説明

抗−TF−抗原抗体の治療的使用

本発明は、TFAgを発現する細胞の転移および/または増殖の阻害のための、または、TF-Agを発現する腫瘍または転移性病巣の検出のための、個人へのモノクローナル抗体JAA-F11の投与に関する。TF-Agを発現している細胞の転移の阻害または増殖の阻害のために、前記方法は、治療量のmAb JAA-F11、ここで、JAA-F11 mAbは、TF-Agを発現している癌細胞の転移および/または増殖を阻害する、を個人に投与することを含む。腫瘍または転移性病巣の検出のために、mAb JAA-F11は検出可能な標識に結合されて、個人に投与される。標識の検出によりTF-Agを発現している癌細胞を含む転移性病巣または腫瘍が同定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2004年7月26日に出願された米国仮出願第60/591,011号に対する優先権を主張し、その開示内容を出典明示により本明細書中に組み込む。
本発明は、国立衛生研究所(the National Institutes of Health)からの登録番号R15AI49210-01により支援された。当該機関が本発明の所定の権利を有する。
【0002】
本発明は、概して、癌細胞の増殖および転移の阻害に関するものである。より詳しくは、本発明は、個人において癌細胞の転移を阻害するためのモノクローナル抗体の使用に関するものである。
【背景技術】
【0003】
発癌中、細胞表面で炭水化物構造の生合成に変化が起こり、よって、タンパク質または脂質のいずれかに結合したいくつかの異なる炭水化物が腫瘍関連抗原であると考えられている。TF-抗原(TF-Ag)は、乳、肺、膀胱、前立腺および膵臓を含むいくつかの癌腫の腫瘍関連抗原である(1-4)。TF-Agは転移プロセスに関与すると提唱されている(5-10)。
TF-Agは、アルファO-セリンまたはO-トレオニン結合によりタンパク質に結合される二糖であるガラクトースβ1-3N-アセチルガラクトサミンである。TF-AgはThomsen、FriedenreichおよびHueberにより1920年代の後期に発見された(2)。TF-Agは、三次元構造によるか、または高度にネガティブに荷電したシアル酸によるかのいずれかにより他の炭水化物に連結しているので、種々の正常な細胞膜上では隠れている(3,7)。TF-Agの密度により、癌腫の組織学的グレード(9,11)、浸潤性ポテンシャル、および乳癌(2,12-13)、膀胱および前立腺癌腫(14)の早期再発の可能性が予測される。
【0004】
TF-Agは免疫病理学的マーカーを越えるものであり、これは接着および転移において役割を有すると仮定されている(2)。可逆性または不可逆性の接着が浸潤の初期のステップであり(15)、これは、TF-Ag接着分子がガレクチンまたは他のレクチン等のリガンドを認識した時に生じる可能性がある(4,16)。転移性腫瘍ではTF-Agの発現が増加し、TF-Agを結合するレクチンは、転移性腫瘍の増殖の共通部位に存在する(17)。TF-Ag接着のためのリガンドが血管内皮、肝臓、骨髄およびリンパ節で見出されており(18-19)、これにより、どのようにTF-Agレベルが癌腫の浸潤性に関連しているかが説明され得る(20)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炭水化物腫瘍関連抗原に対して誘発される免疫反応の免疫療法上の価値に関する報告がある(8,26-29)。例えば、O'Boyle等は、大腸癌患者における、TF-Ag、Tn(GalNAc)およびシアリル化Tn(NANAα2-6GalNAc)に関連する2つの抗原に対する非常に低レベルのIgGおよびIgM反応の発生を示している(26-27)。Longenekerの乳癌患者における研究は、シアリルTnのスカシ貝ヘモシアニン(KLH)結合物を用いて、これらの患者でより高い反応を得、また、いくらかの臨床反応を認めた(29-30)。SpringerおよびDesaiは、OおよびMN型赤血球細胞由来の糖タンパク質から成るT/Tnワクチンでのワクチン化を用い、これにより、非常に少量のIgMしか作成されなかったにも関わらず、乳癌患者の生存の改善を生じた(15)。Globo H(TF-Agを含む六糖)をKLHと結合し、免疫原性を改良するためにアジュバントQS21と共に注射して用いる乳癌患者の免疫化は、殆どの患者において、IgM反応のみの形成を生じた(31)。しかし、IgMは概して、IgGよりも低いアフィニティと特異性のものであり、成熟度の劣る免疫反応を示し、そして、TF-Agに対する抗体に関連する多くの先の研究は、IgM抗体に関するものである。さらに、いくつかの抗-TF-Ag抗体は、それらが腫瘍細胞の望ましくない増殖を引き起こす(15)ので、臨床上有用でない。さらに、TF-Agに結合でき、インビトロで細胞接着を阻害できるペプチドが記載されているが(5)、ヒトの癌腫細胞系統上でTF-Agに結合でき、細胞の凝集を干渉し得るいくつかのペプチドはTF-Agに対して低いモノマーアフィニティを示し、それゆえ、水性バッファー中で高濃度では溶解され得ず、このため、その使用の可能性がかなり制限されることも見出されている(Landon等、タンパク質化学に関するジャーナル(Journal of Protein Chemistry)、(2003) Vol. 22: pp193-204)。
【0006】
ある研究は、マウスモデルで癌細胞におけるTF-Agに対するモノクローナル抗体の効果を調べることを目的とする (Shigeoka等、腫瘍生物学(Tumor Biolory)(1999) 20: 138-146)。しかし、この試験は、事前にモノクロナール抗体と共に前-インキュベートした癌細胞の肝臓への直接注入により転移を刺激することを試みたものである。モノクローナル抗体と前-インキュベートされた細胞を注入されたマウスの肝臓における小塊の形成が、モノクローナル抗体と前-インキュベートされていない癌細胞での注入を受容しているマウスと比較された。前-インキュベートされた細胞を受容しているマウスでより少数の小塊が存在したが、この研究は、モノクローナル抗体との癌細胞の前-インキュベーションのために、当該抗体が全身を巡って、TF-Agを発現している細胞の所在を突き止め、かかる細胞に結合する必要がないので、転移の抗体媒介性阻害の適切なモデルを提供するものではなかった。さらに、小塊の形成が天然の転移プロセスに似た態様で内皮を経て癌細胞が移動する結果であるかどうか、または小塊が単純に、注入された細胞のロッジングおよび増幅の結果であるかどうかについての評価はなかった。
【0007】
最後に、他の抗TF-Agモノクローナル抗体の生成および特定が記載されているが(21)、前記研究のいずれも、TF-Agに対するモノクローナル抗体の使用が、個人における癌細胞の転移または増殖のいずれを阻害することも立証していない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明により、個人における癌細胞の転移を阻害する方法、個人における癌細胞の増殖を阻害する方法および個人において転移性病巣または腫瘍を検出するための方法が提供される。これら方法は、TF-Ag分子を発現する癌細胞をインビボで標的するためのモノクローナル抗体(mAb)JAA-F11の使用を包含する点で関連する。
【0009】
この点に関し、転移を阻害する方法は、個人に治療量のmAb JAA-F11を投与することを含み、ここで、前記JAA-F11 mAbsはTF-Agを発現している癌細胞の転移を阻害する。JAA-F11 mAbsは単独で投与されても、当該mAbsが化学療法剤と結合されずに化学療法剤と組み合せて投与されても、または当該mAbsが化学療法剤と結合されて化学療法剤と組み合せて投与されてもよい。例えば、JAA-F11 mAbsは、種々の酵素的に活性な毒素およびそのフラグメントのいずれかまたは細胞毒性ラジオアイソトープと結合されてよい。
【0010】
個人における癌細胞の増殖を阻害する方法は、治療量のmAb JAA-F11の当該個人への投与を含み、ここで前記JAA-F11 mAbsは、TF-Agを発現する癌細胞の増殖を阻害する。転移を阻害するための方法におけるように、JAA-F11 mAbsは、TF-Agを発現する癌細胞の増殖を阻害するために投与される場合、単独で投与されても、当該mAbsが化学療法剤と結合されずに化学療法剤と組み合せて投与されても、または当該mAbsが化学療法剤と結合されて化学療法剤と組み合せて投与されてもよい。
【0011】
他の態様では、個人において転移病巣、腫瘍またはその組合せを同定するための方法が提供される。当該方法は、検出可能な標識に結合されたJAA-F11 mAbsを個人に投与するステップと、前記検出可能な標識を検出して転移性病巣または腫瘍を同定するステップを含む。例えば、前記mAbsは、磁気共鳴画像処理(MRI)での使用のためにスピン標識に結合されてよい。
【0012】
本発明では、個人において、TF-Ag分子を発現する癌細胞の転移を阻害する方法が提供される。当該方法は、個人に治療量のJAA-F11 mAbs(ACTTカタログ番号CRL-2381)を投与することを含み、当該JAA-F11 mAbsの投与によりTF-Ag発現癌細胞の転移が阻害される。
他の態様では、個人において、TF-Agを発現する癌細胞の増殖を阻害する方法が提供される。当該方法は、TF-Agを発現している癌細胞の増殖を阻害するのに有効な量のJAA-F11 mAbsを個人に投与することを含む。
他の態様では、個人において、TF-Agを発現している転移性病巣、腫瘍またはこれらの組合せを同定するための方法が提供される。前記方法は、検出可能な標識に結合されたJAA-F11 mAbsを個人に投与するステップと、前記検出可能な標識を検出して、当該転移性病巣、腫瘍またはこれらの組合せを同定するステップを含む。
【0013】
我々はmAb JAA-F11が、中枢神経系を含む多くの細胞タイプの表面上に発現される糖脂質であるGM1に結合しないことを確証した。これは、「170H82」と称される、TF-AgおよびGM1に結合する、既に記載されているTG-Agに対するmAb(22)と対照をなす。それゆえ、170H82 mAbのこの広範な反応活性は、GM1を含む正常組織との反応を生じるが、mAbJAA-F11はかかる反応を生じない。つまり、mAb JAA-F11は他のTF-Ag mAbsよりも癌細胞に対してより特異的である。さらに、我々は、JAA-F11が、これまでに報告されている他の抗-TF-Ag抗体(45)と異なり、細胞の増殖を引き起こさないことをも確証した。
【0014】
一態様では、本発明は、TF-Agを発現する細胞の転移を阻害する方法における、またはTF-Agを発現する細胞の増殖を阻害する方法における使用のための「ヒト化された」mAb JAA-F11を作製ことを意図する。非-ヒト(例えばマウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト抗体から誘導された最小の配列を含むキメラ抗体である。ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域からの残基が、所望の抗体特異性、アフィニティおよび能力を有する非ヒト種、マウス、ラット、ウサギまたは非ヒト霊長類の超可変領域(「ドナー」抗体とも呼ばれる)からの残基により置換された、本質的にはヒトの免疫グロブリン(「レシピエント」抗体とも呼ばれる)である。いくつかの例では、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基を対応する非ヒト領域と置き換える。さらにヒト化抗体は、レシピエント抗体またはドナー抗体で見出されない残基を含んでよい。これらの変更は、抗体パーフォーマンスをさらに改善するためになされる。概して、ヒト化抗体は、少なくとも一つ、および典型的には二つの可変ドメインの実質的に全てを含み、かかる可変ドメインにおいて、当該超可変ループの全てまたは実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、および、FRsの全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンのものの少なくとも一部をも含み得る。さらに詳しくは、Jones等、ネイチャー321:522-525(1986); Reichmann等、ネイチャー332: 323-329(1988);およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2: 593-596(1922)を参照されたい。
【0015】
非ヒト抗体をヒト化するための方法は当該分野で周知である。mAb JAA-F11のヒト化は、Winterおよび共働者の方法に従い、マウスCDR配列をヒト抗体の対応する配列に置換することにより本質的に達成され得る〔Jones等、ネイチャー、321: 522-525(1986);Riechmann等、ネイチャー、332: 323-327(1988); Verhoeyen等、サイエンス、239: 1534-1536(1988)〕。
【0016】
他の態様では、mAb JAA-F11の抗原結合または可変領域フラグメントを本発明の方法に用いてよい。適当な抗体フラグメントの例には、mAb JAA-F11Fab、Fab'、F(ab')2およびFvフラグメントが含まれる。種々の技術が、抗体フラグメントの生成のために開発されている。従来は、これらのフラグメントは完全な抗体のタンパク質消化により誘導された(Morimoto等、生化学および生物物理学的方法に関するジャーナル24: 107-117(1992)およびBrennan等、サイエンス、229:81(1985)を参照)。しかし、今やかかるフラグメントは組換え宿主細胞により直接的に製造できる。例えば、かかる抗体フラグメントは抗体ファージライブラリーから単離できる。別法として、Fab'-SHフラグメントはイー.コリから直接的に回収でき、および化学的に結合されてF(ab')2フラグメントを形成できる(Carter等、バイオ/テクノロジー10: 163-167(1992))。他のアプローチに従い、F(ab')2フラグメントを組換え宿主細胞培養物から直接的に単離できる。mAb JAA-F11フラグメントの製造に関する他の方法が当業者に明らかであろう。
【0017】
他の態様では、JAA-F11 mAbは化学療法剤に結合されて、結合されたJAA-F11 MAbsのTF-Ag発現細胞への結合による癌細胞への化学療法剤の局在化を可能とし得る。そのような抗体結合物の作製に有用な化学療法剤には、酵素的に活性な毒素およびそのフラグメントが含まれる。適当な酵素的に活性な毒素には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒の非結合活性フラグメント、エキソトキシンA鎖〔シュードモナス・エアルギノサ(Pseudomonas aeruginosa)由来のもの〕、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデクシンA鎖、アルファ・サルシン、アブラギリ(Aleurites fordii) タンパク質、ジアンチン(dianthin)タンパク質、フィトラカ・アメリカナ(Phytolaca americana)タンパク質(PAPI、PAPIIおよびPAP-S)、モモルディカ・カランティア(momordica charantia)・インヒビター、クルシン、クロチン、サパオナリオア・オフィシナリス(sapaonaria officinalis)・インヒビター、ゲロニン、ミトゲリン、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシンおよびトリコテセンが含まれる。
【0018】
JAA-F11 mAbsおよび化学療法剤の結合物は、種々の二官能性タンパク質カップリング剤、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリルジチオール)プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(ジメチルアジピミデートHCL等)、活性エステル(ジスクシンイミジルスベラート等)、アルデヒド(グルタルアルデヒド等)、ビス-アジド化合物(ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン等)、ビス-ジアゾニウム誘導体(ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン等)、ジイソシアネート(トルエン2,6-ジイソシアネート等)およびビス-活性フッ素化合物(1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン等)等を用いて作製されてよい。例えば、リシンイムノトキシンは本質的に、Vitetta等、サイエンス238: 1098(1987)に記載されるように調製できる。
【0019】
他の態様では、JAA-F11 mAbsは放射性剤と結合されてよい。JAA-F11 mAbsが結合する細胞を画像化し、または選択的に破壊し得るような種々の放射性アイソトープが、JAA-F11に対して結合させるために入手できる。TF-Agを発現している細胞の選択的破壊のためには、JAA-F11 mAbsは、高放射性の原子、In111、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212およびLuの放射性アイソトープ等に結合されてよい。
【0020】
JAA-F11 mAb結合物を、転移性病巣または腫瘍においてTF-Agを発現している細胞を同定するために用いる場合、当該JAA-F11 mAbs結合物は、シンチグラフィー検査のための放射性原子、例えばTc99m(準安定テクニチウム-99)、I123または核磁気共鳴(NMR)画像処理(磁気共鳴画像処理または「MRI」としても知られる)のためのスピン標識、I123、I131、I124、F19、C13、N15、O17またはガドリニウム(III)またはマンガン(II)等を含んでよい。
【0021】
放射能標識は公知の方法でJAA-F11 mAbsに組み込むことができる。例えば、tc99mまたはI123、Re186、Re188およびIn111等の標識をJAA-F11 mAbs中のシステイン残基を介して結合できる。Y90はリジン残基を介して結合できる。ボルトン・ハンター法を用いてI123を組み込むことができる。「イムノシンチグラフィーにおけるモノクローナル抗体」(Chatal, CRC Press 1989)には適当な方法が詳細に記載されている。
【0022】
インビボでの画像処理による転移性病巣および/または腫瘍の同定のための抗体の使用は、当該分野で周知である。例えば、In111で標識した抗体-キレーターが、癌胎児性抗原を発現している腫瘍の放射能イムノシンチグラフィー画像処理における使用に関して記載されている(Sumerdon等、Nucl. Med. Biol. 1990 17: 247-254)。特に、これらの抗体-キレーターは、再発性の結腸直腸癌を有する疑いのある患者において腫瘍を検出するのに用いられている(Griffin等、J. Clin. Onc. 1991 9:631-640)。MRIにおける使用のための標識としての常磁性イオンを有する抗体も記載されている(Lauffer, R.B. 医薬における磁気共鳴(Magnetic Resonance in Medicine)1991 22: 339-342)。適当に標識されたJAA-F11 mAbsを同様の方法で使用できる。
【0023】
標識されたJAA-F11 mAbsを、転移性疾患を有すると診断された、またはその疑いのある患者に注入して転移性病巣および/または腫瘍を同定できる。そのような画像処理からの情報を、患者の疾患状態を診断または段階付けるために使用できる。用いられる標識は、使用される画像処理システムにより選択できる。例えば、インジウム111、テクネチウム99またはヨウ素131を、プレイナースキャンまたは単一光子放射型コンピュータ断層法(SPECT)のために使用できる。フッ素19、ヨウ素123およびヨウ素124等の陽電子放射標識を陽電子放射型断層法に使用できる。ガドリニウム(III)またはマンガン(II)等の常磁性イオンを磁気共鳴画像処理(MRI)に使用できる。個人の特定の組織内への標識の局在化により、TF-Agを発現している細胞を含む転移病巣または腫瘍を位置づけることが可能となる。特定の位置でのバックグラウンドよりも高い標識の濃度により、転移された細胞の存在の同定が可能となる。好ましい態様では、標識されたJAA-F11 mAbsの投与後、適当な期間を経過させて、非結合JAA-F11 mAbsを個人から排出させてバックグラウンド標識を大きく低下させる。
【0024】
結合性または非結合性のJAA-F11 mAbsを含む治療製剤を、医薬上許容されるキャリア、賦形剤または安定剤と混合することにより (レミントンの医薬化学第16版、Osol., A. Ed(1980))、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で調製してよい。許容されるキャリア、賦形剤または安定剤は、用いられる投与量および濃度でレシピエントにとって無毒であり、ホスフェート、シトレートおよび他の有機酸等のバッファー;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;保存剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド;ヘキサメトニウムクロライド;ベンズアルコニウムクロライド、ベンゼトニウムクロライド;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベン等のアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリジン等のアミノ酸;単糖、二糖および、グルコース、マンノースまたはデキストリンを含む他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトール等の糖;ナトリウム等の塩形成対イオン;金属錯体(例えばZn-タンパク質錯体);および/またはTWEEN(登録商標)、PLURONICS(登録商標)またはポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤を含む。
【0025】
JAA-F11 mAbsは、非経口、皮下、腹腔内、肺内および鼻内を含むあらゆる適当な手段により投与されてよい。非経口注入には、筋内、静脈内、動脈内、腹腔内、リンパ内または皮下投与が含まれる。加えて、JAA-F11 mAbsは、パルス注入により、例えば抗体の投与量を減少させつつ適当に投与し得る。好ましくは、投与は注射により、最も好ましくは、投与が短時間のものか慢性的なものかに幾分依存して、静脈内または皮下注射により付与される。好ましい態様では、JAA-F11 mAbsは、乳、結腸、前立腺、卵巣、膀胱または他のTF Ag+癌を有すると診断された、またはその疑いのある個人に投与されて、癌細胞の転移を阻害するか、またはその増殖を阻害する。
【0026】
化学療法剤、免疫抑制剤および/またはサイトカイン等の他の化合物をJAA-F11 mAbsと共に投与してもよい。かかる組合せ投与には、別個の製剤または単一医薬製剤を用いる同時投与が含まれ得、また、いずれかの順番での連続投与であって、両方(または全ての)活性剤が同時にその生物学的活性を発揮する期間があるものも含まれ得る。
【0027】
JAA-F11 mAbsは、ヒトまたは他の動物に、前記治療法に従って、TF-Agを発現している細胞の転移および/または増殖を阻害するのに十分な量で投与されてよい。JAA-F11 mAbsは、ヒトまたは他の動物に、JAA-F11 mAbsを、常套の医薬上許容されるキャリアまたは希釈剤と組み合わせることにより公知の方法に従い調製される常套の投与形態で投与され得る。医薬上許容されるキャリアまたは希釈剤の形態および特徴は、組み合わされる活性成分の量、投与の経路および他の周知の変動要素、個人のサイズや疾患の段階等により決定されることが当業者により認識されるであろう。
【0028】
放射能標識されたJAA-F11 mAbsの投与量は、患者、抗体特異性、半減期、放射性アイソトープの安定性等、および疾患の程度によっても変化する。そのような投与量は当該分野の専門家により決定され得る。一態様では、4mg/kg体重の投与量または、2mg/kg体重の維持投与を使用できる。
以下の実施例は本発明を説明するためのものであり、特許請求の範囲の範囲を限定することを意味しない。
【0029】
[実施例1]
本実施例により、モノクローナル抗体JAA-F11による内皮および骨髄細胞への癌細胞の接着の阻害を示す。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)は、カスケード・バイオロジクス(Cascade Biologics)(ポートランド、OR)から購入した。FBS(2% v/v終濃度)、ヒドロコルチソン、ヒト繊維芽細胞増殖因子、ヘパリンおよびヒト表皮増殖因子を含む、低血清増殖添加物(LSGS)を追加した基礎培地200(カスケード・バイオロジクス)をHUVECのために使用した。8-12の継代の細胞を接着試験のために用いた。C.E van der Schoot博士(アムステルダムの大学、アムステルダム、オランダ)により提供されたヒト骨髄内皮細胞系統、HBMEC-60は、両種指向性ヘルパー-フリーレトロウイルスpLXSN16 E6/E7を用いて(32)、元は成人ヒト骨髄から単離されたHBMECの不死化により開発した。HBMEC-60細胞は、その正常なフェノタイプおよび接着特性、特に造血前駆細胞に結合するその能力を維持することが示された(32)。20%FBSおよび、ヒドロコルチソン、ヒト繊維芽細胞増殖因子、ヘパリンおよびヒト表皮増殖因子を含むLSGSを追加した基礎培地200(カスケード・バイオロジクス)をHBMEC-60のために使用した。細胞を加湿したインキュベーター中(5%CO2)で37℃で単層培養物状態で維持した。
【0030】
かかる細胞を用いる接着試験を、本質的に既に記載されているように行った(4-5)。簡単には、3μg/mlのアクリジン・オレンジで前-標識した癌細胞の単一細胞懸濁液(試験される抗体を追加した2.5mlの完全培地中、チャンバー当たり5*104細胞)を4-ウェルチャンバースライド(NalgeNunc, Naperville, IL)を用いて直接顕微鏡スライド上でコンフルエンスまで増殖させた内皮細胞の単層に添加した。チャンバーを封じ、細胞を1時間37℃で接着させ、その後チャンバーを30分間転置させて、非接着細胞を沈降させた。次に、培地を除去し、サンプルを穏やかにPBSで濯ぎ、30分間2%のPBS中ホルムアルデヒド溶液にて固定し、カバーガラスを被せ、蛍光顕微鏡により試験した。各ウェル中4つの無作為の領域を250×拡大で撮影し、各領域での接着細胞の全数を数えた。アッセイを、各条件に関して4回行った。図2Aおよび図2Bに示す結果は、HUVEC単層および骨髄内皮細胞HBMEC-60各々に対する接着の阻害を示す。
【0031】
[実施例2]
本実施例は、モノクローナル抗体が、エキソビボ様式で、転移および転移性腫瘍形成の重要な段階を遮断できることを示す。かかる試験を行うために、灌流された豚硬膜を既に記載されているように(33-34)、接着試験で用いた。簡単には、ミッソーリ大学承認の動物ケアプロトコル(the University of Missouri approved animal care protocol)に従い動物を屠殺した後30分以内の成熟した雌のユカタン・ミニチュアブタ(チャールズ・リバー、ME)から回収した一半球に対応する硬膜を切開し、シルガード(Sylgard)-コートした100mm皿に広げた。正中硬膜動脈の主要な分岐にカニューレを挿入し、硬膜血管を、まず1.0mg/mlのブタ血清アルブミンを追加したクレブス生理塩を用いて20分間15μl/分で灌流し、次いで血管標識溶液(10%FBSと1.0mg/mlブタアルブミンを追加したRPMI-1640中0.3μg/mlのアクリジンオレンジ溶液)でさらに40分間灌流した。注入前に、癌細胞を5分間、RPMI-1640培地中3μg/mlのアクリジンオレンジ溶液で前-標識し、3回濯ぎ、プラスチックから分離し、ピペットして単一細胞懸濁液を得、20μmのナイロンメッシュで濾過して細胞クランプを除去し、5・104細胞/mlに調整した。癌細胞の硬膜微細血管との相互作用をモニターし、75ワットのキセノンランプと高感度のCCDビデオカメラ(COHU、サンディエゴ、CA)を備えたLaborlux8顕微鏡(Leitz Wetzlar, ドイツ)に基づく蛍光ビデオ顕微鏡システムを用いて、1秒当たり30フレームでビデオ記録した。続くフレーム-バイ-フレーム分析のために、記録されたアナログビデオ画像をメディア・コンバーターDVMC-DA2(ソニー、日本)およびAdove Premier 6ソフトウェア(Adobeシステムズ、San Jose, CA)を用いてデジタル化した。
かかる試験からの結果を図2Cに示すが、この結果は、JAA-F11が、転移性腫瘍の形成における重要な段階であるブタの硬膜上でのヒト乳癌細胞ローリングを遮断することを示す。
【0032】
[実施例3]
本実施例は、間接細胞ELISA(Indirect Cellular ELISA)を用いるJAA-F11での、腫瘍細胞系統におけるTF-Agの検出を示す。かかる試験を行うために、5つのマウス癌細胞系統を試験した。4T1(ATCC番号:CRL-2539)およびJC(ATCC番号:CRL-2116)は共にBALB/c株乳腺癌由来である。4T1細胞系統は、ステージIVのヒト乳癌のための動物モデルである(35-37)。BALB/cマウスに注入した時、4T1は、一次腫瘍がインサイチュで増殖している間に、肺、肝臓、リンパ節および脳に転移し得る高転移性の腫瘍を自発的に生じる(35-37)。JCも、BALB/cマウスで腫瘍を生じ得る (38)。骨髄腫(ATCC番号:CRL-1580)はJAA-F11ハイブリドーマを作製するための融合パートナーであり(21)、TG-Ag-ネガティブ対照細胞系統として用いられた。LL(ATCC番号:CRL-1642)はこれもマウスからのルイス肺腺癌細胞系統である(39-40)。RIF細胞系統は照射誘導性線維肉腫である。LLのための培養培地〔4mMのL-グルタミンと1.5g/Lの二炭酸ナトリウムと4.5g/Lのグルコース(90%)+10%FBSを含むダルベッコの変更イーグル培地(DMED)〕を除き、他の4つの細胞系統は、2mMのL-グルタミンと1.5g/Lの二炭酸ナトリウム、4.5g/Lのグルコース、10mMのHEPESおよび1.0mMのピルビン酸ナトリウム(90%)+10%FBSを含むRPMI1640培地で増殖させた。
【0033】
単一細胞懸濁液を回収および調製するために、4T1、JC、LLおよびRIFを、フラスコからの除去のためにトリプシン処理した。細胞懸濁液を3セットの5mlチューブに入れた。4パーセントのホルムアルデヒドを添加し、20分間インキュベートして細胞を固定した。チューブを遠心分離し、上清をデカントした。PBS-トウィーン-1%BSAを各チューブに戻し添加し、固定された細胞が乾燥するのを防いだ。固定された細胞を含むチューブを4℃で一晩または2週まで貯蔵した。ペルオキシダーゼ結合免疫アッセイをチューブ中で行った。異なるJAA-F11抗体希釈物を各チューブに添加し、2時間37℃でインキュベートした。インキュベーション後、チューブを3回3mlの洗浄バッファー(PBS-トウィーン、アジドなし)で洗浄した。PBS-トウィーン-1%BSA中1:2000での抗-マウスIgG(γ-鎖特異的)ペルオキシダーゼ結合物を各チューブに添加し、1時間RTでインキュベートし、3回洗浄した。O-フェニレンジアミンジヒドロクロライド(シグマ、セントルイスMO)を添加し、1時間後、100μlのストップ(1N H2SO4)を各チューブに添加した後、10分間1200rpmで遠心分離した。その200μlをマイクロタイタープレート中の各ウェルに移し、当該プレートをマイクロプレートリーダーにて490nmで、未反応基質のウェルをリーダーを照準に合わせるためのブランクとして用いて記録した。
【0034】
JCおよび4T1(乳癌)およびLL(肺癌)細胞系統はポジティブであると予測され、RIF(線維肉腫)細胞系統およびM(骨髄腫)細胞系統をネガティブ対照として用いた。かかる細胞に対する種々の濃度のJAA-F11 mAbの結合を測定した。図3に示す結果は、5つの異なるJAA-F11希釈物での5つのマウス癌細胞の反応性を示す。JAA-F11との反応は線形であった。この反応は細胞数に対しても線形であった(データは示さず)。骨髄腫細胞は予測通り、TF-Ag発現に関してネガティブであることが示された。
これらの結果は、mAb JAA-F11を、TF-Agを発現する癌細胞に選択的に結合させるために使用でき、乳癌細胞(4T1およびJC)および肺癌細胞(LL)細胞がTF-Agの非常に高いエクスプレッサーであることを示す。
【0035】
[実施例4]
本実施例は、細胞増殖におけるモノクローナル抗体JAA-F11の影響を示す。腫瘍細胞の増殖におけるJAA-F11の直接的な影響を調べるために、インビトロ増殖分析を行った(41-42)。4T1、ルイス肺、JC、RIFおよび骨髄腫細胞を実施例3に記載のごとく増殖させた。細胞を、72時間で増殖曲線の線形部分にある濃度で播いた。50μg/mlのJAA-F11 mAbを同時培養のために8ウェルの細胞の各々に添加した。Abを含まず培養培地のみの培養培地中の細胞をネガティブ対照として用いた。96ウェルプレート中での37℃、5%CO2での細胞増殖の68時間後、10μlのテトラゾリウム塩3-[4,5-ジメチルチアゾール-2-イル]-2,5-ジフェニル-テトラゾリウムブロマイド:チアゾイルブルー(MTT)を培養プレートの各ウェルに添加し、プレートを、72時間の全増殖時間のために4時間インキュベーターに戻した(41-42)。72時間のインキュベーション期間の終わりに、各ウェル中で生じた不溶解性のホルマザン生成物を、120μlの、イソプロパノール中5%の蟻酸を、強く混合しながら添加することにより溶解した。各ウェルのアブソーバンスを、ミクロプレートリーダーで570nmで、細胞の代謝活性の指標として測定した。
【0036】
アッセイを行った後、3日の別日に、各日8セットにて平均光学密度(O.D)を得た。JAA-F11を用いた細胞増殖の平均を、JAA-F11を用いない細胞増殖と統計学的に比較した。JAA-F11の存在のための細胞増殖の統計学的に有意な低下が、実施例3においてTF-Agポジティブであると見出された細胞系統、即ち4T1、JC、LLおよびRIF(p<0.05)で認められたが、TF-Agネガティブ骨髄腫細胞では認められなかった。これらの結果を表4にまとめる。結果は、JAA-F11 mAbと共に増殖している細胞の量を、JAA-F11 mAbを用いずに増殖させた細胞の同様の数との比較として示す。
つまり、本実施例は、インビトロ腫瘍増殖を高めるTF-Agに対する他のAbsとは異なり、JAA-F11が、インビトロでの腫瘍細胞の増殖において統計学的に有意な阻害効果(約20%、p<0.01、これは細胞タイプにより異なる)を有することを示す。
【0037】
[実施例5]
本実施例では、モノクローナル抗体JAA-F11のインビボ抗-転移効果を示す。かかる試験を行うために4T1マウス乳癌モデルを用いた。4T1腫瘍細胞系統は、それをヒト乳癌のための適当な試験動物モデルとするいくつかの特徴を有する。まず、4T1腫瘍細胞はTF-Agポジティブであり、乳腺に容易に移植され、つまり、一次腫瘍がインサイチュで増殖し得、転移が容易に展開する。一次腫瘍は手術により除去でき、そのために、一次乳癌腫瘍が手術により除去され、かつ、転移性病巣が完全なままである臨床状況に匹敵するモデルにおいて、転移性疾患を研究することができる。
【0038】
4T1腫瘍細胞を2mMのL-グルタミン、1.5g/Lの二炭酸ナトリウム、4.5g/Lのグルコース、10mMのHEPESおよび1.0mMのピルビン酸ナトリウム(90%)+10%FBSを含むRPMI1640培地を用いて37℃、5%CO2組織培養インキュベーター中で培養した。培養物を標準のトリプシン処理プロトコルを1週間に2〜3回用いて分裂させ、移植前の1ヶ月以上、インビトロで増殖させなかった。先の試験に従い、マウス毎1×104の生存能力のある腫瘍細胞を選択して、腫瘍の発生が100%であるが、腫瘍の負荷がAb処置のために大きすぎないことを確認した(35-37)。
【0039】
100μlの、105個の生存能力のある細胞/mlの4T1細胞懸濁液を、8週齢の雌のBALB/cマウスの右腹部乳腺に皮下接種した。4T1腫瘍細胞の移植後3日目に、20匹のマウスを無作為に2群に分け、処置としての精製JAA-F11 mAb(120μg/100μl/マウス)または対照としてのPBSを週に2回腹腔内に受容させた。
【0040】
4T1腫瘍を移植後14日目に、一次乳癌腫瘍を手術で除去した。マウスの体重を測定し、処置マウスと対照マウスの間で体重の喪失率を比較した。グルーミングの欠如、荒れた皮、速くて苦しそうな呼吸、および敏感性の喪失等の臨床症状をモニターし、罹病のインジケーターとして、記録および使用した。体重の喪失が20%に達した時、または有意な罹病が生じた時に、マウスを屠殺した。日々の観察を、研究者と動物の飼育者の両方により行った。生存時間をカプラン-マイヤー生存曲線(MedCalc)を用いて分析した。目的の器官(一次腫瘍、肺、肝臓、脾臓、リンパ節および脳)を回収し、免疫組織学的染色を行った。簡単には、選択された組織を、当該標本の少なくとも20倍の体積を有するZ-定着剤(亜鉛ホルマリン:ホルムアルデヒド3.7%、硫酸亜鉛、ヒストロジー・コア・ラブより入手)中で固定した。24時間後、固定された組織を組織学サービス研究所(Histology Service Laboratory)に送り、パラフィン包埋し、セクションに切断し、スライドガラスに載せた。ペルオキシダーゼ-結合M.O.M.免疫検出キット(ベクター・ラブズ、バーリンゲイムCA)を、我々の動物試験からの一次腫瘍および転移性病変におけるTF-Agの発現を検出するために行った。組織セクションを、標準的なプロトコルを用いて脱パラフィン化し、再水和した。内因性ペルオキシダーゼ活性を、組織セクションを水道水中3%の過酸化水素と共に5分間インキュベートすることにより遮断した。セクションを2分間PBS中で洗浄した。M.O.Mキットを、前記一次抗体ステップで用いたM.O.M.希釈剤中の精製JAA-F11抗体(0.24mg/ml)と共に、指示通り1時間用いた。
【0041】
一次腫瘍除去後のインビボ免疫治療のために、40匹のマウスを用い、20匹に対照としてのPBSを受容させ、20匹にJAA-F11を受容させた。移植後14日目に一次乳癌を手術で除去した。マウスの体重変化を週2回測定し、体重の喪失が20%に達した時または有意な罹病が生じた時に、マウスを屠殺した。
【0042】
生存時間を記録し、図5に示す。これらのデータをカプラン-メイアー生存曲線(MedCalc)により分析した。PBSとJAA-F11群のメジアン生存時間は各々57および72日であった。差は有意であった(P=0.05)。JAA-F11処置群の動物はPBS対照群よりも有意に長く生きた。一次腫瘍、肺、肝臓、脳、および脾臓等の目的の器官を採取した。転移性の病変が、両群からのマウスのリンパ節、肋骨、心膜、および肺で見出された。
【0043】
さらに、JAA-F11処置マウスは、その肺において、有意に少数の著しく明らかな転移性の病変を有し、図6に示す典型的な肺を有した。肺において著しく目に見える転移性の病変の数を数えた後、肺における転移レベルを4つの群に分類した(表1)。カイ二乗検定(MedCalc)を行って、PBSおよびJAA-F11群からの肺における転移レベルの頻度が有意に異なるかどうかを検出した。表1に認めることができるように、JAA-F11群とPBS群の間の差は有意である(P=0.0155)。JAA-F11処置を受容したマウスは、PBS対照を受容したものより肺への転移が少なかった。腫瘍転移に関して著しくネガティブな肺を、転移性病変を有するいくつかの肺との盲検で、病理学者により小転移に関して試験した。PBS対照群「転移が観察されなかった群」の2匹のマウスの中の1匹は組織学的に顕著な腫瘍小塊を有したが、他は有さなかった。「転移が観察されなかった」JAA-F11群から回収した肺の10/19セットの内、2匹が腫瘍負荷のために死んだマウス由来のものであり、これらは腫瘍の顕微鏡的証拠を有した。試験終了時に疾患の証拠を有さなかった8匹のマウスからの肺は、その肺において疾患の組織学的証拠を有さず、つまり、それらは組織学的断片化により分析されるように、腫瘍の発生に関してネガティブであった。つまり、JAA-F11は当該処置を受容したマウスの生存を有意に延長し(図5)、肺への転移を阻害する(P=0.016)(図6および7、および表1)。
【0044】
【表1】

【0045】
概して、本明細書中に記載するインビトロおよびインビボ試験は、mAb JAA-F11の投与によりヒト癌細胞転移のモデルにおいて細胞接着が阻害され得ること、mAb JAA-F11が肺への転移を有意に阻害し得、および、4T1乳癌細胞の移植および一次腫瘍の切開後のマウスの生存を延長できることを示す。これは、JAA-F11 mAbの投与が2つの方法で治療的に有用であることを示す。:1)腫瘍細胞の、従来の抗体媒介性の選択的抹殺によるもの、および2)内皮その他においてレクチン接着に対してTF-Agをブロッキングすることにより、腫瘍細胞が転移する能力を低下させることによるもの。
【0046】
本発明を前記実施例により記載した。本明細書中に示す方法および組成物に対する常套の変更が当該分野の専門家に明らかであり、本明細書に添付する請求項の範囲内にあることが意図される。
【0047】
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【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、JAA-F11に結合するのに重要であると決定されたTF-Agの領域を図示する。
【図2】図2は、内皮への乳癌細胞の接着におけるJAA-F11の阻害効果を立証する結果を図示する。試験結果は、MDA-MB-435転移性ヒト乳癌腫細胞系統の内皮への接着におけるJAA-F11の阻害効果を示した。図2Aおよび2Bでは、固定接着試験における、HUVEC単層(図2A)およびヒト骨髄内皮細胞HBMEC-60(図2B)への接着の阻害を示す。図2Cでは、エキソビボで灌流された豚硬膜の十分に区別化された微細血管中でのMDA-MB-435のローリングにおけるJAA-F11の効果を示す。グラフで、はP<0.05を、**はP<0.01を各々示す。
【図3】図3は、全細胞間接酵素免疫アッセイ(EIA)からの結果を図示したものであり、5つの異なるJAA-F11希釈での5つのマウス癌細胞の反応性を示す。これにより、4T1およびJC細胞がTF-Agの最高のエクスプレッサーであり、LLおよびRIFがそれに続き、骨髄腫細胞はTF-Agの発現に関してネガティブかまたは非常に低いことが立証される。
【図4】図4は、MTTアッセイ(41-42)において、抗体を用いずに増殖させた細胞に対する、JAA-F11抗体と共に増殖させた細胞からの結果を図示したものである。細胞系統4T1、JC、ルイス肺およびRIF(全てTF-Ag+)は、アスタリスクで示すように増殖の有意な阻害を示すが、対照細胞(骨髄腫)は増殖阻害を示さない。
【図5】図5は、マウス(グループ1:PBS対照;グループ2:JAA-F11処置)を用いるインビボ試験から生じたカプラン-メイヤー生存曲線からの結果を図示する。結果は、JAA-F11での処置に、有意な(p=0.05)生存上の利益があることを示す。
【図6】図6は、PBS処置およびJAA-F11処置マウスからの肺の写真である。図6Aは、PBS対照群におけるマウスからの肺を示し、図6Bは、JAA-F11群のマウスからの肺を示す。矢印は転移性病巣を示す。写真は、JAA-F11処置マウスの肺において、目に見える転移性病巣の数の有意な低下があることを示す。
【図7】図7は、PBS処置およびJAA-F11処置マウスからの転移結果の阻害を図示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TF-Ag分子を発現している細胞の転移を阻害するのに十分な量のモノクローナル抗体JAA-F11またはそのフラグメントを個人に投与して、前記TF-Ag分子を発現している細胞の転移を阻害することを含む、TF-Ag分子を発現している細胞の転移を個人において阻害するための方法。
【請求項2】
前記フラグメントがFab、Fab'、F(ab')2およびFvから成る群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
TF-Ag分子を発現している前記細胞が乳癌細胞、肺癌細胞、前立腺癌細胞および膵臓癌細胞から成る群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記モノクローナル抗体JAA-F11がヒト化されたものである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記モノクローナル抗体JAA-F11が毒素および放射性アイソトープから成る群から選択される剤に結合されている請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記毒素がジフテリアA鎖およびリシンA鎖から成る群から選択される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記放射性アイソトープがI123、I125、I124およびI131から成る群から選択される請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記モノクローナル抗体JAA-F11が化学療法剤と同時に、または連続的に投与される請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記モノクローナル抗体JAA-F11が非経口、皮下、腹腔内、静脈内、リンパ内および肺内投与から成る群から選択される経路により投与される請求項1に記載の方法。
【請求項10】
個人において転移性病巣または1以上の腫瘍を同定するための方法であって、前記転移性病巣または前記1以上の腫瘍がTF-Agを発現している細胞を含み、
a)検出可能な標識に結合されたモノクローナル抗体JAA-F11を個人に投与するステップ、および、
b)前記検出可能な標識を検出して、前記転移性病巣または1以上の腫瘍を同定するステップ、
を含む方法。
【請求項11】
前記検出可能な標識がヨウ素123、ヨウ素131、ヨウ素124、インジウム111およびフッ素19から成る群から選択される請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記検出可能な標識の検出を磁気共鳴画像処理または単一光子放射型コンピュータ断層法により行う請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記1以上の腫瘍または前記転移性病巣が乳癌細胞、肺癌細胞、前立腺癌細胞および脾臓癌細胞から成る群から選択される請求項10に記載の方法。
【請求項14】
TF-Agを発現している癌細胞の増殖を個人において阻害するための方法であって、前記癌細胞の増殖を阻害するのに十分な量のモノクローナル抗体JAA-F11またはそのフラグメントを前記個人に投与して、前記癌細胞の増殖を阻害することを含む方法。
【請求項15】
前記フラグメントがFab、Fab'、F(ab')2およびFvから成る群から選択される請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記TF-Ag分子を発現している細胞が乳癌細胞、肺癌細胞、前立腺癌細胞および脾臓癌細胞から成る群から選択される請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記モノクローナル抗体JAA-F11がヒト化されたものである請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記モノクローナル抗体JAA-F11が毒素および放射性アイソトープから成る群から選択される剤に結合されている請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記毒素がジフテリアA鎖およびリシンA鎖から成る群から選択される請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記放射性アイソトープがI123、I125およびI131から成る群から選択される請求項5に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6(a)】
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【図6(b)】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−507584(P2008−507584A)
【公表日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−523692(P2007−523692)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【国際出願番号】PCT/US2005/026317
【国際公開番号】WO2006/012616
【国際公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(506194117)ザ リサーチ ファウンデイション オブ ステイト ユニバーシティー オブ ニューヨーク (11)
【Fターム(参考)】