抗体は細胞が過剰発現するErbB2受容体および正常なヒトT細胞に結合することができ、そしてヒト乳腫瘍を標的とするヒト細胞障害性リンパ球の細胞溶解活性を引き起こす。
【0123】
組換え細胞培養物から直接二重特異性抗体断片を作成し、単離する方法も記載されている。例えば、二重特異性抗体はロイシンジッパーを用いて産出される。Kostelny et al., J. Immunol., 148(5):1547-1553 (1992)。FosおよびJunタンパク質由来のロイシンジッパーペプチドを、遺伝子融合によって2つの異なる抗体のFab'タンパク質に連結した。この抗体ホモダイマーはヒンジ領域を還元し、モノマーを形成させた後、再び酸化し、抗体へテロダイマーを形成した。この方法は抗体ホモダイマーの産生にも利用できる。「ジアボディー(diabody)」技術はHollinger et al., Proc. Natl. Acad Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)に記載され、二重特異性抗体断片を作成するためのもう1つの機構を提供する。この断片には、同じ鎖上に2つのドメインの間を対にさせる非常に短いリンカーによって軽鎖可変ドメイン(VL)に連結された重鎖可変ドメイン(VH)が含まれる。従って、1つの断片のVHおよびVLドメインは、もう1つの断片の相補的なVLおよびVHドメインと対になることで、2つの抗原結合部位を形成する。1本鎖Fv(sFv)ダイマーの使用による二重特異性抗体断片を作成する他のストラテジーも報告されている。Gruber et al., J. Immunol., 152:5368 (1994)を参照のこと。
【0124】
2以上の結合価を有する抗体が考えられる。例えば、三重特異性抗体を調製できる。Tutt et al. J. Immunol. 147:60 (1991)。
【0125】
(vii) 他のアミノ酸配列改変
本明細書中に記載する抗−ErbB2抗体のアミノ酸配列改変が考えられる。例えば、結合親和性および/または抗体の他の生物学的特徴を改善することが望ましいであろう。抗−ErbB2抗体のアミノ酸配列変異体は抗−ErbB2抗体核酸中に適当な核酸の置換を導入することによって、またはペプチド合成によって調製される。例えば、このような改変には、抗−ErbB2抗体のアミノ酸配列中の残基の欠失および/または挿入および/または置換が含まれる。欠失、挿入および置換いずれかの組合せを最終コンストラクトに導入し、最終コンストラクトが望む特徴を有することを提供する。アミノ酸変換も抗−ErbB2抗体の翻訳後の過程、たとえばグリコシル化の数および位置を変えることで改変させることもできる。
【0126】
変異誘発について好ましい位置である抗−ErbB2抗体の特定の残基または領域を同定するのに有用な方法は、「アラニン走査変異誘発」と呼ばれ、Cunningham および Wells Science, 244:1081-1085 (1989)に記載されている。ここで、標的残基の残基または基を同定して(例えば、荷電残基、arg、asp、his、lysおよびgluなど)、ErbB2抗原とアミノ酸の相互作用に影響する中性または陰性の荷電アミノ酸(最も好ましくはアラニン若しくはポリアラニン)に置換する。次いで、さらなる変異体または他の変異体を置換部位に導入することにより、またはそれらを置換部位に代えて導入することにより、置換に対する機能的感受性を実証するそれらのアミノ酸の位置を正確にする。従って、アミノ酸配列の変異を導入する部位は予め決定しておくが、その変異の種類を本来は予め決定しておく必要はない。例えば、ある一定部位での変異の成果を分析するためには、ala走査またはランダム変異誘発を標的コドンまたは領域で行って、発現した抗VEGF抗体の変異体を所望の活性に関してスクリーニングする。
【0127】
アミノ酸配列挿入には、1つの残基から100以上の残基を含むポリペプチド長の範囲のアミノ−および/またはカルボキシル末端融合が含まれ、アミノ酸残基の単一または多重配列内挿入が含まれる。末端挿入の例としては、N末端メチオニル残基を伴う抗−ErbB2抗体または細胞障害性ポリペプチドを融合した抗体が含まれる。抗−ErbB2抗体分子の他の挿入変異体には、抗−ErbB2抗体のN−またはC−末端と、抗体の血清半減期を増加させた酵素(例えば、ADEPTのための)またはポリペプチドとの融合体が含まれる。
【0128】
その他のタイプの変異体は、アミノ酸置換変異体である。この変異体は、抗−ErbB2抗体分子中に他の残基に置換された少なくとも1つのアミノ酸残基を有する。置換変異誘発に最も重要な部位には超可変領域が含まれるが、FRの改変も考えられる。同型置換を「好ましい置換」という表題で表1に示す。そのような置換が、結果として生物学的活性に変化を及ぼす場合、表1において「例示的な置換」と称する、またはアミノ酸クラスに関して以下にさらに記載する、より多くの実質的な変化を導入して、生成物をスクリーニングするしてもよい。
【表1】

【0129】
抗体の生物学的性質の実質的改変は、(a)例えば、シート状またはらせん形配座のような置換領域におけるポリペプチド骨格の構造;(b)標的部位における分子の電荷もしくは疎水性;または(c)側鎖の大きさを維持しながら、それらの効果に著しく異なる置換を選択することによって成し遂げられる。天然に存在する残基を共通の側鎖の性質に基づいてグループに分ける。
(1)疎水性:ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile;
(2)中性の疎水性:cys、ser、thr;
(3)酸性:asp、glu;
(4)塩基性:asn、gln、his、lys、arg;
(5)鎖の方向に影響を及ぼす残基:gly、pro;および (6)芳香族:trp、tyr、phe。
非同型置換は、これらのクラスのうちの1つのメンバーを別のクラスに交換することを必然的に伴う。
【0130】
抗−ErbB2抗体の適切な配座を維持するのに関与しない任意のシステイン残基を、一般的には、セリンで置換して、その分子の酸化安定性を改善し、異常な架橋を防ぐこともできる。逆に、システイン結合を抗体に付加して、その安定性を改善することができる(特に、その抗体がFv断片のような抗体断片である場合)。
【0131】
特に好ましいタイプの置換変異体には、親抗体(例えば、ヒト化またはヒト抗体)の1つまたはそれ以上の超可変領域の残基が含まれる。一般的には、さらなる開発のために選択された結果得られた変異体は、それらを作成する親抗体に対して改善された生物学的性質を有するであろう。そのような置換変異体を作成するための便利な方法には、ファージディスプレイを使用する親和性成熟が挙げられる。簡単に言えば、幾つかの超可変領域の部位(例えば、6〜7の部位)を変異させて、それぞれの部位で全ての可能なアミノ置換を生じさせる。このようにして作成した抗体の変異体を、それぞれの粒子内にパッケージングされたM13の遺伝子III産物への融合のような、繊維状ファージ粒子由来の一価様式で提示させる。次いで、そのファージに提示させた変異体を、本明細書中に開示するそれらの生物学的活性(例えば、結合親和性)に関してスクリーニングする。改変に関して候補となる超可変領域の部位を同定するために、アラニン走査型変異誘発を行い、抗原結合に著しく寄与する超可変領域の残基を同定することができる。もう1つ若しくは更なる方法として、抗原−抗体複合体の結晶構造を分析して、抗体とヒトErbB2との間の接触点を同定するのが有利となり得る。そのような接触残基および隣接残基は、本明細書中で詳細に述べる技術による置換に関する候補である。1度そのような変異体を作成すれば、パネルの変異体を本明細書中に記載するスクリーニングにかけて、1つまたはそれ以上の関連した検定において優れた性質をもつ抗体をさらなる開発のために選択してもよい。
【0132】
エフェクター機能、例えば抗原依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC)および/または抗体の補体依存性細胞障害(CDC)を増大させるための機能に対して本発明の抗体を改変することが望ましい。抗体のFc領域に1つまたはそれ以上のアミノ酸置換を導入することによって達成し得る。もう1つ若しくは更なる方法として、システイン残基をFc領域に導入することで、この領域においてジスルフィド結合の形成がなされ得る。このようにして作成されたホモダイマー抗体は、改善された内在性能力および/または増大された補体媒介性細胞死および抗体依存性細胞性障害(ADCC)を有し得る。Caron et al., J. Exp Med. 176.1911-1195 (1992)およびShopes, B. J. Immunol. 148: 2918-2922 (1992)を参照のこと。増大された抗腫瘍活性を有するホモダイマー抗体を、Wolff et al. Cancer Research 53: 2560-2565 (1993)に記載のようにヘテロ二機能性交差リンカーを用いて調製することができる。あるいは、二重Fc領域を持つ抗体を作成することができ、これによって増大された補体溶解およびADCC能力を有し得る。Stevenson et al. Anti-Cancer Drug Design 3: 219-230 (1989)。
【0133】
抗体の血清半減期を増大させるために、例えば米国特許 5,739,277に記載のように抗体(特に、抗体断片)中に再生(salvage)受容体結合エピトープを組み込み得る。本明細書中で用いるように、用語「再生受容体結合エピトープ」は、IgG分子の血清半減期を増大させるIgG分子(例えば、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)のFc領域のエピトープを意味する。
【0134】
(viii)グリコシル化変異体
抗体をその定常領域中の保存された位置でグリコシル化する(Jefferis and Lund, Chem. Immunol. 65:111-128 [1997]; Wright and Morrison, TibTECH 15: 26-32 [1997])。免疫グロブリンのオリゴ糖側鎖はタンパク質の機能に影響し(Boyd et al., Mol. Immunol. 32: 1311-1318 [1996]; Wittwe and Howard, Biochem. 29: 4175-4180 [1990])、ならびに糖タンパク質の部分間の分子内相互作用に影響し、これはコンフォメーションおよび糖タンパク質の提示された3次元表面に影響を与え得る(Hefferis and Lund, 上記; Wyss and Wagner, Current Opin. Biotech. 7: 409-416 [1996])。オリゴ糖はまた、与えられた糖タンパク質を、特異的認識構造に基づいて特定分子に標的化するのに用いることができる。例えば、アガラクトシル化(agalactosylated)IgG中、オリゴ糖部分はインター−CH2スペースから「フリップ」し、末端N−アセチルグルコサミン残基はマンノース結合タンパク質を結合するのに利用可能になることが報告された(Malhotra et al., Nature Med. 1: 237-243 [1995])。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞から製造されたCAMPATH−1H(組換えヒト化マウスモノクローナルIgG 1抗体(これはヒトリンパ球のCDw52抗原を認識する))から、グリコペプチダーゼによってオリゴ糖を除去すると、補体媒介化溶解(CMCL)の完全な減少が生じた(Boyd et al., Mol. Immunol. 32: 1311-1318 [1996])が、一方、ノイラミニダーゼを用いてシアル酸を選択的に除去してもDMCLの喪失がなかった。また抗体のグリコシル化は抗体依存性細胞毒性(ADCC)に影響することが報告された。特に、β(1,4)−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII)のテトラサイクリン調節化発現、二分(bisecting)GluNAcのグリコシルトランスフェラーゼ触媒形成を伴うCHO細胞は改善されたADCC活性を有することが報告された(Umana et al., Mature Biotech. 17: 176-180 [1999])。
【0135】
抗体のグリコシル化は典型的に、N−結合か、あるいはO−結合である。N−結合とは、炭水化物部分のアスパラギン残基の側鎖に対する結合を意味する。トリペプチド配列、アスパラギン−X−セリンおよびアスパラギン−X−スレオニン(ここにXはプロリンを除く任意のアミノ酸である)は、アスパラギン側鎖に対する炭水化物部分の酵素による結合に関する認識配列である。したがって、ポリペプチド中にこれらのトリペプチド配列のいずれかが存在すると、潜在的グリコシル化部位が創出される。O−結合グリコシル化とは、ヒドロキシアミノ酸、最も一般にはセリンまたはスレオニンに対する、糖、N−アセイルガラクトサミン、ガラクトース、またはキシロースの1つの結合を意味する。また5−ヒドロキシプロリンまたは5−ヒドロキシリシンを用いることもできる。
【0136】
抗体のグリコシル化変異体は、抗体のグリコシル化パターンが変更された変異体である。変更とは、抗体中に見られる1以上の炭水化物部分の欠失、抗体への1以上の炭水化物部分の付加、グリコシル化の組成(グリコシル化パターン)、グリコシル化の程度の変化などを意味する。
【0137】
1以上の上記トリペプチド配列を含有するようにアミノ酸配列を変更することによって、都合よく抗体にグリコシル化部位を付加する(N−結合グリコシル化部位に関して)。また1以上のセリンまたはスレオニン残基を元の抗体の配列に付加するか、あるいはそれで置換することによって変更を施すことができる(O−結合グリコシル化部位に関して)。同様に、グリコシル化部位の除去は、抗体の天然グリコシル化部位内のアミノ酸変更によって達成できる。
【0138】
アミノ酸配列は通常、その基になる核酸配列を変更することによって変更される。抗−ErbB2抗体のアミノ酸配列変異体をコードする核酸分子は、当分野に既知の種々の方法によって製造される。これらの方法には、天然源からの単離(天然に存在するアミノ酸配列変異体の場合)または、以前に作成された変異体または非変異体バージョンの抗−ErbB2抗体のオリゴヌクレオチド媒介化(または部位特異的)突然変異誘発、PCR突然変異誘発、およびカセット突然変異誘発による作成が含まれるがこれらに限定されない。
【0139】
また抗体のグリコシル化(グリコシル化パターンを含む)は、アミノ酸配列またはその基となるヌクレオチド配列を変更することなしに変更することができる。グリコシル化は抗体の発現に用いられる宿主細胞に大きく依存する。潜在的治療物質としての、組換え糖タンパク質、例えば抗体の発現に用いられる細胞タイプが天然細胞であることは稀であるから、この抗体のグリコシル化パターンの大きなバリエーションが予測できる(例えば Hse et al., J. Biol. Chem. 272: 9062-9070 [1997] を参照)。宿主細胞の選択に加えて、抗体の組換え生産時のグリコシル化に影響する要因には、増殖様式、培地処方、培養密度、酸素負荷、pH、精製スキームなどが含まれる。特定の宿主生物内で達成されるグリコシル化パターンを変更する種々の方法が提案され、これにはオリゴ糖生産に関与する特定の酵素の導入または過剰発現が含まれる(米国特許第5,047,335;第5,510,261および第5,278,299)。グリコシル化、または特定タイプのグリコシル化は酵素によって糖タンパク質から除去できる(例えばエンドグリコシダーゼH(Endo H)を用いる)。さらに、組換え宿主細胞を遺伝的に操作でき、例えば特定タイプの多糖のプロセッシングを欠損させることができる。これらおよび同様の技術は当分野に周知である。
【0140】
抗体のグリコシル化構造は、炭水化物分析の慣用技術(レクチンクロマトグラフィー、NMR、質量分析、HPLC、GPC、単糖組成分析、連続酵素消化、およびHPAEC−PAD(これは電荷に基づくオリゴ糖の分離に高pH陰イオン交換クロマトグラフィーを用いる)を含む)によって容易に分析できる。分析目的でオリゴ糖を解放する方法もまた既知であり、これには酵素処理(ペプチド−N−グリコシダーゼ F/エンド−β−ガラクトシダーゼを用いて一般に行われる)、主にO−結合構造を解放するための過酷なアルカリ環境を用いる排除、およびN−およびO−結合オリゴ糖を解放するための無水のヒドラジンを用いる化学的方法が含まれるがこれらに限定されない。
【0141】
(ix)望む特徴を有する抗体のスクリーニング
抗体を作成する技術は以上に記載した。要すれば、特定の生物学的特徴を有する抗体をさらに選択することができる。
【0142】
例えば、増殖阻害性抗−ErbB2抗体を同定するために、ErbB2を過剰発現する癌細胞の増殖を阻害する抗体に関してスクリーニングすることができる。一つの態様においては、選択された増殖阻害性抗体は細胞培養中のSK−BR−3細胞の増殖を、約0.5〜30g/mLの抗体濃度で、約20〜100%、好ましくは約50〜100%阻害できる。このような抗体を同定するため、米国特許第5,677,171に記載のSK−BR−3検定を行うことができる。この検定にしたがって、SK−BR−3細胞を、10%胎児ウシ血清、グルタミンおよびペニシリン ストレプトマイシンを補ったF12およびDMEM培地の1:1混合物中で培養する。SK−BR−3細胞を35mm細胞培養皿中に20,000細胞でプレートする(2mLs/35mm皿)。皿当たり0.5〜30g/mLの抗ErbB2抗体を加える。6日後、未処理細胞と比較した細胞数を、電子COULTER細胞カウンターを用いてカウントする。SK−BR−3細胞の増殖を約20〜100%または約50〜100%阻害する抗体を増殖阻害性抗体として選択することができる。
【0143】
細胞死を誘導する抗体を選択するために、例えばPI、トライパンブルーまたは7AAD取り込みによって示される膜組み込み(integrity)の喪失をコントロールと比較して評価することができる。好ましい検定は、BT474細胞を用いるPI取り込み検定である。この検定では、BT474細胞(American Type Culture Collection (Rockville, MD) から入手可能)を10%熱不活化FBS(Hyclone)および2mM L−グルタミンを補ったダルベッコ修飾イーグル培地(D−MEM):Ham's F−12(50:50)中で培養する。(したがって、この検定は補体および免疫エフェクター細胞の不存在下で行う)。このBT474細胞を、100×20mm皿中、皿当たり3×106の密度でまき、一晩結合させる。次いでこの培地を除去し、新たな培地のみ、または10g/mLの適当なモノクローナル抗体を含有する培地で交換する。この細胞を3日間インキュベートする。各処理後、単層をPBSで洗浄し、トリプシン処理によって剥離させる。次いで細胞を4℃で5分間、1200rpmで遠心し、ペレットを氷冷Ca2+結合バッファー(10mM Hepes、pH7.4、140mM NaCl、2.5mM CaCl2)3mLに再懸濁し、細胞凝集塊の除去に関して、35mmストレーナーキャップ12×75チューブに分ける(チューブ当たり1mL、処理群当たり3チューブ)。次いでチューブにPI(10g/mL)を入れる。サンプルは、FACSCANフローサイトメーターおよびFACSCONVERT セルクエストソフトウェア(Becton Dickinson)を用いて分析することができる。PI取り込みによって測定される、統計的に有意なレベルの細胞死を誘導する抗体を細胞死誘導性抗体として選択することができる。
【0144】
アポトーシスを誘導する抗体を選択するために、BT474細胞を用いるアネキシン結合検定が利用できる。BT474細胞を培養し、上記段落中で議論されているように皿にまく。次いで培地を除去し、新たな培地のみまたは10g/mLのモノクローナル抗体を含む培地で交換する。3日間のインキュベート期間後、単層をPBSで洗浄し、トリプシン処理によって剥離させる。次いで細胞を遠心し、Ca2+結合バッファー中に再懸濁し、細胞死検定用に、上に議論されるようにチューブに分ける。次いでチューブにラベル化したアネキシン(例えばアネキシン V−FTIC)(1g/mL)を入れる。サンプルは、FACSCANフローサイトメーターおよびFACSCONVERT セルクエストソフトウェア(Becton Dickinson)を用いて分析することができる。コントロールと比べて統計的に有意なレベルのアネキシン結合を誘導する抗体をアポトーシス誘導性抗体として選択することができる。
【0145】
アネキシン結合検定に加えて、BT474を用いるDNA染色検定が利用できる。この検定を行うために、前2段落に記載される目的の抗体で処理されたBT474細胞を9g/mL HOECHST 33342と37℃で2時間インキュベートし、次いで、MODFIT LTソフトウェア(Verity Software House)を用いるEPICS ELITEフローサイトメーター(Coulter Corporation)で分析する。この検定を用いて、未処理細胞より2倍またはそれ以上(好ましくは3倍またはそれ以上)のアポトーシス細胞のパーセンテージの変化(100%アポトーシス細胞まで)を誘導する抗体をプロ−アポトーシス性抗体として選択することができる。
【0146】
ErbBレセプターのリガンド活性化をブロックする抗体を同定するために、(例えば、別のErbBレセプターであって、これとともに目的のErbBレセプターがErbBヘテロ−オリゴマーを形成するものと複合化された状態の)ErbBレセプターを発現する細胞に対するErbBリガンド結合をブロックする抗体の能力を測定することができる。例えば、ErbBヘテロ−オリゴマーのErbBレセプターを天然に発現するか、あるいは発現するようにトランスフェクトされた細胞を抗体とインキュベートし、次いでラベル化されたErbBリガンドに暴露することができる。抗−ErbB2抗体がErbBヘテロ−オリゴマー中のErbBレセプターに対するリガンド結合をブロックする能力を評価することができる。
【0147】
例えば、抗−ErbB2抗体によるMCF7乳腫瘍細胞株に対するHRG結合の阻害は、本質的に以下の実施例1に記載のように、24ウェルプレート形式において氷上の単層MCF7培養を用いて行うことができる。抗−ErbB2モノクローナル抗体を各ウェルに加え、30分間インキュベートすることができる。次いで125I−ラベル化rHRG 1177-224(25pm)を加え、インキュベートを4〜16時間継続することができる。用量応答曲線を作成することができ、目的の抗体に関してIC50値を計算することができる。一つの態様においては、ErbBレセプターのリガンド活性化をブロックする抗体は、この検定において、MCF7細胞に対するHRG結合の阻害に関するIC50 約50nMまたはそれ以下、より好ましくは10nMまたはそれ以下を有するだろう。抗体が抗体断片、例えばFab断片である場合、この検定におけるMCF7細胞に対するHRG結合の阻害に関するIC50は、例えば約100nMまたはそれ以下、より好ましくは50nMまたはそれ以下であり得る。
【0148】
もう1つ若しくは更なる方法として、ErbBリガンドによって刺激される、ErbBヘテロ−オリゴマー中に存在するErbBレセプターのチロシンリン酸化をブロックする抗−ErbB2抗体の能力を評価することができる。例えば、内因的にErbBレセプターを発現するか、あるいはそれらを発現するようにトランスフェクトされた細胞を抗体とインキュベートし、次いで抗−ホスホチロシンモノクローナル抗体(これは場合により検出可能なラベルと複合化されている)を用いてErbBリガンド依存性のチロシンリン酸化活性に関して検定することができる。ErbBレセプター活性化の測定および抗体によるその活性のブロックに関して、米国特許第5,766,863に記載のキナーゼレセプター活性化検定もまた利用可能である。
【0149】
一つの態様においては、MCF7細胞におけるp180チロシンリン酸化のHRG刺激を阻害する抗体に関してスクリーニングすることができる。例えば、MCF7細胞を24ウェルプレートにプレートし、ErbB2に対するモノクローナル抗体を各ウェルに加え、室温で30分間インキュベートし;次いでrHRG 1177-244を各ウェルに加え、最終濃度0.2nMにし、インキュベートを8分間継続することができる。各ウェルから培地を吸引し、100 lのSDSサンプルバッファー(5% SDS、25mM DTT、および25mM トリス−HCl pH6.8)を加えて反応を停止させることができる。各サンプル(25 l)を4〜12%のグラジエントゲル(Novex)上で電気泳動し、次いで電気泳動によりポリビニリデンジフルオライド膜に移すことができる。抗ホスホチロシン(1g/mL)イムノブロットを展開し、Mr 180,000での優勢な反応性バンドをリフレクタンスデンシトメトリーによって定量することができる。選択された抗体は、この検定において、p180チロシンリン酸化のHRG刺激をコントロールの約0〜35%まで有意に阻害するのが好ましい。リフレクタンスデンシトメトリーによって測定される、p180チロシンリン酸化のHRG刺激の阻害に関する用量−応答曲線を作成し、目的の抗体に関するIC50を計算することができる。一つの態様においては、ErbBレセプターのリガンド活性化をブロックする抗体は、この検定において、p180チロシンリン酸化のHRG刺激の阻害に関するIC50 約50nMまたはそれ以下、より好ましくは10nMまたはそれ以下を有するであろう。抗体が抗体断片、例えばFab断片である場合、この検定において、p180チロシンリン酸化のHRG刺激の阻害に関するIC50は、例えば約100nMまたはそれ以下、より好ましくは50nMまたはそれ以下であり得る。
【0150】
また抗体のMDA−MB−175細胞に対する増殖阻害作用を、例えば本質的に Schaefer et al. Oncogene 15: 1385-1394 (1997) に記載のように評価することができる。この検定にしたがって、MDA−MB−175細胞を抗−ErbB2モノクローナル抗体(10g/mL)で4日間処理し、クリスタルバイオレットで染色することができる。抗−ErbB2抗体とインキュベートすると、モノクローナル抗体2C4によって表示されるものと同様にこの細胞株に対する増殖阻害作用が示されることがある。さらなる態様では、外因性HRGはこの阻害を有意に逆転しないであろう。好ましくは、この抗体は、外因性HRGの存在および不存在下の両方において、モノクローナル抗体4D5より高い程度にまで(ならびに、場合より、モノクローナル抗体7F3より高い程度にまで)MDA−MB−175細胞の細胞増殖を阻害できるだろう。
【0151】
一つの態様においては、同時免疫沈降実験において測定されるところ、目的の抗−ErbB2抗体は、MCF7およびSK−BR−3細胞の両方において、実質的にモノクローナル抗体4D5より効果的に、ならびに好ましくは、実質的にモノクローナル抗体7F3より効果的に、ErbB2のErbB3とのヘレグリン(heregulin)依存性会合をブロックすることができる。
【0152】
目的の抗体によって結合されるErbB2上のエピトープに結合する抗体に関してスクリーニングするために、通常の交差ブロック検定、例えば Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow and David Lane (1988) に記載の方法を行うことができる。もう1つ若しくは更なる方法として、当分野に既知の方法によってエピトープマッピングを行うことができる(例えば、本明細書中の図1Aおよび1Bを参照)。
【0153】
次いで、上記細胞に基づく検定において得られた結果は、動物、例えばマウス、モデル、およびヒト臨床試験において試験することにより追跡できる。特に、ErbB2過剰発現腫瘍を処置する抗体の不能または制限された能力は、以下の実施例に記載のように本明細書中に開示されるトランスジェニックマウスモデルにおいて示すことができる。
【0154】
B.抗−ErbB抗体−メイタンシノイド複合体(免疫複合体)
抗−ErbB抗体−メイタンシノイド複合体は、抗体またはメイタンシノイド分子の生物学的活性の重大な減少なしに、抗−ErbB抗体をメイタンシノイド分子にキメラ的に連結することによって製造する。メイタンシノイドは当分野に周知であり、既知の技術によって合成できるか、あるいは天然源から単離できる。適当なメイタンシノイドは、例えば米国特許第5,208,020および本明細書中上に引用される他の特許および特許ではない刊行物に開示されている。好ましいメイタンシノイドは、メイタンシノールおよび、メイタンシノール部分の芳香環あるいは他の位置で修飾されたメイタンシノールアナログ、例えば種々のメイタンシノールエステルである。
【0155】
当分野に既知の多くの抗体−メイタンシノイド複合体作成用の連結基が存在し、これには例えば米国特許第5,208,020または欧州特許第0 425 235 B1および Chari et al. Cancer Research 52: 127-131 (1992) に開示されるものが含まれる。連結基には、上記特許に開示されるような、ジスルフィド基、チオエーテル基、酸分解性基(acid labile groups)、感光性基、ペプチダーゼ分解性基、またはエステラーゼ分解性基が含まれ、ジスルフィドおよびチオエーテル基が好ましい。
【0156】
抗体およびメイタンシノイドの複合化は、種々の二機能性タンパク質カップリング剤、例えばN−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)、スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシラート、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二機能性誘導体(例えばジメチルアジピミデート(adipimidate)HCL)、活性エステル(例えばジスクシンイミジルスベレート)、アルデヒド(例えばグルタルアルデヒド)、ビス−アジド化合物(例えばビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス−ジアゾニウム誘導体(例えばビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えばトリエン 2,6−ジイソシアネート)、およびビス−活性フッ素化合物(例えば1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン)を用いて作成することができる。特に好ましいカップリング剤には、ジスルフィド結合を提供する、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)(Carlsson et al., Biochem. J. 173:723-737 [1978]) およびN−スクシンイミジル−4−(2−ピリジルチオ)ペンタノエート(SPP)が含まれる。
【0157】
リンカーは、結合のタイプに応じて、メイタンシノイド分子と種々の位置で結合させることができる。例えばエステル結合は、慣用のカップリング技術を用いて、ヒドロキシル基を有するC−3位、ヒドロキシルメチルで修飾されたC−14位、ヒドロキシル基で修飾されたC−15位、およびヒドロキシル基を有するC−20位で形成させることができる。好ましい態様では、この結合はメイタンシノールまたはメイタンシノールアナログのC−3位で形成させる。
典型的には、抗ErbB抗体−メイタンシノイド複合体は、1抗体分子当たり1からおよそ10のメイタンシノイド分子、好ましくはおよそ3からおよそ5のメイタンシノイド分子を含有する。
【0158】
C.医薬製剤
本発明で用いられる抗体−メイタンシノイド複合体の治療用製剤は、所望の程度の純度を有する抗体を、随意の製薬的に許容される単体、賦形剤または安定化剤と混合することによって、凍結乾燥製剤または水溶液の剤型で保存用に製造される(Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980))。許容され得る担体、賦形剤または安定化剤は、レシピエントにとって採用される投与量および濃度で無毒であり、リン酸塩、クエン酸塩および他の有機酸などのバッファー;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;保存剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ヘキサメトニウムクロリド、ベンザルコニウムクロリド、ベンゼトニウムクロリド、フェノール、ブチルまたはベンジルアルコールなど;メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール;3−ペンタノールおよびm−クレゾールなど);低モル量(約10残基以下)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、またはイムノグロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む単糖類、二糖類、および他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトールなどの砂糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属複合体(例えば、Zn−タンパク質複合体);および/またはTWEEN、PLURONICSまたはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含む。好ましい凍結乾燥抗−ErbB2抗体製剤は、WO 97/04801に記載されている。
【0159】
本発明の製剤は、治療される具体的な指示の必要性に応じて、1種以上の活性化合物を含むことができ、それらは好ましくは互いに悪影響を与えない補足的な活性を有するものである。例えば、EGFR、ErbB2(例えばErbB2上の異なるエピトープを結合する抗体)、ErbB3、ErbB4、または血管内皮因子(VEGF)に結合する抗体または抗体−メイタンシノイド複合体を1製剤中でさらに提供するのが望ましいこともある。別法として、またはさらに、この組成物は、化学療法薬、細胞毒性物質、サイトカイン、成長(増殖)阻害剤、抗−ホルモン性物質、および/または心保護剤をさらに含んでいてもよい。そのような分子は意図する目的に効果的な量で適切に組み合わされて含まれる。
【0160】
活性成分は、例えば、コアセルベーション技術および界面重合などによって製造されたマイクロカプセル、例えば、それぞれヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン−マイクロカプセルおよびポリ−(メチルメタアクリレート)マイクロカプセル中に封入され、コロイド薬剤送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフィア、マイクロエマルジョン、ナノ−パーティクルズおよびナノカプセル)またはマクロエマルジョン中に封入することができる。このような技術は Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed.(1980) に開示されている。
【0161】
また、徐放性製剤を製造することができる。徐放性製剤の適当な例としては、抗体を含む固形疎水性ポリマーの半透過性材料を含み、この材料は成形品、例えばフィルムまたはマイクロカプセルの形態である。徐放性材料の例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタアクリレート)またはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919)、L−グルタミン酸およびγエチル−L−グルタメートのコポリマー、非分解性エチレン−ビニルアセテート、LUPRON DEPOT (乳酸−グリコール酸コポリマーおよびロイプロリドアセテートから構成される注射可能なマイクロスフィア) およびポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸などの分解性乳酸−グリコール酸コポリマーを挙げることができる。
【0162】
インビボ投与に用いることができる製剤は無菌性でなければならない。これは滅菌ろ過膜を通してろ過することによって容易に達成できる。
【0163】
D.抗−ErbB2抗体−メイタンシノイド複合体での処置
本発明にしたがい、抗−ErbB2抗体−メイタンシノイド複合体を用いて、種々の疾患または障害を処置することができることが考慮される。例示的な症状または障害には、良性または悪性腫瘍;白血病およびリンパ悪性;他の障害、例えばニューロン、グリア、アストロサイト、視床下部、腺、マクロファージ、上皮性、間質性、胞胚腔、炎症性、血管原性および免疫学的障害が含まれる。
【0164】
一般に、処置されるべき疾患または障害は癌である。本明細書中で処置されるべき癌の例には、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、および白血病またはリンパ悪性(lymphoid malignancies)が含まれるがこれらに限定されない。このような癌のより具体的な例には、扁平細胞癌(例えば上皮性扁平細胞癌)および、小胞肺癌、非小胞肺癌、肺の腺癌および肺の扁平上皮癌を含む肺癌、腹膜の癌、肝細胞癌、胃癌(gastric or stomach cancer)(胃腸管癌を含む)、膵癌、グリア芽細胞腫、子宮頚癌、卵巣癌、肝癌、膀胱癌、肝細胞腫、乳癌、大腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌または子宮癌、唾液腺癌、腎癌(kidney or renal cancer)、前立腺癌、産卵口癌(vulval cancer)、甲状腺癌、肝癌、肛門癌、陰茎癌、ならびに頭および頸の癌が含まれる。
【0165】
癌はErbB−発現細胞を含み、本明細書中の抗−ErbB抗体は癌に結合でき、癌は典型的にErbBレセプターの過剰発現を特徴とする。好ましい態様では、癌はErbB2−発現細胞を含み、さらにより好ましくは、ErbB2レセプターの過剰発現を特徴とする細胞を含む。癌におけるErbB、例えばErbB2発現を測定するために、種々の診断/予後検定が利用可能である。一つの態様においては、ErbB2過剰発現は、例えばHERCEPTEST(登録商標)(Dako)を用いるIHCにより分析することができる。パラフィンに包埋された腫瘍生検由来の組織セクションをIHC検定に付し、ErbB2タンパク質染色強度基準を以下のように与える:
スコア0
染色が観察されないか、あるいは10%以下の腫瘍細胞において膜染色が観察される。
スコア1+
10%以上の腫瘍細胞において、かすかな/わずかな認知可能な膜染色が検出される。細胞はその膜が部分的に染色されているのみである。
スコア2+
10%以上の腫瘍細胞において、弱〜中程度の完全膜染色が観察される。
スコア3+
10%以上の腫瘍細胞において、中程度〜強い完全膜染色が観察される。
【0166】
ErbB2過剰発現評価に関してスコア0または1+の腫瘍はErbB2を過剰発現していないことを特徴とし、一方、2+または3+の腫瘍はErbB2の過剰発現を特徴とし得る。
【0167】
別法として、あるいはさらに、FISH検定、例えばINFORM(Ventana, Arizona によって販売される)またはPATHVISION(Vysis, Illinois)を、ホルマリン固定、パラフィン包埋腫瘍組織に対して行い、腫瘍におけるErbB2過剰発現の程度(存在すれば)を測定することができる。
【0168】
一つの態様においては、癌はEGFRを発現する(ならびに過剰発現し得る)ものであろう。EGFRを発現/過剰発現する癌の例には、扁平細胞癌(例えば、上皮性扁平細胞癌)および、小胞肺癌、非小胞肺癌、肺の腺癌および肺の扁平上皮癌を含む肺癌、腹膜の癌、肝細胞癌、胃癌(胃腸管癌を含む)、膵癌、グリア芽細胞腫、子宮頚癌、卵巣癌、肝癌、膀胱癌、肝細胞腫、乳癌、大腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌または子宮癌、唾液腺癌、腎癌、前立腺癌、産卵口癌(vulval cancer)、甲状腺癌、肝癌、肛門癌、陰茎癌、ならびに頭および頸の癌が含まれる。
【0169】
好ましくは、本発明の免疫複合体ならびに/あるいはErbB、例えばErbB2または、それらが結合するEGFRタンパク質は細胞によって内面化され、それが結合する癌細胞を殺す免疫複合体の治療効果が増大する。好ましい態様では、細胞毒性(メイタンシノイド)は癌細胞の核酸を標的とするか、あるいは妨害する。
【0170】
本発明の処置は、非複合化抗−ErB抗体での処置に対して応答しないか、応答に乏しいErbBを過剰発現する腫瘍を標的とする。このような患者は、メイタンシノイド部分と複合化されていない抗−ErB抗体での前処置を受けていてもよく、ここにこの前処置は、有意な改善を生じなかったか、一時的な応答を生じたものである。しかしながら、任意の特定患者を非複合化抗−ErbB抗体で前処置することは、本発明に従う処置に関する候補として同定される患者の前もって必要な条件ではない。通常の医者は、公に利用できる臨床データから自己の経験に基づいて、本発明の免疫複合体での処置から恩恵を受けることが予想される患者を容易に同定できる。(非複合化)抗−ErbB抗体での前処置を受けたか、あるいは受けていない哺乳類、特にヒト患者の処置は、具体的に本発明の範囲内である。
【0171】
抗−ErbB抗体−メイタンシノイド複合体は、既知の方法、例えば静脈内投与、例えばボーラスとしてか、あるいは一定時間にわたる連続注入によって、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内(intracerobrospinal)、皮下、関節内、滑膜内、包膜内、経口、局所または吸入経路による方法にしたがって、哺乳類、好ましくはヒト患者に投与する。抗体の静脈内または皮下投与は好ましい。
【0172】
他の治療方法を抗−ErbB抗体−メイタンシノイド複合体の投与と組み合わせることができる。混合投与には、別々の製剤または単一の医薬製剤を用いる同時投与、およびいずれかの順序での連続投与が含まれ、ここに両(またはすべての)活性物質が同時にその生物学的活性を発揮する期間であるのが好ましい。
【0173】
好ましい一つの態様においては、患者を2個またはそれ以上の異なる抗−ErbB抗体で処理し、ここにそのうち少なくとも1個はメイタンシノイド複合型である。例えば、患者を第一の抗−ErbB2抗体−メイタンシノイド複合体(この抗体は増殖阻害性である(例えばHERCEPTIN(登録商標)))、ならびに第二の抗−ErbB2抗体または抗体−免疫複合体、例えば抗体−メイタンシノイド複合体(これはErbBレセプターのリガンド活性化をブロックする(例えば2C4またはそのヒト化および/またはアフィニティー成熟化変異体)か、あるいはErbB2−過剰発現細胞のアポトーシスを誘導する(例えば、7C2、7F3またはそのヒト化変異体))で処理することができる。別の態様では、この処置には、2個またはそれ以上の異なるErbBレセプター、例えばErbB2およびEGFRレセプターを特異的に結合する抗体の投与が含まれ、ここに、少なくとも1個の抗−ErbB抗体をメイタンシノイド複合体として投与する。好ましくはこれらの混合治療は相乗的な治療作用を生じる。
【0174】
また、抗−ErbB抗体−メイタンシノイド複合体を、ErbBファミリーのレセプターのメンバーではない、他の腫瘍関連抗原に対する抗体とともに投与することが望ましいことがある。この場合の他の抗体は、例えば、血管内皮増殖因子(VEGF)と結合することができ、メイタンシノイド複合型、または別の免疫複合型であってよい。
【0175】
一つの態様においては、本発明の処置には、抗−ErbB2抗体−メイタンシノイド複合体(または複合群)および1以上の化学療法薬または増殖阻害物質(種々の化学療法薬のカクテルの同時投与を含む)の混合投与が関与する。好ましい化学療法薬には、タキサン(例えばパクリタキセルおよびドキセタキセル)および/またはアントラサイクリン抗生物質が含まれる。このような化学療法薬の調製および投与計画は製造元の指示書にしたがって用いることができ、あるいは熟練した実施者によって経験的に決定されるように用いることができる。このような化学療法薬の調製および投与計画はまた、Chemotherapy Service Ed., M.C. Perry, Williams & Wilkins, Baltimore, MD (1992) に記載されている。
【0176】
抗体−メイタンシノイド複合体は抗−ホルモン性化合物、例えば抗−エストロゲン化合物、例えばタモキシフェン;抗−プロゲステロン、例えばオナプリストン(EP 616 812参照);または抗−アンドロゲン、例えばフルタミドをこれらの分子に関して既知の用量で組み合わせることができる。処置されるべき癌がホルモンに無関係の癌である場合、患者はあらかじめ抗−ホルモン性治療を受けていてもよく、癌がホルモンに無関係になった後、抗−ErbB2抗体(場合により、本明細書中に記載の他の物質)を患者に投与することができる。
【0177】
時には、(治療に付随する心筋機能不全を予防するか、あるいは減少させるための)心保護剤または1以上のサイトカインを患者に同時投与することは有益であることがある。上記治療方法に加えて、患者を癌細胞の外科的除去ならびに/あるいは放射線治療に付することができる。
【0178】
上記いずれかの同時投与物質に関する適当な用量は、現在用いられているものであり、この物質および抗−ErbB抗体の混合作用(相乗効果)のおかげで減少することもある。
【0179】
疾患の予防または処置に関して、抗体−メイタンシノイド複合体の適当な用量は、上記の処置されるべき疾患のタイプ、この疾患の重篤度および経過、抗体を予防目的で投与するのか、あるいは治療目的で投与するのかどうか、以前の治療、患者の臨床暦および抗体に対する応答、担当医の判断に依存する。抗体−メイタンシノイド複合体を一度に、あるいは一連の処置にわたって患者に適当に投与する。疾患のタイプおよび重篤度に応じて、約1g/kg〜15mg/kg(例えば0.1〜20mg/kg)の抗体−メイタンシノイド複合体が患者に対する投与に関して最初の候補用量であり、これを例えば1以上の分割投与によってか、あるいは連続注入によって投与する。典型的な1日の用量は、上記要因に依存して約1g/kg〜100mg/kgまたはそれ以上の範囲であり得る。数日またはそれ以上にわたる繰り返し投与に関しては、症状に依存して、所望の疾患抑制が生じるまで処置を継続する。好ましい投与計画には、初期荷重用量約4mg/kgの、次いで毎週の維持用量約2mg/kgの抗−ErbB2抗体−メイタンシノイド複合体の投与が含まれる。しかしながら、他の投与計画もまた、有用であり得る。この治療の進行は慣用の技術および検定によって容易にモニターできる。
【0180】
E.製品
本発明の別の態様では、上記障害の処置に有用な物質を含む製品を提供する。この製品は、容器および、その容器に接触するか、あるいはその容器とともにあるラベルまたはパッケージ挿入物を含む。適当な容器には、例えば、ボトル、バイアル、シリンジなどが含まれる。この容器はガラスまたはプラスチックのような種々の材料から形成されたものであってよい。この容器は、この症状の処置に有効な組成物を含み、滅菌アクセスポートを有していてもよい(例えば、この容器は静脈内溶液バッグまたは皮下注射針によって穴をあけることができるストッパーを有するバイアルであってよい)。組成物中の少なくとも1個の活性物質は抗ErbB2抗体−メイタンシノイド複合体である。ラベルまたはパッケージ挿入物は、この組成物が選択された症状、例えば癌の処置に用いられることを示すものである。一つの態様においては、ラベルまたはパッケージ挿入物は、ErbB2を結合する抗体を含む組成物は、表皮性増殖因子レセプター(EGFR)、ErbB2、ErbB3、およびErbB4からなる群から選択されるErbBレセプター、好ましくはEGFRを発現する癌の処置に用いることができることを示すものである。さらに、ラベルまたはパッケージ挿入物は、処置されるべき患者がEGFR,ErbB2、ErbB3またはErbB4から選択されるErbBレセプターの過剰な活性化を特徴とする癌を有する患者であることを示すものであってよい。例えば、この癌は、これらのレセプターの1つを過剰発現するものであり、ならびに/あるいはErbBリガンド(例えばTGF−)を過剰発現するものであり得る。ラベルまたはパッケージ挿入物はまた、この組成物が癌の処置に用いることができ、ここにこの癌はErbB2レセプターの過剰発現を特徴としないことを示すものであってよい。例えば、HERCEPTIN(登録商標)に関する現在のパッケージ挿入物は、この抗体を、ErbB2タンパク質を過剰発現する腫瘍である転移性乳癌患者の処置に用いることができること示すものである一方、本明細書中のパッケージ挿入物は、抗体または組成物を、HERCEPTIN(登録商標)での処置に応答しないか、あるいは応答に乏しい癌を処置するために用いることができることを示すものであってよい。他の態様では、パッケージ挿入物は、抗体−メイタンシノイド複合体または組成物を用いて、ホルモンに無関係な癌、前立腺癌、大腸癌、または結腸直腸癌を処置することができることを示すものであってよい。さらに、製品は、(a)ErbB2を結合し、ErbB2を過剰発現する癌細胞の増殖を阻害する第一の抗体のメイタンシノイド複合体を含む組成物を含む第一の容器;ならびに(b)ErbB2を結合し、ErbBレセプターのリガンド活性化をブロックする第二の抗体またはこの第二の抗体とメイタンシノイドとの複合体を含む組成物を含む第二の容器を含むことができる。本発明の本態様における製品は、第一および第二の組成物が癌の処置に用いることができることを示すパッケージ挿入物をさらに含んでいてもよい。別法として、または加えて、製品は、製薬的に許容されるバッファー、例えば注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝化塩水、リンガー溶液およびデキストロース溶液を含む第二(または第三)の容器をさらに含んでもよい。これは、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針、およびシリンジを含む、商業的およびユーザーの立場から望まれる他の物質のさらに含んでもよい。
【0181】
本発明のさらなる詳細を以下の非限定的実施例において説明する。
【0182】
実施例1
抗−ErbB2モノクローナル抗体4D5の生産、特徴付け、およびヒト化
ErbB2の細胞外ドメインを特異的に結合するマウスモノクローナル抗体4D5を Fendly et al., Cancer Research 50:1558 (1990) に記載のように製造した。簡単には、Hudziak et al Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) 84:7158-7163 (1987) に記載されるように製造されたNIH 3T3/HER2−3400細胞(約1×105 ErbB2分子/細胞を発現)を、25mM EDTAを含むリン酸緩衝塩水(PBS)で回収し、これを用いてBALB/c マウスを免疫化した。このマウスに、0週、2週、5週および7週の時点でPBS0.5mL中の107細胞をi.p.注射した。32P−ラベル化ErbB2を免疫沈降する抗血清を有するマウスに、9週および13週の時点で小麦胚アグルチニンセファロース(WGA)精製されたErbB2膜抽出物をi.p.注射した。この後、ErbB2調製物0.1mLをi.v.注射し、脾細胞をマウスミエローマラインX63−Ag8.653と融合した。ハイブリドーマ上清をELISAおよび放射性免疫沈降によりErbB2結合に関してスクリーニングした。
【0183】
エピトープマッピングおよび特徴付け
モノクローナル抗体4D5が結合するErbB2エピトープは競合結合分析によって決定された(Fendly et al., Cancer Research 50:1550-1558 (1990))。蛍光を定量するためにPANDEX(登録商標)スクリーンマシーンを用いて、無傷の細胞上の直接蛍光によって交差ブロッキング実験を行った。確立された手法(Wofsy et al. Selected Methods in Cellular Immunology, p. 287, Mishel and Schiigi (eds.) San Francisco: W.J. Freeman Co. (1980))を用いてこのモノクローナル抗体をフルオレセインイソチオシアネート(FITC)と複合化した。集密した単層のNIH 3T3/HER2−3400細胞をトリプシン処理し、1回洗浄し、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)および0.1%NaN3を含む冷PBS中、1.75×106細胞/mLで再懸濁した。最終濃度1%のラテックス粒子(IDC, Portland, OR)を加え、PANDEX(登録商標)プレート膜の凝結(clogging)を減少させた。懸濁液中の細胞、20 l、および精製されたモノクローナル抗体20 l(100g/mL〜0.1g/mL)をPANDEX(登録商標)プレートウェルに加え、氷上で30分間インキュベートした。20 l中のFITCラベルされたモノクローナル抗体のあらかじめ決められた希釈物を各ウェルに加え、30分間インキュベートし、洗浄し、蛍光をPANDEX(登録商標)によって定量した。モノクローナル抗体は、各々が、無関係のモノクローナル抗体コントロールとの比較において、50%またはそれ以上他の結合をブロックした場合、エピトープを共有すると考えた。この実験では、モノクローナル抗体4D5をエピトープI(ErbB2細胞外ドメインに含まれる約529から約625のアミノ酸残基(配列番号:3を参照))に割り当てられた。
【0184】
モノクローナル抗体4D5の増殖阻害の特徴を乳腫瘍細胞株、SK−BR−3を用いて評価した(Hudziak et al. Molec. Cell. Biol. 9(3):1165-1172 (1989) を参照)。簡単には、SK−BR−3細胞を、0.25%(vol/vol)トリプシンを用いて分離し、完全培地に密度4×105細胞/mLで懸濁した。100 l量(4×104細胞)を96ウェルマイクロ希釈プレートにプレートし、この細胞を接着させ、次いで100 lの培地のみまたはモノクローナル抗体(最終濃度5g/mL)を含む培地を加えた。72時間後、プレートをPBS(pH7.5)で2回洗浄し、クリスタルバイオレット(メタノール中0.5%)で染色し、Sugarman et al. Science 230:943-945 (1985) に記載のように相対的細胞増殖に関して分析した。モノクローナル抗体4D5はSK−BR−3相対的細胞増殖を約56%阻害した。
【0185】
またモノクローナル抗体4D5を、MCF7細胞の全細胞ライセート由来のMr180,000レンジ内のタンパク質のHRG刺激チロシンリン酸化阻害能に関して評価した(Lewis et al. Cancer Research 56:1457-1465 (1996))。MCF7細胞はすべての既知のErbBレセプターを発現する(しかしこれは比較的低レベルである)ことが報告された。ErbB2、ErbB3、およびErbB4はほぼ同一の分子サイズを有するから、全細胞ライセートがウェスタンブロット分析によって評価された場合、どのタンパク質がチロシンリン酸化されるかを識別することは不可能である。しかしながら、これらの細胞は、用いられる検定条件下、外因性の添加HRGが不在である場合、Mr180,000レンジにおいて低レベルから検出不能レベルのチロシンリン酸化タンパク質しか示さないので、HRGチロシンリン酸化検定に関して理想的である。
【0186】
MCF7細胞を24ウェルプレートにプレートし、ErbB2に対するモノクローナル抗体を各ウェルに加え、室温で30分間インキュベートし;次いでrHRG 1177-244を各ウェルに加え、最終濃度を0.2nMにし、インキュベートを8分間継続した。各ウェルから培地を注意深く吸引し、100 lのSDSサンプルバッファー(5% SDS、25mM DTT、および25mM トリス−HCl、pH6.8)を加えて反応を停止させた。各サンプル(25 l)を4−12%グラジエントゲル(Novex)上で電気泳動し、次いでポリビニリデンジフルオライドメンブランに電気泳動的に移した。抗ホスホチロシン(4G10、UBI由来、1g/mLで用いる)免疫ブロットを展開し、Mr180,000における優勢な反応性バンドの強度を、以前に記載されるように(Holmes et al. Science 256:1205-1210 (1992); Sliwkowski et al. J. Biol. Chem. 269:14661-14665 (1994))リフレクタンスデンシトメトリーによって定量した。
【0187】
モノクローナル抗体4D5は、Mr180,000におけるHRG誘導性チロシンリン酸化シグナルの生成を有意に阻害した。しかし、HRGの不存在下では、Mr180,000レンジにおいてタンパク質のチロシンリン酸化の刺激能を有さなかった。またこの抗体はEGFR(Fendly et al. Cancer Research 50:1550-1558 (1990))、ErbB3またはErbB4と交差反応しなかった。モノクローナル抗体4D5はチロシンリン酸化のHRG刺激を50%ブロックできた。
【0188】
外因性rHRG 1の存在または不存在下における、モノクローナル抗体4D5のMDA−MB−175およびSK−BR−3細胞に対する増殖阻害作用を評価した(Schaefer et al. Oncogene 15:1385-1394 (1997))。MDA−MB−175細胞中のErbB2レベルは、正常乳表皮細胞中に見られるレベルより4〜6倍高く、MDA−MB−175細胞においてErbB2−ErbB4レセプターは構成的にチロシンリン酸化される。モノクローナル抗体4D5は、外因性HRGの存在および不存在下の両方で、MDA−MB−175細胞の細胞増殖阻害能を有した。4D5による細胞増殖の阻害はErbB2発現レベルに依存する(Lewis et al. Cancer Immunol. Immunother. 37:255-263 (1993))。SK−BR−3細胞中、最大阻害66%が検出できた。しかしながら、この作用は外因性HRGによって打ち負かされた。
【0189】
ヒト化
その全開示内容が引用により本明細書中にはっきりと包含される、米国特許第5,821,337に記載の新規「遺伝子変換突然変異誘発」戦略を用いてマウスモノクローナル抗体4D5をヒト化した。以下の実験で用いるヒト化モノクローナル抗体4D5をhuMAb4D5−8と称する。この抗体はIgG 1イソ型である。
【0190】
実施例2
HERCEPTIN(登録商標)−DM1複合体
1.HERCEPTIN(登録商標)の精製
HERCEPTIN(登録商標)(huMAb4D5−8、rhuMAb HER2、米国特許第5,821,337)(抗体440mgを含む1バイアル)をMESバッファー(25mM MES、50mM NaCl、pH5.6)50mLに溶解した。同バッファーで平衡化したカチオン交換カラム(Sepharose S, 15cm×1.7cm)にサンプルをロードした。次いでカラムを同バッファー(5カラム容量)で洗浄した。バッファーのNaCl濃度を200mMに上げてHERCEPTIN(登録商標)を溶出させた。抗体を含むフラクションをプールし、10mg/mLに希釈し、50mm リン酸カリウム、50mM NaCl、2mM EDTA、pH6.5を含むバッファーに透析した。
【0191】
2.HERCEPTIN(登録商標)のSPP修飾
精製されたHERCEPTIN(登録商標)をN−スクシンイミジル−4−(2−ピリジルチオ)ペンタノエート(SPP)で修飾し、ジチオピリジル基を導入した。NaCl(50mM)およびEDTA(1mM)を含む50mM リン酸カリウムバッファー(pH6.5)44.7mL中の抗体(376.0mg、8mg/mL)をSPP(エタノール2.3mL中5.3モル当量)で処理した。アルゴン下、室温で90分間インキュベートした後、35mM クエン酸ナトリウム、154mM NaCl、2mM EDTAで平衡化した Sephadex G25 カラムを通して反応混合物をゲルろ過した。抗体を含むフラクションをプールし、検定した。抗体の修飾程度を上記のように測定した。修飾抗体(HERCEPTIN(登録商標)−SPP−Py)の回収は、抗体当たり連結された解放可能な2−チオピリジン基4.5を有する337mg(89.7%)であった。
【0192】
3.HERCEPTIN(登録商標)−SPP−PyとDM1の複合体
修飾された抗体(337.0mg、解放可能2−チオピリジン基9.5μモル)を上記35mM クエン酸ナトリウムバッファー、pH6.5で希釈し、最終濃度2.5mg/mLにした。3.0mM ジメチルアセトアミド(DMA、最終反応混合物中3%v/v)中のDM1(その構造は図1に示すものである)(1.7当量、16.1μモル)を次いで抗体溶液に加えた。この反応をアルゴン下、室温で20時間進行させた。HERCEPTIN(登録商標)−DM1複合体の構造を図2に示す。
【0193】
反応物を35mM クエン酸ナトリウム、154mM NaCl、pH6.5で平衡化した Sephacryl S300 ゲルろ過カラム(5.0cm×90.0cm、1.77L)にロードした。流速は5.0mL/分であり、65フラクション(各20.0mL)を収集した。主要なピークはフラクション番号47を中心に存在した(図3)。主要なピークはモノマーHERCEPTIN(登録商標)−DM1を含む。フラクション44−51をプールし、検定した。252nmおよび280nmの吸光度を測定し、抗体分子当たりの連結DM1ドラッグ分子の数を測定したところ、抗体分子当たり3.7ドラッグ分子であることがわかった。
【0194】
実施例3
トランスジェニック動物
HERCEPTIN(登録商標)の臨床的活性を改善するため、新規HER2−関連治療を前臨床的に試験可能であるトランスジェニックHER2マウスモデルを開発した。腫瘍は、突然変異的活性化型のneu(HER2のラットホモログ)を発現するトランスジェニックマウスにおいて容易に発生するが、乳癌において過剰発現しているHER2は突然変異しておらず、突然変異していないHER2を過剰発現するトランスジェニックマウスではその腫瘍形成はより強くないものである(Webster et al., Semin. Cancer Biol. 5: 69-76 [1994])。突然変異していないHER2を用いる腫瘍形成を改善するために、トランスジェニックマウスにおいて突然変異していないHER2の過剰発現をさらに高める戦略を用いた。
【0195】
開示されているコンストラクト中、マウス乳腺の表皮細胞においてHER2発現を促進する任意のプロモーターを用いることができる。多くの乳タンパク質遺伝子は、乳腺で特異的に活性であるプロモーター/エンハンサー因子によって転写される。乳タンパク質遺伝子には、カゼイン(α−S1およびβ)、β−ラクトグロブリン、α−ラクトアルブミンおよび乳清酸性タンパク質をコードする遺伝子が含まれる。ヒツジβ−ラクトグロブリンプロモーターはよく特徴付けされ、当分野で広く用いられている(Whitelaw et al., Biochem J. 286:31-39, [1992])。しかしながら、他の種由来のプロモーターDNAの同様の断片もまた適当である。好ましいプロモーターはマウス乳腫瘍ウイルス(MMTV)の長末端繰り返し(LTR)由来のプロモーターである。MMTV LTRプロモーターを用いて本発明のHER2導入遺伝子コンストラクトを作成した。
【0196】
突然変異していないHER2を用いる腫瘍形成を改善するために、我々は、上流ATGコドンでの翻訳開始を妨害するためにこの上流ATGが欠失されている(こうしなければ、下流のHER2の正しい開始コドンからの翻訳開始の頻度を減少させるだろう)、HER2 cDNAプラスミドを用いてトランスジェニックマウスを作成した(例えば、Child et al., J. Biol. Chem. 274: 124335-24341 [1991])。さらに、キメライントロンを5'末端に加え、これはまた以前に報告されるように発現のレベルを高めるはずである(Neuberger and Williams, Nucleic Acids Res. 16: 6713 [1988]; Buchman and Berg, Mol. Cell. Biol. 8: 4395 [1988]; Brinster et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 836 [1988])。このキメライントロンは Promega ベクター、pCI−neo哺乳類発現ベクター(bp890−1022)由来のものであった。cDNA3'末端はヒト成長ホルモンエキソン4および5、およびポリアデニル化配列によって隣接されている。さらに、FVBマウスはより腫瘍発達を受けやすい株であるため、これを用いた。MMTV−LTR由来のプロモーターを用いて、乳腺における組織特異的HER2発現を確実にした。腫瘍形成の受けやすさを増大させるため、動物にAIN 76A飼料を与えた(Reo et al., Breast Cancer Res. and Treatment 45: 149-158 [1997])。この導入遺伝子プラスミドコンストラクトのヌクレオチド配列(配列番号:1)を図4に示す。
【0197】
トランスジェニック実験に適当な動物は標準的な市販元、例えば Taconic (Germantown, N.Y.) から入手できる。多くの株が適当であるが、FVB雌性マウスは、その腫瘍形成に対するより高い感受性ゆえ、好ましい。FVB雄性を交尾に用い、精管切除CD.1繁殖用を用いて、偽妊娠を刺激した。いずれかの市販供給元から精管切除マウスを得ることができる。構築体(founder)をFVBマウスまたは129/BL6xFVB p53ヘテロ接合性マウスと交配させた。p53対立遺伝子におけるヘテロ接合性を有するマウスを用いて、腫瘍形成を潜在的に増強した。しかしながら、これは必要ないことがわかった。したがって、いくつかのF1腫瘍は混合株性である。構築体腫瘍はFVBのみである。リターを有さず、いくつかの発達した腫瘍を有する6個の構築体が得られた。
【0198】
実施例4
HER2関連治療を評価するための腫瘍モデルとしてのHER2トランスジェニックマウス
実施例3に記載のように作成された1構築体トランスジェニックマウスの乳腺生検は、免疫組織化学染色によって示されるように約2月齢においてHER2の3+発現を示した。血清中にこぼれたHER2細胞外ドメイン(ECD)の量を測定し、約1.2ng/mLであることがわかった(Huang et al., 上記)。次いでこのマウスは、4リター(litter)を有した後、5月齢において乳腫瘍を発達させた。この腫瘍を無菌条件下で外科手術によって切除し、小片、2mm3に切り刻み、次いでこれを野生型FVB雌性マウスの乳脂肪パッドに移植した。5週間後に、31レシピエントマウス中22において腫瘍が発達した。次の経過では、腫瘍はより短い潜伏期間で発達し、より迅速に増殖し、腫瘍発生率はレシピエントの>95%に増加した。免疫組織化学染色によって測定されたHER2発現は最初の腫瘍においては3+であるが一様でなかったが、第一経過後は一様に3+になった。
【0199】
腫瘍を有するマウスをHERCEPTIN(登録商標)または4D5で処置すると、ヒト化HERCEPTIN(登録商標)が由来するマウス抗体は、移植された腫瘍の増殖に対し、少ししか影響しなかった(図5)。HER2発現は、HERCEPTIN(登録商標)または4D5治療中に増殖した腫瘍において3+であり、このことはHER2陰性腫瘍の選択はなかったことを示す。さらに、cy3−HERCEPTIN(登録商標)は、腫瘍を有するマウスに注射した後、腫瘍細胞を装飾することが検出され、このことはこの効力の欠乏は抗体が腫瘍に接近できないためではないことを示す。
【0200】
HER2の持続性発現およびこの腫瘍モデルがHERCEPTIN(登録商標)に応答できないことに基づいて、メイタンシノイド DM1と複合化されたHERCEPTIN(登録商標)を用い、実施例3に記載のように新規アプローチを試験した。図5は、このモデルにおいてHERCEPTIN(登録商標)−DM1複合体が劇的な抗腫瘍活性を有することを示す。RITUXAN(登録商標)、非関連抗−CD20モノクローナル抗体をこれらの実験のネガティブコントロールとして用いた。コントロール抗体、RITUXAN(登録商標)と比べてHERCEPTIN(登録商標)に対する応答はほとんどなかったが、HERCEPTIN(登録商標)のメイタンシノイド複合体の著しい抗腫瘍活性が存在した。図5に示されるように、HERCEPTIN(登録商標)−メイタンシノイドで処置されたマウスはすべて、その腫瘍の著しい減少を示したが、腫瘍は1つも消失しなかった。約4週間後、腫瘍は再生育を開始した。この時点で5動物を犠牲にした。その腫瘍は3+レベルでHER2を発現していることがわかった。したがって、HER2−ネガティブ腫瘍に関する選択はなかった。この観察に基づいて、残りの3マウスをHERCEPTIN(登録商標)−メイタンシノイドで5日間連続処置した。この処置に応じて腫瘍は再び退行した。
【0201】
生物学的材料の寄託
以下のハイブリドーマ細胞株を American Type Culture Collection, 10801 University Boulevard, Manassas, VA 20110-2209, USA (ATCC) に寄託した:
抗体名称 ATCC番号 寄託日
7C2 ATCC HB−12215 1996年10月17日
7F3 ATCC HB−12216 1996年10月17日
4D5 ATCC CRL 10463 1990年 5月24日
2C4 ATCC HB−12697 1999年 4月 8日
【0202】
この寄託は特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブタペスト条約およびそれに基づく規則(ブタペスト条約)の規定に基づいて行われた。これは寄託の日から30年間、生存できる培養の維持を保証するものである。この生物は、当該米国特許の発行時または米国または他国の特許出願の公開時にいずれが最初になっても公衆に対してその培養の子孫の永続する無制限の利用可能性を保証し、35USC122とそれに準ずる長官規則(886OG638に対する特別な参照を伴う37CFR1.12を含む)に従って与えられるべき特許商標庁長官によって決定された者に対するその子孫の利用可能性を保証する、ジェネンテク,インコーポレイテッドとATCCの合意を受けて、ブタペスト条約の約定の下にATCCによって利用可能にされるであろう。
【0203】
欧州特許が要求されるこれらの指摘に関して、寄託微生物のサンプルは、欧州特許の認可の陳述の公開までか、あるいは本出願が拒絶または取り下げ、または取り下げたものとみなされた日まで、サンプルを要求した個人により指名された専門家へのこのようなサンプルの供給によってのみ利用可能にされるであろう。
【0204】
本願の出願人は、適当な条件下で培養された時に寄託された培養が死滅するか、失われるか、あるいは破壊された場合、その通知時に直ちに、同じ培養の生存できる標本と交換することを合意している。寄託された株の利用可能性を、あらゆる政府の機関の下にその特許法に従って認可された権利に違反する本発明の実施に対する許諾であるとみなすべきではない。
【0205】
上記の説明は当業者をして本発明を実施させるに足ると考えられる。寄託された態様は、本発明のある側面を例示するものであるに過ぎず、機能的に等価な構築物(コンストラクト)はすべて本発明の範囲に包含されるので、本発明は寄託された構築物によって範囲を制限されるべきではない。本明細書における物質の寄託は本明細書の記述が本発明のなんらか側面の実施を(その最適な方法を含めて)可能にするに足らないことを認めるものではなく、またそれらが表現する特定の例示に請求の範囲が制限されると見なすべきでもない。実際に、本明細書に示し記述するものに加えて、本発明の様々な変法が、上記の説明から当業者には明らかになるであろうし、これらも請求の範囲に包含される。
【0206】
具体的問題または状況に対して本発明の教示内容を適用することは、本明細書中に含まれる教示内容に照らせば、当業者の能力の範囲内であることが理解される。本発明の生成物およびその単離に関する代表的プロセス、使用および製品の例は以下に示されるが、本発明を制限すると考えるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0207】
【図1】図1は、「DM1」と称するメイタンシノイドの構造を示す。
【図2】図2は、HERCEPTIN(登録商標)−DM1複合体の構造を示す。
【図3】図3は、セファクリルS300ゲルフィルトレーションカラムにおけるHERCEPTIN(登録商標)−DM1複合体の溶出像である。
【図4】図4は、トランスジェニックマウスの乳腺において天然ヒトHER2(ErbB2)の発現を生じるHER2トランスジーンプラスミドコンストラクトの核酸配列(配列番号1)を示す。この図には、シグナル配列を含むHER2(ErbB2)cDNA挿入核酸配列(配列番号2)、および推測されるHER2(ErbB2)アミノ酸配列(配列番号3)が含まれる。配列番号3の内、約22〜約645残基はHER2(ErbB2)細胞外ドメインを含めて表す。
【図5】図5は、HER2トランスジェニック腫瘍におけるHERCEPTIN(登録商標)−DM1の効果を示す。MMTV−HER2トランスジェニック腫瘍の2mm3断片をFVBマウスの乳脂肪体(mammary fat pad)に移植した。腫瘍が250mm3に達した時に、HERCEPTIN(登録商標)−DM1複合体を8つのマウス群に5日連続で静脈内注射した。他の2つのマウス群には、10mg/kgのHERCEPTIN(登録商標)またはRITUXAN(登録商標)のいずれかを用いて1週間当たり2回腹膜内処置した。
【図6】図6は、ヒト化抗HER2抗体2C4の重鎖可変領域配列を示す。
【図7】図7は、ヒト化抗HER2抗体2C4の軽鎖可変領域配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ErbB受容体の過剰発現によって特徴付けられ、抗−ErbB抗体を用いた処置に対して応答しないか、応答が貧弱である哺乳動物における腫瘍の処置方法であって、抗−ErbB抗体とメイタンシノイド(maytansinoid)との複合体の治療上有効量を哺乳動物に投与することを包含する処置方法。
【請求項2】
該哺乳動物がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該ErbB受容体がErbB1(EGFR)、ErbB2(HER2)、ErbB3(HER3)およびErbB4(HER4)から成る群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
該抗−ErbB抗体が増殖阻害抗体である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
該抗−ErbB抗体が細胞死を誘導する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
該抗−ErbB抗体がアポトーシスを誘導する、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
該抗体が抗−ErbB2抗体である、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
該腫瘍が癌である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
該癌が乳癌、卵巣癌、胃癌、子宮内膜癌、唾液腺癌、肺癌、腎臓癌、結腸癌、結腸直腸癌、甲状腺癌、脾臓癌、前立腺癌および膀胱癌から成る群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
該癌が乳癌である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
該乳癌がErbB2をレベル2+以上で過剰発現する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
該乳癌がErbB2をレベル3+で過剰発現する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
該抗体が4D5モノクローナル抗体の生物学的特徴を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
該抗体が4D5モノクローナル抗体と同じエピトープに本質的に結合する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
該抗体がモノクローナル抗体4D5(ATCC CRL 10463)である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
該抗体がヒト化されている、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
該抗体がヒト化抗体huMAb4D5−1、huMAb4D5−2、huMAb4D5−3、huMAb4D5−4、huMAb4D5−5、huMAb4D5−6、huMAb4D5−7およびhuMAb4D5−8(HERCEPTIN(登録商標))から成る群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
該抗体がヒト化抗体huMAb4D5−8(HERCEPTIN(登録商標))である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
該抗体が抗体断片である、請求項3に記載の方法。
【請求項20】
該抗体断片がFab断片である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
該メイタンシノイドがメイタンシンである、請求項3に記載の方法。
【請求項22】
該メイタンシノイドがメイタンシノールである、請求項3に記載の方法。
【請求項23】
該メイタンシノイドがメイタンシノールエステルである、請求項3に記載の方法。
【請求項24】
該メイタンシノイドがメイタンシノールのC−3エステルである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
該メイタンシノイドが図1に示されるDM1である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
該抗体とメイタンシノイドが二重特異性化学リンカーによって複合体化されている、請求項3に記載の方法。
【請求項27】
該化学リンカーがN−スクシンイミジル−4−(2−ピリジルチオ)プロパノエート(SPDP)またはN−スクシンイミジル−4−(2−ピリジルチオ)ペンタノエート(SPP)である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
該抗体およびメイタンシノイドがジスルフィド、チオエーテル、酸不安定性、感光性、ペプチダーゼ不安定性およびエステラーゼ不安定性の基から成る群から選択される連結基によって複合体化されている、請求項3に記載の方法。
【請求項29】
該連結基がジスルフィドまたはチオエーテル基である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
該連結基がジスルフィド基である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
該複合体が抗体1分子当たり1〜約10個のメイタンシノイド分子を含有する、請求項3に記載の方法。
【請求項32】
該複合体が抗体1分子当たり約3〜約5個のメイタンシノイド分子を含有する、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
ErbB2に結合し、ErbB受容体のリガンド活性化をブロックする第2の抗体を投与することをさらに包含する、請求抗7に記載の方法。
【請求項34】
該第2の抗体がモノクローナル抗体2C4またはヒト化2C4を含有する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
該第2の抗体が細胞障害剤と複合体化されている、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
該細胞障害剤がメイタンシノイドである、請求項35の方法。
【請求項37】
抗−ErbB抗体−メイタンシノイド複合体を含有する組成物およびそれを含む容器を含有する製品であって、該組成物がErbB受容体の過剰発現によって特徴付けられる癌を処置するのに使用できることを示す添付文書またはラベルをさらに含む製品。
【請求項38】
該添付文書またはラベルが、該組成物がErbB2受容体の過剰発現によって特徴づけられる癌を処置するのに使用できることを示す、請求項37に記載の製品。
【請求項39】
該癌が乳癌である、請求項38に記載の製品。
【請求項40】
該癌がErbB2受容体をレベル2+以上で過剰発現することによって特徴付けられる、請求項38に記載の製品。
【請求項41】
該癌がErbB2受容体をレベル3+で過剰発現することによって特徴付けられる、請求項40に記載の製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図4−4】
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【図4−5】
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【図4−6】
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【図4−7】
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【図4−8】
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【図4−9】
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【図4−10】
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【図4−11】
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【図4−12】
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【図4−13】
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【図4−14】
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【図4−15】
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【図4−16】
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【図4−17】
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【図4−18】
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【図4−19】
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【図4−20】
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【図4−21】
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【図4−22】
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【図4−23】
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【図4−24】
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【図4−25】
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【図4−26】
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【図4−27】
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【図4−28】
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【図4−29】
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【図4−30】
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【図4−31】
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【図4−32】
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【図4−33】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−105755(P2011−105755A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−20019(P2011−20019)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【分割の表示】特願2010−161459(P2010−161459)の分割
【原出願日】平成12年6月23日(2000.6.23)
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【出願人】(502116335)イムノゲン インコーポレーティッド (8)
【Fターム(参考)】