説明

抗がん剤及び細胞分裂抑制方法

【課題】新たに見出したヒト胎盤由来のα−フェトプロテインの機能を用いた新規な抗がん剤及び細胞分裂抑制方法を提供する。
【解決手段】本発明の抗がん剤は、ヒト胎盤由来のα−フェトプロテインを有効成分とする抗がん剤である。α−フェトプロテインは肝臓がんのマーカーであることは公知のところであるが、非がん細胞性α−フェトプロテイン及び胎児性α−フェトプロテインが細胞分裂抑制機能を有することを見出し、発明を完成させた。本発明の抗がん剤及び細胞分裂抑制方法は、ヒト胎盤由来のα−フェトプロテインを用いるので副作用が少ない治療効果が期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん細胞の細胞分裂を抑制可能な抗がん剤及び細胞分裂を抑制する細胞分裂抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの身体は、約60兆個の細胞からなっている。これらの細胞は正常な状態ではその細胞数をほぼ一定に保ち、分裂・増殖しすぎないような制御機構が働いている。それに対しがん細胞は、生体の細胞がコントロールを失って無制限に増殖するようになった細胞である。がん細胞の細胞分裂を抑制するために、放射線治療、抗がん剤等が数多く開発され使用されている。しかしこれらの多くの方法はその副作用のため身体を痛め、副作用のない、がん細胞の増殖を特異的に抑制する効果的な治療薬の開発が世界的に切望され、鋭意研究開発が進められている。
【0003】
例えば、がん細胞中におけるがん・精巣タンパク質D40又はCASC5又は該がん・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質をコードする遺伝子の発現を抑制することによりがん細胞の増殖・分裂を阻止及び/又は誘導する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。また、副作用の極めて低い新しいタイプのがん治療方法の確立が期待できるものとして、カスパーゼ阻害物質を有効成分とする抗がん剤も提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0004】
肝臓がんの多くは、がん細胞膜表面にα−フェトプロテイン(以下、α−フェトプロテインをAFPと記す)がレセプターに結合して存在するため、このAFPに対して特異的に結合するモノクローナル抗体又はそのフラグメントにタイプ1リボソーム不活性タンパク質が結合したイムノトキシンからなる抗がん剤も開発されている(例えば特許文献3参照)。AFPに関しては、AFPレセプターの存在を利用し、がんを封じ込める方法も提案されている(例えば特許文献4参照)。さらにAFP産生腫瘍の治療及び診断に有用な抗体も報告されている(例えば特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−112724号公報
【特許文献2】特開2006−169242号公報
【特許文献3】特開平6−312942号公報
【特許文献4】特表平11−511847号公報
【特許文献5】特表2006−516086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
AFPは、胎生期にのみ肝臓で産生される主要血漿たんぱく質の1つであり、肝細胞ががん化・脱分化すると再度産生されることはよく知られ、肝臓がんのマーカーとして広く実用化されているが、胎児性AFPの機能は不明な点が多い。本発明者は、男性不妊症を誘発させたマウス精巣のプロテオーム解析、マウスを用いた肝部分切除(partialhepatectomy;以下PHと記す)/肝再生系実験及び培養細胞系実験を用いて非がん細胞性AFP及び胎児性AFPの機能を解明するために実験を進め、これらの実験結果から従来知られていなかったAFPの新たな機能を見出した。
【0007】
本発明は、新たに見出したヒト胎盤由来AFPの機能を用いた新規な抗がん剤及び細胞分裂抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、AFPの機能解明を目的とした研究を鋭意進めた結果、非がん細胞性のAFP及び胎児性AFPが細胞分裂抑制機能を持つことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、ヒト胎盤由来のAFPを有効成分とすることを特徴とする抗がん剤である。本発明の抗がん剤は、肝臓がんの抗がん剤として使用することができる。
【0010】
また本発明は、ヒト胎盤由来のAFPをリガンドとし、細胞表面に存在するレセプターにヒト胎盤由来のAFPを特異的に結合させ細胞分裂を抑制することを特徴とする細胞分裂抑制方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、新たに見出したAFPの機能を用いた新規な抗がん剤及び細胞分裂抑制方法を提供することができる。また、本発明の抗がん剤及び細胞分裂抑制方法は、ヒト胎盤由来のAFPを用いるので副作用が少ない治療効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】男性不妊症を誘発させたモデルマウス精巣の形態学的解析の実験結果を示す図であって、モデルマウスの精細管横断像、及び精上皮を示す図である。
【図2】男性不妊症を誘発させたモデルマウス精巣・血液精巣関門の機能解析の実験結果を示す図であって、モデルマウス精上皮基底部、及び血液精巣関門の電子顕微鏡所見である。
【図3】男性不妊症を誘発させたモデルマウス精巣のプロテオーム解析の実験結果を示す図であって、精上皮を構築する細胞のポピュレーションが同様であるモデルマウスと正常20日齢精巣の総タンパク質を二次元電気泳動法によるディファレンシャルディスプレイ解析の実験結果を示す図である。
【図4】男性不妊症を誘発させたモデルマウス精巣の生化学的解析の実験結果を示す図であって、モデルマウスAFP産生臓器とAFP発現量の変化を示す図である。
【図5】男性不妊症を誘発させたモデルマウス精巣の免疫組織化学的解析の実験結果を示す図であって、モデルマウス精巣におけるAFPの局在を示す図である。
【図6】マウスを用いたPH/肝再生系の実験結果を示す図であって、マウスの肝再生に及ぼすニメスリドの影響を示す図である。
【図7】マウスを用いたPH/肝再生系の実験結果を示す図であって、残余肝及び再生肝組織の光学顕微鏡写真である。
【図8】マウスを用いたPH/肝再生系実験の生化学的解析の実験結果を示す図であって、AFPの発現及び発現量の変化を示す図である。
【図9】本発明の実施例1におけるヒト胎盤由来のAFP添加によるHepG2細胞増殖抑制を示す実験結果である。
【図10】本発明の実施例1におけるヒト胎盤由来のAFP添加によるHepG2細胞のAFP遺伝子発現に及ぼす影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の抗がん剤は、ヒト胎盤由来のAFPを有効成分とする抗がん剤であり、ヒト胎盤由来のAFPの持つ細胞分裂抑制機能を用い、がん細胞の増殖を抑制するものである。肝臓がん・がん細胞が産生するAFPが、肝臓がんのマーカーであることは従来からよく知られていたが、非がん細胞性AFP及び胎児性AFPが細胞分裂抑制機能を持つことは全く知られていなっかた。今回、非がん細胞性AFPの機能を解明するための男性不妊症を誘発させたマウス精巣のプロテオーム解析、マウスを用いたPH/肝再生系実験結果より、非がん細胞性AFPが細胞分裂抑制機能を有すること、培養細胞実験系を用いた研究を通じ、胎児性AFPがヒト肝がん由来HepG2細胞増殖を抑制することを確認した。
【0014】
まず、男性不妊症を誘発させたマウス精巣のプロテオーム解析について説明する。35日齢C57BL/6J雄マウスを材料に用い、停留精巣手術を施した男性不妊症モデルマウス(以下、モデルマウス)を作製し、男性不妊症発症メカニズムを形態学的に解析した。
【0015】
図1は、男性不妊症を誘発させたモデルマウス精巣の形態学的解析を示している。図1中Aは、35日齢無処置正常精巣、図1中Bは、49日齢無処置正常精巣、図1中Cは、14日間腹腔内に精巣を停留させたモデルマウスの精細管横断像を示している。A、Bでは正常な精子発生が認められるが、Cでは精細管の萎縮、精上皮の菲薄化が顕著であり、成熟精子は認められなかった。菲薄化したモデルマウス精巣・精上皮を構築する細胞を同定するために、透過型電子顕微鏡を用いて観察した(図1中D)。モデルマウス精巣・精上皮を構築する細胞は精祖細胞(SPG)、精母細胞(SPC)およびセルトリ細胞(S)であり、これらはいずれも倍数体の細胞であり、モデルマウス精巣・精上皮には精母細胞以降の半数体に分化した生殖細胞は認められなかった。
【0016】
正常な精巣では、精上皮の基底面に近いレベルで、隣接するセルトリ細胞どうしが密着帯(tight junction)によってかたく結合している。この結合を血液精巣関門(blood−testing barrier)といい、血液精巣関門は精上皮を基底側と管腔側の区画に仕切っている。基底区画には精祖細胞が、管腔区画には精母細胞および減数分裂を終えた半数体の生殖細胞が分布する。血管から色素などを注入すると、血液精巣関門のレベルから管腔区画にはトレーサーが侵入しない。これは、減数分裂によって体細胞(倍数体)と異質になった生殖細胞(半数体)が非自己と認識されずに、正常な精子発生に必要不可欠なメカニズムとなっている。したがって、モデルマウス精上皮に精母細胞以降の半数体に分化した生殖細胞が認められなかった原因は、(1)血液精巣関門の機能不全、または(2)何らかによって精母細胞の減数分裂が抑制・停止されているのではないかと推察された。モデルマウス精巣・血液精巣関門の機能が正常であるか否かを確認するために、電子顕微鏡的トレーサー実験を行なった。
【0017】
図2は、モデルマウス精巣・血液精巣関門のトレーサー実験の結果を示す図である。図2中Aは、モデルマウス精上皮基底部の電顕所見を示している。精母細胞(SPC)とセルトリ細胞(S)との細胞間隙にトレーサーが侵入しており、精母細胞より上方、矢印の部分でトレーサーの侵入が阻止されている。図2中Bは、図2中Aの矢印部分の拡大像を示しており、tight junctionに特徴的なストランド(小矢印)も認められ、モデルマウス精巣・血液精巣関門の機能は正常であることが確認された。以上の形態学的解析によって、モデルマウス精巣では何らかによって精母細胞の減数分裂が抑制・停止されており、成熟精子が形成されないことより男性不妊症が発症することが示唆された。
【0018】
次いで、精母細胞の減数分裂を抑制・停止させる男性不妊症原因タンパク質を同定するために、モデルマウス精巣のプロテオーム解析を行なった。モデルマウス精上皮は精祖細胞、精母細胞およびセルトリ細胞の3種類の細胞で構築されていた。正常なマウス精巣では、20日齢精上皮には精母細胞が分化しており、モデルマウス同様に3種類の細胞で精上皮が構築される。そこで、精上皮を構築する細胞のポピュレーションが同様であるモデルマウスと正常20日齢精巣の総タンパク質を二次元電気泳動法によるディファレンシャルディスプレイ解析を行なった結果を図3に示した。モデルマウス(左)および正常20日齢(右)精巣の二次元マップを図3中aに示した。両者には共通して発現するタンパク質スポットが認められるが、モデルマウス精巣で特異的に発現が促進されるスポットI(72kDa)、II(26kDa)が確認された。
【0019】
次いで、それぞれのスポットをゲルから直接切り出し、質量分析によってそれぞれのスポットのアミノ酸配列を決定した(スポットIは、図3中bの下線で示した31アミノ酸、スポットIIは、図3中bの枠で囲った20アミノ酸)。このアミノ酸配列からスポットI、IIは、同一タンパク質であり、スポットIIは、スポットIの分解産物であることが示唆された。このアミノ酸配列をもとにデータベース検索を行なった結果、スポットI、IIは、マウスAFPと同定された(相同性100%)。尚、図3中bは、マウスAFPの全アミノ酸配列を示す。
【0020】
スポットIと同様な31アミノ酸合成ペプチドを作製し、ウサギに免疫し、常法にしたがってマウスAFPに対するポリクローナル抗体を作製し、生化学的解析を行なった。モデルマウスより8種類(脳、腎臓、骨格筋、心筋、小腸、肝臓、肺および精巣)の臓器を摘出して、常法にしたがって抗−AFP抗体を用いたWestern blottingを行なった。図4は、マウスAFP産生臓器とAFP発現量の変化を示す図である。この結果、モデルマウス精巣特異的にAFPが発現していることが確認された(図4中a、レーン8、矢印)。さらに、手術後一日おきにモデルマウスから採血を行ない、血清中のAFPを抗−AFP抗体を用いたDot blottingによってモニターした(図4中bにおいて、Nはネガティブコントロール、Cは無処置正常精巣、Pはポジティブコントロール、数字は手術後日数を示す)。以上の結果から、モデルマウスでは手術後2日目より血中にAFPが放出されることが確認された。手術後2日目では形態学的に殆ど精巣に変性が認められず、したがって、AFPは熱ショックに起因する男性不妊症バイオマーカーとして極めて有効であることが示唆された。
【0021】
次いで、精祖細胞、精母細胞およびセルトリ細胞の3種類の細胞で構築されたモデルマウス精上皮において、AFP産生細胞を同定するために抗−AFP抗体を用いた免疫染色を行なった。この結果、モデルマウス精上皮では精母細胞に特異的なシグナルが認められた(図5中a、矢印)。図5中bは、図5中aの隣接切片にヘマトキシレン・エオジン染色を施し、矢印で精母細胞を示している。
【0022】
以上の形態学的および生化学的解析の結果、モデルマウス精巣では精母細胞の減数分裂が抑制・停止されていることが示唆され、モデルマウスでは精巣特異的にAFPが産生され、AFPはモデルマウス精巣、精母細胞特異的に局在することが示された。生体におけるAFPの機能はほとんど解明されていないが、AFPが細胞分裂抑制・停止に関与する機能を有することが示唆された。
【0023】
次に新奇細胞増殖抑制シグナル経路の検索実験について説明する。肝再生には細胞増殖のみならず、過度の細胞増殖を抑制し正常な形態・機能を回復させる最終的なプロセスが必須であると考えられる。PHを行なうと、炎症性タンパク質であるcyclooxyganase−2(以下、COX−2と記す)が肝切除部に発現し、COX−2がプロスタグランジン(以下、PGと記す)を誘導し、PGが細胞増殖、すなわち肝再生が促進されることが報告されている。しかし、PG下流に存在する筈の過度の細胞増殖を抑制する細胞増殖抑制因子は不明である。上記男性不妊症を誘発させたマウス精巣のプロテオーム解析及び後述の実施例に示すヒト胎盤由来AFPの肝がん抑制機能の検証実験において、AFPが細胞分裂抑制機能を示唆する新知見を得ているので、PG下流にAFPが関与する細胞増殖抑制シグナル経路があると仮定し、PH/肝再生系を用い以下の実験を行なった。
【0024】
ICR雄マウス(35日齢)を材料に用い、麻酔下で肝重量約10%のPHを行なった。PH前2時間およびPH後異なる時間にCOX−2阻害剤・ニメスリド(SIGMA)を腹腔内投与した(10mg/kg)。これら投与群に対し、PHのみを施した個体の肝臓をコントロールとした。PH後6日目にマウスを麻酔下で開腹し、肝臓の肉眼観察および組織標本を作製した。さらに、抗−AFP抗体を用いて残余肝および再生肝におけるAFPの発現をWestern blot法を用いて解析した。
【0025】
図6は、肝再生に及ぼすニメスリドの影響を示す図である。PH前2時間(図6中A)およびPH後20時間までの1時間毎にニメスリドを投与した個体において、肝再生は完全に抑制された。一方、PH後24時間後にニメスリドを投与した個体約30%において肝臓は形態学的にほぼ完全に再生が完了されており(図6中B)、コントロール群、PH後14日(図6中C)に対し再生時間が著しく短縮された。図6中Aの矢印は、電気メスによる肝切除断端を示し、図6中B、Cの*印は肝再生部を示している。次に残余肝(図7中A)および再生肝組織(図7中B)を、光学顕微鏡を用いて観察した結果、肝再生部では幼弱な小型肝細胞が多数認められ、これらの有糸分裂像(図7中Bの矢印)も認められ、肝再生部では盛んな細胞増殖が行なわれていることが示唆された。
【0026】
次いで、PH後24時間後にニメスリドを投与した個体の残余肝および再生肝におけるAFPの発現・発現量の変化をwestern blot法によって解析した結果、PH術後1、2および6日後のいずれも再生肝にAFPの発現が認められ、AFP発現量はPH術後時間を経る程上昇する傾向が認められた(図8中矢印)。図8中Pは、ポジティブコントロール、DはPH術後日数を、Rは残余肝およびBは再生肝を示している。
【0027】
以上の結果より、肝がん等の疾病には起因しない生後生体でのPH/肝再生系にAFPが関与することがはじめて明らかとなった。さらに、PG下流にAFPが関与する細胞増殖抑制シグナル経路があると仮定し、ニメスリドによって間接的にAFP発現を抑制することによって肝臓は形態的にほぼ完全に再生され、かつ、コントロール群に対し再生時間が著しく短縮されたことから、AFPがPGの下流において細胞増殖抑制因子として機能する可能性が示唆された。また、AFPは再生初期の細胞増殖に関与するのではなく、AFPの発現量はPH術後時間を経る程、再生後期に上昇する傾向が認められたことからも、AFPがPGの下流において細胞増殖抑制因子として機能し、細胞増殖を抑制し正常な形態形成・再生を完了させているのではないかと推察された。
【実施例】
【0028】
実施例1
ヒト肝がん由来HepG2細胞(2×10個/ml)を3次元細胞培養ディッシュに播種し、無血清培地を用いて培養した。ヒト胎盤由来AFPを5mg/Lおよび10mg/L濃度で培養3日後培地に添加した。AFP添加7日後に、各群の細胞増殖活性をMTTアッセイ法によって定量した。さらに、HepG2細胞培養下における、HepG2細胞自身のAFP遺伝子発現を確認する目的で、HepG2細胞からtotal RNAの抽出、プライマー設計およびRT−PCR法の条件設定を行なった。ここで使用したヒト胎盤由来AFPは、コスモ・バイオ株式会社製のヒト胎盤由来のAFP(カタログNo.MO−AFP−P、ロット番号CR−02)であり、タンパク質濃度1.18mg/ml、溶媒は10mMホウ酸ナトリウム緩衝液(pH8.5)、150mM塩化ナトリウムである。
【0029】
MTTアッセイの結果から、AFP無添加・コントロール群に対しAFP 5mg/L添加群では約5%、さらにAFP 10mg/L添加群では約9%と有意(p<0.05)に細胞増殖抑制が認められた(図9)。したがって、胎児性AFPは、ヒト肝がん由来HepG2細胞の細胞増殖、すなわち細胞分裂を抑制することが示された。
【0030】
RT−PCR法によるHepG2細胞培養下におけるAFP遺伝子発現解析の結果、コントロール群、AFP 10mg/L添加群ともに約450bpにバンドが確認された(図10)。以上の結果より、培養液に添加した胎児性AFPは、HepG2細胞自身のAFP遺伝子発現を抑制することで細胞分裂を抑制するのではなく、メカニズムは不明であるが、添加した胎児性AFPがタンパク質レベルでHepG2細胞の細胞増殖、すなわち細胞分裂を抑制することが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト胎盤由来のα−フェトプロテインを有効成分とすることを特徴とする抗がん剤。
【請求項2】
対象とするがんが肝臓がんであることを特徴とする請求項1に記載の抗がん剤。
【請求項3】
ヒト胎盤由来のα−フェトプロテインをリガンドとし、細胞表面に存在するレセプターにヒト胎盤由来のα−フェトプロテインを特異的に結合させ細胞分裂を抑制することを特徴とする細胞分裂抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−16740(P2011−16740A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160912(P2009−160912)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年2月16日に発行された県立広島大学生命環境学部生命科学科卒業論文発表要旨に発表
【出願人】(507234438)公立大学法人県立広島大学 (24)
【Fターム(参考)】