説明

抗アレルギー剤およびその製造方法

【課題】抗アレルギー剤およびその製造方法の提供。
【解決手段】発酵工程を経ていない大豆または大豆皮を原料とすることで、分子量が2,000以上であること、水溶性であること、および、pH4以下の酸または濃度5%以上の食塩水に溶解することを特徴とする抗アレルギー剤を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アレルギー剤またはその製造方法に関する。さらに詳しくは、大豆または大豆皮を原料とし、発酵工程を必要とせずに得られる抗アレルギー剤またはその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のアレルギー症状の増加は大きな社会的問題となっている。わが国においても国民の20−30%が何らかのアレルギー症状を有していると考えられ、身近な花粉症やアトピー性皮膚炎の増加はその一例といえる。
一般的にアレルギーとは、免疫学上4つに分類されるアレルギー反応においてI型に分類される即時性のものを言う。花粉・ダニ・卵・牛乳などに含まれるアレルゲンに接することより、ヒト等において免疫応答が誘導され、アレルギー原因抗体であるIgEが産生される。各アレルゲンに結合するIgEは体中に運搬された後、肥満細胞や好塩基球上に発現しているFc受容体を介して結合し、いつでもアレルギー症状を呈することができる状況となる。そして、再び体内に取り込まれたアレルゲンが、肥満細胞や好塩基球上に結合したIgEと架橋することにより、肥満細胞あるいは好塩基球に蓄えられていたヒスタミンの遊離とロイコトリエンの産生が促され、即時性のアレルギー症状が惹起されることが知られている。これまでに、このアレルギー症状の緩和・抑制・治療を目的として、多くの文献が報告されその中の一部は実際に利用されているものもある。
【0003】
重要な食物として非常に多くの技術に利用されている大豆においても、いくつかの技術が開示されている。
特許文献3には、大豆トリプシンインヒビターがダニのプロテアーゼを阻害することによりダニアレルギーを治療する効果があることが開示されている。大豆トリプシンインヒビターは生の大豆に含まれており加熱によって失活するものであり利用上制限がある。また、食品として多量に摂取することが健康上望ましいものではない。
特許文献4には、大豆に含まれるオリゴ糖であるスタキオースを有効成分とした抗アレルギー性組成物が、また、特許文献5にはイソフラボンと大豆サポニンを配合することを特徴とした抗アレルギー剤が開示されている。
また、大豆を含む原料に麹菌などの微生物を作用させて得られる発酵物を、水で抽出した物や、食塩水等を加え、さらに長期間発酵させて得られる醤油などの発酵物から、抗アレルギー作用を持つ高分子物質が得られることが知られている(特許文献1および2)。
また、発酵処理した大豆を利用した抗アレルギー性の組成物は特許文献6,7にも開示されている。
このように大豆の発酵物には抗アレルギー活性が存在することが知られ、その一部には、特許文献3,4,5で示された物質も含まれていることも想像できる。
また、特許文献1においては、原料処理の段階では存在しなかった抗アレルギー活性が、発酵によって新たに生成すること、および、高分子成分によるものであることが示されている。しかしながら、発酵物を得るためには、発酵するための設備が必要となり、時間もかかるため効率が悪いという問題があった。そのため、発酵工程を経ることなく大豆や大豆皮から、抗アレルギー作用を持つ高分子物質を得る方法の提供が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−327540号公報
【特許文献2】特開2007−084486号公報
【特許文献3】特開平06−192085号公報
【特許文献4】特開2003−321372号公報
【特許文献5】特開2007−197398号公報
【特許文献6】特開2005−247708号公報
【特許文献7】特開2007−197333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、抗アレルギー剤またはその製造方法の提供を課題とする。さらに詳しくは、大豆、大豆皮を原料として発酵工程を必要とせずに高分子の抗アレルギー剤またはその製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を進めてきたところ、特許文献1で示されているように、従来、抗アレルギー活性を示さないとされていた、発酵工程を経ていない大豆または大豆皮から、分子量が2,000以上であること、水溶性であること、および、pH4以下の酸または濃度5%以上の食塩水に溶解することを特徴とする抗アレルギー剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は次の(1)〜(5)の抗アレルギー剤および該抗アレルギー剤の製造方法に関する。
(1)大豆または大豆皮から得られ、
分子量が2,000以上であること、
水溶性であること、および、
pH4以下の酸または濃度5%以上の食塩水に溶解すること、
を特徴とする抗アレルギー剤。
(2)上記(1)に記載の抗アレルギー剤の製造方法であって、
1)大豆または大豆皮から得られる原料を加熱する工程、
2)pH4以下の酸または濃度5%以上の食塩水に溶解する物質を抽出溶媒によって抽出する工程、
を含む抗アレルギー剤の製造方法
(3)抽出溶媒が、水、キレート剤水溶液、pH4以下の酸または濃度5%以上の食塩水のいずれか一つ以上である、上記(2)に記載の抗アレルギー剤の製造方法
(4)さらに、ペクチン分解酵素による処理工程を含む上記(2)または(3)に記載の抗アレルギー剤の製造方法。
(5)上記(2)〜(4)のいずれかの製造方法において、さらに、酸を中和する工程、キレート剤または塩を除去する工程、濃縮する工程、乾燥する工程のいずれか一つ以上を含む、抗アレルギー剤の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によって得られる物質は、抗アレルギー活性を有しており、この物質を有効成分として用いることにより、アレルギーの治療や予防に有効な抗アレルギー剤を得ることができる。
本発明によれば、大豆やその加工副産物から発酵工程を経ずに抗アレルギー剤を製造することができ、非常に効率的である。また、従来産業廃棄物として処理されていた大豆皮などを原料として利用することも可能であり、資源の有効利用にもつながる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の抗アレルギー剤は、大豆または大豆皮から得られ、分子量が2,000以上であること、水溶性であること、および、pH4以下の酸もしくまたは濃度5%以上の食塩水に溶解することを特徴とする抗アレルギー剤であれば、いずれのものも含まれる。本発明の大豆には、丸大豆以外の丸大豆の加工品や副産物である脱脂大豆等も含まれる。
【0010】
本発明の抗アレルギー剤は、大豆または大豆皮を発酵することなく製造することができる。本発明の抗アレルギー剤の製造方法には、1)大豆または大豆皮から得られる原料を加熱する工程、2)pH4以下の酸または濃度5%以上の食塩水に溶解する物質を抽出する工程を含んでいることが好ましい。これらの工程は、順番に行ってもよく、同時に行っても良い。
例えば、本発明の抗アレルギー剤の製造方法として、大豆、大豆皮に抽出溶媒を加えて蒸煮あるいは煮熟してそのろ液や煮汁を回収する、熱処理した原料に抽出溶媒を加えて攪拌し、固液分離してそのろ液を得る、等の一般的な方法が挙げられる。また、大豆の調理加工における副産物である煮汁や、醤油などの製造過程で大豆を発酵する前の工程で発生する副産物の蒸煮汁を抽出液として利用することは、資源の有効利用の上で好ましい態様である。
【0011】
ここで、加熱とは、例えば、大豆に水を加えて膨潤させた後、煮熟や蒸煮する等の湿熱加熱や、焙煎する等による乾熱加熱が含まれる。
また、pH4以下の酸または濃度5%以上の食塩水に溶解する物質を抽出するための抽出溶媒としては、このような物質を抽出できる溶媒であればいずれの溶媒であっても良いが、pH4以下の酸または濃度5%以上の食塩水等が挙げられ、水、キレート剤水溶液等も含め、これらの一つ以上を抽出溶媒として用いることもできる。
抽出溶媒にキレート剤水溶液を利用する場合には、抗アレルギー活性を有する物質の回収率が向上でき、有用である。キレート剤としては、ヘキサメタリン酸やクエン酸、あるいはこれらの塩類が例示できる。
すなわち、酸または食塩を抽出溶媒として用いると、酸または食塩に溶解する物質のみを抽出することができる。また、酸または食塩を抽出溶媒として用いた場合に、十分に抽出されなかった場合には、これに水やキレート剤溶液を加え抽出した後、さらに酸または食塩を抽出溶媒として抽出すると、さらに酸または食塩に溶解する物質を得ることもできる。
抽出に用いる酸としては摂取して安全であるものならば特に制限はないが、塩酸、酢酸、クエン酸などの一般的に食品で利用されるものが例示できる。また、酢酸やクエン酸緩衝液等、pH4%以下の緩衝液も抽出に用いることができる。
【0012】
本発明において大豆または大豆皮から得られる抗アレルギー剤は、大豆成分のごく一部であることから、目的物質を取り出した後の大豆を有効利用できる態様で、本発明の抗アレルギー剤を製造することがより望ましい。原料として丸大豆を用いる場合にあっては、大豆の煮汁や蒸煮汁を利用することや、豆腐を採取した残りの豆腐粕、あるいは、油脂を抽出した残りの脱脂大豆等を用いることがよりすぐれた方法であるといえる。
また、原料として大豆皮などの副産物を用いる場合においては、抽出効率を高めるためにキレート剤を利用することは、製造のための経費を削減できるのでより有利な態様となる。
酸または食塩に溶解する物質を回収する方法としては、遠心分離、ろ過、圧搾などの一般的な固液分離技術が利用できる。これらの食塩や酸による処理によって発生した沈殿を除去した後の溶液は、そのまま抗アレルギー剤の有効成分として用いることもできる。
【0013】
本発明の抗アレルギー剤の製造方法には、ペクチン分解酵素による処理工程を含むこともできる。ペクチン分解酵素は従来知られているペクチン分解酵素や、市販されている酵素剤等、いずれのものも用いることができ、例えば、ペクチナーゼGアマノ(アマノエンザイム製)等が挙げられる。
【0014】
そして、本発明の抗アレルギー剤の製造方法には、さらに、酸を中和する工程、キレート剤または塩を除去する工程、濃縮する工程、乾燥する工程のいずれか一つ以上を含むことができる。
ここで、濃縮する工程には、エタノールを添加することによって発生する沈殿を採取する方法、加熱濃縮する方法、凍結乾燥やスプレードライによって濃縮する方法、減圧濃縮する方法、限外ろ過膜によって濃縮する方法等が挙げられ、これらを適宜利用することができる。また、キレート剤または塩を除去する工程には、透析や限外ろ過によって除去する方法が挙げられる。
【0015】
本発明の抗アレルギー性を示す成分は高分子物質であるが、利用する形態において高分子物質のみを取り出す必要はない。高分子物質を得るための方法としては、エタノールによって沈殿する物質を採取する方法、限外ろ過によって採取する方法、透析によって採取する方法などの一般的な技術が利用できる。
透析や限外ろ過は本発明に関わる高分子物質が残存する分画サイズであればいずれも利用できるが、分画サイズ2,000程度以上の膜を使うことが望ましい。従って、本発明の抗アレルギー剤の有効成分は比較的高分子な物質であり、イソフラボン等の低分子物質ではない。
【0016】
以下、実施例を示し、本発明についてより詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
大豆3kgに水8Lを加えて室温で10時間おいた後、2時間煮熟して得られた液汁を遠心分離し、澄明な液を採取した。この液をそれぞれ1Lずつ用いて次の(1)〜(3)の操作を行って試料を調製した。
(1) そのままスプレードライによって乾燥させたところ4gの粉末が得られた。これを比較品Aとした。
(2) 塩酸でpH4に調整して約1時間放置後遠心分離を行って、沈殿物と溶液に分別した。沈殿物はそのまま凍結乾燥し、溶液は透析膜(分画分子量2,000、Spectrum社製CE透析チューブ)で透析後、スプレードライによって乾燥させたところ、沈殿物から約3g、溶液から約1gの乾燥粉末が得られた。それぞれ比較Bおよび発明品1−1とした。
(3) 食塩50gを加えて溶解させたのち遠心分離によって固液分離して沈殿物と溶液に分別した。ついで、食塩を除去するために、沈殿部は少量の水に溶解し、溶液部はそのままでそれぞれ透析膜(分画分子量2,000)により透析した。その後スプレードライすると、凍結乾燥すると沈殿部から約2.5g、溶液部から約0.8gの粉末が得られた。この粉末試料をそれぞれ比較品Cと発明品1−2とした。
【0018】
これらの試料を経口投与した時の抗アレルギー作用の評価は、I型アレルギー反応に対する作用を検討する際の最も代表的な方法であるPCA耳介浮腫反応で行い、結果を表1に示した。
<方法>
PCA反応抑制効果は、塩化ピクリルをハプテン(免疫原性を欠き、反応原性のみをもつ抗原)とし、Lavaudらの方法を一部改変して行った。
すなわち、1週間予備飼育した7週齢の雄性BALB/cマウス(日本クレア(株))6匹を1群とし、標準粉末飼料CE−2(日本クレア(株))に対し0.2%(w/w)となるように各種サンプルに混合した飼料を4日間自由摂取させた後、PCA反応抑制効果試験を行った。標準粉末飼料CE−2のみを与えた群を対照とした。
PCA反応抑制効果の試験は以下のように行った。2μgのanti−TNP IgE(BD Pharmingenブランド、日本ベクトン・ディッキンソン(株))を含む0.1%BSA(ナカライテスク(株))入りリン酸緩衝液100μLを、マウス尾静脈に注射し、30分間放置後、シックネスゲージ((株)尾崎製作所)を用いて耳の厚さを測定した(反応前耳厚とした)。0.8%塩化ピクリルを含むアセトン:オリーブオイル混合液(1:1(v/v))20μLをマウスの耳に塗布し、2時間放置後、シックネスゲージを用いて耳の厚さを再度測定した(反応後耳厚とした)。反応前後の耳厚の差を耳の腫れとし、各群6匹ずつの結果を統計的に検定して抗アレルギー効果を評価した。耳の腫れが小さいほど抗アレルギー効果が強いと判断された。
【0019】
その結果、発明品1−1と発明品1−2はコントロールおよび比較品に対して有意に耳介浮腫反応を抑制した。比較品A,BおよびCはコントロールに比べても活性がなく、また、比較品A,Cを4倍量投与する試験においても活性は認められなかった。
これら試料の1%水溶液に、等量の濃度10%の食塩水またはpH4の酢酸緩衝液を加えると、比較品A、B、およびCはいずれの場合でも直ちに不溶化(ゲル化)したが、発明品1−1および発明品1−2はpH4の酢酸緩衝液あるいは濃度10%の食塩水を加えてもほとんど変化がなく溶解した状態であった。従って、発明品1−1および発明品1−2はpH4以下の酸または濃度5%以上の食塩水に溶解する抗アレルギー剤であることが確認された。
比較品Aは発明品1−1および発明品1−2の成分も含有しているが、添加量を4倍量に増やしても抗アレルギー活性は認められなかったことから、食塩あるいは酸性化によって不溶物を除去することが重要であると考えられた。比較品Aの物質は胃の中で有効成分も巻き込んで凝集するため効果が発揮されないことも考えられるが原因は不明であった。
【0020】
【表1】

【実施例2】
【0021】
実施例1の比較品B(酸不溶性沈殿物)を用いてキレート剤の効果について試験した。比較品Bを2g採取し0.4%ヘキサメタリン酸ナトリウム100mlを添加し、1時間攪拌後遠心分離して溶液部分を得た。ヘキサメタリン酸ナトリウムを除去するために透析した後、塩酸によってpHを4以下に調整し、遠心分離を行って澄明な溶液を採取し、これをスプレードライすると乾燥物約0.4gが得られた。これを発明品2とした。
実施例1と同様の方法によって、発明品2のPCA抑制活性を評価した結果、表2に示したように、有意な抑制活性が認められた。酸性処理した残渣からPCA抑制活性が得られたことから、抽出溶剤としてキレート剤を使うことにより効率的に抽出できることが確認された。
【0022】
【表2】

【実施例3】
【0023】
実施例1で得られた比較品Aの粉末1.0gに0.1%w/wのペクチン分解酵素(ペクチナーゼGアマノ、アマノエンザイム製、pH4.5)100mlを加え、45℃で1時間処理し、沸騰水中で反応停止(5分)し、塩酸によりpH3に調整した。その後遠心分離により澄明な液を回収し、水酸化ナトリウムで中和した後凍結乾燥した(発明品3とした)。
実施例1と同様の方法によって、発明品3のPCA抑制反応を評価した結果、表3に示したように、比較品Aに比べてあきらかなPCA反応抑制活性が表れた。
【0024】
【表3】

【実施例4】
【0025】
大豆から圧扁した後溶剤抽出をして油脂分を除去した大豆(脱脂大豆)1kgに水5Lを加えて煮熟し、その煮汁に塩酸を加えてpH3に調整して発生する沈殿物を除去して得られた液を炭酸ナトリウムによって中和し、等量のエタノールを加えて発生する沈殿を回収した。この沈殿物を乾燥すると約4gが得られた。この乾燥物を発明品4とした。
実施例1と同様の方法によって、発明品4のPCA抑制反応を評価した結果、表4に示したように、コントロールに比べてあきらかなPCA反応抑制活性が表れた。
【0026】
【表4】

【実施例5】
【0027】
粉砕した大豆皮50gに水450mlを加えて90℃で5時間加熱した後、食塩を最終濃度15%になるように添加し、3時間放置した後固液分離した。得られた液に等量の95%エタノールを加えて混合し、発生した沈殿物を遠心分離によって回収した。これを少量の水に懸濁し透析して食塩を除去した後凍結乾燥すると約0.5gが得られた。発明品5とした。
実施例1と同様の方法によって、発明品5のPCA抑制反応を評価した結果、表5に示したように、コントロールに比べてあきらかなPCA反応抑制活性が表れた。また、本発明品5は、pH4の酢酸緩衝液中および濃度5%以上の食塩水に緩やかに溶解することが確認された。
【実施例6】
【0028】
粉砕した大豆皮50gに3%のクエン酸水溶液450ml(pH2以下)を加えて90℃で5時間加熱し、固液分離して約300mlの澄明な液を得た。この液のpHはおよそ3であった。この100mlを透析膜により透析してクエン酸を除去したものを減圧濃縮して100mlに調整し、発明品6−1とした。
他の200mlに等量の95%エタノールを加えて混合し、発生した沈殿物を遠心分離によって回収し、少量の水に溶解して透析によってクエン酸およびエタノールを除去した。これを二等分して一部は水で100mlにして発明品6−2とし、他の一部を凍結乾燥すると約0.5gの乾燥物が得られ発明品6−3とした。
発明品6−1,6−2の液体品は、水の代わりに摂取させる方法で検定した。すなわち、液体試料を給水器に分注後、オートクレーブにて殺菌し、4日間自由摂取させた後、PCA反応抑制効果試験を行った。水のみを与えた群を対照とした。また、実施例1と同様の方法によって、発明品6−3のPCA抑制反応を評価した。その結果、表5に示したように、コントロールに比べてあきらかなPCA反応抑制活性が表れた。
【0029】
【表5】

【実施例7】
【0030】
粉砕した大豆皮50gに10%の食塩水450mlを加えて90℃で5時間加熱抽出し、固液分離して得られた液に等量の95%エタノールを加えて混合し、発生した沈殿物を遠心分離によって回収した。これを100mlの水に溶解し、透析膜により透析して食塩を除去し、透析内液を凍結乾燥すると約1gの乾燥物が得られ発明品7とした。
実施例1と同様の方法によって、発明品7のPCA抑制反応を評価した結果、表6に示したように、コントロールに比べてあきらかなPCA反応抑制活性が表れた。
【0031】
【表6】

【実施例8】
【0032】
粉砕した大豆皮を乾熱装置にいれ、150℃で3時間加熱後冷却した。この乾熱処理大豆皮100gに80℃の3%クエン酸水溶液1L(pH2以下)を加えて良く混合した後室温に1晩置き、圧搾し遠心分離して澄明な抽出液を得た。この抽出液に2倍量のエタノールを添加して発生した沈殿物を回収した。この沈殿物を少量の水に溶解後透析してクエン酸を除去後凍結乾燥して約0.3gの乾燥物を得、これを発明品8とした。実施例1と同様の方法によって、発明品8のPCA抑制反応を評価した。その結果、表7に示したように、コントロールに比べてあきらかなPCA反応抑制活性が認められた。
【表7】

【実施例9】
【0033】
抗アレルギー剤の製造
粉砕した大豆皮に3%クエン酸水溶液(pH2以下)を加えて90℃で3時間煮熟し圧搾、ろ過して澄明な抽出液を得た。この抽出液を限外ろ過膜(分画分子量6,000)で約1/3量になるまで濃縮するとともにクエン酸を除去し、スプレードライして発明品9を得た。実施例1と同様にして本発明品9の抗アレルギー活性を測定したところ、表8に示したように有意に耳の腫れを抑制した。また、本発明品9はpH4の酢酸緩衝液中および濃度5%以上の食塩水に緩やかに溶解することが確認された。
発明品9をゼラチンカプセルに0.5gずつ充填し、食品用、医薬用として利用できる抗アレルギー剤とした。
このカプセルを1日に3〜6粒摂取することにより花粉症や通年性アレルギーの予防や治療効果が期待できる。
【0034】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の製造方法によって得られる物質は、抗アレルギー活性を有しており、この物質を有効成分として用いることにより、アレルギー体質となることの予防や、アレルギー治療に有効な抗アレルギー剤を得ることができる。該物質は、豆腐粕や大豆皮等の安価な物質を原料として製造できることから、経済的な価値も高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆または大豆皮から得られ、
分子量が2,000以上であること、
水溶性であること、および、
pH4以下の酸または濃度5%以上の食塩水に溶解すること、
を特徴とする抗アレルギー剤。
【請求項2】
請求項1に記載の抗アレルギー剤の製造方法であって、
1)大豆または大豆皮から得られる原料を加熱する工程、
2)pH4以下の酸または濃度5%以上の食塩水に溶解する物質を抽出溶媒によって抽出する工程、
を含む抗アレルギー剤の製造方法
【請求項3】
抽出溶媒が、水、キレート剤水溶液、pH4以下の酸または濃度5%以上の食塩水のいずれか一つ以上である、請求項2に記載の抗アレルギー剤の製造方法
【請求項4】
さらに、ペクチン分解酵素による処理工程を含む請求項2または3に記載の抗アレルギー剤の製造方法。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかの製造方法において、さらに、酸を中和する工程、キレート剤または塩を除去する工程、濃縮する工程、乾燥する工程のいずれか一つ以上を含む、抗アレルギー剤の製造方法。

【公開番号】特開2010−280620(P2010−280620A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135724(P2009−135724)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000112048)ヒガシマル醤油株式会社 (10)
【Fターム(参考)】