説明

抗アミロイド抗体を用いるアミロイドの除去方法

【課題】アミロイド繊維に結合する抗体を含む抗体製剤を用いて、アミロイド症を治療する方法に対する必要性が存在する。
【解決手段】アミロイド繊維の沈着に対する、患者の細胞媒介免疫応答を増強する方法および関連する免疫グロブリンペプチド、およびその断片が開示される。これらの方法は、アミロイド物質またはその構成部分に対する抗体のオプソニン化作用を活用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的にアミロイド関連疾患を治療する方法に関する。特に、本発明は患者自身の免疫食作用系によりアミロイド繊維の除去を達成する治療的抗体関連方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
アミロイド症(アミロイドーシス)は、蛋白がコンゴーレッドで染色されるとき、分散しているかまたは局在化したアミロイドーマの形でコンゴー様、緑色の複屈折繊維の形態での病理学的沈着を指す。このような沈着は、幾つかの疾患、例えば狂牛病(牛海綿状脳症、BSE)、クルツフェルトヤコブ病(CJD)、スクレーピー(羊海綿状脳症)、原発性アミロイド症の症候を表わす。
【0003】
アミロイド症は、一般的に3つのグループに分類される。すなわち、重い全身のアミロイド症、重い局所アミロイド症、および雑多なアミロイド症である。前記重い全身のアミロイド症としては、慢性炎症(例えば、結核、骨髄炎等)、若年慢性関節リウマチ、強直性脊椎症およびクローン病(Crohn’s disease)等のような非感染症状、家族性地中海熱、プラズマ細胞疾患(原発性アミロイド症)、そして種々の家族多発性神経炎および家族性心筋症が挙げられる。前記重い局所アミロイド症としては、通常8年以上の慢性透析、アルツハイマー病、ダウン症候群、遺伝性脳内出血(オランダ)、および老人の非外傷性脳内出血が挙げられる。前記雑多なアミロイド症としては、家族多発性神経炎(アイオア州)、家族性アミロイド症(フィンランド)、遺伝性脳内出血(アイスランド人)、CJD、甲状腺髄様癌、心房アミロイド、および真性糖尿病(インシュリノーマ)が挙げられる。他のアミロイド症は、Louis W.Heck,“The Amyloid Diseases,”Ceicil’s Textbook of Medicines 1504−6(W.B.Sanders&Co.,Philadelphia,PA;1996)で参照されているものを含む。
【0004】
CJDおよびGerrtzmann−Strassler−Scheinker(GSS)病をおこす伝染性海面状脳障害(エンセファロパシー)は、以下に記載されている。B.Chesebroら“Transmissible Spongiform Encepholopathies:A Brief Introduction”FIELD’S VIROLOGY 2845−49(第3版、Raven Publisher,PA,1996)およびD.C.Gajdusek,“Infectious amyloid:Subacute Spongeform Encepholopathies as Transmissible Cerebral Amyloidoses”2851−2900,FIELD’S VIROLOGY(1996)。これらの疾患の多くは、おそらく感染性蛋白であるプリオンによって媒介されている。S.B.Prusiner,“Prions” FIELDS VIROLOGY 2901−50(1996)およびその中に含まれている参考文献を参照。アミロイド症の遺伝的形態は、“Online Mendelian Inheritance in Man(OMIM)”[www.ncbi.nlm.nih.gov./htbin−post/Omim/dispmim?]に記載されている。上記の各々は、参考文献として、本明細書に援用される。
【0005】
多分アミロイド繊維そのものは、非免疫原性であるという理由から、臨床的に証明されたアミロイド症の患者が、完全な自然寛解を達成することはめったにない。アミロイド症に対する様々な療法が研究されてきた。例えば、高用量の化学療法(ステロイド、ヨウ素化ドキソルビシン)、および基幹細胞置換療法である。しかしながら、薬剤による治療(コルチシン)が有効であると示されたのは、1つのタイプのアミロイド症、家族地中海性アミロイド症のみにおいてであった。
【0006】
モノクローナル抗体(mAbs)を使用して、さもなければ認識されない物質を免疫学的に除去するのを誘起するか、調節することは知られている。mAbは例えば、非ホジキンスリンパ腫および乳癌を治療するのに成功裏に使用されてきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Louis W.Heck,“The Amyloid Diseases,”Ceicil’s Textbook of Medicines 1504−6(W.B.Sanders&Co.,Philadelphia,PA;1996)
【非特許文献2】B.Chesebroら“Transmissible Spongiform Encepholopathies:A Brief Introduction”FIELD’S VIROLOGY 2845−49(第3版、Raven Publisher,PA,1996)
【非特許文献3】D.C.Gajdusek,“Infectious amyloid:Subacute Spongeform Encepholopathies as Transmissible Cerebral Amyloidoses”2851−2900,FIELD’S VIROLOGY(1996)
【非特許文献4】S.B.Prusiner,“Prions” FIELDS VIROLOGY 2901−50(1996)
【非特許文献5】“Online Mendelian Inheritance in Man(OMIM)”[www.ncbi.nlm.nih.gov./htbin−post/Omim/dispmim?]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
過去に、様々な研究によってアミロイド蛋白またはアミロイド繊維に結合する抗体が特定されてきた。例えば、米国特許5714471号、5693478号、5688651号、5652092号、5593846号、5536640号、5385915号、5348963号、5270165号、5262332号、5262303号、5164295号、および4782014号を参照。さらに、幾つかの論文で坑アミロイド抗体は、ベータアミロイド症の進行を調べるのに、そして種々の治療選択に有用であるかもしれないと提案されてきた。例えば、Bellottiら、Scand.J.Immunol.(1992)36(4):607−615、Bellottiら、Ren.Fail.(1993)15(3):365−371、Walkerら、J.Neuropathol.Exp.Neurol.(1994)53(4):377−383、およびBickelら、Bioconjug.Chem.(1994)5(2):119−125を参照。しかしながら、患者においてアミロイド繊維の沈着を止めるか、または逆にすることを実証した治療抗体はなかった。このように、アミロイド繊維に結合する抗体を含む抗体製剤を用いて、アミロイド症を治療する方法に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、アミロイド関連疾患および症状を治療する新しい方法を見出した。これらの方法は、アミロイドの蛋白成分に対するmAbのオプソニン化作用(貪食作用)を活用する。
【0010】
本発明は、アミロイド関連疾患を有する患者を治療する方法であって、該患者に治療的に有効な用量の少なくとも1つの免疫グロブリンポリペプチド、またはその断片と共に薬学的に許容される担体を投与し、(そこで該免疫グロブリンポリペプチドまたはその断片は、ヒトアミロイド繊維に結合する実質的に精製された免疫グロブリンポリペプチドであり、さらに該ポリペプチドの結合が前記アミロイド繊維をオプソニン化する)ステップを含むことを特徴とする前記方法を含む。
【0011】
特に、本発明は下記で議論する3つのモノクローナル抗体のいずれか1つ、またはその組み合わせを使用することに関する。これらの抗体は一般的に、抗アミロイド結合特性を有し、患者自身の細胞免疫クリアランス機構を活性化する外来性オプソニン化薬剤を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】Aは、アミロイド注射をされた直後のBalb/cマウスの再現写真である。Bは、注射の14日後のBalb/cマウスの再現写真である。注射部位は、アミロイド物質によっておきる「瘤」をよく示すために、毛を剃られた。
【図2】AおよびBは、インビトロでオプソニン化されたヒトアミロイドに接着するヒト好中球(多重核)の再現写真である。
【図3】A〜Dは、免疫組織化学的に染色した、アミロイド積載組織試料(倍率x20)の再現写真である。Aは、コンゴーレッドで染色した、κ1アミロイド症の患者からの組織試料であり、アミロイド沈着物は偏光下で観察すると、青緑色の粒子にみえる。Bは、抗κI(57−18−H12)mAbで標識後、アルカリホスファターゼで染色した、組織試料である。Cは、Bと同様であるが、抗κIV(11−1F4)mAbで染色した組織試料である。Dは、Bと同様であるが、抗λVIII(31−8c7)mAbで染色した組織試料である。
【図4】Balb/cマウスに移植されたヒトアミロイドに結合した蛍光化(FITC)κ4mAbを示す再現写真である。該κ4mAbは、マウスの太股に注射された。アミロイドーマは、注射72時間後に摘出され、落射蛍光顕微鏡(倍率x20)を用いて観察された。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(一般的記載)
本発明は、宿主または患者において、アミロイド繊維の望ましくない沈着物の分解および除去を調節し、そして増強するのに免疫グロブリンポリペプチドを利用する。本発明は、例えば、アミロイド繊維の望ましくない沈着で特徴付けられる疾患または、症状に罹ったヒトを治療するのに用いられるであろうことが想定される。いかなる特定の作用機序によって拘束されることを意図せずに、本発明の免疫グロブリンペプチドは、アミロイド症に罹った患者において、沈着したアミロイド繊維をオプソニン化し、そこで該患者自身の免疫系によって患者からアミロイドを除去するのを手助けすると考えられる。前記患者の免疫系だけでは、このような治療的干渉なしにはアミロイド繊維によって変調された健康状態においてアミロイド繊維を除去することはできない、これはおそらくアミロイド繊維がそれ自身比較的、非免疫原性であるからであると考えられている。
【0014】
アミロイド症を有する患者を治療するためには、本発明に係る治療的に有効な用量の免疫グロブリンポリペプチドまたはその断片が、薬学的に許容される適当な担体または賦形剤とともに投与される。このような免疫グロブリンポリペプチドがアミロイド繊維の望ましくない沈着物へ結合または付着すると同時に、後者がオプソニン化されると考えられている。
【0015】
本発明の組成物の単一または複数回の投与は、他の治療的抗体産物の投与として、当業者に公知である投与量および投与プロトコルを用いて実施することができる。これらのパラメーターは、特定の患者を処置する医者によって選択されるか、そして/または最適化される。
【0016】
好ましくは、本発明の薬学的製剤の治療的に有効な用量によってアミロイド繊維の望ましくない沈着を実質的に抑制するか、或いはアミロイド繊維の望ましくない沈着の速度を実質的に阻害するのに充分な量の坑アミロイド免疫グロブリンポリペプチドが送達されるべきである。さらに好ましくは、前記製剤は患者において、沈着アミロイドによる全体の負担を軽減するべきである。さらに、このような製剤の投与は、アミロイド症の診断のすぐ後で始められ、症状が実質的に軽くなるまで、そしてその後も一定の期間続けられるべきである。よく確立された疾病の場合、負荷用量に続く維持用量が必要とされるだろう。
【0017】
(定義)
「ペプチド」、「ポリペプチド」、または「タンパク質(蛋白)」という用語は、本明細書で交換的に使用される。ポリペプチドに関するとき、「実質的な同一性」という用語は、問題のポリペプチドまたはタンパク質が少なくとも約30%、完全に天然由来のタンパク質またはその一部分に対して同一であり、通常少なくとも約70%同一であり、そして好適には、少なくとも約95%同一であることを指す。
【0018】
本明細書で使用する、「単離された」、「実質的に純粋」および「実質的に均質」という用語は交換的に使用され、天然に付随する成分等から分離されたタンパク質を表す。実質的に精製されたタンパク質は、典型的には1つのタンパク質サンプルの約85%から90%以上、より普通には約95%からなり、そして好適には約99%以上の純度である。公知の数々の手法、例えば、タンパク質サンプルのポリアクリルアミドゲル電気泳動と続いてポリアクリルアミドゲル上の単一ポリペプチドバンドを染色し可視化すること等によって、タンパク質の純度または均質度は表現されうる。ある目的のためには、高分解能が必要とされるだろう、そして精製用のHPLCまたは同様な手段が利用される。
【0019】
タンパク質は、周知の標準的手法によって、実質的に均質になるまで精製されるが、これは硫酸アンモニウムのような物質との選択的沈殿、カラムクロマトグラフィー、免疫精製法、その他を含む。例えば、Scopes,Protein Purification:Principles and Practices,Springer−Verlag:New York(1982)を参照のこと、これは参考文献として本明細書に援用される。
【0020】
抗体の精製方法は当該技術分野で周知である。Harlowら、Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor(1988),288−318は、参考文献として本明細書に援用されるが、例えば以下に言及している。すなわち、硫酸アンモニウム沈殿、カプリン酸(caprlic acid)、DEAE、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、プロテインAビーズ、および免疫親和性を用いる精製である。
【0021】
本明細書で使用する「核酸」とは、DNAまたはRNAである。核酸に関するとき、「実質的な同一性」という用語は、2つの核酸またはそれらの指定の部分が、最適に整列比較されると、適当なヌクレオチド挿入または欠失があっても少なくとも約80%のヌクレオチド、通常少なくとも約90%から95%、そしてより好ましくは、少なくとも約98%から99.5%のヌクレオチドにおいて、同一であることを指す。
【0022】
代替的には、実質的な核酸配列の同一性は、核酸片が選択的なハイブリダイゼーション条件下、別の核酸鎖の相補部分にハイブリダイズするときに存在する。
【0023】
同様に、「実質的な相補性」は、ある核酸が選択的に別の核酸にハイブリダイズするか、或いは同一であることを意味する。典型的には、少なくとも14〜25ヌクレオチドの長さにわたって、少なくとも約55%の同一性、好ましくは少なくとも約65%の同一性、より好ましくは少なくとも約75%の同一性、さらに好ましくは少なくとも約90%の同一性があるとき、選択的ハイブリダイゼーションは起きる。M.Kaneshisa Nucleic Acids Res,12:203(1984)を参照のこと、これは本明細書に参考文献として援用される。
【0024】
厳格なハイブリダイゼーション条件は、典型的には約1Mより少ない、より普通には約500mM、より好ましくは約200mMより少ない塩濃度を含むだろう。温度条件は、典型的には22℃より高く、普通約30℃より高い、そして好ましくは約37℃を越えるだろう。塩基組成、相補的な鎖の大きさ、有機溶媒の存在および塩基のミスマッチングの割合を含む他の因子がハイブリダイゼーションの厳格さに劇的に影響するかもしれないので、どれ1つ単独の絶対値よりもパラメーターの組み合わせがより重要である。
【0025】
核酸に関するとき、「単離された」、または「実質的に純粋」という用語は、他の細胞成分またはその他の夾雑物(例えば、他の細胞核酸またはタンパク質)から標準的手法を用いて精製されたものを指す。該標準的手法は、アルカリ性SDS処理、CsClバンディング、カラムクロマトグラフィー、および公知の他のもの含む。F.Ausbelら編、Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing and Wiley−Interscience,New York(1987)を参照のこと、これは本明細書に参考文献として援用される。
【0026】
ある核酸は、他の核酸配列と機能的な関係に置かれているとき、「作動的に連結されている」。例えば、プロモーターまたはエンハンサーが配列の転写に影響するならば、それらはコード配列に作動的に連結されている。一般的に、作動的な連結は、連結されている核酸が連続的であり、しかも2つのタンパク質コード領域を連結する必要がある場合、読み枠(リーディングフレーム)においても連続的であることを意味する。
【0027】
ポリペプチドをコードする核酸配列を発現ベクターにサブクローニング、プローブの標識、DNAハイブリダイゼーション等のような核酸操作の手法は、例えば、Sambrookら、(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第二版),1−3巻,Cold Spring Harbor Laboratory、またはAusubelら編(1987)上掲、に一般的に記載されており、両者とも本明細書に参考文献として援用される。
【0028】
「発現ベクター」、「クローニングベクター」、または「ベクター」はたいていの場合、選んだ寄主細胞中で複製できるプラスミドまたは他の核酸分子である。発現ベクターは、自律的に複製できるか、或いは前記寄主細胞のゲノムに周知の方法を用いて挿入されることにより複製できる。自律的に複製するベクターは、複製開始点、または該選んだ寄主細胞で機能的な自律複製配列(ARS)を有する。しばしば、ベクターが1つ以上の寄主細胞(例えば、クローニングおよび構築には大腸菌、そして発現には哺乳動物細胞)において使用可能であることが望ましい。
【0029】
哺乳動物細胞株が真核生物に由来するポリペプチドの発現のための宿主細胞として、しばしば用いられる。哺乳動物細胞を培養中に増殖することは、それ自体よく知られている。例えば、Tissue Culture,Academic Press,Kruse and Patterson編(1973)を参照のこと、これは本明細書に参考文献として援用される。宿主細胞系は、細菌(例えば、大腸菌または枯草菌)、酵母菌、糸状菌、植物細胞または昆虫細胞、その他のような生物体をも含んでもよい。
【0030】
「形質転換」とは、対象の核酸を含むベクターを周知の方法で直接的に寄主細胞に導入することを指す。形質転換法としては、宿主細胞のタイプに依存して異なるが、エレクトロポーレーション(電気窄孔)、塩化カルシウム、塩化ルビジウム、リン酸カルシウム、DEAE−デキストラン、または他の物質を用いるトランスフェクション、マイクロプロジェクタイル ボンバードメント(microprojetile bombardment)、リポフェクション、感染(ベクターが感染剤である場合)、およびその他が挙げられる。一般的に、Sambrookら、(1989)上掲を参照。上記の核酸が導入された細胞についての言及は、該細胞の始原細胞をも含むことを意味する。
【0031】
本明細書で使用する「免疫グロブリン」とは、ある特定の標的(例えば、アミロイド繊維に対して)に対して、特異的な免疫反応性を有する天然免疫グロブリン(抗体)に由来する分子を指す。抗体は、典型的には免疫グロブリンポリペプチドの四量体である。本明細書で使用する「抗体」という用語は、免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコードされる1つ以上のポリペプチドからなるタンパク質を指す。免疫グロブリン遺伝子は、κまたはλ型でありえる軽鎖をコードするもの、そして重鎖をコードするものを含む。重鎖のタイプは、α、γ、δ、ε、およびμである。免疫グロブリンの重鎖および軽鎖のC末端部分は、定常領域であり、一方N末端部分は、ミリアド免疫グロブリン可変領域によってコードされる。免疫グロブリンの可変領域は、抗原認識特異性を提供する部分である。とりわけ、特異性は免疫グロブリン類の超可変領域としても知られる、相補性決定領域(CDRs)に存在する。
【0032】
免疫グロブリンは、様々な断片の形で存在する。これらは、例えばFv、Fab、F(ab’’)、F(ab’)、Sおよびその他の断片、さらには単一鎖も同様に含む(例えば、Hustonら、Proc.Nat.Acad.Sci,U.S.A.,85:5879−5883(1988)およびBirdら、Science 242:423−426(1986)であり、これらは本明細書に参考文献として援用される)。一般的には、Hoodら、“Immunology,”Benjamin,N.Y.,第2版(1984)およびHunkapiller and Hood,Nature,323:15−16(1986)を参照のこと、これらは本明細書に参考文献として援用される。重鎖および軽鎖の遺伝子が単一のコード配列に組み合わさっている単一鎖の抗体もまた使用される。免疫グロブリンポリペプチドは、裁断形の免疫グロブリン鎖、例えば天然型のポリペプチドよりも少ない定常領域ドメインを含む鎖をも包含する。このような裁断形ポリペプチドは、例えば、終止コドンを欠失させるドメイン配列の遺伝子配列5’に導入する等の標準的な方法によって製造されうる。それから前記裁断形ポリペプチドは、裁断形抗体に組み立てることができる。本明細書で使用する抗体は、以下の文献に記載されている方法等を用いて製造することができる二重特異的抗体をも含む。Glennieら、J.Immunolo.,139:2367−2375(1987);Segalら、Biologic Therapy of Cancer Therapy of Cancer Updates2(4):1−12(1992);およびShalabyら、J.Exp.Med.175:217−225(1992)。
【0033】
「モノクローナル抗体」は、当業者になじみの深い種々の手法を用いて得られる。簡潔にいうと、所望の抗原で免疫感作した動物からの脾臓細胞が、通常ミエローマ細胞との融合によって不死化される(KohlerおよびMilstein,Eur.J.Immunol,6:511−519(1976)を参照)。不死化の別法は、エプスタイン・バールウイルス、癌遺伝子、またはレトロウイルスでの形質転換、或いは当該分野で公知の他の方法を含む。単一不死化細胞に由来するコロニーを所望の特異性および抗原に対する親和性を有する抗体の産生についてスクリーニングする。このような細胞によって産生されるモノクローナル抗体の収量は、脊椎動物宿主の腹腔への注射を含む種々の手法を用いて増大される。
【0034】
また、単一特異性または二重特異性免疫グロブリンは、原核または真核寄主細胞中で組換え手法によって製造される。
【0035】
「キメラ」抗体は、軽鎖および重鎖遺伝子が異なる種に属する免疫グロブリン遺伝子部分からなるように、遺伝子工学的に工作された免疫グロブリン遺伝子によってコードされる。例えば、マウスモノクローナル抗体からの遺伝子の可変(V)部分はヒト定常(C)部分に取りつけてもよい。このようなキメラ抗体は、マウス定常領域とマウス可変領域とを有する抗体よりもヒトに対して抗原性が少ない傾向がある。
【0036】
本明細書で使用する「キメラ抗体」という用語は、ヒト様のフレームワーク(骨組み)を有し、そのなかで定常領域がヒト免疫グロブリン定常領域(所謂「ヒト化」免疫グロブリン)に対して少なくとも約85%〜90%、好ましくは約95%のポリペプチド配列同一性を有する免疫グロブリンを含む抗体を指す。例えば、PCT公開WO90/07861を参照のこと、これは本明細書に参考文献として援用される。そのため、このような「ヒト化」免疫グロブリンの全ての部分は、おそらく相補性決定領域(CDRs)以外、実質的に1つ以上の天然ヒト免疫グロブリン配列に対応する部分と同一である。必要な場合、特にあるフレームワーク残基がCDRsの構造に影響すると分かっているならば、フレームワーク残基も種内または種を越えてのそれらの残基で置換されてもよい。キメラ抗体も裁断形可変または定常領域を含んでもよい。
【0037】
本明細書で使用する「フレームワーク領域」という用語は、単一種において異なる免疫グロブリン間で比較的に保存されている、免疫グロブリン軽鎖および重鎖可変領域の部分を指す。これはKabatら、(1987);Sequences of Proteins of Immunologic Interest,第4版,U.S.Dept.Health and Human Servicesに定義されているが、本明細書に参考文献として援用される。本明細書で使用する「ヒト様フレームワーク領域」という用語は、各鎖が少なくとも約70以上アミノ酸残基、典型的には75から85以上の残基からなりヒト免疫グロブリンにおけるそれらと同一であるフレームワーク領域である。
【0038】
ヒト定常領域DNA配列は、種々のヒト細胞、好ましくは不死化B細胞から周知の手順に従い単離することができる。本発明のキメラ免疫グロブリンを製造するための可変領域またはCDRsは、同様にヒト型アミロイドに結合可能なモノクローナル抗体から誘導され、そしていかなる通常の哺乳動物系中でも製造される。それはマウス、ラット、ウサギ、ヒト細胞系または周知の方法で抗体を製造できる他の脊椎動物を含む。可変領域またはCDRsは、合成的に、ポリメラーゼ連鎖反応(PER)またはファージデイスプレイライブラリーを含む標準組換え法によって製造される。ファージデイスプレイ法については、例えば、McCaffertyら、Nature 348:552−554(1990);Clacksonら、Nature 352:624−628およびMarksら、Biotechnology 11:1145−1149(1993)を参照。適当な原核細胞系、例えば細菌、酵母菌およびファージ等が使用される。
【0039】
DNA配列ための適当な源細胞および免疫グロブリンの発現と分泌のための適当な寄主細胞については、例えば、American Type Culture Collection(”Catalogue of Cell Lines and Hybridomas,”第5版(1985)Rockville,Maryland,U.S.A.、これは本明細書に参考文献として援用される)等の幾つかの供給元から得ることができる。
【0040】
本明細書に特定的に記載されているキメラ性および「ヒト化」免疫グロブリンに加えて、他の実質的に同一である、変性免疫グロブリンが、当業者に周知である様々な組換えDNA手法を用いて、た易く設計され、製造されうる。一般に、遺伝子の変更は、様々な周知の手法、例えばPCRおよび部位特異的突然変異によってた易く達成できる。GillmanおよびSmith、Gene 8:81−97(1979);S.Robertsら、Nature 328:731−734(1987)を参照のこと、これらは本明細書に参考文献として援用される。
【0041】
代替的に、一次免疫グロブリン構造の一部分からのみなるポリペプチド断片を製造してもよい。例えば、抗原認識(相補固定化)に加えて、すなわちそれ以外に、1つ以上の免疫グロブリン活性を有する免疫グロブリンポリペプチド断片を製造することが望ましい。
【0042】
また、免疫グロブリン遺伝子は、全体または一部が他の遺伝子(例えば、酵素)の機能的な領域と、或いは毒素、標識体および標的基のような他の分子と組み合わせて、新規な特性を有する融合タンパク質(例えば、「免疫毒素」)が製造される。これらの遺伝子融合の場合、二つの成分は同一のポリペプチド鎖内に存在する。別法として、免疫グロブリンまたはその断片は、種々の周知の化学的手順によって前記毒素または標識体に化学的に結合してもよい。例えば、標識体または細胞毒性体がタンパク質であり、第2の成分が手付かずの免疫グロブリンであるとき、結合は異種ニ官能基性架橋剤、例えばSPDP、カルボジイミド、グルタルアルデヒド等を介している。
【0043】
適当な標識体は、例えば、放射性核種、酵素、基質、補助因子、阻害剤、蛍光剤、化学発光剤、磁性粒子を含む。このような標識体の使用を教示する特許の例として、米国特許3817837号、3850752号、3939350号、3996345号、4277437号、4275149号および4366241号を参照のこと、これらはすべて本明細書に参考文献として援用される。
【0044】
単一鎖分子を含む免疫毒素もまた組換え手段によって製造される。様々な免疫毒素の製造は、当該技術で周知であり、その方法は例えば、以下に見出すことができる。すなわち、“Monoclonal Antibodies−Toxin Conjugates:Aiming the Magic Bullet,”Thorpeら、Monoclonal Antibodies in Clinical Medicine,Academic Press,pp.168−190(1987);E.Vietta,Science(1987)238:1098−1104;そしてG.WinterおよびC.Milstein,Nature(1991)349:293−299であり、これらはすべて本明細書に参考文献として援用される。
【0045】
免疫グロブリンおよび免疫グロブリン断片を作製するさらに別の手法は、以下に記載されている。すなわち、V.S.Malikら、Antibody Techniques(Academic Press,1994);C.A.K.Borrebaeck,Antibody Engineering:Breakthroughs in Molecular Biology(Oxford Uni.Press,1995);およびP.J.Delvesら、Antibody Production:Essential Techniques(John Wiley&Sons,1997)であり、これらは本明細書に参考文献として援用される。
【0046】
本明細書で使用する「オプソニン化する」とは、抗体および標的が共に、寄主の細胞免疫系によって「異物」として認識されるような免疫グロブリンポリペプチドの特定の標的(特に、アミロイド繊維の沈着物に見出されるエピトープ)への結合を指す。言いかえれば、本発明の免疫グロブリンの結合は、前記アミロイド繊維の被食作用(phagocytization)を増強する。
【0047】
本明細書で使用する「アミロイド症」は、アミロイド物質の存在によって特徴づけられるいかなる状態をも指す。このような物質は、アミロイドーマ、或いはより分散したアミロイド沈着物または繊維の形態でありうる。
【0048】
(薬学的組成物)
本発明に従う、治療処置のための薬学的組成物は、非経口、経口または局所投与として意図される。好ましくは、前記薬学的組成物は、非経口的に、例えば静脈内、皮下、経皮、または筋肉内に投与される。血液/脳バリアがIgGにとっては透過しがたいので(例えば、U.Bickelら、1994Bioconjug.Chem.5:119−25を参照)、該血液/脳バリア(BBB)を克服する抗体の送達は該抗体を所望の部位にリポゾームまたはミセルでの送達によって達成される。別法として、本発明の薬剤は、脳脊髄液に直接的に送達されうる(例えば、L.C.Walkerら、1994 J.Neuropathol.Exp.Neurol.53:377−83を参照)。他の送達機構については、P.M.Friden、米国特許5527527号(1996)およびW.M.Pardridge、米国特許5004697号(1991)を参照。上記すべての文献は、本明細書に参考文献として援用される。
【0049】
このようにして、本発明は抗アミロイド免疫グロブリンポリペプチドが薬学的に許容される担体、好ましくは水性担体に溶解されるか、懸濁されている溶液からなる、非経口投与用の組成物を提供する。種々の水性担体が用いられるが、例えば水、緩衝水、0.4%食塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸等である。これらの組成物は、通常の周知滅菌手法によって滅菌されるか、或いは滅菌濾過される。得られる水性溶液は、そのまま使用するのにハッケージされるか、或いは凍結乾燥される。凍結乾燥された製剤は、投与の前に滅菌溶液と合わせられる。前記組成物は、生理学的条件に近づけるために必要とされる、薬学的に許容される以下の添加補助物質を含んでもよい。pH調整、緩衝剤、張性調節剤、湿潤剤等であり、例えば、酢酸ナトリウム、酪酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、モノラウリン酸ソルビタン、オレイン酸トリエタノールアミン等である。
【0050】
薬学的製剤中の本発明の抗アミロイド免疫グロブリンポリペプチドの濃度は、重量基準で約1%未満、通常約10〜15%で、または少なくとも10〜15%から50%も、またはそれ以上まで広範囲に変わり得るが、選択された特定の投与の様式に従い、液体の体積、粘度等によって一義的に選択されるであろう。
【0051】
過剰な実験を行なうことなくして、当業者はアミロイドーマを適切にオプソニン化するのに有効であろう免疫グロブリンポリペプチドの量を決定できる。この用途に有効な量は、例えば、抗アミロイド免疫グロブリンポリペプチド組成物の性質、投与の様式、治療される疾患の段階および重症度、患者の一般的な健康状態、および処方する医師の判断に依存する。0.5mg/kgの典型的な単一用量が一般的に用いられ得る。抗アミロイド免疫グロブリンポリペプチドおよびそれから由来するペプチド組成物は、重症の状態、すなわち生命を脅かすまたは生命を脅かす可能性がある状況において、使用されうることを念頭におかねばならない。このような場合、実質的に過剰な前記組成物を投与することが可能であり、さらに処置する医師によっては望ましいと感ぜられるかもしれない。このように、本発明のヒト抗アミロイドモノクローナル抗体または実質的なヒト抗アミロイド受容体モノクローナル抗体は、前記状況下特に好ましいものである。
【0052】
本発明に従うアミロイド症を有するヒトの治療は、雌牛またはニワトリのようなアミロイド症にかかりやすい動物にも適用できる。このようにして、ヒト患者への言及は、ヒト以外の被検体へも当てはまる。
【0053】
本明細書で定義される免疫グロブリンポリペプチドは、好ましくはアミロイドーマ、その成分、またはその前駆体に対する抗アミロイドmAbsである。該mAbsは、IgLC可変領域ドメインに対して、或いは好ましくはIgLCサブセットκ1、κ4、λ8、またはそれらの組み合わせに対して作製することができる。実質的にヒトでない免疫グロブリンペプチドのヒトへの投与は、抗抗体反応を誘起するかもしれない。このようにして、実質的にヒトである、本発明の抗IgLC免疫グロブリンポリペプチドを作製することが望ましいだろう。「実質的にヒト」とは、特にアミロイド症のはっきりした症例を治療するのに必要であろう長期間にわたっての繰り返し投与のために、起源からして少なくとも約50%ヒト、より好ましくは少なくとも70〜80%、そして最も好ましくは約95−99%またはそれ以上ヒトであるアミノ酸配列からなる抗体またはその結合断片を意味する。本明細書で使用する「ヒト抗体」とは、その文脈がそうでないと指摘しなければ完全にヒト起源の抗体と同様に実質的にヒトであるものを含むことを意味する。
【0054】
モノクローナル抗体は、合成アミロイド繊維に対してもまた作製しうる。標準的な手法を用いて、インビトロで組換え軽鎖、可変領域ペプチドが単離され、そして精製される。それから合成繊維は、Wallら、“In Vitro Immunogloblin Light Chain Fibrillogenesis,”METHODS IN ENZYMOLOGY,309巻(印刷中)に記載されているような手法を用いて、ペプチドから作製される。その後、抗体が標準的な免疫感作手法を用いて、典型的にはマウスまたはウサギで前記合成繊維に対して作製される。抗繊維抗体を分泌するモノクローナル細胞株は、標準的なハイブリドーマ手法を用いて、作製される。
【0055】
本発明の抗アミロイド免疫グロブリンポリペプチドは、いくつかの周知の手法のどれによっても製造できる。例えば、これらはある動物を精製した、または部分的に精製したヒトアミロイドで免疫感作することによって製造できる。免疫される動物は、免疫的にヒト型のアミロイド細胞外ドメインに特徴的なエピトープを認識可能な様々な種(例えば、マウス、ウサギ、ウマ等)のどの種でもよい。
【0056】
本発明のモノクローナル抗体は、前記ヒト型アミロイドの細胞外ドメインに特徴的な抗原決定基に特異的に結合する免疫グロブリンポリペプチド、またはその部分をコードする核酸配列を含む細胞を不死化することによって製造される。該不死化工程はハイブリドーマ融合手法、抗体産生リンパ球のウイルストランスフォメーション、組換えDNA手法、或いは細胞融合、ウイルストランスフォメーションおよび/または組換えDNA技術を組み合わせた手法によって実施することができる。モノクローナル抗体を作製する免疫原は、合成アミロイド繊維を含むが、これは例えば、A.Lomakinら、1997 Proc.Nat’l Acad.Sci.U.S.A. 94:7942−7に記載されており、本明細書に参考文献として援用する。
【0057】
ヒト抗アミロイドモノクローナル抗体の生成が、従来の不死化手法では難しいかもしれないので、まず非ヒト抗体を作り、それから組換えDNA手法で該非ヒト抗体の抗原結合領域(例えば、Fab、相補性決定領域(CDs)、高頻度可変領域(hypervariable region))をヒト定常領域(Fc)またはフレームワーク領域へ転移し、実質的にヒト分子を調製することが望ましいだろう。このような方法は、一般に当該技術で知られており、例えば米国特許4816397号、PCT公開WO90/07861、およびEP公開173494および239400に記載されているが、ここで本明細書に参考文献として援用される。しかしながら、完全なヒト抗体は、トランスジェニック動物で作製することができる。所望のヒト免疫グロブリン遺伝子または遺伝子部分が、例えばヒトB細胞からPCRによって単離され、DNAが真核細胞中で発現するように適当なベクターにクローンされ、該クローン化されたDNAが動物に導入されて、トランスジェニック動物が生成されうる。ヒト免疫グロブリンを発現するトランスジェニック動物を生成するのに適した動物は、マウス、ラット、ウサギおよびブタを含み、ヒト免疫グロブリンを発現するトランスジェニックな齧歯動物は、好ましくはその外因性免疫グロブリン遺伝子座の1つ以上がヒト抗体の同定と単離をし易くするために不活性化されているか、「ノックアウト」されている。例えば、Lonbergら、Nature 368:856−859(1994)を参照。
【0058】
ヒトアミロイドに結合する、得られたキメラ抗体またはキメラ免疫グロブリンポリペプチドもまた、本発明の技術範囲内である。典型的な治療キメラ抗体は、ヒトアミロイド抗原決定基に特異的なマウス免疫グロブリンからの可変(V)または抗原―結合ドメイン、およびヒト免疫グロブリンからの定常(C)またはエフェクタードメインからなるハイブリッドタンパク質であろう。ただし、他の哺乳動物種からのドメインを前記可変および定常の両方の領域に使用してもよい。本明細書で使用する「キメラ抗体」という用語も、免疫グロブリン遺伝子の中でCDRsのみが抗原決定基を特異的に認識する免疫グロブリンから転移され、該免疫グロブリン遺伝子の残部はヒト(または、所望なら他の哺乳動物)から誘導されるものによってコードされる抗体を指す。上記で議論したように、この型のキメラ抗体は、「ヒト化された」(ヒト免疫グロブリンが使用されている場合)抗体と称される。別の種の配列を含まない組換えヒト抗体もまた考慮される。
【0059】
抗アミロイド免疫グロブリンポリペプチドの可変ドメインの高頻度可変領域は、本発明の関連する1つの側面を構成する。前記高頻度可変領域、すなわちCDRsは、フレームワーク領域(単一種において、異なる免疫グロブリンの間で比較的に保存されている免疫グロブリンの軽鎖および重鎖可変領域の部分)と共に該抗アミロイド免疫グロブリンポリペプチドがヒトアミロイドを認識し、そこで結合することを可能にする。前記高頻度可変領域は、クローンされそして配列決定されうる。一旦同定されると、ヒトアミロイドの特異的な認識を与えるこれらの領域は、寄主中で別の免疫グロブリン分子の一部として、または融合タンパク質(例えば、クローンされたイデオタイプの免疫原性を増強するのに機能するキャリアー分子)としての発現のためにベクターにクローンされ得る。
【0060】
本発明の抗アミロイド免疫グロブリンポリペプチドは、一般的にそのまま、または免疫原性な断片、例えばFv、Fab、F(ab’)断片として使用される。前記断片は、従来の手法によって抗体から得ることができる。例えば、ペプシン、パパイン、または他の蛋白質分解酵素を用いる抗体の蛋白質分解的消化によって、或いはそこで所望の断片をコードする1つの遺伝子またはその断片がクローンされ、または合成され、そして種々の寄主で発現される組換えDNA手法によるものである。
【0061】
「抗イデオタイプ」抗体が標準的な手法に従って、免疫原として特定の免疫グロブリンを用いることによって製造され得ることを当業者は認識するであろう。例えば、アミロイド繊維またはその断片で感染するか、免疫感作により中和免疫グロブリンが誘起される。これはFab可変領域組み合わせ部位上にその特定の免疫グロブリンにユニークなアミロイド(すなわち、イデオタイプ)のイメージを有する。このような抗アミロイド免疫グロブリンで免疫感作すると抗イデオタイプ抗体が誘起され、それはその組み合わせ部位にもともとのアミロイド抗原の構造を模倣するコンフオメーションを有する。従って、これらの抗イデオタイプ抗体をアミロイド抗体の代わりに使用してよい。例えば、Nisonoff(1991)J.Immunol.147:2429−2438を参照のこと、これは本明細書に参考文献として援用される。
【実施例】
【0062】
以下の実施例は、特定的に本発明の好適な実施の形態を指摘するが、開示の残りをいかようにも限定すると解釈されるべきではない。他の一般的な構成は、当業者に明白であろう。
【0063】
(実施例1)
マウス宿主中のヒトIgLCアミロイドのアシストされていない消散 剖検の際に得られた罹患した器官からヒトIgLCアミロイドを抽出し、そして精製した。最初の実験は、このアミロイド物質の50〜200mgをBalb/cマウスに移植することを伴った。このアミロイドの塊、すなわち「アミロイドーマ」は、インビトロに見出される補助分子と適合する、アミロイド繊維の細かい懸濁液を用意するために連続超音波処理と粉砕化工程を用いて、滅菌PBS中で調製された。この手順は、前記アミロイドが広いゲージの注射針を通してマウスに注入されうるように実施した。
【0064】
動物の体重の10%に匹敵するアミロイド物質をマウス(麻酔下)の肩甲骨の間に注射したところ、目に見える大きな塊となった(図1Aを参照)。マウスは該アミロイドを完全に除去するのに15〜18日要したが(図1Bを参照)、その後健康そうに見え、正常な一生を過ごした。アミロイドの除去は、実験者が主観的に決定した。注射部位を単に触診することによって、硬い豆のようなアミロイドーマが皮膚の下にた易く感じることができる。
【0065】
(実施例2)
アミロイドーマの除去における抗体媒介および細胞免疫の両方の関与 アミロイドーマの除去における抗アミロイド抗体の関与は、以前にアミロイド物質を注射されたマウスからの血清を該注射した物質の試料に対してスクリーニングすることによって示された。これは、該マウス血清の適当な希釈液を一次抗体として用いるウエスタンブロット分析によって行った。前記アミロイドマトリックスのあらゆる成分に対する抗体がある、すなわちゲル上のすべてのバンドがマウス血清によって、10000倍の血清希釈でも染色される(データ示さず)ことが示された。
【0066】
細胞成分の関与は、インビトロ好中球結合アッセイ(図2Aおよび図2Bを参照)によって、そしてノックアウト変異マウス種を用いることによって実証された(データ示さず)。図2Aおよび図2Bは、前記アミロイドがマウス抗ヒトIgLCmAbsで処理された後、ヒト好中球がヒトアミロイドに接着することを示す。これによって、前記マウスmAbがヒトアミロイドに結合できるのと同様に、ヒト好中球を引き寄せることが示される。
【0067】
ノックアウト変異マウス種の研究は、さらにアミロイド除去における抗体の関与についての知見を支持する。第1に、BおよびTリンパ球が欠損するscid/scidマウスは、3ヶ月後でも注射されたアミロイドーマを取り除くことができなかった(データ示さず)。第2に、CD18ノックアウトマウスは、正常な動物のようにアミロイドーマを迅速に取り除くことができなかった。該CD18ノックアウトマウスは、顆粒球/マクロファージ系列に見出される細胞表面インテグリンであるCD18を98%欠損している。これらの細胞は、血行を離れることができないけれども、前記動物は、BおよびT細胞適合性であり、そのため抗体応答をしかけることができる。第3に、白血球細胞をもたないヌードマウスがアミロイドーマを取り除くことができなかった。
【0068】
さらに、別のマウスからのアミロイド反応性の血清とインキュベートしたアミロイドが第2のマウスに移植されると、4日以内に取り除かれた。この実験でBalm/cマウスに50mgHIGアミロイドを注射し、1週間放置した後、尾静脈クリッピングによって出血させた。血液を1500rpmで、遠心にかけ細胞を吸引で除去した。血漿を使用するまで、4℃で貯蔵した。HIGアミロイドの別の調製物(100mg)を前のマウスの血漿1mlを添加した滅菌PBSに懸濁することによって、調製した。それから、この調製物を第2のマウス(Balm/c)に注射した。該アミロイドは、4日で取り除かれた。このように、注射の前に物質をオプソニン化することによって、前記工程を加速できると結論された。
【0069】
(実施例3)
IgLCサブセットのELISAスクリーニング IgLCサブセット(λ1、λ2、λ3、λ4、λ5、λ6、κ1、κ2、κ3、κ4、フリーκとλ、およびトータルκとλ)に対して作製されたmAbsを用いて、多数のヒト抽出アミロイド試料をスクリーニングするためにELISA手法で系統的な研究を実施した。興味深いことに、たいてい、それら自身のサブタイプに特異的なmAbs、すなわちトータルκまたはλ抗体、およびκ1(57−18H12)、κ4(11−1F4)、λ8(31−8C7)mAbで前記アミロイドが陽性と試験結果がでることが見出された。これら後者3つの試薬は、サブグループに非特異的な様式で反応すること、すなわちκ1がκ1以外のIgLCsからなるアミロイドと反応し、そして他の2つのmAbsが同じ性質を示すことが分かった。これにから、前記抗体類により認識されるエピトープは、アミロイド繊維の一般的な特徴であるかもしれないことが示され、しかも標的とできる共通のアミロイドエピトープである可能性が示唆される。
【0070】
(実施例4)
免疫化学的染色 標準の免疫化学的手法を用いて、アミロイド症患者からの組織試料を染色したら、同様の結合現象が観察された。図3A〜3Dは、抗κ1がκ1アミロイドに結合し、さらに驚くべきことに、抗κ4が該κ1アミロイドと反応することを示しているが、これは前記抗体類が認識する1つのアミロイドエピトープを示唆する。さらに、前記抗κ4はλ含有アミロイドと反応する(例示していない)。これはイソタイプ交差反応性の実例である。しかしながら、ELISAおよび免疫組織化学からの結果は、必ずしも一致しなかった。これは、我々が観察しているものにおける固有の違いによるのであろう。すなわち、ELISAは抽出、精製されたアミロイドを用いる液相結合アッセイであるのに対し、免疫組織化学はスライドに固定した組織上で実施される。
【0071】
抗κ1(57−18H12)(ATCC受け入れ番号PTA−104)、抗κ4(11−1F4)(ATCC受け入れ番号PTA−105)、および抗λ8(31−8c7)(ATCC受け入れ番号PTA−103)モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ細胞の試料は、American Type Culture Collection(ATCC)に1999年5月21日付でブタペスト条約に基づいて寄託された。
【0072】
(実施例5)
抗IgLCサブグループのインビトロ試験 上記に定義されたκ1、κ4、またはλ8の3つの抗体の1つを0.1mg、上記のようにアミロイドをアミロイドーマの形で導入してあるマウスの大腿部に注射した。κ1およびκ4試薬は、7日以内(特定のアミロイド源についてはたった4日で)にほとんどの種類のアミロイド繊維の寄主による完全な除去を結果としてもたらした。図4は、蛍光化したκ4mAbのヒトアミロイドへの結合を示す。
【0073】
λ8試薬は、両方のインビトロ試験(上記)である幾つかの場合に反応性があるが、インビボ試験でアミロイドーマの消散を約10%まで増加させた。
【0074】
(実施例6)
抗IgLCサブグループのインビボ試験 炎症関連のAAアミロイドを有する患者からヒトアミロイドを単離し、そしてマウスへの注入を可能にするために、超音波処理および粉砕によって、Balb/Cマウスへの注射用に調製した(実施例1を参照)。ヒトAAアミロイド抽出物100mgを注射後直ちに、前記マウスを100μgのκ4mAb、抗AAmAb、mAbなし、非特異的対照mAb(抗フリーκ)で処置した。該κ4および抗AAmAbsで処置された動物においては、48時間で前記物質の完全な消散が観察された。一方、対照動物には、注射部位に残るアミロイドの大きな塊があった。
【0075】
(実施例7)
特異的抗アミロイド繊維mAbsの製造 合成アミロイド繊維をインビトロで調製し、マウスで免疫原として使用して、第1世代の抗アミロイド繊維を製造した。簡潔に言えば、細菌発現系と標準的なタンパク質精製手法を用いて、組換えλ6軽鎖、可変領域ペプチドを製造し、単離し、そして精製した。合成繊維はこれらのペプチドから例えば、Wallら、“In Vitro Immunogloblin Light Chain Fibrillogenesis,” METHODS IN ENZYMOLOGY,309巻(印刷中)に記載されているように、溶液中で長期間攪拌することによって作製された。前記文献は、その全体が本明細書に参考文献として援用される。繊維を室温で20分間、17000xgで遠心分離により濃縮した。
【0076】
前記濃縮した繊維を用いて、Balb/cマウスを数週間にわたって免疫感作した。標準的ハイブリドーマ手法を用いて、抗繊維抗体を分泌するモノクローナル細胞株を作成した。得られた抗体は、実施例3に記載したELISAアッセイに基づく実証されうる抗繊維活性を持っていた。これらの抗体類は、ELISAで調べると、その前駆体タンパク質のイソタイプまたはサブグループの性質にかかわらず今日までに試験したすべてのヒトIgLCアミロイド抽出物の99%と反応した。同様に、前記抗体類は単離したマウスAA−アミロイドおよびアルツハイマー蛋白Aβ[Aβ(25−35)]に由来するペプチドからなる合成繊維とELISAフォーマットで反応した。
【0077】
以上の議論および実施例は、単に幾つかの好適な実施の形態の詳細な記載を提示するにすぎないことを理解すべきである。従って、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々に改変されたものおよび等価なものが作りうることは、当業者には明白である。上記ではっきり示された全ての参考文献、論文および特許は、本明細書にそれらの全体が参考文献として援用される。
【0078】
(連邦政府の援助)
本発明は、国立公衆衛生研究所から授与された助成金2R01CAの元で、連邦政府の援助によってなされた。従って、合衆国政府は、本発明に一定の権利を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミロイド沈着病を有する患者を治療する方法であって、該患者に、a)治療的に有効な用量の少なくとも1つの免疫グロブリンポリペプチドまたはその断片(ここで該免疫グロブリンポリペプチドまたはその断片は、アミロイド繊維に結合する)、およびb)薬学的に許容される担体を投与するステップを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項2】
前記免疫グロブリンポリペプチドまたはその断片が免疫グロブリン軽鎖に対して作製されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記免疫グロブリンポリペプチドまたはその断片の結合がアミロイド繊維をオプソニン化することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記免疫グロブリンポリペプチドまたはその断片がモノクローナル抗体であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記モノクローナル抗体がヒト化された抗体であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記モノクローナル抗体がキメラ抗体であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記キメラ抗体がヒト化された抗体であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記抗体が標識された抗体であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記モノクローナル抗体がκ1(57−18H12)、κ4(11−1F4)、λ8(31−8C7)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
アミロイド繊維に結合し、かつ疾患関連のアミロイド繊維の沈着を除去する患者の細胞免疫応答を増強するのに有効である免疫グロブリンポリペプチド、またはその断片。
【請求項11】
前記免疫グロブリンポリペプチド、またはその断片がモノクローナル抗体またはその断片であることを特徴とする、請求項10に記載の免疫グロブリンポリペプチド、またはその断片。
【請求項12】
前記モノクローナル抗体がヒト化抗体であることを特徴とする、請求項11に記載の免疫グロブリンポリペプチド、またはその断片。
【請求項13】
前記モノクローナル抗体がキメラ抗体であることを特徴とする、請求項11に記載の免疫グロブリンポリペプチド、またはその断片。
【請求項14】
前記キメラ抗体がヒト化抗体であることを特徴とする、請求項13に記載の免疫グロブリンポリペプチド、またはその断片。
【請求項15】
前記抗体が標識された抗体であることを特徴とする、請求項11に記載の免疫グロブリンポリペプチド、またはその断片。
【請求項16】
前記モノクローナル抗体がκ1(57−18H12)、κ4(11−1F4)、λ8(31−8C7)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする、請求項11に記載の免疫グロブリンポリペプチド、またはその断片。
【請求項17】
前記モノクローナル抗体がヒト抗体であることを特徴とする、請求項16に記載の免疫グロブリンポリペプチド、またはその断片。
【請求項18】
前記免疫グロブリンポリペプチド、またはその断片が合成アミロイド繊維に対して作製されたことを特徴とする、請求項10に記載の免疫グロブリンポリペプチド、またはその断片。
【請求項19】
請求項10〜17のいずれか1項に記載の免疫グロブリンポリペプチド、またはその断片を含む薬学的組成物。
【請求項20】
請求項10〜17のいずれか1項に記載の免疫グロブリンの少なくとも1つの高頻度可変領域を含むポリペプチドをコードする核酸。
【請求項21】
請求項20に記載の核酸を含む寄主細胞。
【請求項22】
請求項21に記載の寄主細胞を培養するステップを含む免疫グロブリンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−159284(P2010−159284A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68108(P2010−68108)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【分割の表示】特願2000−549642(P2000−549642)の分割
【原出願日】平成11年5月21日(1999.5.21)
【出願人】(500536917)ユニヴァーシティ オブ テネシー リサーチ ファンデーション (1)
【Fターム(参考)】