説明

抗アポトーシス活性アプタマー

本発明は抗アポトーシス活性アプタマーに関する。対応する配列を示す。本発明は、とりわけ動脈硬化の治療、創傷の治癒促進、エイズ、癌、アルツハイマー病、全身性紅斑性狼瘡、関節リウマチおよびその他の慢性炎症性疾患の治療のための可能な治療用途および診断用途について記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗アポトーシス活性アプタマーに関する。対応する配列を示す。本発明は、可能な治療用途および診断用途について述べる。
【背景技術】
【0002】
特定の標的分子(抗原)に特異的に結合する核酸分子(いわゆるアプタマー)については、そのアプタマーの製造および単離方法と共に、既に最新技術で十分に述べられている。
【0003】
一本鎖ssDNAまたはssRNAからなるこのアプタマーは、対応する抗原に非常に高い親和性および特異性を有する。今までに、金属イオン、有機化合物、ペプチド、タンパク質、またはウイルスおよび細胞などの複合構造に対しても核酸リガンドが単離された(要旨記事:Goldら、Annu.Rev.Biochem.64(1995年)、763〜797頁;EllingtonおよびConrad、Biotechnol.Annu.Rev.1(1995年)、185〜214頁;Famulok、Curr.Opin.Struct.Biol.9(1999年)、324〜329頁)。
【0004】
したがって、アプタマーは、その空間的構造により特定の標的に特異的かつ高い親和性で結合することができるDNAまたはRNAからなる核酸である(Osborne,S.E.およびEllington,A.D.、(1997年)、「Nucleic Acid Selection and the Challenge of Combinatorial Chemistry.」、Chem Rev 97(2)、349〜370頁)。これまで数年にわたって、医学関連の標的タンパク質に対するいくつかのアプタマーが同定された。さらに今や、初めて治療目的および診断目的での核酸の利用が実際に開始されることに期待が寄せられている(Jayasena,S.D.(1999年)、「Aptamers:an emerging class of molecules that rival antibodies in diagnostics.」、Clin Chem 45(9)、1628〜1650頁、Cerchia,L.、Hamm,J.ら、(2002年)、「Nucleic acid aptamers in cancer medicine.」、FEBS Lett 528(1〜3)、12〜16頁)。この新しい発展の理由には、DNAまたはRNA分子の同定および適用が、今日でも多くの分野でまだ治療および診断を独占する抗体と比較して有する利点が含まれる。
【0005】
モノクローナル抗体を得る方法(Kohler,G.およびMilstein,C.、(1975年)、「Continuous cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity.」、Nature 256(5517)、495〜497頁)は、近代生物学および医学の多くの分野に大きな突破口を示した。医学研究において、これは診断分野で最も突出した役割を果たすが、その一方で個々の抗体も薬物として認可された。あるタンパク質が、例えば細胞表面上で、診断目的または治療目的に関して標的として同定され、a)その存在が診断目的で同定されるものか、もしくはb)その機能が治療目的で阻害されるものである場合、今日まで両方の場合で、モノクローナル抗体の開発が最も重要かつ/または最速の方法であった。低分子治療剤の開発は、まだ非常に長く面倒なプロセスである。抗体の同定および製造の不利点および制限がよく知られており(Jayasena 1999年)、例えば動物試験による一次免疫化の実行の必要性、数年にわたるハイブリドーマ細胞の有用性および再現性の問題、または抗体製造の高い作業負荷および莫大なコストなどである。
【0006】
特別に設計された実験条件下、例えば診断法に最適な条件下で、アプタマーを選択することができる(Jayasena 1999年)。タンパク質と異なり、不可逆的変性を受けず、いつでも温度により復元することができるため、アプタマーを長期にわたり貯蔵することができる。選択手順では、通常アプタマーを酵素的に合成する。しかし、より大規模な製造では化学的にも合成でき、したがってモノクロ−ナル抗体の製造と比較して、かなり改良された再現性で製造することができる(Jayasena 1999年)。
【0007】
DNAの安定化をもたらす修飾(Agrawal,S.(1996年)、「Antisense oligonucleotides:towards clinical trials.」、Trends Biotechnol 14(10)、376〜387頁)またはRNAの安定化をもたらす修飾(Pieken,W.A.、Olsen,D.B.ら(1991年)、「Kinetic characterization of ribonuclease−resistant 2’−modified hammerhead ribozymes.」、Science 253(5017)、314〜317頁;Ruckman,J.、Green,L.S.ら(1998年)、「2’−Fluoropyrimidine RNA−based aptamers to the 165−amino acid form of vascular endothelial growth factor(VEGF165).Inhibition of receptor binding and VEGF−induced vascular permeability through interactions requiring the exon 7−encoded domain.」、J Biol Chem 273(32)、20556〜20567頁)が核酸またはヌクレオチド前駆体の合成においてルーチン法として確立され、今日、臨床試験で最初のアプタマーを試験することが可能である(Eyetech Study Group(2002年)、「Preclinical and phase 1A clinical evaluation of an anti−VEGF pegylated aptamer(EYE001) for the treatment of exudative age−related macular degeneration.」、Retina 22(2)、143〜152頁)。
【0008】
アポトーシスは、一般に特定の生理学的状態または病態下において真核細胞で誘導される、遺伝的にコードされた「自殺プログラム」である。活動亢進が変性疾患をもたらし得るため、アポトーシスの誘導は極めて精密に調節されなければならない。一方、アポトーシス誘導の低下は、例えば腫瘍進行の原因となる可能性がある。
【0009】
様々な低分子アポトーシス誘導物質については既に述べられている。重要な物質類は腫瘍細胞増殖抑制剤である。しかし、これらの細胞増殖抑制剤または他の物質がアポトーシスを誘導する方法は、ほとんどの症例において知られていない。
【0010】
アポトーシスの誘導は、例えば一連のいわゆるデス(death)レセプター、すなわちそのリガンドに結合後にアポトーシスシグナル経路を誘導するCD95、TNF−RI、DR3、DR4またはDR5などの「デスドメイン」(DD)を含むレセプターを介して起こることが可能である。例えば、CD95リガンドに結合後、CD95レセプターはアダプタータンパク質FADD/MORT1と相互に作用し、それによりDISC「細胞死誘導シグナル複合体」でのプロテアーゼFLICE/カスパーゼ8の「採用」および活性化を誘導する。FADDおよびFLICEはそれぞれ「デスエフェクタードメイン」(DED)を含む。例えば、細胞毒性物質の投与、放射線、ウイルス、成長因子の離脱または力学的細胞損傷により、外部からこれらのアポトーシスシグナル経路を介してアポトーシスを誘導することも可能である。しかし、これらのアポトーシス誘導の可能性に伴い、特定の不利点が生じる。例えば、細胞増殖抑制剤などの毒素投与または癌細胞の放射線処理などは、耐性発現をもたらし、アポトーシス誘導を全く望まない正常な健康細胞を損傷させることが可能である。
【0011】
一般にアポトーシス誘導は、例えば癌の治療または血管新生プロセスの阻止など治療用に提案される。これに関して、誘導物質について既に述べられているが、多くの不利点もまだ示される。例えば、細胞増殖抑制剤には重度の副作用が伴う。
【0012】
アポトーシスが悪影響を与え、かつ適切な治療法がアポトーシスの阻害を含む病態も懸案事項である。
【0013】
このような病態の例は動脈硬化である。とりわけ発明者は、アポトーシス細胞が動脈硬化プラークを有する部位(特に内皮細胞、平滑筋細胞)で特に発生し、この発生が障害のあるフロー条件でさらに強まる、すなわち流量依存的であることを以前から示してきた(Freybergら、BBRC、286、141〜149頁、2001年)。
【0014】
また、創傷治癒にプラスの効果を得るのにアポトーシスを調節する物質を利用することができる。高レベルのアポトーシスに関連する懸案中のさらなる病態は、エイズ、癌およびアルツハイマー病、全身性紅斑性狼瘡、関節リウマチおよびその他の慢性炎症性疾患である。
【0015】
したがって、アポトーシスにプラスまたはマイナスの影響を与えることができる物質に対する多大な要望がある。本発明の意義では、アポトーシスを阻害するこのような物質が特に好ましい実施形態である。動脈硬化および創傷治癒で問題の要因因子としても考えられる流量依存または力依存アポトーシスを阻害するのが特に好ましいであろう。したがって、このような物質を含み、かつアポトーシスの誘導または阻害を示す病態の治療、特に、動脈硬化の治療および創傷治癒の改善はもちろん、エイズ、アルツハイマー病および癌治療で投与可能な薬剤処方に対する多大な要望が依然として存在する。
【0016】
以前の独国特許出願DE10163130において、本発明の発明者はアポトーシスを阻害または誘導するペプチドを開示している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって本発明の目的は、さらに改良されたアポトーシス活性物質を提供することである。とりわけ、本発明のさらなる目的は、真核細胞、特に内皮細胞および線維芽細胞のTSP−1誘導アポトーシスを阻害することができる物質を提供することである。本発明のさらなる目的は、アポトーシスの誘導または阻害を示す、動脈硬化、創傷、エイズ、アルツハイマー病、癌、全身性紅斑性狼瘡、関節リウマチ、およびその他の慢性炎症性疾患などの疾患を治療することができる医薬製剤を提供することである。
【0018】
これらの目的および特に明確化されないさらなる目的は、先に述べた最新技術の評価により明白となるが、特許請求の範囲に定義する本発明の実施形態により解決される。
【0019】
驚くべきことに、配列番号1から9に示す配列からなる群から選択される核酸配列を含む核酸を提供することで簡単にこの目的を解決することができる。
【0020】
本発明のさらなる実施形態は、これらの核酸の機能的変種に関する。本発明の目的に関して、これらは、少なくとも6個、好ましくは少なくとも10個、非常に好ましくは少なくとも15個、および最も好ましくは少なくとも20個の連続的なヌクレオチドの範囲を示し、配列番号1から配列番号9からなる群から選択された配列と少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、非常に好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%、および最も好ましくは少なくとも95%の配列同一性を示し、以下で述べる試験手順で少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、非常に好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%、および最も好ましくは少なくとも95%の阻害指数の抗アポトーシス活性を示す核酸である。
【0021】
本発明のさらなる実施形態は、ヌクレオチドが、配列番号1から配列番号9からなる群から選択される核酸配列に、5’方向および/または3’方向に付加している核酸に関する。とりわけ、いずれの場合にも、この延長は100個以下、好ましくは70個以下、特に好ましくは30個以下、非常により好ましくは20個以下、最も好ましくは10個以下のヌクレオチドを含む。
【0022】
ここでも、上記の定義の意味のこれらの延長された核酸の機能的変種が含まれることは言うまでもない。
【0023】
本発明のアプタマーは、好ましくはヌクレアーゼの分解に対して本発明の核酸の安定性を高める修飾を含む。好ましくは、修飾されていないヌクレオチドのウリジンおよびシチジンの代わりに、2’−NH2−2’−デオキシウリジンおよび/または2’−NH2−2’−デオキシシチジンを使用する。
【0024】
本発明の目的に関して、核酸は、RNAの場合、ヌクレオチドのアデノシン(A)、シチジン(C)、ウリジン(U)、グアノシン(G)からなるポリマー分子、DNAの場合、デオキシアデノシン(A)、デオキシシチジン(C)、デオキシグアノシン(G)およびチミジン(T)からなるポリマー分子として理解される。これらのヌクレオチドは、次の修飾、つまり2’−デオキシ、2’−フッ素化、2’−塩素化、2’−臭素化、2’−ヨウ素化、2’−アミノ(好ましくは非置換またはモノ置換またはジ置換)、2’−モノ−、ジもしくはトリ−ハロメチル、2’−o−アルキル、2’−o−ハロ置換アルキル、2’−アルキル、アジド、ホスホロチオエート、スルフヒドリル、メチルホスホン酸塩、フルオレセイン、ローダミン、ピレン、ビオチン、キサンチン、ヒポキサンチン、2,6−ジアミノプリン、2−ヒドロキシ−6−メルカプトプリン、ポリエチレングリコール修飾、ならびにピリミジン塩基に関して6−位置の硫黄および5−位置のハロゲン、3’−末端のC1-5アルキル基、脱塩基リンカー、3’−デオキシアデノシンもしくは他の連鎖停止剤または伸長できないヌクレオチドアナログあるいは5’−および/または3’−末端の他の修飾の少なくとも1つを示すことができる。もちろん、例えばWO02/26932などの最新技術で既に開示されているさらなる修飾を本発明に同様に含む。
【0025】
一般に、アプタマーは10から100個のヌクレオチド、好ましくは15から50個のヌクレオチド、特に好ましくは20から40個のヌクレオチドを含む。必要であれば、アプタマーは、その結合を保証するのに必要である、少なくとも6個、好ましくは少なくとも10個、特に好ましくは少なくとも14から15個のヌクレオチドの最小配列を示す。
【0026】
本発明の好ましい実施形態は、本発明の核酸を少なくとも1つ含む医薬製剤である。
【0027】
本発明の特に好ましい実施形態は、動脈硬化、創傷、エイズ、アルツハイマー病、癌、全身性紅斑性狼瘡、関節リウマチ、およびその他の慢性炎症性疾患の治療のための薬物を産業上よく知られる方法で製造するために、本発明の核酸を使用することである。
【0028】
さらに好ましい実施形態では、本発明はまた、診断ツールとしての本発明の核酸の使用に関する。本発明では、マーキングした核酸を使用する。例えば、蛍光色素、酵素、抗体または放射性核種を用いてマーキングを行うことができる。対応する検出法は当業者によく知られる。
【0029】
好ましくは、本発明のアプタマーは、例えば陰性および陽性対照と共にキットの構成品になる。専門家には、原理上、対応するアプタマーを、例えばELISA用途、クロマトグラフ法、および診断/スクリーニング手順における抗体のように利用できることがよく知られている。
【0030】
本発明では、抗アポトーシス活性とは、実施例6による阻害試験において対応する物質が、TSP−1誘導アポトーシスを有する対照に関して、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、特に好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも90%、および最も好ましくは少なくとも95%の阻害指数を起こすことを指す。
【0031】
医薬製剤の活性成分であるアプタマーは、通常、薬剤として許容される適切な賦形剤に溶解する。この薬剤として許容される賦形剤の例として、リン酸緩衝液またはクエン酸緩衝液などの緩衝液であることが可能である。各患者に特定される投薬法および薬量は、使用する特定の化合物の活性、患者の年齢、体重、全体的な健康状態、性別、栄養状態、投与時間、投与方法、排せつ率、他の薬物処理との相互作用、および治療を行う疾患の重症度などいくつかの因子によって決まる。これらの因子によって医師がこれを決定するものである。
【0032】
例えば吸入スプレー、経直腸的、経皮下、静脈内、筋肉内、関節内および髄膜注射ならびに輸液法により非経口的に、あるいは薬剤として許容される媒質、アジュバントおよび賦形剤を通常含む医薬製剤の外用により、たいていアプタマー薬物を投与する。特定された物質の性質に依存して、他の投与方法、例えば経口投与も可能である。さらに、軟膏、ジェル、湿布などとしてこの薬物を施用することができる。
【0033】
本発明はまた、従来の賦形薬と組み合わせて効果的な抗アポトーシスアプタマーの有効量を含む医薬化合物を提供する。賦形薬は、例えば固体もしくは液体増量剤、被包物質または溶剤である。賦形薬の役割を果たすことができる物質の例は、ラクトース、グルコースおよびスクロースなどの糖類、トウモロコシ澱粉およびジャガイモ澱粉などの澱粉、セルロースとナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロースおよび酢酸セルロースなどのセルロースの誘導体、トラガント末、麦芽、ゼラチン、獣脂、カカオバターおよび坐剤ワックスなどの薬物賦形剤、ピーナッツ油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油および大豆油などの油類、プロピレングリコール、グリセロール、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコールなどのポリオール類、オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル、寒天、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝液、アルギン酸、ピロゲンフリー水、等張食塩水、リンガー液、エタノールおよびリン酸緩衝液、ならびに医薬製剤で使用されるその他の無毒であり混合可能な物質である。製薬上の必要に応じて、湿潤剤、乳化剤およびラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムなどの滑剤、ならびに色素、コーティング剤、香料および保存剤も本製剤に含有させることが可能である。個々の投薬量となるように賦形剤と組み合わせた活性物質の量は、治療を受ける患者や特別な投与方法に依存して変化する。
【0034】
例えば、本発明の化合物を対応する緩衝水溶液または水に溶解し、凍結乾燥するなどのよく知られる方法により、本発明のアプタマーの薬剤として適切な塩を製造することができる。本発明の化合物を対応するイオンを含む溶液に溶解し、HPLCまたはゲル透過法により本化合物を単離して、金属塩を得ることができる。
【0035】
アプタマー薬物の製造ならびにその投与に関するさらなる手順および方法は、例えばWO02/26932で開示されており、もちろん本発明において同様に利用することができる。
【0036】
本発明の核酸は、当業者に全く問題を生じることなく簡単な方法、例えばDNA/RNAシンセサイザを用いて従来の化学的合成により製造することができる。対応する手順書および装置は当業者によく知られており、定型的な作業である。
【0037】
図1は配列番号2の仮想二次構造を示す。アプタマー配列番号2は、RNA配列5’−CGGACGGGACCAGAGGUGCCGCUGUCCG−3’と共に構造H1を形成する。らせん(ヘアピン)構造(H1)を有するこの領域は、「ヘリックスF」と呼ばれるらせん構造も形成することができる2つのRNAセクションに隣接される。アプタマー89(配列番号2)から開始する変更/変異RNAの合成により、ヘリックスFを形成する隣接配列がこのアプタマーの機能に重要であるか否か、およびアプタマー89がこの機能を維持したまま短縮できるか否かが示される(配列番号4、実施例7)。
【0038】
図2は配列番号7で予測される二次構造を示す。本構造は、配列(配列番号9)の中央部分に、隣接配列からのさらなるらせんで補われるヘアピンループ(H2)を有する。
【0039】
以下の実施例は、全く限定されることはなく、本発明を例示するものである。
【0040】
実施例
以下の概説により使用される物質および供給元について示す。特に記載のない場合、供給元はドイツに所在する。
【0041】
【表1】

溶液調製用の再蒸留水をピロ炭酸ジエチル(DEPC)0.01%で20℃から25℃で24時間処理し、その後、121℃で60分間オートクレーブ処理した。
【0042】
溶液:
CI クロロホルム/イソアミルアルコール24:1(容量/容量)混合液
1xTBE 90mM トリス、90mM ホウ酸、2mM EDTA
【0043】
実施例1:本発明によるアプタマーの合成
アプタマーは、ピリミジンヌクレオチド(UおよびC)が2’位置にOH基の代わりにNH2(アミノ)基を有する修飾RNAを表わす。本発明ではRNAポリメラーゼを使用して修飾されていないプリンおよび修飾されているピリミジンヌクレオチドを挿入することで酵素的にこの修飾RNAの合成を行う。
【0044】
バクテリオファージT7のT7プロモーター配列および最初の転写ヌクレオチド由来の所望のアプタマーRNAのDNAコピー(例えば、5’−GGGAGAC...−3’で始まるアプタマーNo.89:DNA配列「配列番号1」、実施例2参照)を含む二本鎖DNA(60〜70pmolのDNA)から開始して、T7 RNAポリメラーゼによりアプタマーRNAを合成する。製造会社(製造会社:MBI−Fermentas、St.Leon−Roth)が推薦する緩衝液および塩条件下において、16℃+/−3℃で20から44時間、40μl容量で市販のT7 RNAポリメラーゼとインキュベートすることにより、修飾ヌクレオチド2’−NH2−UTP(2’−NH2−2’−デオキシウリジン)および2’−NH2−CTP(2’−NH2−2’−デオキシシチジン)ならびにATPとGTPの存在下で転写が起こる。その後、まだ存在するDNAを、MgCl2(2.74mM差まで濃度を上昇させる)およびRNaseフリーDNaseI(最終濃度0.06ユニット/μl)を添加し、37℃で135分間インキュベートすることによって消化する。それにより1ユニットのDNaseIは、40mM トリスHCl、10mM NaCl、6mM MgCl2、10mM CaCl2の50μl緩衝液(25℃でpH7.9)において37℃、10分で1μgのDNAを完全に消化する酵素量であると定義される。
【0045】
45μlのTE緩衝液(10mM トリスHCl、0.1mM EDTA、pH7.8)を添加した後、最初に溶液をフェノールで抽出し、クロロホルム/イソアミルアルコール(24:1)で抽出する。その後、エタノールでアプタマーRNAを沈殿させ、70%エタノールで洗浄後、30μlのDEPC処理再蒸留水(dd−H2O)に溶解させ、−20℃で貯蔵する。8M 尿素と9.47%(w/v)アクリルアミドおよび0.53%ビス−アクリルアミドを有するトリスホウ酸緩衝液との存在下でのポリアクリルアミドゲル、8M 尿素及びTBE緩衝液(標準1xTBE緩衝液系:90mM トリス、90mM ホウ酸、2mM EDTA)で分離後、アプタマーRNAの産生量を、既知の濃度の核酸と共に260および280nmにおける吸光度を分析することにより決定する。35から45分間の12から16V/cmで核酸が分離する。その後、ゲルを蛍光色素SYBRGreenII(分子プローブ;製造会社の説明書に準じる濃度)で20分間染色し、UV光で励起して可視光における蛍光発光を分析する。
【0046】
実施例2:本発明によるアプタマーの配列
1)DNA No.89の配列(配列番号1)
5’−GGGAG ACGAT ATTCG TCCAT CACCG GACGG GACCA GAGGT GCCGC TGTCC GACTG AATTC TCGAC C−3’
2)ピリミジン修飾アプタマーNo.89のRNA配列(配列番号2)
(U=2’−NH2−2’−デオキシウリジン;C=2’−NH2−2’−デオキシシチジン)
5’−GGGAG ACGAU AUUCG UCCAU CACCG GACGG GACCA GAGGU GCCGC UGUCC GACUG AAUUC UCGAC C−3’
3)隣接配列を含まないピリミジン修飾アプタマーNo.89のコア領域のRNA配列(配列番号3)
(U=2’−NH2−2’−デオキシウリジン;C=2’−NH2−2’−デオキシシチジン)
5’−ACCGG ACGGG ACCAG AGGUG C−3’
4)アプタマー変異「89−2」(58nt)のRNA配列(配列番号4)
(U=2’−NH2−2’−デオキシウリジン;C=2’−NH2−2’−デオキシシチジン)
5’−GGGAG ACGAU AUUCG UCCAU CACCG GACGG GACCA GAGGU GCCGC UGUCC GACAU GGA−3’
5)アプタマー変異No.89−Z(30nt)のRNA配列(配列番号5)
(U=2’−NH2−2’−デオキシウリジン;C=2’−NH2−2’−デオキシシチジン)
5’−ACCGG ACGGG ACCAG AGGUG CCGCU GUCCG−3’
6)DNA No.82の配列(配列番号6)
5’−GGGAG ACGAT ATTCG TCCAT CGGGA GCAGG GAAGG GGGCC GCTGT CCGAC TGAAT TCTCG ACC−3’
7)ピリミジン修飾アプタマーNo.82のRNA配列(配列番号7)
(U=2’−NH2−2’−デオキシウリジン;C=2’−NH2−2’−デオキシシチジン)
5’−GGGAG ACGAU AUUCG UCCAU CGGGA GCAGG GAAGG GGGCC GCUGU CCGAC UGAAU UCUCG ACC−3’
8)隣接配列を含まないピリミジン修飾アプタマーNo.82のコア領域のRNA配列(配列番号8)
(U=2’−NH2−2’−デオキシウリジン;C=2’−NH2−2’−デオキシシチジン)
5’−GGGAG CAGGG AAGGG GGC−3’
9)アプタマー変異「82−Z」(30nt)のRNA配列(配列番号9)
(U=2’−NH2−2’−デオキシウリジン;C=2’−NH2−2’−デオキシシチジン)
5’−UCGGG AGCAG GGAAG GGGGC CGCUG UCCGA−3’
【0047】
実施例3:ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の培養
溶液(無菌):
培養培地:IF基本培地+15%(v/v)NCS、5μg/ml トランスフェリン、5μg/ml ヘパリン、0,7μg/ml FGF、2mM L−グルタミン[IF基本培地:Iscove改変Dulbecco培地(IMDM)とHam F12の1:1混合液(共にLife Technologies、英国ペーズリーより入手)]
NCS:新生子ウシ血清(Sebak、Aidenbach)
FGF:線維芽細胞成長因子(ブタ脳より部分精製し、自ら作製)
器具:
ゼラチンコート細胞培養容器
実験手順:
37℃の5%CO2および蒸気飽和空気中において、ゼラチンコート培養容器で、HUVECの培養を行う。培養培地は2〜3日ごとに取り替える。集密期に細胞を1:3から1:5の分離比で継代培養する。HUVECは、厳密に接触阻害を受けて増殖し、典型的な敷石状形態を有する単層の細胞叢を形成する。集密期に培養液は4〜9x104細胞/cm2の細胞密度になる。アポトーシス試験では、もっぱら1〜4回継代したHUVEC培養液を使用する。
培養容器のコーティング:
溶液(無菌):
ゼラチン1%(w/v)ミリQ水溶液
1gのゼラチン(細胞培養試験用)を100mlのミリQ水に懸濁し、121℃、2barで20分間オートクレーブにかけて溶解させ、室温で貯蔵する。
PBS(140mM NaCl、3mM KCl、8mM Na2HPO4、1.5mM KH2PO4
8g/l NaCl
0.2g/l KCl
1.44g/l Na2HPO4x2H2
0.2g/l KH2PO4
対応量のミリQ水でこれらの塩を溶解し、121℃、2barで20分間オートクレーブにかけ、室温で貯蔵する。pH値を測定し、7.2と7.4の間の状態にする。
【0048】
器具:
細胞培養容器
実験手順:
接着して増殖する細胞の培養のためにゼラチンで培養容器をコートする。細胞培養容器の底を滅菌ゼラチン溶液で被覆し、その容器を室温で15分間放置する。ゼラチン溶液を吸い取る。細胞培養容器をPBSで1回洗浄した後、使用することができる。
【0049】
付着細胞の継代培養
溶液(無菌):
PBS
トリプシン/EDTA(0.05%(w/v)/0.02%(w/v))
0.1ml トリプシンストック液
0.05ml EDTAストック液
滅菌PBSを充填して50mlにし、−20℃において10ml量で貯蔵する。
器具:
ゼラチン処理細胞用容器
実験手順:
トリプシン/DETA溶液を用いて培養液表面から全細胞を脱離する。吸引により培養培地を取り除く。培養容器の底をPBSで簡単に洗浄し、トリプシン/EDTA溶液(25cm2培養フラスコに対し約1ml)で被覆する。直ちに再度この酵素溶液を吸い取り、細胞上に液体薄膜を残す。この細胞を室温で1〜10分静置し、細胞の脱離を顕微鏡で観察する。培養容器の端をそっとたたくこことで細胞の脱離を促進させることができる。計数が必要であれば細胞を新鮮な培養培地に移した後、新たな培養容器に接種する。
【0050】
実施例4:DAPIを用いたアポトーシス細胞の染色によるアポトーシスの比率の測定
DAPIはインドール染料に属し、選択的DNS染色液をもたらす。この染色液は340〜360nmで励起され、480nmで発光極大を有する。この物質はアポトーシス試験で使用される[参照:Cohenら、Immunology Today、14、No.3、126〜130頁(1993年)]。
【0051】
形態評価:
溶液:
PBS
ホルムアルデヒド溶液
ホルムアルデヒド 4%(v/v)PBS溶液
DAPI溶液(モレキュラープローブス、ライデン、オランダ)
DAPI 2μg/mlメタノール溶液
器具:
培養中のHUVEC細胞の付いたペトリ皿(35mm)または24ウェルプレート
実験手順:
ペトリ皿または24ウェルプレートの培養上清液を吸い取る。細胞叢を氷上冷却したホルムアルデヒド溶液1mlで15分間固定し、PBS2mlで2回洗浄する。DAPI溶液0.5mlを15分間添加し、再度PBSで洗浄した後、蛍光顕微鏡で評価する。UVフィルタセットおよび20xもしくは40xの対物レンズを用いてこの作業を行う。500〜1000個の細胞を無作為に選び、アポトーシス核の数をカウントする。
アポトーシス指数を次式により算出する:
アポトーシス指数[%]=アポトーシス細胞数/総カウント細胞数x100
【0052】
実施例5:抗アポソーシス活性アプタマーの試験系
実施例3で述べた方法で細胞を培養する。適切な培養容器(例えば24ウェルプレート/ウェルあたり0.5ml)に細胞を接種し、完全に集密化した後、実際の試験に使用することができる。
【0053】
内皮細胞が自ら産生および分泌し、培養培地で強化されている(培養培地の自己順化)TSP1により、アポトーシスの誘導を起こす。
【0054】
内皮細胞のアポトーシス比率における様々なアプタマーの影響を証明するために実験を行う。このために、DEPC処理再蒸留水(実施例1)に溶解させたアプタマーを、HUVEC用培養培地(実施例3)に希釈し、既定の濃度で使用する。いかなるアプタマーもしくは阻害物質も全く含まない培養培地を正対照として使用する。
【0055】
アプタマーを有する培地を細胞に添加し、培養条件下(実施例3)で3日間インキュベートする。36時間後、培養培地/アプタマー含有培養培地を一度取り替える。
【0056】
その後、実施例4に述べるように細胞をDAPIで染色し、アポトーシス比率を測定し、アポトーシス指数を既定の式で算出する。
【0057】
正対照における自己順化培地の明らかなアポトーシス誘導活性、および阻害対照におけるアポトーシスの減少により、内部対照としての試験の成功が示される。
【0058】
実施例6:本発明による方法を用いた抗アポソーシス活性アプタマーの同定
実施例3に述べた方法で細胞を培養する。適切な培養容器(例えば24ウェルプレート/ウェルあたり0.5ml)に細胞を接種し、完全に集密化した後、実施例4の試験に使用することができる。次の試料を調製する。
(K)培養培地(順化培地、基本比率のアポトーシス、対照)
(1)培養培地+アプタマー89、配列番号2、濃度:150nM
(2)培養培地+アプタマー89、配列番号2、濃度:300nM
(3)培養培地+アプタマー82、配列番号7、濃度:150nM
(4)培養培地+アプタマー82、配列番号7、濃度:300nM
培養条件下におけるインキュベーションの72時間後、細胞を固定し、DAPIで染色し、蛍光顕微鏡下で形態を調べる。アポトーシス細胞の計数および総細胞の計数を行い、アポトーシス指数を算出する(アポトーシス細胞のパーセンテージ)(実施例3、実施例4、実施例5)。
【0059】
【表2】

【0060】
実施例7:短縮による抗アポトーシス活性アプタマーの最小配列の同定
実施例6で述べるように試験を行った。短縮化した全長を有するアプタマー(配列番号4、ここでは「89−2」と呼ぶ)をアプタマー89(完全長配列番号2、「89」と呼ぶ)と比較した。熱力学的に好ましいヘアピン構造HIも、図1に示すように配列番号4を形成する。その一方、配列番号2の3’末端の既存配列5’−UGAAUUCUCGACC−3’が、配列番号4ではRNA配列5’−AUGGA−3’(修飾RNA、実施例2参照)に取って代わられる。これは「ヘリックスF」構造を壊し、新たな短いらせんが(5’−AUGGA/5’−UCCAU)を形成することができる。
【0061】
実施例3で述べた方法で細胞を培養する。適切な培養容器(例えば24ウェルプレート/ウェルあたり0.5ml)に細胞を接種し、完全に集密化した後、試験に使用することができる。(実施例4、実施例5)。次の試料を調製する。
(K)培養培地(順化培地、基本比率のアポトーシス、対照)
(5)培養培地+アプタマー89、配列番号2、濃度:50nM
(6)培養培地+アプタマー89、配列番号4、濃度:50nM
次の表2に結果をまとめる。No.89−2(配列番号4)の短縮配列領域が元の配列No.89(配列番号2)の活性と比べて遜色ない活性を有することがはっきりとわかる。
【0062】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】配列番号2の仮想二次構造を示す図である。
【図2】配列番号7で予測される二次構造を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗アポトーシス活性のある配列番号1から配列番号9及びこの核酸の機能的変種、からなる群から選択される核酸配列を含む核酸。
【請求項2】
配列番号1から配列番号9からなる群から選択される配列に5’方向および/または3’方向に、100個以下、好ましくは70個以下、特に好ましくは30個以下、極めて特に好ましくは20個以下、および最も好ましくは10個以下のヌクレオチドが付加されることを特徴とする請求項1に記載の核酸。
【請求項3】
配列番号1から配列番号9からなる群から選択される核酸。
【請求項4】
請求項1から3に記載の核酸を含む医薬製剤。
【請求項5】
動脈硬化、創傷、創傷治癒の促進、特に治癒の遅い創傷における創傷治癒の促進、エイズ、アルツハイマー病、癌、全身性紅斑性狼瘡、関節リウマチ、およびその他の慢性炎症性疾患からなる群から選択される疾患を治療する医薬品を製造するための請求項1から3に記載の核酸の使用。
【請求項6】
診断ツールとしての請求項1から3に記載の核酸の使用。
【請求項7】
化学合成による請求項1から3に記載の核酸の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2007−513618(P2007−513618A)
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−543493(P2006−543493)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【国際出願番号】PCT/EP2004/014097
【国際公開番号】WO2005/056793
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(506170616)シト トゥールス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (3)
【氏名又は名称原語表記】CYTO TOOLS GMBH
【Fターム(参考)】