説明

抗がん剤の作用増強剤

【課題】本発明の目的は、抗がん剤の作用増強剤や、抗がん医薬組成物や、かかる抗がん剤の作用増強剤が増強効果を示す抗がん剤の判定方法を提供することを目的とする。
【解決手段】一般式(1)
NCHCOCHCHCOR (1)
[式中、R及びRは各々独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基又はアラルキル基を示し;Rはヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基又はアミノ基を示す。]
で表される5−アミノレブリン酸類又はそれらの塩を利用すること等を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗がん剤の作用増強剤や、抗がん医薬組成物や、かかる抗がん剤の作用増強剤が増強効果を示す抗がん剤の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がん(悪性腫瘍)は日本における最大の死因となっており、日本国民の2人に1人が罹患すると言われている。また、他の先進国においても、がんは死因の上位にランクされている。そのため、がんの有効な治療法の開発は、日本国民を始め、世界の人々にとっての悲願である。しかし、がんは患者自身の細胞であるため、副作用を伴わずに、がんを効果的に治療し得る有効な治療剤や治療方法の開発は容易ではなく、未だ十分な治療剤や治療方法は得られていない。
【0003】
現在行われているがんの治療方法としては、外科的治療、放射線治療、化学療法、免疫療法等がある。中でも、抗がん剤を利用した化学療法は広く用いられている。しかし、抗がん剤の多くは、がん細胞だけでなく、正常な細胞にまで傷害を及ぼすため、副作用が多いという問題点がある。抗がん剤を長期間投与すると、吐き気、嘔吐、下痢、頭痛、脱毛等の副作用が重篤化し、患者のQOL(生活の質)は著しく低下する。抗がん剤の抗がん作用を得つつも、その副作用をできるだけ減少させる方法として、作用機序の異なる2剤あるいは3剤以上を組み合わせた多剤併用療法(例えば、特許文献1参照)などが行われている。
【0004】
また、抗がん剤の別の問題点として、がん細胞の抗がん剤耐性が挙げられる。かかる抗がん剤耐性には、がん細胞がもともと有している抗がん剤への自然耐性や、長期にわたる抗がん剤投与により獲得する獲得耐性が含まれているが、これらの抗がん剤耐性は、がん患者の予後にも大きな影響を及ぼしていると考えられ、がんの治療戦略上、非常に考慮すべき問題である。そのため、がん細胞が薬剤耐性を獲得する機構についての研究がこれまでになされ、その機構が非常に多彩かつ巧妙であることが示されてきた。
【0005】
例えば、ABCトランスポーターファミリーのMDR1(multidrug resistance gene 1) は、薬剤感受性の培養細胞で発現させた場合、構造や作用機序が異なる複数の薬剤において耐性獲得に関与すること(非特許文献1)、臨床上においてもがん組織での発現と多剤耐性との関連があること(非特許文献2)が知られている。同じくABCトランスポーターの一つであるABCG2(ATP-binding cassette, sub-family G, member 2)は、乳がん耐性タンパク質(breast cancer resistant protein:BCRP)とも呼ばれるが、抗がん剤の膜輸送機能を持ち化学療法の耐性因子の一種として知られている。このABCG2トランスポーターは、癌幹細胞に特に多く発現しており、薬剤耐性をもつ腫瘍の有効な治療ターゲットとして注目されてきた。
【0006】
ところで、5−アミノレブリン酸(5−ALA)は、アミノ酸の一種であり植物の葉緑素や動物の血液中のヘムなどに必須なポルフィリン類の唯一の原料となる物質である。5−アミノレブリン酸は、動物においては、順に、ポルフォビリノーゲン、ヒドロキシメチルビラン、ウロポルフィリノーゲンIII、コプロポルフィリンIII、プロトポルフィリノーゲンIX、プロトポルフィリンIXへと代謝され、プロトポルフィリンは鉄イオンを配位してヘムとなり、ヘムはグロビンと結合してヘモグロビンとなることが知られている。
【0007】
前述のABCG2トランスポーターは、プロトポルフィリンIXを基質の1つとしており、ABCG2を欠失させると、細胞内にプロトポルフィリンIXが蓄積することや(非特許文献3〜4参照)、プロトポルフィリンIXからヘムへの反応はミトコンドリア内で行われ、プロトポルフィリンIXはABCG2を介して細胞質へ排出され得ることも知られている(非特許文献5参照)。さらに、5−アミノレブリン酸は、細胞質内においてポルフォビリノーゲンを経由しコポルフォビリノーゲンIIIに代謝された後、ABCB6を介してミトコンドリア内に取り込まれることが知られている(非特許文献6参照)。また、特許文献2には、メシル酸イマチニブやゲフィチニブ等のチロシンキナーゼ阻害剤(抗がん剤の1種)が、ABCG2トランスポーターによるそれらの抗がん剤の排出を阻害することや、かかるチロシンキナーゼ阻害剤を用いて光感作物質(5−アミノレブリン酸誘導性のプロトポルフィリンIX等)の細胞内の蓄積を選択的に上昇させることによって、光線力学療法(PDT:Photodynamic Therapy)の治療効率を上昇させ得ることが記載されている。
【0008】
しかし、5−アミノレブリン酸と抗がん剤とを、PDTを介さずに併用することによって、かかる抗がん剤自体の抗がん作用を増強することは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】再表2008/081927号公報
【特許文献2】WO2008/008215国際公開パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Ueda K, et al,(1987)Proc Natl Acad Sci USA 84, 3004-3008.
【非特許文献2】Fojo AT, et al,(1987)Proc Natl Acad Sci USA 84, 265-269.
【非特許文献3】J. W. Jonker et al, (2007) Am J Physiol Cell Physiol 292, C2204-C2212.
【非特許文献4】S. Zhou et al, (2005) Blood 105, 2571-2576.
【非特許文献5】Tamura, A. et al, (2007) Drug Metabolism and Pharmacokinetics 22, No.6, 428-440.
【非特許文献6】Iqbal Hamza, (2006) ACS Chem. Biol., 1 (10), pp 627-629.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、抗がん剤の作用増強剤や、抗がん医薬組成物や、かかる抗がん剤の作用増強剤が増強効果を示す抗がん剤の判定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これまでに、本発明者らは、がん細胞における好気呼吸が正常細胞のそれと比較して低下していること見いだし、好気呼吸を司るシトクロムの前駆体である5−アミノレブリン酸ががんの治療に有効であることを見いだしている(特願2009−161657号参照)。また、がん細胞では好気呼吸が低下しているため、悪性度が高いがん細胞では特に、5−アミノレブリン酸を投与してもシトクロムが合成されず、該がん細胞中にシトクロムの前駆体であるプロトポルフィリンIXが蓄積する(特願2009−161657号参照)。
【0013】
本発明者らは、前述の背景技術に記載したような状況下、鋭意研究を行った結果、ABCG2トランスポーターの基質である抗がん剤と、5−アミノレブリン酸とを併用することによって、かかる抗がん剤の抗がん作用を増強し得ることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、
[1]一般式(1)
NCHCOCHCHCOR (1)
[式中、R及びRは各々独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基又はアラルキル基を示し;Rはヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基又はアミノ基を示す。]
で表される5−アミノレブリン酸類又はそれらの塩を含むことを特徴とする、ABCG2トランスポーターの基質である抗がん剤の作用増強剤や、
[2]抗がん剤が、メトトレキサート、ミトキサントロン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビスアントレン、エトポシド、ゲフィチニブ、イマチニブ、イリノテカン、トポテカン、SN−38、フラボピリドール、CI1033、タモキシフェンから選択されることを特徴とする上記[1]に記載の抗がん剤の作用増強剤に関する。
【0015】
また、本発明は、
[3]一般式(1)
NCHCOCHCHCOR (1)
[式中、R及びRは各々独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基又はアラルキル基を示し;Rはヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基又はアミノ基を示す。]
で表される5−アミノレブリン酸類又はそれらの塩と、ABCG2トランスポーターの基質である抗がん剤とを含むことを特徴とする抗がん医薬組成物や、
[4]抗がん剤が、メトトレキサート、ミトキサントロン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビスアントレン、エトポシド、ゲフィチニブ、イマチニブ、イリノテカン、トポテカン、SN−38、フラボピリドール、CI1033、タモキシフェンから選択されることを特徴とする上記[3]に記載の抗がん医薬組成物に関する。
【0016】
さらに、本発明は、
[5]次の(a)〜(d)の工程を含むことを特徴とする、抗がん剤の作用増強剤が増強効果を示す抗がん剤の判定方法:
(a)前記[1]又は[2]に記載の抗がん剤の作用増強剤と、サンプル抗がん剤とを、対象がん細胞に接触させる工程:
(b)対象がん細胞に対する、サンプル抗がん剤の抗がん作用を測定する工程:
(c)上記工程(b)で測定した抗がん作用を、前記の作用増強剤を用いなかった場合の抗がん作用と比較する工程:
(d)上記工程(b)で測定した抗がん作用が、前記の作用増強剤を用いなかった場合の抗がん作用と比較して高いときに、かかるサンプル抗がん剤を、抗がん剤の作用増強剤が増強効果を示す抗がん剤と評価する工程:
に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ABCG2トランスポーターの基質である抗がん剤の抗がん作用を顕著に増強することができる。また、ヒトの正常細胞では、好気代謝が優先的に行われているので、投与した5−アミノレブリン酸はヘムやシトクロムまで代謝されるのに対し、がん細胞は嫌気代謝が優先的に行われているため、投与した5−アミノレブリン酸はヘムやシトクロムの前駆体であるプロトポルフィリンIXとしてがん細胞に蓄積する(前述の特願2009−161657号参照)。そのため、本発明の増強効果は、正常細胞よりも、がん細胞で特に強く得ることができる。その結果、従来よりも少ない抗がん剤の投与で、抗がん作用を得ることが可能となり、副作用を軽減させることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】5−アミノレブリン酸及びMKN45細胞を用いた薬剤感受性試験における阻害率(%)を表す図である。
【図2】5−アミノレブリン酸及びHT−1080/PEPT1#19細胞を用いた薬剤感受性試験における阻害率(%)を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.本発明の抗がん剤の作用増強剤
本発明の抗がん剤の作用増強剤(以下、単に「本発明の増強剤」とも表示する。)は、ABCG2トランスポーターの基質である抗がん剤の作用増強剤である。かかる本発明の増強剤としては、上記の一般式(1)で表される5−アミノレブリン酸類又はそれらの塩(以下、「本発明における5−アミノレブリン酸類等」とも表示する。)を含んでいる限り特に制限されず、上記の「抗がん剤の作用」とは、抗がん剤の抗がん作用を意味する。本発明の作用機序の詳細は不明であるが、本発明の増強剤を上記の抗がん剤と併用すると、5−アミノレブリン酸の代謝物質であるプロトポルフィリンIXが、ABCG2トランスポーターからの抗がん剤の排出を競争的(競合的)に阻害して、抗がん剤の細胞外への排出を抑制し、その結果、抗がん剤の抗がん作用が顕著に増強される(以下、「本発明の増強効果」とも表示する。)ものと考えられる。さらに、ヒトの正常細胞では、好気代謝が優先的に行われているので、投与した5−アミノレブリン酸はヘムやシトクロムまで代謝されるのに対し、がん細胞は嫌気代謝が優先的に行われているため、投与した5−アミノレブリン酸はヘムやシトクロムの前駆体であるプロトポルフィリンIXとしてがん細胞に蓄積する(前述の特願2009−161657号参照)。そのため、本発明の増強効果は、正常細胞よりも、がん細胞で特に強く得ることができる。その結果、より少ない抗がん剤の投与でより高い抗がん作用を得ることが可能となり、副作用を軽減させることもできる。
【0020】
上記の一般式(1)中、R及びRは各々独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基又はアラルキル基を示す。
【0021】
上記アルキル基としては、炭素数1〜24の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数1〜18のアルキル基、特に炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。かかる炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基等が挙げられる。
【0022】
上記アシル基としては、炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖のアルカノイル基、アルケニルカルボニル基又はアロイル基が好ましく、特に炭素数1〜6のアルカノイル基が好ましい。かかるアシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等が挙げられる。
【0023】
上記アルコキシカルボニル基としては、総炭素数2〜13のアルコキシカルボニル基が好ましく、特に炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基が好ましい。かかるアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基等が挙げられる。
【0024】
上記アリール基としては、炭素数6〜16のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0025】
上記アラルキル基としては、炭素数6〜16のアリール基と上記炭素数1〜6のアルキル基とからなる基が好ましく、例えば、ベンジル基等が挙げられる。
【0026】
上記の一般式(1)中、Rはヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基又はアミノ基を示す。
【0027】
上記アルコキシ基としては、炭素数1〜24の直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基が好ましく、より好ましくは炭素数1〜16のアルコキシ基、特に炭素数1〜12のアルコキシ基が好ましい。かかるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基等が挙げられる。
【0028】
上記アシルオキシ基としては、炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖のアルカノイルオキシ基が好ましく、特に炭素数1〜6のアルカノイルオキシ基が好ましい。かかるアシルオキシ基としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基等が挙げられる。
【0029】
上記アルコキシカルボニルオキシ基としては、総炭素数2〜13のアルコキシカルボニルオキシ基が好ましく、特に総炭素数2〜7のアルコキシカルボニルオキシ基が好ましい。かかるアルコキシカルボニルオキシ基としては、メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、n−プロポキシカルボニルオキシ基、イソプロポキシカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0030】
上記アリールオキシ基としては、炭素数6〜16のアリールオキシ基が好ましく、例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。アラルキルオキシ基としては、前記アラルキル基を有するものが好ましく、例えば、ベンジルオキシ基等が挙げられる。
【0031】
一般式(1)中、R1及びR2としては水素原子が好ましい。R3としてはヒドロキシ基、アルコキシ基又はアラルキルオキシ基が好ましく、ヒドロキシ基又は炭素数1〜12のアルコキシ基がより好ましく、メトキシ基又はヘキシルオキシ基が特に好ましい。
【0032】
一般式(1)中、R及びRが水素原子であり、Rがヒドロキシ基である化合物は5−アミノレブリン酸であり、特に好ましく挙げられる。5−アミノレブリン酸以外の5−アミノレブリン酸類(すなわち、5−アミノレブリン酸誘導体)の好適な例として、5−アミノレブリン酸メチルエステル、5−アミノレブリン酸エチルエステル、5−アミノレブリン酸プロピルエステル、5−アミノレブリン酸ブチルエステル、5−アミノレブリン酸ペンチルエステル、5−アミノレブリン酸ヘキシルエステル等の5−アミノレブリン酸エステルが挙げられ、特に5−アミノレブリン酸メチルエステル又は5−アミノレブリン酸ヘキシルエステルが好ましく挙げられる。なお、5−アミノレブリン酸のエステル体が、5−アミノレブリン酸と同様の生理的効果を示すことは、例えば特表平11−501914号公報に開示されている。
【0033】
5−アミノレブリン酸類の塩としては、特に制限されないが、薬学的に許容される無機酸又は有機酸の酸付加塩が好ましい。無機酸の付加塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等、有機酸の付加塩としては、酢酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、アスコルビン酸塩等が挙げられ、特に5−アミノレブリン酸塩酸塩又は5−アミノレブリン酸リン酸塩が好ましい。これらの塩は、化学合成、微生物や酵素を用いる方法のいずれの方法によっても製造できる。例えば、特開平4−9360号公報、特表平11−501914号公報、特開2006−182753号公報、特開2005−314361号公報、特開2005−314360号公報記載の方法が挙げられる。
【0034】
本発明の抗がん剤の作用増強剤における「抗がん剤」は、ABCG2トランスポーターの基質である抗がん剤(以下、「本発明における抗がん剤」とも表示する。)、すなわち、ABCG2トランスポーターにより細胞外への排出が促進される抗がん剤である。かかる抗がん剤としては、メトトレキサ−ト(N−[4−[[(2,4−ジアミノ−6−プテリジニル)メチル](メチル)アミノ]ベンゾイル]−L−グルタミン酸)、ミトキサントロン(5,8−ジヒドロキシ−1,4−ビス[[2−[(2−ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]アミノ]−9,10−アントラキノン)、ダウノルビシン((8S)−8−アセチル−10α−[(3−アミノ−2,3,6−トリデオキシ−α−L−lyxo−ヘキソピラノシル)オキシ]−7,8,9,10−テトラヒドロ−6,8α,11−トリヒドロキシ−1−メトキシ−5,12−ナフタセンジオン)、ドキソルビシン((8S,10S)−10−[(3−アミノ−2,3,6−トリデオキシ−α−L−lyxo−ヘキソピラノシル)オキシ]−8−グリコロイル−7,8,9,10−テトラヒドロ−6,8,11−トリヒドロキシ−1−メトキシ−5,12−ナフタセンジオン)、ビスアントレン(ビス(2−イミダゾレン−2−イルヒドラゾン)−9,10−アントラセンジカルボキシアルデヒド)、エトポシド((5R)−9α−[4−O,6−O−[(R)−エチリデン]−β−D−グルコピラノシルオキシ]−5,8,8aβ,9−テトラヒドロ−5β−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメトキシフェニル)フロ[3′,4′:6,7]ナフト[2,3−d]−1,3−ジオキソ−ル−6(5aαH)−オン)、ゲフィチニブ(N−(3−クロロ−4−フルオロフェニル)−7−メトキシ−6−(3−モルホリノプロポキシ)−4−キナゾリンアミン)、イマチニブ(N−[3−[[4−(3−ピリジニル)ピリミジン−2−イル]アミノ]−4−メチルフェニル]−4−[(4−メチルピペラジン−1−イル)メチル]ベンズアミド)、イリノテカン((4S)−4α,11−ジエチル−4β−ヒドロキシ−9−[(4−ピペリジノピペリジノ)カルボニルオキシ]−1H−ピラノ[3′,4′:6,7]インドリジノ[1,2−b]キノリン−3,14(4H,12H)−ジオン)、トポテカン(4α−エチル−4β,9−ジヒドロキシ−10−[(ジメチルアミノ)メチル]−1H−ピラノ[3′,4′:6,7]インドリジノ[1,2−b]キノリン−3,14(4H,12H)−ジオン)、SN−38(7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン)、フラボピリド−ル(rel−5,7−ジヒドロキシ−2−(2−クロロフェニル)−8−(1−メチル−3α−ヒドロキシピペリジン−4α−イル)−4H−1−ベンゾピラン−4−オン)、CI1033(6−アクリルアミド−N−(3−クロロ−4−フルオロフェニル)−7−(3−モルホリノプロポキシ)キナゾリン−4−アミン)、タモキシフェン(2−[p−[(Z)−1,2−ジフェニル−1−ブテニル]フェニルオキシ]−N,N−ジメチルエタンアミン)、それらの誘導体、及び、それらの塩をより好適に例示することができ、中でも、メトトレキサ−ト、ミトキサントロン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビスアントレン、エトポシド、ゲフィチニブ、イマチニブ、イリノテカン、トポテカン、SN−38、フラボピリド−ル、CI1033、タモキシフェン、及びそれらの塩をさらに好適に例示することができ、中でも、塩酸ドキソルビシン(ADM)、メトトレキサート(MTX)を特に好適に例示することができる。なお、特定の抗がん剤が、ABCG2トランスポーターの基質であるかどうかは、後述の「抗がん剤の作用増強剤が増強効果を示す抗がん剤の判定方法」により、容易に確認することができる。
【0035】
本発明の増強剤に含まれる、本発明における5−アミノレブリン酸類等の量としては、本発明の増強効果が得られる限り特に制限されないが、例えば、本発明の増強剤の全量に対して例えば0.0001〜99.9999質量%、好ましくは0.001〜80質量%、より好ましくは0.001〜50質量%、さらに好ましくは0.005〜20質量%を好適に例示することができる。
【0036】
本発明の増強剤は、本発明の増強効果が得られる限り、本発明における5−アミノレブリン酸類等の他に、抗がん剤の作用を増強する他の物質などの任意成分を含んでいてもよい。
【0037】
本発明における5−アミノレブリン酸類等は、常法によって適宜の製剤とすることができる。製剤の剤型としては散剤、顆粒剤などの固形製剤であってもよいが、簡便に使用し得る観点からは、溶液剤、乳剤、懸濁剤などの液剤とすることが好ましい。前述の液剤の製造方法としては、例えば本発明における5−アミノレブリン酸類等を溶剤と混合する方法や、さらに懸濁化剤や乳化剤を混合する方法を好適に例示することができる。以上のように、本発明における5−アミノレブリン酸類等を製剤とする場合には、製剤上の必要に応じて、適宜の担体、例えば、賦形剤、結合剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、緩衝剤、安定化剤、無痛化剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤、吸着剤、甘味剤、希釈剤などの任意成分を配合することができる。
【0038】
本発明の増強剤は、インビトロの系、インビボの系のいずれであっても、抗がん剤の作用を増強することができるが、インビボの系で使用する方法を好適に例示することができる。かかるインビトロの系で使用する方法としては、(a)対象細胞に、本発明の増強剤及び本発明における抗がん剤を接触させる工程を含む方法を例示することができ、上記工程(a)としては、(a1)対象細胞を本発明の増強剤に接触させた状態で、一定時間(好ましくは5分間〜25時間、より好ましくは10分間から15時間、さらに好ましくは3時間〜7時間、より好ましくは5時間)培養し、次いで、本発明における抗がん剤をさらに培地に添加して、対象細胞を一定時間(好ましくは1時間〜360時間、より好ましくは2時間〜180時間、さらに好ましくは40時間〜110時間、より好ましくは72時間)培養する工程をより好適に例示することができる。
【0039】
かかるインビトロの系における本発明の増強剤の使用量としては、本発明の増強効果が得られる限り特に制限されないが、対象細胞に接触させる培地中の濃度を、5−アミノレブリン酸類等換算で例えば0.1μM〜1000mM、好ましくは1μM〜50mMとすることを好適に例示することができる。
【0040】
本発明の増強剤をインビボの系で使用する方法としては、本発明の増強剤及び本発明における抗がん剤を対象へ投与する方法を好適に例示することができ、かかる投与方法としては、静脈内、筋肉内、動脈内等への注射投与;経口投与;経皮投与;経粘膜投与;経直腸投与;経腔投与;脳等への局所投与を例示することができ、中でも、静脈内、筋肉内、動脈内等への注射投与;経口投与;経皮投与を好適に例示することができる。本発明の増強剤の投与方法と、本発明における抗がん剤の投与方法とは、同じ方法であっても異なる方法であってもよい。また、本発明の増強剤と、本発明における抗がん剤とは、対象に同時に投与してもよいし、いずれかを先に投与してもよいが、より優れた本発明の増強効果を得る観点から、本発明の増強剤を先に投与し、本発明における抗がん剤を後で投与することを好適に例示することができ、中でも、本発明の増強剤を投与してから、4〜5時間経過後に本発明における抗がん剤を投与することをより好適に例示することができる。
【0041】
本発明の増強剤の投与量としては、本発明の増強効果が得られる限り特に制限されないが、本発明における5−アミノレブリン酸類等換算で成人1人1日当たり、好ましくは1mg〜10000mg、より好ましくは3mg〜3000mg、さらに好ましくは10mg〜1000mgを好適に例示することができる。本発明の増強剤の投与時間帯は特に制限されず、朝でも夕方でもよいが、投与量が多い場合は複数回に分けて投与する方がよい。
【0042】
前述の対象細胞の由来や、対象の生物種としては、哺乳動物を好適に例示することができ、ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、イヌ等を好適に例示することができ、中でもヒトをより好適に例示することができる。
【0043】
2.本発明の抗がん医薬組成物
本発明の抗がん医薬組成物としては、本発明における5−アミノレブリン酸類等と、本発明における抗がん剤とを含んでいる限り特に制限されない。前述したように、本発明における5−アミノレブリン酸類等を、本発明における抗がん剤と併用すると、かかる抗がん剤の抗がん作用が顕著に増強され、より少ない抗がん剤の投与でより高い抗がん作用を得ることが可能となる。
【0044】
本発明の抗がん医薬組成物に用いる、本発明における5−アミノレブリン酸類等や、本発明における抗がん剤については、前述の本発明の増強剤の場合と同様であり、また、本発明の抗がん医薬組成物の製剤化、使用方法、投与量等についても、前述の本発明の増強剤の場合と同様である。
【0045】
本発明の抗がん医薬組成物に含まれる、本発明における5−アミノレブリン酸類等の量としては、本発明における抗がん剤の抗がん作用を増強し得る限り特に制限されないが、例えば、本発明の抗がん医薬組成物の全量に対して例えば0.0001〜99.9999質量%、好ましくは0.001〜80質量%、より好ましくは0.001〜50質量%、さらに好ましくは0.005〜20質量%を好適に例示することができる。また、本発明の抗がん医薬組成物に含まれる、本発明における抗がん剤の量としては、抗がん作用を発揮し得る限り特に制限されないが、例えば、本発明の抗がん医薬組成物の全量に対して例えば0.0001〜99.9999質量%、好ましくは0.001〜80質量%、より好ましくは0.001〜50質量%、さらに好ましくは0.005〜20質量%を好適に例示することができる。
【0046】
本発明の抗がん医薬組成物に含まれる、本発明における5−アミノレブリン酸類等と、本発明における抗がん剤との重量比は特に制限されないが、例えば0.01:99.99〜99.99〜0.01を例示することができ、好ましくは0.1:99.9〜99.9:0.1を例示することができ、より好ましくは1:99〜99:1を例示することができる。
【0047】
本発明においてがんとは、悪性黒色腫(メラノーマ)、皮膚がん、肺がん、気管及び気管支がん、口腔上皮がん、食道がん、胃がん、結腸がん、直腸がん、大腸がん、肝臓及び肝内胆管がん、腎臓がん、膵臓がん、前立腺がん、乳がん、子宮がん、卵巣がん、脳腫瘍等の上皮細胞などが悪性化したがん・腫瘍や、筋肉腫、骨肉腫、ユーイング肉腫等の支持組織を構成する細胞である筋肉や骨が悪性化したがん・腫瘍や、白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫、バーキットリンパ腫等の造血細胞由来のがん・腫瘍などを挙げることができる。
【0048】
3.本発明の抗がん剤の作用増強剤が増強効果を示す抗がん剤の判定方法
本発明の抗がん剤の作用増強剤が増強効果を示す抗がん剤の判定方法(以下、単に「本発明の判定方法」とも表示する。)は、次の(a)〜(d)の工程を含むことを特徴とする。
(a)本発明の増強剤と、サンプル抗がん剤とを、対象がん細胞に接触させる工程:
(b)対象がん細胞に対する、サンプル抗がん剤の抗がん作用を測定する工程:
(c)上記工程(b)で測定した抗がん作用を、前記の本発明の増強剤を用いなかった場合の抗がん作用と比較する工程:
(d)上記工程(b)で測定した抗がん作用が、前記の本発明の増強剤を用いなかった場合の抗がん作用と比較して高いときに、かかるサンプル抗がん剤を、本発明の増強剤が増強効果を示す抗がん剤と評価する工程:
【0049】
上記工程(a)としては、本発明の増強剤と、サンプル抗がん剤とを、対象がん細胞に接触させる工程である限り特に制限されないが、例えば、対象がん細胞を培養する培地中に、本発明の増強剤と、サンプル抗がん剤とを添加することを例示することができる。上記の対象がん細胞としては、MKN45細胞株や、HeLa細胞株等のがん細胞株を例示することができる。上記のサンプル抗がん剤とは、本発明の抗がん剤の作用増強剤が増強効果を示すかどうかを調べる対象とする抗がん剤を意味し、抗がん剤である限り、特に制限なく用いることができる。
【0050】
上記工程(b)としては、対象がん細胞に対する、サンプル抗がん剤の抗がん作用を測定する工程である限り特に制限されない。抗がん作用の測定方法としては、例えば、対象がん細胞の生細胞数を測定する方法を好適に例示することができ、より具体的には、公知のMTT法やクリスタルバイオレット法を好適に例示することができる。抗がん剤を作用させた場合に、対象がん細胞の生細胞数の減少率又は増殖抑制率が高い場合を、抗がん作用が高いと評価することができ、逆に、抗がん剤を作用させた場合に、対象がん細胞の生細胞数の減少率又は増殖抑制率が低い場合を、抗がん作用が低いと評価することができる。
【0051】
上記工程(c)としては、上記工程(b)で測定した抗がん作用を、前記の作用増強剤を用いなかった場合の、そのサンプル抗がん剤の抗がん作用と比較する工程である限り特に制限されず、また、上記工程(d)としては、上記工程(b)で測定した抗がん作用が、前記の作用増強剤を用いなかった場合の、そのサンプル抗がん剤の抗がん作用と比較して高いときに、かかるサンプル抗がん剤を、抗がん剤の作用増強剤が増強効果を示す抗がん剤と評価する工程である限り特に制限されない。
【0052】
なお、本発明の他の態様として、本発明の増強剤又は本発明の抗がん医薬組成物の製造における、本発明における5−アミノレブリン酸類等の使用:や、本発明における5−アミノレブリン酸類等を、本発明の増強剤又は本発明の抗がん医薬組成物に使用する方法:や、抗がん剤の作用増強における、本発明における5−アミノレブリン酸類等の使用:や、がんの予防・治療における、本発明の抗がん医薬組成物の使用:や、本発明の増強剤と、本発明における抗がん剤とを対象に投与することにより、本発明における抗がん剤の抗がん作用を増強する方法:や、本発明の抗がん医薬組成物を対象へ投与することを特徴とする、がんの予防・治療方法も例示することができる。これらの使用や方法における文言の内容やその好ましい態様は、前述したとおりである。
【0053】
以下に実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定される
ものではない。
【実施例1】
【0054】
[薬剤感受性試験]
5−アミノレブリン酸を添加することによって、抗がん剤に対する感受性がどのような影響を受けるかを調べるために、クリスタルバイオレット法を利用した、以下のような薬剤感受性試験を行った。なお、クリスタルバイオレット法とは、クリスタルバイオレットが生細胞の細胞膜に入り込んで染色する性質を有していることを利用した方法で、生細胞のみを測定したい場合に一般的に用いられている方法である。
【0055】
(1)MKN45細胞を用いた薬剤感受性試験
まず、がん細胞株として、ヒト胃がん細胞株であるMKN45細胞を用意し、抗がん剤として、市販のメトトレキサート(MTX)を用意した。MKN45細胞を96ウェルプレートに5×10細胞/ウェルで播種した後、10%FBS培地で20時間培養した。次いで、5−ALAを各ウェルに最終濃度200μMとなるように添加して、5時間培養した後、段階希釈したMTXを各ウェルに添加し、10%FBS培地存在下で72時間培養した。なお、段階希釈したMTXの各濃度は、2.000、0.667、0.222、0.074、0.025、0.008、0.003μg/mLとした。また、コントロール群としてMTXを添加しなかったウェルも設けた。前述のように72時間培養した後、常法であるクリスタルバイオレット法を利用して、生細胞数を測定した。具体的には、以下のような手順で行った。
【0056】
5−ALA−PDT処置後72時間後に培地を除去し、PBS(−)溶液を200μLずつデカントし、0.5質量%のクリスタルバイオレット溶液を50μLずつ加え、室温で5分間反応させた。各ウェルからクリスタルバイオレット溶液を除去した後、流水で洗い、2%デオキシコール酸ナトリウム溶液200μLを添加し、室温で10分間放置した。その後マイクロプレートリーダーにて、各ウェルの620nmでの吸光度を測定した。その測定値からMKN45細胞の生細胞数を算出した。さらに、コントロール群におけるMKN45細胞の生存率を100%としたときの、各濃度のMTX添加群の生存率(%)を算出し、次いで、各濃度のMTX添加群の生存率(%)がコントロール群の生存率(100%)に対して低下した割合(%)を算出して、この低下した割合(%)を細胞生存阻害率(%)(以下、単に「阻害率(%)」と表示する。)とした。したがって、阻害率(%)の数値が大きいほど、抗がん剤の抗がん作用がより高く発揮されているといえる。
【0057】
各濃度のMTX添加群の阻害率(%)の結果を、図1の「MTX+ALA200」(▲)に示し、また、コントロール群の阻害率(%)の結果を、図1の「MTX+ALA0」(○)に示す。図1から分かるように、5−ALAを添加した場合(MTX+ALA200)は、5−ALAを添加しなかった場合(MTX+ALA0)と比較して、阻害率(%)が上昇し、抗がん剤への感受性が向上した。すなわち、5−ALAと抗がん剤を併用することにより、抗がん剤の抗がん作用が増強されることが示された。
【0058】
(2)HT−1080/PEPT1#19細胞を用いた薬剤感受性試験
5−ALAの抗がん剤に対する抗がん作用増強効果が、別の種類のがん細胞でも発揮されるかどうかを確認するために、前述のMKN45細胞を用いた試験(前述の実施例1(1)参照)において、がん細胞として、MKN細胞に代えてHT−1080/PEPT1#19細胞を用い、添加した5−ALAの最終濃度を、200μMに代えて400μMとしたこと以外は、前述の実施例1(1)の薬剤感受性試験と同様の試験を行った。各濃度のMTX添加群の阻害率(%)の結果を、図2の「MTX+ALA400」(▲)に示し、また、コントロール群の阻害率(%)の結果を、図2の「MTX+ALA0」(○)に示す。図2から分かるように、5−ALAを添加した場合(MTX+ALA400)は、5−ALAを添加しなかった場合(MTX+ALA0)と比較して、阻害率(%)が上昇し、抗がん剤への感受性が向上した。すなわち、他の種類のがん細胞株でも、5−ALAと抗がん剤を併用することにより、抗がん剤の抗がん作用が増強されることが示された。
【0059】
なお、HT−1080/PEPT1#19細胞は、以前、本発明者らが、H+駆動型ペプチドトランスポーターPEPT1を安定発現するベクター(ヒトPEPT1 cDNA発現ベクター)をヒト線維肉腫細胞株HT−1080にトランスフェクションして作製した細胞株である。参考までに、HT−1080/PEPT1#19細胞の作製方法を以下に記載する。
【0060】
(HT−1080/PEPT1#19細胞の作製方法)
1.ヒトPEPT1 cDNA発現ベクターの構築
プライマーとして、センスプライマーPEPT1−ATG(gccatgggaatgtccaaatcacacagtttc;配列番号1)、及び、アンチセンスプライマーPEPT1−stop−(catctgtttctgtgaattggcccctgacat;配列番号2)を用い、テンプレートして、ヒトのトータルRNAを用いたRT−PCR法により、PEPT1 cDNAを増幅した。このPEPT1 cDNAを、pEF6/V5-His-TOPO(登録商標)ベクター(インビトロジェン社製)に挿入して、pEF6 PEPT1-6xHisベクターを作製した。
【0061】
前述のpEF6 PEPT1-6xHisベクターのPEPT1配列を用いて、joining PCR法により、pEGFP N1ベクター(Clontech社製)のEGFPとの融合cDNAフラグメント(PEPT1−EGFP)を作製し、かかるフラグメントをpEF6/V5-His-TOPOベクターに再度挿入した。
なお、pEF6 PEPT1-6xHisベクターのPEPT1配列の増幅には、前述のセンスプライマーPEPT1−ATG、及び、アンチセンスプライマーpEF6−overlap−3’(cgcccttgctcaccatactcgagcggccgccactg;配列番号3)を用い、pEGFP N1ベクターのEGFP配列の増幅には、センスプライマーpEF6−overlap−5’(ggcggccgctcgagtatggtgagcaagggcgagga;配列番号4)、及び、アンチセンスプライマーGFP−3’−STOP+(ggccgctttacttgtacagctcgtccat;配列番号5)を用いた。また、これらの断片を融合させるためのjoining PCRでは、前述のセンスプライマーPEPT1−ATG、及び、アンチセンスプライマーGFP−3’−STOP+を使用した。これらの融合cDNAフラグメント(PEPT1−EGFP)をpEF6/V5-His-TOPOベクターに組み入れ、pEF6 PEPT1-EGFPベクターを作製した。
【0062】
pEF6 PEPT1-EGFPベクターを、KpnI及びPmeIにより切断し、その断片をpcDNA4(登録商標)myc-His-Aベクター(インビトロジェン社製)のKpnI−PmeIサイトにライゲーションして、pcDNA4 PEPT1-EGFPベクターを作製した。
【0063】
2.pcDNA4 PEPT1-EGFPベクターのHT−1080へのトランスフェクション
Fugene HD(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を利用して、ヒトPEPT1 cDNA発現ベクターであるpcDNA4 PEPT1-EGFPベクターを、ヒト線維肉腫細胞HT−1080にトランスフェクションした。トランスフェクションした細胞は、選択薬剤として25μg/mLのzeocin(インビトロジェン社製)を含む10%FBS添加RPMI−1640培地にて培養し、PEPT1−EGFPを安定して過剰発現する株(HT−1080/PEPT1#19)を選択した。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、抗がん剤の作用増強剤や、抗がん医薬組成物等のがん治療の分野や、抗がん剤の作用増強剤が増強効果を示す抗がん剤の判定方法の分野に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
NCHCOCHCHCOR (1)
[式中、R及びRは各々独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基又はアラルキル基を示し;Rはヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基又はアミノ基を示す。]
で表される5−アミノレブリン酸類又はそれらの塩を含むことを特徴とする、ABCG2トランスポーターの基質である抗がん剤の作用増強剤。
【請求項2】
抗がん剤が、メトトレキサート、ミトキサントロン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビスアントレン、エトポシド、ゲフィチニブ、イマチニブ、イリノテカン、トポテカン、SN−38、フラボピリドール、CI1033、タモキシフェンから選択されることを特徴とする請求項1に記載の抗がん剤の作用増強剤。
【請求項3】
一般式(1)
NCHCOCHCHCOR (1)
[式中、R及びRは各々独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基又はアラルキル基を示し;Rはヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基又はアミノ基を示す。]
で表される5−アミノレブリン酸類又はそれらの塩と、ABCG2トランスポーターの基質である抗がん剤とを含むことを特徴とする抗がん医薬組成物。
【請求項4】
抗がん剤が、メトトレキサート、ミトキサントロン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビスアントレン、エトポシド、ゲフィチニブ、イマチニブ、イリノテカン、トポテカン、SN−38、フラボピリドール、CI1033、タモキシフェンから選択されることを特徴とする請求項3に記載の抗がん医薬組成物。
【請求項5】
次の(a)〜(d)の工程を含むことを特徴とする、抗がん剤の作用増強剤が増強効果を示す抗がん剤の判定方法:
(a)請求項1又は2に記載の抗がん剤の作用増強剤と、サンプル抗がん剤とを、対象がん細胞に接触させる工程:
(b)対象がん細胞に対する、サンプル抗がん剤の抗がん作用を測定する工程:
(c)上記工程(b)で測定した抗がん作用を、前記の作用増強剤を用いなかった場合の抗がん作用と比較する工程:
(d)上記工程(b)で測定した抗がん作用が、前記の作用増強剤を用いなかった場合の抗がん作用と比較して高いときに、かかるサンプル抗がん剤を、抗がん剤の作用増強剤が増強効果を示す抗がん剤と評価する工程。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−12305(P2012−12305A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147334(P2010−147334)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【出願人】(508123858)SBIアラプロモ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】